最終更新:ID:ihA2LZjGDA 2009年11月15日(日) 15:59:43履歴
「いい天気だねぇ」
快晴の空を眺めながら、いつもの間延びした声でそう言う唯先輩。
「そうですねぇ」
うららかな陽気のせいだろうか、答える私の声もやけに間延びしているように感じた。
日曜日の午後。近所の公園のベンチに唯先輩と二人きり。
もう、かれこれ三十分近くはこうしている。
「……そういえばさぁ」
「はい?」
「あずにゃんの用事はいいの?」
「あー……」
用事と言っても大したことじゃない。
ただ、暇だったから商店街にでも行こうと思っていただけだ。
そしたらベンチでボーッとしている唯先輩を見かけたから、いくつか言葉を交わして、そのまま隣に居座らせてもらうことになった……というのが事の顛末。
「それはもういいんです。大した用でもないですし」
下手に商店街で暇を潰すより、唯先輩と一緒に居た方が楽しいに決まってる。
「そっかぁ」
「……唯先輩こそ。こんなところに居るってことは、なにか用があるんじゃないですか?」
例えば、誰かと待ち合わせ、とか。横目でちらりと探りを入れてみる。
「べつにないよー」
唯先輩の言葉に少しだけホッとしている自分に気付いて、慌てて首を左右に振った。
「ただいい天気だなぁ、って思って」
「……それで、ここに?」
「うん。たまにボーッとしに来るんだ」
……さすが唯先輩というか何というか。
こんなところに長時間何もしないで居られるなんて、ある意味すごいとは思うけど。
「ねぇ、あずにゃん」
「はい」
「アイス食べたくない?」
「はい……って、え!?」
何故にいきなりアイス。
しかも、もう少しで冬に差しかかろうかというこの時期に。
確かに今日はいつもより温かいけれど、それでも肌を撫でる秋特有の涼しい風はひゅうひゅうと吹いていた。
「いえ、私は別に……」
そう言いかけて、何故か目の前の唯先輩の顔が曇っていることに気付く。
「あずにゃん、アイスいらないの?」
「あ、いえ……その」
悲しそうな唯先輩が直視できず、思わず視線を逸らした。
なんで悲しそうな顔してるんですか。そんなに私と一緒にアイス食べたいんですか、だったら嬉し……って違う。いやいや、アイスが食べたいだけなら別に一人でもいいじゃないですか。
そう思い、視線を前方に戻す。
目の前にはうるうると瞳を潤ませ、上目遣いで見つめてくる唯先輩が。
「食べたい食べたい、すっごく食べたいです!」
「ホント!?」
ああ、私ってば何て扱いやすい……。
唯先輩が繰り出した反則技により、私は即行でKOされてしまった。
○
商店街にあるアイスクリーム屋を求めて公園を離れた私たちは、三十分と経たない内に元いたベンチへと舞い戻ってきていた。
正直、かなり不毛な行動だったように思う。
「えへへへへ」
と顔一杯に喜びを表現している唯先輩の右手には、三段重ねのアイスが。ちなみに上からストロベリー、チョコ、バニラ。なかなかオーソドックスな組み合わせだった。
私の手には普通の一段アイス。味は宇治金時。……え、ジジむさい? 宇治金時の良さが分からないなんて、とんだお子様ですねっ。
目に見えない相手に怒りを覚えるのは止めにして、とりあえず目の前で煌々と輝く宇治金時を一舐めしてみる。
おおっ。こ、これは―――
「お……」
「おいしいねー」
唯先輩にセリフを奪われてしまい、仕方なく無言で頷くことで同意した。
ペロペロ、ペロペロ。これ以上ないくらい幸せそうな顔で、早くも一番上のストロベリーアイスを溶かしていく唯先輩。
負けじと私も、密かに自負していた猫並みの舌技を披露する。
