俺の部屋に最近、猫が寄りつくようになった。
可愛くて、天然で、無邪気な――――猫が。


「ご主人様〜〜大丈夫ですかあ?」
「なあ…的山、やっぱりその……まずいよ、一応生徒と先生なんだから」
「元・生徒と先生でしょ?ご主人様」
「う……だから元教え子とこんなことになったと学校とかにバレたらだな……」
「はい、雑炊ができました♪ふーーーッ、ふーーーーッ」
小さな口をさらにすぼめて……この前一緒に行った百円コーナーで買った、
ミニ土鍋で作った雑炊をさます彼女。………正直、ものすごく可愛い。
「いや……風邪引いたのを心配してくれるのはありがたいんだけど……」
「はい、ご主人さ〜〜ま、あ〜〜〜〜ん?」
「………」
悪気は、無い。この子に悪気が無いのは……わかってる。
"ぱくッ"
「お味は……どうですかあ?」
ちょっと不安げに、俺を見上げる彼女。
だから、そんな格好でおまけに上目遣いなんてされたらだな………
「美味しいよ、すごく」
「本当ですかあ!わ〜〜〜〜い?」
無邪気に喜ぶ姿が……おまけに……その………。
「美味しいから……毎回その格好はいい加減やめてくれないか?」
「ふえ?似合ってませんかあ?ご主人様……」
きょとん、と不思議そうに小首を傾げるその仕草がまたその……ええい!
「いや、可愛いし、似合ってるよ?……でもだな、そんな格好でふたりでいるところを、
他人(主にリョーコ)に見られたら、その……恥ずかしいっていうか……」
「ネコミミにメイド服ってそんなに恥ずかしいですか?
中村先生によると今ではこのコスプレも立派な市民権を得たマジョリティであると……」
「……奴の言葉を鵜呑みにするな」
彼女……的山リンコは東が丘中学のOGで、俺の去年までの教え子だ。
この子がいつの間にか俺のマンションに通うようになって、
おまけになぜかいつもこんな姿でいるようになったのは―――
勿論のこと、俺の昔の恋人で彼女の家庭教師だった中村リョーコが原因だ。
ただ、俺にも全く責任が無いと言い切れないところが……ああ……

「まったく……こんな格好で、内申点が良くなるわけないだろう?」
「ごめんなさい、先生……」
遅刻の多い彼女が例のごとく諸悪の元凶・リョーコにだまされ、
ネコミミのコスプレで俺の機嫌を取ろうとしたところからそもそもの話は始まる。
「まあ、受験まであと少しだし、内申点を気にするなとは言わない。
だけどそれなら、遅刻しないように努力するとか、何か一芸で頑張るとかにして欲しかったな」
「はい………」
しょぼん、と落ち込む的山を見続けているうちに説教する気も失せ、
俺はなんとなく可哀想になってきていた。考えてみれば彼女はリョーコにだまされただけだ。
しかも、彼女の家が学校からかなり遠いということも事実なのだ。
「ま、説教はこれくらいにして……的山は、携帯って持ってるか?」
「あ、はい……」
的山が慌てて制服のスカートのポケットの中を探る。
俺は苦笑してぽんぽん、と彼女の頭を軽く叩いた。
「コラ。学校には持ってくるの禁止だろ?」
「あ……」
驚いて目を見開く的山。
「はは……安心しろ。俺はそんな固いことは言わないよ。
ただ、これが風紀担当の関根先生が相手ならタダじゃすまないから、気をつけろよ?」
§


