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桃色したひらひらの… ver.A 1

スレ番号タイトルカップリング作者名備考レス
16桃色したひらひらの… ver.A 1擬人化ドスガレオス×女ハンター珍味の人擬人化(ドスガレオス)・否エロ745〜753

桃色したひらひらの… ver.Bの途中までと話はほぼ共通なのでそこまで略。

桃ヒレ求めてドスガレ乱獲を繰り返す女ハンター。
そのドロップの渋さに苛つきを募らせていた。
ある日、彼女は追い詰めたドスガレの背ビレの縁に桃色の輝きを見る。
だがドスガレを捕獲したハンターは知った。その背ビレの桃色はペイントボールに染まっただけのものだったと。

桃色したひらひらの… ver.A 1

 
 ハンターさんは、うっすらそばかすの浮いた鼻にシワを寄せ、荒々しい鼻息を吐きました。
 女性としての取り柄は見た目だけと言われているのに、それすらぶち壊す、憤怒の形相です。大半はガブラスフェイクに隠れてますが。
 ハンターさんは舌打ちと共に、ぐーすかねんねのドスガレちゃんの背中を蹴りつけます。
「クソめ! この役立たずのどす黒包茎がっ!!」
 その場で地団駄を踏むように、何度も、何度もドスガレちゃんの背中に蹴りを入れる様子は、まさにアクション【悔しがる】。
 お聞きのとおり、このハンターさんは下品で毒舌でありました。
 鼻筋整った彫りの深いお顔はキレイと言えるもので、ほどよくお肉が付きつつ締まったスタイルは女性らしく魅力的です。
 が、とってもモテません。
 
 余談はさておき。
 暑さで苛ついていた事もあって、ハンターさんのヒス……いやいや、怒りはいや増すばかり。
 暫くの間、ハンターさんは顔の横に垂らした二房の髪を振り乱し、キックの鬼と化しておりました。
 蹴っても蹴っても、硬い背中のドスガレちゃんには、ちっとも痛痒を感じさせていないばかりか、
 自分の足がちょっぴり痛くなってきたり、ダルくなってきたり。
 ハンターさんは自分の頬っぺたに汗がしたたっているのに気付き、ふと我に返りました。
 ここは丁度岩影でしたが、ただでさえ暑い砂漠で、ガブラスーツを着込んでるお陰で不快指数はかなりお高くなっております。
 ハンターさんは肩で息をしながら、落ち着こうと自分に言い聞かせます。
 
 落ち着こうとしているのですが、ハンターさんはドスガレちゃんを捕獲してクエスト達成してる事を、すっかり忘れていたのです。
 ですので、ギルドの人へ回収してねというお知らせを出すこともキレイさっぱり頭にありません。
 ご覧のとおり、ハンターさんは血の巡りがよろしくございません。
 今ハンターさんの頭をいっぱいにしているのは、ドスガレちゃんに、どうやって自分の悔しい思いをぶつけるか。
 ハンターさんとっては、桃ヒレ生やしてなかったドスガレちゃんが悪いんです。
 悪いドスガレちゃんには何をしてもいいんだと、ハンターさんは思っていました。
 
「全身のヒレ全部切っちゃって、鱗一枚も残さずを剥がしちゃって、カンカンに焼けた砂の上に転がしてやろーかしらね」
 お腹空いてきた事もあって、ハンターさんの不機嫌さはマッハで加速中です。
「お腹を開いて、ゲネポッポの巣に放り込んじゃうとか……」
 そのゲネポッポの群れのボスの生首をさっきゲットしたとか、ハンターさんには忘却の彼方でした。
 ともかく、生まれて来たことが嫌になるくらい、痛くて惨めな思いをさせたいなー、なんて、ハンターさんは考えたのです。
 
 ぼむと小さな破裂音がしたので、ハンターさんは頭の中での拷問百選の閲覧を止めました。
 おかしなところだけは記憶力が働くのは、ヘンな人に有りがちなことです。
 音の出所をハンターさんが見ると、シビレ罠がやり遂げた漢の顔をして、その儚い命に幕を降ろしていたのです。
 そんなことはお構い無しに、ドスガレちゃんはぐーすかぎゅーと、口を開きっぱなしに眠り続けていました。
 何もドスガレちゃんが暢気な訳じゃなく、それもハンターさん達が使うお薬のせいなのです。
 しかしながら、ドスガレちゃんの一聞能天気な寝息は、ハンターさんのヒス……いやいや怒る心に火を点けます。
 お察しのとおり、ハンターさんはとってもキレやすい人でした。
 
 ハンターさんはドスガレちゃんから離れ、このエリアに入った時に投げた自分の荷物を拾いに行きました。
 フットワークが命の弓使いでしたので、捕獲だけといえ、ドスゲネポッポの頭とか抱えて戦ったりはしないのです。
 ハンターさんは拾い上げた荷物から砂を払って、ごちゃごちゃした中を覗き込みます。
 手慰みに調合してみた、LV2睡眠ビンこと眠魚入りビンは熱気で臭くなってきたので捨てました。
 ペイントの実入りビンは、ドスゲネポッポの尻尾をピンクに染めるのに一役買いました。
 二度焼きしてある保存食、ピカピカする小石、何かの大きな種、日除け兼砂塵除け外套、半端に溶けかけてるスイーツ(笑)。
 素材玉なんか、隙間から入った砂を纏って泥団子みたいになってます。
「んもう、役に立ちそうにないものばっかりじゃないの……っ!」
 それすらもドスガレちゃんのせいだと言わんばかりに、ハンターさんは吐き捨てたのでした。
 
