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とあるところに、天帝の娘である織姫という者がいた。彼女は機織の上手な、働き者の娘であった。
そしてまた、あるところに夏彦という働き者の若者がいた。
天帝は彼の働きっぷりを認め、夏彦と織姫の結婚を認めた。そして、晴れて夫婦となった二人は楽しい結婚生活を送った。
しかし、二人はしだいに働かなくなった。織姫は機を織らなくなり、夏彦は牛を追いかけなくなった。楽しすぎる夫婦生活が原因だった。
この事態に天帝は激しく怒り、この二人を、天の川を隔てて引き離した。
しかし、天帝は一年に一度、七月七日のみこの二人が会うことを許したのだった――。






天の神様はいじわるなんだな、とわたしは思った。
薄いカーテンのかかった窓からは、ほとんど光が入ってきていない。時刻は朝。わたしが怪訝に思いカーテンを開けると、気の滅入るような曇天が目に入ってきた。灰色の空からは雨粒がしきりに降っている。
「雨か……」
窓を開けると、涼しい風が吹き込んできた。カーテンが大きくはためく。わたしの黒髪も揺れる。雨の匂いがした。
そのままぼんやりと、雨の音を聞いていたら、
――ピピピピピピピピピピ
携帯のアラームが鳴り出した。わたしは慌てて、その甲高い電子音を止める。ついでに確認したディスプレイには、『6:30』と表示されていた。そろそろ朝食の時間だ。
わたしは喉までやってきた欠伸をかみ殺すと、階下に下りた。






紺色の傘を差し、水溜りの歩道を歩く。通学路。雨は少し強い。雨粒が、傘を幾度も幾度も叩く。
わたしは空を見上げ、小さくため息をついた。そして、さっきまで見ていた夢を思い返す。
そう――七夕の夢。
やはり、天の神様はいじわるなのだと思う。仕事をしなくなった二人にも責任はあると思うが、たった一度の過ちで、二人を遠く引き離してしまうなんて。
説話とはいえ、織姫と夏彦の二人がかわいそうだった。
しかも、今日は雨。
雨が降れば、二人を隔てている天の川の水位が上がる。そのため、二人は会うことが出来ない。せっかくの、一年に一度だけの日なのに。
だから、神様はひどくいじわるなのだ。何が何でも、二人の仲を離そうとする。
そこまで考えた時、わたしの脳裏を、一人の少女の姿がかすめた。
――平沢唯。
同じ軽音部のギタリスト。そして――わたしの恋人。
恋人というには、少し足りないかもしれない。何せ、告白もなにもなかったのだ。
ただ気づけば、自然と唇を重ねていた。
わたしは、そんな唯の姿を想起する。今日は七夕。何か、彼女と楽しいイベントがあっても良いのではないだろうか。
そんな淡く、儚い期待を抱いて、わたしは雨の道を歩き続ける。
もう一度見上げた曇り空は、どこか、いじわるな天帝が笑っているようでもあった。






「……休み?」
信じられない。わたしは、今の彼女の言葉が嘘であることを願い、聞きなおした。
しかし、律は相変わらず、
「唯は、今日学校休みだって」
――残酷な宣告を言い渡すのだ。
まず初めに、何故、という思いがわいて来た。唯は昨日まで、体調の悪そうな様子など一切見せていないはずだ。
なのに、何故――。
思わずため息が漏れた。そして自分が、どれだけ唯に会いたがっていたのか痛感した。
あの花のような、とても眩しい笑顔がないだけで、音楽準備室のあらゆるものが色あせて見えた。机、床、天井、黒板、ベース、お菓子、ピック、ドラム、紅茶――何もかもが。
わたしがもう一度息を吐くと、ムギが紅茶を差し出してくれた。
「唯ちゃん、心配ですね」
わたしはその言葉に頷く。だが、わたしの頭はムギの言葉など、これっぽっちも理解していなかった。
唯――。
「……唯、何で休んだんだ?」
「頭痛だってさ」律の返答。彼女は小さくため息をつくと、食べかけのケーキを口に放り込んだ。「……唯、昨日までは普通だったのにな」
頭痛だなんて。
彼女は、今もその痛みに苦しんでいるのだろうか。
胸が痛い。焼き切れそう。
「今日の練習、なんかやる気しないな……」
律がそう呟いた直後、






