2chエロパロ板のけいおん! 作品のまとめサイトです。

著者:17-741氏


<CAUTION!>
直接の性表現はありませんが、澪と律は身体を重ねた経験が有ります。
唯と憂はそういう関係ではありません。



 こんにちは、平沢憂です。楽しかった学生生活にもお別れを告げ、私は今年の4月から社会人になりました。
そして秋も深まる今日この頃、お姉ちゃん――平沢唯――は、今日本全国を股にかけてアナウンサーをやってます。
筆記試験はイマイチの点数だったけど、お姉ちゃん独特の周りを和ませる喋り方が面接で効いたみたいで……。
今はまだ駆け出しリポーターですけど、ちょくちょくテレビに映って頑張ってます。
出張リポートで家に帰ってくる事が減って、少し寂しいけど…それでも私は、
お姉ちゃんが楽しそうにお仕事してるのを見ると、やっぱり笑みがこぼれてきちゃいます。

「ただいまー…っと、今日もお姉ちゃん遅いのかなぁ…。」

がらんとしたルームシェア用のマンション。私が社会人になったのを機に、姉妹で借りたこの部屋も、
お姉ちゃんの仕事が忙しすぎるから最近は殆ど私が一人で使っているようなものだったり。
お姉ちゃんは「憂に悪いから」と家賃と光熱費を折半して払ってくれてるけど、
そのお返しに美味しいご飯も作ってあげられないのが、なんだかちょっぴり歯がゆいなぁ…なんて。

ヴー…ヴー…

「あれ、お姉ちゃんからだ。」

バイブレーションが机の上でガガガガ、と跳ねてるのを拾い上げて、通話ボタン。

「もしもし、ういー?」
「お姉ちゃん、どうしたの?」

少し間延びしたお姉ちゃんの声。昔から、この声を聞くとなんだかほっとします。

「えっと、今から帰れることになったから、帰るね〜。」
「あ、そうなんだぁ。分かった、お風呂沸かしておくね。」
「うんー、ありがとー。」
「じゃあお姉ちゃん、気をつけて帰ってきてね。」
「はいよーぅ。」

電話を切ると、いつの間にか私の気分は弾んでいました。

「ふんふんふ〜ん♪」

鼻歌を歌いながら鶏肉を刻んで、ホワイトソースを作ります。
久しぶりにお姉ちゃんが帰ってくるので、今日の晩ご飯はグラタンにしました。

「ただいまぁー。ういー、お姉ちゃんだぞ〜。」
「あ、お帰りなさいお姉ちゃ――わぁ!」

玄関へお姉ちゃんを出迎えると、早速と言わんばかりに抱きついて頬擦りされました。

「く、苦しいよお姉ちゃん…」
「あぁっ、ういー寂しかったよぅ〜!」
「お、お姉ちゃんてば、おおげさ…」

けど、しっかり抱き締め返していた私も、人の事は言えないな、と今更ながら思うのでした。
お姉ちゃんの温かさと柔らかさは、今でも全く変わらないなぁ。



「ふいー、美味しかったぁ、ごちそうさまでしたー。」
「お粗末様でした。そういえばお姉ちゃん、今度は何処に行く予定なの?」

まな板にのせた幸水を切りながらお姉ちゃんに尋ねると、お姉ちゃんは楽しそうに言います。

「んーっとねぇ、北海道かな。今度のはカニとかニシンそばとか美味しいものが食べられそう〜…
あ!でもやっぱり一番好きなのは憂の作ってくれるご飯だよ!」
「お姉ちゃんったら…ありがとう。」

頬が緩んでるお姉ちゃんを見てると、思わず苦笑しちゃいます。

「あ、そだ。ういー、今度の土曜日、空いてる?」
「え?空いてるけど、どうしたの?」
「実はねぇ、みおちゃんや律っちゃん達と飲みに行こう、って話になってるんだぁ。あずにゃんも来るから、行こうよぅ。」
「えぇ、いいの?」
「もちろん!のどかちゃんも来るって。ムギちゃんは残念ながら都合つかなかったみたいだけど。」
「それじゃあ、お邪魔させてもらっちゃおうかなぁ。」
「よしきた、早速律っちゃんに報告だー!」

そう言って電話を掛け始めるお姉ちゃん。それにしても、桜高の皆さんに会うのは本当に久しぶりです。
確か、澪さんは美容師、律さんは楽器店の従業員で、紬さんは海外でブランドを立ち上げたとか。
のどかちゃんはホームページデザイナー、梓ちゃんは銀行員として働いてます。
私はというと、保育園の保育士として働いてたり。でもやっぱり、一番意外なのはお姉ちゃんのアナウンサーでしょうか。
最初は不安でしたが、ああやって元気にリポートしているのを見ると、やっぱりお姉ちゃんってやる時はやる人なんだな、って思います。

