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著者:別2-555氏


「はぁ・・・」
ため息をこぼしながら部屋のベッドに腰を下ろし、荷物を床に置く。
と、同時に体に疲労感が襲ってくる。
よく考えたら、いや、考えなくても、今日は卒業式だったのだ、無理もない。
人前で話すことは得意なつもりでいたが、やはり答辞を読むときは緊張した。
いや、疲れた原因の主たる部分はそのせいでもないかもしれない。
(今日もあの子に振り回されっぱなしだったものね・・・)
式の間ずっとお腹を押さえていた、だから体調を崩したんだと心配になって自分の答辞どころじゃなかった。
あとから先生に送る色紙を持ち込んでしまって隠すためだったと知ったときは怒る気もなくしたし、むしろやっぱりとも思った。
その前に時間ギリギリに来てタイツが破れてるとかで、私が持っていった代えのタイツに履き替えたなんてこともあった。
(・・・あの時は『預かってきた』なんて嘘ついちゃったけど・・・)
梅雨のとき、ギターを守るためとか言ってずぶ濡れで登校してきたのを見て以来、不安で代えのタイツをいつもこっそりと持って行っていた。
だが自分が持ってきた、というのもこそばゆい感じがして思わず嘘をついたのだ。
(それが役に立つなんてね・・・。まさか最後の最後に・・・)
――最後。
その単語にズキッと胸が痛む。
「・・・そうか、最後だったんだ・・・」
こっそり代えの着替えを持っていくなんてことも、試験の前に勉強を見てあげることも――。
「もう、そんなことしなくていいんだ・・・」
言い終わる前に目に涙が溢れて来る。
手間がかかる子だった。
面倒を見てあげないと不安になる子だった。
でも高校に入って、部活に入って、段々私との距離が開いていった。
そして今度は別の大学に進むことになる――。
「――ッ!」
声にならない嗚咽が漏れる。
同時に瞳から零れ落ちた大粒の涙が制服のスカートを濡らした。
「唯ッ・・・!」
辛い、苦しい、悲しい――。
唯が自分で決めた道なのだからそれでいいと頭ではわかっているつもりだった。
でも、唯が自分から離れていく――。
その事実を突きつけられた気がして、胸が締め付けられるようだった。
「唯・・・!嫌だ・・・唯ッ・・・!」
三度彼女の名を呼んだとき、携帯が鳴った。
かけてきているのは――。
「・・・唯」
4度目、彼女の名を驚きと共に呼んだ。
出ようとして今まで泣きじゃくっていた自分に気づき、慌てて眼鏡を上げて目元を制服の袖で拭い、咳払いをして声の調子を整える。


「・・・もしもし?」
なるべく平静を装って電話に出たつもりだったが、少し声が震えていた気もした。
『あ、もしもし和ちゃん?』
そんな私の心配とは裏腹に、電話の向こうからはいつも通りの元気な唯の声が聞こえてくる。
「どうしたの?」
『あのね、今日学校に持ってきた鞄ってすぐ近くにある?』
「あるけど・・・」
床に置いた鞄を持ち上げて中を確認する。
『えーっとね・・・言いにくいんだけど、その中に・・・』
「・・・何よこれ」
唯が言いにくそうに言い終えるより早く、私は顔をしかめた。
鞄の中には卒業証書を入れた筒が合った。
それは問題ない、むしろ今日卒業式だったのだから、それがないほうが問題だ。
顔をしかめた理由はその筒が2つあったことだ。
『あ、あはは・・・あのね、説明すると長くなるんだけどね、さっき帰り道でこっそり私の卒業証書を入れておいてね、さすが和ちゃん!卒業証書を2つもらうなんて!とか別れる前にやろうと思ってたんだけどすっかり忘れちゃってて・・・』
はぁ、と思わず1つ大きくため息をつく。
「何やってるのよ・・・子供じゃないんだから・・・。いい?卒業証書って大切なものなのよ?こんなことして失くしたりしたら・・・」
『ご、ごめ〜ん・・・ちょっと驚かそうと思っただけで・・・』
「まったく・・・」
鞄の中にある筒のうちの片方を手に取り、中身を取り出す。
「あったわよ、確かに書いてあるわ。卒業証書、平沢唯殿・・・」
『和ちゃん・・・?』
尻つぼみになった私の言葉のせいだろう、唯が心配したような声をかけてきた。
だがその言葉は耳を素通りする。
(卒業・・・)
再び突きつけられたその現実に悲しみがこみ上げ、目頭が熱くなる。
『和ちゃん!?』
電話越しの唯の声に我に帰る。
『どうしたの・・・?』
「・・・ごめん、なんでもないわ。・・・とにかく、大事なものなんだから今すぐ私があなたの家に持っていくから」
『あ、それならばご心配なく!』
「ご心配なくって・・・」
『窓、開けてみて』
唯に言われたとおり窓を開けてみる。
「やっほー!和ちゃーん!」
家の前には携帯電話を片手に、2階の私に向かって手を振る唯が立っていた。
「・・・今開けるから、ちょっと待ってて」
『はいはーい』
携帯の通話を終え、玄関に向かう。
と、その前に慌てて洗面所へと足を伸ばす。
「・・・やっぱり」
さっき泣いたせいで目が赤い。
眼鏡を外し、2,3度顔を洗ってタオルで目頭を強く抑える。
「・・・よし」
まだ少し赤い気もするがさっきよりはよくなった、と自分に言い聞かせ、今度こそ玄関へと向かう。