「ごめん。わたしも今日休む」






わたしは勢いよく立ち上がった。そして、自分の鞄をつかむと、音楽準備室を飛び出す。
その勢いのまま、校舎を駆ける。外に出ると、激しい雨がわたしを歓迎してくれた。
「……さっきまでは、霧雨だったのに」
まったく、ついてない。
わたしは曇天を鋭く睨むと、再び走り出した。
目指すは唯の家だった。唯に会いたい。そんな思いが溢れた。溢れて、抑えきれなくなった。
身を叩くような雨粒が、痛い。長い黒髪が暴れて邪魔。雨のせいで、視界は不鮮明。走りづらいことこの上ない。
それでもわたしは足を動かし続ける。あやふやな道を、戸惑いながらも進んでいく。
徐々に雨は強くなっていた。
学校を飛び出してきたため、傘は持っていない。制服はびしょびしょで、重い。
こんなわたしを、道行く人々は奇異の目で見る。だが、そんな視線など気にしている時間はない。色とりどりの傘の花のあいだを、すり抜けるように走る。
風が強い。耳元で、ビュウビュウと、風の音がする。
心臓が跳ねる。息が苦しくなり始めてる。
そしていくつもの水溜りを踏みつけ、何度目かの曲がり角を曲がったところで――
「……うそ……」
目の前には、『工事中』の残酷な三文字。そして、『安全第一』とかかれたバリゲードに、『立ち入り禁止』の文字。
その先に見えるのは、シャベルや、工事に使うような重機械。掘り返されたコンクリートには、ぽっかりと穴が開いていた。
この雨の中仕事をしている人はいなかったが、この先へは進めないらしかった。
「…………」
しばらく言葉がでなかった。目の前の光景に呆然とし、何をすべきか、忘れてしまった。
我に返ったのは、近くを通ったトラックの排気音だった。だんだん離れていく白いその車体を視界に映し、わたしは小さく息をはいた。
雨はますます強くなる。
大きな雨粒は全てを叩く。家の屋根を、地面を、車を、世界を、わたしの心を。



――最悪。



部活を抜け出してきて、ここまで必死の思いで走ってきて、これか。
他の道を探そうにも、この辺りの地理には詳しくない。結局、ここから先には進めなくなってしまったのだ。
泣きたくなる。体がひどく重い。髪の毛からは、水滴がしたたり落ちている。
わたしは踵を返すと、もと来た道を歩き出す。
とぼとぼ。ゆっくりゆっくり、一歩を踏み出す。
もう一度見上げた空からは、織姫と夏彦の涙が流れていた。






シャワーを浴びて部屋に戻ると、時刻は既に夕食時だった。時間が経つのは想像以上に早い。
しかし夕飯を食べる気にもなれず、わたしはベッドに倒れた。毛布の香り。柔らかい感触。
そのままベッドの上で目をつむる。
――今日、結局唯と会えなかったな。
その事実が、胸を締め付ける。
唯の笑顔がないだけで、わたしが、わたしではないような気がする。
日常の嫌なことを吹き飛ばしてくれるのが、唯の笑顔。なのにそれが無い今、わたしの心はひどく荒んでいた。
――もう嫌だ。
そして、わたしの意識は沈んだ。






