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著者:4-322氏


春に梓の歓迎会を兼ねてみんなで来たアイス屋の前で、ベンチに腰掛けた二人の間の僅かな隙間を、何やらまろやかな時間が過ぎていく。
「んふ、美味しぃ〜」
唯は、トリプルアイスの上から大きくかぶりつき、口の中で溶かしながら、甘ったるいほどに幸せそうな息をついた。
そんな様子を見た紬もまた微笑む。
唯のものと比べれば大分小さめのものが二つ重なったアイスを、紬は小さく舌の先を出してのんびりと舐めている。
たまに冷たさを思い出したようにびくりと舌が振るえたかと思うと、味を確かめるように目を硬く閉じる。
「本当、甘くて素敵。ちょっぴり冷たいけど」
夕暮れ時、夏の盛りを過ぎたとはいえ、練習で汗をかいた身体にアイスの冷たさが心地良い。
ようやく安心した、というように二人目を合わせて笑う。
みんなと過ごす部活の時間は二人共にとって楽しみなものであったが、今では少し物足りなくもある。
それは、部活に対する不満というわけではなく、ただ要するに、
「……二人の時間、なかなか取れないわね」
文化祭に向けて練習に力も入れなくてはならず、二人で過ごす時間は週末にしか取れなかった。
せっかく同じ学校に通い、同じクラスにいるというのに……あまりにももどかしかった。
「そうだねー……」
ままならない環境に、揃って盛大なため息をついた。
「あっ」
その拍子に、紬の手元からアイスが一つ転がり落ちる。
ぺしゃりと小さな音をたてて潰れると、ふわりとバニラの香りが広がった。
紬は残念そうに、アイスがアスファルトに染み込んでいく様子を見つめていた。
唯は、自分と紬の手元をそれぞれ見比べ、大きく一つ頷いた。
最上段を片付けると、二段目のチョコアイスを無造作に指でつまみあげる。
「むぎちゃん、それ、ちょっと貸して」
その声に顔を上げた紬の、随分と貧相になってしまったアイスの上に乗せた。
「……唯ちゃん?」
三つ重なったアイスを受け取る時、あんなに嬉しそうに目を輝かせていたのに。
本当にこのままもらってしまっていいのかな、と目配せをしても、
「えへへ」
唯はといえば、満足気に頬を緩ませ笑っているだけだった。
「ありがとう、味わって食べるね」
紬のその言葉に満足そうにもう一度頷くと、唯は残った自分のアイスをあっという間に平らげてしまっていた。
暇を持て余すようにぷらぷらと揺れる唯の足が視界に入ると、つい普段よりも急がなければいけない気になってしまう。
ようやくあと少しというところまでやってきて、視線を感じてふと唯の方を見やる。
すると、今にもよだれをこぼしそうな様子で紬の方を、正確には紬の手元を凝視していた。
じゅるりと一息、すする音。


「……食べる?」
唯は目を輝かせ、上下にぶんぶんと首を振る。
豪快に一つ差し出したものの、結局人が食べているのを見ていると我慢できなくなってしまう唯を可愛く思った。
だからつい意地悪をしたくなり、紬は人差し指でストロベリーアイスを掬い取ると、唯の目の前に差し出した。
「はい、召し上がれ」
言うが早いか、唯は食らいつく。
吸い付いたまま舌を指に絡ませ、指の腹から、爪の間まで丁寧に舐めとっていった。
その様子を、紬はうっとりとした目で見つめていた。
満足した紬がコーンごと唯に差し出すと、これもまたあっという間に食べてしまう。
「待たせちゃってごめんね。行こうか、唯ちゃん」
左肩には鞄を抱え、右手を差し出す。
繋いだ手は同年代としては少し小さいように感じられるほどだったけれど、その温もりは他の何からも得られないことを改めて感じた。
すがるように手を引かれ、負けじと紬も握り返した。
ふと、手を通して、唯が何かを言いたそうにしていることを悟った。けれどそれを尋ねることなく、並んで歩く。
急かすつもりはなかった。普段色々なことを無遠慮に口走る唯ではあるが、どうしても言いたいことを言うには人並み以上に悩んでしまうことを、紬は知っていたから。
陽のすっかり落ちた、暗い道。街灯の下で、唯は立ち止まり、俯く。
「ねえ、むぎちゃん」
「なあに?」
どんな唯の言葉も包み込めるよう、ホイップクリームのように柔らかな声で、紬は尋ねた。
「その、ね。……もしよかったら、なんだけど」
唯はもじもじと身体をよじり、なんとかして声を搾り出した。
「……今から、うち、来ない?」
時刻は間もなく六時半。
夕飯への招待ということも考えられる時間ではあったけれど、これだけ言いよどむということは、つまりそういうことではないと紬は察していた。
「泊まっちゃって、いいのかしら。だったらお邪魔しちゃおうかな」
あまりに硬くなっている唯の様子がおかしくて、むしろ紬の方は冷静に返せてしまった。
唯は目を丸くして、首を何度も上下に振った。
「うん、一緒にお風呂入ろうね。着替えは貸してあげるし、今日は寝ないでいっぱいいっぱい話したいな!」
子供のようにころりと態度の変わった唯が可愛らしくて、思わず頭を撫でる。
嬉しそうに目を細めるその姿を見ると、ただそれだけで心が満たされていくのを紬は感じていた。

このページへのコメント

唯紬はけっこう少ないのでうれしいです。

0
Posted by 唯紬おつです。 2010年10月30日(土) 06:36:42 返信

素晴らしい

0
Posted by ななし 2010年02月01日(月) 02:06:46 返信

唯紬派の僕はこれすんごく好きです。

0
Posted by 平田 2009年11月24日(火) 20:42:39 返信

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