2chエロパロ板のけいおん! 作品のまとめサイトです。

著者:◆C/oSFSeeC2氏


「・・・ねぇ、律。今度の土曜日、予定ある?」

部活が終わった帰り道。私は他の軽音部のみんなと別れてから律に声をかけた。
「澪・・・!なに?デートのお誘いっ?」
「う、うん。まぁ、そんなとこ。」
律はがばっ!と私に抱きついてきた。
「予定、ないない!あったとしても澪とのデートより優先する用事なんてないよ!」
「で?どこ行くの?何か計画あるの?」
「う、うん。あのね、サッカー見に行かない?」
「サッカー・・・?」
律は微妙な顔をした。
「わ、私の好きなサッカーチームの今シーズン最終戦なんだよ。」
「たまたま知り合いの人が行けなくなって2枚チケットがあるんだけど・・・」
「もし、嫌じゃなかったら・・・」
最後は消え入りそうな声になってしまった。
だめかな。
私は目をぎゅっとつぶって律の反応を待った。
くしゃっと髪を撫でられた。
「こーら。そんな顔すんなよ。」
私がそっと目を開けると。律がにっこり笑ってた。
「澪とデートだったらどこでもいいんだよ。チケット余ったってことはおごり?」
「あ、う、うん。そう。」
「ひゃっほう!ラッキー!お小遣い苦しいとこだったんだ!」
律は踊り出さんばかりに喜んでくれた。

きっと私に気を使ってくれてるんだろうな。

そう思ったけど、せっかくの律の気遣いをムダにしないように気付かないふりをした。
「感謝しろよ!本当なら絶対手に入らないプラチナチケットなんだぞ!」
「へぇ。澪の好きなチームって人気あるの?強いの?」
「まぁ、そこそこだよ。でも人気があるから、強いから応援するんじゃないんだ。」
「ふーん?じゃあなんで?」
「敢えて言えば好きだから。理屈じゃないんだよ。」
「・・・うん。分かる気がするよ。」
律はいたずらっぽく笑いながら抱きついてきた。

「だって、それって正に私が澪に感じてるのと同じだからな!」

律の顔がすっと近づいてきて。
すばやく私の唇を奪うと律はぱっと離れた。
いつの間にか、私の家と律の家との分かれ道。
「楽しみだな、土曜日!またな!澪!」
私は唇を押さえて、律の柔らかい唇の感触を反芻した。
「ああ!また明日!」

えへへ。優しいな、律。
色々サッカー観戦のこと、教えてあげて楽しんでもらおう。
そんで、一緒に応援したりできたらいいな。

土曜日の朝。近くの駅で待ち合わせ。
ちょっと早めに着いて律を待つ。
軽音部に入ってからはなかなか見に行く機会がなかったから、久しぶりのサポータールック。
チームのロングコートの下にレプリカユニホーム。
スリムのジーンズにチームカラーのスニーカー。
うん。タオルマフラーも律の分と合わせて2本持ってきたし、完璧だな!

しばらくして、律がやってくる。
「やー、ごめんごめん!待った?」
「いや、そんなに待ってないよ。・・・それより律。」
私は律の服を摘み上げて言った。
「昨日、あれほど青い服着て来いって言っただろ!なのになんで黄色なんだよ!」
「やー・・・だって私、あんまり青いので可愛い服持ってなくって・・・」
「だけど、サッカー観戦にはサポーターカラーってのがあって、重要なの!」
律はちょっとしゅん、として。

「ごめんよぅ・・・だけど、せっかくの澪とのデートだからおめかししたかったんだよ。」

な、なんだ?今日の律のこのしおらしさは?
「しょ、しょうがない奴だな!私の着替え用のサポーターTシャツ貸してやるから、スタジアム近くで着替えろよ。」
私が渡したサポーターTシャツを広げて一言。
「・・・あんまり可愛くない。」
「いいの!チームへの愛だから着るの!・・・まだ可愛い方なんだぞ、これ。」
確かにサポーターTシャツはなかなか街中で着るのは勇気がいるデザインの物が多い。
律はふんふん・・・とTシャツの匂いを嗅いで。
「わぁ・・・これ、澪しゃんのいい匂いがする。」
ぎゅっと胸に掻き抱く。
「わぁ!匂いなんか嗅ぐな!鼻つまんどけ!」
「まぁまぁ、いいじゃん!さ、行こう行こう!」
律は手早くTシャツを自分のバッグに押し込むと私の腕に抱きついてきた。
ふわり、と律のいい匂い。
・・・お前のほうがうんといい匂いするよ。