「あ、もしもし律っちゃん?久しぶりー!
今度の飲み会の事なんだけど、憂も行けるって〜。……うん、あ、そうなんだ。ねぇういー。」
「なぁに?」
「二次会で、ウチ使っていい?みんな日曜日はノープランみたい。」
「もちろん。」
「おっけーだって。……うん、分かったー。じゃあねぇ、ばいばーい。」

電話を切ったお姉ちゃんは上機嫌で梨を頬張っています。
私も初めての飲み会でなんだかわくわくしてます。
大学では、お酒を飲むことが無かったんです。今どきお恥ずかしい話かもですが。






「おっ、来た来た。おーい、唯〜!憂ちゃーん!」

律さんがぶんぶんと手を振って私達を迎えてくれました。のどかちゃんと澪さんも一緒です。

「やーぁみんな〜、久しぶりだねぇ。」
「おぉ、会いたかったぞゆい〜!」
「私もだよ、りっちゃ〜ん!」

ひしっ、と抱き合って再会の喜びを体現するお姉ちゃんと律さん。
高校の時からの二人のやり取りは変わっていません。それを見てくすくすと笑っていると、
「久しぶり、憂。」ポンと肩を叩かれて、横を振り向けばにっこり笑みを浮かべたのどかちゃんでした。

「久しぶりだね、和ちゃん。」

お姉ちゃんと私の幼馴染みだからか、私は和ちゃんが年上だという事を忘れがちです。
和ちゃんも笑って今まで通りでいいよ、と言ってくれたので、敬語は使いません。

「梓ちゃんは?」
「澪が言うには、遅れて来るそうよ。」
「そうなんだ。」
「いょーぅし!梓は遅れてくるとの報告を受けている。であるからして……先行敵陣突撃だー!皆、行くぞーっ!!」
「「「「「おーっ!!」」」」」

既にハイテンションの律さんが叫べば、私も含めて全員が乗せられて意気揚々とお店に向かって行きます。
律さんとお姉ちゃんだけじゃなくて、皆さんもあの頃と変わってないんだ、と思うのでした。


――そして、30分後

「皆さん、遅くなってすみません。」
「おっ、期待の新人!我らがペット・梓の登場だーっ!」
「なんですかそのテンショ――「あーずにゃーん!」きゃあっ!?」
「ゆ、唯先輩、もう…!」

抱きつくお姉ちゃんを最初は迷惑そうに押し退けようとしていた梓ちゃんも遂に諦めて、
仕方ないとでも言いたそうに苦笑しています。

「憂も大変だね。唯先輩相変わらずこんな調子じゃ、負担変わらないんじゃない?」
「うーん、前よりはしっかりしてるよ。今のお仕事始めてからは、寝坊もしなくなったし。」

たまーに私が起こすんだけどね、と苦笑してみせたら、「やっぱり嬉しそうだよね、憂は。」と
呆れ気味に溜め息を吐かれました。そうかなぁ。

「さぁ梓、座った座った。そんじゃあ改めて、桜高の皆との再会を祝して始めようじゃないか。お姉さんー!」

律さんがホールの人を呼び止めて注文します。

「生7つ!それと揚げ物と刺身の盛り合わせね!」
「はい、かしこまりました。」

……え?

「おい律!人の飲み物を勝手に決めるな。それに、コースなんだろ?」
「乾杯はやっぱビールだろぉ?梓が来るまでにお通し食べちゃったし、わたしが払うからさ〜。」

ひらひらと手を振る律さんに、澪さんは「まったく…」とぶつぶつ言いながらも溜飲を下げたようでした。
あ、どうしよう…ビールって苦いんじゃ…私、飲めるのかな?

「おーい、どうした憂ちゃん?」
「へっ!?え、ああああのっ!……実は私、お酒飲んだ事が無くて…。」
「「「えぇ〜!?」」」

驚愕に見開かれる律さん・澪さん・梓ちゃんの目。あ、やっぱり今どきそんな人いないよね…あはは……。

「ほうほう、という事はペナルティビールは憂ちゃんが――いだあっ!?」

挙動不審な私にニヤリと笑う律さんの頭に澪さんのゲンコツがお見舞いされました。

「バカ律。心配しなくていいよ憂ちゃん。憂ちゃんになったら律が飲むから。」
「ちょっ…勝手に決めるなよ〜!」
「うるさい。」
「ふふっ…でも楽しみです。飲み会って私、初めてなので。」
「そうだよなぁ、とりあえず、いつもわたしらがやってる乾杯には一番遅かったやつが
もう一杯飲むっていうルールがあってな。最初は早飲み競争なんだ。」
「は、早飲み…」