「はい……」
「それはともかく……的山の、アドレスと番号を教えてくれないか?」
「え?」
「的山の家から学校まで……30分くらいだよな?女の子だから、
支度に最低20分くらいとして……50分前くらいに電話すれば、起きれるかな?」
「……それって……」
「ああ。正直、俺も的山にこれ以上遅刻して欲しいわけじゃないんだ。
今日から毎日、メールとモーニングコールで起こしてやるから、覚悟しろよ?」
「あ、ありがとうございます!先生!」
ぴょこん、と的山が頭を下げる。なかなか素直で可愛い――
このときは、ホントに……その程度だったんだ。
「でも……りょ……じゃなくて、中村や、ご両親や、クラスの奴らには絶対内緒だぞ?
的山を俺がヒイキしてるみたいに思われるからな?」
今考えれば実際ヒイキだったんだよなあ、って思うんだけど……
その時の俺は、自分が話のわかる先生になったつもりでいたからオメデタイもんだ。
「はい!小久保君にも、アヤナちゃんにも、中村先生にも……絶対言いません!」
目をキラキラさせた自分の教え子からそう言われれば、それでも悪い気はしなかった。
教師なんて、実際のところは生徒たちの喜ぶ顔が見たいからやっている、
そんな人種がほとんどのはずで。じゃなきゃ、誰がこんなシンドイ仕事するかって話だ。
「よし……じゃあ、今日はもう帰っていいよ、的山?」
「ありがとうございます……えへへ、私、こういうの憧れてたんです」
「?なにがだ?」
「モーニングコールとかこういうのって……ドラマとかである、
遠距離恋愛のカップルっぽくて……えへへ、なんだかカッコイイですよねッ!」
「?!?え、遠距離恋愛って的山?」
「じゃあ、また明日……じゃなくて、また明日の朝ですよ?先生!」
嬉しそうに両手をぶんぶんと振り回しながら帰っていく的山に、
それ以上なにも言えず……俺は、ただ彼女の帰るのを見送っていた。
このときに気づくべきだったってのはまあ、結果論だったんだろうけど。

「おはよう、的山……」
「…………」
「グッモーニン、マトヤマ?」
「…………」
「ニンツァオ、的山?」
「……今のは?」
「……やっと起きたか?中国語でおはようだよ、的山」
「はあ………さすが豊田先生ですね……じゃあ、おやすみな……」
「いいから起きろ!的山!」
「ふぇ〜〜〜〜ん!」
それからは、毎日がこんな感じだった。
正直、メンドクサイって気分も結構あったけど。繰り返していくうち、
なんとなく的山のことが可愛くなってきたっていうか……情が湧くっていうか……
迷い猫を飼うような感じになってきたのは確かだった。
そうして的山の遅刻は目に見えて減っていき―――
やがて迎えた英稜受験の日も、的山は俺のモーニングコールで目覚めたのだった。
「うう……どうしましょう……緊張して全然眠れなかったんです、先生……」
「大丈夫だって……よし、俺がおまじないを言うから、それを繰り返すんだぞ?」
「は……はい!」
「私は絶対合格する!私は絶対合格する!私は絶対合格する!これを三回繰り返すんだ!」
「はい!私は絶対合格する!私は絶対合格する!私は絶対合格する!」
「どうだ?落ち着いただろ?」
「……なんだか、大丈夫そうな気がしてきました」
「よし、その意気だぞ、的山!がんばれ!」
「はい!」
§


俺の適当極まりない「おまじない」が効いたのかは分らないが、結果、
見事英稜高校に合格した的山からはずっと感謝されっぱなしだった。
「ありがとうございます!豊田先生のおかげです!」
「はは、そんなことないさ。的山の実力だよ、本当に頑張ってたし………」
「……でも、これからは朝に先生の声が聞けなくなるかと思うと少し寂しいです」
そう言って……ちょっと悲しそうな表情になる的山。

