ストロベリー・パニックのSS保管庫です。

著者:名無しさん(2-415)


籠女と千代がいるのだけど、絆奈さんと檸檬さんの二人がいい感じ映画を鑑賞している。
先輩は邪魔をするような野暮なことはしないようにと言ったので
蕾たちは映画が終わるまでおとなしく座って見ることにした。
映画のエンディングは、戦いが終わり主人公たちが勢揃いして、両腕を交互に上げ下げする陽気なダンスを
踊りながらテーマソングを合唱するという、明るくて平和的なものだった。

「れーもんちゃーん!」
映画が終わって照明がついて明るくなってから、夜々先輩と蕾は最前列に座っている
檸檬さんと絆奈さんたちのもとへこっそりと近づいて行き、声をかけた。
「あ!夜々さんに蕾ちゃんだぁ〜!」
檸檬さんたちは二人に声をかけられてびっくりした。
「え!檸檬さん、その格好は?!」
蕾は、先程暗くてよく見えなかった檸檬さんの髪型と服装を見て、彼女たち以上に驚いた。
檸檬さんの髪はおろされていてさらさらで艶やかだ。はいているスカートは長くてスリットが入っている。
それと、上は白のシャツで首に水色のスカーフを巻いていてとっても大人っぽい。
「えへへへへ…どうかな?」
檸檬さんは少し恥ずかしがっているけど、どこか自信を感じる。
「すごいでしょう、檸檬ったら、急にかっこよくなっちゃってさぁ!」
隣にいる絆奈さんが彼女を眺めて子供っぽくはしゃいでいる。
「とっても似合ってるよ、檸檬ちゃん!」
夜々先輩が答えると、檸檬さんは顔を赤くした。
檸檬さん、素敵だ…。人ってこんなにも変われるのかな…。
蕾は檸檬さんが変わった理由がわかっている。
「おかげで私たち、半額でチケット買えたんですよ、ねー、千代ちゃん、籠女ちゃん!」
絆奈さんは、千代と籠女と顔を見合わせて同時ににっこりと笑った。
檸檬さんは三児の母になっていた…
絆奈さんには、檸檬さんのいつもと全然違う感じの私服になんの感慨も沸かないみたいだ。
檸檬さんは夜々先輩と目を合わせて苦笑いをしていた。

映画が終わったときの時間は十二時を回っていたので、みんなでどこかで昼食をとることにした。
急遽開かれることになった今日の昼食会は、映画館を出てすぐとなりのハンバーガーショップ。
お店に入るとすこし並んでいる人がいたけど、すぐに注文をとることが出来た。
夜々先輩はこういうお店になれているようで、てきぱきと食べたいものを店員さんにたのんでいる。
「えーと…私は、なにがいいかな…」
カウンターにおいてある、写真入のメニューをみて蕾は悩んでいる。
蕾のほうは2〜3回しか来たこと無いので慣れていなくて、夜々先輩たちが品物が乗っているおぼんをもって
早々に2階への階段へ向かっているので早くしようとあせってしまう。
「あ、や、夜々先輩まって…じゃ、じゃあ、このハンバーガーセットで…」
蕾は無難に基本的なセットを写真を指して頼んだ。
「飲み物はどれになさいますか?」
「え、え、え…えーと…オレンジで!」

ハンバーガーとフライドポテトとジュースがすぐに目の前に置かれたおぼんの上に用意され、蕾は代金を払い
そのおぼんを持ってすぐに先輩達の後を追った。
「先輩、こういうお店によく来るんですか?」
「え?…うん、小学校のときよく友達と映画見に行った後は、ハンバーガー食べて、そのあとボーリング
 いって、カラオケ行って…」
「ええ!うそぉ〜!だって夜々先輩ってものすごい大金持ちお嬢様なんでしょう?」
自分の小学校時代とくらべると、大差がないのに驚いた。
「あはははは、蕾ったら。たしかに私んちは金持ちかもしれないけど、漫画とかに出てくるような
 リムジンで登下校したりする無理のあるお嬢様じゃないわよ。
 まあ私も友達も一応私立小学校だったけど、普通の子と変わんなかったわよ。」
「へえ〜〜、そうなんですか。」
蕾は先輩の昔話が聞けてなんだかウキウキしてきた。


