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著者:別-467氏


「みーおー!音楽室行こうぜっ!」
「あ、悪い。先行っててくれるか?」
「えー、何で。またアレかー?」
「…うん。大丈夫だから」
ざわつく放課後。
いつものように澪を誘うも、今日は駄目みたい。
どうもここんところ、ぽつぽつとこういう日があるのだけど、理由は知っている。
「今日も呼び出しかぁ」

少し前に一緒に登校した時、気まぐれに澪の靴箱を先に開けてみたら、ぽろり。
足元に落ちた小奇麗な封筒。すぐにわかった。ファンレターか、ラブレターだろう。
1年の時から澪はたまに呼び出されては告白をされていた。
押しに弱い澪は情熱的な告白をものすごくがんばって断っていたらしい。
その時に「ちょっとでも困るようだったら相談して!」って必死で言ったのはよく覚えている。
大切な人に対して、その気がある奴が近づいてきたら誰だって警戒するだろう。
ましてや恋人ならば、尚更だ。

でも所詮は澪の偶像しか知らない人達。最初は気にも留めていなかった。
けれど、そうもいかなくなった。嫌な予感がする。
なにしろその呼び出しはここ数週間で激増しており、今週はこれで3件目だ。
そしてその理由に思い当たる節が、私にはあった。

練習が終わった後、2人で帰っている時だった。
「はぁあ〜〜〜〜〜」
「どうした澪。そんなに練習うまくいかなかったのか?」
澪は少しだけ、んー、と唸って首を横に振った。
「じゃあまた愛の告白をされて断るのが大変だったとか?」
「…お前わかってるだろ」
「ほんとに多いねここんとこ。私が代わりに行きたいぐらいだぜ」
グーを作って前に突き出す。
「困ったことに、最近いろんなパターンがあってさ…」
「パターン?」
「知り合いに会ってほしいとか、写真を1枚撮らせてくれだとか、只しゃべりたいだけの人もいる。話すだけなら普通に教室に来ればいいだけなのに、呼び出すなんてどれだけ内気なんだろうって思うよ」
「(澪に言われたくはないだろうなぁ)」
澪は見えない敵にパンチを続ける私の拳をそっと抑えて握った。
確かに、手紙での誘いを無視することはできない澪にとっては困る状況だな。
「この前、澪のアドレス教えて下さいって子が来たよ」
「律のところに?」
「うん。断ったら、唯やムギの所にも頼みに行ってたなー」
やっぱり断ってたみたいだけど、と付け足すと、澪はふぅと安心したように肩を落とした。
どうすればいいんだろう。と澪が言う前にひとつ提案。
多分、断られるけど。
「ねー!良い考えがあるんだけど!」
「なんか嫌な予感がする」
「だからみんなに堂々と言えばいいじゃん!『私と澪は恋人です』って」
「絶対嫌だ!」
顔を赤くして首を大きく横に振る澪がかわいくて、思わず黙ってしまう。
が、そんな感情を押し殺して考える。

あたしと澪は恋人同士だ。
でもそれは堂々と公言できない関係だろう。一般論では。
あたしは別に胸を張って言ってもいいのだけど、澪は恥ずかしがるので隠している状態だ。
軽音部にだって秘密にしている。…まぁムギにはバレちゃったのだけど。
だから、学校ではあまりべたべたすることができない。
学校外でしか恋人になれない、なんて正直もどかしいのだけれど、澪が望むならこれでもいい。
そう思っていたけど、そうもしていられない状況になっちゃったみたい。

気づいたら澪の部屋に上がっていた。
話が長く続きそうだからだけど、これもいつものことだ。


「澪、さっきのことなんだけど」
気持ち真剣な声色で話を切り出した。
「い、嫌だからな」
「あーそれじゃなくって。」
「?」
「…ファンクラブのこと、どう思ってる?」
「突然だな。ファンクラブって、えっと、私の?」
「それしかないじゃん。やっぱり支えになる?恥ずかしい?それとも迷惑?」
「うーん、わからない。ピンとくるのは、恥ずかしい…かな」
そうだろうなぁ。きっかけとなったライブがあんな恥ずかしい思い出を残しているぐらいだし。