高校生ってスゴイ、って昔は思っていましたが、スゴイのはどうやら律さんだったみたいです。

「こら律、憂ちゃんに変な事を吹き込むんじゃない。」
「何だよ澪、そもそもこのルールはわたしが始めたんじゃなくて澪が提案したんじゃないか。」
「う…それは、そう、だけど…」
「えっ、そうなんですか?」

意外でした。澪さんはそういう事を自分から言うような人じゃないと思ってたので。

「おうよ。澪のやつがな、わたしとサシで飲んでたときに、酔っ払って突然言い出したんだ。
『今から乾杯して、遅かった方がペナルティでもう一杯だ!』ってな!」
「う…うるさいな、律だってノリノリだったじゃないかっ。」
「そりゃーまあ、お酒はテンション高く飲んでなんぼだからなぁ。それに、澪よりは強いって自信があったし。」
「…ほう。なら今日、勝負するか?言っておくが、私もおまえに負けるつもりはないぞ。」
「おーおーどんと来い。受けて立ってやるぜ!」
「お待たせしましたー、生7つと、こちら海鮮風シーザーサラダと枝豆になります。」

店員さんがお盆に色々と載せてやってきました。ビールを片手で同時に5つも…すごいなぁ。

「いよーし!じゃあ早速、乾杯と行きますか。皆、ジョッキ持って〜!」

律さんの音頭に合わせ、全員がビールを掲げます。

「桜高の皆との再会を祝して、かんぱーい!」
「「「「「かんぱーい!!」」」」」

かちゃん、と甲高い音を立ててジョッキがぶつかります。と、その途端。

「んぐっ、・・・んっ、んっ、んんっ・・・・・・ぶはぁっ!!一着〜♪」

律さんが物凄い勢いでビールを空にしてしまいました。そういえば、早飲み対決だということを忘れてました。大変…!
隣を見ると、お姉ちゃんも顔を真っ赤にして頑張っています。でも一向に減っていません。
澪さんとのどかちゃんは自分のペースで、でも涼しい顔をしながら順調に減らしていきます。
私も早く飲まないと…!
恐る恐るジョッキに口をつけると、さっと口の周りにビールの泡が張りついて、少し変な感じです。
勇気を出してぐっとジョッキを傾けると、ごぽりと一気に冷たいビールが口の中に流れ込んできて、
炭酸と苦味が私の舌と頬の内側を虐めます。痛い、痛い、苦い、なんだか臭い…。
そして喉の奥も炭酸のせいでぴりぴりして、冷たさも相俟って図らずとも涙目になってしまうのでした。

「ぷはぁーっ…ぜぇ、ぜぇ、みんな早すぎるよ〜…。」
「炭酸…きついです。それに、ビールは苦手なのに…。」

隣ではやっと飲み終えたお姉ちゃんが私と同じく涙目になりながらもジョッキを空にしたところでした。
梓ちゃんも何とか飲み終えて、不満そうにジョッキを見つめています。…ってあれ、もう、私しか残ってない…。

「憂ちゃん、苦しかったら一度置いていいんだよ?」

澪さんが優しく声を掛けてくれて、耐え切れなくなった私は思わず、まだ半分以上残っているビールを一旦テーブルへ。

「あうぅ…冷たくてぴりぴりします…。」
「憂ちゃんはまだまだお子様だなぁ〜。それがまたいいんじゃないか!」
「お前はオヤジ過ぎだ、律。」
「よし、じゃあコール振って憂ちゃんを応援してやろうぜ!」
「おい、こら。」
「澪さん、気にしないで下さい。律さん、私頑張りますから!」
「よし、じゃあいくぞ憂ちゃん。澪も、ほら。」
「う…分かったよ。…せーの!」
「「今夜は 憂ちゃんを おとしてみっせっる! 飲ーんで飲んで 飲ーんで飲んで 飲ーんで飲んでっ お願い!
飲ーんで飲んで 飲ーんで飲んで 飲ーんで飲んでっ お願い!」」

