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ライフ イズ ストレンジ 2

※動画を作ってYouTubeにあげてみました。良ければこちらもどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=v98qwbqWZJs&featur...


 「ライフ イズ ストレンジ」の続編でございます。

 前作と舞台設定を共有してはいますが、主人公もお話も全然別のものです。そのため、前作をやっていなくても大丈夫です(一応、前作の登場人物がちょろっと登場します。また前作はエンディングが2つあったのですが、今作を進めていくとどちらが正史になったのかが分かるようになっています)。

 前作やそのスピンオフと同じく、「主人公をゲーム的な操作で動かせるサウンドノベル」と形容するのが最も適当かと思います。主人公はとある事件(後述)に巻き込まれて官憲に追われる身となり、逃避行を余儀なくされたショーンとダニエルの兄弟でして、2人が逃避行を通して絆を深めていく様子を眺めるのが主な内容になります。公権力からの逃避行というストーリーラインには、同種のゲームとして比較して語られることの多いBEYOND: Two SoulsDetroit: Become Humanの影響が色濃く感じられました。ただ、グラフィックの綺麗さはこの2作に及びもつきません。スピンオフの頃からあんまり進歩がなく、髪の1本1本まで描写しきれていません。ある程度の本数の毛髪が塊になっているため、ドリアンやドラゴンフルーツの殻を頭にかぶっているみたいに見えます。
 前作では、主人公のマックスが時間を巻き戻す能力を持っており、これを使って謎を解いていくミステリー要素がありました。今作でも、弟のダニエルに物を浮かばせたり吹き飛ばしたりする超能力が発現するのですが、プレイヤーが動かせるのは兄のショーンであり、見つかるのを避けるためにダニエルの超能力を極力隠しながらゲームを進めていくことになります。ダニエルもまだ9歳の子どもでなかなか思うようには言うことを聞いてくれず、また序盤のうちはその能力も弱いので、プレイヤーができることは一般人とほとんど変わらず、ストーリーやゲームプレイにこの超能力という設定が活かされている感じはあまりしませんでした。プレイヤーが動かせるショーンはスピンオフの主人公だったクロエと同じく何の能力も持っていない普通の人なので、超能力云々ではなくほとんど「ショーンがどういう選択をするか」という点にしかゲーム性が見受けられず、「ただのサウンドノベル」という印象は非常に強かったです。

 「ただのサウンドノベル」である以上、お話の内容は前作以上に重要になってきます。私は今作をやって泣きたかったのですが、正直惜しいところまでしかいきませんでした。目は潤みましたが、涙は垂れてこなかったです。