 色々と痛め付ける手段は考えてみたものの、考え疲れてちょっぴりどうでもよくなってきたハンターさん。
 そんな彼女が、荷物の底から一つのビンを見つけ出したのです。
 それはハンターさん命名するところの劇毒ビンといいました。
 怖い怖いキノコを磨り潰した物が詰められています。
 食べたら一発でお腹が壊れて苦痛に身を捩らせるその威力は、うっかり食べちゃった事のあるハンターさんお墨付きです。
 
 暫くして。
 ドスガレちゃんのお顔の前に立つハンターさんは、ビン片手に笑うのでした。
 もうじき、ドスガレちゃんを眠らせている麻酔薬も切れてしまう頃でしょう。
 体の大きな魚竜種には、通常量の麻酔薬では効果時間が少し短いのです。
 そんなことも、今のハンターさんには好都合でした。
 矢でもってドスガレちゃんの体に毒を撃ち込み、麻酔が切れて痛みに喚き、のたうちまわる無様な姿を見てやろうと、ハンターさんは企むのです。
 ビンの蓋を開けてやじりを浸し、その矢を、ハンターさんはドスガレちゃんの首に突き立て、引き抜きました。
 まだ麻酔が切れていないせいか、ドスガレちゃんの寝息は一瞬止まっただけで、すぐ安らかに再開されました。
 ちょっぴりおかしな力の入れ方したせいで、抜いた矢は折れてしまいました。
 けれど、ハンターさんはそんなこと気にしてられません。
 
 輝く笑顔で見守るハンターさんの目の前、ドスガレちゃんのにぎやかな寝息に変化は一向に現れません。
 ハンターさんは「あれ?」とばかりに劇毒ビンとドスガレちゃんを交互に見ました。
「きっと体がおっきいから、毒回るの遅いのよ、そーよね」
 考えるのも面倒くさいハンターさんは、そう決めつけたのです。
 
 ハンターさんはぷっくりしたおしりの上に乗っかるような矢筒に手を伸ばし、矢を一本抜き取りました。
 そしてそのやじりを劇毒ビンに浸したまま、ちょこちょこと移動するではありませんか。
 ハンターさんはドスガレちゃんのおしりの辺りに屈み込み、悪いお顔をし始めました。
 ドスガレちゃんが目を覚ました時、ハンターさんがお顔の近くにいたら、その大きなお口で丸かじりにしてしまうかもしれません。
 おしりの近くなら、次の一刺しで起きても、ドスガレちゃんがまともに動けるまでに充分な距離をとれると、ハンターさんは考えたのです。
 ドスガレちゃんのお腹側は少し白っぽく、脚とヒレっぽい何かが生えています。
 それ以外はほとんどつるりとなだらかで、カエルにちょっと似てなくもありません。
 お腹からおしりの境がよくわからないながらに、ハンターさんは、ドスガレちゃんのおしりに矢を突き刺しました。
 
 ドスガレちゃんの寝息が途切れます。
 けれどもまたそれは、ほんのまばたき一つの間。
 すぐに再開されたイビキ調の寝息にハンターさんの怒りは静かに再燃を始めます。
 矢を引き抜きながら、ハンターさんは考えました。
 いっそビンの中身を、直接ドスガレちゃんのお口に、ぶちまけてやれば良いんじゃないかと。
 しかしながら、ドスガレちゃんの顔はお口をぱっくり開けたままに横倒しになっています。
 これでは上手く半液状の毒を飲ませられるか怪しいものです。
 
 ふと、飛竜に対する毒生肉みたいに、何かに含ませて飲み込ませる事を思いついたハンターさんは、手にした矢を弓弦につがえました。
 そのまま踵を返して小走りに駆けて行った先は、オアシスの水辺です。
 ハンターさんは足を止め、すいすい泳ぐお魚さん達を少しの間、ガブラスフェイクの奥から目を細めて眺めます。
「てや」
 気のない掛け声と共に弓から放たれた矢は、ハンターさんの狙い通りに鋭く水面を突き破りました。
 魚達が逃げた水際へとハンターさんは踏み込みます。
 矢は浅い水底に突き立ち、頭の砕けたサシミウオがぷかりと浮かんで来ました。
「やーね、もう。頭、取れちゃったじゃない」
 弓を背負い、残念そうにハンターさんは呟きました。
 大きくもない魚に対竜用の矢を使えばどうなるか、言わずと知れた事です。
 これこのように、ハンターさんはつくづく考え無しでした。
 
