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著者:青太郎氏


 目が覚めると、憂がいた。まわりを見ればそこは平沢家で、唯はいなかった。おかしいな、ホテルで寝てたはずなんだが……。
「おはよう、お兄ちゃん」
「ああ……。唯は?」
「そこにいるよ」
 言われて見れば、そこにあるのはマネキンだった。精巧に作られてはいるが、やはりマネキン。
「人形だろ」
「ううん。お姉ちゃんだよ。だってわたしの大好きなお姉ちゃんは人のものをとったりしないもん」
 そういって唯そっくりの人形を撫でる憂。あの、何で目に光がないんですか。
「わたしの大切なお兄ちゃんは誰にも渡さない」
 あれ、いつのまにか俺鎖で縛られてる。縄通り越して鎖……これじゃ抜け出すのはまず無理。
死んだ魚のような目をした憂はそのまま俺の顔を胸元に引き寄せ、
「ずっと、ずっと一緒だよ、お兄ちゃん……」
 
 そこで世界はブラックアウトした。


 第七章 前編


 …………夢を、夢を見てました。すごく嫌な夢でした。
「……何してる」
「チュウしたら起きるかなーって」
「ずっとしてたわけか」
「うん」
 俺の上にのっかってる唯を撤去。まったく。悪夢の原因はこいつか。あたりをみれば昨夜と同じ部屋。ま、当然だよな。
「それじゃあおはようのちゅー」
「さっきからしてただろうが」
 すると唯は口を尖らせ、
「それとこれとは別だよ」
 目を閉じ、「んー」と唇を近付けてくる唯。まったく。しかたのないやつだ。それに応じようとしたまさにそのとき、俺の携帯が鳴る。
「ちぇっ、いいとこなのに」
 唯の膨らんだ頬を尻目にディスプレイを見ると、先輩からだ。何の用だろう。
「……もしもし」
『おはよう』
「ああ、おはようございます……」
 声で何かマズいことしたのに気付き、冷や汗だらだら。
『職員会議サボるなんていいご身分じゃない』
「…………」恐る恐る画面の隅の時計を注視。八時過ぎてる……。
「すぐに向かいます」
 ――だれー? 女の人?
 おいこら唯。声を出すな。
『……女の子の声が聞こえるんだけど』
 この地獄耳め。
「気のせいです」
 左手でしっしっ、と唯を追い払う。しかしこいつは何を思ったのか腕にしがみついてきやがった。やめろ、HA☆NA☆SE!
「わたしというものがありながら……ひどいよお兄ちゃん!」
「何で先輩と話しただけで浮気になるんだ!」
 あ、やべ……。
『ふーん、そう。そりゃ会議にもふけたくなるわよね』
「違うんです、これは違うんです」
 くっ、こんなときにいい言い訳が思いつかん。ゼロ、俺を導いてくれ……!
『……十回』
「何の回数ですかそれ!?」
 見える、俺にも未来が見えるぞ。デッドエンドまっしぐらだ。うなだれる俺の手から携帯電話が落ち、それを唯が拾う。
まさか唯、お前がこの状況を打開してくれるというのか。心中に灯る希望。
そうだ、こいつならもしかしたら――もしかしたら――なんとかしてくれるかもしれない。


