時計の針が深夜の0時を回る頃。
一組の男女が、愛の営みをベッドの上で交わしていた。
「あ……だ、ダメです、そこは……」
「そこ、ってどこ? ちゃんと言ってくれないと」
「イヤ……ひどいです、あ、あんっ!」
 男は女の秘所からゆっくりと指を抜き、
恥ずかしさに細かく震える女の目の前に持っていく。
「ほら、こんなになってる」
 男が人差し指と中指を開くと、うっすらと白く濁った分泌液が、
にちゃっという音をたてて宙に一筋、橋を作る。
「イヤなわりには、すごいんだ」
「ああっ……」
 自らが流した淫らな証から、女は顔をそむける。
だが、決して表情は嫌悪のそれではない。
むしろ、官能の彩りが多く含まれている。
「いやらしいね、カルナちゃんは」
「イヤ、イヤです、いやらしいのは、ご主人様のほうです……!」
 男の名前は井戸田ヒロキ、女の名前は如月カルナ。
つい数ヶ月前に解散した国民的アイドルユニットのトリプルブッキング、
ヒロキはそのマネージャーで、カルナはメンバーという関係だった。
「ほら、もっと足を広げて……」
「ああ……イヤ……」
 そして今は、甘くて熱い、恋人同士。

「イヤじゃない、これは命令だよ」
「あ、あっ……! ご主人様……ぁ!」
 さらに、今夜に限っては、主人とそのメイドだったりする。
「そう、もっと大きく、開いて。よく見えるように」
「ああ、はあっ……もう、これ以上は……」
「ふふ……ショーツがぐっしょり濡れて、透けてるよ」
「ご、しゅじんさ……まぁ……」
 何故、そうなってしまったのか。
それは、今日の昼の出来事に、原因がある。

           ◆                          ◆

「カルナちゃん、何してるの?」
「クローゼットの整理です」
「クローゼット……」
「ええ、こっちに引っ越してくる時に、片付けないままに放り込んでしまったものがいくつかありましたから」
 ヒロキとカルナが同棲を始めたのは、TBが解散してしばらくしてからのこと。
正面きって愛し合えるようになったはいいが、いろいろと問題を抱えたままであり、
落ち着いて二人だけの時間を過ごせる余裕がなかなかなかった。
「処分しなかったんだ」
「簡単に捨てられるようなものじゃないので」
「捨てられるようなものじゃない……?」
 ヒロキはカルナの背中越しに、クローゼットから出された衣服の数々を見た。
「……なるほど」
 そして、カルナの言葉に納得した。
コケティッシュなメイド服、龍の刺繍が入ったチャイナ服等々、グラビア撮影で使ったものが、ずらりとそこに並んでいたのだ。
ブルマと体操着、スクール水着、セーラー服なんてものまである。
こういったものを、普通のゴミとして市指定の透明な袋に入れて出すのには、さすがにヒロキも抵抗を感じてしまう。
「ステージ衣装は事務所に返したんですけど……」
 撮影に使う衣装は、基本的に撮影スタジオや出版社、そして事務所の持ち物で、使い終われば当然返すことになる。
だが、時折安い生地で作られたその場限りのものもあり、これを「どうぞ」と貰ったりすることもある。
カルナが片付けているのは、そういった類のやつだった。

「普通の生活では、こういった服は着ませんしね。でも……」
「でも?」
「……不思議ですね、この衣装を見ていると、何とも言えない気持ちになってきます。アイドルから引退したっていうのに」
「カルナちゃん……」
「感傷とは、違うと思います。でも、これらは私の生活の一部でもあったわけですから……あっさりとは、捨てられません」
「……」
 簡単に、という言葉に込められたカルナのもうひとつの思いにじんわりときたヒロキは、思わずぎゅっと後ろから彼女を抱きしめた。
「きゃっ! ヒ、ヒロキさん!?」
「カルナちゃんは、優しいね」
「ヒロキさん……」
 撮影に使うような服は、カルナも言ったように、普通の生活では使わない。
メイド服やチャイナ服、巫女さんの服でスーパーに買い物に行ったりすれば、間違いなく次の日から回覧板が回ってこなくなるだろう。
オバサンがたまに着ている豹柄やスパンコールバリバリの服以上に、現実から浮きまくってしまうのだ。
まあ、一部の男性は非常に喜ぶかもしれないが。
「いいんじゃない? 無理に処分することないよ」
「……そうですね」
「それにさ、全く着ないってこともないと思うよ。外はともかく、部屋の中では」
「え?」
「また、着たらいいさ。カルナちゃんのそういった格好、また見てみたいし」
「……どういう意味です?」
「え、や、そ、その、単純にカワイイからだよ」
「……ふうん」
 カルナは抱擁からスルリと抜け出すと、ヒロキを睨みつけた。
少し頬を赤らめつつ、ジトッとした目つきで。
「それだけ、ですか?」
「はい?」
「いやらしいこと、考えてません?」
「はうっ!」
 ヒロキは仰け反った。
「い、い、いや、まさか」
 そっち系、そういう趣味の持ち主では、ヒロキはない。
だが、全く興味が無いというわけでもない。
男という生き物は実に馬鹿で愚かしいもので、
何らかのコスチュームを着たままセックスするということに、どうしても興奮を覚えてしまう。
「……考えてるんですね」
「いやそのあのどの」
 女に核心を突かれてアタフタする男程、みっともないものはない。
とある女性誌で『恋人・夫に幻滅する時』という題でアンケートを行った結果、
『(嘘や浮気がバレて)取り乱す姿を見た時』という答が上位に来た。
嘘や浮気そのものではなく、慌てるその姿に幻滅して別れたというケースも往々にしてあるのだ。
「……これを、着て、私と」
 だが、カルナが取った行動は、罵ることでも、皮肉ることでもなかった。
メイド服を両手で摘んで取り上げると、身体に合わせるように、胸の前に持っていく。
「したいんですか……?」
「う……」
 意外な展開に、ヒロキの頭は一瞬パニックに陥った。
怒鳴られる、と思っていたところが、カルナのまんざらでもなさそうな態度。
その恥じ入るようでもあり、求めているようでもあるもじもじっぷりは、とても担いでいるようには、ヒロキの目には映らなかった。
「うん……」
 ヒロキは頷いた。
脳みそではなく、心が素直に応えてしまった形だ。
「……」
「……」
 正面から向き合ったまま、二人の間に数秒ほどの時間が流れる。
そして、カルナの口から出た言葉は、またまたヒロキを混乱させるものだった。

