2chエロパロ板のけいおん! 作品のまとめサイトです。

2週間ほど前、熱帯夜で寝れなかった夜に思いつき、そのまま1週間ほどかけて書きなぐりました。
そのせいか無駄に字数が多くなってしまい、こっちはその前編です。
カップリング的には強いて言うなら律×澪だと思います、薄いと思いますが。





「軽音部連続殺人事件!?」


<プロローグ>

音楽室に入った瞬間、私は凍りついた。
奥で横になってまま動かない3人、その前に呆然と立ち尽くすのは、ベース担当の私・秋山澪が所属する軽音部の部長にしてドラム担当の田井中律だった。
そしてその手には・・・
「律・・・お前・・・何やってるんだ・・・?」
悪い冗談だと思った。
律の右手に逆手に握られていたのは血だらけのナイフ。
「なんだ澪・・・来るの早かったな」
律はゆっくりと振り返った。
どうせ悪ふざけか何かだ、と思っていたのだが、振り返った律の顔はそんな私の考えを消し去るのには十分だった。
その顔はいつもの律のそれではない、目が死んでいる、という言い方がこれほど合っている律の顔を私はこれまで見たことがなかった。
「それ・・・まさかお前が・・・」
私は寝転んでいるだけのように見える3人をもう1度見た。
が、どう見てもそうではない。
1年生のギター・中野梓はお腹の辺りから血を流しているように見えたし、ムギことキーボードの琴吹紬も頭から血を流しているように見える。
もう1人のギターである平沢唯は血こそ流していないが首にロープのような物が巻かれていた。
ああ、そういえば私って血を見るのとか痛い話とかダメなんだっけ、今の今まで忘れてたな、と思い出した途端に足の力が抜けてその場に崩れそうになる。
「澪には見られたくなかったんだけどな」
淡々と律は言った。
「だって見られたら、お前まで殺すことになっちゃうから」
「な、何言ってるんだよ・・・。冗談だろ・・・?いい加減にやめろって・・・」
「冗談とかじゃないんだよ・・・澪・・・。お前を殺して私も死ぬ・・・1人にはさせないから心配するな・・・」
ゆらり、と律がこちらに近づく。
「や・・・やめろ・・・来るな・・・来るなァーッ!」
脚が動かない。いや、脚だけじゃない。まるで金縛りにあったように体が動かない。
律が目の前に迫る。ナイフを握り締めた右手が振り上げられた。
「キャアアアアアーッ!」


「プ・・・ククク・・・」
ああ、そうか、私死ぬのか。でもまだ死にたくなかったな。
自分の死を覚悟して目を閉じ体を強張らせたが、律の右手が振り下ろされることはなかった。
それどころか、目の前の律はうつむいたまま肩を細かく震わせていた。
そう、まるで笑うように。
「プアーッ!ハッハッハッハ!ダメだ!もうダメだ!我慢できない!」
何が起こっているかわからなかった。
「『キャアアアアアーッ!』だってよ!なあ聞いたか、おい!」
律は後ろを振り向いてそう言った。
何が面白いのか腹を抱えてうずくまりながら床をバンバン叩いている。
その間の私は酷い間抜け面だったに違いない。
「あーおかしい〜。おい、唯、ムギ、梓、もういいぞ〜」
「いやー動かないのって意外と疲れるね〜」
「そうですね、死体役とかやるの初めてだったので難しかったです」
首に絡んでいるロープを解きながら起き上がった唯に続いてムギも起き上がる。
「・・・は?どういうこと・・・?」
「つまり・・・」
ムギが荷物の中に隠してあった物を取り出した。
「こういうことでーす!」
『澪ちゃんドッキリ作戦!大成功!!』と書いてある看板が私の前に掲げられる。
というか、そんなもんまで作ってたのかよ・・・。
ってことは、じゃあ床の血はあれは血のりとかですか、随分と派手にぶちまけたことで・・・。
全部仕組まれたものと知って安心した瞬間、全身の力がフッと抜けて私はその場にへたり込んだ。
「りーつー!こんなくだらないことを考えたのはお前かー!」
「おお!怖ッ!そして予想通りの反応!・・・ってあれ?てっきり殴られるか叩かれるかすると思ったんだけど・・・」
「う、うるさいッ!あ、脚に力が入らなくて立てないんだよ!」
なんとも間抜けな話だ。
ただ睨むことしかできない私を見て律はまた一頻り笑うと
「よーし、お茶にしようぜ、お茶ー。おい澪、とりあえず椅子にぐらいになら座れるんだろ?」
いつもの調子でティータイムに入る提案をした。
よくよく考えたらそうだ。
ここは何も特別なことはない私立高校の普通の軽音部で、殺人事件だの凶悪事件だの、そんなもの起きるはずがない。
これはいつも通りの日常でこれからいつも通りの少し休憩多めの練習が始まる。