二階に行くと、絆奈さんたちが、三つの二人席のテーブルを動かしてつなげて、6人のテーブル席を作っていた。
今日の昼食会は、場所がいつもとまったく違うので新鮮な感じだ。
夜々先輩と絆奈さんはさっきの映画の話で大盛り上がり。あの映画は蕾には名前しかしらないので
専門用語がちりばめられると訳がわからない。
「あ、そうそう。蕾ったらひどいんだよ!私がハンバーガー食べたことないなんて思っていたらしくてさぁ!
 まったくもうっ、この歳でハンバーガー食べたこと無いなんて、無理があるってば!」
「普通おもいますよ!南都財閥と言えばアジアはもちろん、世界で知らない人はいないほどですよ!」
「そういえばそんな設定もあったわね。はいはい、じゃあ、ご期待に添えましょうか。
 おい、奥若よ!見ろ!手がよごれてしまったではないか!」
夜々先輩は、手に持ったハンバーガを美味しそうにむしゃむしゃと平らげた後
ハンバーガーなんて下衆な食べ物だと思っているお嬢様を演じて見せようとするけど。
「ちょっと、夜々山先生!元ネタがマニアックで古すぎますよ!私達生まれてないじゃないですか!」
夜々先輩は調理場にのれんをかきわけて、ずかずかと入り込んでいく勢いを感じる。
「ぎゃははははははははははは!マリ○ての祥△様ネタ最高!!!」
先輩と蕾の掛け合いに絆奈さん達は大笑いをしてくれた。二人はどこか仲のいい夫婦漫才コンビのようだ。

「あの、私、ちょっとお手洗いへ…」
「あ、私も」
昼食を食べ終わったあと、ジュースを飲みながらみんなが楽しくおしゃべりをしていると
檸檬さんが席を立った。それをみて蕾も一緒にいくことにした。

「あの…檸檬さん。」
お手洗い室の水道で手を洗いながら、となりにいる檸檬さんに蕾は尋ねた。
「なあに、蕾ちゃん?」
「すっごく似合ってますね、その服。」
蕾は檸檬さんの服装を映画館で見てからずっと気になっていた。
「ふふふふ、ありがとう。夜々さんが見立ててくれたの。」
「ええ!夜々先輩が?!」
「うん。悩み事を相談したら、とても親身になってくれてね、髪型のこととか
 おしゃれのことをいろいろとアドバイスをしてくれたの。」
檸檬さんに近づくと夜々先輩がつかっているシャンプーと同じ匂いがした。
「あの秘密のシャンプーも、もらったんですね?」
「絆奈には内緒で、私にだけくれたの。」
「え?!檸檬さんだけに?」
先輩と仲良くなってからも、彼女からシャンプーを借りようとしても「あんたにはまだ早い」の一点張りだった。
どうして絆奈さんと自分にはくれないのだろうかと、怒りはしないけど、少し疑問に思った。

「絆奈さんもきっとすてきだって思っていますよ。」
「あははは、やっぱり蕾ちゃんにもわかっちゃてるのね。」
檸檬さんは微笑んだ。
蕾には檸檬さんの好きな人は、夜々先輩が教えてくれるまで全然わからなかったけど。
「蕾ちゃんもがんばってね!」
「え…な、なにを、が、がんばるんですか?!」
「夜々さんのこと。」
檸檬さんの返答に蕾はドキッとした。


