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著者:2-10氏


「澪ちゃん、りっちゃん、ばいばーい。」
「また明日ぁ。」
校門で手を振って、唯とムギにさよなら。 澪と並んで、帰り道を歩く。
夏がじわじわ近付いてきてるね。 6時になっても、まだ明るい。 ててて・ててて。 ててて・ててて。

「おーい、なんだその変な歩き方。 速いって。 こっちは楽器持ってるんだから、気を遣えよ。」
「私もスティック持ってるよ。 おあいこ!」
「ちっともおあいこじゃない! そんなもんが重いなんて何処のお嬢様だ、あんた。」
赤信号で待ちぼうけ。 追いついてきた澪に小突かれる。 右折信号が終わるのを待つ、このちょっとした時間が私はきらい。
黄色に切り替わるのを、ずっと見張ってる群集。 一様にむずむずした他人たちが、同じ場所に佇んでいる。
どかんと爆発させてしまいたいよね、そういうの。 信号が青に変わって、平和なメロディが流れる。 ててて・ててて。

「さっきの曲だけどさー、ちょっとサビ弱くない?」
「やっぱりそう思う? でも、バランスとしてはこれくらいが落とし所なんだよね。 詞の詰め方いじってみるかなぁ。」
「あーあ。 澪が投げキッス嫌がらなかったら、こんなにインパクトで悩まなくていいのに。」
「投げキッスは関係ないだろ!! 音の話をしてるんだ、音の!」
真っ赤になって澪が怒る。 曲が終わった時に、唯と一緒に投げキッスしろって言っただけでこの通り。
ガールズバンドなんだから、それくらい。 唯なんて、自然にしてるだけですっごくガーリーだぞ。 澪も頑張んないと!

「私の事はどうでもいいだろ。 律こそ、間奏バラついてる。 綺麗に間隔取らないとかえって息苦しいよ、連符は。」
「だって、連符ってキライなんだもん。 お洒落なリズムで生きてます、って主張してる感じで。
 すかしてるよ。 やっぱ、だだだだだ、って感情の赴くままに連打してこそのドラムだと思うわけですよ!」
「こら、律。 連符はね、恋の符とも書くんだぞ。 そう。 恋のリズムは、いつだって三連符なの……って。 あれぇーー!?」
タイ焼き屋で立ち止まって、クリームとつぶあんを購入。
モグモグ口を動かしながら、一人で歩き去る澪を眺める。 気付くの遅っ。 猛ダッシュで戻ってきた澪は、ちょっぴり涙目だった。

「ひひひ酷いじゃないか律! 一人でブツブツあんな……物凄く恥かいちゃったじゃないかぁーー!!!」
「安心して、澪。 私が隣にいたって恥ずかしい奴なのは変わらなかったよ?」
「だまれ!!」
ごふっ。 八つ当たりパンチがおへそにヒット。 口からモロッと食いかけのタイ焼きがこぼれる。 は、腹が……。

「わわっ! ご、ごめん律。 大丈夫か?」
「は、はみでた……お腹のあんこ……。」
こぼれたタイ焼きを指し示す私。 目を丸くして、ちょっぴり止まって。 澪がぷふっと噴き出した。 あはは、と二人で笑う。
五月の、とても優しげな黄昏。 足元の影が長く伸びる。 見慣れたこの街の景色が好き。
子供の時から変わらない夕焼け。 隣にはいつも澪。 だから、言わなきゃ。 この景色を。 もう見る事は無くなるんだ、って。

「……大学行かないってどういう事だよ。 私てっきり、律も進学するんだと思ってた。」
もう子供はみんな家に帰ったのか、誰もいない公園を横切りながら、不機嫌そうな澪の声を聞く。
小高い丘になってて、街を一望できるこの道が、私は大のお気に入り。 こんなに素敵なのに、いつも人通りが少ないのを不思議に思う。

「もともと頭の出来違うし、どうせ進学しても大学は別だったよ。 私ね、アメリカ行くんだ。 って言うかさ。 結婚する。」
「アメリカ!? けっっ。 けっこんーーーーー!!??」
思いのほかデカイ声にビクリとする。 やっぱり、こういう反応だったか。 分かりすぎるってのもつまらないね!
なんて。 本当は、つまらなく、ないけど。 飽きないけど。 嬉しいけれど、さ。