『このとき俺は思った……この子のことを、守ってあげたい……ずっと……ずっと……』

「って勝手に人の回想シーンに入ってくるな!リョーコ!」
「はら〜〜?気に入らなかった?」
若田部の家であった合格祝いのパーティーで、
天野や若田部や濱中さんが酔いつぶれてお開きになった後
(もちろん、彼女達の世話は小久保がしてくれた)、
「まだ全然飲み足りね―――ッ!!!!、オラ、飲め!リン!セージ!」
いつもの調子でリョーコは的山と俺のアパートを襲撃しにきたのだった。
「あのなあ……一応教師という立場として言っておくけど、
お前と濱中さん以外は全員未成年なんだぞ?酒飲ますのは御法度だろうが!」
「な〜〜に、こんなこと言ってるけどね、この男は15歳だった私をナンパしたあげくに
制服姿のまま毎日パヤパヤしまくってた極悪条例違反男なんだからね、リン?」
「むむむ、昔のことをバラすな―――ッ!それに何度も言うけどあの頃は俺も高校生……」
「ふえへは、豊田先生は、けだものらったんれすれ?」
だいぶロレツが怪しくなってきた的山がにへら〜〜〜、と笑いながらとんでもないことを言う。
「おいリョーコ、的山ももうあぶな……」
"ぱたん"
俺のセリフの終わりを待たず、撃沈して的山は眠りについてしまった。
「くううぅ〜〜〜、すぅ〜〜」
気持ちよさそうに……子供のようにあどけない眠り顔で、彼女は寝息をたてていた。
「ホラ、言わんこっちゃない……ええと、毛布毛布……」
酔いつぶれた教え子の様子にも構わず、片膝をたてたまま座り込んでぐびぐび、
とビールを飲み続けているリョーコを無視して、俺は的山に毛布をかけてやった。
「ひゅーひゅー、優しいですね〜〜豊田先生は♪そのまま添い寝とイキますか?」
「……あのなあ……仮にも教え子がこんなになれば、心配するのは当然だろ?」
「ふ〜〜ん?じゃあアンタは教え子ならみんなに毎朝モーニングコールをしてあげるわけ?」
「※☆★なななッ、な!あ!さては的山……」
「勘違いしないの。私はこの子の携帯の中身をちょっとばかし見せてもらっただけ」
それでも十分プライバシーの……と、言いかけて止めた。
コイツにそんなことを言っても無駄なのは……ああ、俺が一番分ってるさ。
「にしても随分とラブラブな内容だったわねえ……
"豊田先生、今日はお別れパーティーです、会えるのを楽しみにしてます"
きゃあ〜〜、こりゃなんだかデートの待ち合わせみたいじゃなあ〜〜い?」
「……そんなことは……」
「ま、確かに真性ロリならこの子はドラフト自由枠クラスの逸材よね〜〜♪
貧乳、メガネ、童顔、それに天然という最強とも言えるコンボだものね♪」
「だから俺は立派な大人好きで、ロリコンじゃないし的山をそんな対象として見たことも……」
「そんなこと言うけどさ、セージ?私のおっぱいがおっきくなったら微妙に冷たくなったじゃん」
確かにあの頃よりはその……かなり成長した自分の胸を、ふにゅ、
と両手で寄せて上げてみせながらリョーコがそんなことを言った。
「……そんなことは関係ないよ。俺は……お前のことマジで好きだったし、
でもあの頃は俺もガキだったから……なんて言うかその……」
「……言いたいことは何となくわかるよ。私もアンタも……意地を張り合ってさ、
本音を言うことを怖がって……なんとなく別れちゃったよね、あの頃は」
―――寂しがるような、でも懐かしむような表情で―――リョーコが呟く。
「……リョーコ……」
今更ながら、俺たちは――ふたりの間に流れた、時間のことを思っていた。
§


「あれから8年かあ……長かったような、短かったような感じだね、セージ……」
「ああ……そうだな……」
「ねえ……でさあ、セージ?」
「ん?なんだ」
「マジな話さ、リンと付き合ってみる気、ない?」
「?え?」
「良い子よ、この子は。本当にね、今時珍しいくらい純粋な」
「じょ、冗談は止せよ。的山は生徒なんだぞ?」
「……気付かなかった?」
「な、なにが?」
「リンはさ、今日……失恋したんだよ?それも……3年越しの……」
「……それって……」
「あんただってやっぱり気付いてたんでしょ?マサと……リンのこと」
「……今日のアレを見ればな」

今日の卒業式が終わった後……小久保と天野は屋上でふたり、たたずんでいた。
のぞき見するみたいで気の進まなかった俺だが、
「アンタ、担任でしょうが!責任があるのよ!キチンと見届けなさい!」
というリョーコの(なぜか)怒声……というか罵声に負け、
若田部・濱中さん・的山とともに物陰からふたりの様子をうかがっていた。