「へへっ。久しぶりの澪からのお誘い。うれしーな。」
「そうだっけ?そんなに久しぶりかな?」
「そうだよ。私、ずっと待ってたもん。」

な、なんか律、今日、やけに可愛いな。気のせいかな。

電車に揺られることしばし。
スタジアムに早めに着いたにも関わらず、既にかなりの観客でスタンドは埋まっていた。
なんとかメインスタンドに二人分の席を確保して、スタジアムグルメを楽しんだり、サポーターグッズを漁ったり、嫌がる律にサポーターTシャツを着せたり。
あっという間に時間が過ぎて、さらに人があふれて、メインスタンドはほぼ満員状態。
「うわ、すごい人だなぁ。」
「ま、今日は最終節だからな。試合後に退団選手のお別れの挨拶もあるし。」
「ああ。だから『ありがとう、片山 祐二』とかいう横断幕が出てるのか。」
律はひょい、と私の背中を覗いて。
 「・・・あれ?片山って・・・澪の背中に書いてあるヤツ?」
そう。私のレプリカユニホームの背中にも「KATAYAMA」の文字。
「うん。私、片山さんのファンだったんだけど。今日で引退しちゃうんだ・・・」
「ふーん・・・」
私がさみしそうにいうと律がふかっと肩を抱いてくれた。
・・・ありがと。言葉には出さずにそっと律に体を預けた。

その時。試合前の練習で選手が入場してきて。
どん。どん。どどどん。
おなかに響く太鼓の音。
「うわぁ・・・」
律も私も思わず立ち上がる。
私は律にタオルマフラーを渡して。
「ほら。こうやって掲げるんだよ。」
両手で広げて掲げる。
律もマネをしながら大きな声で。
「すごいね、澪!何、あれ!すごい迫力!」
「あそこがね、ゴール裏って言って、一番応援が熱いトコだよ。」
応援がはじまったので、大きな声を出さないと聞こえない。
「私もあそこに行ったことあるんだけど、すごいよ!」
応援の合間に私が教えてやると律はわくわくした顔。
「なんだ。じゃあ、あそこに行こうよ。」
「ダメだよ。あそこに行ったら試合の間中ずぅっと大きな声出して応援しないといけないんだ。」
「そんなことしたら声嗄れちゃう。私、サッカーの応援も好きだけど、今は軽音部も大事だからな!」
「・・・そっか。」

サポーターの応援がひとしきりあってから、ゴール裏のスタンドから「・・・片山!片山!」と退団する片山選手へのコール。
私も声を出そうとしたけど、メインスタンドではそんなに声を出してる人は多くなくて・・・
「か、かたやまー。」
恥ずかしくて小さな声でコールに合わせた。
律が複雑そうな顔をしてるから、えへへ、と照れ笑い。
そしたら。
「かたやまー!がんばれよー!」
律が私の代わりに大声を出してくれる。
「お、大声出すのって意外に気持ちいいな。」
律・・・顔、真っ赤だよ?
「・・・ありがと。」
ほんとは嬉しくてキスしたかったけど、その後もっと恥ずかしいだろうから、小さい声でお礼するだけにしておいた。
やっぱり律と一緒に来て、良かった。