少なくとも、このときまでの私はそう信じて疑わなかった。





<第1章>

「おーい梓、もう起きてもいいぞ?死体役気に入ったか?それとも寝ちゃったか?はたまたふてくされか?」
ここまでのやり取りを聞いててもまだ起きてこない梓に律が声をかけた。
そういえばここまで梓が何も言ってこないのも珍しいな、ムギも律側に回った以上唯一反対してくれそうな勢力だったのに・・・。
「おい梓!聞いてるのか?」
自分の声に反応しない梓の元へ律が近づいた。
うつ伏せのまま動かない梓を仰向けにひっくり返す。
「ひっ・・・」
私は思わず声を上げた。
死んだふり、とわかっていても声が出てしまうような見事な迫力だった。
服についた血のりがそれに拍車をかけていたし、本当にまるで死んでるようにぐったりしていたからだ。
「なあ梓、一番反対してたのお前だしふてくされてるのかもしれないけどさ、そろそろ起きてくれないと・・・」
あ、やっぱり梓は私側に回ってくれたのか。
なのに一番リアルな死体役を演じてるんだな・・・。
「おい!聞いて・・・」
両肩を握って揺らそうとした律が何かに気づいたようにそれをやめる。
震える手を肩から離し、右手を梓の首元へ持っていく。
「りっちゃん、どうしたの?」
お茶が待ちきれない様子の唯が尋ねると
「なあ・・・どうしよう・・・」
律は血の気が引いた顔でこっちを振り返った。
「梓が・・・息してないんだ・・・。本当に・・・死んでる・・・」
「律、もうその手には・・・」
「本当なんだよ!嘘だと思うんなら確認しろよ!」
呆れたように言った私に律は血相を変えて叫んだ。
鬼気迫るものがあった。
一見すると演技には全く見えないが、さっきのを考えると律ならこのぐらいの演技はなんてことないような気もするし。
しょうがない、ようやく力の抜けた脚も立てるぐらいになったし最後まで付き合ってやるか、と立ち上がろうとしたそのとき。
「やっほー!」
突然音楽室の扉が開いて入ってきたのは顧問の山中さわ子先生だった。
「お!澪ちゃんのドッキリ成功したの?」
なんだよ、この人も1枚噛んでたのか・・・。
「まあそりゃあれだけ綿密に打ち合わせとかしてれば・・・」
「さわちゃん」
先生の声をさえぎって律が言う。
「梓が・・・本当に・・・」
「なあに、まさか死んでるとか言いたいわけ?」
神妙な面持ちで律はうなずく。
「私もドッキリの対象だったとは意外だったわ、まありっちゃんがそこまで言うのなら乗ってあげてもいいけど・・・」
そう言って梓の首元に指を運んだ先生の顔が一瞬で凍りついた。
さらに紅く染まった制服の部分に振れる。
「あのー・・・さわちゃん先生?」
いつもと明らかに様子の違う先生に唯が声をかける。
そして先生はいつにも増して真面目な声で切り出した。
「首で脈は確認できなかったし、服についてる血も血のりじゃなくて本物だわ」
そう告げ、これまで見たことがないような真面目な顔でこちらを振り返った。
「つまり、梓ちゃんは・・・本当に死んでいるわ」
再び私の足の力が抜け、カクンと崩れ落ちた。