「マサ君……卒業するんだね、私たち……この学校とも…もう、お別れだね……」
「ああ……そうだな」
感慨深げに、小久保が呟いた。
「若田部さんはアメリカ……アイ先生の家庭教師も終わるし、それに……
私は聖光、リンちゃんとマサ君は英稜だから……みんな離ればなれになっちゃうんだね……」
「……ミサキは前もそう言ってたけど、大丈夫だよ。俺らは幼馴染みだろ?
寂しくなったらいつでもウチに来いよ。遠慮なんか……」
「ううん……幼馴染みなだけじゃ、もう嫌なの……」
「………」
「本当は……もう気づいているでしょ?私……私、マサ君のことが好き。
ずっとずっと……小さな頃から」
「……ミサキ、俺……」
「お願い……私の恋人に、なって下さい」
無言のまま、小久保が天野に近づくと―――ぎゅっ、と彼女を抱きしめた。
「俺で……俺なんかで、本当にいいのか?」
「はい……マサ君でないと、ダメなの……」
涙を流しながら、天野が答える。
「………そうか。ミサキは、俺のお嫁さんになってくれるんだもんな?」
「!お、覚えていてくれたの?」
「……本当はさ、俺……ずっと覚えてたんだ。でも……ガキの頃のこと、
今でも覚えてるなんてさ、キモいって思われるかなって……」
「私も……私もずっと思ってた。あなたの……お嫁さんになりたいって……」
「これから……よろしくな、ミサキ?」
「はい……よろしく、お願いします」
ふたりは……穏やかに微笑みあうと……
"ちゅ……"
そのまま、口づけを交わした。
「「「「「…………」」」」」
俺たちは………胸がいっぱいになっていた。
ふたりが―――大事に、大事に育んできた恋が実ったその瞬間を見て。
「リョーコ……お前」
「セージ……」
驚いた。あの……リョーコが、からかうでもなく……笑うでもなく、泣いていた。
いや―――リョーコだけじゃ、なかった。的山も、濱中さんも、若田部も……号泣していた。
§


ただ……リョーコ以外の3人の涙はちょっと別の種類のものなんだろうな、
ってのは―――俺にも、なんとなく見ていて分った。
(さようなら……マサヒコ君……)
(……幸せにね、おふたりさん)
(……あれ?なんで私…こんなに胸が痛いの?)
そんな彼女たちの様子を、何をするでもなくボ――っと見ていた俺の袖を、
くいくい、とリョーコが引っ張った。
「セージ……」
「リョーコ……」
「行こう。ね、みんなも一緒に……お祝いしてあげよう。アイ、アヤナ、リン?わかるわね?」
「はい………」
俺たちは……立ち上がり、物陰からゆっくりと、ふたりの方へと近づいた。
「おめでとう、マサ!ミサキ!」
努めて明るく、リョーコがふたりに声をかける。
「っっえええ?中村先生?それにみんな?!!」
驚いて唇を離すと、天野が目をまん丸に見開いてこっちを見た。
「やっぱり見てたんですね?」
対照的に、小久保は俺たちを見つけるとひどく当たり前のような……
冷静な口調でそう言うと、はあ、と溜息をついた。
「!!!ま、マサ君はわかってたの?」
「いや、わかってたわけじゃないけど……この人たちのことだから、
絶対のぞき見にくるだろうなって思ってはいたっつーか……」
「コラ!マサ!人を出歯亀みたいに……」
「……今のあんたらはそれ以外のなにものでもないだろうが……」
呆れたような表情を作る小久保だが、その会話でなんとなくいつもの雰囲気に戻ってきた。
「おめでとう、マサヒコ君!これで晴れて彼女持ちだね!でもあんまりあそこを腫らすと嫌われ……」
「腫らしません」
「え?じゃあやっぱり小久保君はED……」
「それも、違う」
「?EDってなんですか?お姉様」
「日本語に訳すと勃起生涯、じゃなくて勃起障害と言われるもので、良くインポと
混同されるけど実態は勃起がストレスやプレッシャーで長続きしない症状のことを……」
「だから俺は違う!!!!ってなんでそんな妙に詳しいんだ、アンタは!」
絶妙の5人のかけあいを見ながら、俺はちょっと羨ましい思いをしていた。
多分みんな、気づいているんだろう。今―――永遠に続くように思えるこの時が、
やがて終わりに近づいているってことを。将来またみんなで集まったとしても……
今みたいな6人には戻れないってことを。
「小久保……ちょっといいか?」
「あ……すいません、豊田先生……なんかお騒がせしちゃって……」
いつものように、大人びたことを口にする小久保。まあこの中にいれば自然とそうなるのかもしれないが。
「はは、いいんだよ、そんなことは。それより……大切にしてやれよ?天野のこと……」
「……はい」
「いや、俺もそんな偉そうなこと言えないんだけどさ。リョーコと俺は……今考えると、
ものすごく……つまんないことの積み重ねでダメになったんだよな。お前らは大丈夫だろうけど、
でも……相手のことを、大切に思う気持ちだけはいつも持っていて欲しいって言うか……」
「ありがとうございます、先生。俺……全力で、ミサキを大切にしますから」
ちょっと照れくさそうに……そう言い切った小久保の、曇りのない笑顔を俺はまだ忘れられずにいる。
「よっし!それじゃこれから、アヤナんちで卒業兼マサの童貞喪失兼ミサキの処女喪失パーティーを…」
「「まだ喪失してね――――ッ!」」
ふたりの絶叫で、その場は笑いと涙の中で終わり……そしてその後は、今のとおりだ。