「え、え、え、え…や、夜々先輩は、べ、別に…今日だって、で、で、デートじゃなくって…」
それでも蕾は顔を真っ赤にして必死になって否定して、檸檬さんに抵抗する。
「好きなんでしょ?」
「…………………はい。」
檸檬さんはやさしく笑っている表情を変えずに短い言葉を話すだけなのに
彼女には絶対かなわない気がしてすぐに観念した。
「でも、私なんて…」
蕾は自信が無かった。夜々先輩が以前好きだった人と比べると、全然かわいくないし性格はきついし
スタイルはそんなによくないと思っているから。
「蕾ちゃん、私ね、今すっごく楽しいの。」
「楽しい?」
「うん!絆奈のことを考えて着ていく服を選んでさ、千代ちゃんと籠女ちゃんも一緒だけど
 絆奈と電車に乗ってお話して、映画を観てご飯を食べて。とっても楽しいの!」
檸檬さんの前向きな考えに、外見だけでなく内面までも大人びていると蕾は感じた。
自分も檸檬さんみたいに変わりたい。
「ありがとう、檸檬さん。私がんばります。それと、もっと楽しもうと思います。
 大好きな人のことを考えるのって、ときどきつらいこともあるけど、やっぱり楽しいですね。」
「うん。がんばろうね、蕾ちゃん。」

「あの、ところで、檸檬さんたちも当然電車で来たんですよね?
 でもどうして私達は途中で行き会わなかったんですかね?」
「え?ああ。『ガンバル!』は日曜日は朝の9時から放映してるから
 私達は朝早く行って2回ぶっ続けで観てたのよ。」
「は、はあ……」
道理で、キャラクター達と同時にせりふを叫ぶことができたわけだ。
しかし、いくら大好きな映画でも2回続けてみるなんて。
蕾はすこし呆れたけど、やっぱりいつもの檸檬さんらしいなと可笑しく思った。
「そういえば、主人公のキャサリンちゃんって檸檬さんに似てますよね?メガネっ子で。
 『乙女のなさることですのぉ〜〜!!』って。」

ハンバーガーショップを出た一行は、ゲームセンターで遊んだり、デパートでお土産の買い物をしたりと
滅多に来れない街巡りを満喫した後、寮の門限に間に合うように帰りの電車に乗った。
帰りの電車は行きの時と違って、買い物帰りの人が多くてすこし混雑していた。
そのおかげで蕾の夢がかなった。蕾は夜々先輩と同じ側の席に座ることが出来た。
しかし、絆奈さんが6人一緒に座ろうって言い出したから、窓側に座った蕾の隣の夜々先輩が
いるのはうれしのだけど、その隣に千代が座っている。
二人席に三人が無理やり乗りぎゅうぎゅう詰めになっているのですこし苦しい…。
向かいには、窓側に檸檬さん、となりに絆奈さん、籠女が同じようにきつく詰めている。
相変わらず話題が尽きない夜々先輩はおしゃべりをして、絆奈さんと千代と籠女を楽しませている。
蕾は夜々先輩と密着しているので、彼女の体温と髪の匂いを感じる。
息苦しいけど蕾はうれしかった。電車はがたがたとゆれながらアストラエアの駅に、一駅一駅と近づいていくけど
すっと乗っていたいと思っていた。
向かいの檸檬さんも絆奈さんとぴったりとくっついている。その檸檬さんと顔をあわせると
お昼に見せたやさしい笑顔を向ける。それが蕾の心の中を見透かしているように思えて
蕾はますます恥ずかしくなった。

今日のデートは本当に楽しかった。先輩の意外な面をたくさん見ることが出来て。
それと檸檬さんに勇気をもらった。先輩は根はとてもやさしい。
どんな結果になろうとも自分の気持ちをちゃんと受け取ると思う。


