最終更新:ID:k+uODU1yRQ 2009年05月26日(火) 09:53:22履歴
「どうしてだまってたんだよ!」
「だって、言ったら怒ると思ったし・・・」
放課後の音楽室、飛び交う怒号。その元は私と唯だ。
「ちゃんと言ってくれたら怒んなかったよ!」
「でも今正直に言ったら怒ってるじゃない!」
「それは嘘ついて誤魔化してたからだよ!」
終わることのない禅問答、他の軽音部のメンバーはただただ見るだけだった。
静かに見るだけの律、心配そうな目で私たちを見つめる紬、何をすればいいか分からずじっと座るだけの梓。
これまで見せたことない私たちの姿に言葉を失っているようだった。
「澪ちゃんの分からずや!」
「分からずやなのはお前のほうだろ!」
「ん〜・・・もう帰る!」
そういい残し、唯はかばんを持ち勢いよく音楽室を出て行った。
「おい澪、追わなくていいのか?」
「いいんだよ、悪いのはあいつだし」
「でも唯ちゃん泣いてたかも・・・」
「・・・」
ちょっと言い過ぎたかな、いやそんなことない。今回はあいつが全面的に悪い。
だから私が謝ったりする必要はないんだ!でも・・・
「さっき唯ちゃんが走りながら帰ってたけど、あなた達何かあったの?」
そう言いながら入ってきたのはさわ子先生だった。
「はは〜ん、そういうことねー」
私たちを見回して、先生は状況を理解したようだった。
事の発端はささいな・・・いや、ささいなことではなく大問題か。
率直に言うと、唯がネックレスをなくしたからだ。
そのネックレスとは初デートの時に買ったものだ。
私たちは部で練習始めに首に下げたネックレスを出し、ピック型の飾りにキスをするのを決まりにしていた。
それをやろうと言い出したのは唯だった。なんでもある野球選手が打席の入る前同じことをしているのを見てこれだ!と思ったらしい。
最初は恥ずかしく、また律にからかわれていたが、回数を重ねるごとにそれをやらなければ落ち着かなくなっていた。
そんな毎日に異変が起こったのは今週の月曜、唯がネックレスを持ってきてなかったことからだった。
その時は忘れたとだけ言って、明日持ってくるからということで追求はしなかった。
ただそれが火曜、水曜と続いた。そして今日、4日続けて忘れたのをおかしく思い問い詰めるとなくしたと言い、そして冒頭の言い合いへとなった。
さっきは怒り過ぎたかもしれない、ただなくしてすぐに言ってくれればこんなにも怒らなかっただろう。
私はそれを何日か黙っていたことに腹が立つんだ!
今日の部活はさわ子先生の一声で休みとなり、早めの帰宅となった。
今の私は、自分の部屋で今日のこと、また付き合いだしてから今日までを思い返していた。
初デート以降、平日は部活で会い、休日はデートやお互いの家に行って過ごしていた。
キス以上の進展はなかったが、私たちはそれで良かった。そう、それで・・・それなのに・・・
「こんなことで終わるのはいやだよぅ・・・」
暗い部屋で一人でいるとどんどん寂しく、これからのことに不安になり自然と涙が出てきそうだった。
そのときだった
(ドンドン)
部屋のドアを誰かがノックした。
「私だけど、入ってもいいかな?」
ノックをしたのは律だった、もしかして唯かもと期待した自分が情けなく感じた。
だがそれが律でよかったと安心している自分もいた。
「うん、いいよ」
私がそういうとドアを開けて入ってきた。
「よう!怒りっぽい澪さんのために大親友の律さんが、甘いものお届けに参りました!」
いつもの明るい感じで律が言う、そんな律をみて私はいつもの調子をとりもどす。
「怒りっぽいってなんだよ、今日のは怒らなくちゃいけなかっただろー」
「まぁまぁ、確かに唯も悪かったね。澪が怒るのもわかるよ」
「だろ、だから私は悪くない!」
