「よっ澪、デートしに行こうぜー」
何の連絡もせずに突然やって来て玄関前で元気一杯にアホな台詞を吐いてるのは当然、幼馴染の田井中律だ。
今もこちらが呆れているのにも関わらず眩しいほどの笑顔を向けている。
なんで休みの日の朝っぱらからこんなにもテンション高いんだ。
まあそれはさておき、とりあえず今私がやるべきことは、
「間に合ってます」
と答えて扉をしめることだろう。
「ちょっ!? 冗談、冗談だってば。一緒にクリスマスプレゼント買いに行こうって誘いに来ましたー!!」
「なら最初からそう言え!」
クリスマスプレゼントというのは、この前決まったクリスマス会のやつだろう。
私もちょうど買いに行こうと思ってたし、準備するまで外で待たせておくのもなんなので律を家に招き入れる。
勝手知ったる人の家。幼稚園時代からの付き合いだけあって、律は迷いもせず私の部屋へと向かう。
「軽い冗談じゃんかー、澪は固いなー。そんな新聞の勧誘みたいに断らなくても……。そこはほら『もちろんいいわよ、ダーリン(はぁと)』って返さなきゃいけないんだぞー」
「律の冗談は分かりずらいんだ。大体、そんなこと本当に私がすると思ってるのか?」
「まあ、ないだろうけどさ。でも、もししたら私の心のアルバムに永久保存されるね」
「絶対しないから安心しろ」
ふざけあいながら階段を上ってる途中でふと気づいた。
(ヤバい。アレ出しっぱなしだった!!)
「ちょっといいって言うまで入ってこないで」
と、言い捨てて走り出す。
後ろから
「え、澪?」
という律の驚いたような声が聞こえたが今は無視。
部屋に入り鍵を掛ける。
律は立ち入り禁止となっている所にむしろ突き進んでいくようなタイプだ。入ってくるなと言ったところであまり効果はない。
実際部屋の前にたどり着いた律がガチャガチャとドアノブを回している。
「あっ、鍵まで閉めてやがる」
とか言う声まで聞こえる。鍵がなかったら絶対突入されていたことだろう。
そして私は机の上に放り出してある作りかけのマフラーを手芸道具と一緒に押し入れの奥に隠した。
それはもちろんクリスマスプレゼントだ。ただし、律専用の。
今年は5人、いや憂ちゃんを入れて6人でやることになったけど、いつもは律とプレゼント交換をしていた。
驚かされることがほとんどだったけど、それはそれで毎年ほんとうに楽しかった。
律の中ではおそらく今回のプレゼント交換はクリスマス会と合同ということになっているだろう。
学生である私たちはお金に余裕があるわけでもない。そういくつもプレゼントは用意できないだろうしな。
だから今年は律からのプレゼントはないのだろう。
そのことが少しだけ哀しくて寂しい。
でも、それでも、私は――
「おーい、まーだー?」
律の声で我に返る。
ちょっと考え込んでしまった。
「あっ、今開ける」
「もう、忘れられたかと思っただろー」
ドアを開けると律が少しふてくされたような顔をしていた。
「ゴメンゴメン。すぐに準備するからそしたら出かけよう」
「…………」
「……? どうかしたのか?」
「ん、いや、なんでもないって。じゃ部屋で待ってるから」
◇ ◇ ◇
「はー、つかれたー!」
そう言って律はテーブルに体を預けた。
ここはどこにでもあるジャンクフード店。
モールを色々見て回った私たちはここで遅めの昼食兼休憩を取ることにしたのだ。
「行儀悪いぞ、律。でも、たしかに結構疲れたな。いくつ回ったっけ?」
お腹も空いていたのでハンバーガーを食べながら聞いた。
「え〜っと、まずはぬいぐるみでしょ、次にアクセサリーショップ、雑貨屋、ランジェリーショップ……ざっと10軒くらいは回ったんじゃない?もー、誰だよ値段関係なく片っぱしから見ていこうとか言ったの」
「まぎれもなくお前だよ」
「えへっ、そだっけ?」
「そーだよ」
ハンバーガーにポテトを食べて一息ついたところでちょっと聞いてみることにした。
