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 スポーツは知的活動である。
 これは当然のことである。競技、あるいは試合の間、ずっと何も考えずにスポーツを行うことは困難である。
 投手が投げる際、投手と捕手で配球を考えるのは当たり前だが、他の野手も、自分の守備位置を配球によって変えなければならないし、打球が飛んできた際のことを考えて守備姿勢をとらなければならない。
 やはり思考は必要なのである。
 その、当たり前の要素が漫画になった際に極端にディフォルメされることが多い。スポーツは身体を動かすもの、という固定観念に阻まれて、かなりおざなりにされている部分が多いのだ。野球漫画の例をあげてみる。多いパターンは、配球の読み合いと、スクイズ、ヒットエンドラン、盗塁などの戦術の読み合いにほぼ終始されるケースだ。「キャプテン」、「ドカベン」など数々の名作において、わかりやすい「対決もの」としての構図を簡単に作り出すことができるため、こういった手法は度々取られてきた。こういう「漫画ルール」といえるものは野球漫画に限らずサッカー漫画など他のスポーツ物にも共通して存在する概念である。
 そしてそれを前提とし、既に削ぎ落とされた「地味な」知的活動の部分をどう埋めていくか、という部分がその作品の個性になっていたといえる。

 しかし、その「スポーツ漫画ルール」とは全く違う文脈から構成されるスポーツ漫画も時に出現することがある。

 その典型的な例の一つが本書、「おおきく振りかぶって」である。
 科学的、生理学的、心理学的な裏付けから、先ほど述べた対決に至るまでの過程を手順を踏んで細やかに描写している。
 本書の主人公は、西浦高校の野球部だ。もちろん試合で活躍する選手、指示を送る監督の姿に焦点が当たるのは当然ことだ。でもそれと同様に、いやそれ以上にその前提となる、百枝監督と責任教師(顧問)の志賀先生の理論指導にこの漫画では焦点が当てられているのだ。
 「ストレートは変化球である。」とか「スポーツに必要な脳内ホルモンは」とか「私達は学校で毎日毎時間文字を一行ずつ目で追うことで、わざわざ瞬間視・周辺視の能力を眠らせる訓練をしてきてるの!」とか、この作品には、納得の理論が隅々にまで渡り満載されている。他の分野でなんとなく知っていた事柄がスポーツにうまく結びつけられていたりして、読んでいてハッとさせられることが多い。
 勿論、その理論を単なる羅列に終わらせず、きっちりとドラマに絡めていく構成の緻密さもこの作品の長所であることを最後に付記しておく。

 未読の方には、ぜひ一読をお薦めする逸品である。


かんで。

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