本名：楊鉄心（よう・てっしん）
別名：穆易（ぼく・えき）
身分：牛家村農民
武功：楊家槍術
家族：妻・包惜弱、子・楊康、養女・穆念慈
登場作品：『射雕英雄傅』

本名：包惜弱（ほう・せきじゃく）
身分：牛家村農婦のち完顔洪烈正室
家族：夫・楊鉄心、完顔洪烈、子・郭靖、
登場作品：『射雕英雄傅』

　江南の牛家村に住む楊鉄心と包惜弱は、念願の第一子誕生を控えて幸せな日々を送っていた。また、愛国英雄・岳飛配下の名将・楊再興の子孫にあたる楊鉄心は「靖康の変」における屈辱も忘れてはない硬骨漢であった。妻の包惜弱は怪我した小動物を助けたり、豚を食べることができないような心優しい、そして鄙にも稀な美人であった。

　ある雪の日、牛家村に眼光炯々とした一人の道士が訪れた。
　彼こそ刃でもって愛国を語る全真七子の長春子こと丘処機であった。彼は奸臣・王道乾の素っ首を叩き斬り、そのまだぬくもりの残る首をひっさげ戻る途中であったのだ。楊鉄心と親友の郭嘯天はその目つきに異様なものを感じて彼を呼び止めた。諍いになりそうになった三人だったが、誤解はすぐに解け意気投合した。丘処機の英雄ぶりにすっかり感嘆した二人は、妻がともに身重であると告げ生まれてくる子に名を与えて欲しいと頼み込んだ。
「靖康の屈辱を忘れぬよう、郭家の子には靖、楊家の子には康というのはいかがかな？」
　この提案に二組の夫婦は大きくうなずいた。揃いの短剣に名を刻んで子のお守りとすると、丁寧な歓待を謝し、彼は村をあとにした。
　それからほどなくして、愛妻の包惜弱が黒覆面の怪我人の手当をしたことから悲劇が起きる。

　ある夜楊・郭夫妻が夕食を取っていると、家の外を武装した金兵が包囲していた。驚いた夫たちは妻に逃げるように目で語った。
「不届きな道士を匿った奴らめが！　おぬしらも同罪じゃ！」
　楊鉄心と郭嘯天は武器を手にすると妻を逃がすべく戦った。そして彼らは力尽きてしまう。妻二人は段天徳という武将に拉致され消息を絶った。

　数ヵ月後、彼は村が金兵の襲撃を受け夫妻の夫は殺され、妻は掠われたと知る。責任を感じた彼は妻二人を追い、そしてその過程で江南七怪という侠客と争うことになってしまった。ひょんなことから丘処機と江南七怪は、楊・郭夫妻の子を育て十八年後に果たし合いをさせるという賭けをすることになる。

　一方で夫の死を嘆く包惜弱に救いの手をさしのべた男がいた。金国の皇族・完顔洪烈である。身重の包惜弱は夫の子を産まねばと仕方なしに彼の后となった。しかしあの襲撃事件の真相は、完顔洪烈が数ヶ月前に黒覆面をかぶった彼を介抱してくれた包惜弱を己のものにするために仕掛けたものだったのである。
　数ヶ月後、生まれた子は楊康と名付けられ丘処機の薫陶を受けることとなった。しかし、甘やかされて傲慢に育った楊康は丘処機もさじを投げるわがままぶりを発揮する。

　十八年後、蒙古草原で育った郭靖が燕京にやってきた。こうして運命の子である楊康と郭靖が出会うことになったが、勝負の結果は素行不良の楊康の負けとなった。
　ある日、楊康は旅の武芸者父娘・穆易と穆念慈が「婿取り試合（比武招親）」をしているのを見て美しい娘・穆念慈を戯れにうち負かす。穆念慈に勝った以上は彼女をめとるべきだという周囲の声を無視する楊康を恥ずかしく思った包惜弱は穆父娘に息子の無礼を謝罪した。こうして包惜弱に出会った穆易は包惜弱に自分は楊鉄心で妻を捜すために改名して旅をしていたと告げるのだった。
　十八年ぶりに出会った夫妻は、再び結ばれるべく手に手を取って金の宮殿を逃げ出した。しかし追っ手にかかり、逃げ切れぬ二人は自害してしまうのだった。

　彼らの死後も、その子によってこの物語は紡がれてゆく。