「あはは、あずにゃん猫みたい」
「……」
うるさいです。そんなこと言われなくても分かってます。っていうか、唯先輩だってなかなかのスピードじゃないですか。
そんな私を意にも介さず、ひたすらアイスを舐めていく唯先輩。
「んん……?」
「?」
突然聞こえてきたくぐもった声を訝しく思い、眉を顰める。
「ん、んんっ……んっ、んむぅ!」
「ぐ――ごほッ!?」
くぐもった声がいきなりセクシャルな声に変化し、思わず咳き込んでしまう。
「な、ななっ、どうしたんです!?」
「んー、んーんー!」
顔を真っ赤にしながら隣を見ると、顔を顰める唯先輩の唇の端からピンク色の液体が伝っていた。しかも結構な量。
えーっと……とりあえずストロベリーアイス、だよね。
それが何かの拍子で口から零れてきて、下手に動くと服の上に落ちてしまいそうだから、動くに動けない―――と。まあ、こんなところだろう。
「って、納得してる場合じゃない! ちょっと待ってて下さいね!」
慌てて横に置いていた自分のバッグを漁る。うわあああ、こんな時に限ってハンカチ忘れてるし。
「唯先輩、ハンカチもしくはティッシュ類は――」
持ってないよね、多分……。案の定、顔を上に向けたまま、ふるふると小さく手を振る唯先輩。
し、仕方ない。こうなったら―――
「ちょっと失礼します!」
アイスを持っていない方の手で唯先輩の肩を掴み、そのまま顔を近づける。
驚く唯先輩を尻目に、その顎付近に自分の唇を押し付けた。
「ん、……!」
唯先輩のくぐもった声がすぐ側から聞こえる。気にせずペロペロとアイスを舐め取っていく。
そのままどんどん上の方へと向かい―――やがて、舌が唇周辺に到達したところで、かっと目を見開いた。
「―――って、何してんだ私いいいいいいぃぃぃッ!」
思わずベンチから飛び退き、背後の草木たちの中に突っ込む。
ずざざざざざざ、と音を立てて滑り込んでいく私の身体。
無駄に勢いよく飛び込んだせいか、大量に茂った枝が肌に当たって地味に痛……って、痛たたたたた、血が出るってこれホントに。
やがて、上半身がすっぽりと草木の中に収まったところで、私の動きが停止した。
「……」
「……」
沈黙。
うつ伏せになったまま下半身だけを晒している私に、どう声をかけたらいいのか分からないのか、唯先輩も何も言ってこない。そりゃそうだ。
ああ。よく分からない勢いに任せて、草なんかに突っ込むんじゃなかった。
「あ……あずにゃん?」
「……はい」
おそるおそるといった感じの唯先輩の声。その声に反応して、のそのそと草木から這い出る。
案の定、私の肌はどこもかしこも傷だらけだった。
上着が長袖だったため、被害が顔と手だけで済んだのが不幸中の幸いか。
「……すいませんでした、唯先輩」
汚れた衣服を叩きながら、とりあえず頭を下げる。
「それよりあずにゃん、血! 血でてるよっ!」
「あはは、こんなの大したことないですよ。それよりも、今目の前で起きたことは全て見なかったことに……」
「いいからこっち!」
有無を言わさずベンチまで連れ戻される。
どこからどう見ても突然発狂したようにしか見えない私を目の前にして、誰よりも動揺しているはずなのに、見事に食べかけの三段アイスは死守している唯先輩。
ちなみに私のアイスは突っ込んだ勢いでどこかへ飛んでいってしまった。まだ半分以上残ってたから、今頃アリたちの良い餌になってるに違いない。
「びっくりしたよー。いきなりあんなトコに飛び込んでくんだもん」
「……」
そう言いながら、アイスを持っていない方の手で、私の頭や身体に付いた土を払ってくれる。
