【定義】
�ー�己本具の仏心は、無明を破り、真如の光明を収蔵することから「光明蔵三昧」という。『楞伽経』などに説かれる。
��道元禅師の法嗣であり、永平寺2世の孤雲懐奘禅師が著したとされる文献。内容は道元禅師の『正法眼蔵』「光明」巻を受けて、かつ仏教の根本を光明蔵三昧に置いて記されている。奥書によれば、書かれたのは弘安元年（1278）8月28日で、道元禅師の遷化された日に一致する。懐弉禅師が、81歳という最晩年であったが、自らの寿命を考えて、先師への追慕の念によって書かれたものとも推定される。
【開版の由来】
現在見ることが多いのは、面山が明和3年（1766）に公刊した刊本であるが、本書は久しく永平寺に秘蔵されていたらしい。面山が入手した経緯について、次のように述べられている。
面山は同著を感激して拝覧し、そして仏祖が邪なく正伝してきた自受用三昧とは、斉しく光明蔵三昧に証入することであるとして、仏祖の坐禅の様相を示した同著を高く評価した。ただ、この経緯が明らかにならないことや、写本の存在が確認できないことなどから、懐弉禅師著者説には疑問の目を向ける者もいる。
【解題】
本著が懐弉禅師の著作であるとして、内容としては道元禅師が精魂込めて否定しようとした天台本覚思想にも近付いたという評価もある。しかし、精査すればまさに、道元禅師が生涯説き続けた只管打坐・本証妙修を体得した者だけが語ることが出来る素晴らしき禅境であることが理解できる。しかし、素晴らしいが故に、見方を少しでも誤ると、直ちに日常底の凡夫を無条件で肯定することに落ち込んでしまい、修行不要論が出ることにもなりかねない。そこで、懐弉禅師は同著の冒頭で、以下のように示される（原文カナをかなに改める）。
ここから、光明蔵三昧が久しく修行し、師の下で学んだ者だけが知ることが出来ることを確認すべきである。或いは、誤った見解への落ち込みについては、巻末にて以下のようにも警告する。
さて、同著の構造であるが、『華厳経』『法華経』或いは中国の禅語録などから「光明」に関する説示を漢文態で取り上げ、それに対して懐弉禅師が提唱を真字仮字交じり文にて行うというものであり、『正法眼蔵』の多くの巻で行われている方法と同じである。また、文体も酷似しており、これは『正法眼蔵』を学んだ者でなくては書けず、また道元禅師は基本的に和語であっても当時の貴族が使ったものを使っていたという研究成果があるが、懐弉禅師も京都の貴族階級の出身であるため、似たような文体を使うことについては、問題がなかったのではないかと思われる。
【思想的内容】
懐弉禅師はまず、光明蔵三昧について以下のように示されている。
ここから、まるで「光明蔵」が一切の存在を生み出すような「本体」であると理解するものがいるかもしれないが、それは誤解である。懐弉禅師はこの光明蔵三昧自体を以下のように規定するのである。
つまり、我門の坐禅＝只管打坐こそが光明蔵三昧であるということは、曹洞宗の修行に先に挙げた一切の経論が包摂されることを示したのが、この「光明蔵三昧」だということになる。そして、燃燈仏から釈尊へと嫡嫡相承してきた坐禅なのである。これは、『弁道話』の冒頭で、道元禅師が「自受用三昧」について、諸仏が正しく相承してきたと評するのに対応する文脈である。そして、この只管打坐＝光明蔵三昧というのは、以下の道元禅師のご見解を受けてのものであろう。
そこで、懐弉禅師の方法は一切が「正法眼蔵」の事実であると示した道元禅師の方法と全く同じであり、「光明蔵三昧」とは「正法眼蔵」と同義である。道元禅師は、「正法眼蔵」が「涅槃妙心」であることから、我が身心に於いて一切の事象を明らかにしようとしたが、懐弉禅師はその方法を一部変えて、一切の事象を我が身心を用いて行う修行＝三昧に於いて明らかにしようとされた。それは中国曹洞宗の曹山本寂の言葉を註釈した以下の説示からも明らかである。
