2chエロパロ板のけいおん! 作品のまとめサイトです。

 重く軋む首を無理矢理仰ぐと、古扉の蝶番のような音がきりきり鳴って、鈍い痛みが私の身体を閃光のように貫く。窓枠の中を覗き込むように見上げた冬の狭い夜空は、どんよりと暗い。目覚めたばかりの頭では、何もかも理解が遅い。もう、時間はどれくらい経ったのだろうか。夜はすっかり更けて、それでも、朝焼けはまだ少し遠い。
 柔らかなベッドと布団の間に挟まっている自分の裸体を、起き抜けの呆けた頭で眺める。するとなんだか、先程までの彼女との情事が生々しい記憶となって思い出されてくる。甘たるい嬌声を上げて絶頂を迎える彼女や、私。
 頬が熱くなる。冷たい夜気にそれが触れて、心地よい。
 隣で寝息を立てている彼女もまた、私と同じように裸だ。
 彼女の無防備になっている白い首に、ゆっくりと手を伸ばし、触れる。まるで華を愛でるよう。
 それから指が下りて、彼女の鎖骨に触れる。鉄のように、堅くゴリゴリとしている。その異様な存在感を感じて、何故だか私の身体は痺れてくる。
 彼女の柔らかそうな、女性的な身体の中にも、隠れずしてこんな部分が浮き出ているのだと思うと、何だか不思議な気持ちだった。
「へんたい」
 瞼を固く閉ざしている、目の前のシンデレラが、不意に口を開いたのだった。
 驚いた演技でもしてあげようかと思ったが、少し悩んで止めた。なんとなく起きてるんじゃないかって、予測はついてた。彼女ってばこういう、悪戯っぽいところがあるから。私がのそっと起き上がったときには、もう彼女は既に起きていて、さて私がどんなアクションを取るのだろうかと、薄目を開けて観察していたに違いない。
「鎖骨、フェチ?」
「……別に、違うけど」
 私はすぐに否定する。
 疑いを捨てない彼女の視線が、うざったく纏わり付く。
「憂が隣で寝てるんだから、あんまり夜中に一人で、発情しないでね」
 憎たらしい皮肉を吐きだす彼女のその唇は、言葉の醜さと相反して、可愛らしく潤っていて、それが余計に苛立たしい。思いっきりその唇にキスして、有無も言わせぬようにしてやりたいけれど、また、『発情するな』と皮肉を言われそうだから、考えた末やめた。
「二人で発情するのは、どう?」
 ふざけた口調を装って、彼女に言い寄る。
 だが、彼女の細い腰に抱きつくと、あながち冗談とも言い切れぬくらいに欲情してきてしまうから、不思議だ。
「いいから早く寝なよ」
「唯ちゃん、可愛い」
 無視して、耳元に、キスを落とす。わざと大きな音を立てながら。
 彼女の弱いところは、全て知ってるつもり。
「うるさい、ってば……!」
 反抗的な態度とは裏腹に、私の唇の下にある彼女の耳は、段々と赤く熱を持っていく。
 背中を撫でると、彼女の身体は正直に反応する。もう堕ちるのは、時間の問題。
 私が彼女の身体の何処かに触れる度、私の身体の下で、彼女の身体は飛び跳ねるように何度も痙攣する。耳に、息を吹きかける。背中を、指でなぞる。胸を揉みながら、お尻を撫で回す。すると彼女は、もう、泣き出しそうな表情で――馬鹿みたいに、感じていた。
 私も彼女ももう既に臨戦態勢で、第二ラウンドを始めようと思っていた、のだけれど、その時不意に、隣の部屋から、憂ちゃんの寝言のようなものが聞こえてきて、私と彼女は二人して顔を見合わせて、それから、部屋の白い壁の向こう側にいる憂ちゃんを、呆然と見つめていた。起こしてしまったかもしれない。
「ムギちゃんの、バカ」
 そう言って彼女は軽く私の頭を小突く。私は舌を出して、それから、素直に謝る。
 私と彼女が恋人という関係にあることを知らない憂ちゃんは、とにかく気の毒だった。少なくとも、私から見れば、かなり不憫に見えてならなかった。憂ちゃんの愛して止まない姉が、こんな、私のような醜い女に強奪されて、こうして関係を持っているんだもの。憂ちゃんの真っ直ぐな瞳を見つめる度に、すぐにでも土下座したい衝動で胸がいっぱいになる。
 週末にもなると、毎回のように、この家に泊まりに来る私のことを、憂ちゃんはどう思っているのだろう。きっと、怪しんでいるに違いない。バレてしまうのも、時間の問題だ。
「今度ね……」
 私の胸に鼻をくっ付けながら、彼女は言った。
「憂にはもう、話しちゃおうと思うんだ」
