2chエロパロ板のけいおん! 作品のまとめサイトです。

拝啓。
 蝉の煩さが、ようやく気にならなくなってきました。過ごしやすいか否かと問われると、まだ首を傾げたくなるような不快指数ですが。ジメジメとした蒸し暑さは、ようやくのことなくなりました。しかしそれでも、残暑の厳しい毎日です。さて、いかがお過ごしでしょうか? 元気でいるのなら、私も嬉しいです。
 欠けボタンみたいに転々として浮かぶ雲が夕焼けに一面染る景色に、ベランダでふと見惚れていたとき、貴方に手紙を送ることを、忽然と思いつきました。ですので、こうして筆をとって、拙い文章ながら、自分の心の出来るだけありのままを、紙面に移し出そうと今、必死で足掻いております。ですから、もし不手際等、失礼な所ありましたら、どうぞ気になさらずにいてくれると嬉しいです。私の学が無い所をひとつ笑ってもらえて、それで終いにしてもらえたら幸いです。
 貴方と会わなくなってから、そろそろ一年の月日が経ちますね。この一年、貴方はどんなふうに過ごしてきたことでしょう? 私には、その姿が上手く想像できません。だって、それも当然です。小学校に入学して、泣きべそかいてたあの頃から、高校の卒業式に至るまで、私はずっと、貴方と共に時間を過ごしてきたのですから。片時も離れず、私は貴方の後ろにくっついてばかりいましたね。高校の頃、私はよく貴方に向かって、口をすっぱくして説教みたいにこんなことを言っていたのを思い出します。
「律、お前はもうちょっと、自立しろ」……なんて、生意気に上から叩いていましたね。
 けれども、今にしてなんとなく、思うのです。
 あの時、本当に自立出来ていなかったのは、むしろ、私の方だったのではないかと。
 貴方って、自分の優しさを隠す天才なんだと、私、最近思うんです。
 あの頃の私は、まだまだ子供で――もちろん今だって、大人になり切れていない部分もたくさんあるのですが――ずっとずっと、貴方より未熟でした。なにせ、他人に頼りきって生きていましたから、そうなるのも仕方ありません。あの頃の私は貴方よりも、ずっと子供でした。貴方の隠された優しさの片鱗に、気づくことは少しもなかったのです。
 私が困っているとき、本当に傍にいて、道化を演じて、私を笑わせてくれたのは、他の誰でもない、貴方でしたね。私が寂しくて泣き出しそうなときに、いつも一番に駆け寄ってくれたのは、他の誰でもない、貴方でしたね。私が辛くて、どん底に落ち込んでいるとき、ただ一人私のことを最後まで勇気づけてくれたのは……他の誰でもない、貴方だったということに、最近ようやく気づき始めてきたんです。
 大学生活は、どうですか? 貴方のことだから、持ち前の優しさと、寛大さで、すぐに友人も出来ているのでしょう? 合コンとか、飲み会とか。そういうことに精通してそうな貴方が、目に浮かびます。
 そんなふうに貴方が、私を置いて新たな友人たちに囲まれて幸せそうに笑顔でいるところをひとり想像すると、はっきり言って、私はたまらなく苦しくなります。寂しくなります。辛くなります。貴方は私を置いて何処までも幸せそうに、笑顔でいるのですね。私は貴方から、未だに自立出来ていないのでしょうね。だからこんな、くだらない塵紙同等のような手紙を書くことになるのです。たらたらと、あの満ち足りていた頃の未練ばかり綴って、貴方に八つ当たりしようとしているのです。こんな私を、どうか許さないでください。そしてどうか、嫌いにならないでください。
 ここまで書き綴った辺りで、あれ? 私は結局のところ、何が言いたかったのだろう? この手紙に載せて、何を貴方に伝えた
かったのだろう? とひとつ、悩み始めました。
 そして今しがた、その答えが出たところです。
 対抗するわけではないのですが……上記では、つまらない未練ばかり垂れていましたが……勘違いしないでください。貴方と一緒で私だって、今も十分に、大学生活を満喫しているところなのです。友人も、何人か気軽に話せる人たちが出来ましたし、恋人だって、この春に別れてしまいましたが、一応いました。
 ……嗚呼、恋人という単語で、ひとつ思い出したことがあります。私、ひとつ面白い話を思い出しましたよ。もちろんそれは、私にとって面白いというだけの話であって、貴方にとってはどうなのかわかりませんが、まあ、不愉快になることはないと思います。どうぞ読み進めてください。
 私、この春まで恋人がいたんです。そのことはもう言いましたよね?
 けれど、別れてしまったのです。原因は、私の方にあります。……では、その別れるきっかけとなった理由は、一体どういうものだか、貴方、想像がつきますか?
 多分、到底つかないことと思います。ええ。……では、答えを言いますね。……それというのも、彼が言うにはね、私は、心で浮気していたらしいのです。


「君は、他に好きな人がいるだろう? 僕にはわかる。その人がどんな人かまではもちろんわからないけれど、君はその人のことを、今も深く愛して止まないはずだ。よって君は、実際に浮気はしていなくとも、心の中では、立派な浮気を働いているんだよ。心あたりがあるだろう? ……それをただ見ているしかない僕の気持ち、君に、わかるかな」


 そんなふうに言われて、そのまま、彼と別れてしまいました。
 それでね、私ね、そのあと、珍しく一人でお店に入って、お酒を飲んだんです。テキーラばっかり、延々と飲み続けて……そして、自棄酒したんです……。
 別に、彼と別れたのが悲しいわけでも、辛いわけでもなかったんです。
 ただね、ひとつだけ、とっても悔しかったことがあって。
 それはね、彼みたいな人に、私の胸の内を、完璧に見抜かれていたこと。
 他に愛している人がいることを、見抜かれたこと。それだけは、もうやるせない程悔しくて、虚しくなったの。
 それで、そんな思いから、ついついその日は、テキーラをもう歩けなくなるくらいまで飲んでしまって、とっても汚い話ですけれど、私、そのまま道端に、思い切り吐いてしまいました。
 やたらに息が切れて、涙が出そうになったときに、ふと後ろを振り向くと、ビルとビルの谷間から、朝日がひょっこり顔を出していて……そのときにハッとして思ったことは……私はこの世界で、たった一人きりになってしまったんじゃないか、なんてこと。まるで世界はみんな、私ひとりだけを残して、何処か遠くに逃げ込んで、物陰から私の挙動をジッと見張っているんじゃないか、なんてことを、思ったんです。それも、かなり本気で思いました。多分あのときの私は、半分気が違っていたのではないかと思います。
 そのときに、不意に、貴方のことを思い出しました。
 恐らく、偶然ではないと思います。
 こうして長々と手紙を書いてまでして、私が貴方に改めて伝えたかったこと……わかってくれましたか?
 わかってくれたのなら、貴方と私はもう、二度と会うことはないでしょうね。
 さようなら。

敬具。

このページへのコメント

澪は律の事が好きなんだな。
律なら澪の事追いかけてくれると思う。

0
Posted by 鏡ちゃん 2010年01月10日(日) 19:34:52 返信

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