<第2章>

夕日の中を4人が重い足取りで歩いていた。
もうすぐ3月なのだが相変わらず寒さは厳しい。
前を歩くのは私と律、後ろはムギと唯だった。
後ろからは時折「うぅ・・・あずにゃん・・・」といった唯のすすり泣く声が聞こえてきており、ムギがそれを慰めているようだった。
「なんで、こんなことになっちゃったんだろうな・・・」
どこを見ているかわからないような目で律は呟いた。
「ひどいよ・・・なんであずにゃんが・・・一体誰があんなことを・・・」
唯の疑問はもっともだ。
私はもう1度さっきのことを思い出していた。

―――

「りっちゃん、とりあえずどういう状況だったのか説明してもらえる?」
梓が息をしていないことを確認したあと、さわ子先生はそう切り出した。
「わ、私が・・・」
律らしからず、ひどく狼狽していた。
無理もない、かく言う私も立てないでいる。
「私が最初に音楽室にきて・・・誰もいなくて・・・そのあと梓が来て・・・前に決めてた予定通りに梓とムギの位置に血のりをばら撒いて・・・それから・・・」
「それから?」
少しずつ律が紡ぎ出す言葉に相槌を打ち、先生は続きを求めた。
「血のりが乾いてきたから梓にここに横になるように言って・・・私は澪のクラスの様子を見に行くから・・・梓にここで横になって澪が来るかもしれないから誰が来ても起き上がらないように言って・・・帰ってきたときも梓は横になったままで、そのあとすぐ唯とムギも来て・・・それで準備を整えて澪を待ってて・・・」
「なるほどね・・・」
私がほとんど上の空だったことに加え、パニック状態の律のあやふやな説明という二重奏で最初はどういう流れだったのか全くわからなかった。
「つまり、りっちゃんは澪ちゃんのクラスの様子を見るために離れた時以外はここにいたということね。梓ちゃんが誰かに襲われたとしたら、そのここを離れたときの可能性が高い・・・」
テレビドラマの美人探偵よろしく、先生はそう言った。
「りっちゃん、戻ってきたとき梓ちゃんの異変とか、気づかなかった?」
律は首を横に振る。
「一応気合入ってるな、みたいな声はかけたけど・・・そのすぐあとに唯とムギが来たから気にも留めなくて・・・。まさか・・・そのとき梓はもう・・・」
「息を引き取っていたと見るのが妥当でしょうね」
既に青い律の顔からさらに血の気が引いていったように見えた。
「・・・とりあえず4人とも、今日はもう帰りなさい」
先生の意外な言葉に私だけでなく、他の3人も驚いたようだった。
「でも先生、こういう場合私達は重要参考人ということで警察の方に情報を提供しなくてはいけないのでは・・・」
おずおずと口を開いたのはムギだった。
「それはそうだけど・・・。あなた達、混乱してる今の状態でうまく話を出来る自信ある?」
「それは・・・」
「それに私は仮にも教師なんだから、あなた達の心の状態が1番心配だわ。警察と梓ちゃんの保護者の方には私のほうから連絡しておくから、早く帰って休みなさい。わかったわね?」
初めて先生が先生らしく振舞った瞬間を見たような気がした。