『弁道話』に示された「本証妙修」が、やや文言を変えて用いられている。実際に、四字熟語としての「本証妙修」は道元禅師の後代に誰かが作ったものであるから、語句の前後は気にしなくて良い。むしろ、『弁道話』の参学と、思想的背景が後々まで使われていたことを知るべきであるし、その意味では『弁道話』の後で、初めて同概念を使ったのが、『光明蔵三昧』だと知るべきである。
以上、非常に簡潔に示しただけであるが、同著は懐弉禅師が生涯にわたって『正法眼蔵』を参究した結果、最晩年に示されたまさに曹洞宗の奥義とも言える著作であり、道心ある者は必ず参究されるべきであろう。
【解説書】
・酒井得元『光明蔵三昧講話』大法輪閣・1991年
�ー�己本具の仏心は、無明を破り、真如の光明を収蔵することから「光明蔵三昧」という。『楞伽経』などに説かれる。
上堂、それ坐禅は、大安楽の法門・大解脱の妙法なり。人々、心を以て心を伝うるの心印、箇々、法を以て法を授くの表準、智・愚に別無く、凡・聖に隔りなし。尽く自受用三昧に安住して、斉しく光明蔵三昧に一入す。 『瑩山瑾禅師語録』
��道元禅師の法嗣であり、永平寺2世の孤雲懐奘禅師が著したとされる文献。内容は道元禅師の『正法眼蔵』「光明」巻を受けて、かつ仏教の根本を光明蔵三昧に置いて記されている。奥書によれば、書かれたのは弘安元年（1278）8月28日で、道元禅師の遷化された日に一致する。懐弉禅師が、81歳という最晩年であったが、自らの寿命を考えて、先師への追慕の念によって書かれたものとも推定される。
【開版の由来】
現在見ることが多いのは、面山が明和3年（1766）に公刊した刊本であるが、本書は久しく永平寺に秘蔵されていたらしい。面山が入手した経緯について、次のように述べられている。
上毛の東海老宿有りて、此の一巻（＝光明蔵三昧）を以て、余（＝面山）に付属して自ら謂く「二十年前、越の祖山（＝永平寺）に得る」と。余、喜躍して自ら奉ず。 「面山序」原漢文
面山は同著を感激して拝覧し、そして仏祖が邪なく正伝してきた自受用三昧とは、斉しく光明蔵三昧に証入することであるとして、仏祖の坐禅の様相を示した同著を高く評価した。ただ、この経緯が明らかにならないことや、写本の存在が確認できないことなどから、懐弉禅師著者説には疑問の目を向ける者もいる。
【解題】
本著が懐弉禅師の著作であるとして、内容としては道元禅師が精魂込めて否定しようとした天台本覚思想にも近付いたという評価もある。しかし、精査すればまさに、道元禅師が生涯説き続けた只管打坐・本証妙修を体得した者だけが語ることが出来る素晴らしき禅境であることが理解できる。しかし、素晴らしいが故に、見方を少しでも誤ると、直ちに日常底の凡夫を無条件で肯定することに落ち込んでしまい、修行不要論が出ることにもなりかねない。そこで、懐弉禅師は同著の冒頭で、以下のように示される（原文カナをかなに改める）。
正法眼蔵中に光明の巻あり。今、更に此の一篇を示すことは、偏に仏家の面目は、光明蔵三昧なることを脱体ならしめんとなり。これ久参入室の人の自行他化の潜行密用なり。
ここから、光明蔵三昧が久しく修行し、師の下で学んだ者だけが知ることが出来ることを確認すべきである。或いは、誤った見解への落ち込みについては、巻末にて以下のようにも警告する。
此篇は、門下入室の人にあらずんば、見せしむることなかれ。是自行化他について、邪僻の見あらざらしめじとの、護法の一片心なり。