「澪に、ファンクラブの存在を肯定して欲しいんだ」
「さっきから話が飛んでいる気がするんだけど」
「だね!でも聞いてくれ。これは澪の呼び出し状大量発生事件の少し前の話である…」
半分あきれ顔の澪を傍らに、語ってみる。

あれは、数週間前のこと。
掃除当番になった私は、クラスメイトと一緒に床を掃いていた。
珍しく…いやいつも通り、生真面目に掃除をしていると、なにやら私を見ながらコソコソと話をしている子たちが目に入った。
女の子ってコソコソしゃべるの好きなのかねぇ、なんて思っていると、話しかけてきた。

「ねぇ、りっちゃんって、秋山さんと、その、付きあってるの?」
お茶を飲んでいたら盛大に吹いていただろう。
勘の良い子たちなのだろうか。いーや違う。
私と澪の雰囲気を察したらわかる人にはきっとわかるんだ。ムギがわかってしまったように。
しかしここは、こう言われた時の対応は、澪にお願いされた通りにする。
「まさか。澪とは親友だよ。付きあってるなんてないって」
自分で言っておきながらチクリと痛む。違和感なく言えてるかな。
これ以上追及されたくない。
「話はそれだけかー?」
「ううん、あとひとつ。聞きたいことがあって」
「聞きたいこと?」
「秋山さんのファンクラブのこと、どう思ってる?」
「澪のファンクラブ?」
「とても仲のいい人にファンクラブがあるのってどんな心境なのかなって」

澪のファンクラブ。そういえばまともに考えたことは無かった。
非公式だし、ネタとしてやっている人もいるんじゃないか。大半の人が澪とすれ違った時に『今澪ちゃんとすれ違った!』なんて言ってキャーキャーしているんじゃないか。
そんなイメージを持っていた。
「大して気にしていないよ。澪の生活に支障があるわけでもない。あってもなくても澪は澪だ」
これが私の考え。
だったのだが、女子高とは恐ろしい所で、澪のファンにも派閥があるとの噂を聞いた。
そして、わずかながら、澪のことを気に入らない人もいるのだとか。複雑だ。
でも今はそんなことを言うわけにもいかないので黙っていよう。
「へー意外!気にしてないんだ。」
「ゼロってわけでもないけどねー」
「りっちゃんって嫉妬しそうに見えるけど」
「ふっふん。そこらへんはわきまえていますのよ!」
女の子達はクスクス笑った。ちなみにこの子達は澪ファンでは無いらしい。
「むしろ、澪に言ったことがあるんだ。ファンクラブ会合でも開いてパーティでもすれば。って」
「うん、そしたら?」
「緊張するし、軽音部が一番大事だから遠慮するー だってさ。いや恥ずかしいんだろって!」
ははっと笑いが零れた。
「そういえば秋山さんは自分のファンクラブのこと、どう思ってるんだろう」
「あー、最初は考えただけで恥ずかしいって言ってたなー。どうしてできたのか真面目に疑問に思っているみたい。だからその話にはあんまり触れてないけど」
「自分のファンクラブを恥ずかしい、って秋山さんらしいね」
箒を片手にトークがこんなに続くのも珍しいなんて、この時は呑気に思っていた。

「ねぇ、りっちゃんは本当に秋山さんと付き合ってないんだよね」
「そうだけど」
「ファンクラブの間では噂になっているらしいよ。あの2人は付きあってるって」
「マジで!?」
「なんか真相を掴む為にストーカーとかする人が出たら嫌だし、付きあってないってクラブの子に伝えてもいいかな」
「え、と、いいよ」
「ありがとう!じゃあ部活がんばってね」
そう言ってクラスメイトは去って行った。