「お待たせ」
「意外と待ちました」
「トイレに寄ってたのよ」
出任せの嘘を言い、卒業証書の入った筒を手渡す。
「はい。物が物だから、一応中身確認して」
ポン、と筒を開けて中身を広げる。
「大丈夫、私の名前が書いてあるよ」
「そう。よかった」
危なっかしい手つきで証書を丸めて筒に入れて蓋をする。
が、再びポン、と蓋を開ける楽しそうな顔がそこにあった。
「・・・何してるの?」
「いやあ、この音が好きなものでして・・・」
「はぁ・・・」
相変わらずの唯の様子に思わずため息がこぼれる。
「あ、和ちゃん、ちょっと部屋にお邪魔してもいい?」
「今から?唯の家もそろそろ夕食じゃないの?」
「そうだけど・・・ちょっとだけ・・・ダメ?」
「いいけど・・・」
「和ちゃんと別々の大学になったら部屋にも来れなくなっちゃうのかな、って思ったから・・・」
思わず胸が高鳴る。
いつもどこか抜けてるのにこういうときだけ的を射ることを言ったりする、それが唯だった。
「・・・いいわよ。ちょっと散らかってるけど、上がって」
気持ちが顔に出そうだったために先に背を向けた。
「お邪魔しまーす」
数歩後ろに唯の気配を感じながら、階段を上る。
「どうぞ」
扉を開けて唯を部屋へと招き入れる。
「お邪魔しまーす。・・・おお!なんか懐かしい感じ・・・」
「そうかしら・・・?」
「最近軽音部の皆と集まることが多かったから、和ちゃん家久しぶりだよ」
唯は何気なく言ったつもりだったろう。
でも今の私には距離を感じる応える一言。
「・・・飲み物、持って来るね」
気持ちを落ち着ける間がほしかった。
「あ、すぐ帰るんでお構いなくー。・・・ねえ、和ちゃん」
でもその間がほしいという思いよりも、唯が何かを訴えたそうに私の名を呼んだことのほうが気になって振り返ってしまった。
「お礼言ってなかったなって思って・・・。大学は別々になっちゃうけど・・・幼稚園のときからずっと一緒で、面倒見てくれて、いろいろ助けてくれて・・・。ほんと、和ちゃんには感謝してるんだ。だから、今までありがとう」
決定的な一言。
我慢してきた感情が瞳から溢れ、耐え切れずに嗚咽と共に私はその場に崩れ落ちた。
「の、和ちゃん!?」
慌てた様子で唯が近づいてくる。
「ごめん・・・私何か変なこと・・・」
「バカ・・・!」
唯の服の袖を握り締める。
「バカ!ありがとうなんていらない、ごめんもいらない!だから・・・だからずっと一緒にいてよ唯!」
力の限り唯の服を握り締めた。
耳元が軽くなった、と思った次の瞬間、唯は私の顔を自分の体に抱き寄せた。
声を上げて泣いた。
人前でこんなに泣いたのは多分初めてだろう。
その間、唯はずっと私を抱き寄せてくれていた。