せっかく落ち着いたのにまた思い出して腹が立つ。
「でもさ〜、考えてみなよ」
「何をよ?」
「あの唯だぜ〜。一つのものをなくさずに持ってられかと思うか?」
「ま、まぁ確かにな・・・でも恋人と初めて買ったネックレスをなくすか!?」
「そこだよ!そこが唯と澪の違いだよ」
「ど・・・どういうことだよ」
「澪、写真撮るの好きだよな。なんでだ?」
「そ、そりゃあ思い出を形に残しときたいから」
「だろ!つまり澪にとってそのネックレスは初デートの形に残る思い出なんだ」
「う・・・ん、そうなる・・・かな」
「そうなんだよ!だが唯は違う、あいつはその場その場で新たな思い出を上書きしていくんだよ!」
「なんでそう言い切れるんだよ!」
「まぁー勘・・・かな!」
「なんだそれ!」
「まぁつまりさ、自分と相手の違いを認めないと上手くやっていけないってことさ」
「う〜ん・・・仮に律の言うとおりだとしてもさ、私が怒ってんのはすぐになくしたことを言わずに嘘ついたことだよ」
「でもさ、すぐに言わなかったってことは見つかるかもしれないから黙ってたって考えられないか?」
「・・・まぁそれも一理あるかな・・・でも探すのなら言ってくれたら私だって一緒に探すし!」
「だーからー、澪は自分のことわかってなさすぎ!」
「なんだよ、私のことは私が一番知ってるよ!」
「いーや違うね。まず唯からネックレス無くしたと言われた、まず澪はどう思う?」
「うーん、いつまで持ってたかを聞いて、そこからどこでなくしたかを考える」
「ダメだね、まったく違う」
「どう違うんだよ、私だったらこうするよ!」
「私の知ってる澪だったら、まず泣くね」
「泣く!?そんなはずが・・・ないと思う・・・」
「軽音部に入ってからこれまでの自分を思い出してみろよ、唯はそれしか知らないんだから」
私は言われたと通りに思い出してみた・・・確かに・・・ことあるごとに泣いてたな・・・・
私ってこんなに弱い子だったんだ・・・
「うん、律の言うとおりだな・・・」
「だろー、唯もそう思ったんだって」
「えっ!」
「正直に無くしたと言う、そうするとお前は泣く。すると唯は悲しませてしまったと思う。
好きな人を泣かしたくない、そうさせないためにはどうするか?はい、澪!」
「なくしたことを黙っておく・・・」
「そう、よくできました!」
「えっ・・・ということは唯は私のことを思って・・・」
「そう!そして見つかったら何食わぬ顔でつけてくればいい。ただ見つからずにお前に問い詰められて正直に言った。すると今日のようなことになった」
「でも見つからなかったら新しいのを買って・・・「それじゃあダメなの!」
急に律が大声を出し私はすごく驚いてしまった。
「ひぃ!」
「さっき私が言ったこと理解してる?唯は形にこだわらないの!ネックレスが欲しけりゃそりゃ買えばすむでしょーが、そうじゃないの!」
「え、えっ?」
私は頭が混乱し、何も言えなくなっていた。
「もう!つまり、唯にとっては澪と一緒に買ったネックレスだからこそ意味があるの!だから代わりに自分で買ったら意味無いの!」
その言葉を聞いてやっと私は理解した。
「そうか・・・唯、そこまで考えて・・・それなのに私」
「まったくもー、澪ちゃんは本当におバカちゃんですねー」
「おい、それ本気で言ってんのか?」
律のおバカという言葉に反応し睨みつける。
「本当にそう思うなら勉強聞いたりしねーよ」
「えへへー」 「・・・」
「っておい、一緒に笑えよ!」
「え・・・さっきの何?」
「オー○リーのギャグだろうが!全く、澪はノリ悪いなー」
「急にそんなこと言われたって・・・分かんないよ・・・(そういえばオー○リーといえば)」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
唯の家でテレビ視聴中