途中で赤くなりながらも、長い話を澪は飽きずに聞いてくれた。
「つまり、私と律の関係を隠しているのが原因で今のようになったって…?」
「うむ。今の話を聞いているとそういう事になるな」
「どうしよう…」
「澪。私に良い考えがある」
「却下」
「まだ何も言ってないだぁろぉ!?」
「じゃあ言ってみろ」
「トイレ、廊下、空き教室、人目につかなさそうでつきそうな場所でチューしまくればいいんだよ!そうすればいつか目撃者が出てきてゥアぃダッ!」
「だから却下って言ったんだ!」
正直名案だと思ったんだけどな。
「…とにかく今の話を聞いてるとカミングアウトが正解に思えるだろ?」
「まだ何かあるのか」
「その事をムギに相談したんだけど、ムギは違う説を唱えてくれたよ」
「…その説とやらを聞こうか」

私はコップのお茶をぐいっと飲んでまた話を始めた。

数日前、ムギに電話をした時の会話である。
「そういうことで、澪のやつ最近大変みたいなんだ」
「澪ちゃん…」
「ムギぃー。やっぱり、私達の関係って隠さない方がいいのかな」
「いいえ、私の考えはちょっと違うわ」
「へ?」
「例えりっちゃんと澪ちゃんが付きあってるって知っていても、澪ちゃんを誘いたい人は誘うと思うの。断られるのを覚悟してでもね。実際、告白じゃなくて、話したいだけの人もいるんでしょう?」
「う、うん…」
「私が1年生の時に聞いた話なんだけど、ファンクラブには暗黙のルールがあるの」
「暗黙のルール?」
「そう。みんな一緒の立場なんだから抜け駆けしちゃ駄目ですよ。っていうルール」
抜け駆け。これが意味することが何かぐらいは私でもわかった。
「澪ちゃんが好きだっていう気持ちでできたクラブなのに、澪ちゃん本人はあまりかまけてくれないどころか、ファンクラブの事を『恥ずかしい』って言っていたでしょう?」
「うん」
「もし、その『恥ずかしい』っていうフレーズがファンクラブの存在を否定する言葉だと捉えられたら…」
「いやいやいや、勝手に作ったクラブだし、例え澪が嫌がっても私は応援しますー!みたいな感じじゃないのか?」
「そうだとしても、今やファンクラブは学年を跨いで、人数は増えていってるの。だからそういう考えは全部のうちのひとつじゃないかしら…?」
だんだん寒気がしてきた。あのクラスメイトの子と話した時、澪と付き合っていないという情報以外に、澪がファンクラブの事を恥ずかしいと捉えていた事を言ってしまった。恐らく両方の情報がファンクラブの子に伝わっているのだろう。

「ファンクラブの存在が揺らぐと、暗黙のルールを破る人が出てもおかしくないわね」
「ムギ!どうしよう。もしかして私のせいで…」
「りっちゃんのせいじゃないわ。こうなっちゃったんだから仕方ないのよ。それより解決策を考えましょう」
この時改めて思った。ムギにばれて良かったと。
「私が思ったのは、澪ちゃんがりっちゃんとの関係をカミングアウトするのがどうしても嫌なら、嘘を交えてでも、ファンクラブに対して感謝を伝える。それだけでも、解決に繋がるかもしれないってこと」
嗚呼、ムギの冷静さと情報網には頭が上がらないな。
「わかった。じゃあそれを含めて澪に相談してみるよ」
「うん。がんばってねりっちゃん。澪ちゃんも。それじゃ、おやすみ」

しゃべりすぎて喉がカラカラだ。澪はやはり、ずっと真剣に聞いてくれた。

「それで、私にファンクラブの存在を肯定して欲しいってわけか…」
「そういうこと。納得した?」
「確かにファンクラブは恥ずかしいけど、否定しているわけじゃなかったんだよね…」
ああ、とため息を付いて澪はベッドにどさりと横になった。
「悩むね。お姫様は」
私もその隣にどさりと横になる。
「ねぇ、律は…律ならどうすればいいと思う?」

この『呼び出し状大量発生事件』の話で、澪は参ってしまったみたいだ。
こんな時でも、ここは安全な檻の中だからと、少しでも恋人気分を味わいたいな。
…なんて、今の澪には言えない。でも思いついちゃった。特効薬かも。こんな時だからこそ。
「澪、キスしてよ」
少し汗ばんでいる澪の手を握る。
「いきなりだな、どうした」
「いいから…」