試合が始まった。
片山選手はベンチスタート。
私の好きな青のチームも相手の赤いチームもゴール裏から熱い応援。
「すごいな、応援!」
「だろ?ゴール裏にいるともっとすごいよ。なんていうか・・・みんなと仲間だなってすごく感じるんだ。」
「えー?じゃやっぱり行ってみようよ。」
「ダメだって。声嗄れちゃうよ。」
「ちょっと応援して、休憩しながらやればいいんじゃないの?」
私は両手を広げて、かぶりを振る。
「あそこはそんなとこじゃないんだ。みんなが自分の全力を尽くして応援するところなんだよ。ちょっとやってちょっと休む人が行ったら迷惑だよ。」
「ふーん。澪、相変わらず物知りだなぁ。」
「なんて、全部受け売りなんだけどな。ほら、あそこ、一番前に立ってる人がいるだろう?」
「・・・あのメガホンみたいなの持ってる人?」
「あの人のことをコールリーダーっていうんだけど、あの人が前に言ってたんだ。確か2−0で負けてた。」
「『ここは全力でチームをサポートする場所だろ!俺達が信じなくて誰が信じるんだよ!』って。」
「そしたらみんな本当に一生懸命応援した。そしたら後半だけで3点取って勝ったんだ。」
私は律の胸元を捕まえてがくんがくん。
「なっ!すごいだろ!すごい話だよな!」
なのに律は冷めた表情。
「えー・・・でもそれは選手ががんばったからだろ?」
私はんぐっ・・・と言葉に詰まって。
「で、でも選手はみんな『応援が聞こえたからがんばれた』って言ってくれるんだぞ。」
「そりゃ選手はサポーターにいい気持ちになってまた来てほしいからそういうだろうな。」
「そんなことない!ホームアドバンテージって言って、サッカーではホームでの勝率がすごく高いんだぞ!ウチだって・・・」
律はしまった、という顔をして。
「ごめんごめん、澪。澪達の応援が効果ないっていうつもりはなかったんだよ。ほら、私、よく知らないからさ。」
私がうー・・・とうなりながらまだ噛み付きそうな顔をしていると。
「澪、そんなんだったら余計にゴール裏行かないといけないんじゃないの?」
「行きたいけど・・・声も大切だからな。ハスキーボイスになっちゃったら今の曲調と合わないぞ?」
「まぁ、それもそうか、な。」
「それに応援する気持ちはゴール裏にいてもメインスタンドにいても同じだからいいと思うんだ。」
私は軽く舌を出した。
「・・・ま、軽音部がなかったらきっとゴール裏で声を嗄らして応援してるだろうけどな。」

試合は前半、一進一退。
どちらのチームもお互いにピンチとチャンスの繰り返し。
ゴール裏の応援の太鼓が一層大きく聞こえてくる。
律はその太鼓のリズムを膝で取りながら楽しそうに応援を聞いている。
「ねぇ、澪、澪!私、あの太鼓やってみたい!」
私は残念そうに言う。
「あの太鼓はそんな簡単にやれないよ。まず応援をしっかりやって、応援団に入ってから『こいつなら叩かせてもいいな』って、あそこにいる人達に信用されないといけないんだ。」
「え、そうなの?リズム感ならあると思うんだけどなー。」
「それぐらい、スタジアム全体の応援に影響するからな。律みたいに走りがちの太鼓だと速過ぎてみんな声が出ないんじゃないか?」
律の顔がみるみるぷぅ、とふくれっつらになる。
「じゃあ、澪も一緒にベースで参加してよ!私、澪のベースがあったら大丈夫だから、さ!」
「え・・・ば、ばか!つい想像しちゃったじゃないか!」
「いいアイデアだと思うんだけどなー。私と澪のリズム隊は最強だろ?」
「で、でも・・・あんなにみんなの前で注目されるの恥ずかしい・・・」
私がしゅうう・・・と頭から湯気を出していると。
「・・・あっ!やばっ!」
相手の赤いユニホームの選手が飛び出して。ゴールキーパーと一対一。
私の祈りも虚しく、ゴールキーパーもかわされて、ボールは無人のゴールへ。
相手のゴール裏で大きな赤い旗が舞い、大歓声が沸き起こる。
逆に私達の周りはあー・・・という失望の声。
「あちゃー。やられちゃったな。」
律もがっかりしてる。
すぐに私達のチームのゴール裏から一際大きな応援の声が聞こえる。
「うわ。点取られちゃったのに元気一杯だな。」
「それがゴール裏なんだよ。選手が落ち込みそうな時こそ力づけるために応援するんだ。」
「でもそれでこそサポーターだよな。私なんてつい一緒に落ち込んじゃうけど。」
「・・・ふーん。」

「じゃ、私、澪のゴール裏になりたいな。」

え?・・・律のニヤニヤした顔に反して、私は顔が熱くなる。
「ばっばか!お前、何言ってるんだ!ど、どういう意味だよ。」
「言葉通りの意味だけど?・・・あ、前半終わったみたいだよ。」
・・・ばか。結局試合の半分くらいはお前を見ちゃってたじゃないか。