 仕留めたサシミウオの口から劇毒ビンの中身を流し込んみ、毒生魚に仕立てよう。
 そう考えていたハンターさんですが、魚の頭がふき飛んでしまっては簡単に行きそうにありません。
 食道は残っているのでしょうが、うじゃけた傷口をまさぐるのはちょっぴり面倒臭そうです。
 うるさいドスガレちゃんの寝息を耳にしながら、ハンターさんは劇毒ビンの原料、ドキドキノコの威力に思いを馳せました。
 
 さてお腹に劇毒ビンの中身を仕込み終えたサシミウオ片手に。
 ハンターさんはドスガレちゃんの寝顔をとっくりと眺めました。
「その間抜け面さらしてられるのも今のうちよー……ぅふふふふぁははははは!」
 含み笑いを高笑いに変えながら、ハンターさんはドスガレちゃんの喉奥めがけて頭のないサシミウオを放り投げました。
 大きくほの暗いお口の奥に、べちりと毒生魚はぶつかります。
 ドスガレちゃんの寝息は止まり、ぐぎゅ、と寝言のような声が出されました。
 ハンターさんは、足元に転がる枯れた板状の植物を拾い上げまして。
 それをドスガレちゃんの鼻面に叩き付けます。
 途端、ギザギザの牙達の埋まった歯茎がせり出して、バクリと宙を噛みました。
 ドスガレちゃんの閉じたお口と動いた喉を見、ハンターさんは再び悪ぅい顔で笑うのでした。
 
 ドスガレちゃんはブゴッとモスみたいな声を上げ、ちょっぴり首をもたげます。
 うぇいくあっぷ・ざ・どすがれおす、です。
 じりじりと距離を取りつつも、ハンターさんは決してドスガレちゃんから目を離しません。
 いつ苦しみ出すかと、楽しみで仕方ないからです。
 先程までの寝こけっぷりからは信じられないような身軽さで、ドスガレちゃんはひらりと身を起こし、その二本の脚で立ちました。
 両腕(ヒレ?)をお空へ向かって伸ばし、ドスガレちゃんは元気一杯、ぎぉーうと鳴きました。
 
 おかしさを感じ、ハンターさんは眉をひそめます。
 穴でも開けそうな凝視に気付いているのかいないのか、ドスガレちゃんは長い首をもたげ、我が身をしげしげと眺めているようです。
 一度目蓋を閉じた後、ハンターさんはくわりと眼を剥きました。
 そして違和感の正体に気付いたのです。
 さっきまでしんなりと垂れていたはずの背ビレが、雄々しく天を衝いているではありませんか。
 そればかりか、砂埃にまみれた鱗の一枚一枚が艶を増したようにすら見えるのです。
 元気百倍とか吹き出しの付きそうなお肌っゃっゃ具合は、ハンターさんを歯噛みさせました。
 
 ハンターさんの脳裏を一つの記憶が掠めます。
 近頃同僚がどっぷりとハマっている、馴染みの飯屋の裏メニュー。定価2ゼニーぽっちの怪しい緑色スープ。
 一杯食べれば力みなぎる素敵なスープだというそれの主な材料は、ドキドキノコだと聞きました。
 彼の言うことは満更嘘ではなかったのです。
 ドキドキノコの効果はどっきりびっくり気まぐれデタラメ。
 お腹を壊す事もあれば、嘘みたいに疲れがとれてしまう事もあるのでした。
 
「何よ、なによなによ! クソ砂ムシの分際で……ッ」
 ハンターさんは、握り拳と肩と声をわなわな震わせました。
 ドスガレちゃんがその小さく円らな目を向けているのも、お構いなしです。
「ああぁあもうっ! このがっかり砂ムシ!」
 ちょっぴり垂れ眉テイストの効いたドスガレちゃんの顔めがけて右手人差し指をびしと突き付け、ハンターさんは叫びます。
「ナガムシのクセに全快なんて生意気だわよ!!」
 どこぞのいじめっこのような言葉も突き付けられたドスガレちゃんは、げ、と小さめに鳴きました。
 甲高いハンターさんの声が耳障りだと感じたのか、ドスガレちゃんの顔はふいと他所を向きます。
 
 桃ヒレ生やしてないし、苦労して毒盛っても苦しまないうえに元気満々になっちゃうし、文句聞く耳も持たないし。
 ハンターさんの怒りの内圧は高まるばかりでした。
 彼女の心の狭さは猫の額といい勝負です。勝るだろうし劣りません。
 両の拳を握りしめ、それらを体の両脇へと振り下ろし、再度ハンターさんは叫びます。
「無視してないでこっち見なさいよね! そこで正座してあたしの話聴きなさいよ!!」
 ハンターさんは、軽く無茶を言いました。
 風にそよぐ草花のように、ドスガレちゃんの尾ビレが揺れるのを見て、ハンターさんは苛立ちを露わに一度砂を踏み鳴らします。
 おかげで、ドスガレちゃんの頭が小さく縦に振られたのを、見逃していたのです。
 
