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著者:別-510氏


前  career second sign

夜の空気は昼間とは違うと思う。昼間に同じ道を通る時とは違う空気を纏っていて、それに感化されて、少し落ち着かない気分になったりする。この、まるで夜更かしを覚えたての子供のような感覚は、大人になった今でも時折私に湧き上がってくる。

昔から、何か‘これ’と決めたら悩まず実行していた。色々悩んで足踏みしたことなんて殆どない。決意した私は、それほどに頑固で単純だった。決意を遂行する時、その瞬間の高揚感が私は好きだった。
失敗するかもしれない、成功するかもしれない。どちらに転ぶかわからない局面でのスリルを味わっていた。楽天的な私は、ギリギリだって成功するイメージしか沸かないし、考えない。だからこそ、その高揚感を楽しめたのだ。

けれど、今は違う。
電信柱から降ってくる光。私達の足音。今の私の感覚は冴えわたっていて、すごく鮮明に捕えられた。ほんの些細な変化も全て把握できるように、追われる小動物のように。
昔から何も変わっていないと思っていた自分だけれど、私は少し臆病になっていた。



=career third action=



「・・・・・律、こっち。」
「お、おう。」

澪のマンションの最寄り駅で電車を降りて、改札口を出る直前に「ここまでで大丈夫だから」と言った澪を無視し、玄関まで送ると豪語した。
目と目が合って数秒。私の突拍子もない主張には慣れているのか、澪は溜息をついてから許可してくれたところまでは良かった。

勢いよく改札でsuicaをタッチした割に、私の足はすぐに止まった。澪のマンションまでの道のりをさっぱり覚えていなかったのだ。前回は酔っ払いだった上に、殆ど担がれた状態だったから当たり前で、周りなどこれっぽっちも見ていない。送ると言っておいて、私は澪にがっつり案内されていた。

右とか左とか、数か所曲がってから口を開く澪。

「・・・・・私を送った後、駅まで帰れる?」
「くっ・・・言われると思った!平気だし!」

記憶力はあるほうだぞ!!!・・・・多分。
そんな私の主張を聞いて、澪は静かにくすりと笑った。夜の静寂に溶けるような静かな笑い方だった。

二人でゆったりと夜道を歩く。
ときどき澪が道を指示する位で、私達の間に言葉はない。

今日の映画館から駅までの帰り道、私は澪に話ができなかった。映画の内容に沈む澪。今までだったら自然に方法が浮かんできて、それを立ち直らせるなんて私には簡単だったはずなのに。
とても不思議な気分だった。
気を使ったことがない人間に対して、会話が見つからない、どうやって接すればいいのか分からないなんて。
あいつとの話は見つけてするものじゃない。話したいから口を開く訳で、口をこじ開けてするものじゃない。
目に入るイルミネーションの非日常的な光と相まって、隣にはちゃんと澪が居るのに、私だけがどこか別の世界に迷い込んだようだった。


ばちっと電灯で音がした。明りに引き寄せられた蝉が当たったのだろう。
一軒家の塀に囲まれた道をゆっくりと歩いて行く。
昼間に吸収した太陽の光を放出しきれずにいるアスファルト、なまぬるい風。それらのせいなのか、私の握りしめられた掌にじっとりとした汗を感じた。
澪はいつも通り、のこのこ私の隣を歩いている。
外からいくら眺めたって、彼女の考えが聞こえてくるわけではないのに、私はちらちらと視線の端に彼女を映した。


澪が鞄からキーホルダーを出すと、チャラチャラと鍵同士のぶつかる音がした。
カチャリとひねってドアを開く。

「・・・・寄ってくだろ?」

澪の言葉に曖昧にうなずく。
中途半端な私の答えに首をひねりながらもどうぞ、とドアを開いてくれた。
澪の横を通り、先に玄関に足を踏み入れる。夏場の締め切った部屋の嫌な暑さが全身を包んだ。けれどそれと同時に懐かしい澪の部屋の匂いがした。住んでいる場所は違っていても、住んでいる人が同じだと、同じ匂いになるのだろうか。
後ろで澪が鍵を閉める音がする。

「ちょっと律、詰まるから早く靴脱げ。」
「狭いもんな〜。」

悪態をつく私。誤魔化して早口になる。心臓が大きく鼓動していた。

「しょうがないだろ一人暮らしなんだから!」

ごちっと頭に衝撃がくると思いきや、肩に手を置かれた。私を支えにしながらさっさと澪は靴を脱いで、早くどけ、と言いながら、掴んでいた肩をそのままぐいっと押しのけて一歩進んだ。