ハーフタイム中にトイレに行っておく。
「うわー。すごい混んでるなぁ。」
「どうしてもみんな試合中は試合見たいからなぁ。行きたくなくてもとりあえず行っておく人も多いし。」
「もっとトイレ増やせ!ってみんなで苦情を出せば?」
「逆に試合中とか試合後とかはガラガラだからな。難しいとこなんじゃない?」
トイレから戻ると、もうすぐに後半が始まりそうな時間。
ゴール裏からは大きな声援が聞こえてくる。
「うわ。一層すごいな。」
「うん。ホームの最終戦だから。みんな、どうしても勝たせたいんだよ。」
私もどうしても勝たせたい。
律と初めての観戦デートなんだからいい思い出にしたいじゃないか。

でも試合はそこから膠着状態になった。
なんとかホーム最終戦を飾りたいウチのチームは後半開始から2人、交代で攻撃的な選手を入れたけど、それが災いして、逆に攻め込まれてしまっていた。
「あ、あ、あぶないー!」
それでもウチのチームのゴールキーパーの奮闘でなんとか持ちこたえていた。
ドオオオオオオ・・・
地響きにも似たため息がスタジアムを包む。
「す、すごいな、この雰囲気。」
律もさっきから悲鳴を上げたり、頭を抱えたりしている。
「うん。でも、この流れはまずいと思うよ。守備の人数が足りなくなっちゃってるんだ。」
「・・・1点取りたいから仕方ないけど、このままじゃ・・・」
私が言いかけた時、審判の笛が鳴る。
ピー!
赤いチームの選手が倒れて、審判が駆け寄る。
ウチのチームのディフェンダーが両手を挙げて何もしてないよ!みたいなアピールをするけど、審判は無情にもイエローカードを掲げる。
「あ!しまった!今日2枚目じゃないか!」
イエローカードを受けた選手が頭を抱える。
審判はさらにレッドカードを取り出して、その選手を指し示す。

「なになに?何が起こったの?」
「イエローカード・・・乱暴なプレーとか審判を欺くプレーとかスポーツマンらしくないプレーとかをやったら警告を受けるんだ。」
「それが1試合で2枚目だと、レッドカードで退場・・・1人少ない状況で戦わなければいけなくなる。」
「ええっ!それでなくても1点負けてるのに?ひどいじゃないか!」
「しょうがないよ。今のは故意じゃないと思うけど、相手の選手の足に入っちゃったから。」
退場になった選手がコーチに肩を抱かれて戻ってくる。
それを目で追いかけると急ピッチでウォームアップする選手の姿が目に入った。

「・・・片山さん、だ。」
「へっ?片山って澪が好きな?今日引退するっていう選手?」
「ウォームアップしてる。交代で入るみたい。」
「片山選手ってディフェンスなの?」
「ううん。ミッドフィールダーって言って中盤の選手。」
「どちらかといえば攻撃的な選手だけど、ベテランだから、守備と攻撃のバランスをとりながらやれると思う。」
「1点・・・どうしても欲しいからね。守備だけってわけにもいかないんだ。」
周りも片山選手の姿に気付いたらしく、頼むぞ、片山ー!なんて声が飛び交う。
「・・・お願い。がんばって、片山さん。」
私は祈るようにつぶやく。
場内に片山選手が交代で入るアナウンスがコールされるとスタジアム全体が異様な雰囲気になる。
ゴール裏からも大きな太鼓の音とともに「片山!片山!片山!」の大コールが入る。

「・・・ねぇ、澪?」
「うん?何?」
「私さ、よく分からないんだけど。」
律はなんだかすごく優しい微笑みを浮かべていて。
「ゴール裏に行こうよ、澪。」
私は律の雰囲気が違うのに戸惑ったまま、応える。
「だめだよ。声が・・・」
「そんなのいいよ、澪。私が許す!2,3日部活休んだっていいから。」
「片山選手ってこれで最後なんだろ?一生懸命応援したいんだろ?声が嗄れたっていいから、ゴール裏に行こうよ!」
律は立ち上がると私の手を取って引っ張る。
「ちょ、ちょっと待って、律。荷物っ、荷物っ!」

