2chエロパロ板のけいおん! 作品のまとめサイトです。

タイトル:『田井中邸の一夜』
(律×澪)百合分薄かも?


あかね色の空に宵闇が迫る頃、私は公園のベンチに座っていた。幼馴染の田井中律と待ち合わせの約束をしているのだ。
今日は久々に律の家に泊ることになっている。なんでも今後の音楽活動について語り明かしたいのだそうだ。
正直いつものパターンだと、律が話の途中で寝ちゃって、うやむやになるばかりだけど、なぜか楽しみにしている私がいた。

――思い返せば律との付き合いは結構長いものになる。内気で人見知りしがちな小さな頃の私は(今もちょっとだけ……)、思うように友達ができず、毎日が寂しい気持ちでいっぱいだった。
そんなある時、真夏の太陽のさながらに私の孤独を照らしてくれたのが律。律は昔から元気で活発な子で、みんなを先導するリーダーシップ溢れる女の子だった。
はじめはおせっかいを焼かれるばかりで、あまりいい気もしなかったけど、気が付くと気楽に話せるようになっていた。

いつの頃からか仲のいい友達になり、気がつくと唯一無二の親友になっていた。たまにはつまらないケンカもあったけど、すぐに仲直りしている。
大げさに言えば私の半生は律と一緒だったし、なんだかんだでこれからも親友でありたい。

でもっ、律に彼氏ができちゃったりしたら今の関係も変わっていくんだろうな……。やっぱり彼氏ができちゃうと、そっちの方に心が偏っちゃうよね。
そんなことは考えたくもない。ああっ、私も律もずっと一人身だといいのにっ。いつまでも一緒に仲良くしていたいっ。しかし律って社交的で愛嬌があるから男子にモテそうだ。
そんな不安感に日々苛まれる私だった――

「おーすっ! 澪〜っ。待たせてゴメンね〜」
「りっ、律っ。私も今来たところだよ」

軽快な足取りの律が颯爽と現れた。今日はピンクのポロシャツにタイトなブルーデニムというラフなスタイル。いつものカチューシャで前髪をたくし上げ、健康的な額を露出している。
私にとってはなんだか安心する光景だ。
 
本当は待ち合わせ時間から二十分ほど前から待っていて、今はもう十分過ぎてるんだけど……。いつものことなのであまり気にならない。
それにしても、律。私以外の人と待ち合わせするときも遅刻するのかな……。

「それじゃ私ん家いこっか? 今日ね、お母さんもお父さんも旅行で留守なんだよ〜。弟もそれに着いて行ってんのっ」
「へー、そうなんだ。おばさんたちどちらにお出掛けなの?」
「えっとね、信州だってさ。山の上のペンションに三泊するみたい」
「いいな〜。この暑い中だといい避暑地になりそう」

どうやら今晩は律と二人きりで過ごすことになりそうだ。いつもはおばさんが美味しい夕食を作ってくれて、それをご馳走になったりもするんだけど。
とはいえ、年頃の女の子が二人もいるわけだし、なんらかの料理を作るのは簡単のこと……思う。

律って料理できるのかなぁ? いや、学校の調理実習で目玉焼きを暗黒物質に変異させてしまう娘だ。とてもじゃないが一端の料理をこしらえることなんてできそうにない。
よしっ、それだったら私がなにか作ってもいいかな。

「ねぇ、律。それじゃ夕食の食材を買いに行かない? 私簡単なものなら作れるし――」
「念には及ばんよ澪隊員。ふふっ。実はもう支度は済ませてあるのだっ!」
「えっ、どういうことなのっ! まさか律が作ったの?」
「ふふっ、まぁねぇ」

意外な一言に思わず驚いた。あの律が夕飯の支度をしてくれていたのだ。まさか私のために? なんだか照れくさく感じるけど、案外嬉しかったりもする。
それにしても律のヤツ、いったいどんなものを作ったんだろう? 今から楽しみであると同時に恐ろしくもある。
調理実習は小学生の頃の話だし、今なら多分大丈夫だよね……。

