最終更新:ID:DpSlq0rQWw 2009年11月26日(木) 22:29:38履歴
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1人でこの道を歩く。
久しぶりに歩くこの道にあの日のことが思い出される。
私が弱かったんだ。
聞こえてたのに。わかってたのに。
ふぅ、と息をついて右を見た。左を見た。後ろを見た。前を見た。
でも、どこにも澪はいない。
あの日2人、手を繋いで帰った私と澪はもういない。
*********
「ふは。」
振り返ると澪は泣いていた。
だから、私はいつものちゃかすように笑った。
「やっぱり澪は泣き虫だな。」
そう言いながらも、今日は卒業式なんだからしょうがないな、なんて思ってた。
さっきまで唯の家で過ごしてたのが嘘みたいだ。
さっきまで騒いでたのが嘘みたいに、今は2人、静かに歩く。
「澪は昔からそうだもんな。まぁ卒業式だし、当たり前っちゃ当たり前か。」
思い起こせば小学校の卒業式も、中学校の卒業式もそうだった。
澪はいつも泣いていて、澪のお母さんでも手に負えなかった。
私はそんな澪を見ていられなくて、ふざけたり、茶化したりしながら笑わせようとしたんだよな。
そして、澪が笑うのを合図に手を繋いで帰ったんだ。
そして今も澪は泣いてる。
変わらないな。澪は昔から変わらない。
「澪しゃーん?おーい?」
何も反応しない澪に近づきながら呼んでみる。
澪は顔をあげた。私と目が合った。
目が合ったから私は笑った。
でも澪は悲しそうな顔をしている。
「律…?何してるんだ?」
「何って…、変顔だよ、変顔!」
澪のそんな顔見たくない。やっぱり澪は笑ってるのが1番だ。
「どーだ、澪!面白いだろっ!」
「…ぷ。」
「あは!」
澪が笑って、私は安心する。
小中高って同じように繰り返してる私達。
でもさ、澪…。
私は澪に背中を向けて歩き出す。
分かってるんだ。
「好き…。律、―――――――――。」
電車が通り過ぎていく音の中ではっきり聞こえた言葉。澪の気持ち。
でもさ、澪。私、知ってたんだ。
そして、私も…。
だけどさ、高校を卒業して、私たちは別々の道を歩き始めるんだよ。
お互い距離もできる。そして何より…。
私には澪を幸せにできる自信なんてない。
ごめん、ごめんね、澪。
「ん?今何か言った?」
はぐらかしてごめん。
聞こえてたのにごめん。
澪のこと好きなのに、ごめん。
「って澪!また泣いてんのかよ?」
そう言って振り返った先にいる澪の顔を見て胸が締め付けられる。
見ていられなくて、目をそらしてしょうがないなぁと小さく呟いた。
しょうがないな、本当に、私は…。
「ほら、澪。せっかくの綺麗な顔が台無しだぞ。」
必死に笑顔を作って澪の頬に手を伸ばした。
涙を拭いながら、綺麗な顔だと、改めて思った。
綺麗な顔だ、本当に…。
「澪…?」
私はこの綺麗な顔を守ってやれるのか…?
澪を守ってあげられるのか?
澪の幸せは、なんだろう。
私に澪を幸せにできる自信がある?
「これでサヨナラってわけじゃないんだからな。そりゃ寂しくなるだろうけどさ。」
ない。
澪を守れる自信も、幸せにする自信も。
ごめん、澪。
「高校卒業したって私たちは何も変わらない!」
それが、きっと幸せなんだと思う。
私と澪がこのままの関係でいることが、それがきっと1番いいんだと思う。
「私と澪はいつまでも親友だぞ!」
ごめん、澪。本当は私も澪のことが好きだ。
だけど、ごめん。
でも、これでいいんだ。
自分に言い聞かせるように心の中で何度も呟いた。
ゆっくり澪を見る。
「お、おい…?澪?」
澪は小さく開いていた口をゆっくり閉じ、ぐっと目を閉じた。
私にはその澪の動きが全てスローモーションで見えた。
ゆっくりと目を開いた澪は、笑った。
でも泣きそうだった。泣くのをこらえながら作った笑顔だった。
自分のせいで澪にこんな顔をさせている。
胸に何かが突き刺さったように痛かった。
見ていられなくて、手を伸ばそうとした。
「ごめん。」
でも澪の言葉で私の動きは止まった。
「もう大丈夫!うん!私と律は親友だ!ずっとずっと、いつまでも…。」
澪はさっきの笑顔のまま言った。
苦しくて、辛くて、でも、これでいいんだ。これがいいんだ。
できる限りの精いっぱいの笑顔を作って、手を差し出した。
私と澪の変わらないこと。そして、きっと…これからも変わらないこと。
澪の手は冷たくて、泣きたくなった。
このまま黙っていたら本当に泣きだしそうだった。
「あー。」
自分でも不思議だった。
聞こえてたのに、自分からはぐらかしたのに。
「そういえば!さっき澪は何て言ったんだ?」
なんでこの話題をふったんだろう。
この時横目で見た澪の横顔を私は一生忘れないと思う。
「…なんでもないよ。」
言葉とともにぎゅって少し強く手が握られた。
握られた手から、澪の気持ちがなんとなく伝わってきて、また涙をこらえた。
ごめん、澪。本当は好きなんだ。でも、ごめん。
心の中で呟いて、私はいつもよりゆっくり歩いた。
**********
あの日繋いでいた手を広げてみた。
今なら分かる。いろいろ言い訳を並べて、怖がって。
でも、あのとき澪に「なんて言ったんだ?」なんて尋ねたのは、本当は望んでいたからだ。
澪の気持ちを聞いて、私の気持ちも伝えて、2人で歩く未来を。
私はずっと逃げてたね。
怖がって、澪を傷つけて。
清算しよう。
1年前に線を引いたこの日、この場所で。
もうすぐここに澪が来る。
澪の気持ちは1年経って変わっちゃったかな?
私は、全然変わらないよ。
いや、前よりもっと澪が好きだ。
顔をあげると向こうから手を振って歩いてくる人が見えた。
私はその人へ駆けだした。
「澪!」
本当におしまい
このページへのコメント
続きありがとうございます
1でめちゃくちゃ切ない気持ちになりました
願わくば幸せな未来が二人にあらんことを…