恥ずかしいので律にだけ聞こえるような小声で。
「大体なんで……し、下着なんか見に行ったんだ。必要ないだろう」
「いや〜、だって唯がさ、合宿のときあんまりにも子供っぽいの着けてるからさ〜。ここはこのりっちゃん隊員が大人下着をプレゼントしてあげようと思いまして」
「合宿で何をチェックしてるんだ、お前は……。いや、そもそもプレゼントはシャッフルされるんだから唯にいかないかも知れないだろ」
「ムギは大人っぽいのいっぱい持ってそうだよな。憂ちゃんだったらいつか来る勝負用ってことで」
などと笑顔でのたまう。
律は唯たちにそんなに下着をプレゼントしたいのだろうか。
唯たちはプレゼントされたらその下着を身につけるのだろうか。
む、なんだか胸の中がもやもやしてきた。
あんまりこの話題を引っ張りたくないし話題を変えよう。
「冗談はそこまでにしてだ。プレゼントの当たりは付けたのか?」
「別にまるっきり冗談ってわけでも…(ギロッ)あっ、嘘です。冗談で合ってます」
まだ続けそうだったので一睨みして黙らせる。
「まあ、とりあえず良さそうなの2つくらいには絞ったよ。そういう澪は?」
「私もそんな感じだな。このあとはその中からいいの選んで買えばいいか」
「おっし。じゃあ休憩もしたし、そろそろ行くかぁ」
ん〜っと伸びをして律が答える。
と、何か思いついたのかにんまりした表情になった。
「あんなに色んなとこ回ったんだからさ、澪が欲しいのもあったんじゃないか?」
「……別に。今回はプレゼント交換用なんだから私の選んでもしょうがないだろ」
言って、トレイを持って立ち上がる。
「あ、ちょっと。待てよ澪ー」
後ろでバタバタしてる律を放って歩き出す。
……正直なところ、律の言っていたことは図星だった。
アスセサリーショップで見つけたネックレス。
縦に2本ならんだホワイトゴールドの地金のラインはカーブを描いて真ん中少し開いている。
そのライン上にハートカットされた2種類の宝石がセットされていた。
淡く瑞々しいアクアマリンと、幻想的な青白いシラーの浮かぶ透明感のあるブルームーンストーンは、心を落ち着かせてくれる。
そして何よりも、2つのハートを少し内側に傾けたそのデザインは大切な人と寄り添って歩くという想いが感じられた。
一目見て気に入った私は次の瞬間肩を落とすことになる。
そのネックレスの値段は1万8千円。アルバイトもしていない私が払える額ではなかった。
何度も振り向き、後ろ髪を引かれながらも私はその場を去った。
先ほどのことを思い返して私はため息を一つ零した。
その後、順調にプレゼントを買って店を出たところで唯たちと出会った。
ムギも合流し、せっかくだからということでみんなでお茶をして今日は解散となった。
今、私は自分の部屋にいる。
机の上には編みかけのマフラー。
あと2日もあれば完成するそれを私はちゃんと律に渡せるのだろうか。
ないとは思うが、もしも律が受け取ってくれなかったらと思うと不安でたまらなくなる。
その日は去年律がプレゼントしてくれたぬいぐるみを抱いて眠った。
◇ ◇ ◇
そしてクリスマス会当日。
ようはクリスマスイブだ。
世間では恋人同士の日となってるこの日にこれだけ集まりがいいのもどうかと思うが、それも私たちらしいとも感じる。
クリスマス会は楽しかった。
さわこ先生の乱入やまた脱がされたりもしたが(あやうく誤解されるところだった)、どうだったかと聞かれればやっぱり楽しかったのだ。
手編みのマフラーはまだ交換用のプレゼントを入れてきた紙袋の中だ。
いつ渡そうかタイミングを考えているうちにクリスマス会はお開きとなった。
唯の家を出るとまだ7時過ぎだったけど外はかなり暗かった。
もう暗いから全員送ると先生が言ってくれたけど、私と律はそれを断った。
いくら車があるとはいえ、方向が全く違うのに乗せてもらうのは忍びなかったし、先生の車は4人乗りだったからだ。