「ねぇ澪ちゃん、オー○リーの春日さんってかっこいいよね!」
「えー、私は若林さんのほうがいいと思うけど」
「もー、分かってないなー。春日さんの良さが分かんないなんて、まだまだだね!」
「そ、そうなんだ・・・」
「でも〜、一番かっこいいのは澪ちゃんだよ!」
「ゆ、唯ぃ・・・」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
━━━・・・お、おー・・・い、澪!━━━
「は、はいぃ!」
どうやら自分だけの世界に行ってたみたいだ、律の声で我に帰る。
「おい、どうした急にぼーっとして」
「あ、あぁ・・・オー○リーの春日はかっこいいってことだよ!」
「なんだそりゃ?まぁいいや、とりあえずこれからどうするよ」
「ど、どうって・・・何が?」
「おいおい、唯と仲直りしたいんじゃねーの?」
「も、もちろん!ちゃんと謝ってこれまで通りにしたい!」
そうだ、今のままじゃダメだ、今日中に仲直りしないと・・・でもどうすれば・・・
「律、どうしたらいいと思う?」
「はぁー!?お前たちの問題だろー、解決法は自分で考えろよー」
「で、でもこんなの初めてだし・・・どうすれば・・・」
「私だって無いよ!んーまぁ電話かメールで謝れば」
「そ、そうか・・・そうだよね!分かった」
早速私は携帯を手にとり電話帳から唯の番号を選ぶ・・・がそこから発信ボタンが押せない!
「どうしたよ、そこまで行ったら後一息だろ」
「う、うん・・・そうだけど、もし無視されたり着信拒否されたら・・・」
「あーもー!どうしてそこまでヘタレなんだよ!貸せ、私がかけてやる」
「い、いいよ!それくらい自分でできるって!」
「だったら早くやれよ!」 「でも心の準備が・・・」
かけるかけないで律ともめていると・・・
〜♪〜♪〜♪〜♪〜
私の携帯が鳴った。
「わ、わわ!」
びっくりした私は携帯を落としてしまい、そのはずみで着信ボタンが押されたみたいだった。
『もしもし、澪ちゃん?・・・あれ、聞こえてるのかな?おーい澪ちゃーん』
携帯から聞こえる声は唯だった、私は急いで携帯を手に取る。
「もしもし、唯?」
『あ、澪ちゃん!よかったー出てくれないかもと思っちゃった』
「そ、そんなことあるはずないじゃないか!それよりどうした!」
『あのね、ネックレス見つかったよ!』
「ほ、本当か!」 『うん!』
私は嬉しくて思わず律とハイタッチした。
「で、どこにあったんだ?」 『えっとね、憂が見つけてくれたんだ』
さすが憂ちゃん!さすが将来の私の妹!
「それはよかった」 『それとね、今日のこと謝りたくって・・・』
「えっ!」 『なくしたこと黙っててごめんね。なくしたって知ると澪ちゃんが悲しむとおもって・・・』
横で聞き耳を立ててた律が自慢げな顔をしていたが、気にせず話を続ける。
「私こそ、いきなり怒鳴ってごめんね、もっと唯の話きいてあげればよかったんだ」
『私のほうこそ、あのまま帰っちゃって・・・部のみんなに迷惑かけちゃったし・・・』
「それは明日改めてみんなに謝ろう、そうすれば許してもらえるって!」
『そうだよね!』 「そうだよ」
『ねぇ、澪ちゃん、今から会える?』 「え、今から!?」
唯の突然の提案に私は戸惑ってしまった。
「え・・・今から?」
時計に目をやると20時前だった
『今日は喧嘩したまま帰っちゃったし、せっかく仲直りできたから今日のうちに会いたいなーって思って・・・だめかな?』
唯の甘えた声が会いたい欲望を駆り立てる。しかし夜に唯を外に出すのは・・・
「でもさすがにもう遅いし、これから外出するのは・・・」
『あ、それなら大丈夫、お母さんが車で連れてってくれるから』
「へ・・・あ、そうなの」
その手があったかと納得しかけたが、お母様の手を煩わすわけにはっ!
