2chエロパロ板のけいおん! 作品のまとめサイトです。

著者:別2-52氏


窓の向こう側を、まるでベルトコンベアに乗せられて運ばれていくみたいに住宅街が流れていく。
雑然とした街並みは次第に閑散とし始めて、列車が郊外にむけてひた走っているのが強く感じられる。

夏の盛りに通ったこの道は、すっかりとキツい日差しを失って、代わりにむわんとした落ち葉の匂いをした風が頬を撫でた。
ガタンゴトンと音をたてて進んでいた列車が、キィーと車体を軋ませて停車する。

「この列車も歳だなぁ…。」なんて言って彼女は笑っていた。

笑顔は少しだけぎこちなくて、まるで不安を埋めているみたいだ。
もしかしたら私は、随分と彼女に無理をさせているのかもしれない。ごめんね。

ありがとうと囁いてそのまま抱きしめてしまいたくなる。
あぁ、私の好きになった人はやっぱり、どうしようもないほどに優しかった。


『徒花の咲かせ方』


今回のことは、簡単に言ってしまえば全て私のわがままだった。
私が一人思い悩んで、そしてけじめをつけることを決めただけの話。
そのためにりっちゃんを…それとムギちゃんを巻き込んだんだ。

りっちゃんは旅の道連れ。
お願いだから一緒に来て。
告げた言葉はそれだけだったにもかかわらず、彼女はなにも言わずについてきてくれた。

そしてムギちゃんには宿泊地の提供を頼んだ。
旅の目的地は夏合宿に使わせてもらったムギちゃんちの別荘だ。
そこは私が彼女を好きになった場所。いや、正確には彼女を好きになっていることに気がついた場所だった。

高校に入学するまでの私の交友関係はわりあいと狭く、
そして偏ったもので、和ちゃんのように頼りになるタイプにいつもひっついていた。
いや、和ちゃんのようなタイプというかそれは実際に和ちゃんそのものなのだけれど。

憂も外見を除けば、私よりも和ちゃんと姉妹なんじゃないかと思うぐらいのしっかり者だったから、
実のところりっちゃんのようなタイプの友達は、私にとっては生まれて初めてだった。

ギュッと手を掴まれ、ぐいぐいと引っ張られて生きてきた私は、りっちゃんとの出会いでだいぶ変わったのかもしれない。
みんながみんな私の前を歩いているように見えていたのに、りっちゃんだけは気がついたら私の隣にいたのだ。

誉められたり窘められたりの付き合いには、
どこかいつも面倒を見てもらっているような感覚があって、私はずっと負い目を感じていたのだと思う。
だから、一緒にふざけたり、くだらないことでいつまでも笑ったり…
子供っぽくみえるかもしれないけど、それが私にはなによりも嬉しかったのだ。


こんな言い方をすると、私がりっちゃんを好きになったのは、まるで彼女が子供っぽかったからみたいに聞こえるかな?
けど、それも決して間違いではないようにも思えた。

りっちゃんと私には澪ちゃんやムギちゃんと比べて幾分か子供っぽい部分が強い。
仲良くなるうちに、澪ちゃんにもムギちゃんにもそれぞれそんな部分があることも分かってきたけれど、
それは普段は理性の裏側に隠れていてなかなか顔をだしはしない。

それに比べて私たちは、常にどこかでそれが顔をのぞかせていて、だからこそぴたりと気が合ったのだ。
どんなことでもりっちゃんとなら楽しくて、知らず知らずのうちにりっちゃんに話しかけることが多くなっていった。

私が漠然と持っていた恋というもののイメージは、ドラマチックで非日常的なものだったけれど、
どうやらそれは私には当てはまらないらしくて、想いは私の中でゆっくりと育っていたのだ。

夕ご飯のときの憂との会話で、りっちゃんのことを話すことが多くなっていたのだと思う。
憂が笑って、「お姉ちゃんは律さんのことが大好きなんだね。」なんて言うものだから、私の頭の中でぐるぐるとよく分からないものが渦巻き始めた。

