時の移ろいは早い。
光陰矢の如しとはよく言ったもので、
特に芸能界なんぞはその傾向が強いと言えるだろう。
誰それのギャグが流行った、と話題に上った途端、次のお笑い芸人が新しいギャグを生み出している。
誰それの歌がいい、とブームになった次の瞬間、また別のアーティストが新しい歌を発表している。
アイドルにしろ歌手にしろ芸人にしろ、
乗った小舟を必至に漕いでいるようなもので、
少しでも手を休めたらあっという間に取り残されてしまう。
生き馬の目を抜くという表現があるが、まったくその通りの世界なのだ、芸能界というところは。
 さて、TBことトリプルブッキングである。
デビューから数年、トップアイドルグループの仲間入りをしたTBであるが、つい先年をもって解散となった。
事務所と揉めたからでも、仲間うちで揉めたからでもない。
単純に、メンバーの一人である如月カルナがアイドルを引退したからだ。
もちろん、引退には理由がある。
それは―――


 杉の花粉が猛威を振るいつつある三月の下旬、
風にはまだ幾分冬の残滓があるが、空から指す太陽の光は随分と暖かいものになっている。
残り半月で年度が改まる今は、学生も社会人も大忙しの次期である。
「ふー……疲れた」
 ぽわっとした街頭が照らす道路の上を、一人の男が歩いている。
身長は日本人の平均からすれば高い方だが、特別ノッポというわけではない。
髪はやや長めで金色に染められており、それだけ見るとチャラチャラした今時の若者にも思えるが、
その顔つきはなかなか整っており、浮ついた色は全くない。
また、十分に美男子の範疇に入る目鼻立ちでもある。
「まったく、シホの奴……」
 愚痴を言い言い足を進める彼だが、就いている仕事はかなり特殊なもの。
それはすなわち、アイドルのマネージャーというもの。
「相手さん、どう思ってるかなあ……明日フォロー入れとくか」
 それもただのアイドルのではない。
有名グループだったトリプルブッキングの元メンバー、飯田シホの現マネージャーなのだ。
さらに、もともとのトリプルブッキングのマネージャーでもある。
「ただいまー」
 エレベーターを使わず、階段を上って彼は自分の家へと帰ってきた。
貧相というわけではないが、人気アイドルの世話役にしては、ちょっと質素なマンションである。
しかし、質素であれ何であれ、彼にとっては御殿に等しい。
何故ならば、そこには愛する妻が待っているからだ。
「ただいま、カルナちゃん」
「はい、ヒロキさん」
 妻の名前はカルナ、トリプルブッキングの元メンバー。
「お帰りなさい」
 そう、如月カルナ。
彼女が芸能界から引退した理由は、つまりこういうことなのだった。