 ざぁ……
 
 雨に似た音がした、とハンターさんは感じました。
 それと同時に砂臭い風が吹きつけて、視界は白っぽく霞んでしまいます。
 降って湧いたような砂埃に、ハンターさんは目を開けていられませんでした。
 息をするにも口に鼻に、砂埃が入ってしまうので、堪らずハンターさんは後退りました。
 踵で砂の上を探る様に下がっていけば、息苦しくない程度の位置まで来た頃です。
「言いっぱなしで放置とは感心しないぞ」
 ハンターさんの正面の方から、男の人の声が聞こえたのです。
 とっさに弓に手をかけ、声の方へ目を凝らし、ハンターさんは誰何の声を上げるつもりで、
 むせました。
 砂埃をもろに吸いこみ、ハンターさんは咳込んでしまったのです。
 
 いわゆる生理的な涙というものを黒い革手袋に覆われた掌の底で拭い、ハンターさんは真正面、声のした方を睨みます。
 相変わらず砂埃が舞っていましたが、その向こうにうっすらと黒い人影が透けていました。
「だれよ、あんた」
 自分以外の人が居るとは思っていなかったハンターさんの声は、露骨な警戒心に彩られたものです。
 あんなことこんなことしていたのが全部見られていたんじゃないかと、ハンターさんの掌はじっとりと汗ばみました。
「誰でもいい。今は反省しろ」
 少しがさついた低い声に淡々と命令口調で言われて、早速かちんと来たハンターさんの頬がぷくっと膨れました。
 ハンターさんは背負った弓から手を離してその手を腰に当てます。
 砂埃の中の人影を睨んだまま、言われた通りに己を省みるべくちょっと記憶を巻き戻しました。
 三つ歩けば忘れるという程ではありませんが、このハンターさんの記憶力は頼りないものなのです。
 その記憶を呼び起こす助けなのでしょうか、落ち着いてきた砂埃の中の人が言いました。
「ここに座して話を聴けと言ったのは、おまえだろう。さて、いつ話し出すのだ」
 そうだっけ、とハンターさんは首を傾げました。
 
 砂埃が鎮まった頃、ハンターさんから少し離れた正面には、黒い肌の人が砂の上に正座していました。
 全裸で。
 半裸辺りまでなら見慣れていたハンターさんも、まさかの全裸に硬直してしまいます。
 引き攣った喉からは、小さく悲鳴が漏れました。
 男の人は、おにいさんと呼ぶにはちょっと苦しく、おっさんと呼ぶには可哀想なくらいの年頃です。
 ここは間をとって、おにっさんとしておきましょう。
「どうした。話す事があったのではないのか」
 顔色を変えて固まってしまったハンターさんの様子を気にした風もなく、おにっさんは尋ねました。
 全部のパーツが線で構成されたような顔のおにっさんは、薄い色の短い髪や黒い肌から、大きな手で砂を払い落しています。
 座っていても大きなおにっさんを見詰めていたハンターさんは、ふと我に返りました。
 そして、この状況に考えが追い付かず、キレました。
 
「何なの? だからあんた誰ッ! いつから、どうしてそこに居て、何で裸なのよっ!?」
 言葉の切れ目でビシビシとおにっさんを指しながら、真っ赤な顔のハンターさんは矢継ぎ早の質問を投げ付けます。
 おにっさんは迷惑そうに眉根を寄せたのですが、元々下がり眉と糸目の持ち主でしたので、とっても困った顔のように見えてしまいます。
 ハンターさんはといえば、鼻息を荒げたついでに砂埃でムズムズしたのを思い出して、小鼻をむにむにとこすっていました。
 鼻をこすりながら睨みつけるのは、ちょっぴり間抜けでした。
 ふん、と鼻を鳴らして、おにっさんはその大きな口を開きます。
「誰かと訊かれても困るが、おまえの言葉によれば砂ムシか。
 我らは我らを砂食みという。先程休息をとろうとここへ出て、鱗が無いのは、なんとなくだ」
 さり気無く、いい加減な返答もありました。
 ハンターさんは鼻をこするのをやめて、首を捻ります。
「すなはみ……、すなむし?」
 ハンターさんは下唇を軽く噛んで考えます。自分がクソ砂ムシ、がっかり砂ムシと言った相手はドスガレちゃんでした。
 そう言えばドスガレちゃんは砂煙と共に消え去ってしまっています。
 そして目の前には自称砂ムシの、色黒ででっかいおにっさんが律儀に正座を続けています。全裸で。
「話はまだなのか。そろそろ脚がしびれてきたぞ」
 あまり抑揚のない声で、おにっさんはハンターさんに話を促しました。
 
 考えても状況がよく解らなかったハンターさんは、考える事を打ち切りました。
 溜息ひとつ、おにっさんに目を向けて、すぐに逸らします。
「ちょっとそこで待ってなさいよ」
 言うや否や、ハンターさんはおにっさんに背を向け、駆け出しました。
 その場に残されたおにっさんは、遠ざかるハンターさんのガブラスーツフットに包まれたおしりを見つめ、小さく呟くのでした。
「二つに割れてるな」
 そして、自分の背中からおしりにかけてを撫でてみて、おにっさんはその糸目を心持ち見開きました。
 青空の下、おにっさんがまた呟きます。全裸で。
「二つに、割れた」
 