どのくらい泣いていただろう。
実際は数分だったろうが、自分の中ではもう何十分も経っているように感じた。
やっと少し落ち着き、顔を起こして机の上によけてもらった眼鏡をかけた。
私が顔をうずめていた部分に涙の後が残っている。
「ごめんね、唯・・・。突然泣き出したりして、それに服も汚しちゃって・・・。・・・あとバカなんて言って・・・」
んーん、と唯は首を横に振る。
「気にしてないよ。だって大好きな和ちゃんだもん」
「唯・・・」
もう1度唯にもたれかかる。
唯の鼓動が聞こえるぐらいの、暖かさを感じれる位置――。
これから距離が離れてこんな風に唯を感じることが出来なくなるのかもしれないと思うと寂しさが混み上げてくる。
「こうやっていられるのも今日までなのかな・・・」
私は、唯のことを「子供じゃないんだから」と叱った。
でも、私のほうが十分子供なことを言ってる、とわかっていた。
だから――自分の子供みたいなわがままから目を逸らすために――唯にそう言ったのかもしれない。
「そんなことないよ、和ちゃん」
その唯の言葉はどこまでを否定したのだろう。
私がそう考えるより早く、だった。

でもね、逢えたよ
素敵な 天使に

「唯・・・?」
アカペラで唯が歌い出す。

卒業は 終わりじゃない
これからも、仲間だから

涙が頬を伝う。
それは今までの悲しみの涙と違うものだった。

「大好き!」 って言うなら
「大大好き!」 って返すよ
忘れ物 もうないよね
ずっと 永遠に 一緒だよ・・・

パチパチパチパチ・・・。
私の拍手に唯が照れた顔を浮かべる。
「・・・あんまりうまくないわね」
「え!?」
露骨に唯が驚いた顔をする。
予想通りの反応に思わずクスッと笑ってしまった。
「でも優しい歌声だったし、いい歌だったわ・・・。唯、あなたやっぱり軽音部に入って変わったわね」
「そんなことないよ。和ちゃんがいないと何も出来ないし・・・。今日だって和ちゃんが着替え持ってきてくれてなかったら困るところだったもん」
「そういうことを言ったんじゃなくて・・・え!?な、なんで私が持っていったことを知ってるのよ!?」
「あれ?だって和ちゃんが持ってたじゃん」
「そうだけど・・・あの時は憂から預かったって言ったじゃない・・・」
「そっか・・・。あれ?でも和ちゃんが持ってきてくれたんだよね?」
はぁ、と1つ大きくため息をつく。
「・・・そうよ。私が持ってきた、っていうのはなんか決まりが悪かったから憂から預かった、って言ったの」
「恥ずかしがる必要なんてないじゃな〜い、私と和ちゃんの仲ですもの〜」
唯のふざけた口調にフフッと思わず笑う。
「そうね・・・。ずっと永遠に一緒だし、私が『大好き』って言ったら『大大好き』って返してくれるんでしょ?」
「えへへ・・・。もちろん!」
その唯の笑顔で全てが救われた気がした。
唯との距離が離れてなんていなかった、私が勝手にそう思い込んで距離を取っていただけだった。
だからこれからもきっと変わらない。
だって、唯はこれからも「仲間」だと、永遠に一緒だと、言ってくれたんだから・・・。
「だからさ、別々の大学に行っても私のタイツが破れたときは、代えのタイツ持ってきてね!」
相変わらずの唯のその言葉に、私はただ笑うことしか出来なかった。

このページへのコメント

荒削りだが大変良い。

0
Posted by _ 2010年10月04日(月) 14:30:38 返信

よかった

0
Posted by き 2010年09月26日(日) 15:14:52 返信

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