これがコール…メロディの無い応援歌みたいな感じで、なんだかカッコいいなぁ…。
っは、飲まないとっ!んっ…結構きつい、かも…。

「「まだまだ憂ちゃんまだ憂ちゃん!まだまだ憂ちゃんまだ憂ちゃん!」」

や、やっと残りちょっと…。

「「限界を超ーえて〜ラララほーしーのかーなた〜 飲むぞ〜 憂ちゃ〜ん 限界を超えて〜 あっけーろ!あっけーろ!」」
「ぷはぁっ!!」
「お〜っ、よく頑張ったな憂ちゃんさすがぁ!」
「けほっ、けほっ、えへへ、頑張ってみました…」

やっぱり私は、ビールは苦手みたいです。どうもあの苦味と泡が飲みづらくて…。

「…さ〜て、可愛い妹の頑張った所を見せられたら、姉としての威厳を見せつけないわけには行かないよな、唯?」
「もちろんですとも律っちゃん!」

待ってましたとばかりに威勢の良い返事をするお姉ちゃん。大丈夫かなぁ…。

「よぉ〜し。ならばその覚悟を行動で示してもらおうじゃないか!…というわけで、今回のペナルティは唯だぁ〜っ!!」
「え、えぇーっ!?ひ、酷いよ律っちゃん〜…」

お姉ちゃん…私のために、ごめんね…。

本当に申し訳なくて肩身が狭い思いです。お姉ちゃんはこんなことになるとは思ってなかったらしく、
律さんに縋っています。こんなお姉ちゃんも可愛い…じゃなくて、私のせいなんだから、私がっ!

「あ、あのっ!」
「ん?どうした憂ちゃん。」
「私が飲むはずだった物ですから、私が飲みます!」
「憂ちゃん、無理しなくても「おぉーよく言った憂ちゃん、それでこそ桜高の卒業生だぁ!」」
「おい、律。」
「いーじゃんかぁ、本人が飲むって言ってるんだし、それにまだまだこれは序盤だぞぉ?」
「…はぁ。分かった。んじゃ律、ビール取ってあげて。」
「おぉぅ、任せろぅ!」

律さんがテンション高くジョッキに入った生ビールを私に手渡そうと持ったその瞬間でした。

「律。」
「ん?」

澪さんが満面の笑みを律さんに向けています。そして――

「なーんで持ってんの?どうして持ってんの?飲みたいーかーら持ってんの!」
「げ!澪、裏切ったなぁ!?」
「言い訳は 飲んでから!言い訳は 飲んでから!」

私が飲むはずだったビールジョッキは律さんにカウンターが入り、お姉ちゃんとのどかちゃんが悪ノリして加勢しています。
しまいには梓ちゃんも律さんに飲ませようとコールを振る始末で、律さんは自棄気味にジョッキを飲み干してしまいました。

澪さんも、すごい…。

「ぶはぁっ!ちっくしょ〜…」
「律さん、ごめんなさい。私が――」
「ん、あぁ、気にしない気にしない。いつものことだからさ。それに憂ちゃんじゃなくて、悪いのは澪だもん、な?」
「へ、あ、ああああぁ、そうだな、うん。」
「…ほう、非があると認めるわけだね、澪ちゅわん?」
「う…なんだよ、気持ち悪いぞ律。」
「んっふっふー…みっおーさんあなーたのグラスはどこ〜?
グラースのなっかーにはなにーがあるの〜? グラースのなっかーには梅ー酒あるぞ〜」
「や、やられた…」

そう言いながらもグラスを空ける澪さん。そこに律さんの追い討ちが入ります。

「澪、納得いった?」
「するか!」
「納得いっかっない! じょーだんじゃない! ぱーりらっぱりらぱーりらっ――」
「律っちゃん助けるレスキューレスキューレスキュー!律っちゃん助けるレスキューレスキューレスキュー!」
「なぁにをぅ!?ゆーいが飲んでない!ゆーいが飲んでない!飲んでないー飲んでないーゆーいが飲んでない!」
「りーつ! ゆーい! Two・Two・Two beat!」

結局、律さんとお姉ちゃんが仲良く乾杯して飲まされるはめになりました。
と、お姉ちゃんの視線が梓ちゃんに突き刺さります。

「ぷはっ!…むぅー…あずにゃん飲んでる〜?」
「の、飲んでますよ…」
「律っちゃん!」
「おう!」

目配せで頷く二人。そして――

「あずにゃん飲むとこ見たーい!(見たい!)見たーい!(見たい!)見たーい!(見たい!)
あずにゃん飲むとこ見たーいー見たいーよーあずーにゃーん!」

「のどかっ!あずさっ!みーおっ!憂ちゃん!Four・Four・Four beat!」
「いい加減に…!」

ガタン。

澪さんが立ち上がって拳を振り上げた途端、テーブルにあったグラスを倒してしまいました。

「あ……」

そのまま固まってしまった澪さんに、律さんがここぞとばかりに攻めたてます。

「そーれーはいわゆる粗ー相!そーれーはいわゆる粗ー相〜!S・O・S・O!SOSOそ・そ・おー!!そーれーは「やかましい!」あいだぁっ!!」

コールの嵐は、澪さんのゲンコツと律さんのたんこぶで幕を閉じたのでした。

「よーしみんな、そろそろゲームでもやろうぜ!
ミスしたやつが…じゃあ、このポン酒を一杯ってことで!早速、わたしから始まる、イェイ!」
「牛タン、ゲーム!せーのっ!」