目を瞑って澪を待つ。
しょうがないな、と言いつつ、澪は私の頬に手を添える。
やがて唇に澪の感触が降りてきた。
しばらく啄ばむように触れ合う。
「…私はね、澪とのことに嘘は付きたくない」
「うん」
「澪の気持ちもわかるけど、学校で隠してるのってやっぱり、辛いよ」
それが澪を苦しめる出来事に繋がっているなら尚更だ。

小さく、ごめん、と呟いて澪は私を抱きしめた。
「いいよ。律。ずっと考えてたんだけど、やっぱり律の言う通りだよ」
胸に顔を埋めているせいで澪の顔が見えない。
きっと真剣で、きっと赤くなってる。
「これ以上律を私のことで悩ませたくないから」
そう言ってしばらく抱きしめて、もう一度キスをした。


「じゃあ明日から思いっきり学校でちゅーしまくるぞ!」
「そうじゃないだろ」
コツン、と優しいゲンコツが落ちた。
「律との関係は、その、聞かれた時にでも言うようにしよう」
「全生徒の前であっついキスをするのが一番…あ、だから冗談です」
片手に拳を握りしめて澪は言った。
「明日にでもファンクラブの代表の人と話を付けてくるよ」


要は、大量の呼び出しに対する解決法を考えれば良い。
それなら、単純に「呼び出しをやめてください!」と声をかけるのもありだ。
呼び出しを無視し続けるという方法だってありだ。言ってしまえばこれが一番いいのかもしれない。

でも、私と澪は自分達を含むなるべく多くの人が納得する解決法を選びたかったんだ。

翌日。

澪と一緒にいつものように登校する。
玄関にて、靴箱を開けた澪は絶句していた。
「みおーどうしたー?また入ってたのか?」
「う、うん」
昨日の今日だというのに、澪の靴箱にはまたもや可愛らしい封筒が入っていた。
それも、2通。

「こりゃあほんとに手打っとかないと靴箱に入りきらなくなるのは時間の問題だなー」
ひょっとしたら、学校の有名人を呼び出す。これが”流行”になりかけているかもしれない。
今さらその可能性を思いついたのが、ちょっと悔しい。
そんなことを考えながら律義に手紙を読む澪を見ていると、澪と目があった。
「どうしよう。律も読んでみる?」
「うん、みせてみせてー」
澪が困った顔をしていたのは、手紙が入ったことよりも、内容に対してらしい。
告白よりも困る内容というのが気になった。
といっても、二つとも放課後に多目的教室に来て下さい、というものだ。
ひとつは可愛らしい字で、ひとつは気持ち荒っぽい字で書いてあった。しかし、よく見てみると。
「あ。2つとも場所と時間が一緒じゃん!」

その日の放課後。

「ちぃーす!遅っれってごっめーん!」
澪以外の3人が揃っている音楽室に入る。
3人、つまり唯、ムギ、梓は、お茶を飲んでいるところだった。

「りっちゃんちぃーす!」
「あらりっちゃん。澪ちゃんは?」
ムギは私のカップを上機嫌に取り出した。
「澪はまた呼び出しだってさ。今日は2件もあるみたい」
3人は目を見合わせた。
「律先輩は同伴しなくていいんですか?」
「今日ばっかりは行こうとしたんだけど、大丈夫だって断られたよ」
「りっちゃん…」
ムギがひどく心配そうな顔つきになる。
「あの、澪先輩の呼び出しってやっぱり告白か何かですか?」
「うーん。最近はそうとも限らないみたい。単に握手したいだけの人もいるらしいよ」
笑い話のつもりだったのに、梓の表情は固まった。
「じゃあ、本当だったんですね…」
「え、何が?」
「私聞いたんです。澪先輩の呼び出しが今学校中で噂になってるって」
「梓のクラスでか??」
「はい。遊び半分の人が面白がって手紙を書いたりしてないか、不安になりますよね」
告白なら断れば終わり。
でもそれ以外の人は澪に何をするんだろう。握手、会話、写真…。それで済めばいい。
押しに弱い澪。優しい澪。そこに付け込んでくる人が出てきたら。
「りっちゃんどうしたの?りっちゃーーーん?」
唯が手を振っている。けど、澪のことが不安で気にかけることができない。
いてもたってもいられなくなった。

