2chエロパロ板のけいおん! 作品のまとめサイトです。

「りっちゃんって、女の子に興味はないのよね?」
「ぶふッ!?」

突然そんなことを聞かれ、思わず紅茶を吹き出してしまった。

「な、何だよ、いきなりっ」

飛び散った液体をタオルで拭き取りながら、対面に座るムギの顔を見る。


ちなみに今、部室には私とムギの二人しかいない。
澪と梓はそれぞれ用事があって遅れてくるらしく、唯はこの間の小テストのことで担任に呼び出されていた。まあ、あくまで小テストだし、追試云々の話じゃないとは思うけど……。

そんなわけで、今の今までムギと二人きりのティータイムを過ごしていたわけだが、


「ご、ごめんなさい。ちょっと確認しておきたかったものだから」

困ったような笑顔を浮かべるムギ。私はタオルを鞄の側に放り投げると、軽くため息を吐いた。

「確認ってなんだ、確認って。大体なぁ、女の私が女に興味持つはずないだろー?」

世の中にはそういう趣味の人もたくさんいると思うけど――たとえば私の目の前のヤツとか――少なくとも私自身は、そういうことについて考えたことすらなかった。

「そうよねぇ。私から見ても、りっちゃんは正真正銘のノンケだもの」
「オイ」

さらりと耳慣れない単語を言いやがる。
いや、さすがの私もノンケの意味くらいは分かるぞ? 分かるけど、こんな風に言われるのは微妙に心外だった。
ムギは一口紅茶を啜ると、いつもと変わらない微笑を浮かべた。

「じゃあ、やっぱり恋愛は男性としたいって思ってるの?」
「ま、まあ、そりゃな……って、何言わせんだ、さっきからっ!」

びしっ、とツッコミのポーズを決める。頬が少し熱くなっているのは気のせいだと思いたい。
ムギはそんな私を見て、より一層笑みを深めると、

「うふふ……ねぇ、りっちゃん」
「な、何だよ」

「今、私のこと少し意識してるでしょう?」


……はい?


「だってりっちゃん、顔が真っ赤だもの」

えーっと……このお嬢様は何をおっしゃっているのでしょうか。
私の顔が赤くなっているのは認めざるをえないが、それは恋愛云々の話になったからであって、決して目の前の人物を意識したからというわけではない。
てか、何か誤解されてるぞ、私。

「いやいやいや、ちょーっと待て、ムギ! なんで私の顔が赤いとムギを意識してることになるんだよっ!」
「え? だ、だって、恋愛の話を持ち出したら、80%相手はその人のことを意識してしまうって……」
「どっから仕入れた、そんな知識っ! 大体それ、相手が異性の場合しか通用しないんじゃないのか?」
「ええっ!? そうなの!?」

『ガーン!』という効果音が聞こえてきそうな驚きぶりである。
そりゃ私だって女だから、男にそういう話をされたら多少なりとも相手を意識してしまうかもしれないけど、相手が同姓じゃただの恋バナにしかならんっての。
私は嘆息して椅子に座りなおすと、飲みかけの紅茶を手に取った。

「ったく……。いきなり興味だの恋愛だの言い出したのは、それか――」

そこまで言って、ふと顔を上げる。
あれ? ちょっと待てよ? ムギがその情報に則ってこんな話をし出したってことは、私に自分を意識させたいからであって、つまりそれって……。
恐ろしい結論に至ろうとしていた私を尻目に、ムギは小声で何やらぶつぶつと呟いていたかと思うと、

「りっちゃん!」
「は、はいっ!?」

突然大声を出したムギに驚いて、思わず背筋を伸ばす。
ムギは何やら決意のこもったような顔で、私の顔を真っ直ぐに見ていた。

「結論から言わせてもらいますね!」

ちょ、ちょっと待ってくれ、嫌な予感しかしな――


「私、実を言うと、りっちゃんのことがすごく気になっているのっ!」
「やっぱりかぁ――――ッ!」


思わず椅子からずり落ちそうになった。
当の本人はほんのり頬を赤くしながら、「い、言っちゃった」などと恥ずかしそうに身体をもじもじさせている。
それとは逆に、私の思考は今の状況に一切追いつかず、まさかの告白イベントにパンクしそうになっていた。

「でも、りっちゃんにはその気がないでしょう? だから私、りっちゃんに少しでも意識してもらおうと思って、いくつか作戦を立ててきたの」
「さ、作戦……?」

ってことは、さっきの恋バナも作戦の一つってことなのか?
ムギは真剣そのものといった顔で、「そうなの」と言いながら私の方に身を乗り出してくる。

「ちょ、近い! 顔が近いっての!」
「あ、あら? ごめんなさい、つい」
「ついじゃねーよっ」

ムギは少しだけ私から身体を離すと、

「本当は『好きな人いるの?』とか『どんな人が好み?』とか、他の質問事項もいくつか考えていたんだけど……それも必要なくなっちゃったから、もう色々と飛ばしてしまおうと思って」
「いや、作戦ばらしちゃっていいのかよ……」