それの正体はずっとずっと分からなくて、やけにりっちゃんのことばかり考えてしまう日々が続いた。
けれど答えは単純で、それを私は呆気ないほど唐突に理解したのだ。


りっちゃんが澪ちゃんのことを話すのが面白くなく思えた。

名前を呼ばれるだけで心臓がドクンと音をたてた。

夢の中ではいつもりっちゃんが顔をだした。

そして、浜辺で彼女を抱き締めたときに気づいた甘い胸の痛み。


これではまるで古典みたいな安っぽい少女漫画だ。
なんとなく疑念を抱いていたそれが実際に自分の身に訪れて初めて、私はお約束が確かなものに支えられていることに気がついた。

これはそういう感情だ。
私は恋をしているんだ。私はりっちゃんのことが好きなんだ…と。

それからは以前にまして物思いに耽ることが多くなった。
自覚というものは往々にして感情を強めるもので、勉強どころかギターにも手がつかなくなった。
欠かさなかった毎晩の自主練も気がついたらりっちゃんのことを考えていて、いっこうに捗らなくなった。

いくら私でもそれがよくないことだと気づかないはずもない。
私たちにとって一番のつながりである軽音部を蔑ろにすることは、
誰よりもりっちゃんが悲しむことだろうし、私だってそんなことしたくなかった。
けれど私が上手に感情をコントロールできるはずもなく、私の異変はあっという間に軽音部のみんなの知るところとなった。

不幸中の幸いだったのは、私のそれを問いただしたのがりっちゃんでも澪ちゃんでもあずにゃんでもなく、ムギちゃんだったことだろう。
私は生まれて初めてこの感情を他人に吐露した。
もしかしたら変だとか嫌だとか思われちゃうかもしれないという恐れはあったけれど、
相手がムギちゃんだと思うとなぜか抵抗なく言葉がこぼれた。

それに、一人で抱え込むことは私にはもう限界だったのだ。


ムギちゃんは私の不安とは裏腹に、普段通りの柔らかい笑みで私を抱きしめてくれた。
暖かくて柔らかくて、私がどれだけムギちゃんに救われたか分からない。
ムギちゃんが私のことを「全然変なんかじゃないし、むしろとても素敵よ。」と肯定してくれたのが、
今でも私の心の支えになっていて、それがなければけじめをつけようなんてことは考えられなかったように思える。

そう。私、平沢唯はこの旅でりっちゃんに告白する。
これはそういう旅だった。


「唯?お〜き〜ろ〜!!」

私の肩をぐいぐいとオーバーアクションで揺らしながらりっちゃんがそう声をあげていた。
どうやら緊張と疲労に負けて眠ってしまっていたらしい。

「ほら、早く降りないと電車でちゃうぞ!!」

私ははっと窓の外に目をやると、目的地の駅名が目についた。

「タイミング遅いよりっちゃん!!荷物荷物!!」
「私が持ってるからあとは唯だけだぞ!!早くしたまえ唯隊員!!」
「りょーかいですっ!!」

ふざけてる場合じゃないのかもしれないけれど、やっぱりこういう瞬間が一番幸せだ。
私の中では2割の期待と7割の不安、名状し難い残りの1割の感情がぐるぐると渦巻いていた。


--------
私たちは極めて普段通りに振る舞っていたと思う。
荷物を置いた私たちはさっそく海辺を走り回ったし、よく知らないところを探検するのは私たちの大好物だった。
さすがにもう秋も深まる時期だったから、泳ぐことはしなかったけれど、
これが2ヶ月前だったら間違いなく私たちは海へとダイブしていただろう。

夕食はカレーを二人で作って、私はこっそり玉子焼きもこしらえた。
私は憂に教えてもらって、最近は少しは料理をつくることができるようになっていて、多分食べられないものにはならなかったと思う。
玉子焼きとカレーって変だったな、と後から私は気づいたのだけど、
りっちゃんは「唯らしくていいと思うよ。」なんて言ってくれて、頬が熱くなった。
りっちゃんは私に旅の理由を問いただすことはなかった。


そして今、私は夜の浜辺に一人座っていた。
りっちゃんには少し遅れてきてもらうように頼んだから、随分と心を落ち着かせることができたように思う。
いや、嘘をついた。落ち着くなんてできるはずもなくて、痛いぐらいに胸が締めつけられている。
早く来てほしい。けれどずっと来てほしくない。
相反する感情がすっぽりと私の中に収まっていた。