「ふー、大分涼しくなったよね。日中はあんだけ暑苦しかったのにっ。そういえば澪、今日は何をしていたの?」
「うん、図書館で新作の詩を書いてた」
「へー、熱心だねぇ澪しゃんは。それで完成したの?」
「ううん、思いのほか進まないな。なんだか頭の中にある言葉をうまく文字にできないっていうか。詩は韻律のことも念願に置かないと駄目だからね。ただ文章を書き連ねればいいってものでもないし」
「あーっ、なるほど。私も作文とか苦手だからよく分かるわ。夏休みに読書感想文とか宿題で出されても、結局、休みの最終日に徹夜するはめになっちゃうのよね〜」
「……ちょっと違う気がする」

そんなやりとりが心地いい。律とは腹を割って気楽に話せるのだ。それに、軽音部のみんなが知らない昔の思い出話なんかもできる。
やっぱり気の置けない幼馴染っていいな。唯と和もずいぶん長い付き合いみたいだけどこんな気持ちになるのだろうか。

「よしっ、着いたな。まっ、とりあえず上がって上がってっ」
「うん、お邪魔しまーす」

いろんな話をしている間に律の家に到着した私たち。玄関はきれいに掃除されていて、とても快適な空間だった。律のおばさんはかなりの清潔好きなんだろう(それともおじさん?)。
そういえば律の部屋はいつも綺麗だ。別に掃除してもらっているわけじゃないだろうし。やっぱり律も清潔好きなんだろう。いつもは大雑把なのに意外なところもあるものだ。

「さってと、それじゃ早速ご飯にするかっ! 澪っ、そこら辺で適当にくつろいどいてよね」
「えっ、いいのか? 私もできることならなんだって手伝うよ……」
「大丈夫大丈夫っ! まっ、そのソファーにでも座って雑誌でも読んでておくれよ」
「……そうか、それじゃお言葉に甘えて」

律はキッチンの方へと消えていった。一人リビングに残された私。なんだかちょっとだけ寂しい気がする。
律は本当にやかましいヤツだから、いつも何らかの話題をぺちゃくちゃと振ってきて、まるで機関銃みたいだ。
けど、そのどれもが楽しいから、律の話題の引き出しの多さに感心することがある。

とりあえずテーブルの上に置かれている音楽雑誌のページをめくってみた。どうやらロックやメタル関係の専門誌らしい。律の趣味と見てまちがいない。
端っこが折り曲げられているページには、有名と思しいドラム奏者のインタビュー記事が載っていた。その記事の文字を追っていくと、ところどころに赤い波線が引かれている。おそらく律が書き込んだのだろう。
線が引かれているのは「ドラムは魂だ!」とか「俺のビートで昨今の腑抜けたロックシーンを正してやる!」等々の熱いメッセージ――

私はパタリとページを閉じた。

「澪〜、できたよ〜。さっ、食べようぜ〜!」

そうこうするうちに律がやって来た。お盆を両手で持ってなんだか足取りが覚束ない。
あたりにはスパイシーな香りが漂っている。予想はできてたけどやっぱり……。

「なんだ〜、カレーか〜。おいしそうだけどちょっとベターだな」
「奇をてらったモノを作るよりかこっちの方がいいのっ! ささっ、食べて食べてっ」
「それじゃ、いただきまーす」

律の作ってくれたカレーを口に運ぶ私。口内に野菜のまろやかな風味とお肉のコクのある味わいが広がる。
やっぱりカレーはおいしい。簡単かつお安く作れるカレーは主婦の味方だ。
……私も律もまだ高校生だけど。

「うん、美味しいよっ。律ってばいつのまに料理できるようになったんだね」
「じつは私の唯一のレパートリーよっ! 中学生の頃お母さんに教えてもらったのっ! がんばって作った甲斐があって良かった〜」
「……あっ」

