2chエロパロ板のけいおん! 作品のまとめサイトです。

著者:4-198氏


「何やってんだよ」
ノックもせず扉を開けた澪は、盛大にため息をついた。
思春期の乙女の部屋に挨拶もなしに侵入して、開口一番がそれですか。

「ごろごろしてる」
「見れば分かる」
じゃ聞くなと、ふくれっ面すれば澪は笑みを零した。

「どうしたんだよ、これ」
ベッドに近づいてポンポンと叩いたのは、私が抱きしめているぬいぐるみ。
私の身長より少し小さくて、でも人一人分のスペースをとってしまう白イルカ。
仰向けになりそいつをお腹の上に乗せていると、程よい圧迫感があって。
いいだろ〜、とばかりにギュッと抱きしめ、澪にアピールした。

「お父さんが出張のお土産にくれたんだ。かわいいだろ」
胸びれを持って、ぺちぺちと動かすと「どこが」と即決で返ってきた。ひどい。
眠そうな細い瞳に、間抜けに見える開いた口。そして、大きなたらこ唇。

「お前かわいいのにな〜。ひどいな〜。澪はひどい」
「でかすぎるんだよ。イルカというよりサメじゃないか。喰われるぞ」
ああ、ひどい。でも私はめげない。
昔から澪のセンスはどこかずれているのを知っているから。
大きな白イルカを抱きしめ、私はまたごろごろし始めた。

「律、外に遊びにいかないか?」
そんな様子を呆れたように見ていた澪は、ベッドの端に腰かけた。
ギッと増えた重みにベッドがしなる。
今日初めて見た時計の針は、10時を回っていた。

「あ〜。今日はしーちゃんと遊ぼうかな」
「誰だよ。しーちゃんって」
「ん? この子」
ほいっとイルカの顔を持ち上げ澪と対面させニッと笑ってやれば、何とも言えない顔をして。
いきなり、私の上に乗った白イルカに上半身を預けてきた。圧迫感に空気が漏れる。

「重っ。澪ちゃん太ったんじゃない?」
「バカ」
良い音をたてて、私の額は叩かれた。「バカ律」不機嫌な顔を全面に出して澪がこちらを睨んでいる。
この流れは日常的にありふれていて、私はいつものように笑い返した。

「冗談だよ。天気いいしね。どこ行こうかな〜」
大きな背伸びをひとつして。こちらを細い目で眺めているイルカの顔を両手で包んだ。
せっかく澪が誘ってくれたんだから。お前はお留守番だ。
そうして、私はイルカのたらこ唇にキスをする。ふわっとした毛の感触。味なんてするわけない。



ふと、視線を上げれば漆黒の瞳と目があった。じっ、とまばたきすら忘れた瞳。吸い込まれそう。
言葉を忘れた獣のように何も発さず、有無を言わさない鋭い視線が突き刺さる。
澪の手がこちらに伸びてきた。一直線に。首を、鼻を、額を通り過ぎ、私の髪に触れる。
一瞬の違和感の後、髪が数本宙を舞って。カチューシャを取られたのだと気付いた。

――今から出掛けるんだろう? なにしてんだよ。

そう冗談っぽく笑う雰囲気ではなく、私の言葉は静寂にかき消された。
澪の指が優しく、壊れ物を扱うように頬に触れる。
近づいてくる顔。細い輪郭に、透き通った肌。ツンとつりあがった瞳に、スッと伸びた鼻筋。
何もかも私より遠くて、何もかも私に近い。
窓から降り注ぐ光を澪に遮られ、そこで私はようやく目を閉じた。


『キスしようか』
そう提案したのは果たしてどちらだったのか。覚えてもいないし、別に思いだしたくもない。
逃げ、だったんだと思う。お互いを真正面から受け止められず、かと言って相手に真っ直ぐな性格を持っていない私たちは、
ひねくれた形でしか感情を伝えられなかった。ただそれだけ。
小学校、中学校を経て高校生になっても、私たちはまだ子供だった。