ゴール裏に行ってみると、そこはもう興奮のるつぼと化していた。
私はスタンド全体を見渡して。
「今からじゃ他の人に悪いから端っこの方に行こう。」
立ち見席なので、端の方なら2人分なんとかスペースを確保できた。
試合後半の残りは15分。
律も分からないながら、とりあえずリズムに併せて跳ねたり、手拍子したりしてる。
応援歌もあらかた覚えちゃったみたいだ。
「すごい!すごいね、澪!」
応援の合間に律が怒鳴るように伝えてくる。
「私、初めてなのに、すごい一体感!」
良かった。律はすごく楽しそうだ。
後はこれで試合に勝てれば、ハッピーエンドなんだけど。

中盤で片山選手がボールを持つ。
ロングパスを警戒したのか、一瞬相手が引き気味になる。
片山選手は意を決してドリブルで一気に相手陣へ。
ゴール裏も彼の意図を察して大騒ぎになる。
「来い、片山!来い!」
「打て、祐二ー!」
私も思わず祈りに近い叫びを上げる。
「か、片山さんっ!がんばって!」

遠い距離から放った彼のシュートは、美しい軌跡を描いて。
私達が陣取る側のゴールネットを揺らした。
ボールがネットに収まる瞬間。まるでテレビのスローモーションを見てるみたいだった。

ぐらん、とゴール裏のスタンドが揺れる。
誰彼かまわず抱きついてハイタッチを交わす。
私も律にとびついて。
「やったーっ!律!片山さん、やったよ!」
「良かったな、澪!すげーっ!すげー興奮する!これ、病み付きになりそうだ!」
「うん。・・・うん。ありがと、律。律が手を引っ張ってくれなかったら、私、メインスタンドで後悔してた。」
「なんだよ、泣くなよ、澪―っ!」
そう言っている律も涙を流している。
ああ、これだからサッカーの応援ってやめられない。
場内は片山!片山!の大コール。

これで完全に流れが変わった。
ウチのチームは1人少ないにも関わらず、完全に相手を押し込んで。
最後のコーナーキックでほぼ全員が相手ゴール前に殺到して、無理矢理ボールをゴールに押し込んだ。
たった一人、反撃に備えてディフェンダーの位置にいた片山選手は。
小さくガッツポーズをして、ゴールキーパーと握手をした。
それが、私が見た片山さんの選手としての最後の姿。
審判の笛が鳴り、試合が終わった。
喜びを爆発させるゴール裏で私は律にすがって泣いているのが精一杯だった。

最終戦の劇的な勝利を祝う大騒ぎが終わった後、今年退団・引退する選手とのお別れセレモニーが始まった。
あの大騒ぎが幻だったかのように。今まで応援してきた選手とのお別れにスタジアムが静まり返る。これが最後とばかりに一人一人の選手に心をこめてコールを贈る。
最後に片山選手の挨拶。
「えー。片山です。どうも。」
「ははっ。片山さんってどんなインタビューでも必ずこの一言から入るんだ。」
律に解説しながら、もう私はぼろぼろと涙を流していた。
律は何も言わないで、ぎゅう、と私の頭を抱く。
「現役最後の試合が、こんな試合だなんて、自分は本当に幸せ者だと思います。」
私は顔を上げられず、律の匂いに包まれて、その胸で泣いていた。
「最後の試合でこんなに活躍できるなら、引退しなきゃよかったなって思います。」
ちょっとスタジアムが笑いに包まれる。
涙声で「片山ー!やめないでくれー!」「祐二ー!だったらまだやろうよ!」という声も。
「ありがとうございます。・・・というのは、冗談で。3年前にやった膝の故障をだましだまし、今までやってきましたが、今年が限界だな、と。」
「また、思ったより若手が育ってきてしまいまして、競争しようという気持ちより、もう安心だなという気持ちが大きくなったのが原因です。」
片山選手は後ろに並ぶ選手の中で自分がスタメンを奪われた若い選手に笑いかけて。
「今後は彼らがウチを支えてくれると思います。ぜひ応援してやって下さい。」
「・・・いい人、なんだな、片山選手。」
律がぼそっとつぶやく。
「うん。うん。・・・だから、大好き、だったんだよ。」
私は律の胸から顔を上げて。片山選手の最後の姿を見ることにした。
「気がつくと16年間も皆さんに支えられてサッカー選手をやってきました。故障をした時、皆さんからいただいた、たくさんの励ましのメッセージ・・・」
片山選手は感極まって泣いていた。場内から拍手。
みんなが彼の名を呼ぶ。
「片山ー!」「祐二ー!」「ありがとう、片山!」
私も拍手しながら「がんばれ!片山ー!」と叫んでいた。
いつのまにか恥ずかしいと思う気持ちはなくなっていた。
「・・・チームの成績が上がらない時も変わらず応援していただいた事、一生忘れません。本当にありがとうございました!」