律は満面の笑みで私を見つめている。親指を立て自信満々だ。

――思わずドキっとする。あれっ、私ったらなんだか変だ。ちょっと律が可愛く思えてきちゃったかも。
律っていつもはやんちゃな男の子みたいに元気ハツラツなのに、たまに女の子らしい一面を覗かせるのよね。

なんなのっ、一体! 私は顔をブルブルと振って、奇妙な感情をかき消そうとする。

「どうしたの? 澪ちゃんたらいきなり顔赤くして頭ブンブン振っちゃてさ。実は美味しくなかったって言いたいのっ」
「なっ、なんでもないったら! カレーが辛すぎて熱くなっちゃたんだよ!」
「そっかー、ゴメンね。カレー粉入れすぎちゃったかな」
「いっ、いやっ。違っ……」

おもわず声を失ってしまう私。ああ、ダメだ。また失敗した。なんでいつもこんな風になっちゃうんだろう。
もっと格好よくて気の利いたことでも言えばよかったのに。「いや、律がとても楽しそうだからさっ、私もなんだかウキウキしてきちゃったよ」とでも軽い調子で言えばよかった。

結局口下手なんだよね、私って。そのくせ思っていることがすぐ顔に表れてきちゃうし。
ああもう、ネガティブ思考に陥ってきちゃった。――しっかりしろ、私っ!

「まあ、いいや。今後の課題ってことにしとこっと。それじゃ澪、食べ終わったらさっさ食器片付けて私の部屋に行こうぜっ!」

思いを巡らせていると、律があっけらかんとした口調で言った。よっ、よかった。どうやら気にしてないみたい。
まぁ、あの律がこの程度のことで気に病んだりするはずがないよね。

「うっ、うん。そうしようか。カレーは美味しかったよ、律っ」
「ふっふ〜、ありがとね。そういえば今日はすっごく怖い映画のDVDをレンタルしてあるんだ〜」
「あのー、まさかそれを観る気なんじゃないだろうな」
「えっ、イヤなの澪しゃん」
「勘弁して……」

律はホラー映画が本当に好きだ。特に血しぶきが凄まじいスプラッターってジャンルだろうか。
いつぞや一緒に観たホラーで、チェーンソーを持ったスーツ姿の巨漢が大暴れするシーンの途中で、思わず気絶してしまった苦い思い出がある。
他にもゾンビがウヨウヨいるショッピングセンターの話とか、悪魔の赤ちゃんを孕んでしまった女の人の話とか、正直ろくなものじゃない。

私は普通の映画が観たいのになぁ。

「今日のは絶海の孤島でゾンビと鮫が戦ったり、ブードゥーの呪いだかで大変なことになるゾンビ映画よ。ゴア描写もピカ一でマニアの間では定番の一作っ! どうっ、面白そうでしょ」
「なんだそりゃ……」
「まぁ観てみないことには始まらないって! さっ、行こうぜっ!」
「いっ、いやだ〜。助けて〜」

律に引きずられていく私。結局いつもこうなっちゃうのよね……。

「……み……おっ……」

――なんだか横で声が聞こえる。しかし瞼に力が入らない。

「澪っ!」

律の声だっ! はっと目を覚めた私。照明を消して薄暗い律の部屋を照らすテレビ。画面に映るのはクレジットシーン。
どうやら映画は終わったようだ。

「もー、澪ったらまた途中で気を失っちゃうんだもん。まだまだ見せ場がいっぱいあるって時にっ」
「あのね、この映画気持ち悪すぎっ。なんだかゾンビが無駄に生々しいし」

本当に悪趣味極まりない映画だった。なんというか、気持ち悪いシーンを撮るためだけに作られた映画って感じだ。いかにも仰々しい見世物って印象を受ける。
律のヤツ、どこからこんな映画を見つけてくるのか、まったくもって理解に苦しむ。