「ごめん、ちょっと心配だから行ってくる!」
私は音楽室を飛び出した。



多目的室は別校舎だったはず。
陸上部顔負けの勢いで廊下を疾走する。
階段を2段飛ばしで進み、緩急をつけてカーブを切り抜ける。

「あだっ!」
「きゃっ」
頭が真っ白なせいか途中で女の子2人にぶつかってしまった。
「ごめんなさい!」
叫んですぐに立ち上がる。いけない、冷静にならなくては。
そう、冷静にならなきゃ。だって目的地が目の前にあるのだから。

教室の扉の窓はカーテンで覆われていて中の様子は見えない。
しかし、何かしらの会話をしているのは聞こえた。片方は間違いなく、澪だった。
ドアに耳を押し付けてみる。
「…そう思…わけ?」
「…ち…つも…ない!」
いや、会話じゃない。言い合いをしているような声色だ。
そして澪の会話相手は1人じゃない。2人以上だ!
ドアに手をかけ、力の限りで勢いをつけて教室に飛び込んだ。
「っざけんじゃねぇぞ!!」

目に入ったのは壁際に追い詰められている澪と、それを囲む3人の女。
「ちょっと、誰よ!」
「あ、ドラムやってる人じゃね?」

嫌な予感をそのまま投影したような光景だ。澪の顔を見ると胸が痛む。
くそっ…。何でもっと早く来れなかったんだ。
すぐさま澪の前に立ちはだかって3人を睨む。
「り、りつ…」
「お前ら、澪を呼び出して何してんだ?」
「あんたには関係ないでしょ」
「関係あるね。大切な仲間がたかられてんだ。あんたらを追い出すまでここを離れない」
一瞬、恋人、と言いそうになった。言っても別にいいのだけど、そういう気分じゃない。
「澪。何て言われた」
「え、と、あの…」
どもる澪。それに対して聞いてもいない奴からの返事が来た。
「ちょっとその子と遊ぼうと思っただけ」
「呼び出しブームに乗ってか?」
「そんなところね」
「これが遊びねぇ。笑えねぇなぁ?」
正直やり合う気満々だったけど、3人のうち1人が耳打ちでなにやら喋っている。
「言いたいことがあるなら言えよ」
「りつ!」
澪が後ろで必死に袖を引っ張っている。これ以上挑発するのは危険だとでも言うかのように。

「これに懲りてファンクラブだのライブだので調子こかないことね!」
白々しい捨てゼリフだ。一番調子こいてるのはお前らだろうが。
そう言おうと思ったけど、何せ後ろで震えてる澪が袖を一段と強く握って引っ張ってくるものだから、睨むだけで踏みとどまった。
「そんな小心者なんかにファンクラブができちゃうなんてよっぽど暇人としか思えないよね?」
「そのファンクラブですら、どうでもいい集まりにしか思ってないんだから生意気なんだよ」

「違う!」
何かを言おうとした私よりも先に、澪のはっきりとした声が響いた。
震えている声は、怒っているというより、訴えている様だった。
「私にとって、ファンクラブはどうでもいい存在でも、恥ずかしい存在でもない」
袖を掴んでいたはずの手は、今は私の手を掴んでいる。
「最初は戸惑ったけど、でもファンクラブがあるから、ライブも楽しくなったし、やりがいになった。軽音部のみんなも私も、支えてくれるファンがいるから、毎日がんばれるんだ。今や必要不可欠な、大切な存在なんだよ。私のファンクラブは…」
そして澪は一息おいて言い切った。
「だからどうでもいい集まりだなんて言うな!」