 しかし現実はいつだってそんな儚い希望を踏み潰す。

「ダメですよさわちゃん先生。いくら自分が売れ残ってるからって、やつあたりは……」
「唯ちゃんそれ以上言っちゃらめええええええええ!」
 取り返したときにはもう手遅れ。恐る恐る携帯を構える。
「せ、先輩……?」
『…………』
 そのまま切れた。無言が一番怖いっての。
「おはようございます。昨晩はよく眠れましたか」
「おかげさまでな」
 皮肉を少量含めてオーナーにそう返すと、花束を持たされた。なんじゃこりゃ。
「昨日はさっさと部屋にひっこんでしまわれたものですから、渡せなかったんですよ」
「別に俺は……」
「まあそう言わずに受け取ってください。私の娘があなたの大ファンでしてね。
どうしても渡してくれと。本人は直接渡したかったようですが」
 そこまで言われちゃ受け取らないわけにはいかない。
花束に挟まっていたメッセージカードに気付いたあたりで、写真を一枚渡された。
「娘です。妻に似てなかなかのものだと思いますよ。手前味噌かもしれませんがね」
「……将来が楽しみだな」
 整った顔立ちをした、長い髪を左右に分けた女の子の写真を唯に見咎められないように素早くしまう。
「いかがでしょうか。あなたがよろしければ親しい仲になっていただけると……」
「……これ以上はごめんだ」
「?」
「いや、こっちの話だ。世話になったな」
 車を回して戻ってきたホテルマンからカギを受け取り、オーナーに返事を書いたメッセージカードを渡す。
「娘さんによろしくな。番号も書いておいた。使うかどうかはそちらにまかせる」
「これはこれは。何とお礼を述べるべきなのか……」
「ファンを大切にしているだけだ。昔からな」
 さて、問題はそのファンがどうしているか、どうなっているかだが……うう、寒気がする。nice boatだけは勘弁してくれよ、頼むから。
「お前目覚まし止めただろ」
 陰鬱な気分で運転している隣で唯は、首を傾げている。
「さあ」
 無意識に止めたのか。とりあえず平沢家にこいつをおいて、家に戻らねば。
唯はギリギリ間にあうとして、俺は終わったな。人生的な意味で。
「あ、それよりまだおはようのちゅーしてもらってない!」
「……遅刻したくなかったら黙っていような、唯ちゃん」
 そんなこんなで俺は可及的速やかに出勤し、朝帰りか、とからかう用務員に苦笑いを返し、
紳士にネクタイの曲りを指摘され、ようやくたどり着いた職員室で――――。

 鬼を見た。


「……これはひどい」
「およそ常人の所業ではありませんね」
 アソパソマソのように膨らんだ顔に氷をあてがいつつ、俺は「生きていることを、素晴らしいと思った」と感嘆す。
「しかし何をしたんですか」
「独身女性特有の逆鱗にでも触れたんかいな」
「当らずとも遠からずだ」
 俺が悪いんじゃないんだけどな。まあ、これで休暇がもらえたのは不幸中の幸いといったところか。
こんな顔じゃ授業に出れん。というか前が見えねえ。
「お大事に」
「ま、しっかり養生するんだな。こういうときは女に慰めてもらえよ。いればの話だがな」
「……たくさんいそうな気がしますがね」
 そこの紳士、そのいやらしい笑い方やめろ。昨日の夜それで危ない目にあったんだぞ。
 まあ、そういうわけで自宅謹慎だ。私立は色々融通がきいていいね。しかし自分のベッドで寝るのいつぶりだろうか。ずっと唯か憂ので寝てたもんな。
 ……なんか広く感じるな。それと少しだけ――ほんの少しだけだぞ――。
 さびしい。