―――

そして校門の辺りまで歩いたとき、これまで我慢していた思いが爆発したのだろう、突然唯が泣き崩れて、それから支えるように帰路を歩き出し、現在に至るというわけである。
「澪、信号」
不意に聞こえた律の声に、記憶を探っていた私の意識は引き戻された。
見れば歩行者信号は赤を点灯しており、同時に帰路の半分近くに差し掛かったことに初めて気が付いた。
横を見ると律が焦点の合っていない目を前に向けている。
後ろを振り返ると唯はまだ泣きじゃくっているようで、ムギは普段見せないような難しい顔をしていた。
が、私が見ていることに気づいたようで笑顔を作って私に向けた。
いつもの笑顔とどこか違う、ぎこちない笑顔。
それでもムギは自分も苦しいだろうに少しでも私を元気付けようとしてくれている。
「あ・・・」
思わず口を開いていた、でも出すべき言葉がみつからない。
なんだろう、私は何を言いたいのだろう・・・。
「澪、信号」
再び聞こえた律の声に、私は何もいえないままに前を向きなおした。
さっきまで赤だった信号が青になっており、私は1歩目を歩み出す。
「あの・・・りっちゃん?」
小声でムギが律を呼んでいた。
3歩目を歩いたところで律が来る気配がないため足を止めていると、律の変わりに唯が右隣に並び、律は私が開けた3歩分後ろからムギと何かを話しながらついてきた。
何を話してるのか気にはなるけど・・・今は別にどうでもいいか・・・。
「うぅ・・・澪ちゃん・・・」
そんなことを考えていると律の変わりに横を並んで歩く唯が声をかけてきた。
「唯・・・」
さっきまでムギは唯になにかと声をかけていた。
でも私にそんな器用なことはできない。
むしろ口を開いたら私まで泣き出してしまうかもしれない。
だから泣きじゃくる唯に対して私は沈黙を返すことしか出来なかった。
「なんで・・・なんであずにゃんがあんなことに・・・」
さっきから何度も繰り返していることを唯は口にする。
「4月の新歓でいい演奏していっぱい後輩入れるんだって・・・そう言ってずっと楽しみにして・・・練習も一生懸命してたのに・・・なのに・・・!」
まずい。
また泣き崩れそうな唯に何か声をかけないといけない。
でも口を開くわけにはいかない――多分今口を開いたら今度は私まで泣き出しかねないからだ。
後ろでおそらく律に対しても心配して声をかけているムギの負担を、これ以上増やすわけにはいかない。
下唇を噛み、帰路を進む。
次の角を左、そこの少し細めの路地をぬけて大通りに出たら唯とムギと別れることになる。
そうしたら律と2人きりだ、そこまで我慢すればあとは律の胸ででも思いっきり泣けばいい、あいつはきっとそんな情けない私も受け止めてくれる・・・。
そう思いながら歩を進める。
路地に入る。

そして、左側歩行で路地を進んでいたそのときだった。
「ムギッ!?」
「キャッ・・・!」
バンッ!
律とムギの叫び声と何かがぶつかるような音――。

振り返った私の目には、車の前で倒れて頭から紅いモノを流すムギの姿が映っていた。

「ム・・・ギ・・・?」
さっき見た梓の光景が脳内でフラッシュバックする。
「おい!ムギ!しっかりしろ!澪、唯!救急車!早く!」
ムギの側に駆け寄った律の声が聞こえる。
律に呼ばれた気がするし何か言われた気もする。
でもなんだろう、それを考えることも出来ないし体にも力が入らない。
「しょうがない・・・!・・・あ、もしもし!?あの、至急救急車を・・・」
携帯を取り出して何かを言い出した律の声も遠くなっていって――
「澪ちゃん!?」
唯が呼ぶ声を最後に、私の意識は闇に包まれた。





