私は小さい頃、おままごとが好きだった。
お姉ちゃんとする、おままごと。
だいたいお姉ちゃんが男役で、私は妻の役をした。
そのころからだったのかな。
お姉ちゃんのために何かをするのを好きだったのは。
「……懐かしい…」
お姉ちゃんは今お風呂に入っている。
ふわふわ時間を歌っているのがわかる。
きっとお湯につかりながら歌っているんだね。
私は夕ご飯の片付けを済ませて、こたつに入ってゆっくりしていた。
……少しだけ眠い。
昨晩見た夢のことを思い出す。
ずいぶん懐かしい夢を見た。
確か、あれは幼稚園児だった頃。
2人でおままごとをしていたあの頃。
私がお姉ちゃんの婚約者だった頃。
◇◇◇
「ただいまー、うい。きょうもつかれたよー」
「おかえりなさーい。しごとおつかれさまー」
おねえちゃんがしごとからかえってきました。
ういとおねえちゃんはおままごとを今日もしています。
おねえちゃんはういのだいすきなひとです。
いつもいつも、ういがおねえちゃんのおよめさんです。
ういはそれがだいすきです。
「はい、ごはんだよー」
「わー、ういのごはんはおいしそうだなぁ!」
しごとからかえってきたから、ごはんです。
ねんどでつくったパンをならべて、いっしょにたべるの。
「いただきます」
「いただきます」
お姉ちゃんったら、ほんとにたべちゃいそうで。
はらはらしちゃう。
「あーおいしかったー」
「じゃあもうねるじかんだよ」
「うん。ういもねよう!」
「うん!」
しんぶんしでつくったおふとんに、ふたりではいるの。
こんなぺらぺらなのに、なんでこんなにあたたかいんだろう。
「おやすみ、うい」
「おやすみ、あなた」
「あなた?」
「うん。あなた」
「パパといっしょにいるときのママみたいだね」
「えへへ。だいすきなひとにそういうんだもん」
「そっかぁ…じゃあうい、目をつぶって?」
「え?」
「いいからー」
うん。あなたはなにをするのかな。
どきどき。
つぶるとすぐに、くちびるにやわらかいものがあたった。
……なんだろう、さっきの?
「ちゅーだよ」
「ちゅう?」
「うん。だいすきなひとにするんだよ!」
そうなんだ…。しらなかった。
「じゃあもうねよう、うい」
「うん、おねえちゃん…じゃなかった、あなた」
「えへへ…」
「あはは…」
「あ、ほら、かたまで入らないとかぜをひいちゃうよ!うい」
おねえちゃんはそういってわたしにしんぶんしのふとんをかけた。
◇◇◇
肩に何かがかかっている、そう気がついたのは自分が寝ていたとわかったあとだった。
隣には、お風呂からあがったお姉ちゃんがアイスを食べていた。
…寝ていたんだね、私。肩には毛布がかかっていて。
暫くして、お姉ちゃんが私のためにかけてくれたのだと気づく。
「…、お姉ちゃん…」
「あ、起きちゃった?」
「毛布ありがとう…」
「えへへ。気持ちよさそうに寝てるんだもん」
微笑むお姉ちゃんを見て、昨日の夜に見た小さな頃のお姉ちゃんが思い出される。
お姉ちゃんとおままごとをよくしたものだ。
毎日のように2人でやった。
楽しくて、楽しくて。
お姉ちゃんのお嫁さんで、幸せだったから。
「お姉ちゃん…」
「ん?なーに?」
あの頃お姉ちゃんとしたキスを、まだ私は鮮明に覚えてる。
初めてのそれはあっというまで。
それなのに、痛いくらいに。
どうしてか覚えてるよ。
…お姉ちゃんは覚えてますか。
「キス…してもいい?」
「え?うん、いいよ」
…普通にOKしちゃうお姉ちゃん。
「…本当に?」
「ういならいいよ〜。あ、誰にでもするわけじゃないんだよ?」
……お姉ちゃん…。
加速する心音。
今、夢が今と重なり合う。
目を閉じながら、ゆっくりと近づく。
「…おねえ…ちゃん…」
「……うい…」
お姉ちゃんの瞳も閉じられて。
吐息がかかるくらいに近付いて…。
「…………んん…」
……甘い…。アイスの味がした。
ああ、今…私…お姉ちゃんと。
「……ん、うい…」
少しだけして離す。
「…お姉ちゃん…」
「えへへ…二回目だね、ういとちゅー、するの」
「え…?」
嘘…。お姉ちゃんも覚えてるの?
「忘れるわけないよ〜。だって、初めての人だよ?」
……お姉ちゃん…。
私はてっきり、忘れていると思った。
私とのキスをまだ覚えていてくれただなんて…。
私、お姉ちゃんが私のお姉ちゃんで本当によかったよ。
「…私、お姉ちゃんのお嫁さんになりたい」
「ええ!?」
「…だめ?」
あの頃からか、そうになりたかった。
ずっと…そうありたくて。
「…うい。それはだめだよ〜」
や…やっぱり、だめだよ…ね。
「おままごとは…おままごと。ういは私の妹だよ」
うん…。うん、わかってる…。
わかって…る…。
「…ふぇえ…ぐすっ…、うぅ…」
「うい…」
涙が溢れる。そんなの望むだけ無駄だと、わかっていた。
わかっていたはずなのに…。
どうしても、去りがたい気持ちがあったから。
どうしても、お姉ちゃんが…大好きだったから。
「っ、お姉、ちゃぁん…!」
私は…たまらなくなって、お姉ちゃんに抱き付いた。
「…ういのこと、私も大好きだよ」
優しく囁くお姉ちゃん。
お姉ちゃんに恋をしたあの頃。
お姉ちゃんが私の全てに変わったあの頃。
あの頃、世界は私とお姉ちゃんの二人だけのものだった。
お姉ちゃんのお嫁さんでいられた、あの頃。
―――あの頃はもう帰らない。
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ファーストキスは幼少時代だったという件自体切なすぎる…
切ねぇ・・・
悲しいエンドだな
泣くしかねぇよなぁ、憂…俺も泣いてやるぜ!