 荷物を抱えて戻ってきたハンターさんは、おにっさんの前で足を止め、荷袋の中へ手を突っ込みます。
 黒い革手袋に覆われた手が引っぱり出したのは、日除けの外套でした。
 ハンターさんはおにっさんに外套を投げ寄越して言います。
「それくれてやるから、その、粗末なもの隠しときなさい。有難く思いなさいよね」
 実際はハンターさんから何かが見えたわけでもないのですが。
 全裸の人を直視したくないハンターさんはちょっぴり悪態を吐きました。
「礼は言わん。隠すべきものなぞ有りはしないがな」
 おにっさんはハンターさんの物言いに、気を悪くした様子もなく尊大に返します。
 あまり肌触りも良くない布製の外套を、ごっつい指先でつまんで広げ、観察し始めました。
 とりあえず視界から男の人の肌が隠れたことにハンターさんは安心して、おにっさんの前に腰を下ろしました。
 ドスガレちゃんを始め竜達の姿も見えないので、荷袋や弓や矢筒も脇に置いてしまいます。
「それと、よ。足崩しゃいいじゃない。あたし、なにもあんたに正座しろなんて言ってないもの」
 外套の手触りを確かめていたおにっさんは、顔をハンターさんへ向けました。
 糸目からのまじまじとした視線を受け、ハンターさんは落ち着きません。
「ぬかした言を端から忘れるのは、そういう作りなのか。おまえは」
 ハンターさんは、かさついた低い声から呆れを感じ取り、鼻から深く息を吸い込んで、ぐっと胸をそらしました。
 口をへの字にして怒ると、背が伸びるのは、人の本能的な威嚇行動なのかもしれません。
 
「なによう、素っ裸の変態のクセに! あんた失礼なヤツね。なんで恵んでやった相手に、馬鹿にされなきゃなんないのよ!!」
 間近からのハンターさんの大声に、おにっさんは少し眉をひそめます。
「馬鹿になどしてはいない。ただ純粋な疑問から尋ねたまでだ。違うなら違うと一言で済むだろう」
「黙んなさいよ変態白髪色黒デカブツ!! 十秒で描けそうなうっすい顔の分際で、あたしに上からモノ言うなんて十年早いわ!」
 甲高い声が、暴力的な音量でおにっさんの聴覚を襲うのです。
 まだまだがなり立てそうなハンターさんの様子に、おにっさんはほんの少し、頬を引き攣らせました。
 
 それは唐突でした。
「とう」
 おにっさんは気のない声と共に、ハンターさんを頭からすっぽりと外套で覆ってみたのです。
 いきなり世界が暗く閉ざされたハンターさんは呆気にとられてしまい、外套の下でまばたきをしました。
 やがて、その鼻の先に触れる感触が、とっても憶えのある外套のモノだとわかると、また鼻から深く息を吸ったのです。
 
 ハンターさんが怒りの声を上げようとしたその時です。
 大きな手が布ごと、ハンターさんの口を押さえてしまいました。
「おまえが話すというから聴いてやろうと待っているのに、少しも話が進まないではないか」
 視界が効かない中、聞こえるおにっさんの淡々とした声に、ハンターさんは叫ぶのも暴れるのも止しておこうと思いました。
 自分より遥かに体格のいい男の人が、視界を奪って何をしようというのか。
 ハンターさんは命の危機を感じ、あんまり深く考えたくもなくなりました。
 大人しくしているハンターさんから、おにっさんの大きな手が離れます。
 ハンターさんは声もなく、頭から被せられた布を取り払う事すら思い付かず、後退ろうとしても腰が上がりませんでした。
 砂を踏みしめる音がして、おにっさんが立ち上がろうとしているのがハンターさんにも解りました。
「あ」
 かすれた声が上がったワケをハンターさんがきき返す間もありません。
 ハンターさんは、立ち上がろうとした瞬間に脚の痺れでこけたおにっさんの、下敷きにされたのです。
 
「ぅ重っ!!」
 砂面に背中をぶつけて痛かったのに、ハンターさんの口から出た言葉はそれでした。
 後ろ頭はガブラスフェイクのおかげで案外大丈夫です。
「すまんな。ここまで脚の感覚が無くなっているとは思わなんだ」
 おにっさんは、ハンターさんを下敷きにしたおかげか、裸なのに全く無事でした。
 それどころか押し倒したハンターさんの胸に顔を受け止められ、見事なラッキースケベ状態です。
「ちょ、どこにどうして……」
 背中は痛いわ体の上に人が乗ってて苦しいわで、ろくに声も出ないハンターさん。
 その言葉を止めたのは、おにっさんの呟きでした。
「黒い肌をしているからには、どれほど硬いのかと思えば。随分と柔いのだな、人は」
 軽く頭を打ったせいか、なんなのか。
 さっき途中で打ち切った考えとおにっさんの呟きの内容とが、一つの事をハンターさんに理解させました。
 おにっさんのごっつい手が、遠慮なんてなく興味津津でガブラススーツボディに包まれたハンターさんの体を撫でていきます。
 一つ理解してしまえば、芋づる式にあれこれそれと「わかった!」が広がっている最中のハンターさん。
 珍しくも考えに夢中になっていました。
 
