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著者:3-492氏

 どこで道を間違えたのか、何が悪かったのか。わたしはいまだにわからない。
わかるのは、たとえわかったとしても、それがもう手遅れだということだけだ。


 『水天の落涙』
 


入学当初は初心者でコードも知らなかった唯が、最近はめきめきと上達している。
もちろんわたしや律やムギが教えてるのもあるが、一番の理由は彼だ。
新任の教師である彼は、昔はスゴ腕のギタリストだったらしい。
ためになる話をいっぱい聞けるチャンスなのだが、何分出会いが悪すぎた。
おかげでまともに顔をあわせられない。
向こうもそれに配慮してくれているらしく、わたしとは接触しようとしない。
わかっている、わかってはいるんだ。
彼は思ってるほど破廉恥で下劣な人間ではないというくらい。
傍目から見ても、唯の話を聞いても、彼の優しさは、誠実さは、よくわかる。
 ……だからよけいに話しかけづらいのかもしれない。
「昨日はお兄ちゃんとねー、一緒にアイス食べたんだあ」
「へ、へえ」
 嬉しそうに語りつつも、ギターを捌く手にミスはない。
女の子は恋をすると強くなるとはよく聞くが、本当にそうかもしれない。
いつかわたしも、こんな風に惚気る日がくるのだろうか。……あまり想像できないけど。
「それでね、『アイスを食べてる唯は可愛いな』っていってね、お兄ちゃん自分の分をわたしにくれたんだよ」
「そう。よかったな」
「でもそれを見てた憂がねー」
 こういう話って、語ってる本人は楽しいんだろうけど、聞いてるこっちは……はぁ。
なんで唯なんだろう。こういう話には、一番疎いと思ってたのに。
「ほら。もう学園祭近いんだから、合わせるよ」
「はーい」
 わたしは残りの二人にも声をかける。恋もいいけど、今はバンドに専念しよう。
なんだか逃げみたいだけど、こういうことも大切だと思う。
 思うんだ――――。


「みんな、じゃあねー!」
 部活も終わり、楽器の片づけが済むと、唯はすぐに帰ってしまう。
最近ではよくあることだ。わたしたちが各々返事をすると、唯は頷いて、嬉しそうに走り去っていった。
「唯ちゃん嬉しそう」
「実際嬉しいんだろうな」
 嬉々として語るムギにそう返すと、律はスティックを手でくるくる回しながら、
「しかし男ができると付き合い悪くなるってのはホントだったんだなー。いいのかよ澪」
「何が」
「ライブが近いのに何も言わないじゃん」
「最近はギターの特訓してるって。むしろ助かってるよ」
「なるほど」
 そう、あからさまに遊ぶ気なら、練習を大義名分にあれこれ言えるのだが、これでは逆効果。
実際成果が出ているのだから、口の出しようがない。
……って、何で邪魔したいみたいな感じになってるの、わたし。
「唯ちゃんはいいなあ。好きな人に好きって言えて」
 ぼそり、とムギの呟きが聞こえ、そちらを見れば、ムギは窓の外をぼんやり見ていた。
まるでどうやっても手の届かない星を見上げているようだった。
「ムギ……?」
「あ……すみません。ぼうっとしてました。何でしょう」
「いや……何でもない」
 やっぱり、この歳になるとみんな、恋をするものなのかな。
何だかさみしいような、くやしいような……。
「ん? どうした、澪?」
「いや、何でもない」
 ま、こいつは例外だろうな。


 学園祭当日、声を枯らしたというアクシデントがあったものの、
唯はもう人前で披露しても恥ずかしくない――それどころか、こっちが気後れするほどのレベルにまで達していた。
唯がすごいのか、教えた人がすごいのか……多分どっちもだな。まったく、お似合いだよ。
 これが終わったらあの人にお礼を言おう。あ、それとも謝るのが先かな。
どちらにしろ、いいかげん会話くらいはしないと。きっとあっちも気まずいと思っているだろう。
わたしは彼がきらいなわけではないし、彼もそうだと思いたい。
出会いがもし違えば――やめよう、唯に悪い。ともかく、これが終わったら、彼と仲直りするんだ。
 そう、これが終わったら――――。
「…………」
 …………。わたしはだるい体をゆっくりと起こした。いい夢だったな。
ここはあの時のステージでもなければ、準備室でもないというのに。
『願いの一つぐらい――――叶えてみせろ!』
 振り向けば、ゲームに興ずる男の姿があった。
わたしはとくに興味を示さず、服を着て用務員室の扉に手を掛けた。
ゲームに熱中している今、声を出すのも億劫なのだろう。あの男は何も言わなかった。
携帯を見ると、昼の一二時をすこし過ぎた頃らしい。休日なので、廊下を歩く生徒の姿はない。
校庭で熱心な体育会系の連中が声を出しているくらいだ。
しばらく何も考えずに、ふらふら歩いていると、よく知った声が聞こえた。とっさに隠れる。


「あのな、弁当を用意してくれたのは感謝するけどな、何もお前が来ることないだろ」
「えー。だって二人きりになれるのって学校くらいしかないし」
「それはそうだけどさ……」
 唯と彼が空き教室にいた。不平をいう彼の顔は、不機嫌なそれではなく、穏やかで、優しいものだ。
「ほら、ここまで持ってきたごほーび……」
 目をつぶり、背伸びをする唯に、彼は片手で頭をかきつつ、受け取った弁当を机の上に置き――――。
 二人の唇が重なった瞬間、不意に瞳が潤んで、涙がこぼれた。拭っても拭っても、それが止まる気配はない。
「えへへ」
「まったく」
 笑って抱きつく唯と、微笑んで唯の頭を撫でている彼。
それが涙を通してぼやけて見える。……もうだめだ。
わたしは足音をたてないように注意し、その場を後にした。
 なにが、いったいなにが間違っていたんだろう。
どうして唯があんなに愛されて……幸せになって……。わたしは、わたしは……。
「うっく……ひっく、うあああ」
 外に出ると、雨が降っていたらしく、あちこちに水たまりができていた。
それが無様なわたしを映し、よけいに惨めな気分にさせる。
下着が吸いきれなかった粘液が水たまりに落ちて、小さな波紋をつくった。
「どう……して……」
 涙越しに見上げた空は、忌々しいほどに青く、澄み切っていた。

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