「私たちは同じ地区だから二人で帰るし平気だよ。さわちゃんは家が離れてる二人を車で送ってってあげて」
「本当に大丈夫?」
「本当に本当だって」
そう律が笑って言うと先生も納得したようだった。
「それじゃあ本当に気を付けてね。何かあったらすぐに連絡するのよ」
「二人ともよいお年を」
「また学校で」
3人とはそこで別れて律と二人っきりになる。
「そんじゃ私らも帰るかー」
「そうだな」
そうして私たちは二人並んで歩く。
律はこういうとき、いつも道路側を歩いている。
何を言うでもなく自然とこういうことができるのは律のいいところだと素直に思う。
一見ただのお調子者のように見える律だけど、その実、気配りがもの凄くうまいことを私は知っている。
周りの人ををよく見ているのだろう。
律は昔からなんというか…そう、楽しく生きるのがうまい子だった。
晴れの日も、雨の日も、風の日も、雪の日も、嵐や雷の日ですら、いつだって本当に楽しそうに笑っていて、いろんな人を巻き込みながら全力で遊んでいた。
無理やり引っ張りだされたり、嫌々参加した人たちも動いてるうちにいつのまにか律と一緒に笑ってるのが常だった。
律は人を乗せるのがうまい。
それは計算とかそういうのじゃなく、きっと天性のものだ。
今までだってその性格に私はたくさん助けられてきた。
出会った当時、引っ込み思案だった私をみんなの輪の中に連れて行ってくれたのも律だ。
私が一人離れてみんなが遊んでいるのを見ていると、いつだって一番に気づいて手を差し伸べてくれた。
今から考えるとその方法は多少強引だった部分もあるけれど、今の私があるのは間違いなく律のおかげだ。
それに比べて私は律に何かしてあげることができたのだろうか。
黙り込んでしまった私を不審に思ったのか律がこちらを向いた。
「黙っちゃってどうしたんだ、澪?」
「ん、ちょっと考え事してた」
「ふーん。……あっ、分った! 澪、暗いから怖いんだろ?」
「ち、違う!」
「怖いなら怖いって言えばいいのにー。黙ってちゃ分んないぞー」
「違うったら、もう!」
考え事をしていたのは本当だけど、怖いのも事実だった。
でもなんだかここで認めるのは癪な気がする。
と、左手に温かくてスベスベしたものが触れた。
「うひゃ!?」
「なんだ、やっぱり怖いんじゃん」
「い、今のは律が急に繋いでくるからっ」
「あははっ。でもさ、手を繋げば少しは怖くなくなるだろ?」
「うっ……」
そう言って繋いだ手を目の前に持ってくる。
たしかにこの温かさは恐怖を和らげてくれる。
「まったく澪ったら素直じゃないなー」
「むっ、そういう律だって変なところで頑固だと思うけどな」
「なんだとー」
「それにだらしないし、宿題だってよく忘れて泣きついてくるよな?」
「あーははは……」
「テストの度にうちに泊まり込むのは誰だったかなぁ?」
「すみません、もう勘弁してください」
「よろしい、許してしんぜよう」
「…………」
「ぷっ」
「「あはははははははっ」」
手を繋ぎながら笑い合ってるうちに律の家の前に着いた。
「あ、ちょっと家からチャリ出してくるから待っててよ」
「え? なんで?」
「なんでって……。いくら近くでもこの時間に一人で出歩くのは危ないからだよ、決まってんだろー」
私の家は律の家から歩いて5分程度だ。大した距離じゃない。
心配してくれたのが嬉しくて、ちょっとだけ照れ臭かった。
「心配してくれるんだ?」
「そんなの当たり前じゃん、友達なんだから」
自転車を出しているから顔は見えなかったけれど、その声はとても真摯だった。
「よしっ、それじゃあ行きますかー」
家の人に「ちょっと澪送ってくるからー」と声をかけ、荷物を置いてきた律はそう言った。
「ほら、澪は後ろに乗って」
「分ってるって。なんか律との二人乗り久し振りだな」
「そういえばそうかもね」
「……転んだりしないか?」
「澪が重くなってなければ大丈夫」
「こいつー」
後ろから律の頭を軽くはたく。