私はこの時。
片山選手の最後の姿に夢中になっていて。
すぐ横にいる律がどんな顔をしているか、全く注意していなかった。
片山選手を最後に退団・引退する選手が場内を一周してくる。
私達は残り試合時間15分に来たのでかなり後ろの方だったけど。
目の前を片山選手が通る時、私は必死で声をかけた。
「片山さん!今までありがとう!」
涙声だったけど、はっきり言えた。
片山選手はちょっとこっちを見て手を振ってくれた。
それから片山選手は何度も何度も名残惜しそうに頭を下げて。
選手控え室へ続く通路へ消えて行った。
「良かった。最後にお礼言えた。」
私は涙がようやく止まって、ほっとしてつぶやいた。

「・・・やだ。」

律のつぶやきが聞こえて、はっとして律の方を振り返る。
律は私と目が合うと、気まずそうに後ろを向く。
「え?律、どうしたの?」
律は大股で荷物のあるところへ歩いていく。
私はなぜ彼女の機嫌が悪いのか分からないまま、後を追いかける。
「律?・・・何かあった?ごめん、私、セレモニーに夢中になってて・・・」
「なんでもない!」
「なんでもなくないだろ!急にどうしたんだよ!楽しそうだったのに。」
興奮しているせいか、言葉がついきつくなる。
「だからなんでもないってば!」
せっかく全部がうまく行っているみたいだったのに。
私は恋人の突然の変化に戸惑っていた。
「嘘!どうしたんだよ、律。言ってくれなきゃわかんないよ!」
律は急に立ち止まって私の方を振り向いた。
律は大粒の涙を流していた。
「み、みおぅ〜。」
「ほんとに。・・・どうしたんだ?」
「・・・ついてきて!」
律は私の手を取ると、ぐいぐいと引っ張って早足で歩いた。
「うわっ。ちょ、律?・・・どこ行くんだ?」
慌てて荷物を抱えて、律についていく。

律が向かったのはスタジアムの女子トイレ。
試合後で私達の他には誰もいない。
律は個室に私を押し込むと自分も入って鍵をかけた。
「澪ぅ・・・」
鍵をかけるやいなや、律はカラダをすり寄せてくる。
いきなり情熱的なキス。
律の手が私の青いレプリカユニホームをたくし上げて入ってくる。
私は慌てて声を潜める。

「りっ、律。ちょっと待って。ここでするの?」

律は答えずに、私の首筋に舌を這わせ、あわただしくブラの上から私の敏感な所を刺激する。
「はっ、ん、・・・くぅん・・・や、お願い、やめて。声、出ちゃうよぅ。」
そう言っている間にも背中のブラのホックが外され、ジーンズのベルトに手がかかる。
「・・・みお。愛してる。どうしようもないくらい、好きなの。」
律は目に涙を浮かべながら、私を抱きしめる。

「誰にも渡したくないよぅ。」

訳が分からないまま、ショーツの中に手が滑り込んでくる。
私のカラダはすっかり彼女に馴らされていて。
それだけでカラダの奥がじゅんって疼いてしまう。
「く、ひんっ、りつ、だめだよ、こんなとこじゃ・・・私、止められなくなっちゃうよ。」
私の胸をいじめていた律はまだ涙目のまま、私を見上げた。
あ、止めてくれるのかな。
思った瞬間に私の一番いい所に律の指が届いた。
私の中はもうどうしようもなく潤んでいて。
律の指がぬるぬるって蠢くのを私はおなかの中で敏感に感じとっていた。
膝ががくがくってなって立っていられない。律に必死でしがみつく。
「や、ああん、りつ、もうだっ・・・」