「けっ、結婚って。 何だよそれ。 何も聞いてないぞ。 いつ決めたわけ? 決める前に、一言くらい言ってよ!」
「だってこうなるの分かってたし。 なに、澪? 私がいなくなるから、寂しい?」
「茶化すなよ!!! ……律が決めたんなら、尊重する、けど。 一言。 相談してくれてもよかったじゃないか……。」
「でもさー、私くらいになると格好良い男の人、よりどりみどりじゃん? 恋人とか作る時、いちいち相談する?」
「恋人と旦那じゃ重さが違うだろ!! 結婚なんだぞ。 一生、その人と添い遂げるんだぞ……。」
いまどき、一生も無いよね、とか。 言えなかった。 私だって、そう思う。
恋は幸せであってほしい。 愛なら、なおさら。 切なくて、身を切られるような恋は、まっぴら。 なのに。

「……尊重、か。 あたしは。 いま澪が結婚するなんて言ったら。 ……泣いちゃうな。」
ひょいっと段差ブロックの上に飛び乗る。 子供っぽいかな? ま、いいんです。 高校生。 全然子供だもん。
背の低いあたしでも、こうすれば澪と同じ景色が見える。 今は澪と同じ目線で、いたかった。

「うん。 泣くだろうな。 誰だよお前、って。 勝手に澪を取っていくなよ、って。 腹が立って。 悲しくて。
 いつでも隣にいた人が、私の事なんか忘れて、幸せそうにしてるんだ。 うん。 泣いちゃうな。 そんなの、辛い。」
「……なんだよ、それ。 自分はそうした癖に。 もう勝手にしてよ。 どこへでも行っちゃえ!!」
本気で怒っている。 これまで見た事が無いくらい、本気で。 澪の目が赤いのは。 夕暮れの、光の加減のせいなのかな。
段差が終わって、下り坂。 ててて・ててて。 小走りにならないようペースを抑え込む。
あーあ、癪だなあ。 気付いちった。 この歩き方、三連符だ。 澪の言葉を思い出す。 あーあ。 知りたくなかった。

「嘘だよ。」
「え?」
「結婚するなんて、嘘。 澪の反応見てみたかったからさぁ。 あっはは! すっかり騙されてやんの!」
けん、けん、ぱっ。 踊るように坂道を下る。 平衡感覚が狂う。 でもいいや、それで。 やってらんない。
振り返れば、これまで見た事が無い記録、更新。 怒りにうち震える澪が、掴みかかってきた。 殴られるかな。 それでもいいな。

「律!! ふざけるな!!! 言っていい冗談と悪い冗談……が……。」
急速に勢いを失っていって、黙り込んだ澪。 あれ。 ちょっとちょっと。 そこでやめないでよね。 拍子抜けしちゃう。
そこは、思いっきり引っ叩いてくれないとさ。 もう。 これ、さ。 誤魔化せないよ。

「り……つ……。」
ぽろぽろ。 ぽろぽろぽろ。 ぼろぼろ。 だめだ。 もうだめだ。 必死の抵抗も虚しく、涙の粒を零しだした私の瞳。
だめだよ。 明るく言わなくちゃ。 恋は、幸せでなくちゃ。 こんなの。 まっぴらだよ。

「……本当なの? 本当に結婚しちゃうのか、律? ううん、そんな事より。 ねぇ。 なんで、泣くの。
 ひょっとして……幸せじゃない、の? なんで? どうしてそんな奴と! どういう事なんだよ、律!!」
人も。 自転車も。 車だって通らない。 近くの家は、今ごろ家族団欒でもしているのだろうか。
誰も私たちに気を留めない。 私を見てるのは、澪だけ。 誰に憚る事も無い。 だから私は、思いっきり泣いた。

「……お、お父さんが電話してるの、偶然聞いちゃって。 借金とか、なんとか。 アメリカで、心機一転、とか。
 電話の向こうに何べんも頭下げるんだ。 こんなの。 シリアスすぎて笑い話にできない。 できないよ、澪。
 それ以上聞きたくなくて、そこから逃げようとしたら、聞こえたんだ。 お、お父さん。 相手に。 律を、どうぞ、って……。」
ぶちまけた。 いつまでも隠せない。 ずっと一緒にいた澪だから。 一緒にいられないって、言わなきゃいけないから。
それもやっぱり、私、お父さんが大事なんだ。 背中を、優しく撫でてくれる手。 背、高い。 こいつ、本当に大きくなったなぁ。