――この後、お店の人には「お静かにお願いします」と注意されてしまいました。





「ふぃー、飲んだ飲んだ。」

お店を出る頃には、律さんもお姉ちゃんも顔が真っ赤になっていて、梓ちゃんに至ってはもうフラフラです。
私も頭がぼーっとして、ほっぺたを触ってみるとじわりと熱かったり。そして澪さんと和ちゃんも、少しだけ酔ってるみたいです。

「ういー、あーいーすー。」
「お姉ちゃん……あったかー…」
「うわぁ、姉妹そろってヘベレケだぁ。」
「しゃーない、とりあえず皆で唯ん家行くか。」
「おい律…二人とも潰してどうやって道が分かるんだ…?」
「え、あー、あぁっと、その…」
「もう、しょうがないわね律は。私が案内するわ。少し遠いから、タクシー使いましょ。」
「へ?タクシー代は?」
「しょうがないから、私達三人で折半ね。」
「そうだな。」
「うえぇ〜!?」
「律、元はといえばお前が憂ちゃんまで酔わせるから悪いんだぞ。」
「うぅ…私の安月給が飛んでゆくぅ〜…」
「一生やってろ。」
「ちぇー」





そんなこんなで、唯がタクシーの中で吐きたくなるというハプニングを挟みつつも、なんとか唯の家に着いた。

「ほら、しっかりしなよ唯。」

和が支えながら歩いてるけど、唯の足元はおぼつかない。

「律っちゃ〜ん、あーいーすー。」
「駄目だこりゃ…。」
「あ、あの律さん。私はまだ大丈夫ですから。上がって下さい。」

憂ちゃんがすっとドアに進み出て鍵を開けてくれる。電気を点けると、くるりとこっちを振り向いた。

「ごめんなさい、実家と違ってスリッパがないんです。」
「あはは、そんなこと気にしないで。ほら律、遊んでないで荷物運ぶの手伝え!」
「あいだっ!」

頭にゲンコツを見舞ってやると、ようやく律もぶつぶつ言いながら働くようになった。
憂ちゃんが手早く冷蔵庫から大皿に盛られたローストビーフやら、南瓜の煮付けやらを出してくれる。
…って、これ、もしかしなくても…

「うほぉ〜っ…!すっげぇーっ!これ、憂ちゃんが作ったんだよな!?」
「あ、はい。あるもので作ったから、大したものはありませんが……おつまみになればと思って。」
「ううん、やっぱり憂は凄いよ。」

和の言うとおり、やっぱり憂ちゃんは本当に出来た子だなぁ。唯も少しは見習った方がいいぞ?本当に。
そんな事を考えながら唯からテーブルへと視線を移すと、律がさっきからもったいぶっていた紙袋をドンと置いた。

「さて皆の衆。そろそろこの紙袋の中身が気になってきただろ〜?」
「なになに?お菓子!?」
「あれ、唯。いつの間に回復したんだ…」
「さっき吐いたら治りましたっ!」
「早いな、おい。…っていうか、そこは伏せろよ。」

突っ込みを入れつつ律が取り出したのは一本の茶色い瓶と、大きな酒瓶に漬けられたお手製の梅酒。

「律、なんだ?その瓶は。」
「これか?これはフルーティな香りのするウィスキーだ!…ただし、わたしの寝酒の飲みかけな!」
「新品持ってこいよ…」

どん、とテーブルに置かれるウィスキーの瓶が私に迫る。
律に勧められて蓋を開けてみると、確かに杏仁豆腐のような美味しそうな匂いが香ってきた。

「あ、それじゃあ私、グラス持ってきますね。」
「いいよ憂ちゃん。私がやるから、憂ちゃんはそこで休んでな。」
「で、でも――」
「いいっていいって。頼むよ、澪。」
「うん、えーっと、ひーふーみー…6人分だな。和、悪いんだけど、お皿とお箸を運ぶの手伝ってくれるかな?」
「オッケー。」