「でも・・・さすがにこの時間に車を出してもらうのは」
『大丈夫、お父さんを迎えに行くついでだから』
えー、会社の送り迎えもやってんだー。すごいラブラブだなおい!
横では律が「行っちゃえ行っちゃえ」ってうるさいし・・・
もうここはお母様に甘えちゃえ!
「分かった、それじゃあ私の家の近くの公園でいいかな?」
『りょーかい!それじゃあ、今から行くね』
「うん、わかった気をつけてね」 『それはお母さんに言ってー』ピッ
「ふーっ」
とりあえず仲直りできて一安心。
「よかったですね、澪しゃん」
ニヤニヤ顔の律がいた。普段ならゲンコツするところだが、今日は助けてもらったし我慢することにした。
「そういうわけで、これから唯に会ってくるから」
「おー。外だからあんまイチャイチャするなよー」
「分かってるって。それと律・・・」
「あれ、怒んない。ん、何?」
「ありがとな、律がいてくれて助かったよ」
「み、澪〜」
「な、何お前が泣いてんだよ!」
「だって澪が私にありがとうって〜、初めて言われた〜」
「そ、そんなことないだろう。まったく、大げさだな」
「ま、それもそうだな」
「っておい!というかもう泣き止んでるし」
「私は澪と違って泣き虫じゃないの!あとこれを唯に渡して」
律が一旦部屋から出て持って入ってきたのは唯のギターだった。
「あ、それ唯の・・・」
「まったく、あいつ大事なギター忘れやがって。代わりに持って帰ってやったんだよ。いや〜しかし以外に重いなギターって」
「そうだったんだ・・・本当にありがとな、律」
「そう何回も感謝されるとありがたみが減るな〜」
「今日は何回も感謝しても感謝しきれないよ!」
最高の友を持てた私は本当に幸せ者だ!
律からギターを預かった私は待ち合わせの公園に向かった、その前に仲直りできたことをムギと梓に伝えた。
二人ともとても喜んでくれたようだった。明日はムギの代わりにお菓子持って行かなくちゃなー、そう考えているうちに公園に着いた。
ギターをベンチに置き私も一緒に座って待った。そしたらすぐに一台の車が来た。
「あれ、唯かな?」
周りが暗かったため、確認はできなかったが車から一人降りて車は公園から出て行った。
唯が来たと確信した私は、分かりやすいように外灯の下に立った。
「あ、おーい澪ちゃーん!」
いつもの唯がそこにいた私は手を挙げて来るのを待った。
「澪ちゃ〜ん、ごめんね〜」
そう言うと唯が抱きついてきた。唯の匂い、感触・・・仲直りできてよかった!
そして唯の胸に光るピックがあるのを確認した。
「私のほうこそ、ごめんね」
「ううん、澪ちゃんは悪くないよ!もともとはなくした私が悪いんだし」
「そうかもしれないけど、私にも謝らせて」
「うん?わかった!」
「あ、そうだ。ちょっと唯、いい?」
抱きついている唯を離すのは惜しい気がしたが、我慢してギターを渡した。
「あー、忘れてたー。澪ちゃん持って帰ってくれたの?」
「いや、持って帰ったのは律なんだ。私はそれを預かって持ってきただけなんだ」
「そうなんだー、あとでりっちゃんにお礼しなきゃだね!」
「うん、そうだね」
「ごめんねー、ギー太!もう一人にしないよー!」
ギー太って・・・名前つけてたんだ。ここで唯の新たな一面発見!
「あ、そーだ澪ちゃん!」
「何?」
「仲直りのキスしよ!」
「ここで!?」
さっきの律の言葉を思い返した。だがしたいのは私も同じ、周りに誰もいないのを確認して・・・
「うん、いいよ」
「やったー」
こうして私たちの初めてのケンカは幕を閉じた・・・
これからはちゃんと話し合おう、そしてもっと強くなろうと私は誓った。
タグ
コメントをかく