さて、同著の構造であるが、『華厳経』『法華経』或いは中国の禅語録などから「光明」に関する説示を漢文態で取り上げ、それに対して懐弉禅師が提唱を真字仮字交じり文にて行うというものであり、『正法眼蔵』の多くの巻で行われている方法と同じである。また、文体も酷似しており、これは『正法眼蔵』を学んだ者でなくては書けず、また道元禅師は基本的に和語であっても当時の貴族が使ったものを使っていたという研究成果があるが、懐弉禅師も京都の貴族階級の出身であるため、似たような文体を使うことについては、問題がなかったのではないかと思われる。
【思想的内容】
懐弉禅師はまず、光明蔵三昧について以下のように示されている。
それ光明蔵とは、諸仏の本源、衆生の本有、万法の全体にて、円覚の神通大光明蔵なり。三身・四智・普門・塵数の諸三昧も、みな此の中より顕現す。
ここから、まるで「光明蔵」が一切の存在を生み出すような「本体」であると理解するものがいるかもしれないが、それは誤解である。懐弉禅師はこの光明蔵三昧自体を以下のように規定するのである。
此に知る、我門の坐禅は燃燈釈迦嫡嫡相承の光明蔵三昧なり。
つまり、我門の坐禅＝只管打坐こそが光明蔵三昧であるということは、曹洞宗の修行に先に挙げた一切の経論が包摂されることを示したのが、この「光明蔵三昧」だということになる。そして、燃燈仏から釈尊へと嫡嫡相承してきた坐禅なのである。これは、『弁道話』の冒頭で、道元禅師が「自受用三昧」について、諸仏が正しく相承してきたと評するのに対応する文脈である。そして、この只管打坐＝光明蔵三昧というのは、以下の道元禅師のご見解を受けてのものであろう。
仏祖の光明に照臨せらるるといふは、この坐禅を功夫参究するなり。おろかなるともがらは、仏光明をあやまりて日月の光明のごとく、珠火の光耀のごとくあらんずるとおもふ。日月光耀は、わづかに六道輪廻の業相なり、さらに仏光明に比すべからず。仏光明といふは、一句を受持聴聞し、一法を保任護持し、坐禅を単伝するなり。光明にてらさるるにおよばざれば、この保任なし、この信受なきなり。 『正法眼蔵』「坐禅箴」巻
そこで、懐弉禅師の方法は一切が「正法眼蔵」の事実であると示した道元禅師の方法と全く同じであり、「光明蔵三昧」とは「正法眼蔵」と同義である。道元禅師は、「正法眼蔵」が「涅槃妙心」であることから、我が身心に於いて一切の事象を明らかにしようとしたが、懐弉禅師はその方法を一部変えて、一切の事象を我が身心を用いて行う修行＝三昧に於いて明らかにしようとされた。それは中国曹洞宗の曹山本寂の言葉を註釈した以下の説示からも明らかである。
是れ、即ち光明蔵中の直指直説にして、しかも妙修本証を開示したまふ処なり。
『弁道話』に示された「本証妙修」が、やや文言を変えて用いられている。実際に、四字熟語としての「本証妙修」は道元禅師の後代に誰かが作ったものであるから、語句の前後は気にしなくて良い。むしろ、『弁道話』の参学と、思想的背景が後々まで使われていたことを知るべきであるし、その意味では『弁道話』の後で、初めて同概念を使ったのが、『光明蔵三昧』だと知るべきである。
以上、非常に簡潔に示しただけであるが、同著は懐弉禅師が生涯にわたって『正法眼蔵』を参究した結果、最晩年に示されたまさに曹洞宗の奥義とも言える著作であり、道心ある者は必ず参究されるべきであろう。
【解説書】
・酒井得元『光明蔵三昧講話』大法輪閣・1991年
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