そんなこんなで、二次会が平沢姉妹で借りたマンションにて始まったわけだけれども……

……………

「大丈夫か?」
「ん…らいじょーぅ…」
「呂律回ってないじゃないか、飲み過ぎだ、バカ律。」

余裕ぶっていた律は人にも飲ませまくった挙句、自分もすぐさま潰れて、唯のベッドを借りて寝かせている。
調子に乗ってウィスキーをがばがば飲むからだ、あほ。

「みお〜…」

呼ぶ声。こんな律の声色は甘えたがってるか、構って欲しい時のものだ。

「どうした?」
「頭、撫でて…」

子どもか、お前は。

苦笑しながらも、律のおでこから手を滑らせて髪を梳いてやる。意外にさらさらしていて、柔らかい律の髪。
律は気持ち良さそうに目を閉じたまま、胸を上下させている。それを良い事に、律のカチューシャを外して前髪を下ろしてみた。
こうすると、律の外見から受けるイメージはガラッと変わる。一見唯に似てるようで、でもなんていうか爽やかで、カッコ可愛い。

「なぁ、律。律は絶対、前髪下ろした方が可愛いよ。」
「やだ。絶対おかしいし。」
「おかしくなんてない。律は可愛いぞ。それに、勿体ない。」
「…ほんと?」
「もちろん。そうだ!今度は私の働いてる美容院においでよ。
そしたら、律の髪を切ってあげるからさ。どうだ?こういうときだけなんて、勿体ないよ。」
「…澪なら、いいよ。んじゃ、今度頼むわ。」
「任せてくれ。」

ちゅぅ、と律の額にキスを落とす。律は黙って目を閉じたまま、私の首にぶら下がってきた。

「律、重い。」
「なら、澪がわたしに乗ればいいじゃん。なんか、寒いんだ。」
「そんな格好で寝るからだろ。」
「澪があっためてくれるからいいんだよ。」
「バカ律…」

寝苦しいとか言って、履いてきたジーンズを脱ぎ捨て、カッターシャツ一枚で
眠たげに目を開けながらこっちを見据える律に、二の句が継げない。
そのまま引き寄せられて、すとんと律の肩に顎を預ける形になった。耳元で、アルコールのにおいを撒き散らしながら甘く囁かれる。

「みお…愛してるよ。」
「うん、知ってる。」

耳に掛かる律の吐息がくすぐったい。でも、嫌じゃないし安心する。

「あ、けど付き合いたいってことじゃないからな?勘違いするなよ?」
「それも知ってる。私と律は恋人って言うより、互いを知り尽くしてる姉妹みたいなもんだからな。愛してる、律。」

律は私を恋愛対象には見ていない。それは私も同じで、誰よりも相手を理解しているけれど恋愛の相手としては見ない。
そのくせ、お互いの合意の上で身体を重ねることはある、そんな不思議で遠慮の無い関係だった。
誰かにこの距離を理解してもらおうとは思わない。けれど、私と律のこの関係はずっと続くような気がする。

「みお、いい匂いがする…」
「バカ、恥ずかしいこと言うな。」

「いーじゃんか、ここにはわたしと澪しかいないんだし。それに、ホントのことだろ。」
「私に同意を求めるな…それに。」

律の柔らかな髪に顔を埋める。

「それは私が律に言いたい台詞だ。」
「なっ…ば、ばばばばかやろ、そんなことな「あるよ。」」

必死に否定の言葉をつむごうとする律を強引に遮って続ける。

「律はさ。もっと自分に自信持ちなよ。」
「だ…だって…」
「十年以上、律の事を見飽きるぐらい見てきた私がさ、前髪下ろした姿に惚れそうなくらい、可愛いんだぞ?
おかしいとか、似合わないとかヘンだとか、悩み過ぎなんだよ、律のくせに。」
「う…律のくせにってなんだよぅ。」

律はそれでもおどおどしていて、塩らしいままだ。これはこれで抱きしめてやりたいくらい可愛い。
けど、やっぱり私はいつもの律が好きだ。だから溜め息を吐いて、この馬鹿に説明してやる。

「そのままの意味。律は律らしく、脳天気で楽天家で、パワフルなままでいいんだよ。難しく考えるな。」
「……うん。そうだな!」

もちろん、知ってる。律は誰よりも周りを見てて、昔から私の事を見守ってきてくれた。背は小さいくせに、
人一倍明るくて、頑張り屋で、そのくせ人一倍繊細な子だ。だから、律がくじけそうな時には、私が傍にいてあげないと駄目なんだ。

