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著者:2-652氏


さっきまで大合唱をしていたセミ達も耳障りにならないくらいに大人しくなった
夕方、唯はいつものように自分の部屋でごろごろしていた。
中学に入って初めての夏休みも半分以上が過ぎ、暑さも盛りを迎えたこの時期、
冷房の効いた部屋でのん気に漫画を読んでいるところを見ると、大量に出された
宿題など早々と片付けてしまい悠々と過ごしているように思えるが、そうでは
ない。むしろほとんど手付かずの状態だ。
では彼女は怠けているのかというと、そうでもない。

『休みの日は遊ぶ』

この崇高な信念に裏打ちされたプライドが、休日に勉強をするなどという異常な
行為を許さなかった。ただそれだけである。
だからといって、新学期早々先生に叱られるつもりもさらさらない。
それならばさすがにそろそろ取りかからないとまずいのだが、このぐうたらの
権化からは焦りの色というものがまったく感じられない。
その理由はこんなところにある。
唯は、人一倍周りの人間に恵まれていた。
例えば、優等生の幼馴染み、和。そして、面倒見のいい妹、憂。
提出期限ギリギリになってから二人に泣きついて手伝ってもらう、というのが唯
の魂胆であり、両親までも巻き込んで大勢が深夜まで机に向かう光景は、もはや
平沢家における夏の風物詩とさえ言えた。
中学生となった今年もその例外ではなく、宿題のことなどすっかり忘れ去った唯
が熱心に読書に耽っていると──。

コンコン──ノックの音。
「ふぁ〜い、どうぞー」
あくび混じりの返事をすると少しだけドアが開き、隙間から妹の憂が遠慮がちに
顔を覗かせた。
「お姉ちゃん、ちょっといい?」
「あー、憂。どうしたの?」
読んでいた漫画本を閉じて体を起こし、二つ折りにされあご置きと化していた
クッションを本来の姿に戻してその上に座る。
憂はなぜか緊張した様子で部屋に入り唯の隣に座ると、背中に隠していたものを
テーブルに置きながら切り出した。
「あのね、ちょっと宿題でわからないところがあるんだけど……」
「……はぇ?」
ぽかん──そんな言葉がピッタリの間抜け面を見せる唯。
これまで妹から何かを相談されるという経験があまり無かったし、ましてそれが
勉強のこととなると、全くないと言っても過言ではない。
基本的にあまり物事に動じない性格の唯だが、この時ばかりは珍しい出来事に
思わずあっけにとられてしまったようだ。
だが、これは普段世話をかけてばかりいる妹に姉としての威厳を示す絶好の機会
でもある。そう思い直し、唯は目の前に置かれたそれに目を落とす。心なしか
いつもより偉そうな態度で。
「どれどれぇ?」
「えっと、ここなんだけど……」
「ぐ、これは……」
算数だった。苦手科目だった。唯は基本的に数字というものを受け付けない体質
だった。
「お姉ちゃん、わかる?」
「も、もちろんっ! お姉ちゃんに任せなさいっ」
そう意気込んでどーん、と胸をたたいた数分後、妹にいいところを見せるという
姉の野望は、もろくも崩れ去る。
「んんんん……」
数字に対する拒絶反応なのかなんなのか、シャーペンを持つ唯の手は、本人の
意思とは関係なく小刻みに震えていた。


「お、お姉ちゃん、無理しなくていいよ? わからなかったら私あとでお母さん
に聞いてみるから。ね?」

『わからない』

その言葉に唯はカチンときた。
たかが小学生の宿題。中学生の自分にわからないなんてことがあるはずがない。
……はずだ。
「待って、もうちょっと!」
とは言ったものの──。
認めてしまうのは癪だが、唯は、いくら考えても自分にはこの問題を解ける気が
しなかった。
なぜなら、近頃はマイナスとかプラスとかで忙しくて、分数とか小数とかは記憶
の片隅に追いやってしまっていたのだから。

いたずらに時間ばかりが過ぎていく。
期待と不安と励ましと諦めがごちゃまぜになった憂の視線が痛い。
気まずい空気に、つぅ、とこめかみを汗が伝う。
ちなみに唯が今必死に考えているのは問題の答えなどではなく、どう言い訳して
この場を切り抜けるか。ただそれだけである。

──とその時、沈黙に耐えかねて最初に声を発したのは、階下の電話だった。
「あ、私出てく──」
「あっ、電話だー! ちょっと待っててね、憂」
「え……あ、うん」
立ち上がろうとした憂を遮り、唯は逃げるように部屋を出た。
たとえ一時しのぎでしかなくても、とにかく今は少しでも数字から離れたかった
らしい。