澪の冷たい唇が、ひんやりと熱を溶かしていく。それなのに、心臓は馬鹿みたいに脈打って、身体が発熱してしようがない。
指先から足先までじんじんと疼いて、血管が爆ぜてしまうのではないかと危惧するぐらい、私の耳は自分の鼓動に支配された。
一時の接吻後、最後に澪は名残惜しそうに私の唇を甘く噛んだ。
重なった唇が離れると、この戯れはおしまい。
目を開ければ、相変わらず澪が視界を奪っていて。
いつも涼しげな瞳が熱を持って赤みを帯びていた。
みお〜、とペットでも呼ぶかのように言葉を発しても無反応。

「外、行くんだろ?」
「……」
「それとも、横にくる?」
「……うん」
お嬢様の考えを読み取って提案をしたはいいけれど、
よく考えればイルカが場所を取ってしまって二人と一匹がベッドに潜り込むのはキツい。

「律、その子かして」
イルカを渡せば、澪はそいつを持ってベッドに上がった。私も移動してスペースをあけて、お互い向き合う形になる。
イルカをどうするんだろうと思っていると、私と澪を跨る感じで二人の上に置かれた。
胸びれがそれぞれの肩に乗っかる。

「毛布じゃないんだから」
「仕方ないだろ。他に方法思いつかなかったんだよ!」
自分でも愚かだと思ったのか、頬を赤く染めた澪は早口に唸った。
イルカをベッドから下ろせばいいだけの話なのに。私が手放したくないって思ったのかな?
ほんと、澪は優しい。



「しーちゃん重い」
「そこもかわいいんだぜ」
どちらからともなく、私たちは手を重ね、指を絡めた。
澪の呼吸が聞こえる。指を通して鼓動が伝わってくる。それだけで、波紋ひとつない水面のように私の心は静まった。
あぁ、まるでモルヒネじゃないか。
無意識に顔を近づけて、澪の小さな唇に食いついた。啄ばむように奪って、額にもキスを落として。
澪は目を閉じて、私の行為を受け入れてくれている。

「ねぇ」
唇を離した近距離で、澪は猫のように目を細め、弱弱しく啼いた。
窓から乾いた風が入ってきて、レースカーテンを揺らす。それが澪の黒髪と対比して眩しかった。
世界はこんなにも綺麗なんだと、今更ながら強く思った。

「しーちゃん、ほんとはかわいいよ。間抜けそうな面も、大きな身体も、不釣り合いな小さな尾びれも。
……私と、まったく違うから、惹かれるし……ずっと傍にいたいんだよ……すき、なんだ」
「……うん。私も、すき」

その告白が、私たちの上に乗っている白イルカに対してのものではないって、二人とも知っていた。
知ってて、それでも私たちは決して交わらない平行線上に立って、言葉を発することしかできない。
重ねた手に優しく力を込めれば、澪も同じように返してくれた。
鎮静薬を一瞬で打たれたかのように、全身の力を抜いて私は瞼を閉じる。

この戯れがどんな意味を持つのか、私たちは考えていない。
この恋が世間から外れたものなのだと、自覚しようとはしない。
世間に出れば仕事して? 結婚して? そして子供を育てるのが当たり前?
馬鹿らしい。
そういう流れがあってこそ、社会は発展するのだろうけど。
馬鹿らしい。
そう文句は吐けるけれど、実際社会に直面した時どうなるのだろう。
きっと、想像以上にとてつもない勇気が必要なんだ。
沼地で足元を取られ、沈まないようにするのが精一杯な中で、それでも進まないといけないんだ。

――だから私たちは楽園に閉じこもった。
社会から遮断され、家と学校と、私と澪と仲間だけが存在する世界。子供だから許される世界。


「なぁ澪。お母さんたちいないし、昼はどっか食べにいこうか」
「……ん」
いつかはこの楽園が壊れてしまうことを知っている。


それでも、私たちは楽園にしがみついていた。

このページへのコメント

この作品好きです!
りつ×みおでまた書いてください!!

0
Posted by りん 2009年08月09日(日) 21:36:59 返信

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

Wiki内検索

どなたでも編集できます