埋めていた律の髪から顔を離して無言のまま、薄明かりを灯した部屋の天井を暫く見つめていると、不意に穏やかな寝息が聞こえてきた。
そっと布団を掛けてやって、部屋を出ようとドアに歩み寄ってノブに手を掛けようとしたら――
――その手がスカった。

「澪ちゃーん?」
「ひッ!?」

律が眠っている手前、なんとか叫び声は我慢したけれど、代わりに心臓がこれまでないほど跳ねた。
とにかく跳ね上がって、ビクゥッ!!なんて擬音が聞こえそうなほどだった。

「な、なんだ唯か。びっくりさせないでよ、もう…。」
「ごめんごめん、律っちゃん寝ちゃった?」
「うん、そういえばここ、唯のベッドだったね。ごめん、なんだか占領しちゃって。」
「大丈夫だよ、気にしないで。あれ、律っちゃん前髪…。」
「可愛いよな、こうしてると。」
「うん〜、印象変わるよねぇ。かーわいいなぁ。」
「ところで、梓や和はどうしてる?」
「二人ともまだ起きてるよ。あずにゃんがそろそろダウンしそうだけど。」
「むしろよく頑張るな、梓…」

律に散々飲まされてちゃんぽんさせられ、梅酒にウィスキーを混ぜられてるのに
気づかずに飲み干すとはなかなかのチャレンジャーだ、と半ば呆れながらも尊敬する。

「和はどうしてる?」
「のどかちゃんはまだ大丈夫そう。今は憂を看てもらってるんだー。」
「和らしいな。私達も戻るか。」
「うん、それにしてもあのウィスキー美味しいよねぇ。杏仁豆腐みたいな香りがするんだよぅ?」
「…唯、ウィスキーが40度近い強い酒だって分かってるか?」
「え、そうなの!?」
「おいおい…」

リビングに戻ると既に梓は意識はあるものの舟を漕いでいて、憂ちゃんはソファに毛布を掛けられもたれていた。
目は開いてるけど、焦点が定まってない…生き残りは和だけか。

「ごめんね和、介抱までさせちゃって。」
「あぁ、いいのいいの、気にしないで。唯、こっちは大丈夫だから、憂を寝室に連れてってあげて。」
「うん、ありがと〜のどかちゃん。ういー、ベッド行くよ?」
「お姉ちゃん…?」
「うん、私だよ。」
「ごめんね、皆に迷惑掛けて。澪さんものどかちゃんも、ごめんなさい。」

酔っ払っても礼儀正しい憂ちゃんは、律義にぺこりと頭を下げる……けど、その頭がぐらぐらとおぼつかなくて可愛らしい。
思わず屈んで、憂ちゃんの頭を撫でてしまった。

「いいんだよ憂ちゃん。バカ律のせいなんだから。さ、行こう。唯、そっち支えて。」
「がってん!」

憂ちゃんを私と唯で憂ちゃんの寝室へ連れて行こうとしたら、突然憂ちゃんが私の肩から唯の首に腕を回して抱きついた。

「お姉ちゃん…大好き…」
「う、憂?」

戸惑う唯に、憂ちゃんはお構いなしに頬擦りして放さない。後ろを振り向けば、和が微笑んでいる。私も思わず笑ってしまった。

「…愛されてるんだな、唯は。あとは大丈夫だから、憂ちゃんについててあげてくれ。」
「う、うん。わかった、おやすみ澪ちゃん。」
「ん、おやすみ。」

唯が憂ちゃんを支えながら部屋に引っ込んだのを見届けてリビングを見ると、
和は既にお酒を片づけ始めていた。私も手伝おうとするとやんわり断られて、「代わりに律を看てやって」と言われてしまった。

「いいの?」
「いいよいいよ、梓は私がついてるから、心配しないで。」
「ありがとう。じゃあ、おやすみ。」
「おやすみ。」

和に挨拶して、律が眠っている唯の寝室に赴く。一旦電気をつけると、律は突っ伏して唯の枕に涎を垂らしていた。

――人の枕に涎垂らすなよ。

豆電球だけ残して、起こさないように細心の注意を払いながら律の隣に体を滑り込ませる。律は僅かに身動ぎしたかと思えば、突然口走った。

「みお〜…」

ドキリとして、そろ〜っと顔を覗き込んだけど、ただの寝言らしい。ほっ、と胸を撫で下ろして再び
ぼすっ、と布団の中に埋もれた。ふと、唯の匂いが香る。

「そっか…唯のベッドなんだよな、ここ。」

誰にともなくひとり呟いて、幸せそうに眠る親友の後ろ髪にそっと顔を埋めてみる。
小学校の時から、ずっと共に歩んできた親友・田井中律。一緒に笑って、泣いて、時には怒られて。
落ちこんで、励まされて、お互いをもっと知って。
つらいときにはいつも律が傍にいて助けてくれた。
中学に上がってからはよく、試験の直前に泣きついてきたりしたけど、実はそれも嬉しかった。
いつもリードしてもらってた私が、律の力になれる事が見つかったから。

