「はい、あーん」
「あーん…んぐんぐ…みかん美味しいねー」
「そうだねー。はい、あーん…」
こたつに入ったままの唯に、みかんを食べさせる憂。
憂にとって、これ以上ない、至福な時。
「あ、これが最後の一つだよ。はい、あーん」
「あーん……んぐんぐ。あー美味しかったー!」
唯が満足そうだから、憂だって満足。
「そうだ…憂、私もみかん食べさせてあげるよ」
「ええ?悪いよ」
「なに遠慮してるのさー。ほら、もう皮剥いちゃったよー。ほら、あーん」
「…あ、あーん……もぐもぐ」
「美味しい?」
「…うん…お姉ちゃんの味がしたよ」
「わ、私の味?」
「変な意味じゃなくて…なんか、いつもよりずっと美味しいかも」
「…これがお姉ちゃんパワーだよ!」
「なにそれ?」
笑いながら聞く憂。
「…さぁ?なんか思いついただけ」
唯も唯でまた、笑って答える。
「お姉ちゃんらしいね」
「でしょー?」
にへらーっと、笑う唯。
そんな笑顔が堪らなく可愛いくて、憂は少しドキッとして。
「でも…お姉ちゃんパワー、確かにあるね」
「ふぇ?」
「いっつも、貰ってるよ…」
それは、元気をくれる不思議な力で。
「ありがとうね、お姉ちゃん」
「…?…うん」
―――ピンポーン―――
「…誰か来たね、憂」
「…出たくないよぅ。面倒くさい…」
「えー!?あの憂が珍しい…」
「…私だってそういうときもあるもん?」
―――ピンポーン―――
「うーん。じゃあ、じゃんけんでどっちが出るか決めよう!」
提案したのは唯だった。
「あ、うん……」
「じゃーんけーん…」
ポン!唯がチョキ、憂がグー。
「…負けたー」
がくっと、うなだれる唯。
「…ごめんね、やっぱり私が出るよ」
「ううん。約束だもん…行ってくるよー」
「お姉ちゃん…!ありがとう…!!」
「ほいほーい」
些細なことだけど。
些細なことに約束を守ってくれるお姉ちゃんだから。
…大好きなんだね、私。
憂は姉をまた強く想う。
恋なんかじゃない。
それはもっと、唯には届かない気持ち。
………
……
…
「宅配便だったよー。…あ、お父さんとお母さんからだ!」
「本当!?」
「さぁさぁ、あけよーあけよー」
「はい、カッター…」
(はっ!お姉ちゃんが怪我するかも…)
「やっぱり私があけるよ」
「じゃお願いー。なんだろー♪」
しばしば、両親から贈り物がある。
海外で買った甘いお菓子や可愛い小物。
それは唯も憂も楽しみにしていた。
両親のもとからやってきたダンボールを憂がゆっくりと切り、開ける。
「わぁ…お菓子のお土産だよ!」
「ふぉお!すごい!憂、なんのお菓子?」
「クッキーだって」
「美味しそう!!早く食べようよ〜♪」
「うん……あれ?なんかまだ入ってる…手紙?」
「ほぇ?」
「お母さんからのメッセージだ〜!」
「なになに!?なんて書いてあるの!?」
開けたら手紙が入っていた。
お母さんの書いた文字が、ほんのりなんだか懐かしい…。
たしか昔はよくお母さんの書く字を真似したなぁ、だなんて思いつつ、憂は手紙を広げた。
「読むね…。唯、憂、こんにちは」
「こんにちはー」
「私とお父さんは今、ドイツにいます。2人をほったらかしにしてごめんね。
2人にそれぞれ、メッセージを送ります。唯へ……」
「…どきどき…」
「しっかりとやってますか。前見せてもらったギター、かっこよかったよ。
帰ったらなにか演奏してね。でもギターばっかじゃなくて、勉強と両立させるんだよ。」
「し、してる…はず」
「唯が好きそうなクッキー、贈りました。憂と食べてね……だって」
「食べてるよー。もぐもぐ」
「私の分もとっといてよ?」
「わーかってるよぉ。…あれ?憂にはメッセージないの?」
「…あるよ」
「なになに、聞かせてー♪」
「………だめ」
「ふぇ?」
なぜ否定?
首を傾げる唯。
「…は、恥ずかしくて読めないよ」
「なになに!?なにが書いてあるの!?」
手紙を奪おうとする唯。
恥ずかしい内容の手紙が来たらしい。
…むしょーに読みたい。
ものすごく、読みたい。
「あ、やだ!だめ!」
手紙を取ろうとする唯。
「えー、なんでー?私も見たいよー」
「でも…」
「隙あり!」
「ああ!」
「これがお姉ちゃんパワー…なんちゃって。なになに…」
えへへ…。ごめん憂、お姉ちゃん読みたくて仕方ないよ。
「あぁあ……」
「憂へ…」
「声に出さないでよ!!」
「ええー?いいじゃん……憂へ。
いつも家事、ご苦労様。憂の働きっぷりには、お母さんも頭が下がります。
……私だって憂の頑張りには下がっちゃうよ〜」
「……」
「?…えっと……例のことだけど、おめでとう。憂も大人の女性だね。本当におめでとう………??」
……。あれ?
読んでいて、何となくわかってきた気がした唯。
…憂。
ごめんね。
「……………」
「お父さんには内緒にしておいてって憂は言ってたけど、一応報告しました。
ごめんね、憂…。お父さんも心配していたので。今度、帰ったらお赤飯炊こう!」
「……お母さんのばか…」
「憂が欲しがってた調味料、買いました。帰ったら一緒に料理しようね……母より」
「……お、音読しなくたっていいのに…!!」
「…これって…」
「……………………」
手紙から顔をあげてみると、憂は真っ赤になっていた。
下を向いて、こちらを見ない。
「もしかして…まだ来てなかったの?」
「……………うん…」
「ええ!?そうだったの!?」
「……つい最近まで…」
「憂のことだからとっくに来てるかと思ったよー」
「もう!お姉ちゃんのばかぁ…!」
ほとんど半泣きで唯に言う憂。
唯も申し訳なさそうに謝る。
「う、憂…ごめんね。でも、別に恥ずかしがることじゃないよ?」
「そ、そうだけど…」
「…うい、おめでとう…!」
「…お、お姉ちゃん……」
「でも、なんでお赤飯?」
「知らないの?なんかお祝いで炊くんだって…お姉ちゃんの時も食べたよ?」
「あれ?そうだっけ?」
「そうだよー。……ねぇ…お姉ちゃん」
「ふぇ?」
「誰にも言わないでね……遅すぎだもん」
「こんなこと誰にも言わないよー。
……憂も、もう…大人なんだね」
「…うん」
「辛いときは頼っていいんだよー。頼りないかもだけど」
「そんなことないよ!…うん。ありがとう」
姉妹に生まれたから、色々と一緒だね、憂。
いつも一生懸命な妹が、大人になりつつあることに唯はハッとする。
妹を、守ってあげたい。
とっさに思う。
憂はしっかりしているから、姉の私の手助けなんていらないような気がした。
でも、私はそう思ったんだ。
「どういたしましてー。あ、クッキー食べよう?」
「…うん!お茶入れるね!」
少しずつ変わり続ける2人に、甘いお菓子はちょうどよい。
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確かにこの姉妹はスクランの塚本姉妹みたいだ。
お姉ちゃんパワー…なんかスクラン思い出しました(笑