あれは……まあ、自分が仕出かしたことの危険さに気付いた私の動揺がピークに達した結果と言いますか……。
ある程度払い終えると、今度はじっと私の顔を見つめてくる唯先輩。
「えーっと……ここかなぁ、一番ひどいの」
そう呟いて、さっき私がしたのと同じように顔を近づけてくる。
「わっ、ゆ、唯先輩……」
「じっとしててね、あずにゃん」
そう言われ、思わずぎゅっと目を瞑る。
初めに感じたのは頬に触れる柔らかい感触。多分、唯先輩の唇。次いでぬるっとした温かい何かが―――って、こ、これって……舌だよね。
そのままぴちゃぴちゃと音を立てながら、生温い物体が私の顔中を這っていく。
う、うわ、うわあああ。
ちょ、駄目ですって唯先輩、幸い人は居ないとはいえ、こんな真っ昼間の公園で。……いや、私もさっき似たようなことしましたけど。
でも、これはちょっと、さすがに……。
「ん……、はむ」
「ふあっ」
最後に耳たぶを甘噛みされ、思わず声を上げてしまった。
唯先輩の顔が離れていく気配がするのと同時に、私も瞑っていた両目をゆっくりと開ける。
気恥ずかしくて唯先輩の顔が見れず、思わず視線をベンチに落とした。
「……み、耳も……血が出てました?」
「ううん、最後のは違うよ」
「ちょ、何ですかそれっ」
唯先輩の唾液で濡れた顔を秋風が撫でていく。
すーすーとした冷たさが、火照った頬にはちょうど良かった。
「ほい、あずにゃん。手も出して」
「いっ、いいですいいです! もう十分ですから!」
「ぶっぶー、残念、もう逃げられません。だってさっきの仕返しだもん」
「……やっぱりそうだったんですか」
やり取りに気を取られている私の隙をついて、かぷっと私の右手を甘噛みする唯先輩。
「にゃっ!」
「はむはむ……やっはりへつの味がふるね」
ええと……『やっぱり鉄の味がするね』でいいんだよね、多分。
「当たり前じゃないですか……って、ちょっと、くすぐったいですってばっ」
先ほど顔にしたのと同じように、唯先輩がペロペロと私の手を舐めていく。……唯先輩だって、十分猫みたいじゃないですか。
やがて、私の両手を一通り舐め終えると、唯先輩はゆっくりと顔を上げた。
「ふふ〜ん、仕返しタイムしゅーりょーう」
「……」
応急処置のようなことをしてくれたのは純粋に嬉しいんだけれど、素直に礼を言う気になれないのは何故だろう。
「これに懲りたら、もう草なんかに突っ込んじゃダメだよ?」
「いや、多分これが最初で最後だと思います……」
というか未だに何故あんな行動に出たのかが分からないし。
唯先輩はまだ赤くなったままの私の顔を一瞥すると、次いでいつものようににっこりと笑った。
「まあいいや。あずにゃんの可愛い顔いっぱい見れたし」
「んなっ……! な、何ですかそれ!」
「んー、恥ずかしそうな顔とか、くすぐったいの我慢してる顔とか……。あ、今のあずにゃんの顔も可愛いよ?」
「か、可愛い可愛い言わないで下さいっ!」
「なんで? だって可愛いもん」
「にゃあああっ!」
瞬間―――ポタッ、という何かが落下したような音がした。
唯先輩ときょとんとした顔を見合わせる。次いでその手元に視線をやると、
「あああーッ! 唯先輩、アイス! アイスが!」
「へ? ……わあっ、こぼれてる!」
唯先輩が死守していた、ピンクの部分が大幅に欠けた三段アイス。長いやり取りの間にそれが溶けてしまったらしく、茶色と白が混じった液体が唯先輩の手を伝い、その衣服を汚していた。
「どうしよ、あずにゃん!」
「と、とりあえずまた舐めるしか……!」
っていうか何ですか、この誰かに仕組まれているとしか思えない流れは! ふわふわ時間ならぬ、ぺろぺろ時間ですか!?