「これからも…ずっとずっと、親友でいような。」

普段なら、気恥ずかしくて絶対言えない事をそっと、律の耳元に向かって囁いた。
律は聞いているのかいないのか、「んぅ……」と小さく寝言を漏らしたきりだ。
それでも、今の私にはそれで十分。律の腰を抱くようにして腕を回した。

「まったく…こんな格好で寝てたら、身体が冷えるぞ?」

少しせわしなく上下するお腹を徒にさすってやると、「ぁん、えっちぃ〜」とか呟いて身を捩る。
…本当に寝てるのか?…まぁ、いいか……。………おやすみ。






「んしょっ…と。憂、大丈夫?」

ベッドの縁に腰掛けて憂の顔を覗き込む。

「お姉ちゃん…」

憂はおもむろに唯の顔に自らの顔を近付け、目を閉じる。

「う、憂?どうし――っ!?「ちゅぅ」」

唐突に、キスされた。

「私、お姉ちゃんの妹でよかったなぁ。お姉ちゃんのおかげで
こんなにたくさんの良い人達と知り合えて、幸せなんだもん。……でも寂しいから、たまには帰ってきてね。美味しいご飯、たくさん作るから。」

唯の頬から唇を離した憂は少しだけ寂しげに微笑む。
唯は突然の告白に暫く呆然としていたが、ハッと我にかえると、ひしっと妹を抱きしめた。
その目尻にはうっすらと涙の雫が零れている。

「そうだよね…寂しかったよね、ごめんね、ごめんね憂…!」
「ううん、いいの。だって私、お姉ちゃんが元気に朝のリポートしてる姿を見て、一日頑張ろうって思えるから。だから謝らないで、ね?」
「憂……うん、私頑張るよ。憂が元気出るように、元気一杯リポートするから!」
「うん、それでこそお姉ちゃんだよ。…そろそろ寝よっか。」
「そうだね。んーしょっ…」

唯はベッドの掛け布団を捲ると先に奥へ滑り込み、自身の隣をポンポンと叩いた。

「憂、おいで。」
「……うん!」

憂はいそいそと唯の傍らに身を寄せる。唯は捲った布団を元に戻して、憂を後ろから抱きしめた。

「おやすみ、うい。」
「おやすみ、お姉ちゃ…「ちゅっ」ん…?」

憂の頬に柔らかい何かが触れる。唯の唇だ。
体を抱きしめていた手は、結っていた髪を解いた憂の頭を優しく撫でていて、憂にとっては心安らぐ魔法の手。
その腕(かいな)に包まれる安堵がもたらす眠気に抗えなくなるのは、そう時間の掛かる事ではなかった。

――大好きだよ、お姉ちゃん。







 おはようございます、平沢憂です。二次会の後の記憶は、あんまり定かじゃないんですけど…
目を覚ますと、いつもよりぬくぬくと温かい布団だと思ったら、私はお姉ちゃんに抱えられて眠っていました。

「っぁあ゛〜・・・頭痛ぇー……」
「うぅ…二日酔い…」
「なんかふらふらするぅ〜」
「……三人とも、飲みすぎだ。これに懲りたら少しは飲む量ってものを考えろよ?」
「お姉ちゃん、律さん、梓ちゃん。コーンスープできたよ。どうぞ。」
「ほんと、よく出来た子だよ憂ちゃんは…。」
「ゆい〜、憂ちゃんくれぇ〜…」
「ういはあげないよーりっちゃーん…」

やっぱりと言うべきか、お姉ちゃん・律さん・梓ちゃんの三人は二日酔いで、ソファにもたれて唸ってます。
一方で、澪さんと和ちゃんは私を手伝ってくれているのでした。

「憂、ベーコンエッグできたから、運んどくね。」
「ありがとう、和ちゃん。」
「憂ちゃんはジャムとマーマレードどっちがいい?」
「それじゃあ、マーマレードをお願いします。」



…大人になっても、このメンバーが集まると高校時代の様子とあんまり変わらないかもしれません。
でも、とっても嬉しかった事があります。それは、お姉ちゃんとの距離がもっと縮まったこと。
やっぱり私は、平沢唯の――お姉ちゃんの妹で、皆といられて、とっても幸せです。

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