「それだけメイクの担当者が有能だったってことじゃん。ほらっ、吐き気を催すほど気持ち悪いメイクを施すなんて、才能のない凡百の人間にはちょっと難しいと思うぜっ!」
「たしかにそうかも知れないけど」

まったく、いつもこの調子だ。律は理屈をこねるのも上手いのだ。……この間も似たりよったりなセリフをいわれた気がしなくもないけどね。

それにしても、なんだかどっと疲れが出てきた気がする。頭がボンヤリして目がシパシパする。手足は錘をつけたように重くてだるい。……要するに眠たい。
図書館での詩作で頭を使いすぎたのかな。

「澪ったらぐったりしちゃって。まさか眠たいの? まだ九時過ぎだぞっ。夜は始まったばかりだぜっ!」
「うーん、りつぅ。なんだか私疲れたぁ……もうねるぅ」
「しゃーないな、コーヒー淹れてきてやるからちょっと待ってなよっ」

律はパタパタと部屋を後にする。私は意識を朦朧とさせながら、律の帰りをただ待ちわびるのだった……。

「澪しゃん、コーヒー淹れてきたぜっ」
「うん、ありがとう」
「ここに置いとくよ〜」

しばらくの後、律がコーヒーカップを二つ持って部屋に帰ってきた。芳しい香りが部屋に満ちていく。どうやらインスタントではなく、上等な豆から煎じたコーヒーらしい。
カップを手に取り口に運ぶと、舌の上に広がる豊かな苦味とまろやかな渋みが、私の眠気を払拭していく――

「おっ、目が覚めてきたみたいじゃん」
「うん、おかげさまでな」

すっかり眠気が醒めた私。それにしてもカフェインの効果はすごい。体質によるんだろうけど、中には缶コーヒー一本でまったく眠れなくなる人もいるらしい。
手軽に手に入るけど、れっきとした薬物ってことなんだろうな。

「……ねぇ澪、ちょっといいかな」
「んっ、何っ?」

律が声のトーンを落として言った。いったいなんだろう? こんな律は大体何らかの頼みごとをするときだ。

「えっとね。ほらっ、今日は二人きりじゃん? だっ、だから言いたいことがあったんだっ」
「なんだよ改まっちゃって。おまえらしくないな」

律は頬を淡く紅潮させ、なんだがモジモジしている。どうしちゃったんだろう、律。こんな律を見たのは初めてかもしれない。
なんというか――恋する乙女って感じだ。

まさか好きな人ができたとか言うんじゃないだろうか。ふふっ、まさかね。律ってば色気より食い気ってイメージだし、そんなことあるわけないか。
大体今まで浮ついた話なんて一度も聞いたことない。中学生の頃クラスの男子とウワサが立ったこともあったけれど、それは男子側の一方的な片思いだったみたいだし……。

「――あのねっ、澪。実は私っ、好きな人が……いるんだっ」
「えっ?」

――予感的中、そして茫然自失。あっ、あの律に好きな人って。まっ、まあ私たちも高校生だしっ、クラスの女子は何々高校の誰々君と付き合ってるとかなんとか聞くけどっ、よもやあの律にそんな人がいるなんてっ。
そもそも何処の誰っ!

この胸中にめぐる複雑な気持ち――この焦りと寂寞感――は何っ。なんだか胸が張り裂けそうっ!
わっ、私はなんて答えたらっ! とっ、とにかくあまり気にかけない素振りで対応するしかないっ!
 
「へっ、へ〜。そ〜なんだ〜。そっ、それで何処のどなたなのかしらん?」
「あっ、あのね。小さな頃からずぅっと仲良くしてきた子なんだ」
「なっ、なるほど〜。つまるところ幼馴染ってことかしらん?」
「――うんっ、そうなの。もうずいぶん長い付き合いになるな〜」

幼馴染っ! なんて甘美で幻想的な言葉だろうかっ!
りっ、律は多分そのシチュエーションに陶酔しているだけだっ! まっ、間違いないっ!

