最終更新:ID:10ZRTxpdJw 2009年09月30日(水) 21:26:02履歴
律と、喧嘩をした。
……いや。喧嘩なんて、大層なものじゃない。
もともと、家に来た時から律の機嫌はあまり良くなかった。
普段があんな調子だから、様子が違えばすぐに分かるし、何より私たちは、幼馴染だ。
とは言うものの。残念ながら、心情までは読み取れないわけで。
おばさんと喧嘩でもしたのだろうと当たりをつけて、
無難に『どうしたの?』と尋ねてみたけど、返ってきたのは『何が?』の一言。
ああ、また誤魔化すんだ。
聞かれたくないなら、来なければいいのに。
言いたくないなら、いつも通りにしていればいいのに。
律には、それが、出来るんだから。
***
「律」
「んー?」
「言わなきゃ分からないだろ」
「何が?」
「私は超能力者じゃないぞ」
「知ってる」
「なら……」
「でも、私は澪のことなら何でも分かるよ」
私だって。とは、言えなかった。
現に、『言わなきゃ分からない』と、言ってしまっている。
それは、言葉上だけど。もちろん、それ以外でも。
「そういう事を言ってるんじゃないだろ」
「ごめんなさい」
ああ、もう。本当に、調子が狂う。
「律は……」
「ん?」
だけど、私は気付いていた。
分からないわけじゃない。律のことだもん。
でも。分かりすぎてしまうからこそ、筋書き通りには動けない。
だからこそ。思うようには、動いてあげられない。動きたくない。
だって、「言いたくないけど気づいてほしい」なんて、都合がよすぎるだろ。
大事なことなら、ちゃんと口に出して言ってほしい。
でないと、答え合わせだって出来やしない。
……なんて。そんな事を考える私は、意地悪なのかな。
「律は、ずるいよ」
「うん」
そう。だけど、私が意地悪だとすれば、律はずるい。
私が解っているのを、知っているから。
私が理解しているのを、知っているから。
そして。律がこんな態度を取るのも、私の前だけだという事を、私は、知っているから。
「……」
「……」
訪れる沈黙。
だけどそんな沈黙も、律となら、心地が良い。
だんまりも、苦じゃない。
でも、今は最悪だった。
私はベッドの上に。律は椅子に(デスク用だ)。それぞれ、腰掛けている。
距離を取って。向き合うようにして。対面に。見詰め合う。
だけどやっぱり、律は口を開こうとしないから。
しょうがない。そんな気持ちを胸いっぱいに抱えて、立ち上がろうとした、その瞬間だった。
「澪は」
「……なっ、なに?」
「澪は、かわいいよ」
そう。律は、本当にずるい。
「……それ、聞き飽きたよ。ばかりつ」
「言わせる澪が悪いんだよ」
あはは、と。律は、いつものように笑った。
「そ、それはっ!律が勝手に……」
そして気づけば、律の不機嫌はどこかに飛んで行っていて。
そして気づけば、私のモヤモヤもどこかに飛んで行っていて。
「ごめん」
そして気づけば、私は律の腕の中にいて。
「……」
「ごめん」
「……もういいよ、別に」
「怒ってない?」
「ないよ」
そうして私は、ゆっくりと、律の背中に手を回す。
「りつ」
答えなんて、どこにもない。
確かな事なんて、どこにもない。
それはいつだって憶測で、推測でしかない。
本人さえも、分からないのかもしれない。
悩む理由。その原因。
苛々する理由。その原因。
不安定になる理由。その原因。
例えば、嫉妬。例えば、過重。例えば、不安。
数えればキリが無いし、それこそ、そんなものは恋には付き物だ。
「私ってさ、本当、ガキぽいよなぁ」
「へえ、自覚はあったんだな」
「ていうより、嫌でも気付かされました」
「ほう。そりゃまた、随分と凄い奴が居るもんだな」
律の匂いが。律の体温が。律の鼓動が。
「その凄い奴、誰だか分かる?」
律の言葉が。律の優しさが。律の弱さが。
「さあ?」
私の全てを。何もかもを。そして、律自身をも、狂わせる。
このページへのコメント
篁ャ蕁障^^с鐚常湿 若 ≪ http://www.fetang.com/
みおと律の距離感が絶妙でした!
続ききたいしてます!!!