電話は唯が中学に入って仲良くなった友達からで、「明日家に遊びにおいでよ」
とか、「そろそろ貸した漫画を返してほしい」という内容のものだった。

「うん、わかった。じゃあね、バイバーイ」
翌日遊ぶ約束を交わして電話を切り2階に戻ろうとすると、ちょうど買い物に
出ていた母親が帰ってきたところだった。
「あら唯。ただいま」
「おかえりー。さようならー」
「あ、ちょっと待ちなさい唯!」
逃亡はあえなく失敗に終わった。
「な、何?」
「今年はちゃんと宿題やってるんでしょうねぇ」
はぁ……。唯はばれないようにため息をついた。
例年が例年だけに、顔を合わせると二言目にはこの質問が飛んでくる。
「ちゃんとやってるよぉ」
取り繕ったような笑顔で言うと、「ほんと〜?」と探るような目つきで顔を
覗き込まれる。
例年が例年なので、やはり母は簡単には騙されない。
「ほ、ほんとだってばー。あっ、今部屋で憂と二人でやってたんだよ! 宿題」
「へぇ〜」とあからさまな疑いの視線を向けられて思わずたじろいでしまうが、
嘘はついてないのだから大丈夫、と自分に言い聞かせる。
「まあいいけど、あんまり憂に手伝わせちゃダメよ」
瞬間、唯の目がキラリと光る。形勢逆転だ。これには反論できる材料がある。
「ふっふっふ、残念でしたー。今日は私が憂の宿題手伝ってあげてるんだぁ」
えっへん、と胸を張る唯。
一応事実ではあるが、とてつもない後ろめたさが込み上げたのは言うまでもない。


「はいはい。あ、ついでに麦茶でも持ってってあげなさい」
──相手にされなかった。(ほんとなのに……)
やるせなくなった唯は、二人分の麦茶を入れてさっさと2階に戻ることにした。



「お待たせー。お茶入れてきたよ、憂」
「ありがとうお姉ちゃん」
コトン、コトン、とテーブルにコップを置きながら例の宿題に目をやると、つい
先程まで唯が悪戦苦闘していた問題の答えが埋まっていた。
「あれ? 憂、それ──」
「あ、それがね、今一人でやってたらできちゃったみたいで……」
自分の宿題を自分でやっただけなのに、なぜか申し訳なさそうな顔の憂。
「そ、そうなんだ……。うぅ、ごめんねぇ、役に立てなくて……」
「ううん、いいよ」
「あ、ねぇねぇ憂、ほかに何か私に手伝えることとかない?」
眠れる“お姉ちゃん魂”に火がついてしまったのか、唯はここぞとばかりに妹の
世話を焼こうとしていた。
「う〜ん、宿題はこれで全部終わりなんだけど……」
「え〜、なんかないの〜? 私も憂の役に立ちたいんだよ〜ぅ」
「そう言われても……。あ──」
「んっ、なになにっ?」
何かを思いついた様子の憂。
唯は身を乗り出して次の言葉を待つ。
すると、しばらく言いにくそうにもじもじとしていた憂が蚊の鳴くような声で
言った。
「じゃあ……今日、一緒に寝てくれる……?」



家族そろって夕飯を食べた後、憂と一緒に寝ることになぜかウキウキしている唯
は、せっかくだから久しぶりに一緒にお風呂に入ろう、と持ちかけた。
恥ずかしいから、と最初は断った憂だが、唯がしょんぼりしながら入浴の準備を
していると、意を決したように、「やっぱり一緒に入る」と言ってきて結局一緒
に入ることになった。

風呂場での憂は、体を洗う時も浴槽に浸かる時も常に唯に背を向けていたり、湯
に入って間もないというのに体中真っ赤になってしまったりと、一言で言えば
挙動不審だった。
唯は憂がのぼせてしまったのかと心配になり、この日の入浴はいつもよりかなり
短いものになった。



「おねえちゃんのベッド……」
まるで愛おしむかのように唯のベッドのシーツを撫でる憂。風呂上がりである
ことを差し引いても、その頬はほんのりと赤く染まっていた。
放っておくとシーツに頬擦りし出しそうな姿がなんだかおかしくなって、唯は
思わず小さく吹き出してしまう。
はっ、と我に返った憂は、恥ずかしさをごまかすように口をとがらせた。
それを見た唯がまた笑い、憂がぷうっ、と頬を膨らませる。
同じようなやりとりを2、3度繰り返したところで憂は拗ねてしまい、ぷい、と
背中を向けてしまった。
「あーんごめ〜ん。だってぇー、なんか憂じゃないみたいだったんだもん」
本気で怒ったわけではないと分かってはいたが、背中に頬を擦り寄せて許しを
乞うポーズ。


「でも、ほんとに今日はどうしちゃったの?」
やや声のトーンを落として問いかけると、
「だって、お姉ちゃん、最近あんまり私と遊んでくれないし……」
ぼそぼそとこんなことを言われる。
人差し指でシーツにくるくると円が描かれるのを肩越しに見ながら、唯は今日
一日の憂のおかしな言動の理由がわかった気がした。
──言われてみれば、確かに。
去年までは、夏休みといえば毎日のように憂や幼馴染みの和と過ごしていた。
それは彼女達にとっては当たり前のことで、わざわざ約束なんてしなくても、
いつも自然と三人で集まっていた。
「なんかお姉ちゃんが遠くにいっちゃったみたいな気がして、だから……」
「憂……」
この春からは部屋も別々になり、持ち前の明るい性格からか唯には新しい友達も
たくさんできて、そうなると、必然的に姉妹が共に過ごす時間は以前よりも
減ってしまう。
小学生の憂にしてみれば、姉に対して学年がひとつ違うという以上の距離を
感じていたのだろう。
(急に環境が変わって、憂にさみしい思いさせちゃってたのかな……)