「だからさあ……この子はね、年上のしっかりした男が良いと思うのよ。頼りがいのある……」
「それで、なんで俺が的山と付き合うことにならにゃ……」
「アンタ、リンのことどう思ってる?」
「……いきなりストレートに言われても……今はただ、教え子としか……」
§


「でも、もう教え子じゃないじゃん?一人の女の子としてどう思うかって聞いてるの」
「……可愛いけど、ちょっと危なっかしいっていうか……まあ、そういうところはあるな」
「でしょ?しっかりフォローしてくれる人間が必要なのよ、この子には……。
本当なら、それこそマサみたいのが最適だったんだけど……」
「………それを言うのは酷だろ?」
「ウン……だからさ、アンタはどうかって聞いてるの」
「いや、でも、なんで俺なんだって……」
「……馬鹿だよね、セージは」
ぐび、と残り少なくなった缶ビールを一口で飲みほすと、ぷはあと酒臭い息を吐きながらリョーコが言った。
「……どこが馬鹿なんだ、俺はごくごく一般的なことを……」
「元カレだから、あんたのことを良く分ってるから……大切なこの子のことを、任せられるんじゃん」
「………」
「それに、リンもアンタのことは満更でもない感じだし……だからさ、なんて言うか……
もっと気軽にさ、この子が本物の恋愛をするまでの練習に付き合うと思ってくれれば良いのよ。
その間、恋愛ごっこをするっていうか……そういう、リハビリ期間だとでも思ってくれれば良いの。
それくらい、可愛い教え子のためならできないわけないでしょ、セージ?」
「……いや、でもな、リョーコ……」
「デモもストもないッ!わかった?セージ!!!」
「………はあ……(そのたとえもどうかと思うけど)」
結局、その日はリョーコの奴に押し切られたものの……まだ俺は、
酒の席での冗談程度にしか思っていなかった。そう、あの日までは……

