2chエロパロ板のけいおん! 作品のまとめサイトです。

著者:別2-52氏


私はボーっとした子供だった。
それは今よりもっともっと子供の頃からずっと言われ続けてきたことであったし、
それを否定することができないぐらいには私にもそういう自覚はあった。
だからだったのかもしれない。人が人を好きになる。
そんなあまりにも当たり前に起こることが、私には全くと言っていいほどに縁のない話だったのは。

人を好きになるというのはどういうことだろうか。
頑張りやさんで優しい憂のことは大好きだったし、いつも私のことを助けてくれる和ちゃんに憧れたりもした。
けれどそれは、クラスの友達がきゃあきゃあと騒ぎながら語らっている恋だの愛だのといった感情と同じものだとはどうしても思えなかった。

結局のところ、私はそういった感情を理解することもなく高校へと入学した。
入学したのが女子校だったことも相まって、その頃には私は、恋というものはグズな私には関係のないものだと半ば諦めてすらいたのだ。
なにも起こらない日常は嫌いではなかったし、軽音部でのギターとの出会いはそんな感情よりもずっと素敵なものに思えたから、
私はそれでもなんら悲しい気持ちになどなったりはしなかったし、それどころか恋に関する悩みなど頭からすっかり消え去ってしまっていた。

だから突然に訪れた「それ」が、私にはなんなのか分からなかったのだ。

いや、突然でもなんでもなかったのかもしれない。
単に気がついていなかっただけ。
もしかしたらそれに気がつくきっかけは何度もあったのかもしれない。
けれど鈍い私はそれができなかった。

あぁ、でも。それでも。そんな私だって気づいてしまったのだ。
いくら私が鈍くたって分かるのだ。目の前でキラキラと輝き続けられたなら嫌でも気づいてしまう。
そして、一度自覚してしまったならもう戻れなかった。
一つのことにのめり込んでしまう性質だとよく言われたのは確かで、私はすっかりと太陽を追いかけ続ける向日葵のようになってしまっていた。


『徒花の育て方』


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あっ。また欠伸した!

先生がカリカリと板書している数式にはさっぱり興味がもてなくて、私は何気なしにまた彼女の方を見やってしまっていた。
今やっている単元は苦手な三角関数だから集中しなくちゃいけないことは分かっているのだけれど、
何度黒板とにらめっこしても、よく分からない魔法みたいな数式に目が回ってしまう。

サイン・コサイン・タンジェント。なんだかとても可愛い響きなのにさっぱり意味は分からない。
そんなだから集中力なんて続くはずもなくて、視界の端に映ったピコピコ揺れる黄色のカチューシャばかりが目につく。

りっちゃんはぷるぷると頭を揺らしてなんとか意識をつなぎとめようとしていて、早々に興味を失った私よりはよほど真面目に授業を受けているようだ。
目をごしごしと擦ってなんとか眠気に打ち勝とうとする姿に、私はがんばれがんばれと心の中で声援を送った。

「平沢〜。なに明後日の方向みてるんだ?この問題分かったかぁ〜?」
「へっ!?ひゃいっ!!」

突然に降ってわいた言葉に思わず間の抜けた声を漏らしてしまう。
慌てて黒板へと目を向けたけれど、波みたいなコサインのグラフなんて私にはやっぱりさっぱりだった。

「θ=0で最大値1よ、唯ちゃん?」

ツンツンと背中をつつかれて変な声をあげてしまいそうになる。
ギュッと唇を結んでなんとか声を喉の奥に留めると、背中からムギちゃんの囁くような声が聞こえてきた。

「しっ、θが0のとき最大値1です?」
「んー、正解だな珍しい。」

ふーっと思わず溜息を吐く。
椅子へと腰をおろしながら、小さな声で「ありがと」と告げると、ムギちゃんはどこまでも暖かい笑みで返してくれた。
ちらりとりっちゃんへと視線を向けると、ちょうどニカッとした笑顔が私に向けられていて、心臓がびっくりするような音をたてた。