 私がストーリーで疑問に感じた点を以下に箇条書きにします。
・兄弟が逃避行を始めたきっかけとなる事件は、冒頭のエピソード1で描写されています。兄弟の隣家のブレットという悪ガキとダニエルが揉め始めたところにショーンが割って入るのですが、ショーンがブレットに侮辱され、カッとなって思わず手を出してしまいます。ただ当たり所が悪かったのか、倒れたブレットが過呼吸のような状況になって震え始めます。この場に偶然通りかかったマシューズ巡査がこの状況を見てパトカーを降り、なぜか拳銃まで持ち出してショーンとダニエルに伏せるよう言います。騒ぎを聞きつけて2人の父エステバンが家から出てくるのですが、マシューズ巡査はなぜかこのエステバンに(「動くな」と言われても動いたとはいえ)発砲します(結果、エステバンは死亡)。その緊張した状況でダニエルの超能力が制御できない形で発現してしまい、マシューズ巡査を吹き飛ばして、死なせてしまいます。
 これを見たショーンは、気絶しているダニエルを連れて逃げ出します。
 まずマシューズ巡査の行動が謎すぎると思います。子どもの喧嘩に銃まで持ち出して対処する神経が分かりません。一応、ブレットの服にはダニエルが遊びで作った血糊(のような液体)が大量にかかっており、通りかかっただけの彼には血まみれのブレットが倒れているように見えたでしょうから、ショーンが何かしてブレットに重傷を負わせた(あるいは死なせた)と判断したとしてもそこまで不思議ではありません。なので百歩譲って銃を出したことを理解してやるとしても、エステバンにいきなり発砲した理由は何一つ分かりません(銃社会のアメリカでは相手が拳銃を携帯していることを常に警戒すべきなのかもしれませんが、威嚇射撃ぐらいはしてやるもんだと思います)。
 このゲームのタイトルで標榜しているような「人生の理不尽」さを表現したいのであれば、マシューズ巡査の行動にはもうちょっと合理性があった方が良かったと思います。マシューズ巡査の行動が一点の曇りもなく合理的であれば、ショーンにも言い訳が難しくなり、逃げ出そうという決断に至るのも理解しやすくなるからです。そうなんです。ショーンの行動は輪をかけて謎なのです。先ほど言ったことの裏返しになりますが、マシューズ巡査の行動がここまで謎なので、逃げ出さずに何が起きたかをちゃんと説明すれば聞いてもらえた可能性は高いと思うのです。しかもその場には撃たれて虫の息の父親もいるのです。その父親の救出を諦めてまで逃亡を優先した理由となると、よほどのものが必要だと思います。マシューズ巡査を死なせてしまったのはダニエルの超能力なので、ダニエルを守りたかったのかもしれませんが、ダニエルの超能力が発現するのはこの場面が初めてのことなので、この時点のショーンにはダニエルが原因だとまでは分からなかったはずです(実際私もゲームを進めるまでショーンがこの力を発動させたもんだと勘違いしていました)。だから、「ダニエルを守りたかった」という動機でもうまく説明ができません。結局、「ショーンの気があり得ないほど動転していた」というぐらいの説明しかつけられないのです。この説明にしたって、ショーンがあそこまで強い決意で辛い逃避行を続けていたことの説明が難しくなる(一時の気の迷いであればすぐ心が折れる可能性の方が高いはずです。何らかの確固とした理由があったからこそ、強い覚悟で逃避行を続けていたものと思われます)ので、あんまり据わりのいいものではありません。よく分からない理由で長い長い逃避行に付き合わされるダニエルが可哀想になってしまいますし、ショーンにも、共感できません。もしかしたら、ショーンが状況を把握したり緊急事態にも落ち着いて対処したりする能力の乏しい「弱い」人間だということを言いたかった(実際後述するとおり、ショーンは自分の味方になってくれる人物に対してもこの時起きたことを満足に説明できない描写がたびたびあります)のかもしれませんが、そうだとすれば事件前にもっとフリを入れてショーンがそういう人間だということを分からせてほしかったです。逃避行の最中もショーンは周りから「ダニエルの面倒を見てえらい」と褒められており、わがままばかり言う子どものダニエルと冷静なお兄ちゃんのショーンという対比が協調されるので、そういう「弱さ」があることを描きたかったんだろうなというのはあんまり伝わってきません。何にせよ、描写が、あまりに不足しています。
 エステバンはメキシコからの移民であり、ショーンとダニエルはその2世であるため、移民に対して差別的な対処をするであろう官憲への不信から逃亡を決意したという可能性もあります。ただエステバンは一軒家に住んで真面目に働いている描写しかないため、そこまでひどい扱いをされるだろうかというとやっぱり疑問が残ります。そういう理由でショーンが逃亡を決意するに至ったのであれば、やっぱり事前にもっと丁寧な描写(エステバンが不法移民であることをはっきりさせるとか、過去に似たようなひどい扱いを受けた時のシーンを挟むとか)が欲しいのです。もしかしたらアメリカの方であれば、この程度の描写でもショーンの行動に合点がいくのかもしれません。
 善意に解釈する余地は色々とありますが、何にせよ(少なくとも日本人に対しては)圧倒的に描写不足なのです。前述の通りショーンは逃げ出した理由について最後まで満足に語ってくれないため、こっちも最後までハテナマークを抱えたままゲームを進めなければならないのです。ショーンが事件のことを1回でもちゃんと語ってくれれば、周りの冷静な大人が「それなら逃げるのをやめた方がいい」と説得する展開にもなり得たでしょうに、そういう展開に至るのを避けるという脚本上の都合で敢えてショーンに説明をさせなかったということも疑われてきます。
・前述の通り、道中では色々な人が兄弟を助けてくれます。ショーンがこれらの人々にきっかけとなった事件のこと説明する展開はたびたびあり、プレイヤーもどう説明するかを選択させられる場面は多いのですが、ショーンは満足なことを語ってくれません。冒頭の行動の謎さもあり、ショーンにイライラします。ショーンの最終目標は父親の生まれ故郷であるメキシコの街に行くことなのですが、アメリカより治安の悪そうなメキシコに行けば万事解決できると楽観的に思っているところにも若干イライラします。兄弟が警察に追われているということは逃避行の序盤に立ち寄ったガソリンスタンドでもう分かったはずですが、その後も偽名を使ったり変装したりといった身バレを防ぐための努力を一切しない軽率さにもイライラします。ショーンのこれらの不用心さには、ダニエルがよく見せる子どもっぽい言動よりもイライラします。前述の通り、ショーンが「弱い」人間だというのは意図的に設定したことなのかもしれませんが、そうであればその点をプレイヤーに可哀想と思ってもらうための描写が不足しているというのは前述の通りです。
・ショーンとダニエルの母であるカレンは家族から離れて一人で生活しています。ゲームの後半で再会したカレンからその理由を聞くことができますが、正直あんまり要領を得ませんでした(一応断っておきますが、夫の暴力とか、経済的理由とか、モラハラとか、他に男ができたとか、そういう日本人でも納得しそうな理由は一切語られません)。私は自分自身が変人なので「まあそういう人もいるかな」と思えましたし、様々なマイノリティがいるアメリカの方々であれば私みたいに思えるのかもしれませんが、日本人は共感しづらいと思います(理由がはっきりしないので、真の理由を隠しているのではないかと疑う人もいるかと思います)。もうちょっと丁寧な描写があった方が良かったと思いました。
・2人の逃避行は災難続きの苦しいもので、現実の厳しさをプレイヤーにもまざまざと見せつけてきますが、エピソード4では唐突にエンターテインメント的な展開があります。ショーンと引き離されて怪しい宗教団体の指導者に洗脳されたダニエルを、ショーンが取り返すとことになるのです。その指導者の用心棒に何度も殴られながらも自分を説得し続ける兄に感化され、ダニエルの洗脳が解けるという展開は、ドラマチックではありますが、どこか現実離れしているうえにフィクションではよく見る展開なので若干安っぽく、これまでのリアルな描写を見せられてきた身としてはかなり鼻白んでしまいました。あの手の洗脳は、長い時間をかけて行われるため、解く場合にも同じくらいの長い時間をかけないといけないというのがリアルだと思います。
・エンディングはいくつかありますが、手放しのハッピーエンドと言えるものはひとつもないと思います。アメリカより環境や治安の悪そうなメキシコに逃げるか、ショーンが長期服役をするかのどちらかは不可避です。前述のとおりマシューズ巡査の行動は支離滅裂なので、ショーンがマシューズ殺しの罪を着せられる結論は到底納得のいくものではありません(ショーンは逃避行の道中でも色々悪さをしてはいるので、もしかしたらマシューズ殺しは罪状の中に入っていないのかもしれません。ショーンが服役をする方のエンディングは見ていないので細部が分かりません。すみません)。
・ゲーム内のアメリカではメキシコとの国境に壁が建てられており、兄弟は終盤この壁に対峙することになります。同性愛者その他のマイノリティもたくさん登場するため、移民差別といったアメリカの時事問題をメインテーマに据えたかったのではないかなあということも伝わってはくるのですが、日本人相手のローカライズではもっと丁寧な背景事情の解説が必要かと思います。