 ハンターさんが、思い出したように自分の頭に被さった外套をめくりました。
 ガブラスフェイクの奥、眩しげに薄茶色の眼を細めるハンターさんを、おにっさんの糸目がちらりと見上げます。
「ねえ、すなはみって、ヒレと鱗が生えてて、砂の中泳いで、ギザギザキバのでかい口から砂吐く、アレ?」
 らしくもなく穏やかな声で、ハンターさんが訊きました。
 おにっさんが手を止め、ふむとうなりました。
「それが、砂中を裂き進む平たく尖った頭、長い首と尾、二本の脚を備えた者なら、確かに砂食みの事だ」
 すぐ近くにあるおにっさんの砂まみれの髪が、ほとんど白に近い紫色をしているのにハンターさんは気付きました。
 奇妙な色なのですが、それもハンターさんを納得させるものとなったのです。
 ようやくおにっさんがハンターさんの体の上から退きました。
「そんでね、あんたはあたしが追っ掛け回して、矢を撃ち込みまくったあの、すなはみなのよね」
 然り、とおにっさんは答えました。そして、凶悪な感じの爪の生えた指でハンターさんを差します。
「そうだ。理解しろ。冷静にな」
 ドスガレちゃんは、紫鱗に黒い皮膚、大きな体をしていました。
 おにっさんにはそういう要素が確かにあるのです。
 おにっさんののっぺりした顔も、言われてみればドスガレちゃんテイストに見えなくもありません。
 
 ハンターさんの横で、おにっさんは居住いを正しました。
「話を聴けとおまえは言ったろう。何を聴かせるつもりだかしらんが、そろそろ語り始めてもいい頃ではないのか」
 わざわざ全裸に正座で待機してくれるおにっさんが、ナチュラルボーン変態なのか、律儀なのか、ハンターさんには解りません。
 体を起こしたハンターさんは、おにっさんの見えそで見えない何かを隠すため、外套をおにっさんの腰に被せました。
 しかしながら、さっきのようにおかしな使われ方をしては困ると考え付いたハンターさんは、そのままおにっさんの胴に腕を回します。
 おにっさんの腰回りに外套を一周させ、端を結んでおきました。
 これでずり落ちたり、被せられたりしないはず、とハンターさんは自分の仕事の出来に会心の笑みをこぼします。
「話は聴いてやるが、無駄に大声を張るのは止せ。聴く気が失せる」
 おにっさんはハンターさんのやる事を気にしてないらしく、変わらず淡々と言うのでした。
 
 再度おにっさんの正面に腰を下ろしたハンターさんは、胡坐を掻きました。
 自分の膝に片肘突きながら、ハンターさんはおにっさんを指します。
「正座はもういいから」
 そうか、とおにっさんも胡坐を掻きました。
 隠れて欲しい何かが隠れていても、男の生脚は本当に目に嬉しくないモノだと、ハンターさんは思ったのでした。
 何か忘れているような気がしながら、ハンターさんはガブラスフェイクを脱ぎます。
 頬に風が当るのを感じ、ハンターさんは爽快感に微笑みました。
 すっぽ抜けた蛇頭におにっさんが目を丸くし、糸目が開くことにハンターさんがびっくりしました。
 ハンターさんはドスガレちゃんことおにっさんに、ハイガノボマーDEウマー計画と、その道程を語り出したのです。
  
 出来るだけ安全に飯のタネを稼ぎたい事、そのためには砂の竜の桃色ヒレが必要な事。
 ガレオスを狩れども狩れども桃色のヒレが生えている個体が見当たらない事。
 桃ヒレ生やしてないドスガレに八つ当たりしたのに、ほとんど効かなかった事。
 砂漠の暑さに心底うんざりしている事。肌荒れに留まらず、日焼けとそばかすが増えちゃった事。
 虫嫌いな同僚が変なスープにハマって怖い事。
 近くに住んでる別の同僚が最近ケルビを飼い始めて、なんだかうるさい事。
 同じく近所に住んでるこれまた別の同僚が、部屋に女を連れ込み始めて妬ましい事。
 男共はどいつもこいつも女扱いしてくれないっていう失礼千万な事。
 そのくせ下ネタ振る時は喜々として馬鹿じゃねーのクソな事。ノリノリに乗ってやんよオラな事。
 むしろドン引きさせてくれるわ畜生共めな事。
 
 ハンターさんによる取り留めのないこと限り無しな話を、おにっさんは相槌を打ったり頷いたりしながら、聴いていました。
 話し疲れて、お水を飲んで一休みしているハンターさんに向かって、おにっさんは言いました。
「だいたいわかった」
 多くを語ったハンターさんと同じくらいの疲労感を漂わせ、おにっさんの言葉は続きます。
「だがな、我らに関わる話題は、多分に譲歩してもその日に焼けて云々辺りまでだろう。その他の話題を、砂食みに話してどうするつもりだ」
 言葉のお外からは「知らんがな」という意味が匂わされていますが、我らがハンターさんは空気を読みません。
「だって、あれこれ言いたい事が溜まってたんだもの。ついでよついで」
 後ろ頭をバリバリ掻きながらも晴れやかな表情で言われ、おにっさんも言葉を重ねようとはしませんでした。
 