 カルナはこの春、大学を無事卒業した。
そして、かねてからの予定通り、ヒロキと籍を入れた。
如月カルナから井戸田カルナになったわけだ。
結婚式はいずれ六月にするつもりでいるが、取りあえず近親者と身近な関係者だけで済まそうと二人は思っている。
「お疲れ様、ヒロキさん」
「ははは、ちょっと今日は本当に疲れたかな」
「あら、でも……」
「ん?」
「この時間に帰ってこれるんだから、まだそれほどでもないんじゃないですか?」
 時計の針は午後八時を少し回ったところを指している。
確かに、人気アイドルならまだお仕事をしていてもおかしくない時間であり、マネージャーもまた然り。
その辺りは、カルナも元アイドルだけによく把握している。
「ああ、今日は先方とCMの打ち合わせだけだったからね」
「そうなんですか」
「またシホの奴がちょっとやらかしてさ、明日も朝早くから出なきゃいけない」
「ふふふ……」
 ヒロキのネクタイを外しつつ、カルナは微笑んだ。
同棲を始めた頃は時間がかかったそれも、今では上手に解くことが出来る。
「多分、そんなところじゃないかと思いました」
「え? わかるの?」
「帰ってきた時、ちょっと眉間にシワが寄ってましたから。ああ、またシホが何か問題起こしたんだな、って」
「……さすが、御明察」
 シホは悪い娘ではない。
むしろ、元気があって明るすぎるくらいに明るい女の子だ。
ただ、よく台詞を噛むことと、エロボケ方面に全く抵抗がないことという二つの欠点を持っている。
場合によってはそれはチャームポイントにもなるのだが、
今日のような打ち合わせの場では、先方の機嫌を損ねることにも繋がるのだった。
「今度カリナガから発売されるチョコレートの新商品のCMに、シホが起用されることになったんだ」
「凄いじゃないですか」
 カリナガは製菓会社の中でも最大手で、特にチョコレート関連の商品では最大のシェアを誇っている。
そのCMに起用されるということは、一流芸能人のステータスのひとつにもなっているくらいだ。
「まぁ今日は向こうの担当と撮影スタッフ、そしてシホの顔合わせ程度の打ち合わせだったんだけど」
「で、そこでシホが何かやったんですね」
「……CMってさ、例えばチョコでも何でも、パクッと食べて一言喋って、って感じだろう?」
「そうですね」
「で、それでシホの奴、『それならこういうのはどうかな、あまりの美味しさにあチョコも溶けちゃう!』とか言い出しやがって」
 スーツを手にしたまま、カルナはちょっとずっこけた。
現役時代、彼女のそっち方面のボケっぷりには散々突っ込んできたし手も焼いたが、
そろそろ大人になってもいい頃なのに、まったく成長していないのを今更に悟った。
「まあ、シホらしいと言えばシホらしいけど」
「らしい、で済めばいいんだけどね……とりあえず、社長には連絡したから、明日一番で謝りに行くよ」
「そんなに怒ったんですか? カリナガの人」
「いや、どっちかというとあきれてた」
 だろうな、とカルナは思った。
相手の機嫌を損ねても一瞬で終わらせてしまうところは、シホの美点でもある。
何しろ悪意が無く、あっけらかんとしているのだから。
もちろん、その分身内の側からしてみればはらはらしどおしでたまったものじゃないのも確かだが。

「本当にお疲れ様でしたね」
「ああ、うん。でも……」
 ヒロキはカルナに近寄ると、ほっそりとしたその腰を引き寄せた。
カルナの身体は、現役の頃とちっとも変わっていない。
出るとことは出て、引き締まるところは引き締まっている。
TBの三人の中でも、肌の露出が多い水着などの撮影では、一番輝いていた。
まあ、シホはスレンダー系でユーリは発展途上のお子様だったから、当然と言えば当然なのだが。
「ん……」
「あ、んん……」
 ヒロキはカルナの唇に、自分のそれを重ねた。
しっとりとした、そして弾力のある感触が伝わってくる。
「……これで、ちょっとは癒されたかな」
「もう、ヒロキさん……」
 頬を染めて俯くカルナ。
この初々しさは、男にとってはたまらないものである。
「あ」
「……これは、その」
 カルナはお腹の辺りに、何かがコツンと当たるのを感じた。
抱き合っているからこそわかるのだが、丁度そこには、ヒロキの男の部分がある。
「疲れてるんじゃ、なかったんですか?」
「い、いや、あの、ええと」
 悲しい男の習性と言おうか。
疲れていようと何だろうと、性欲は常に変わりなし。
こればかりは、制御もそうそう利かないシロモノである。
「ヒロキさん」
「ん、ん?」
 カルナは一層頬そ赤くすると、小さな声で呟いた。
「……もっと、癒してあげます」
「カルナちゃん? え、え?」
 カルナの頭が、ヒロキの視界から消える。
下へ、下へとさがっていっているのだ。
そして、カルナが膝立ちになった時、彼女の目の前にあるのは。
「ズボンの上からもわかります、ヒロキさんのが……」
「う!」
 ピクリ、とヒロキは震えた。
カルナの指が、ズボン越しに己の性器に触れたからだ。
直にではないとはいえ、それはかなりの刺激をヒロキに与えるものだった。
「癒して……」
 細く、きれいな指を動かし、カルナはズボンのジッパーをゆっくり下ろしていく。
「あげます、ね」
 待ち切れない、といったばかりに飛び出してきたヒロキの分身。
それを、はむりとカルナは咥えた。
彼女自身も、待ち切れないといったふうに。