「いい、ですよ……」
「へ?」
「その……わ、私も……」
「……」
「きょ……興味が、無いわけじゃ、ありませんから……」
 カルナは顔を下に向けた。
はしたないことを言った、という自覚があったからだ。
だが、はしたないとはいえ、それは嘘でも偽りでもない。
ヒロキの求めに応えてあげたいという思いと、単純に好奇としての性欲と。
「こ、今夜……」
「はい?」
「こ、これを着て……その……し、します……?」
「……」
「私が、メイドで……ヒロキさんが、ご、ご、ご主人様で……」
 今度は躊躇いなく、瞬時に首を縦に振るヒロキだった。

           ◆                          ◆

「いいよ……もっと、強く、腰を振って……っ」
 横になったヒロキの上に、跨っているカルナ。
所謂騎乗位というやつだ。
「もっと、激しく……!」
 ヒロキに言われるまま、カルナは腰の上下させるスピードを上げる。
ベッドのスプリングがきしむギシギシという音が、大きく、そして間隔が短くなっていく。
「カルナちゃん、すごい、なんて……いやらしいんだっ」
 ご主人様という仮初の立場に、完全にヒロキは酔ってしまっていた。
いつものセックスでは言わないような、卑猥で、強い口調の言葉を、カルナに浴びせかけていく。
「……ッ、……!」
 一方のカルナは、一言も喋らず、ヒロキの指示に従っている。
いや、喋らないのではない。
喋れないのだ。
ヒロキの命令で、スカートの端を噛んでいるから。
「すごいよ……カルナちゃんが腰を振る度に、俺のモノが出たり入ったりしてるのが、はっきり見えるよっ」
 カルナがスカートを咥えているので、繋がっている部分をヒロキは見ることが出来る。
形的には、カルナがヒロキに「見せている」格好だ。
「飛沫が、うっ、飛んで……っ、音がして、す……ごい、エロい……!」
「……ん! ……んんッ!」
 ヒロキの言葉に、カルナはぶんぶんと首を横に振る。
どうしようもないくらいに恥ずかしいのだが、同時に、どうしようもないくらいに感じてしまってもいる。
その証拠に、腰の動きを、理性でコントロール出来ない。
ヒロキの命令と、もっとキモチ良くなりたいという欲求で、彼女のココロはトロトロの蕩けっ放しだ。

「くっ……もう、イキそうだ……っ」
 あまりの激しさに、ヒロキの射精限界が近づく。
「カルナちゃん、スカートを、離して、いいよっ……!」
「……っ、ぷはぁっ、はあっ、あっ、あんっ、ご主人様あっ!」
「カルナちゃんもイッてっ、いやらしく、声、出しながらイッてくれっ」
 つきあいだしてから、何度も身体を重ねた二人だったが、
かつてここまで猛々しく交わり合ったことはなかった。
愛欲と性欲以外の全ての人間的感情が、完全に吹っ飛んでいる。
ただただひたすらに、快楽を貪り合う、淫獣の如きセックス。
「はっ、あ……! イキそ……イキま、ふっ……!」
「俺も、俺もだっ、カルナちゃん!」
「キモチ、いいですか……ッ? ごしゅ、ヒ、ヒロキさんっ!」
「ああ、すご、いいよっ」
「うれ、し、嬉しいです、私、も……い、ですっ!」
「カルナッ、カルナちゃんっ、うう……ッ!」
「ダメ、らめ、もう、私……! ヒロキさん、ヒロキさんんっ! 出して、らして、中に、くださ、出してぇ!」
 会話になっていない。
互いに、まともに喋れてすらいない。
「イクぞっ、カルナちゃんっ!」
「はいっ、私、私……も!」
 二人の口から漏れる淫らな言葉。
それは鎖を解かれた官能のほとばしりそのものだ。

「う、おうっ!」
 ヒロキは吠えた。 
そして、最後の一突きを、カルナの子宮めがけて繰り出した。



 次の日以降、二人の部屋のベランダの物干しには、
明らかに普通のものとは違う衣服―――メイド服やチャイナ服、巫女さんの服等―――が、時々干されるようになった。
普通のシャツやズボン、タオルやシーツの影に隠れるよう、隅っこの方で。
そのうち、ブルマやスクール水着、セーラー服も洗濯物の列に加わることになるだろう。
二人の愛が、激しい故に。

 
    F    I    N

ヒロキとカルナのコスチュームプレイ・その2

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

Wiki内検索

どなたでも編集できます