「ごめんね、憂」
「え? あっ、お、お姉ちゃん?」
さっきまでのふざけたものとは違う色を含んだ声に、驚いて振り向いた憂。
気づくと、唯はその身体を抱きしめていた。そして、洗いたてのふわふわとした
髪を柔らかく撫でながら、言い聞かせるように囁く。
「憂、私はずぅ〜っと憂のお姉ちゃんだからね?」
いきなりの出来事に最初こそどぎまぎする憂だったが、その言葉を聞くと唯に
身体を預けて小さく呟く。
「……そんなの、当たり前だよ」
「あはは、それもそうだね。じゃあ、こんなふつつかな姉だけど、これからも
末永くよろしくお願いします」
「お姉、ちゃん……うん……」
憂は、電気スタンドの薄明かりでもわかるほど真っ赤になってしまう。
慌てて目の前の肩に顔を埋めても、頬と同じく赤い耳までは隠せなかった。
漫画に出てくるセリフを真似てみただけのつもりだったのにな、と不思議に思い
つつも、可愛い妹のいつもは見られない姿に唯は思わずくすりとする。
穏やかな沈黙が、しばしその場を包んでいた──。

「うい」
「ん……?」
不意に優しい声で呼ばれて顔を上げれば、吐息で吐息を感じるほどの距離。
唯の潤んだ瞳の中、何かを期待している自分を見つけた気がして、憂は思わず息
を飲んだ。
二人だけの空間に、二人だけの時間が流れる。
互いの存在の他には何も見えない。何も聞こえない。
──もうこの世界には自分達以外誰もいない。
そんな錯覚すら覚えるようなゆっくりとした静寂は、しかし否応なしに憂の鼓動
を速め、胸をざわつかせていって、そして──。

「そろそろ寝よっかぁ」


「……そうだね」
フッ、と身体から力が抜け、憂は少しがっかりしたように苦笑いを浮かべた。
だがその表情は、いつもの二人の空気にどこか安心しているようでもあった。


今は夏。一緒に寝るにしてもにこのままではさすがにちょっと暑いから、と唯が
体を離そうとすると、きゅ、とパジャマの袖をつかまれた。
「お姉ちゃん……手、つないでても、いい……?」
──上目遣い。
いつもは基本的に唯がする機会が多い仕草だ。
耐性がない人間にとって憂がするそれの破壊力は相当なものだった。
「……うん、いいよ」
クラクラしながらもなんとか返事をすると、憂は嬉しそうな、でも少し恥ずかし
そうな笑みを浮かべて、唯よりもちょっとだけ小さな手をそっと重ねてきた。
「おやすみ、お姉ちゃん」
「おやすみぃ」
明かりを消して目を閉じると、隣から「あっ」と小さな声があがる。
「うん?」
「……お姉ちゃん、目覚ましセットした?」
「あ」
言ったそばからさっそく“ふつつか”が出てしまい、これは本格的に末永く面倒
を見てもらうことになるかもしれないなぁ、と思う唯なのだった。

唯は基本的に目覚ましで起きるタイプの人間ではないので、寝る前にうっかり
かけ忘れることも珍しくない。
しかし今日ばかりはそういうわけにはいかなかった。
時計より優秀な“目覚まし”を起こすために。
慣れない片手での作業に手間取りつつ、いつもの時間に目覚ましをセットする。
「これでよしっ、と。今度こそ、おやすみ」
「うん、おやすみなさい」

「………………」

じいぃ〜〜〜〜〜。

「……寝ないの? お姉ちゃん」
「んー? 憂の寝顔が見たいなーって。へへへ」
「わ、私だって見たい……ょ」
とっさにそう返してしまってからそのやりとりの恥ずかしさに気づいたのか、憂
は再び茹でダコになった。これではまるでバカップルである。
「えー、憂は朝見ればいいじゃ〜ん」
「……私のほうが先に起きるのはもう決まってることなんだね……」
「とーぜんだよ! ほらほら、早く寝なさいっ。お姉さんが見ててあげるから」
鼻息も荒くそう言われ、渋々といった様子で目を閉じる憂。それにつられてつい
うつらうつらとした数秒後、普段見られない妹の寝顔を見るという姉の野望は、
もろくも崩れ去る。
「くかー」
「ふふっ、おやすみ、お姉ちゃん。……大好き」


ちゅ。



おわり

このページへのコメント

天使の憂ちゃんw

0
Posted by も 2010年11月07日(日) 02:32:20 返信

憂めっちゃ可愛い

0
Posted by まさにゃん 2010年06月08日(火) 00:25:47 返信

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