「抜け駆けしてすみませんでした!」
 血が凍るって表現がぴったりだと思う。
俺の復帰は怒り狂って暴力沙汰起こした先輩の謹慎解除と同期であり(ちなみに被害者の俺の頼みもあって先輩は謹慎だけで済んだ)、
唯のお説教はその日に行われたわけで、開口一番この子はすごいことをいったというのがこれまでの経緯ってわけ(電子の妖精のあらすじ風)。
「せ、先輩、お気を確かに」
 ぷるぷる震えている。まるで進化寸前のアレだ。でもこれ以上進化したら手がつけられなくなるな。ター●●ーターでも呼んでこないと。
「うわーん」
 泣いた。咽び泣いた。これが同僚や同窓生に先を越され、婚活とやらにまで手を出しかけている女の涙か。
なるほど、鬼気迫るものがある。
 そしてそのままこの人は唯の頬を引っ張りまくり、それに悲鳴を上げる唯と、それをどうしたものかと傍観する俺がいるという、
なんともシュールな光景ができあがった。
「唯ちゃんはしばらくうちで預かるから」
「どうぞ」
 そろそろ学園祭の時期である。しかしこいつらは驚くべきことにボーカルも曲もまだ用意しちゃいなかったという。
お前ら本当に武道館目指す気あるのか。まあ、そんなわけでボーカルになった唯だが、こいつ全然歌えないらしい。
俺もボーカルだなんて聞いていなかったからそういうのは一切教えておらず、
ならばとすっかりヤケになったと思われる先輩が唯の指導を買って出たってわけ(某艦長のあらすじ風)。
「お兄ちゃん助けて!」
「なにを言うんだ唯。いいじゃないか。練習は多いにこしたことはないんだぞ」
 それに襲われずに済むしなあ、俺。あ、憂のこと忘れてた。電話もメールもないのはどうとればよいのだろうか。
便りがないのは元気の証拠らしいが、元気すぎてダークサイドに落ちていたらどうしよう。
のこぎりなんて買ってた日には俺のバッドエンド確定じゃあないですか。
「それじゃあね」
「ええ」
「い〜や〜」
 ドナドナよろしく抱えられ連行されていく唯を感慨深く見送る俺。さよならは、言わないよ。
 というわけでやってきました平沢家。なんとなく嫌なプレッシャーを感じるのはなぜだろう。
俺宇宙に出てないのに新型に覚醒したんだろうか。そういえばあいつらも女性関係では凄まじいものがあったな。


「憂ー?」
 はたして憂はそこにいた。リビングで洗濯物をたたんでいる。
 憂の手が止まる。
「その……久しぶり」
 その背に言うが、無言。しかしここで引き下がるわけにはいかない。ちゃんと言っておかなければならないことがある。
「……全然帰ってこなかったね」
 しばらくたってかえってきたのはそんな言葉。ひどく小さく、ひどく低い。
「色々あってな」
「そう。お姉ちゃんと色々あったんだ」
 ずいぶん前に似たような会話をその“お姉ちゃん”としたような気がする。
「ああ、まあな……」
 嘘は言わない。言っても無駄だろう。とくに憂には。
「あのな、憂……」
「言わないで」
 さきほどとはまるで違う強い声に遮られる。
「言い訳なんて、聞きたくないよ……」
 ポタポタ衣類に落ちる水滴をとらえつつ、俺はいまにも消えてしまいそうな小さな背中を包み込む。
「全部、全部思い出したんだ。お前のことも、唯のことも。……約束のことも」
 憂の震えが一瞬大きいものになったのを腕が感じ取る。
「だから――身勝手なのも、図々しいってこともわかってる。だけど、やっぱり俺は二人を大切にしたい」
 厚顔無恥と非難されるかもしれない。ならば、ほかにどうすればいいというのか。どちらかを選んでどちらかを見捨てれることが正しいとでも言うのか。
 そんなのお断りだ。
 俺は誰かが泣くのを承知で幸せになろうなんて思えない。そうしたところで、きっと心のどこかで後悔し続けるはずだ。
 だから俺は――――。
「憂、十年も待たせてごめんな」
「ううん……そっか。思い出してくれたんだ」
 腕の中の憂がゆっくりこちらを向く。涙で濡れた頬が紅潮し、潤んだ瞳から零れる雫がさらに下の唇まで濡らし、顎から落ちていく。
 ゆえに重なるそこは塩辛く、
 それゆえに甘い。

 積まれていた衣類が崩れ、憂を受け止めるように広がる。倒れることによって放射状にのびた憂の髪と相まって、それはどこか芸術的だ。
「あ、洗濯物……」
「いいから。どうせ増えるんだし」
 憂は自身のTシャツを掴む手を見て小さく笑い、
「もう。あとで片づけるの手伝ってよね」
「もちろん」
 再び重なる唇にもう涙はなかった。



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