律は大げさに痛い痛いと言いながら笑っていた。
「んじゃ、出発するからしっかり捕まっててよ」
「分った」
律の腰に回した手に力を込める。
律の匂いが鼻腔をくすぐる。
律の温かさを全身で感じる。
私は心から安心して身を任せた。
◇ ◇ ◇
キッとブレーキをかけて自転車は私の家の前で止まった。
ああ、着いてしまった。
もうここがプレゼントを渡す最後のチャンスなのに未だに私は踏み切れないでいる。
本当に私は臆病者だ。
いつもの恒例行事みたいなものなのに約束をしなかっただけでこんなにも迷ってしまうとは。
「はいこれ、澪の荷物ね」
「ああ、うん」
自転車から降りて籠から取り出した荷物を笑顔で手渡してくる律。
その顔を見ていられなくなって俯いたとき、
「それと、Merry Christmas。澪」
思ってもみない言葉が降ってきた。
顔を上げるとそこには律が満面の笑みでこちらを見つめていた。
さらに、プレゼント用の包装をされた小さな箱を差し出している。
「えっと?」
「とりあえず、受け取ってよ。これ澪へのプレゼントだし」
「あ、うん。えっと、開けてもいい?」
「どーぞ」
未だに混乱の渦から抜け出せない私は、にまにま見てくる律の目の前で言われたとおりに包装を解いていく。
そして、それが現れたとき律がにやついていた理由がわかった。
「どうしてこのネックレスが…」
「だってそれ、欲しかったんでしょ?」
そう、それはこの前見つけて諦めたネックレスだった。
律はしてやったりという顔してる。
「これ凄く高かったはずなのに」
「日雇いのバイトをいくつかして貯めたのがあるからそれ使った」
「でもそれは律が自分自身のために使うべきじゃ」
「いいんだって。澪にプレゼント買うために貯めたんだから」
どうしてと思ったのが顔に出たのだろう。
律はむぅと唸って、言い聞かせるようにゆっくりと話し始めた。
「あのね、分ってないみたいだから言うけどさ。私は最初からみんなにあげるのとは別に澪にプレゼント贈るつもりでいたよ」
「え?」
「理由は、恒例だからとか、学祭で頑張ってたからとか色々あるけど、渡さないってことに何よりも私がしっくりこなかったんだよね」
「しっくりこない?」
「うん。なんつーか、やっぱりね、私の中で澪は特別なんだと思う。たぶん」
「…………」
律の中でも明確な答えは出ていないのだろう。
それでも曖昧なものを一生懸命伝えようとしてくれている。
「だからさ、澪を誘って連れまわして、一番欲しそうにしてたのをプレゼントしようって思ったんだよ」
「あれは交換用のプレゼントを買うためじゃなかったのか?」
「私に限っていえば嘘になるかなー。バイトの帰りに寄って、交換用の方はあらかじめ目星つけてたから」
「そっか」
「店に入ったら澪の視界に入らないように移動して様子見てた。実はどれが一番か分るか不安だったんだけど、澪は思った以上に分かりやすかったんだな」
「う……」
「何度も振り返ってたもん。もうこれしかないって思ったよ」
律はそのときの様子を思い返しているのかうんうんとうなずいている。
「でさ、ちょっと着けてみない?」
「え、今!?」
「そう。やっぱ着けたとこ見たいじゃん」
「べ、別の日じゃダメかな?」
「今がいいなー」
「うぅ、分ったよ」
私は律に背を向け、首に巻いていたマフラーを取ってネックレスを着けた。
恥ずかしくなってきた私はやけくそ気味に振り返った。
「ほら、ちゃんと着けたぞ!」
そして律は
「うん、やっぱり。よく似合ってるよ、澪」
私の目を見てそう断言した。
あんまりにも優しい笑顔で言うものだから、思わずその笑顔に見入ってしまった。
3秒くらいしてから、ようやく何を言われたのか理解して顔が熱くなる。
心臓なんてうるさいくらいに早鐘をうっている。
鼓動がこんなにもうるさくなるものだなんて知らなかった。
顔の状態に関しては鏡なんて見なくても分かる。
