最終更新:ID:FaJTEtB67A 2009年08月08日(土) 20:00:15履歴
合宿最終日のみんな寝静まっていた深夜のこと。
私はふと目が覚めてしまい、寝れないでいた。
最近そういう日が増えていたから対処には慣れていた。
さて音楽でも聞いてやり過ごしますか、と自分の荷物のとこに行き、ヘッドフォンを取り出す。
そのとき背後から声をかけられた。
「あ、梓か…?」
私の最近の寝不足の根本的な原因である人、澪先輩だった。
「うぅ…あ、梓はなんで起きてるんだ?」
いつもの大人っぽい先輩からかけ離れたような、おどおどとした、弱々しい感じで尋ねる。
「なんか寝付けなくて。澪先輩こそどうしたんですか?」
「うっ。あっ…いや、あの…」
とか言いながらうんうん唸る先輩の姿を見て、肝試しをしたときのことを思い出す。
澪先輩は意外と怖がりだったっけ?
頭の中に考えを巡らせる。
暗いのは怖いはず。
だけど今起きてる。
もしかして…
「先輩、私ちょっとトイレに行っていいですか?」
「わっ、私も行く!」
ビンゴ!
************
トイレまでの道のりはそんなに長いものじゃないけれど、やっぱり澪先輩は怖いらしい。
私の肩に手を置いて、キョロキョロしながら歩いている。
無意識の内にしてるんだろうな。
そういう先輩の無意識の行動が私をドキドキさせているなんて、先輩は知らない。
澪先輩の一挙一動に私の感情は揺れ動いてるんですよ?
トイレで手を洗っている時に思った。
もう少し二人っきりでいたい、と。
「澪先輩、ちょっと外に行きませんか?」
「ん、どうした?」
「えと…、…う、海が見たくなって。」
少し考えるように瞳を揺らしたあと、
「うん、行ってみよっか。」
って言ってくれた澪先輩。
二人きりの時間の延長が確定。
「あー、あのさっ!」
歩き出そうとした足を止めて振り返る。
「なんですか?」
やっぱりナシとかかな?
なんて考えが頭に浮かんだ。
不安になりながら澪先輩に目をやると、先輩が手を差し出してきて、目を反らしながら言った。
「手、繋いでくれないか?」
***********
澪先輩の手を取って、外へと歩き出す。
風で草花がカサカサ揺れる度に「ひっ!!」と短く叫び、痛いくらいに強く手を握る先輩。
…今はその痛さが心地よくて。
強く握られる度に、私も少し握り返した。
普段の澪先輩からは想像もつかないくらいの怖がりっぷりが可愛くて、愛おしい。
「大丈夫ですよ。私がいますから。」
澪先輩の隣っていう場所はいつもは律先輩の場所だけど、今は私の場所なんだ。
その事実が私をよりいっそう幸福にさせ、そして切なくさせた。
建物から海までは全く長い距離ではなく、むしろ短い距離だけど、澪先輩のおかげで歩いた時間は長かった。
砂浜に腰をおろす。
私の左隣に澪先輩も腰をおろす。
さっきまで繋いでいた手は砂浜についた途端、離れてしまった。
澪先輩と二人きりという喜びと切なさが、まるで波のように引いたり満ちたりする。
「星が綺麗だな。」
隣にいる澪先輩が声を漏らす。
私も空を見上げる。
吸い込まれそうなくらい綺麗な星空が広がっていた。
「まるで掴めそうだ。」
澪先輩はまるで澪先輩が書く歌詞のような言葉を言い、左手を空に伸ばす。
私は空から視線を澪先輩に移していた。
見とれていた。
すごく綺麗な横顔で、まっすぐ空を見つめる目。
見とれないはずがなかった。
「なんてな。」
と言っておろした澪先輩の左手が私の右手に重なった。
たぶんそれは偶然で。
澪先輩はすっと手をずらそうとした。
私の右手はそれを追って捕まえた。
澪先輩の左手の上に私の右手を重ねた。
「あ、梓?」
澪先輩が驚いたように私を呼んだ。
「澪先輩って好きな人とかいないんですか?」
満天の星空を見上げながら尋ねる。
「い、いきなりだな。いないよ。環境が環境だし。」
「…律先輩のこと、どう思ってます?」
私は何を聞いているんだろう?
「なっ!?なんで律が出てくるんだ!?」
うん、ほんと。
なんで律先輩のこと聞いたんだろう?
私はどんな答えを求めているんだろう?
頭ではいろいろ考えが巡るのに、私の口は止まらなかった。
「律先輩のこと好きですよね?」
「そ、そりゃぁ…好きだけど…。」
恥ずかしいのだろう、段々声が小さくなっている。
「それは友達としてですか?…それとも…。」
重ねた手に力を込めながら尋ねていた。
「友達として以外で見たことなんてないよ!」
もしかしたらまだ自覚していないだけなのかもしれない。
それでも今は澪先輩の言葉で私の中で安心感が漂った。
「そういう梓はどうなんだ?好きな人とかいるのか?」
**********
自分から振った話だ。
こうやって質問が返ってくることくらいわかっていた。
言うべきか言わざるべきか考える前に言葉に出していた。
「いますよ。」
夜眠れなくなるほど想っている人が。
「梓…?」
澪先輩を見つめ、また右手に力を込めた。
澪先輩の左手がピクッと動いた。
「叶わない恋だと思ってました。…でも、今小さいけど希望が見つかりました。」
星空の魔力かただ単に寝ぼけているだけなのか…考えるより早く、すらすらと言葉が出てくる。
いくらなんでもここまで言ったら私が澪先輩のことを好きだってばれちゃうな。
「そっか。私の言葉の何が梓を勇気付けたのかわかんないけど、力になれて嬉しいよ。」
体中から力が抜けた。
…澪先輩は鈍感なんだ。
でも、小さいかもしれないけど見付けた希望。
大事に大事に光らせよう。
「そろそろ戻りましょうか。」
そんなことを思いながら、私は澪先輩の手を握り直した。
→星空と(澪視点)
つづき
→夕焼けと(梓視点)
→夕焼けと(澪視点)
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