ストロベリー・パニックのSS保管庫です。

著者:名無しさん(2-415)


夜々は次の日のお昼になって、約束通り蕾の友達たちと一緒に
スピカの敷地にある青々とした芝生の広場でシートを敷いて座り
ル・リムの2年生の子の話を聞きながら昼食をとっていた。
周りにも自分たちと同じように、何組かのグループが楽しそうに食事をしていて広場はにぎやかだ。

蕾の友達は、ミアトルの千代ちゃんと
ル・リムの檸檬ちゃん、絆奈ちゃんと籠女ちゃんで、それぞれ学校が違う子達。
「千華留さんたら、その生地が気に入った!とか言って鋏でジョキジョキ切ったら……」
絆奈ちゃんが無邪気に千華留さんの話をしている。
「あ、絆奈さんと檸檬さんは手芸部で、千華留さんが部長なんです、夜々先輩」
蕾は夜々に、絆奈ちゃんの話についていけるように、こまめにフォローを入れる。
「それでね、それがカーテンだったの!あとで先生に大目玉を食らってて……」
「あはははは!ホントに、絆奈ちゃん?!千華留さんたら、ははははは!」
夜々は最初は、普段一緒にならない他校の子達ばかりで戸惑っていたけど
蕾が上手く話をあわせてくれて、打ち解けることができた。
「そうそう、千代ちゃん、頭の方は大丈夫?昨日のあれ、頭から行ったんでしょ?」
昨晩、蕾に聞いた話を思い出し、夜々は千代ちゃんのことを心配した。
「はい?それって、蕾さんのことですよ。」
おっとりした感じの彼女はそう答えた。
「え、えーとそうだっけ?えへへへ……」
白々しく目をそらす蕾。
「前から気になってたんですけど、夜々さんの髪ってすっごくサラサラしてますよね?
 シャンプーは何を使ってるんですか?」
いつもより親しみやすくなっている夜々に、絆奈ちゃんと檸檬ちゃんが目を輝かせて質問をしてきた。
自分たちよりずっと大人っぽい女性的な彼女に興味津々のようだ。
「え、シャンプー?いつも実家から送ってくるヤツだけど、今度もってこようか?」
「本当ですか?ありがとうございます、夜々さん!イエーーーイ!!」
秘密のシャンプーをくれると聞いて二人はお互いの手をパチーンとあわせて大喜び。
「えーーーー!いつも私が欲しいって言ってるのじゃないですか?!」
蕾は口をとんがらせて怒ってすねている。
「いいじゃない、あんたまだ一年生なんだから。色気づくのは早いわよ。」
「もお!オバハンがぁ〜〜」
オバハンという言葉にカチンと来て、夜々は蕾の首根っこに腕を回して、彼女の顔を自分の胸に押し付けた。
「誰がオバハンなのよ!!この小娘がぁ!!」
「ちょ、夜々先輩、ギブギブギブ!!」
「あははははははは!夜々さん、いいぞぉ、やれやれーーーー!」
蕾は締め付けられて息苦しいけど、笑いながらギブアップ宣言をしている。
その光景にみんな大笑い。
夜々は友達と楽しい時間を過ごした。


昼食を食べ終えもうすぐお昼休み終わるので、蕾の友達はバイバイといってそれぞれの校舎へ帰っていった。
夜々は蕾と一緒にスピカへ戻ろうと歩いている。
「あのさ、蕾、あんたって私のことを励まそうとるするけど、それって私が聖歌隊の主力だからなの?」
夜々は最近一人で昼食を食べていたから、誘ってくれた蕾に感謝しているけど
その好意が聖歌隊のマネージャーみたいな役割の彼女の打算的なものではないのかと思っていた。
「え……?…あはははははは、やだぁ、先輩ったら!そんなつまんない理由でそんなことしませんよ!」
「え、つまんない理由?」
夜々はきょとんとした。
「い、いいえ、夜々先輩の歌の才能がつまんないっていうわけじゃなくて……なんていうか……」
言い方が悪くて、失礼なことを言ってしまったかと思ったみたいで、あわてて訂正しようとする。
「えーと、なんていうか……2コも上の先輩に言うのは変ですけど、私たちって友達じゃないですか?
 だから悩んでいて落ち込んでいたら、励ますでしょう、普通?」
『友達』という言葉に夜々先輩はドキッした。
「勝手に友達なんていって、すみません。でも私は、夜々先輩がふさぎこんでいて心配してたんですよ。」
「心配かけちゃってごめん。そう、友達ね……」
光莉に言われた『友達』は、自分の恋心を否定された冷たいもの。
でも、蕾のいう『友達』は、さっき一緒にいて楽しかった千代ちゃんや絆奈ちゃんたち、そして今目の前にいる
蕾のことで、それがとても暖かく感じられた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
夜々先輩は笑顔を取り戻した。
聖歌隊の練習はサボらなくて、むしろ楽しくやっていた。
練習の合間によく蕾と目を合わせて、そのたびに微笑を交わしていた。
「つーぼーみっ!」
「きゃ、夜々先輩、いきなり抱きつかないでくださいよ!」
声のパートの関係で練習中は蕾と距離があって、それが夜々先輩にはとてももどかしいらしくて
休み時間になると堰を切ったように後ろから蕾に飛びついてきた。
「今日も光莉がいないの。夜に来てくれない?あ、でも今度は私が行こうかな?
 蕾の同室の子にも会いたいし。」
抱きついたままひそひそと耳元でつぶやく。
「先輩、もう私が行かなくてもいいんじゃないですか?」
「え!……えーっと………その…だめかな?」
蕾が言った事は図星のようで、夜々先輩は照れ笑いをして、気まずそうな顔をしている。
彼女は自分に親身に接してくれるようになった蕾と、二人っきりになりたいけど
誘うのが恥ずかしいらしく、なんとか口実が欲しかったようだ。
「しょうがないですね、いいですよ。最近練習を休まなくなったし、ご褒美です。」
前に昼休みの終わりに夜々先輩に言ったことと矛盾している。
蕾もまた彼女と二人でお話をしたいと思っていたけど、やっぱり照れくさくて自分から言い出せないでいた。
返事を聞いたときの夜々先輩は、満面の笑みを浮かべ喜んでいてかわいらしかった。