言われた3人は意外にも、少し驚いたような顔をしていた。
私も正直、驚いた。あの澪がこんな風に啖呵を切るなんて、滅多なことじゃありえないから。

「…ほんとに生意気」
一人がそう言って、やがて3人は立ち去って行った。


私と澪以外誰もいなくなった多目的室。

「はぁ…」
緊張していた空気から一転、静まりかえった空間に澪のため息が響いた。
澪は力が抜けたように壁にもたれかかった。
「澪。大丈夫か?ごめん、もう少し早く気付いてれば…」
「ばか。来るなって言っただろ」
「で、でも、いつかああいう連中が来るんじゃないかって思ったら不安で、そしたら…」
「うそだよ。来てくれて嬉しかった。律が来てくれなきゃ、あんなこと言えないもん」
澪は握っていた手をやさしく握り直した。

「最初、なんて言われたんだ?」
「私なんかが有名人なのが気に入らないってさ」
「はは、笑っちゃうな」
「うん。それで、好きでそうなったんじゃないって言ったら怒らせちゃって」
「ああいう奴らは強気で出ていかないと逆なでしちゃうからなー」
そうだよね、と言って澪はクスリと笑った。
「そこで律が凄い勢いで飛び込んできて、堂々と立ち向かっていく律を見て、なるほどって思った」
「そんなかっこいいもんじゃないって。とにかく必死だったから」
その証拠に、未だに冷や汗掻いちゃってるし。

「ありがとう。律が勇気をくれたんだよ」
「へへっ。澪にそう言われると調子のっちゃうな」
そう。澪のことを守ることができたんだから、これが舞い上がらずにいられますかっ。
「ほんとに、無事で良かった」
背の高い澪を包むようにぎゅっと抱きしめた。
すると、澪はいつもよりずっと長い時間抱きしめ返してくれた。やっぱり怖かったのかな。
そういえば、怖かったーなんて言って泣きだすのかと思っていたのに。
それどころか、あんな状況で思っている事をはっきりと言ってみせた。
私が思っているよりも、澪は成長してるんだなぁ。私もがんばらないと。

「それにしても、律が入ってきた時の言葉。『ざっけんじゃねーぞ』って、ふふっ。今考えるとおかしい。あはははっ」
「なんだよ!それ以外に思いつかなかったんだからしょうがないだろ!」
澪はしばらく笑う。私の顔が赤くなっていくのがわかる。
「軽音部の皆に見せてあげたいよ」
「ふ、ふん。澪だって、そんなあたしに惚れ直しちゃったくせに!」
「…うん。惚れ直した」
ドキリ。思わず背けた顔を戻して澪を見る。微笑んでいるけど、真剣な表情。
恥ずかしいぐらいに心臓のドラムが激しくビートを刻んでいる。
「あんな風に来てくれるなんて、映画のヒーローみたい」
「当たり前だろ。ずっと前から、澪はあたしの一番大切な人なんだから」
澪の顔が赤くなった。これでお互い様だ、なんちって。
「調子に乗るな、ばか。でも…」
澪の手が肩に触れた。
「そんな律が好き」

憧れていた学校での最初のキスは、澪からだった。



「さて、そろそろ戻ろっか。みんな心配してるぞ」
「そうだな… あっ!」
教室を出ようと歩き出したと思ったら、澪は急に立ち止まった。
「どした?」
「そういえば、もう一人の子とまだ会ってない…」
そうだ。呼び出しは2通あったけど、さっきのアンチ澪組が最初なら、もう一人の子はもしかしたらまだ外で待っているかもしれない。
急いで澪は廊下に出て周りを確認するも、薄暗くなりつつある廊下には誰もいなかったようだ。
「さっきの騒ぎで怖がってどっか行っちゃったんじゃないかな」
「だといいんだけど…」

もしかしたら全部見られていたりして。
なんて思ったけど、そんな事は今のあたし達にはどうでもいいことだ。

澪の隣。しっかりと手を繋いで、皆の待つ音楽室へ歩いていった。

あれから一週間が経った。

私はたまーに一人で考え事をするとき、こうして屋上に来る。
柵越しに見える景色を見ながら、先週の出来事を思い出していた。


あの日以降、澪の靴箱には一通たりとも手紙が来なくなった。

そりゃそうだ。
見られていたんだ。全部。
やっとのことで知ったのだけど、あたしが走っている時にぶつかった女の子がもう一人の呼び出し人だったみたいで、あの教室でのやりとりを友達と2人でハラハラしながら見届けていたらしい。
あの時の私は、あの教室の前に人がいることに疑問を持つ余裕なんて無かったから仕方ない。
教室での言い合いはあたしが開けっぱなしにしたドアから廊下に響き渡り…。
澪のファンクラブに対する熱い(?)想いはもちろん。
あたしと澪の…その…あんなところも、しっかりと2人掛かりで見られていたわけで…。
次の日の放課後にはファンクラブを中心にその出来事が全校中に知れ渡っていた。