「待たせたな、唯!」

ボーっとしていたせいか、背後から抱きしめられて初めてりっちゃんの存在に気づいた。
りっちゃんは私のお腹のあたりをくすぐると、満足したのか私の隣に腰をおろした。

「あっ、りっちゃんも入りなよ。」

私はもってきた薄い毛布の中にりっちゃんをまねく。
昼にすら涼しさを感じるようになったぐらいだから、やはり日が落ちると一気に冷え込んでいた。

「悪いな唯…おじゃましま〜す。」

りっちゃんの体はぽかぽかしていて、心地よい。
あぁ、私は今から勇気を振り絞らなくてはならないのだと思うと心臓が止まりそうになる。

「でっ、唯…あのさ、えと。話でもあるのか…?」

りっちゃんが今日初めて投げかけた問だった。

「あれがね…ペガサス座の四辺形。あっちがアンドロメダ座…」

「唯…?」

「それであれがうお座で、あの中の眩しいのが…えと、なんて言ったっけかな?そ
だ、フォーマルハウトだ!!」

「星座…?」

「りっちゃんもあれは分かるでしょ!!だぶりゅー!!」

「うん、知ってる。」

「「カシオペア!!」」

しばらく沈黙が場を席巻して、そしてどちらからともなく笑っていた。


「唯は星座…詳しいのか?」

くりくりとした瞳が私へと視線を送ってくる。
なんとなく緊張したような雰囲気の抜けた、私の好きな琥珀色の瞳だった。

「えとね…今日のために勉強した。」

なんでもいいからしたかった。少しでも私のことをいいと思ってほしかった。
それはただ、二人きりになったとき言葉が詰まってしまうのが恐くて、話題を探
していただけなのかもしれない…あとは最後の隠しだまだ。

「へへ…憂に教えてもらったりしてね。」

私はしまったと思った。けどそれは遅かった。

「やっぱり憂ちゃんすげーな!!ほんと、よくできた妹がい…「憂の話はやめて!!」

私は思わずりっちゃんを押し倒して、言葉を遮っていた。
きょとんとした双眸が私を見つめていて、体に穴があいてしまいそうに思える。
自分から憂の名前をだしたのに…また私は嫌な子になっていた。

「あのね…私話さなきゃいけないことがあるんだ。」

りっちゃんがごくりと唾をのんだのが分かった。

「私はね…」
「流れ星だ…。」

りっちゃんがぽつりとそうつぶやいた。
あぁ始まった。私の少しだけのロマンチシズム。
私の背中ではオリオン座流星群が天蓋から零れ落ちていた。

「唯…あのさ。私も言わなきゃいけないっていうか、私が言わなきゃいけないっていうか…」

りっちゃんがどもる。
私はただこくりと頷いた。

「えとさ…唯?私…唯のことが好きなんだ。」
「へっ?」

思わず間の抜けた声をあげてしまった。
りっちゃんは今なんて言った?りっちゃんは今…

「もいっかい。」
「私だって恥ずかしいんだぞ…。唯のこと好きだ…。」
「もいっかい。」
「やだ。返事くれる?」

聞き間違いなんかじゃなかった。それは確かだった。
嬉しさよりもなによりも、驚きがただ私の胸を満たしていた。


「どこが好き?」
「唯って意外とS…?あの…合宿したじゃん私たち?」

こくこくと首だけふって続きを促す。

「花火の中でギターひいてる唯がすげー綺麗でさ、あの…好きになった。」

えっ。それは。それは…りっちゃんの言葉は、一年の夏合宿のものだった。
私がりっちゃんを好きだと気づいたのは今年の合宿だ。
つまり…りっちゃんは一年以上私を好きでいてくれてたってこと!?

「りっちゃんってさ…へたれだね!!」
「ばっさり言いやがった!!」

りっちゃんは若干涙目になっていて、可愛らしい。
私はごくりと息をのむと、腕の力を抜いてりっちゃんに身体を重ねた。

「私もね、りっちゃんのことが好き…大好きなんだ!!」

私たちの上では流星が夜空をうずめていた。


誰かの心なんてわかりっこないのだ。
実らないと思っていた花が実を結ぶことだってある。
だから・・・そう。私は今日もりっちゃんとそう名前を呼ぶのだった

Fin.

このページへのコメント

感動ものだね^^

0
Posted by 鏡ちゃん 2010年02月13日(土) 16:17:28 返信

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