 片膝立ててお水を呷っていたハンターさんが、ぽんと膝を叩きました。
 おにっさんの視線が自分に向いたのを感じて、ハンターさんはそのお顔をずいとおにっさんに近付けます。
 上目遣いでおにっさんの顔を眺め、ハンターさんは言いました。
「ね、あんた、なんで人になってんの?」
 それは生まれ出でて当然の疑問です。しかし生まれるのが遅すぎるのではないでしょうか。
 ハンターさんの問いに、おにっさんは少しの間、だんまりになってしまいました。
 
 答えてくれないおにっさんは、勿体ぶっているのか、はたまた目が細いから解らないけど、実は寝ちゃってるのか。
 ハンターさんはそう考えて、おにっさんの糸目をしげしげと見詰めました。
 糸目ながらまばたきもするし、目玉も動いているのを確認し、ハンターさんはなんだか感心します。
「なんでよ、ねー」
 大人しくお話を聞いてくれたおにっさんに対して、ハンターさんは馴れ馴れしくしていい人と判断しました。
 フレンドリーなのではありません。このハンターさんの態度を別名、格下扱いともいいます。
 距離無しなハンターさんの態度に動じた様子もなく、流石の元ドスガレちゃんのおにっさんは大物っぽく頷きました。
「話せば長くなる」
「あたしの話よりも?」
 またも頷いたおにっさんに対し、ハンターさんはパサついた食物を頬張りながら返します。
「聴いたげるから、コンセツテイネイに、解りやすーく説明しなさいよ」
 長い話を聴くのは嫌いな事を忘れて、ハンターさんはそう言ったのでした。
  
「我らは砂食みといえど、砂のみで生きていける訳ではない事は知っているな。
 食らう肉と砂が揃わなくては生きてはいけない。逆に砂と肉の食らえる所ならば、砂食みのいずれかが辿りつくこともあるだろう。
 だが、この一帯に棲む我らは、他の地域の砂食みとは違う。
 違ってしまったというべきか」
 ちょっぴり仰々しいおにっさんの語りに、ハンターさんは早くもうんざり気味です。
 己の言葉に責任なんか持たないのがこのハンターさんでした。
 けれど、荷物の中からかなり溶けた氷結イチゴを見付けて、口に含むと同時、ハンターさんの視線はおにっさんへと戻ります。
 腐っても女の子なハンターさんは、お話の供にお菓子があれば何とか話に集中できるのです。
「そうだな、例えば。おまえが桃色のヒレがないだのとぬかしていたが、当然の事だ。
 あれはほとんど女にしか生えない。そしてこの一帯に砂食みの女はいない」
 
「ふぇ!?」
 せっかく集中したばっかりだったのに、ハンターさんは驚きのあまり変な声を出しました。
 桃色だから女の子専用だなんて安直な、とか突っ込む事すら思い付きません。
 間抜けな顔になっちゃってるハンターさんを放っておいて、おにっさんは続けました。
「知らぬわけでもなかろうよ。おまえの同族にも、わざわざ我らの腹を裂いて、子種の詰まった袋だけを取っていく輩がいたぞ」
 おにっさんの疑わしげな目で見られ、いやいや知らないからと否定するハンターさん。
 ハンターさんはトレハンなんて小洒落た事をしたことがありません。
 なので、この辺りのガレオスちゃん達の7割が白子(しらこ)持ちだなんて知らないのです。
 (参照:大丈夫?な本)
「子種を蓄えた袋を持つ女なぞいない。桃色ヒレは砂食みの女にしか現れない。解るな」
 背筋を綺麗に伸ばしたおにっさんの前。ハンターさんはへどもどしています。
 予想もしていなかった話に、なかなか思考を戻せないのです。
「じゃ、じゃあ、さ。あたしが今までドスガレ追っ掛け回してたのって、すっごく無駄なの!?」
 ハンターさんはおにっさんに詰め寄り。
 かけて、大きな手に顔を掴まれ阻まれてしまいました。
 おにっさんの掴む力が強いのは勿論、危険な感じの爪が、今にもハンターさんの肌を破らんばかりに食い込んでいます。
「痛っ危なっ! 放してよっ! 乙女のやわ肌何だと思ってんのよ!」
 状態が状態なだけにハンターさんは暴れる事も叶わず、罵る声も少し気弱なものでした。
 おにっさんの手を剥がそうとするのですが、少し震えた指の力など、何の役にも立たなかったのです。
 
 おにっさんは、自分の手にかかった二回りほど小さなハンターさんの手を、蛇顔飛竜の赤黒い革手袋に包まれたそれを、見詰めました。
「色が黒いのは好みだが、おまえの色ではないようだな」
 おにっさんは掴んでいる顔の肌色に目を移し、ふむとうなります。
「手袋好きならあげるから、放してよぉ……」
 痛いわ怖いわで涙目になってきたハンターさんのか細い声に、やっとおにっさんは手を放しました。
 ハンターさんは何度もしゃくりあげ、涙をぽとぽと零しながら手袋を取って、おにっさんのごつい手に押しつけました。
 