                 ◆                ◆

「ああ、いいです、ヒロキさんっ……!」
「どこがいいの? カルナちゃん」
「いや、いやです、意地悪です、ヒロキさん……」
 ベッドの上、足を大きく開かせた状態で、ヒロキはカルナの一番感じる場所を指で責めたてていた。
同棲してからこっち、数えきれない程抱いた身体なので、どこが弱いかは十分に承知している。
「くうぅ、う!」
「どんどん溢れてくるよ」
「だって、だって……!」
 眼鏡が落ちんばかりに、首を左右に振るカルナ。
その顔、鼻先や唇には、ヒロキの精液がこびりついている。
ベッドに来る前に、カルナの舌によってしたたかに放出した証だった。
「ここも、こんなに立ってて」
「ああんっ!」
 手を休めずに、ヒロキはカルナの桜色の乳首に吸いついた。
まず右、次に左、そしてまた右と、交互に両の突起を甘噛みする。
「ふ……っ、あ、あ、あっ……!」
 カルナは痙攣したように身体を震わせると、背を反らした。
上と下の同時の責めで、あっけなく達してしまったのだ。
「イッちゃった? カルナちゃん」
「はぁ、は、ぁ……はぁ……」
 ヒロキの唾液によって濡れた乳房を揺らしながら、カルナは喘ぐように息を吸い、そして吐き出す。
もともとカルナは肉体的に感じ易く、所謂我慢が利かない方だった。
それに、愛する人に弄ばれているという精神的な快楽も上乗せされ、
ヒロキが本気で責めにかかると、早い時には僅か数秒で頂点に達してしまうこともある。
「はぁ……ひどいです……」
「ん?」
「だって、恥ずかしいことばかり……」
 愛する人に苛められると燃えてしまう、という性癖は誰にだってある。
心の動きとして普通なのだ。
そして同時に、苛めると燃える、というのもこれまた普通のもの。
SかMかというのは、要はそのどちらに振り幅が大きいか、ということだ。
その意味で言えば、カルナは普段は取っつき難さを装って自分を守っている分だけ、やや被虐質なのかもしれない。
「カルナちゃんが可愛いからだよ」
「ああ……ヒロキさんのバカ……!」
 ヒロキは未だにカルナのことをちゃん付けで呼び、
またカルナもヒロキをさん付けで呼んでいる(出会った頃は「ヒロキさん」ではなく「井戸田さん」「マネージャー」だったが)。
結婚して関係が最短距離になったとは言え、なかなかその辺りは変えようと思っても変えられないものらしい。
レイコやシホなどは「アナタって呼ばれてんの〜?」とヒロキをからかうが、実際にそう呼ばれたのは両手の指で足りる程度しかない。
カルナがどうしても恥ずかしがって、続けて呼べないせいなのだが、
またそんなところもヒロキにとっては愛おしかったりする。
ヒロキもヒロキで、カルナは年下でもあることだし呼び捨てでもいいのだが、
身体を重ねる際に時折「カルナ」とちゃんを外して呼ぶこともあるぐらいで、
普段の生活ではずっと「カルナちゃん」で通している。
まあ、新婚さんらしいと言えば、新婚さんらしい二人ではあるのだった。