それにしても相手は誰だろう。私の知っている中で律の男のお幼馴染なんていないよな。
そもそも律と仲がいいなら、間違いなく私ともどこかで知り合っているだろうし。

――ひょっとすると親戚の男の子だったりするかも! まっ、まさか弟とかっ! ああっ、だめだ律っ! そちらに行くと甘く危険な近親相姦への道が拓けてしまうっ!
禁断の道を邁進する律を正さねばならないっ! 手遅れにならないうちにっ! それが幼馴染としての私の義務だっ!

「えっ、えっとだねぇ、律。ほら、幼馴染ってさ、長い付き合いの中でいいところもわかるけど、わるいところも全部わかっちゃうよねぇ」
「うんっ、そうだよね。その子ったら。真面目で実直で綺麗なんだけど、如何せん融通がきかない上に恥ずかしがりでさ。……そこがまた可愛いんだけどねぇ」

だめだっ、完全にノロケているっ! 私では手の施しようがないかもっ! 

んっ、でも律の弟は格好いいけど綺麗って感じではないし、どちらかというと元気でおちゃらけた感じだよね。となると弟の線は消えたか。
そもそも弟だったら幼馴染なんて言わないだろう。何考えてんだ、私。なんだか馬鹿みたいだ。冷静になろう、冷静に。

「いいところもわるいところも全部大好きっ! だって、私が本当に心を許せるのはその人だけなんだもんっ!」
「そっ、そうなんだ〜。あははっ、それは大したもんだ〜」

篭絡されきっている。返事がないただのオノロケのようだ。図らずとも律とそいつはある程度まで関係が進んでいることが推測される。
抱擁、キス、それよりもっと……。まっ、まさかその純潔すらも捧げて――

「りっ、律。その人とはもう付き合っているのか?」
「あははっ、実はまだなの。告白もしてないし」

暗雲立ち込める空に、一筋の光が差しこめるかのように心が晴れ渡っていく。どうやら律の片思いらしい。
しかし、油断は禁物だ。年頃の男なんてとどのつまり、学生たる身分の者にあるまじき男女関係しか望んでいないはずだ。いつその穢れた毒牙で、律を手にかけるか分かったものではない。
迅速かつ的確に特定せねばなるまい。その雄狼を……。

「でっ、どんな子なのっ?」
「えっとね、まず黒髪がさらさらっとしてすごく綺麗なロングなのっ」
「ふむふむ、長髪か。最近では珍しいな。それじゃ身長は?」
「わたしよりちょっと高いかな。まぁ案外高い方なんじゃないかな、うちの学校では」
「ほうほう、それなりに高いってことか。んっ、うちの学校?」
「そそっ。私と澪の通ってる桜が丘高校ねっ」

うちの学校は女子高だぞ……。まっ、まさか教師かっ! ああっ、やはり駄目だ、律っ。教師との恋愛なんて茨の道だぞっ!
気が付けば姦淫罪に手を染めていたなんてこともありえるのだっ。テレビのニュースや新聞記事などでも度々報道されているし危険極まりないっ!
ここはやはり私が正さねばなるまいっ!

「まっ、まさか先生なんてことはないよね?」
「そんなわけないじゃん! 私って同年代が好みなのよね」
「てことは……生徒? 桜ヶ丘高校の?」
「そーよ、しかも同学年ね。ついでに言うとクラスは一組なの」
「えっ、それってまさか……」

学生、しかも同学年……そればかりか一組だとっ! 律の一言を聞いたその刹那、心臓が高鳴り、はちきれんばかりに脈動しているのを感じる。
一組といえば私と和のクラスだっ! そして、律の幼馴染といえば……私っ!
複雑に絡まり合っていた糸が、一気呵成に解かれていく――