 総じて、現実の厳しさや理不尽さを描きたいんだろうなあというのは伝わってはくるのですが、こちらが汲み取らなければならない部分が大きく、必要な描写が圧倒的に不足していると思います。このゲームで描かれている現実は、ある方面ではリアルです。徹頭徹尾リアルです。アメコミのヒーローみたいな超能力を得たダニエルがスーツを着てヴィランと戦い始めたりはしません。それにもかかわらず兄のショーンはリアリティのない数々の「奇行」に出ているほか、突然エンターテインメントらしいフィクショナルな展開も挟まったりします。統一感がないのです。私が泣きそうになったのも、兄弟を助けてくれる周りの人々の優しさに触れた瞬間ばかりでした。ショーンには、あんまり共感ができませんでした。特にこのゲームの肝を為す逃避行の最初のきっかけに共感ができないので、最後まで引っかかりが残ったままゲームを進めなければいけません。プレイヤーが動かせるのも不可解な行動を繰り返すショーンに過ぎないうえ、要所要所で訪れる選択の場面でしか兄弟の行動に介入できず、選択した行動がその後のストーリー展開にどう影響してくるかも実際に選んでみるまで分かりません。思うような展開にならないこともしばしばあるので、イライラがどんどん募っていきます。どれだけ選択をしようと話の大筋が変わらないのは前作と一緒です。バッドエンドに到達して話が途中で終わってしまうこともありません。プレイヤーは、たとえ逃げずに弁明をするのが最良の選択だと考えたとしても、逃避行それ自体をやめさせることはできません。話の大筋を変えることはできないからです。不用心なショーンに、ずっと付き合わないといけないのです。
 今作はマルチエンディングであり、序盤から終盤にかけての選択の積み重ねがエンディングに関わってきます。ただ、こういう内容のせいで全部のエンディングを見る気は起きませんでした。

 まあ、あんまり腰を据えてやらなくてもいいと思います。ダニエルのビジュアルはすごく可愛いので、それ目当てでもいいんじゃないでしょうか。

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