 張り詰めたような声で話す彼女の、伏し目がちの瞳は弱く光っている。
 ぬるい空気が一変して、冷たい緊張だけが、この部屋全体を覆っていた。
「それも、いいかもね……」
 私は静かに同意して、彼女の背中に手を回す。それから思い切り抱きしめると、彼女の細く柔らかい身体は折れてしまいそうだった。
「生憎、ムギちゃんが変態女なことなんて、憂は知らないし」
「……」
「認めてくれると、思うんだよね」
 妹の強い愛を感じているからこそ、私とこうして関係を持っていることに対して、妹を裏切っているような罪悪感を彼女は感じてしまうのかもしれない。
 ベッドサイドに置いてある目覚まし時計は午前四時くらいを指している。今日の午後はきっと、一日中彼女と昼寝しているに違いないと思った。
「……私って、そんなに変態?」
「自覚、ないの?」
 すぐさま返答されて、言葉に詰まる。
 無い、と素直に言い切れない悲しさ。
 週末の夜になると、部屋を閉め切って彼女とは一晩中体を重ね合わせている。そしてその行為を求めるのは、常に私からだ。さっきだって、寝ている彼女の鎖骨なんか触ったりして、一人で身体を昂らせたり。
「体中、痛くなるまで求めてくるんだもん」
「……唯ちゃんだって、応えてくれるじゃない」
「いちお、恋人だし」
 冷めた顔して呟く彼女の態度に、少しムッとしながら。それでも私の隣を離れずピタリとくっ付いて安らいでいる彼女を見ていると、愛しさが胸奥から溢れ出して、零れそうになる。
 お互い、いまひとつ素直になれなくなってしまったのは、本当に好きだから。
 本当に好きだから、もう十分に、お互いの本音は理解出来ている。だから、わざわざ口に出して言う必要も無い。
 本当に愛し合っているから、今度は、彼女の欠点を見つけたくなる。
 そうして少しでも、馬鹿みたいに燃え上がっていく愛情を、落ち着かせたくなる。
 けれどやがて、その欠点ですら、愛してしまうのだから、仕方がない。
「誕生日おめでとう。唯ちゃん」
 彼女の冷たい視線が、私の双眸に真っ直ぐ突き刺さる。
「どこの女と間違えてるの」
 窓の外から漏れてくる信号機の赤色のせいで、この部屋はまるでストリップみたいに赤味を帯びている。彼女の生まれた日は、もうとっくに過ぎている。ほんの少し、軽い冗談のようなものだったのだ。
 けれど、彼女には通じなかった。しばしの沈黙の後に、振り上げられた手で、頬を思い切り平手打ちされ、膨大な質量の闇の真ん中で、私の頬だけは赤信号みたいに赤く染まっていた。
 それから彼女は布団を頭まで被り、擦れた声ですすり泣き始めた。私は、軽い冗談も通じない女は、嫌だなと強く思ったものだ。けれどこれも、彼女の欠点だった。私は、悩ましい頭を抱えた。
 彼女の欠点ならば、愛す他ないではないか。





おしまい。

このページへのコメント

文才が素晴らしいせいか、こういう唯もありだと思いました。

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Posted by なつ。 2010年08月24日(火) 06:41:02 返信

あれ?唯ちょっと反抗期?

0
Posted by 空我 2010年08月19日(木) 00:15:54 返信

ナチュラルウーマンみたいだな
紬唯最高!

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Posted by ななし 2010年05月23日(日) 18:46:26 返信

な、なんだこの大人な二人は!唯がツンツンしてる・・・だと!?
めちゃくちゃよかったです(^p^) この作者のssもっと読んでみたいな。

0
Posted by ななっし 2010年05月22日(土) 23:26:54 返信

唯とムギなのに…なんかアダルティw

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Posted by ナナシ 2010年04月08日(木) 16:01:07 返信

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