「りっ、りりりり、律っ! 駄目だ、そんなのは駄目だっ! わっ、わわわ、私は女でお前も女っ。そんなのはダメッ、ダメなんだよっ。たしかに律のことは好きだよっ! いっ、いやっ。好きっていっても、親友としてってことで、そのっ……!」
「――私は澪のことを愛してるよ。小さな頃からずっと。そう、初めて会ったときからね。最近になってその思いを隠し切れなくなってきている自分に気がついたの。澪を私だけのものにしたいって……」

律は頬を紅潮させ甘い声で私に囁いてくる。ああっ、私はどうすればいいのかっ! まさかこのような事態に陥ろうとは、まったくもって予想外だった。
そういえば律が先程「今日、両親がいないの……」なんてことを言ったとき、その調子に何か決意めいたものを感じた気がする。
まっ、まさか律っ、今晩私と一線を越えてしまおうという腹積もりではっ!

「あなたへの思いが歳月を重ねるごとにどんどん強くなって――もう、ただの幼馴染って関係には耐えられないの。 澪、これが私の気持ち――」
「ちょっ……律っ。おまえっ! わっ、私はまだ心の準備がっ」

ああっ、律の唇が迫ってくる。その頬は完熟トマトのように真っ赤だ。キスッ……律とキスッ!
私にはどうすることもできない。私にとって律は仲のいい幼馴染なのに!

律の顔が近い。もうほんの三寸先だ。ああっ、もうダメだ。もう後戻りはできないっ。
おそらく私たちにとってその関係は茨の選択となるだろう。軽音部のみんなになんて言えばいいんだ……(案外ムギは祝福してくれるかも)。

女の子同士での恋愛! 遠い世界の話って思ってた。しかし実際に自分が当事者になろうとは。
ああっ、今にも唇が触れる――

「りっ、律。私もお前のことが――」
「……ぷっ、くすくすっ」

なんだこの含み笑いは。

「あははははははっ! み、澪ったら顔真っ赤じゃんっ」
「えっ、何が起こっているんだ……」

私は呆気にとられた面持ちで律の顔をただ見つめていた。何がなんだか分からない。
まっ、まさか。さっきまでのは……!

「冗談だってっ! 本気でキスすると思ったのっ」
「冗談って。そのっ、律が私を好きだっていうところから?」
「そりゃ澪のことは大好きだけど、それはもちろん親友だからって意味よっ。恋愛とかそういう感情じゃないっての。もうっ、ほんとに澪ちゅわんたらイジリ甲斐があって楽しいんだからっ」
「……」

合点がいった。律お得意の子芝居だ。なんで私はいつもこんな手に引っかかってしまうのだろう。律の演技力が恨めしい。
とっ、とにかく乙女心を弄んだ罪は重いぞっ、律っ!

「律ーっ! おまえってやつはーっ!」
「ちょっ、やばっ。……逃げろっ」
「まてーっ、このバカーッ!」

そんなこんなで更けていく田井中邸での一夜だった。
もちろんその後、律の頭に大きなタンコブができたのは言うまでもない。

ああっ、それにしてもこのドキドキはなんなのっ。改めて感じたけどっ、私って本当は律のことが好きなんじゃ……。友達としてじゃなくて、そのっ、デートしたりキスしたいって意味で。
いやっ、そんなの違っ! ……けど、律に好きっていわれたとき、心の奥底で歓喜している私がいた。
――自分でも信じられない。私の律への執着心は友情からくるものだと思ってた。でもっ、それは違うのかも。
あーっ、もう! 私と律は幼馴染で親友で……そのっ!

もういいや、なんだか今日は疲れ果てた。早く寝ちゃおう――

悶々とした情を内に秘め、律のベッドで横になっている私。
傍らで安らかな寝息を立てる律の顔はどこか幸せそうに見えた。


おわり

このページへのコメント

28282828282828282828282828
不器用ながら百合百合な二人に乾杯!

0
Posted by kon 2011年07月24日(日) 00:22:40 返信

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

Wiki内検索

どなたでも編集できます