きっと今の私の顔はサンタの衣装も顔負けなほど真っ赤になっているだろうから。
「……ありがとう」
今の私には小声でそう呟くことが精一杯だった。
「えっと…、じゃ、じゃあ私もう帰るね。用事は済んだわけだし」
私の様子を見てるうちに、自分も照れ臭くなってきたのか律が慌てた様子で自転車に乗ろうとする。
いくら私が底なしの臆病者でもこのタイミングを逃しちゃいけないことくらい分った。
急いで律の服の裾を引っ張る。
「っとと。どうかした?」
「…ぃ……ぁ…」
「え?」
「私も律にクリスマスプレゼントがあるって言った」
言えた。
ようやく言えた。
律の様子はというと……何故か胸を押さえてものすごく安堵していた。
「あー良かったぁ。たぶん用意してるとは思ったけど、もらえないかと思ったよ〜」
ちょっと待て。
今の一言は聞き捨てならない。
「なんで私がプレゼント用意してるって思ったんだ?」
「初めはなんとなく。で、この前部屋に行ったとき、なんかバタバタしてたじゃん? あれはなにかあるなって思った」
事実だがなんか悔しい。
ここはなにか一発見返したくなるな。
!
思いついた。これでいこう。
「それでなにくれるの?」
「その前に律。お前もマフラー取れ」
「? 別にいいけど」
律がマフラーを取っている間に、私は紙袋の中からラッピングされた袋を取り出すとそのリボンを解いた。
「あっ!何してるんだよ!?」
駆け寄ってきた律の首に私は手編みのマフラーを掛けた。
驚いて一瞬止まった隙をついて律の頬にキスをして、
「Merry Christmas、律」
と耳元で囁いた。
律は頬を手で押さえて呆然としている。
私の顔は先ほど以上に真っ赤になっているだろう。
でも、今は律の顔も信じられないくらいに赤くなっている。
一発やり返せたのはいいが、なんだか膠着状態になって動けない。
〜♪〜〜♪〜〜♪〜
そんな固まった空気を動かしたのは律の携帯だった。
音楽が流れたと瞬間は私も律も飛び上がるほど驚いた。
「うわっ!? だ、誰? あ、うん。今戻るってば。 え? 別になんでもないよ。全然普通だし」
相手はおそらく家族だろう。
焦り過ぎて早口になっている。
「うん、分った。じゃあね」
携帯電話を切った律はまだ顔は赤いものの大分落ち着いたようだった。
そしてこちらを向いて
「それじゃ帰るよ。コレありがとね。大事にするから」
そう言ってマフラーの端を持ち上げて見せた。
そのマフラーは手編みらしく少しほつれている。
頑張ったけれどやっぱり既製品のようにうまくはいかなかった。
私が苦笑いしながら
「ゴメン下手くそで。このネックレスとじゃ全然釣り合わないけど」
と言うと、
「ううん、これがいい。澪が頑張ったっていうのよく分るし、すごく嬉しい」
そう言ってくれた。
その後、もう一度携帯が鳴って、律は
「本当にありがとな、絶対大切にするから!」
と言って去っていった。
私は今、家の玄関扉に背を預けている。
外の空気は冷たいけれど身体が熱いせいかあまり気にならなかった。
まさか律からプレゼントをもらえるなんて思わなかった。
しかも私のためにバイトまでして……。
そのことを考えると幸せでたまらくなって、頭の奥がかぁっと熱を持つ。
頭だけ茹ってるみたいに熱くなっているのに不快じゃないのは不思議だな。
あと、ちゃんとマフラーを渡せて良かったとしみじみ思う。
おまけに頬にキスまでしてしまった。
律のことだからアレは友達のキスで、自分を驚かせるためだけにやったとでも思ってそうだ。
まあ、とりあえず今はそれでいいか。
今はこの頬の熱さと身が震えるほどの嬉しさを少しでも長く感じていたいと、ただそれだけを願っていた。
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かなりイイ(^p^)
本当に素晴らしいとしか言えないねえ
律がイケメンすぎ!
澪がかわいいかった!