それから1週間も経たない頃だったろう。春休みとは言え、サッカー部の連中と
練習や打ち合わせなど、それなりに忙しかった俺は6時くらいにアパートに戻ってきた。
(……?明るい?またリョーコの奴、勝手に……)
そう思いながら、一人でいるよりは寂しくないってのは本音だった。
一人暮らしってのは慣れれば楽だけど、たまには(それこそリョーコでも)人恋しくなることもあるんだ。
§
「リョーコ!またお前勝手に……え?」
ただし、俺がドアを開けてそこで見たのは……
「お帰りなさいませ♪ご主人さまあ?」
……今日と同じく、ネコミミ・メイド服の的山だったというわけだ。
「なななななんあなッ、まままま、的山!お前、どうやって」
「お疲れですよね♪お風呂とお夕食、どちらに……」
「だから、どうやって入ったんだ?」
「中村先生から、合い鍵と一緒に引き継いだんです」
「へ?」
「『アンタに全てを授けた。これからは私に代わってセージの面倒を見るの!手とり足とり腰とり』
というのが中村先生のお言葉です」
「あああああああの野郎!」
「ちなみに腰をサンバのようにダイナミックに振るフリ付きでした。お望みでしたら今ココで再現を……」
「……それはいい……」
ぐったりとしながら、俺の鼻はキッチンの方から立ちのぼる旨そうな匂いを嗅ぎつけ……
腹は、くぅ、と情けない音を鳴らしていた。
「あらあら、お腹がお空きですね♪今日は先生の大好きなビーフシチューですよ♪」
「あのなあ……的山……ありがたいけどさ、その……」
「ではでは、上着を脱いで下さい……私がかけておきますので……」
完璧に的山の、というかリョーコのペースだった。
上着を脱いで渡すと、仕方なくリビングで彼女が来るのを待った。
「はい、どうぞ……お口に合うか少し不安ですけど……」
おおぶりの深皿に、たっぷりのビーフシチューを盛りつけた彼女が現れた。
「あのな、的山……こういうのは……」
「はい、ご主人様、あ〜〜〜〜〜ん♪」
「…………」
俺は、諦めてそれをありがたく口にした。……旨かった。ものすごく。
§


「!旨いな、へえ……料理上手なんだな、的山」
この日は疲れ切っていたし、適当にコンビニ弁当でも食べて寝るつもりだった。
彼女の手料理が、涙がでるほど――ってのはオオゲサだけど、ありがたかったのは事実だ。
「本当ですかぁ♪嬉しいですぅ〜〜〜♪」
前にも言ったが、本当に邪気の無い……子供のように、可愛い笑顔なんだよな。
「で、でもな、的山。こういうのはこれっきりにして……」
「大丈夫です!」
「?な、なにが?」
「絶対に言いませんから!ご主人様のお部屋に、あんなにいっぱいエッチな本やDVDがあったことは」
「&G'%#$なななな、ま、的山、お前!!!」
「一人暮らしの男の人は掃除もあんまりなさらないのですね……ホコリだらけでしたよ?
それに、お布団も全然干してないから湿っぽくて……」
俺は、冷静に思い出していた。……そうだ、いつでも使いやすいように……なおかつ、
リョーコが来ても漁られないように、そういったエログッズの類はベッドの下に隠しておいたんだ。
布団を干したってことは……それを、バッチリ見つけたってことで……
「ああああ、あのな、的山。こういうのは、その……男の病気みたいな、もので……」
「大丈夫です、誰にも言いません!安心して下さい!」
力強く彼女が言えば言うほど、俺は落ち込んでいった。これは……無意識の脅迫だ。
悪気が無いのは分ってるけど、この雰囲気で部屋に来るなって言える男なんていないだろう?
「ああ、でもな、その……俺のこと、気にしてくれるのは嬉しいけど、
的山だって高校が始まれば忙しいだろうし……その、あんまりその……」
「ですので、中村先生からは毎週土曜日、ご主人様の部屋の片づけ並びに
お食事の準備をするようにと言付かっております。花嫁修業だと思って頑張りなさい、とのことです」
「………」
完全に、ノックダウン状態だった。リョーコの奴は俺の予想以上に、
周到で綿密な計画をこの日のためにたてていたに違いない。

それ以来、毎週のように……土曜になると、的山は俺の部屋に来て、
掃除や洗濯やらの家事全般を……それこそ、メイドのようにかいがいしくしてくれていった。
そんな彼女のことを、可愛らしく思いこそすれ、傷つけようなんて……本当に……本当に俺は、
これっぽっちも思っていなかったんだ。あの日が―――くるまでは。