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「唯〜。さっきはどーしたんだよ?」

からかうようなニヤリとした笑みを湛えながら、りっちゃんはぐいと私の肩に腕をまわす。
耳朶まで燃えるように熱くて、呼吸が整わない。

「ちょっとボーっとしちゃってね!!えへへ…不甲斐ないであります、りっちゃん隊員!!」

照れ隠しにピシャリと敬礼をきめる。
だってほら、仕方ないんだもの。言えないもん…りっちゃんを見てたからなんて言えない。

「どうせご飯のことでも考えてたんだろ〜?」

りっちゃんはにひひといたずらっ子みたいに笑って、くしゃくしゃと私の髪を撫でる。
それは子供のような感情かもしれないけれど、私はこうされるのが大好きだった。
誰よりもりっちゃんの近くにいるような気分にさせてくれる。
もしかしたらこれが私に初めて生まれた独占欲というものだったのかもしれない。

「りっちゃんエスパー!?えとね、今日は憂が一杯玉子焼き入れてくれたんだぁ!!」

甘い甘い玉子焼き。黄色くてふわふわで、りっちゃんみたいだねって言ったら憂には笑われちゃった。

「わっ、いいなぁ!!うちにも憂ちゃん欲しいな〜。」
「あげないよっ!!」

思わずおっきな声がでてしまって、りっちゃんもびっくりした顔をしている。
ちょっとだけ。ほんのちょっとだけムッとしてしまった。
りっちゃんは全然悪くない。それなのに、前はもっと普通に返せた答えが上手く返せなかった。

「だっ、だって憂は私の自慢の妹だからねっ!!憂が欲しいなら漏れなく私もついてくるよ!!」
「よっしゃ、二人そろって貰っちゃおうか!!」
「えへへ…おねげーします。」
「いや、真面目に返されると…なんというか照れるな。」

りっちゃんはポリポリと頭をかきながら恥ずかしげに笑う。
ほんのりと桜色に染まった頬を見ていると、私の頬まで溶け落ちてしまいそうな熱をもった。

「あらどうしたの二人とも?」

ムギちゃんのほっこりとした笑顔が急に眼前に現れて、やっとこさ落ち着きを取り戻した。
よく分からないけれどとても恥ずかしいことをしてしまったような気がする。
ぐいと握りこんだ手の平はいやに湿っていて、なんとなく気持ちが悪かった。

「……?なんでもないならお昼にしない?お腹減っちゃった。」
「私もぺこぺこー!!」
「玉子焼きっ!!」
「玉子焼きがどうかしたの、唯ちゃん?」
「唯のやつ今日は憂ちゃんにたくさん玉子焼きいれてもらったんだって。」
「あらあら。よかったね唯ちゃん。」
「うん!!」

机をガタガタと動かして、そのままお弁当箱を広げる。
気がついたらお腹はぺこぺこで、くきゅうと情けない音をたてていた。

「わっ本当に玉子焼きいっぱいだ!!これはアレしかないな…。」
「…アレ?」
「そう、トレードだ!!伝家の宝刀エビグラタンを半分やろう。かわりに玉子焼き一切れくれ!!」

りっちゃんは箸できれいにグラタンを半分にわける。
ついっと持ち上げられたそれが私の唇の前で踊った。これを食べたら交渉成立。
少し前の私なら餌を眼前におとされた魚みたいに躊躇なくそれに飛びついていたのだろうけれど、
今はどうしてか余計な感情が頭に引っ付いて身体が動かない。

なぜかは分からない。いや、本当は分かっている。
多分これが恋をするということなのだろう。
気になってしまうのだ。たとえそれがどんなに些細なことであっても。
神経が自分のものじゃないみたいに過敏になっている。それも、ただ一人に対してだけの特別製だ。

ねぇりっちゃん。分かってるのかな?そんなことされちゃったら私の頭の中はアイスクリームみたいに溶けちゃうんだよ?
ジッと見つめていたせいか、私はりっちゃんの琥珀色した瞳の中で溺れてしまいそうだった。

「えっ?あれ?グラタン嫌いだった?」

おどおどと困ったような声。器用にグラタンを持ち上げたままの箸が所在なさげに震えていた。

「あっ、ううん。大好きだよっ!!ちょっとぼーっとしてた。」

えへへ…と頭をかいて、差し出されたそれに食いつく。
恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。けれど、どうしようもないほどに嬉しいんだ。
バカみたいに頬が熱っぽくなって、大好きなはずのほんのりと甘いクリームの味は全然分からなかった。