遠くから音が聞こえる。
ゆっくりと目を開けると、その音が携帯の着信音であることが分かった。わたしは手探りで、自分の携帯をつかんだ。
誰からか確認などせず、そのまま携帯を耳に当てる。
「……もしもし」
『あ、澪ちゃん?』
……………………………………。
……………………………………。
わたしは目をしばたかせる。それから携帯を耳から離し、ディスプレイに表示された人物の名を確認する。
『平沢唯』
わたしは勢いよく携帯を耳に当てなおし、
「唯っ!?」
『窓、開けてみて』
慌てて立ち上がり、窓を開ける。そして、見下ろした道路には、
「ヤッホー」
唯が手を振って、立っていた。
時刻を確認すると、午後十時半であった。わたしは部屋を飛び出し、玄関の扉を開ける。
そこには満面の笑みを浮かべた唯の姿。わたしは彼女に歩み寄ると、
「頭痛、大丈夫なのか!?」
「うん。もうだいぶ楽だよ」
唯はそう答えると、わたしの手を取った。そして、
「やっと会えたね、澪ちゃん」
笑みを浮かべた。それが愛しくて、愛しくて――。



――わたしは唯を抱きしめた。



今日一日、触れることのできなかった体温。何よりも大好きな少女の、体温。
「唯……」
「……わたしは天の川をこえ、そなたのもとまでやってきた」
「……へ?」
「えへへ」唯が照れたように、頬を染めた。「このまえ読んだ本の中の台詞なんだ」
「そっか……」
そこでわたしは、雨がやんでいることに気がついた。空を見上げると、きらきら、星屑が川をつくる。
どうやら織姫と夏彦も、ようやく泣き止んだようだ。
わたしがそうして空を見上げていると、唯がふいに口を開いた。
「今日はね、神様がすごくいじわるだったんだよ」
「?」
「だって、今日七夕だから澪ちゃんと会えるのすごく楽しみだったのに、朝起きたら頭痛だし」
いじわるな天帝が、わたしたちが会うのを妨害してたみたい。
そういえば、わたしが唯に会いに行こうとしたときも、雨が急に強くなって、さらに工事が道を阻んでいた。
これも天帝のいじわるだったのだろうか。
それからわたし達は、散歩をすることにした。散歩といっても、ただその辺を歩き回るだけだが。
雨の匂いが残る道路を、寄り添って歩く。手は、指を絡めて繋いだ。一日中会っていなかったため、わたしも唯も互いに触れ合っていたいのだ。
「ねえ澪ちゃん」
「ん?」
「空の上でさ、織姫と彦星もラブラブなのかなぁ」
「……きっとそうだな」
だって今日一日中天の川を渡れずにいて、ようやく今、会えたのだろうから。
――わたしたちのように。
それを唯に説明してやると、彼女は満面の笑みを浮かべて、
「そっかぁ」
満足そうに笑っていた。その表情を、わたしが不思議がってみていると、
「じゃあ、わたしたちもラブラブしようよっ」
唯が、さらにわたしにくっついてきた。柔らかい肌の感触。甘い香り。
――これが、わたしが一日中焦がれていたもの。




「唯……」




優しく名を呼び、




その甘い唇へと、




催涙雨が乾き、天の川の煌く夜空の下で、




「……澪ちゃん」




そっと




――キスを落とした。







































☆あとがきみたいなの☆
三日遅れてごめんなさい。七夕の話です。
なんか無理やり話を進めてしまった感がありますorz
もっと筆力ほしいです、ハイ
ちなみに催涙雨っていうのは、七夕の日にふる雨のことです。ロマンチックですよね
気になった方は、ググってください

では。

このページへのコメント

行間から滲み出てくるものが伝わってくるようでした。
ストーリー設定、展開、情景描写、心情描写…どれも凄いと思いました。
ぜひこれからも文章を書いて下さい。

0
Posted by vz.63 2010年03月10日(水) 21:31:32 返信

話がしっかりしてて、すごく気持ちよく読めました!
唯澪にはやっぱりこういう優しい雰囲気がよく似合いますね。二人とも可愛くてしかたなかったですww
ぜひぜひ、次回作を!(オイ

0
Posted by 通りすがりの唯澪好き 2009年07月25日(土) 20:54:28 返信

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