その日、俺はサッカー部の試合があって……その後も部員やPTAの人たちと
打ち合わせなんかがあって、結局部屋に戻ってきたのは、8時過ぎだったはずだ。
的山が帰っているか……まだ、俺のことを待っているのかは半々くらいだろうな、と思っていた。
(明るい……まだ帰ってなかったのか、的山の奴……)
俺の世話を焼いてくれるのはありがたいけど、それでも高校生の女の子がこんな時間まで
(それも元担任である俺という)男の部屋にいる、ってのは対外的にもマズイだろう。
もういいから今日はさっさと帰りなさい、と言うつもりで……俺は、部屋のドアを開けた。
"ガチャ"
「的山……もう夜だぞ、そろそろ……」
だけど……部屋の中には、彼女の気配らしいものが無かった。
「……?」
嫌な予感のした俺は――もしも、ってことがあるからな――
ちょっと焦りながら靴を脱ぐと、急いで部屋の中に入った。
「的山?まと……」
キッチンには、いなかった。慌てて彼女の姿を探したんだが……
「くぅ〜〜、すぅ〜〜」
「………はあ…………」
なんのことは無かった。家事やら料理の準備やらで疲れたんだろう、
ベッドの中で気持ち良さそうに寝息をたてている的山をすぐに見つけた。
「……まったく、人騒がせな……」
そう言いながら、俺は彼女の寝顔に見入っていた。……ぶっちゃけ、むちゃくちゃ可愛い寝顔だった。
「ふぅん……むにゃ……」
(ああ……起こしちゃったかな?)
§


ちょっとむずかるように……的山が首をひねると、寝言を言い始めた。
「……くすん……やだ……こくぼ……くん……」
(的山………)
彼女は―――泣いていた。まだ、小久保への感情を――想いを、引きずっていた。
そのことに……ようやく、俺は気づいた。でもそれ以上に……
俺の心の中に、今まで感じたことのない、感情がわき上がってきていた。
――――それは、小久保への憎しみだった。それも、純度100%の、憎しみだった。
「ふにゃ、あ……あれ?……あ、ご主人様、すいません私……」
目を覚ました彼女の寝ぼけた顔を見て……その感情は、止むどころか、
さらに燃えさかるように俺の中で広がっていった。
"……ちゅ"
「ご、ごしゅじんさま?」
俺は何も言わず、強引に彼女の両腕をつかむと、唇を塞いだ。
「ん…んぅ……」
驚いて目を見開きながら――彼女は、俺の為すがままだった。
「ん……んはぁッ、どうしたんですか?い、いきなり……」
「……男の部屋に……来て」
「……?」
「こんな風に……無防備でいる、ってのは……お前だって覚悟してるんだろ?的山」
10歳も年下の……オマケに、元教え子だった小久保に……俺は、嫉妬していた。
情けないくらい、腹立たしかった。俺は、そのまま小柄な彼女のからだを押し倒した。
「せんせい……」
怯えた子猫のように……つぶらな瞳が、メガネのレンズの向こうから、俺を見ていた。
そのいたいけな表情が……逆に、俺の劣情を刺激した。もう、止まらなかった。
"するッ……バリッ……"
メイド服のスカートの中へ、無理矢理右手を突っ込む。
ストッキングを破ると、そのままショーツの上から荒々しく的山の恥丘を嬲った。
「イヤ……いや、怖いです……せんせい」
「……」
拒絶の言葉を口にしていた的山の唇をもう一回無言のまま塞ぐと、
左手で服の上から彼女の胸を揉んだ。気にかけているだけあって、薄い胸だったけど……
それでも、女性らしく、柔らかな感触がそこからは伝ってきた。
「せんせい……どうしたんですか、いきなり……」
なおもそう言う彼女を無視して、俺は服を脱がしにかかっていた。
メイド服なんて結局コスプレ用の衣装だから、ヒラヒラしてる割には案外脱がしやすいもんだった。
「いや……止めてください……」
弱々しく抵抗する彼女だったが、男の腕力に敵うはずもなかった。
あっという間に下着姿を俺の目の前に晒け出していた。
小さな胸には可愛らしい真っ白なブラ。白地に子供っぽい小さなキャラクターがプリントされたショーツ。
どちらも的山の汚れのないからだを包むのには申し分のないものだった。
「イヤです……こんな貧弱なからだ……見られたくない」
ブラを両手で隠して涙声で抗議する彼女だが、俺は既に彼女の下着を剥ぐことしか考えられなかった。
"ぱち……するッ"
強引に彼女の手をどかすと、ブラのホックを外し、それを剥ぎとった。
手首を取って両手を固定させ、そのままショーツをゆっくりと膝の上くらいのところまで脱がした。
「いや……やです……見ないで……」
"ごくり"
俺は、思わず唾を飲み込んでいた。清らかな……そう表現するしかない、裸体だった。
生まれてから一度も日に焼けたこともないような、真っ白な肌。
小さな胸の膨らみの上には、淡いピンク色の乳首がのっていた。
ぴっちりと閉じられた太腿の間の裂け目には、ほわほわと薄い陰毛が申し訳程度に生えていた。
「止めて下さい……ひどいです……せんせい」
「的山……お前まだ、小久保が忘れられないんだろう?」
「!……それは……」
「俺が……忘れさせてやるよ」
§