「おっしゃ、交渉成立!!これで唯の玉子焼きはFA宣言で私のお弁当箱所属にけって〜い!!」

りっちゃんはニッと笑いながら私のお弁当箱へと箸をのばす。
けれどダメ。そんなのはダメだよ。私はランチョンマットの余った部分をめくりあげて箸を遮る。

「バリアーだよ!!」
「むっ、まさかの裏切りだと!?どうしたと言うんだね唯隊員!!」
「えへへ、ちょっと待っててね?」

だってほら。悔しいんだもん。うん、悔しいんだ。
私ばかり恥ずかしい思いするなんてフェアじゃないよ。
少しでも。ほんの少しでもいいからりっちゃんにも意識してほしいんだ。
勝手に恥ずかしがって、勝手に悔しがるなんてカッコ悪い話なのは分かっている
けれど、それでもなにもしないわけにはいかなかった。

「りっちゃん、あーん。」

喜んでもらえるように一番大きな玉子焼きを選んだ。
少しだけ箸が震えているのは、多分気のせいじゃなかった。

「いっただっきまーす!!」

りっちゃんは勢いよく箸に飛びつく。なんだかそれはまるで仕掛けにかかった魚みたいに思えて可愛らしい。
むぅ。けどやっぱくやしいな。りっちゃんは全然気にしてない。
それどころか私の方が恥ずかしく思えてきてしまって、カァっと体温があがっていくのが分かった。

「うめ〜!!やっぱ憂ちゃん料理上手いよなぁ。うち冷凍食品ばっかだもん。」

りっちゃんはオーバーなリアクションで玉子焼きを飲み込むと、嬉しそうに憂のことを誉めちぎる。
ギュッと心臓をつかまれたように、胸が苦しくなった。
あぁダメだ。私嫌な子になっちゃってる。

いつもみたいに憂のことを自慢したい。大好きな妹なんだって胸を張りたい。
なのに粘り気のあるドロドロとした感情がべたりと頭の裏にはりついて邪魔をする。
憂の話なんてしたくない。聞きたくない。
自分の中ならそんな言葉が漏れだしてしまいそうで、私は思わず耳を塞いでいた。

「あのねっ…。べっ、別の話しよーよ!!昨日のテレビ見た?」

息の詰まりそうな澱んだ空気が私たちを覆ったのはほんの数秒のことで、瞬きする合間に空気はいつも通りに戻っていた。
鼻の奥では鉄の錆びたような臭いが立ちこめていた。


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「た〜だ〜い〜ま〜。」
「おかえりなさ〜い。」

玄関にぐてっと倒れ込みながら声をだすと、憂が迎えてくれる。
ギー太はやっぱり少しだけ重くて、ケースを肩からおろすとスっと身体が軽くなった。

「う〜い〜。」

そのまま私は憂に寄りかかる。
ギュッと憂を抱きしめると、私の中のドロりとした感情が溶けだしていく。
ごめんね。憂にいやな気持ちもっちゃった。
部活中ももやもやした気分で、ムギちゃんの持ってきてくれたマドレーヌもなんだか味のない紙でも食べている気分だった。

「お姉ちゃん恥ずかしいよぅ。」

憂の声は聞こえていたけど無視をする。
ごめんね。ごめんね。初めて知った恋なんかに振り回されたらダメだよね。
私もっと大人になるよ。

だって知ってるんだ。多分それが叶わないことを。
りっちゃんは私にはそんな気持ちないんだ。

この恋は実を結ぶことはないだろう。
けれど、でも。もしかしたら。そんな思いだけが私を動かす。
こんな感情は初めてだった。頑張りたい。りっちゃんに相応しくなりたい。
こんな状態でも少しずつ少しずつ大事に育てればもしかしたら実を結ぶかも。
今はまだ憂にも嫉妬しちゃうこともあると思う。けど、私も一歩ずつ成長してみるよ。

ねぇ。花はいつ徒花になるの?
それはたぶん諦めた時だ。徒花だって言われても、もしかしたら実を結ぶかもしれない。

だから・・・・・・

「憂!!玉子焼きの作り方教えてくれる?」

Fin.

このページへのコメント

唯頑張れ!

0
Posted by 名無し 2010年01月29日(金) 17:53:19 返信

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