「ほら、エプロンの裾を口に咥えて」
「んん……な、何をさせようっていうんです……?」
「あー、いや、その」
 二人はベッドの上で睦みあっている。
あっているが、まんま素っ裸ではない。
いや、ヒロキは裸なのだが、カルナがそうでないのだ。
じゃあ何か着ているのかと言うと、これが服と言ってしまっていいかわからないもので。
「裸エプロンって、そんなに男の人は好きなんですか?」
「嫌いな人はいない……と思うよ、多分」
 そう、カルナは素肌の上にエプロンひとつだけを身に着けているのだった。
新婚さんがもっともやってみたいプレイのひとつ、裸エプロン。
それはロマンの極地とも言われ、嫁を持つ男なら誰もが夢に描くプレイである。
多分。
「や、ん……ヒロキさん、やっぱりちょっと変態さんなんじゃ……」
「あ、ははははは」
 否定はしないヒロキなのだった。
男というのは馬鹿な生き物である、間違いなく。
「ほ、ほらカルナちゃん」
「はい……」
 カルナはヒロキに怒ることはあっても基本的には逆らわない。
それは、決して無体なことはしないとヒロキを深く信頼しているからだ。
もちろん、ヒロキもカルナを不幸になぞするつもりは毛頭ない。
ベッドの上での苛め苛められなんぞは、正直カワイイものだ。
「あむ……」
 カルナは足を広げたままで、ヒロキの言葉に従ってエプロンの裾を咥えた。
そうすると、カルナのぐっしょりと濡れた秘所がヒロキに丸見えになる。
どこか、犬の降参のポーズにも似ており、ヒロキの征服欲を喚起する。
「それじゃ、いくよ」
 ヒロキは腰を上げた。
自分のいきり勃ったモノを、カルナに見せつけるように。
そしてカルナは、うっすらと頬を染めて、コクリと頷き返す。
「……くっ」
「ん、ん、んんーっ!」
 ヒロキのモノが、カルナの中にゆっくりと、だが確実に入り込んでいく。
1僉△い筍鵜仗覆爐瓦箸法▲劵蹈とカルナの脳髄の奥で快楽が湧きあがっていく。
「んふっ、はっ!」
 コツン、と最奥にヒロキが届いたのを感じ、カルナは顎を震わせた。
思わず唇が開いてしまい、離れてしまいそうになったエプロンを、必至で噛み直す。
「わかる? カルナちゃん」
「……」
 ヒロキが何を問いかけているのかを理解し、カルナはこくこくと首を小さく縦に振った。
その動きによって、両の目元からすうっと頬の上、耳の下に向かって涙が細い筋を作る。

「じゃ、動くよ……」
 わざわざ宣言するヒロキ。
もっともこれは、カルナに音声で伝えることによって更なる快楽を引きだそうという行為でもある。
「エプロン、離しちゃだめだよ」
 まず不可能であろう、とヒロキはわかっているが、
これもまたベッドの上の駆け引きだ。
こうした会話ひとつで、互いに燃え上がれるのだから、
仲睦まじい結婚生活を送るために重要っちゃあ重要ではあるのだ。



 時の移ろいは早い。
光陰矢の如しとはよく言ったもので、
特に芸能界なんぞはその傾向が強いと言えるだろう。
そして、それはヒロキとカルナの生活にも当てはまる。
二人で同棲を始めた頃はまだカルナは大学生だった。
なので、卒業して正式に籍を入れるまでは、とセックスする時は基本ヒロキは中には出さなかった。
卒業のためにはまだカルナはやらなければならないことがあり、
妊娠をしてしまえばそれどころではなくなる可能性もあったからだ。
だから、いつもコンドームを付けるか外出しだった。
いや、何度かは覚悟の上で中に出したこともあるが、それはそれ、若さ故のヤンチャと言おうか。
で、今はヒロキはゴムを付けていない。
愛を重ねる時は、常に生で、必ず一度は中に精を出す。
カルナは無事卒業し、学生から主婦になった。
なれば、もうはばかることはない。


「くっ、イクよ、カルナちゃん……っ! 中に……!」
「ん、ん、ん、んんっ、ふっ、んーっ! はあっ! は、い、はいっ、中に……お願いしま、んんっ!」
 愛の結晶の誕生、それはヒロキもカルナも等しく望むこと。
子供が生まれれば、より二人の絆は深まるだろう。
より、幸せになれるだろう。
「くっ、ううっ!」
「あ……あ、あ……!」
 その時は、結構近く訪れる可能性あり。
そう、時の移ろいは早い―――



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ヒロキとカルナのコスチュームプレイ・その2.5

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