最終更新:ID:NiKIgUTmhw 2009年07月25日(土) 20:23:14履歴
「ったく、あの担任……。たまたま宿題忘れただけなのに、説教しだすんだもんなー。おかげで長引いちまったぜ」
ブツブツと呟きながら部室へ続く階段を上る律の耳に、ふと言い争うような声が聞こえてきた。
「――――、――――だろ!?」
「だから、――――! ――――ってば〜!」
とぎれとぎれに聞こえる声の発生源は、どう考えても目の前の部室だった。まさか誰かが喧嘩をしているのかと、慌ててドアを開ける。
「お、おい、お前らどうし――」
「私の方が唯のこと好きだって、何回言わせれば気が済むんだよっ!」
「違うよっ! ぜーったい私の方が澪ちゃんのこと好きだもん!」
(……うーわ、バカップル……)
思わず鞄が手からずり落ちそうになっていた律の側に、部室の奥から梓が走り寄ってくる。
「律先輩、ちょうどよかった! 早く止めてください! 二人ともさっきからずーっとこんな調子で……」
「いや、これは別に止めなくてもいいんじゃないか……?」
どう見てもただの痴話喧嘩である。内心呆れ返りながら、ソファーに鞄を放り投げる。
「あれ? そういやムギは?」
「ムギ先輩なら、あそこで何か録画してるみたいですけど……」
梓の視線の先には、息も絶え絶えに唯と澪の様子を最新型のビデオカメラで撮影している紬の姿があった。無視してテーブルに腰掛ける。
「梓、ムギの代わりに紅茶ついでくれ」
「って、無視していいんですか!? ムギ先輩はともかく、唯先輩たちの会話は聞くに堪えかねます!」
それは律も同感だった。確かに、あのままあんな口論をされ続けていると、こっちまで変な病に侵されてしまいかねない。
仕方なく席を立つと、中央で睨み合うバカップルの間に割り込む。
「あー、お二人さん? あほな口論はそこまでにして、みんなでお茶でもしないか?」
「な、何だよ、律。いきなり割り込んでくるなよ」
「そうだよ、りっちゃん! 私たちは今、とうとう決着の時を迎えてるんだよ……!」
ゴゴゴゴゴという効果音が聞こえてきそうな気迫で澪と対峙する唯。
「決着ぅ? なんだよそれ」
ちらりと横を見ると、梓が慌てたように「は、話によると、普段からどっちの方が相手を好きかで揉めてたみたいで」と律儀に説明してくれた。ぶっちゃけどうでもいい情報だったが。
「なぁ、二人とも同じくらい好きじゃだめなのかよ?」
律がため息混じりにそう聞くと、唯は「うっ」と小さく声を上げ俯いた。
「そうなんだけど〜……澪ちゃんがいきなり、『絶対私の方が唯のこと好きだ』なんて言うから」
「ゆ、唯だって『私なんて好きじゃなくて大好きだもん』とかって言い返してきたじゃないか」
「だって本当だもん!」
「私だって本当だ!」
「………」
ほんの数週間前に「付き合うことになった」と報告された時からずっと、そのあまりのバカップル加減に、思いきり張り倒したくなる衝動に駆られていたが、今日は一段とその衝動が強いようだった。
「なあ、こいつら張り倒していい?」
「何で私に聞くんですか……」
律同様、梓も呆れ顔である。その間も二人の口論は続き、紬は飽きずにその様子を録画し続けていた。
結局その日バンドの練習がまったくできなかったのは言うまでもない。
○
その夜。
自室のベッドに寝転がって漫画を読んでいた律の携帯電話に、一通のメールが届いた。ディスプレイを確認する。
「澪……? なんだよ、こんな時間に」
携帯を開くと、『さっき唯と電話してて、ようやく結論が出たよ。』という文面のメールが表示された。結論というのはきっと今日の放課後のあれのことだろう。
『どんな結論?』と返信し、しばらく待つ。
それから一分と経たずに、また携帯が震えだした。文面を確認すると、
『結局お互いが相手のこと同じくらい大好きだってこと(*^-^*)』
「………」
律は無言のまま立ち上がると、持っている携帯を思い切りベッドに叩き付けた。
「バカップルも大概にしろおおぉぉ――――――ッ!!」
別室の弟が注意しに来るまで、律はしばらく自室で暴れ続けていた。
このページへのコメント
私は律×澪派だが、これはこれで…てかホントにこんなバカップルいたら速攻張り倒す…(^^;
同じようなことを友達にされたが…
これはキレるwww