「ね、澪。 一個だけ。 わがまま言っていいかな?」
「一個でも、何個でも。 私にできる事なら何でもする。」
「……。 一個だけ。 ちょっと、かがんで。」
こういう所、本当に澪はいい奴だ。 もう、一緒にはいられないけれど。 頼むよ、神様。
あなた、ちょっと意地悪だけど、これだけは本当に頼むから。 澪だけは。 どうか、幸せな恋をしますように。
少しだけ、膝をかがめた澪。 少しだけ、爪先を伸ばした私。 私は自分の唇を、ほんの僅かの間だけ、澪のそれに重ねた。

「……忘れるなよ、私のこと。 ずっと。」
友達だから、と言おうとして。 その言葉を飲み込んだ。 本当に言いたい言葉と、違うから。
呆けたような表情の、澪。 瞳を逸らさないで、私の事を見つめている。 さっきも、目を閉じていなかったのかな。
急に気恥ずかしくなって、背を向けて歩き出そうとしたら、がくんと止まった。 手。 いつの間にか、手を握っていたみたい。

「……おじさん、何時ごろ帰ってくる?」
「え。 たぶん、夜遅くだけど。 ……あのさ。 何考えてるの、澪。 お父さんに、何の用?」
「殴るのに決まってるでしょ!!! 許せないよ!! 絶対に!! 律を何だと思ってるのよ!!!」
唐突に噴出した激情に、こちらの方が驚かされた。 澪。 怒ってるなんてもんじゃない。
ベースを下げる手に力が込もっているのを見て、やばい、と思った。 こんな物で殴られたら、お父さんが死んでしまう。

「み、澪。 そりゃあ、私だって悲しいけれど。 暴力はよしてよ!」
「……じゃあ携帯。 携帯出して。」
「え、あ、うん。 はい。」
剣幕に押されて、思わず携帯電話を渡してしまって、あっと気付く。 しまった。 こいつ、まさか。

「……あ、もしもし。 律のお父さんですか? ご無沙汰しています。 律の友人の、秋山です……。」
「ちょ、ちょっとちょっと澪! 何してるんだよぉーーー!!!」
本当に、追い詰められたこいつは突拍子も無い行動を取る。 こいつ。 お父さんに直談判する気だ!
取り返そうとすると、澪が突然走って逃げた。 おっ、おい! やめてよ! 移動しながら、そんな話。 晒し者じゃんかよー!

オレンジ色の光の中、おっかけっこ。 背の高い奴は、ずるい。 一歩が、微妙に大きいよ。
何も無かった場所を抜けて、段々と商店街へと近付く。 流石に人も増えてきて、走る私たちを何事かと振り返る。
流れる黒髪が、陽光に晒されて綺麗。 こいつ、アドレナリン出すぎ。 怒鳴りながら走ってる癖に、ちっとも追いつけやしない。
あっ。 角、曲がるなって。 見失っちゃうだろ。 右、左、右。 ジグザクに商店街を走り抜ける。
こら、やめろ澪! これは目立つ! 目立ち過ぎる! 何度目の角だろう。 ぐるっと曲がった所で、私は人にぶつかった。

「あたっ! すっ、すひっ、ません!」
「いえ、こちらこそ……って。 ……律……。」
へっ。 ぶつかった相手は、澪だった。 え、何? どうしちゃったんだ? 今までの勢いはどこへやら。
息を切らした澪は、その場に茫洋と立ち尽くしていた。 私も息が切れて上手く喋れないけど、それでも何とか澪に詰め寄る。

「ちょ、ちょっと、澪。 あのさ。 とりあえず、携帯……返せ……。」
「勘違い……だって。」
「はぁ?」
「律じゃなくて、州立。 借金じゃなくて、シェーキーズ。 アメリカに行った同僚と、学校の話をしてただけ……だって……。」
「…………は?」
なに。 なに、それ。 ひょっとして、私。 そこは丁度、誰もいないバス停で。 私たちは二人揃ってベンチにへたりこんだ。

「どうしてくれるのよ! あんな物凄い剣幕で詰め寄って! 今度から、どんな顔しておじさんに会えばいいのよ!」
「悪かったってばぁ……。」
並んで力無く歩きながらも、澪の口撃は衰えない。 ここまでもの凄く長く感じたけれど、太陽はまだ沈んでいなかった。
赤い、赤い、夕焼け。 それを綺麗と感じる心に、さっきまでのような余計な感傷は消えていた。 あぁ。 本当に、よかった。