電車が駅に到着して降車したので体の圧迫から開放されたけど、蕾は名残惜しい気がしていた。
アストラエアの丘へ向かう坂道を朝とは逆に登っていく。
朝とは違って蕾は夜々先輩を緊張しないで見ることが出来ていた。
蕾は絆奈さんたちより少し後ろの方へ離れて歩いていると、隣に先輩が一緒についている。
「蕾、今日は楽しかったね。」
「ええ、映画面白かったですね。」
あの映画はテレビ版の総集編みたいな構成だったから、あまり見たことの無い蕾にはさっぱりわからなかったけど
先輩と話をあわせた。
「今日の檸檬さん、とってもきれいですよね。夜々先輩が服を選んだって聞いたんですけど。」
「蕾も良いと思った?!よかった…いろいろとファッション誌を読み漁ってさ、あれこれ悩んだのよ。
 絆奈ちゃんは多分、大人っぽい人に憧れているだと思ったから。」
蕾はムッとした。夜々先輩にやさしくしてもらった檸檬さんにすこし嫉妬したというのもあるけど
それ以上に、他人の恋路に対する勘の鋭さをどうして自分自身には働かないのだろうかとやきもきした。
「私も檸檬さんみたいにきれいになりたい…私にも服のこととか教えて欲しいな、先輩。」
蕾は愚痴をこぼすようにボソッと言った。
「あんたにはまだ早いわよ!」
すると先輩は、秘密のシャンプーをあげないときの言い分と同じことを返した。
「どうしてですか!私だって…私だって、好きな人によく見られたいです。」
蕾は最初は勢いよく叫ぶように言ったけど、だんだんとかすれる様な小さな声になっていった。
「それは困る。あなたがきれいになって、その人に好かれたらどうするのよ!」
どうすんのよ!って…かわいい後輩の恋が上手くいくなんていいことじゃないかと
蕾は先輩の言い分が変に感じた。
「どうして、先輩が困るんですか?」
「まったくもうっ、あなったってばホントに鈍いんだから!」
「先輩ほどじゃないです!!」
まったくだ、この人だけには言われたくない。
「あなたのことが好きだからよ。」
……………………
先輩は蕾の意識を刈り取るような言葉を投げつけた。
すこし間をおいて、我に返った蕾は
「ひどいです、先輩!人の気も知らないでそんな冗談を!」
先輩の言葉が軽い冗談だと思って、怒りをあらわにした。
冗談というのは結局のところ、嘘なのだから。蕾にとってはその嘘はあまりにも残酷だ。
「えっ、冗談ってなんのこと?」
怒っている蕾とは反対に、訳がわからないようにきょとんとして答えた。
「で、ですから…そ、その、先輩が私のことが好きだってこと…」
「ひどいのはどっちよ!あなたのこと好きだって、前から気持ちを伝えていたじゃない!
 どこまで鈍感だったら気がすむのよ!」
「はい?………」
蕾はいままで自分に向けられた夜々先輩の冗談と思われた言動を思い返してみた。
えーっと…体育の授業の投げキッス、聖歌隊の練習の休憩時間のときの告白、今日の夜々先輩の
服装のこと……


「え、え、え、え、え、えええええええええ!!」
これらが全部本気だったと思うと、蕾は地に足が着かないふらふらとした感覚に陥ってしまった。
「あなたは誰が好きなの?私でも全然わかんない。いいかげん教えてよ!
 いったいどうな子なの?顔を見てみたいわ。私より美人なの?どうなのよ!」
先輩はあれこれ詮索するけど、蕾はポケーっとして目の焦点は合わないで歩くだけだった。
「…先輩は、私のどこがいいんですか?」
「そうねえ…言われてみると、私って蕾のどこが好きなのかしら?うーーん。」
「考え込まないでくださいよ…」
「特別かわいいわけでもないし、性格はきついし、口うるさいし…うーん、どこがいいんだろう?」
「やーやーせーんーぱーいーーーーー!」
先輩の悪口に朦朧とした意識がしっかりしてきて、だんだんと怒りが込み上げてくる。
「でも、大好き。」
またもや、もどってきた意識が怒りと共にふっとばされてしまった。
………どうしてこんなにもはっきりと臆面も無く自分の気持ちを表に出すことができるのだろうか、この人は。
聞いている蕾の方が恥ずかしくなってしまうのだけど、先輩のこういうところを見習おうと思った。
「だから、誰なのよ、あなたの好きな人は?!明日んなったらすぐにでも宣戦布告に行くんだから!」
先輩は居もしない恋敵に勝手にメラメラと闘志を燃やしている。
「あはははははははははははは!もうっ、夜々先輩ったら!あはははははははは!」
他人のことは言えないけど、どこまでも鈍感な先輩に蕾はもう笑うしかなかった。

「夜々先輩。私も、先輩のこと大好きです。」

――――終わり


  1. 夜々先輩
  2. 夜々先輩(2)
  3. 夜々先輩(3)
  4. 夜々先輩(4)
  5. 夜々先輩(5)

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