その時。
「・・・でさー。やっぱり片山、最後までかっこ良かったよねー。」
「ねー。私すごい泣けたよ。・・・あ、じゃ、外で待ってるね。」
誰かがトイレに入ってきたみたい。
私の意識が外に向かった瞬間。
律の人差し指が私の入り口をくちゃくちゃってして、ぬるり、と中に入ってくる。
さっきからの律の愛撫で私のそこはドロドロにぬかるんでいて。
全く何の抵抗もできずに二本目の指を受け入れる。
「はぁ・・・っ・・・〜〜〜っ!」
私は息を呑む。自分の人差し指の背を噛んで辛うじて嬌声を堪える。
・・・かたん。いくつかあるどこかの個室にその人は入った様子。
声が出せない分、律がくれる快楽の旋律が私の中で反響して・・・暴れてる。
私は涙を浮かべて、もう無理、と律に目で訴える。
律は私の胸から段々と上に舌を這わせてくる。

ま、まさか。そこはダメだよ。そこイジメられたら、ほんとに声出ちゃうよぅ。

律の舌は止まらなかった。
私の鎖骨のところを、律の舌が這う。律の舌のつるりとした感触が私をおかしくさせる。
「か、はぁっ・・・ぁん・・・」
両手で口を抑えて身を固くして。激しすぎる刺激に備えたけど、どうしても声が漏れる。
でも律は許してくれなかった。おなかの中の二本の指が私の中をかき回す。
さらに敏感になった私の弱点の鎖骨を甘噛み。こりこりこりって。

その時、ちょうどさっき入った人の個室で水が流れる音がした。
「んふぅっ!・・・ぅんんんん!」
その音を合図に私は上り詰める。固くつぶった眼の奥で何かがちかちかってなる。
カラダの毛穴が全部開いちゃう感じ。私は激しく身震いをする。
しなだれかかる私を律が抱き止める。
「ふーっ・・・ふ、ふーっ、ふーっ。」
荒い呼吸をできるだけ息を潜めて落ち着ける。
じっとして静かに聞き耳を立てる。
それなのに律が唇を寄せてきて、私の舌を絡め取る。
私は荒い呼吸のまま、律の舌に蹂躙される。
外の人は少しの間立ち止まったようだったが、すぐに外に出て行く足音がした。
ようやく私は解放されて、深呼吸をした。

「・・・ばかぁ、律、なんてことするんだよぅ。」

まだカラダがじんじんしてて、甘えた声で律に囁く。
「・・・ごめん。最低だ、私。」
律はまた大粒の涙を流している。
どうにも今日の律はいつもと違って調子が狂う。
もう一回深呼吸をして、気持ちを落ち着ける。
「・・・どうしたんだよ、ほんとに。」
「だって、澪、可愛かったから。」
「へっ?」
律の意外な回答に私は戸惑った。

「・・・澪が『片山さん!今までありがとう!』って言った時、すごく可愛かったから。」
「・・・そんで片山選手も澪の方を見て、優しく手を振ってたから。」
「・・・で、片山選手がすごくかっこよかったから、その・・・」
律はイジけた表情でそっぽを向く。
「悔しかったんだよ。」
へ?・・・ってことは?
「なんか澪を取られた気がして、悔しかったんだ!だから・・・」
「私の方が澪を愛してるって・・・思いたかったから・・・つい。」
「律・・・もしかして、それ、焼きもち?」
律は真っ赤になって眼を逸らしたまま、頷く。

「・・・お、お前、ほんとにばかだなぁ。」
ニヤニヤしている私を見て、律がかみつく。
「ばかって言うなぁ!笑うなぁ!」
「いつもほんとに不安なんだよ!澪は優しくてすごく可愛くてスタイル抜群で。いいにおいがして美人で頭も良くって。」
「私っ・・・なんかっ・・・釣り合わないんじゃないかって・・・」
律の眼からまた涙がこぼれる。

「だからばかだって言うんだ。」

私はそっとその涙をなめとってやる。
「私が律以外の誰かに気を取られるなんてあるわけないだろ。」
そのまま、ほっぺにキス。
「愛してるなんてお前以外には思ったこともないぞ?」
律の耳たぶを、はむって甘噛みして耳元で囁く。
「片山さんがどんなにかっこよくても律には敵わないよ。」