 べそかきハンターさんにどう対応したものか、おにっさんはほんの少し困ったようでした。
 一方のハンターさんは、始めの内こそマジ泣きでしたが、今やほとんど嘘泣きです。
 内心では「困れ困れ」と笑っているくらいです。
 そんなハンターさんの性根は、腐れ縁の同僚からは「あいつ、泣きゃ済むと思ってやがる」と非常に不評でした。
 
 おにっさんが溜め息を一つ吐きました。そしてハンターさんの顔を覗き込むように、身を屈めます。
 しめしめと思ったハンターさんは、その表情を隠すべく、殊更両手で涙を拭う仕草をしてみせました。
 ハンターさんの涙に濡れた片手を、おにっさんが取りました。
「話を続けるぞ。この一帯の砂は石と化した古い龍や、得体の知れん金物の混じりだ。
 それを食む我らも知らず知らずのうちに変えられていく。我らは、己で言うのもなんだが、砂食みとしては無駄に小賢しく成り果てた」
 女の人の手を取っておきながら、平然と話を再開したおにっさんに、ハンターさんは思わず涙の止まっている顔をあげました。
 しまったと思った頃には、おにっさんの糸目とハンターさんの潤んだ目はばっちりと合っていたのです。
「なんだ」
 おにっさんは、笑いました。
 大きなお口の端が更にキリキリと吊り上がり、のこぎりみたいなギザギザの歯が並んでいるのが見えます。
 驚きと怖さに、動きを止めてしまったハンターさんの耳に、おにっさんのざらついた呟きが届きました。
「どうせまた泣かされるのだから、泣き止むのも無駄な手間だろうに」
 正しく取って食いそうな笑顔のおにっさんから逃れようにも、ハンターさんは既に手を取られていました。
 ハンターさんの素手におにっさんの黒い手が音もなく滑り、捲り上げる様に袖の内へと入り込んでしまいます。
 肘の内側に鋭く爪を立てられて、小さな悲鳴をあげたハンターさんは、おにっさんの手を振り解こうとしました。
 けれどそれは、かないませんでした。
 
 成す術もなく崩れおちるハンターさんの体を、笑顔を引っ込めたおにっさんが受け止めました。
 ハンターさんは自分の状態を把握したのです。
 意識ははっきりしているのに、全く体に力が入らない。これはいわゆる麻痺状態というものだと。
「なに、すうの……よ」
 言葉も少し怪しくなってしまっています。
 ハンターさんはすっかり忘れていましたが、ドスガレちゃんのヒレには麻痺毒を持ったトゲがあるのです。
 トゲから爪へと姿を変えても、毒性は変わらずに備わっていました。
 おにっさんは、ハンターさんをそっと抱き締めて囁きます。
「先程言ったろう。この一帯に砂食みの女はいない」 
「らから、なんら、の。はあしなはいぉ」
 砂っぽいおにっさんの胸に頬っぺたがくっつき、ハンターさんはますます喋りにくく感じました。
 おにっさんはハンターさんの髪に触れてみながら、もごもごとくぐもる声を聞いています。
 
 ハンターさんの要求を呑む事もない代わりか、おにっさんが噛んで含めるように囁きました。
「季節柄、繁殖行動をとりたくて堪らない。この際異種族でも全く構わん。体はおまえ合わせてやっている。有難く思え」
「かまえ。あらしは、やらから」
 呂律が回らないのに、ハンターさんは懸命に言葉で拒絶しています。
 けれども、さっきみたいな大声も出ないようで、そんな言葉もおにっさんは涼しい顔で受け流してしまうのでした。
「合意がなければ強引に、が我らの身上だ。言うなれば穴があったら入りたい」
 言ってはなんですが、おにっさんは言い回しがおっさんでした。
 
 下ネタを振られるわ、ガブラスーツの上から撫でまわされるわ。
 流石に物分かりの悪いハンターさんにも、はっきりと話の方向が読めてまいりました。
 ガブラスーツ越しに伝わるおにっさんの体温に、感触に、これまで危機感を持たなかったのもどうかという話ですが。
 ハンターさんは暴れて喚いてどうにか逃げ出したいのですが、体はちっとも動かないのです。
 体の線を確かめるように辿る手のくすぐったさに、ハンターさんは落ち着かないどころの騒ぎではありません。
 現時点で『青空の下でおさかなをキャッチ!』が『前略おさかながキャッチ!』に移り。
 このままでは『前略おさかなとエッチ』になるかもしれません。
「やらせない! やらせないからね!! よりによって初めてが砂ムシとだなんて、絶対やだーっ!!」
 気合のままにハンターさんは叫んでみました。発音は明瞭になったものの、音量はいまひとつでした。
 
 

<続く>
2010年08月31日(火) 11:16:06 Modified by gubaguba




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