<第3章>

「ん・・・」
体に規則的な震動を感じ、私は目を覚ました。
目の前に茶色がかった髪の毛が広がっていて――ああ、そうか、この匂い、これは律の髪の匂いだ、と未だまどろみの中の頭で思う。
と、同時に両脚が地面についていない浮遊感を感じ、かといって横になっているわけでもない自分の状況に気づいた。
「あれ・・・?私・・・」
そこでようやく律が私を背負ったまま歩いていることに気づいた。
覚め切らなかった頭が急速に覚醒していく。
「お。澪、気がついたか?」
律は少し首を傾けて声だけをこちらにかけた。
「なんで律が私をおぶって・・・」
私は記憶を呼び起こす。
学校を出て、信号でひっかかって、泣きじゃくる唯の隣になって、角を曲がったところで後ろから律とムギの叫び声が聞こえて・・・。
「そうだ!?ムギ!ムギは!?」
律の返事がない。
「おい、律!ムギはどうなったんだよ!?」
「・・・お前はずっと気を失ってたからな。あの後、ムギは救急車に乗せられた。・・・ずっと意識がないし、駆けつけた救急隊員の人の話だとかなり頭部を強打してるから・・・危険な状態だって・・・」
「そ、そんな・・・」
「ついていきたかったけど気を失ったままのお前をあのままにしておくわけにもいかないし、事情を聞かれたりもしてたからな・・・。あ、唯はもう自宅のほうに向かって帰っていった」
「事情を聞かれたりって・・・警察にか!?」
そう、と言いながら律が頷く。
「事故だ、って言ってた。私も原因はよくわからないけど、視界の隅から急にムギが消えたから・・・。ムギをはねた運転手も突然よろめくようにムギが車の前に出てきた、って言ってたし・・・」
「事故・・・」
「私と話してるときは何もおかしいところなかったのにな・・・。あ、左側通行してたから後ろから近づく車に気づかなかったのもあったのかもしれない・・・。なんにせよ、ムギが病院に運ばれてるってことだけは・・・事実なんだよな・・・」
最後のほうは聞き取れないような声だった。
そうだ・・・梓に続いてムギまでこんなことに・・・。
「梓・・・!ムギ・・・!」
これまで堪えていた想いがこみ上げる。
耐え切れず、私は律の背中に顔をうずめて泣き出した。
「うっ・・・うっ・・・!梓・・・ッ!ムギ・・・ッ!」
律の制服を握り締め、その背中に私の目から溢れる涙が染み込んで行く。
その間、律は何も言わず、ただ黙って私を背負ったまま歩くだけだった。
どのぐらいそうしていただろうか、ひとしきり泣いたあと少し落ち着いた私は顔を上げた。
律と別れる地点が目の前に迫っている。
「・・・ありがと。もういい。あとは歩くから」
切れ切れの単語をようやく搾り出す。
私背負っている上にベースを肩にかけ、さらに私の荷物まで持たせているのが申し訳ないというのもあった。
「何言ってるんだよ、このまま送っていく」
「え・・・?いや、もういいよ。こんなところ知ってる人に見られたら・・・」
「私とお前の仲なんだし、別にいいだろ。それに本当に歩けるのか?」
思わず反論が詰った。
確かに歩けるか少しあやしいところがある。
「・・・それに、もう少しお前を背中で感じていたいんだ。だから・・・そのままでいてほしい・・・」
「律・・・」
普段の律らしからぬ言葉に、私は律の言われるとおりにすることにした。
律の家の方角とはことなる道、私の家のほうに律が歩き出す。
「・・・しかしお世辞にも軽いとは言えないなー。澪、お前最近太ったんじゃないか?」
「な、何言い出すんだよ!失礼な!」
ヒヒッと律が笑う。
なんだよ、さっき真面目な雰囲気で言ったのは何だったんだ・・・。
「・・・なあ、澪」
「なんだよ!」
また私を茶化す話の続きと思って荒っぽく返事をした。
だが、律の言葉は意外なものだった。
「梓もムギもあんなことになっちゃって・・・。でも、澪だけはどこにも行かないよな!?ずっと私の側にいてくれるよな!?」
そうか、平静を装っていたけど律も落ち着いてなんていなかったんだ・・・。
梓とムギと、2人の普段見るはずのない姿を最初に見てしまっているのは他ならぬ律なんだ、ショックがないわけがない。
なのに私は律に甘えていた・・・自分は苦しんでる、そう思って律に甘えている。
そして律はそんな私を全て受け止めてくれている――自分も苦しいのに。
「当たり前だろ」
なんの戸惑いもなく言葉が口から流れ、私自身も驚いた。
「今までもそうだし、これからもそうだ。私にとって律はかけがえのない相手だ」
「澪・・・」
律が首をこちらに傾けて安心したような声を出す。
そうだ、律は私にとって大切な人だ。
律が私を受け止めてくれるように、私も律を受け止めるんだ。
そう固く決意をした。
――でも。
私は頬を律の肩に乗せた。
鼻孔に髪のいい香りが広がる。
それが今の私を安心させてくれる律の匂いだった。
――もう少しだけ、せめて家に着くのまでの間、このまま律に甘えていよう・・・。




後編へ続く

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