暑い。
・・・・熱い。

「律、早く入れよ。コーヒー位なら入れてやるから。」

こちらを見る澪。私の態度がおかしいことは気付いているだろうけど、それの理由が何かは分かっていないのだろう。靴も脱がずに突っ立っている私を不思議そうな顔で眺めていた。

「・・・・玄関でいいよ。」
「は?」

何しにここまで来たんだ、と怪訝そうな顔をされる。

「・・・・別に泊ってもいいから、とりあえず中で話聞くって。」

何か相談でもあるんだろ?という澪の言葉に、罪悪感が沸き起こる。
私が言うことは、どう転んだって澪を悩ませる種にしかならない。

「なあ、わがまま、言っていいかな。」

その言葉に澪はぽかんとした。ちょっと間抜けな顔が、澪らしくなくて可笑しい。

「・・・・・今まで予告なんてしたことないくせに。」

呆れた澪の顔にそれもそうだって笑って返す。
眉尻を下げて、でも口元は柔らかで、ちょっと呆れたような、しょうがないなって顔の澪。
小学生の頃は、私が澪を守ろうとしたはずだったのに、いつの間にか私のほうが支えられていた。いつからか変わった立場、見せるようになった表情。
私はこの表情にいつも安心して、いつでも甘えてきた気がする。自然と頬が緩んだ。

歯を出して笑った瞬間に、澪はピクリと少しだけ体を反った。そんな反応から、きっと澪には、いたずらを思いついたような表情にしか見えてないんだろうなって思う。

・・・・それもあながち、間違ってないよ。

全身に余計にかかっていた力がすっと抜ける。


「・・・・お前が好きだ。澪。」


びっくりするほど自然に出てきた音は、彼女の普段でも大きな目をまた少し大きくさせた。
良かった。澪にはこの意味が伝わったのだろう。

「・・・・・・律。」
 
数秒の間をおいて、澪が私の名前を呼んだ。それに続く言葉はなさそうだった。

「・・・澪が大学に入って私と距離を置こうとしているのはわかってる。」
「・・・・・うん。」

小さな声で返事をする澪。
フローリングの床に立つ澪と、玄関で靴を履いたままの私。もともとの身長差に敷居の関係もプラスされ、俯いても澪の表情までよく見えた。

「でもそれでさ、曖昧だった気持ちを逆に自覚しちゃったんだ。」

駅からここに来るまでの間に、今までの気持ちをきちんと言っておこうと決めていた。
けれど言おうと考えていたことは簡単な言葉にしか変換出来なくて、伝えたいことの半分以下にしか音にできない。なんだかんだ、私もすごく動揺しているんだって分かった。
私の貧相な言葉を聞いている澪は、思いつめたように俯いたままだ。

・・・・・しょうがない。
全身の力がきちんと抜けるように息を吐いてから、私は口を開く。

「・・・すごく、私にしては珍しくウジウジ悩んだんだ。」
「・・・・。」
「それが落ち着かなくって、でもどうすればいいか分からなくって。・・・・・でも、犬が飛んだんだ。」
「・・・・・。」
「それで・・・」
「・・・・・・・・って、おい、ちょっとまて。」

私の言葉を勢いよく遮る澪。ツッコミの切れは鈍っていないようだ。

「なんだよ、折角私が一世一代の告白してんだから邪魔すんなよな。」
「ご、ごめん、・・・・じゃなくて!犬ってなんだよ。」
「澪じゃん。あの頭突き犬が私に似てるって言ったのは。」
「へ?さっきの犬?それはそうだけど、なんでそれが関係あるんだよ。」
「言っただろ?澪みたいにウジウジ悩んでたって。でもあの犬見て、気付いたんだよ、私はもっと単純だヤツだって!」
「・・・・・・・。」

私の宣言に呆れ以外の感情が全くない視線が送られる。

「・・・・いや、呆れた顔するなよ。だからさ、結局大人しくしてるのがいけなかったんだよ、私はさ、あの犬みたいにぐるぐる動き回ってないと。」

私は苦笑いをした。
最後まで私は澪に甘えてるなってやっぱり思う。告白の理由が自分の気持ちの整理をしたいからだなんて。ごめん。でも、ちょっと苦しかったんだ。

「・・・・・・動かないのが嫌だなんて、律らしいな。」
「・・・だろ?澪とあの犬のおかげだ。悩みすぎて澪みたいになってて最悪だったもん!」
「・・・・・お前・・・。本当に私のこと好きなのかよ。」