まだうつむいている律を真正面から見つめて、きっぱりと言う。
「さっき、私のゴール裏になりたいって言ってたけど。小さい頃からずっと。律は私の一番のサポーターだよ。」
「私も律の一番のサポーターになりたい。だから辛い事も嬉しい事も全部共有しようよ。」

うつむいた律がぴくんと反応する。
・・・分かりやすいヤツだな、全く。
「それに私は、律の方が私より優しいし、私より可愛いと思ってるぞ。スタイルは・・・あー、うん、私は好きだぞ、律のカラダ。」
「・・・どうせ貧乳ですわよ。」
イジけた律の声。
「・・・もう。なんて言ったら信じてくれるんだ?私はお前以外目に入らないってのに。」
「じゃあ、考えてくれよ。」
「澪はウチの作詞担当だろ。私が信じられるような言葉を考えて?」
「い、今すぐ?」

いくつか候補が出てきたけど、どれも面と向かって言うには恥ずかしい。
私は真っ赤になって、ぼそぼそとつぶやく。
「えっと・・・『私にはお前しかいない』?」
「?マーク取れよ!で?それから?」
「『ずっと一緒にいよう。』」
「悪くないな。もうちょっと。」
「『お前となら死ねる。』」
「・・・もっとハッピーな方向で。」
「『高い石垣など、恋の軽い翼で飛び越えてみせましょう。』」
「ロミジュリかっ!パクるなっ!」
「『君を見てるといつもハートDoki☆Doki☆』」
「それ、どっかで聞いた!」

もしかして、恥ずかしい台詞をいっぱい言わせて反応を楽しんでるんじゃないだろうな。
でも。私の律へのこの気持ちを一番伝えるにはなんて言うのがいいのかな。

私はじっと律を見つめた。
「りつ・・・」
そしたら想いがあふれてきて。

「お前のこと、世界で一番愛してる。」

律の目が潤んできて。
「うん。・・・やっぱりそれが一番いい!」
律は私の胸の中に飛び込んできた。

「私も!澪のこと、世界で一番愛してる!」

結局、綺麗な言葉なんかじゃないんだ。
こうやって抱き合って、一言「愛してる」って言えば、私達はいつでもここに戻ってこれる。

スタジアムの帰り道、律と手をつないで帰る。恋人つなぎ。
私は立ち止まって、ちょっと律の手を引く。
「・・・ね、ねぇ、律。今日土曜日でしょ、うちに泊まっていかない?」
「今日ね、パパとママいないんだ。だから・・・」

さっきの続きして。

おねだりするの、恥ずかしくて、聞こえないように小さな小さな声で言った。
さっきは声我慢してたから、まだ全然足りてない。
「・・・カラダ中に律の感触が残ってて、このままじゃ今晩、眠れそうにないんだ。」

「せ、せきにんっ、とれよなっ・・・」

ちらり、と律の方を見ると。律はなんてことないって顔をして。
「・・・分かってるよ。もう家には今日澪んち泊まるって言って来てるから。」
「えっ・・・」

全部お見通しだよって言われた気がして。
もしかして今日のこと、みんな律の思惑通りなんじゃないか、なんて思って。
それがすごく気持ちいい自分が悔しくて。
ぎゅう・・・って、つないだ律の手を握った。
そしたら律は、いつものいたずらっ子みたいな笑顔。

「澪・・・でも、あんまりえっちな声出しすぎて、声、嗄れないように注意しろよ!」

・・・当たり前だ、ばかりつ。
ああ、でも二人で過ごす今夜は、結局のところ、眠れそうにない。

このページへのコメント

描写がすごくよかった!律澪可愛すぎる!

サッカーの下りはいつのまにか泣いてたp(;ω;q)

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Posted by テスト期間 2011年02月03日(木) 12:27:58 返信

サイコーに2人がかわいかった!

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Posted by 暇人 2011年01月25日(火) 22:52:54 返信

いい…二人とも可愛すぎて悶えた。(笑)

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Posted by ああもう 2011年01月02日(日) 21:24:13 返信


ふぉおおおおおおおおお-っ
これもいいですね!!
律澪,唯梓,ムギ沢最高です!!!

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Posted by あ 2010年12月30日(木) 12:09:24 返信

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