……なんて訳の分からない単語が頭に浮かんできて、どうやらまた激しく動揺しているらしいことを頭の隅で自覚した。
「ま、また失礼しますね、唯先輩っ!」
「よーし、じゃあわたしも!」
そう言って、お互い唯先輩の手に顔を近づける。
慌てていたせいか無駄に勢い付いてしまったらしく、私が伸ばした舌は唯先輩の手を掠め、その先の唇へと―――
私の舌が、伸ばされた唯先輩の舌に触れた瞬間。
「―――うにゃああああああぁぁぁッ!」
絶叫が周囲に響き渡ったかと思うと、私はまた背後の草木へと勢いよく突っ込んでいた。
以下、エンドレス。
(あとがき)
イチャラブを書こうとしたらこうなりました。とりあえずスミマセン。
あと安っぽい18禁みたいなタイトルでスミマセン。
快晴の空を眺めながら、いつもの間延びした声でそう言う唯先輩。
「そうですねぇ」
うららかな陽気のせいだろうか、答える私の声もやけに間延びしているように感じた。
日曜日の午後。近所の公園のベンチに唯先輩と二人きり。
もう、かれこれ三十分近くはこうしている。
「……そういえばさぁ」
「はい?」
「あずにゃんの用事はいいの?」
「あー……」
用事と言っても大したことじゃない。
ただ、暇だったから商店街にでも行こうと思っていただけだ。
そしたらベンチでボーッとしている唯先輩を見かけたから、いくつか言葉を交わして、そのまま隣に居座らせてもらうことになった……というのが事の顛末。
「それはもういいんです。大した用でもないですし」
下手に商店街で暇を潰すより、唯先輩と一緒に居た方が楽しいに決まってる。
「そっかぁ」
「……唯先輩こそ。こんなところに居るってことは、なにか用があるんじゃないですか?」
例えば、誰かと待ち合わせ、とか。横目でちらりと探りを入れてみる。
「べつにないよー」
唯先輩の言葉に少しだけホッとしている自分に気付いて、慌てて首を左右に振った。
「ただいい天気だなぁ、って思って」
「……それで、ここに?」
「うん。たまにボーッとしに来るんだ」
……さすが唯先輩というか何というか。
こんなところに長時間何もしないで居られるなんて、ある意味すごいとは思うけど。
「ねぇ、あずにゃん」
「はい」
「アイス食べたくない?」
「はい……って、え!?」
何故にいきなりアイス。
しかも、もう少しで冬に差しかかろうかというこの時期に。
確かに今日はいつもより温かいけれど、それでも肌を撫でる秋特有の涼しい風はひゅうひゅうと吹いていた。
「いえ、私は別に……」
そう言いかけて、何故か目の前の唯先輩の顔が曇っていることに気付く。
「あずにゃん、アイスいらないの?」
「あ、いえ……その」
悲しそうな唯先輩が直視できず、思わず視線を逸らした。
なんで悲しそうな顔してるんですか。そんなに私と一緒にアイス食べたいんですか、だったら嬉し……って違う。いやいや、アイスが食べたいだけなら別に一人でもいいじゃないですか。
そう思い、視線を前方に戻す。
目の前にはうるうると瞳を潤ませ、上目遣いで見つめてくる唯先輩が。
「食べたい食べたい、すっごく食べたいです!」
「ホント!?」
ああ、私ってば何て扱いやすい……。
唯先輩が繰り出した反則技により、私は即行でKOされてしまった。
○
商店街にあるアイスクリーム屋を求めて公園を離れた私たちは、三十分と経たない内に元いたベンチへと舞い戻ってきていた。
正直、かなり不毛な行動だったように思う。
「えへへへへ」
と顔一杯に喜びを表現している唯先輩の右手には、三段重ねのアイスが。ちなみに上からストロベリー、チョコ、バニラ。なかなかオーソドックスな組み合わせだった。
私の手には普通の一段アイス。味は宇治金時。……え、ジジむさい? 宇治金時の良さが分からないなんて、とんだお子様ですねっ。
目に見えない相手に怒りを覚えるのは止めにして、とりあえず目の前で煌々と輝く宇治金時を一舐めしてみる。
おおっ。こ、これは―――
「お……」
「おいしいねー」
唯先輩にセリフを奪われてしまい、仕方なく無言で頷くことで同意した。
ペロペロ、ペロペロ。これ以上ないくらい幸せそうな顔で、早くも一番上のストロベリーアイスを溶かしていく唯先輩。