私の軽口のせいで極限まで細められた澪の視線が痛い。

「・・・好きだよ。」

私の口元は笑っていたと思うけど、真剣な目できっと汲み取ってくれたんだと思う。
弾かれたように澪は肩を揺らした。

「・・・・・・・ごめん、律。私は答えられない。」

・・・・自分が望む人がそばにいるなんて、本当に奇跡なんだって。
私はそんなことをぼんやり思った。






「・・・・じゃ、帰るよ。」

これ以上長居しないほうがいい。
澪に背を向けながら、しばらく連絡を取らないほうがいいのか、それともこれ以上気まずくならないようにすぐにメールでもしたほうがいいのか、思い悩みながらドアのカギを開けた。音信不通とか、着信拒否にされたら流石にへこむな、とか思いながら。

「り、律!」

Tシャツが引っ張られ、澪にしては珍しい大声で呼び止められた。なるべく普通に振り向く。
困ったように、左手で私のTシャツの裾を控えめに摘んで、苦手な怖い話を聞いた時のように情けない顔で突っ立った澪がいた。

「・・・・あがってって。」


・・・・・・はい?


「・・・・澪さん、私今までで一番お前が分からなくなった瞬間なんだけど・・・。」
「・・・・・あがってって。」

今度は目線を逸らしてから澪はもう一度言った。
いや、そんな態度を取られても混乱するんだけど!

「・・・あのさ、今私をフったよな?」
「・・・・うん。」
「うんって・・・・くそう。大人しく見送れよ、私はこれから振られて泣くっていう作業で忙しいんだ!」
「・・・・うん。」
「いや、‘うん’じゃねーよ!」

大人しく見送れよ、そんなことを思いながら、でも、控えめに握られたシャツを掴む手を振り払えずに私は呆然としていた。なんで家に上げようとするんだ、ていうかこいつはドSなのか!

「・・・・。」

視界に入ったシャツを掴む澪の手を上から握って、ゆっくりと剥がした。手はつないだままで澪に話しかける。


「・・・私の言ってた好きの意味分かるよな?」
「・・うん。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・コーヒー入れろよ。」

どかどかと、やけくそ気味にスニーカーを脱ぐ。
目の端に入った澪は、本当に嬉しそうに笑った。



「・・・・・普通に寝てるし・・・・。」

澪は私を返してくれなかった。

約束通りコーヒーを淹れてくれて、ソファーで並んで飲んだ。私は隣に座ることを断固拒否したのに、澪は子供みたいに私の隣に座りたがった。
そして今は隣で私の肩にもたれて眠っている。

「・・・・お前は襲われたいのか。」

そんな悪態をついてみるが、本人はすやすやと安らかに眠っていた。

さっき、私を呼びとめた時、澪のぐっとと握られた手が震えていたことに気付いた。
親友という私が居なくなることが、澪は怖かったのかもしれない。
その怖さをなくしてやることくらいなら出来る。
私がしたわがままに対する償いはこれで少しは返していけるだろうか。
ゆっくりと頭をなでてみる。するするとした感触。相変わらず綺麗な髪だ。

私の出そうとした一歩は、足を上げただけで同じところに下ろされただけなのかもしれない。
それでも、もう一度別の方向に足を上げることができる。凝り固まっていた私も、少し変われそうな気がした。

このページへのコメント

2人の距離感とそれを気にする律がいい味出してた

0
Posted by 名無し 2010年05月13日(木) 00:03:26 返信

続編希望!!
できれば、澪と律が両想いになれるように。

0
Posted by 名無し 2010年01月24日(日) 11:28:32 返信

切ない…
澪が律を引き留めるところで思わず泣いてしまった
続きがあれば是非見たいです

0
Posted by ななし 2009年12月28日(月) 04:46:34 返信

澪ほんとにそういう考えなのか…

りっちゃんにイケメン彼氏が出来ますように

0
Posted by どえ 2009年12月26日(土) 15:39:59 返信

澪がほんっとにムカツク。
作り話の作り話なのに、こんなに萎えた。
リアリティも相まって話に引き込まれる。
りっちゃんのこと考えると心が痛いよ・・

0
Posted by 名無し。 2009年12月23日(水) 16:28:28 返信

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