私の呟きには答えず、代わりにより一層真剣な顔で私の顔を見つめるムギ。

「それでは、最後の作戦を実行に移したいと思いますっ」
「もう最後なんかい!」

飛ばしすぎ感も否めないが、とりあえず黙って聞くことにする。
まあ、さっきの作戦とやらを考えると、それなりに可愛げのあるもんだろうし……


「『キスでりっちゃんに私を強制的に意識させてしまいましょう』作戦っ!」

「って、うおおぉぉ――――いッ!?」


な、なんとっ! 軽音部のデンジャラスクイーンは澪ではなく、ムギだったのか!? ……いや、澪はデンジャラスでも何でもないけどさ。
てか、これはヤバイ! ヤバイぞ! このままでは私のファーストキッスが、ムギに奪われてしまうことに……。

「お、おおお落ち着け、ムギ! 気持ちは嬉しいけど、あいにく私にそんな趣味は……」
「大丈夫よ、りっちゃん。ほんの一瞬で終わるから」

いつの間にか席を立ち、じりじりとにじり寄ってくるムギに、私はかなりの恐怖を覚えた。

「は、初めてが同姓なんて、ゴメンだーっ!」

叫びながら椅子を蹴っ飛ばし、そのままドアまで全力疾走――

「うげっ!?」

――しようとして、思い切り手首を掴まれてしまった。捕えられた私の腕が、これ以上ないくらいの力でギリギリと締め上げられる。

「お願い、逃げないでりっちゃん!」
「そ、それより早く離し――痛ててててっ! マジで痛いって、ムギ!」

私の必死の懇願が届いたのか、ムギが「あっ、ご、ごめんなさい」と慌てて手を離した。おそるおそる袖口をめくると、見事に真っ赤な手形が付いていた。

「うーわ、さわちゃんのもみじ並だな、こりゃ……」
「ご、ごめんなさい! そんなつもりじゃなかったの! 本当にごめんなさいっ!」

ぺこぺこと頭を下げるムギを見ていると、何だかこっちが悪いことをしたような気になってしまう。ぽりぽりと頬を掻く。

「あー、その、何だ……。私も悪かったよ。ムギの言い分も聞かずに、逃げようとしちゃってさ」
「……りっちゃん……」

真っ赤な頬と涙目と上目遣いという三連コンボのムギに見つめられ、不覚にもちょっと『可愛い』なんて思ってしまった。
こほん、と咳払いを一つ。

「そりゃ同姓だろうが何だろうが、ムギの気持ちは嬉しいし、ありがたいとは思う」

ムギの顔を真っ直ぐ見つめたまま、正直に自分の気持ちを告げる。ムギははっとしたように目を見開くと、次いで嬉しそうに笑った。

「りっちゃん、私……!」


「しかぁーし! さっきから言ってるように、私には同性愛の気なんて、微塵もないっ!」
「―――」

ムギの嬉しそうな微笑みが、一瞬にして崩れ去った。


「したがってムギの気持ちを受け入れることはできない! 本当にすまん!」

最後に「そういうわけで、キスは勘弁な」と付け加えると、立ち尽くすムギに向かって大きく頭を下げた。

――よ〜し、我ながら完璧なお断りだ。これでムギも私のことを諦めてくれるに違いない……!
そう思い、ゆっくりと顔を上げる。

「………」

ムギは俯いていた。したがってその表情は分からない。……もしかして、傷つけてしまったんだろうか。
だんだんと不安になってきて、おそるおそるムギの肩に手をやる。

「お、おい、ムギ――」

と、その手を思いっきり掴まれた。
「んなっ!?」と驚く私を尻目に、ムギは俯いたまま小さく呟く。

「りっちゃん……これから私のことを恋愛対象として好きになる可能性は、ある?」

さっきより強い力で締め上げられる腕に心の中で悲鳴をあげつつも、何とか喉の奥から声を絞り出す。

「なっ……ない、です」
「ないでしょうっ!?」

ぱっと上げられたムギの顔は、何というか、こう――色々な意味でイッてしまっていた。
赤く上気した頬、潤んだ瞳、八の字になった太い眉、そしてやけに荒い息。
……どうやら興奮してらっしゃるみたいですよ、この人。

「うおっ、な、何すんだ、このっ!」

さすが力持ちというか何というか、そのまま無理やり後ろに押しやられ、たまらずソファーに倒れこんでしまう。暴れる私の上に馬乗りになるムギ。
いわゆる『押し倒されちゃった状態』になってしまった。

「ノンケなりっちゃんを落とすには、これしかないのっ」
「そんなの知るかーっ! いいから、どけっ!」

ムギの下でじたばたと手足を動かす私。
つーか、マジでヤバイ! このままじゃファーストキスどころか、貞操まで奪われかねん!