負けじと私も、密かに自負していた猫並みの舌技を披露する。
「あはは、あずにゃん猫みたい」
「……」
うるさいです。そんなこと言われなくても分かってます。っていうか、唯先輩だってなかなかのスピードじゃないですか。
そんな私を意にも介さず、ひたすらアイスを舐めていく唯先輩。
「んん……?」
「?」
突然聞こえてきたくぐもった声を訝しく思い、眉を顰める。
「ん、んんっ……んっ、んむぅ!」
「ぐ――ごほッ!?」
くぐもった声がいきなりセクシャルな声に変化し、思わず咳き込んでしまう。
「な、ななっ、どうしたんです!?」
「んー、んーんー!」
顔を真っ赤にしながら隣を見ると、顔を顰める唯先輩の唇の端からピンク色の液体が伝っていた。しかも結構な量。
えーっと……とりあえずストロベリーアイス、だよね。
それが何かの拍子で口から零れてきて、下手に動くと服の上に落ちてしまいそうだから、動くに動けない―――と。まあ、こんなところだろう。
「って、納得してる場合じゃない! ちょっと待ってて下さいね!」
慌てて横に置いていた自分のバッグを漁る。うわあああ、こんな時に限ってハンカチ忘れてるし。
「唯先輩、ハンカチもしくはティッシュ類は――」
持ってないよね、多分……。案の定、顔を上に向けたまま、ふるふると小さく手を振る唯先輩。
し、仕方ない。こうなったら―――
「ちょっと失礼します!」
アイスを持っていない方の手で唯先輩の肩を掴み、そのまま顔を近づける。
驚く唯先輩を尻目に、その顎付近に自分の唇を押し付けた。
「ん、……!」
唯先輩のくぐもった声がすぐ側から聞こえる。気にせずペロペロとアイスを舐め取っていく。
そのままどんどん上の方へと向かい―――やがて、舌が唇周辺に到達したところで、かっと目を見開いた。
「―――って、何してんだ私いいいいいいぃぃぃッ!」
思わずベンチから飛び退き、背後の草木たちの中に突っ込む。
ずざざざざざざ、と音を立てて滑り込んでいく私の身体。
無駄に勢いよく飛び込んだせいか、大量に茂った枝が肌に当たって地味に痛……って、痛たたたたた、血が出るってこれホントに。
やがて、上半身がすっぽりと草木の中に収まったところで、私の動きが停止した。
「……」
「……」
沈黙。
うつ伏せになったまま下半身だけを晒している私に、どう声をかけたらいいのか分からないのか、唯先輩も何も言ってこない。そりゃそうだ。
ああ。よく分からない勢いに任せて、草なんかに突っ込むんじゃなかった。
「あ……あずにゃん?」
「……はい」
おそるおそるといった感じの唯先輩の声。その声に反応して、のそのそと草木から這い出る。
案の定、私の肌はどこもかしこも傷だらけだった。
上着が長袖だったため、被害が顔と手だけで済んだのが不幸中の幸いか。
「……すいませんでした、唯先輩」
汚れた衣服を叩きながら、とりあえず頭を下げる。
「それよりあずにゃん、血! 血でてるよっ!」
「あはは、こんなの大したことないですよ。それよりも、今目の前で起きたことは全て見なかったことに……」
「いいからこっち!」
有無を言わさずベンチまで連れ戻される。
どこからどう見ても突然発狂したようにしか見えない私を目の前にして、誰よりも動揺しているはずなのに、見事に食べかけの三段アイスは死守している唯先輩。
ちなみに私のアイスは突っ込んだ勢いでどこかへ飛んでいってしまった。まだ半分以上残ってたから、今頃アリたちの良い餌になってるに違いない。
「びっくりしたよー。いきなりあんなトコに飛び込んでくんだもん」
「……」
そう言いながら、アイスを持っていない方の手で、私の頭や身体に付いた土を払ってくれる。
あれは……まあ、自分が仕出かしたことの危険さに気付いた私の動揺がピークに達した結果と言いますか……。
ある程度払い終えると、今度はじっと私の顔を見つめてくる唯先輩。
「えーっと……ここかなぁ、一番ひどいの」
そう呟いて、さっき私がしたのと同じように顔を近づけてくる。
「わっ、ゆ、唯先輩……」
「じっとしててね、あずにゃん」
そう言われ、思わずぎゅっと目を瞑る。