練習が終わり苺舎へ帰ろうとすると、空はすっかり夕焼けに染まっていた。
夜々先輩は蕾といっしょに帰ることにしたが
校門のまえでル・リムの制服を着た見慣れた眼鏡の女の子が待っていた。
その人は校舎から二人が出てくるのを見ると、腕を大きく振って呼んだ。
「あれ?檸檬ちゃん!…蕾、あんたになにか用があるみたいね。」
「どうしたんでしょう?檸檬さん……」
夜々先輩に促されて蕾は檸檬さんの元へ向かうと
「夜々さん、ちょっといいでしょうか……」
「え!?私に」
檸檬さんは蕾ではなく、夜々先輩に用があるみたいだ。
「蕾ちゃん、悪いけど夜々さんを借りるね。」
「借りるも何も……べ、別に私に断りを入れなくても、かまいませんよ…」
夜々先輩と檸檬さんは、スピカの生徒がいつもお祈りするマリア像が置かれている広場へ向かった。
蕾はどうしてか、夜々先輩の後を追いかけたいと思っていたけど
檸檬さんのことを考えてその思いをぐっとこらえて先に苺舎へ帰っていった。
――――――――――――――――――――
岩肌をくりぬいたところに祀られているマリア像に背を向けて
その像の前にある噴水の縁に夜々と檸檬ちゃんは座った。
「実は、夜々さんに相談して欲しいことがあるんです。あの、ご、ご迷惑かもしれませんけど……」
夜々とは最近になって親しくなったばかりなので
檸檬ちゃんはずうずうしいと思っているらしく申し訳なさそうだった。
でもその相談は夜々にしかできないものらしく、彼女は思いつめていた感じだった。
「ううん、全然迷惑じゃないよ!私なんかででよかったらなんでも相談してよ!」
夜々は悩んでいる檸檬ちゃんには悪いと思っているけど、自分を頼ってくれてうれしかった。
友達としてみてくれていると思ったから。

しかし檸檬ちゃんは話し出そうとはせずに、じっと黙ったままだった。
夜々はどちらかというと気の短いほうだけど、そんな彼女にイライラしていない。
思い悩んでつらいときでも、となりに気の許せる友達がいるだけで安心できることを知っているから。
夜々は檸檬ちゃんを暖かく見守っていた。

「あ、あの、夜々さん……千華留さんって美人ですよね……」
ようやく檸檬ちゃんが話を切り出すと
「え、ええ、そうね、美人でやさしそうで……強敵ね、檸檬ちゃん!」
夜々にはもう彼女の相談の内容がわかってたようだ。
「はい、『強敵』?…………ど、どういう…」
檸檬ちゃんは彼女の勘の良さにびっくりしている。
「お昼休みのときの絆奈ちゃんの、千華留さんの困った話をするときのうれしそうな顔と
 それを見つめている檸檬ちゃんの複雑な表情を見ていれば、話はわかるわ。」
夜々の鋭い推測に檸檬ちゃんの顔は真っ赤になって下を向いた。
「は、は……はい……。す、すごいですね、夜々さん。なんでもお見通しなんですね。えへへ…」
顔を上げ照れ笑いをして舌をだして『参りました』という表情で目を合わせた。
―――――――――つづく


  1. 夜々先輩
  2. 夜々先輩(2)
  3. 夜々先輩(3)
  4. 夜々先輩(4)
  5. 夜々先輩(5)

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