「お、おおお前、これ犯罪だぞ!? ごーかんだ、ごーかん! 分かってるのか!?」
「そ、そんな、大げさな。ちょっとキスするだけよ? それに、あまり気は乗らないけど、いざとなればお父様に頼んで揉み消せるから……!」
「さりげに危ないこと言うなぁっ!」

二人してギャーギャーと喚き散らしていると、


「すみません、遅くなりま――」

ガチャリと開いたドアから顔を覗かせた梓が、ソファーで揉み合う私たちの姿を見つけた瞬間、その場で石のように固まってしまった。


「………」
「………」
「………」

そのまま約数秒、気まずい沈黙が流れる。


やがて梓が「はっ!」と我に返ったように目を見開くと、

「す、すみません、お邪魔して! どうぞ、ごゆっくり!」
「ちょっ、待て待て待てぇーいっ!」

慌ててドアを閉めようとする梓を何とか引き止める。私の上のムギも「え、ええっと……」と気まずそうに笑っていた。

「……先輩たちの趣味にとやかく言うつもりはありませんが、今度からは場所を選んでいただけるとありがたいです」
「そっ、そんなんじゃねー! 誤解だ、誤解!」

恐ろしいことを言われている気がして、ムギに組み敷かれたまま必死に弁解する。
開け放したドアの側に立ちながら、半信半疑といった風に私を見ていた梓が、ちらりとムギの方に視線をやる。

「そうなんですか、ムギ先輩?」
「えっ? そ、それは、その……」

ムギがほんのりと顔を赤くしながら、ぼそりと呟く。

「え、ええ。りっちゃんにキスしようとしたのは事実だけど、そんな、梓ちゃんが思っているようなことは何も……」
「………」

冷めた目をした梓が一歩、また一歩と後ろに下がっていく。そしてドアノブに手をかけると、

「唯先輩たちには私から説明しておきますので、どうぞ続きを」

そう言い残し、バタンッ、と思い切りドアを閉めてしまった。


「………」
「………」

残された私とムギは、お互いに顔を見合わせる。


「……あのー、ムギさん? もうちょい違う言い方があったんじゃないでしょうか?」
「でも、事実は事実ですし……」
「あぁ〜もうっ! どうやってあいつらの誤解を解きゃいいんだよー!」

ぐしゃぐしゃと髪を掻き毟っていた私に、相変わらず馬乗りになったままのムギが呼びかける。

「あの、りっちゃん?」
「なんだよっ」

ムギは少しだけ恥ずかしそうに微笑むと、


「梓ちゃんもああ言ってたことだし、私たちは続きを……」

「絶対しねええぇぇ――――ッ!」











一方、部室の外では――

「あれ? あずにゃん、何やってるの?」
「中に入らないのか?」

「はっ、先輩……! い、いえ、これはその」

遅れてやって来た唯と澪が、部室の前で聞き耳を立てている梓を訝しげに見つめていた。












(あとがき)
2〜3時間で仕上げました。
雑な上にアホな話ですいません……。でも書いてる間は無茶苦茶楽しかったです。

前の作品(「片恋」「バカップル」)でコメントをくださった皆さん、ありがとうございます!
嬉しすぎて目からギー太が溢れてくるかと思いました。本当にありがたいです!

このページへのコメント

作者のせいで今まで一切興味を持たなかった紬律に不覚にも萌えてしまった…GJ

0
Posted by 名無し 2009年08月29日(土) 00:15:50 返信

ノンケ律萌え。

0
Posted by キャベツ農夫 2009年08月28日(金) 12:03:20 返信

よいSSでした!
入ってきたのが澪じゃなくてよかった・・・!

0
Posted by らみーん 2009年08月28日(金) 09:29:40 返信

笑わせてもらいましたw

こういうコメディタッチなSSもいいですな

このあと室内に乱入した澪との間でどんなやりとりが交わされたかを想像するとニヤニヤが止まりません

0
Posted by 名無し 2009年08月26日(水) 10:20:19 返信

紬律最高だー!
ありがとう。2828ものですた。

0
Posted by りっちゃん隊員! 2009年08月19日(水) 08:17:33 返信

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