初めに感じたのは頬に触れる柔らかい感触。多分、唯先輩の唇。次いでぬるっとした温かい何かが―――って、こ、これって……舌だよね。
そのままぴちゃぴちゃと音を立てながら、生温い物体が私の顔中を這っていく。
う、うわ、うわあああ。
ちょ、駄目ですって唯先輩、幸い人は居ないとはいえ、こんな真っ昼間の公園で。……いや、私もさっき似たようなことしましたけど。
でも、これはちょっと、さすがに……。
「ん……、はむ」
「ふあっ」
最後に耳たぶを甘噛みされ、思わず声を上げてしまった。
唯先輩の顔が離れていく気配がするのと同時に、私も瞑っていた両目をゆっくりと開ける。
気恥ずかしくて唯先輩の顔が見れず、思わず視線をベンチに落とした。
「……み、耳も……血が出てました?」
「ううん、最後のは違うよ」
「ちょ、何ですかそれっ」
唯先輩の唾液で濡れた顔を秋風が撫でていく。
すーすーとした冷たさが、火照った頬にはちょうど良かった。
「ほい、あずにゃん。手も出して」
「いっ、いいですいいです! もう十分ですから!」
「ぶっぶー、残念、もう逃げられません。だってさっきの仕返しだもん」
「……やっぱりそうだったんですか」
やり取りに気を取られている私の隙をついて、かぷっと私の右手を甘噛みする唯先輩。
「にゃっ!」
「はむはむ……やっはりへつの味がふるね」
ええと……『やっぱり鉄の味がするね』でいいんだよね、多分。
「当たり前じゃないですか……って、ちょっと、くすぐったいですってばっ」
先ほど顔にしたのと同じように、唯先輩がペロペロと私の手を舐めていく。……唯先輩だって、十分猫みたいじゃないですか。
やがて、私の両手を一通り舐め終えると、唯先輩はゆっくりと顔を上げた。
「ふふ〜ん、仕返しタイムしゅーりょーう」
「……」
応急処置のようなことをしてくれたのは純粋に嬉しいんだけれど、素直に礼を言う気になれないのは何故だろう。
「これに懲りたら、もう草なんかに突っ込んじゃダメだよ?」
「いや、多分これが最初で最後だと思います……」
というか未だに何故あんな行動に出たのかが分からないし。
唯先輩はまだ赤くなったままの私の顔を一瞥すると、次いでいつものようににっこりと笑った。
「まあいいや。あずにゃんの可愛い顔いっぱい見れたし」
「んなっ……! な、何ですかそれ!」
「んー、恥ずかしそうな顔とか、くすぐったいの我慢してる顔とか……。あ、今のあずにゃんの顔も可愛いよ?」
「か、可愛い可愛い言わないで下さいっ!」
「なんで? だって可愛いもん」
「にゃあああっ!」
瞬間―――ポタッ、という何かが落下したような音がした。
唯先輩ときょとんとした顔を見合わせる。次いでその手元に視線をやると、
「あああーッ! 唯先輩、アイス! アイスが!」
「へ? ……わあっ、こぼれてる!」
唯先輩が死守していた、ピンクの部分が大幅に欠けた三段アイス。長いやり取りの間にそれが溶けてしまったらしく、茶色と白が混じった液体が唯先輩の手を伝い、その衣服を汚していた。
「どうしよ、あずにゃん!」
「と、とりあえずまた舐めるしか……!」
っていうか何ですか、この誰かに仕組まれているとしか思えない流れは! ふわふわ時間ならぬ、ぺろぺろ時間ですか!?
……なんて訳の分からない単語が頭に浮かんできて、どうやらまた激しく動揺しているらしいことを頭の隅で自覚した。
「ま、また失礼しますね、唯先輩っ!」
「よーし、じゃあわたしも!」
そう言って、お互い唯先輩の手に顔を近づける。
慌てていたせいか無駄に勢い付いてしまったらしく、私が伸ばした舌は唯先輩の手を掠め、その先の唇へと―――
私の舌が、伸ばされた唯先輩の舌に触れた瞬間。
「―――うにゃああああああぁぁぁッ!」
絶叫が周囲に響き渡ったかと思うと、私はまた背後の草木へと勢いよく突っ込んでいた。
以下、エンドレス。
(あとがき)
イチャラブを書こうとしたらこうなりました。とりあえずスミマセン。
あと安っぽい18禁みたいなタイトルでスミマセン。
このページへのコメント
無限ループって怖いね(笑)
椶枠味しいよ
きっと天皇陛下もお許しる下さるでしょう。
こういうのもいいですね(´×`)
まさかのループwww