ムギは溶けそうな勢いで喜んでいたし、梓も祝福してくれた。
やっぱりというべきか、梓はなんとなく予想がついていたみたい。
唯も普通に喜んでくれた。ちょっとぐらいは驚いてくれてもいいのに、唯はやっぱり唯だった。
とにかく、晴れて学校中の公認カップルになりましたとさ。

ファンクラブも安泰でめでたしめでたし…と言いたいんだけど、ひとつだけ大変だった事がある。
肝心の澪が見られていた恥ずかしさで家から出てこなくなりかけてしまった。
でもそれも終わったことだ。


そんなことを考えていると、屋上のドアが開く音がして、誰かがこちらに歩いてきた。

「律?」
「お、澪!私がここにいるってよくわかったな」

澪は、どこか緊張した面持ちだ。
「…いや、実は、律を探してたんじゃなくて…」
「おやおや?澪しゃんひょっとしてまた呼び出されちゃったー?」
「う、うん。ごめんね、律」
「あれだけいろいろあったのに、がんばるねぇ。呼び出した人も、ちゃんと応じちゃう澪も」
「し、しょうがないだろ…。やっぱり無視はできないもん」
「わかってるって。そういう優しいところが澪のいいとこなんだし」
澪はふふっ、と笑った。
「怒られるかと思ったよ」
「怒るわけないじゃん。だってここに呼んだの私だし」
「…は?」

「私の字だとバレるから、唯に頼んで手紙書いてもらっちゃったー♪」
ポカーンと口を開けている澪。してやったり!
「靴箱見て慌ててあたしに見えないように手紙を隠してる澪ちゃんは可愛かっ…ぃだっ!」
「ふざけんな!さっさと音楽室行くぞ!」
そう言って、背中を向けて歩き出す。

「待ってってばー!まだ用事終わってないよ、澪!」
澪は立ち止まって顔だけこっちに向ける。ちょっと赤くなった顔が可愛い。
「まだ何かあるのか?」
「だって言いたいことあったから呼び出したんだもん」
「今さら何を言うんだよ」
呆れつつも、結局澪は向かい合って話を聞いてくれた。

「私、実は澪のことがずっと好きでしたー!付き合って頂けますか?」

満面の笑顔な私に対して、澪はため息を一つ漏らしただけ。
あれ?赤面するか、笑顔でOKしてくれると思ったのに、なんかノリが悪い感じ。
ちょっと冗談きつかったかな?

「…わかったから、ほら、音楽室行くぞ」
そう言って今度こそ立ち去ろうとする。
あ、澪の横顔一瞬見えた。笑ってるじゃん。

「みおー!何で笑い堪えてるんだよぉ!」
「う、うるさい!ふざけすぎだ、ばか律!」
何がおかしいのか、堪え切れなくなって澪は声を出して笑った。
私も思わず一緒に笑う。

「澪!さっきの返事はー?」

「はいはい。私も律が好きでした。これからもずっと一緒にいてくれますか」

「もちろん!」


だって私は出会ったその日からの、澪のファンですから。



      • fin---

このページへのコメント

今まで読んだ中で一番良かった作品(^ν^ )ごちそうさまでした

0
Posted by かなた 2010年08月09日(月) 03:35:21 返信

感動しました!

0
Posted by 名無し 2010年01月13日(水) 12:52:02 返信

新年初SSがコレで良かったよ

0
Posted by むぎ 2010年01月03日(日) 14:51:07 返信

超GJ!!

0
Posted by 名無し 2009年12月27日(日) 22:29:47 返信

メッチャ良い話でした!素晴らしい!!

0
Posted by 名無し 2009年12月21日(月) 17:45:55 返信

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