「そもそも普通に考えて、律なんか売り渡しても、相手は全然得しないわよね。 なんで気付かなかったんだろう、私……。」
「おい!」
ぽこっと、やっぱり力無く突っ込む。 かんかんかん。 踏切。 家までもう少し。 そう言えば、私。 まだお礼言ってなかった。

「ごめん、澪。 ……ありがとう。」
「……い、いや。 別に、いいけど。 律にビックリさせられるの、慣れてるし。 勘違いで、よかったよ。」
「うん。 よかった。 あ、澪。 くちびる、餡子ついてるよ。」
「え? 餡子なんて食べたっけなぁ……。」
そこまで言って、澪が突然赤面する。 私もハッと気付いて、赤くなる。 この餡子。 多分、さっき。

「そ、そう言えばさ、律さ。 その……さっきの、あれ、なんだけど。」
指で拭った餡子を舐め取る澪。 グロスもつけてないのに、艶やかな唇。 柔らかいのも、知ってる。
赤くなって言いよどんでるのは、多分。 ……うっ。 うぁ。 あああぁぁ!!! 急に恥ずかしさが込み上げて、走る。

「あ! お、おい律! 一人だけそっち行ってどーすんだよー! ここ、しばらく開かないんだぞー!」
踏切が閉まる前に、ダッシュで渡る。 踏み切りの音に掻き消されないように、大声で叫ぶ澪。
朝夕はここの踏み切りはちっとも開かない。 だからこの時間は、誰もこの踏切を使わない。 私も大声で叫び返した。

「みっ、澪、あのさ。 私、頭冷やすから! 今まで通り相手してよ! 忘れて! これまでみたいに、したいから!!」
「え!? ちょっと、律!!!」
叫んだ後で、声に思いのほか切迫した調子が篭ってしまったのを、恥じる。 考えるヒマが無かったけれど。
澪はアレをどう思うだろうか。 嫌悪、しないだろうか。 逃げ出そうとした瞬間、背中に投げつけられた声に、思わず立ち止まった。

「律! こっち向け!!」
怒ったような、声。 振り返れば、腰に手を当てて仁王立ちしてる澪。 電車が、近付いてくる音。
やっぱり怒った感じの顔は、夕日に照らされて真っ赤なほおずきのよう。 何だよ。 電車、来ちゃうよ。 早く言えよっ。

その時。 むぐぐ、としかめ面をしていた澪の左手が、唇に当てられて。 ちゅっ。 確かに聞こえた。
私に向けて、放り投げるように突き出される白い腕。 え。 これ。 これ、って。 がたんごとん。 がたんごとん。
電車が通り過ぎても、まだ私を睨み付けている澪の顔。 所在無げにしていた指先を、私に向かって突きつける。

「こら律! 勝手に、決めるな! 私は、やったよ。 恥ずかしくても、投げキッス! バッチリやったから!
 今の私以上に恥ずかしい奴なんて、いなぁーい! だから。 あんたも逃げるな、律! 戻って、こぉーーい!!」
ぽかんと、する。 あの澪が。 接客さえできない、恥ずかしがり屋の澪が。 こんな大声出して。
私に、投げキッス、した。 ぷああああ。 がたんごとん。 二台めの電車が行き過ぎる。 はは。 あはははは。

「……おーい、澪ーーー!!!」
「何よ!!!」
「この踏切、当分開かないよー! ……でも。 踏切上がったら、言いたい事、あるから。 待ってて、くれるーー??」
「……待ってるから。 間奏でも、練習、してなさーい! 遮断機のリズム。 三連符でしょーー!!」
かんかんかん。 電車が通り過ぎるたび、合わさる視線。 待ってる。 待っててくれてる。 まだかな。 まだ開かないかな。
間奏、ね。 もう練習しなくたってばっちり。 自分で言ってた癖にさ。 理由、分からないかなぁ?
言いたい事、いっぱいある。 でも、まずは一つ、ちゃんと言おう。 よく考えたら、それ。 一番最初に言う事だった。

湿り気を含んだ風。 あぁ。 そろそろ夏が来るんだ。 私の世界も、少しばかり眩しくなりそうな気がしてる。
かんかんかん。 邪魔っけな踏切。 でも、いいや。 この踏切が上がる時。 何か素敵なこと、始まるような気、してるんだ。

このページへのコメント

上手い

0
Posted by 777777 2011年04月16日(土) 16:20:07 返信

いいよー

0
Posted by 名無し 2009年09月25日(金) 01:20:13 返信

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