「で、でも……」
「じゃないと、的山はいつまでたってもそのままだぞ?俺とこんな恋愛ごっこを続けるだけで良いのか?」
「………」
的山は、涙を流しながら……俺の言葉に反論も出来ずに黙っていた。
自分が理不尽なことを言っているってことくらい、分っていた。でもそのときは―――
彼女を犯すことしか考えられなかった。的山のことは……大切な、教え子だと思っていた。
だけど……大切なものだからこそ、裏切られたような、ひどく馬鹿にされたような気がしていた。
「的山……」
"ちゅ…"
抵抗を止めた彼女の右の乳首に、キスをした。甘い……乳飲み子みたいな香りがした。
「あッ……」
ぴくん、と的山がからだを震わせる。可愛らしく頬を染めて反応する彼女に、俺は興奮していた。
"つるッ……ちゅぅ〜〜"
舌先で乳首を転がし、その周りを優しく舐め回した。
小振りな乳首が、桜んぼみたいなピンク色に色づいてぷっくりと勃起した。
「あん……やッ……」
顔を左右にふって俺の舌撫からの快感に耐えようとする的山だが、
そんな仕草が俺の欲情にさらに火を注いでいた。
"すッ……"
両の太腿の間に、強引に左手を滑り込ませる。ほとんど無毛に近いそこには、
指先からでも分るくらい――狭く、ちんまりとした裂け目があった。
「ん……あ……」
くりくり、と俺が裂け目の入り口を擦ると、敏感に反応して声を漏らす。
まだ全然濡れてなかったけど……そこは、思ったより滑らかに俺の中指を受け入れ、呑み込んだ。
"つ……きゅ"
思っていたとおり、小さく、狭い裂け目だった。くにゅくにゅ、と俺の指を締め付けてきた。
「ふぁ……くぁん……」
中をくすぐるみたいにしていじると、的山がそれに耐えるようにしてシーツをつかみ、唇を噛んだ。
「どう?的山……痛い?」
「痛くない……でも、やだ……止めて……」
なおも懇願する的山だが、俺はそのまま舌先で乳首を愛し、彼女の中を指でかき回した。
"ちゅッ……くるぅ〜〜〜、くっちゅ、ぷちゅ"
徐々に……徐々に、彼女のからだから強ばりがほぐれ、中が潤ってきているのが分った。
少しずつだけど、湿った音がそこから漏れ始めていた。
「なあ……的山……」
「………」
俺は、舌と指の動きをいったん止めると、横を向いて涙をこらえるような表情の的山をのぞきこんだ。
「的山は……俺のことが嫌いか?」
「嫌いじゃ……ないです。でも………こんな無理矢理なのは……」
「俺は……はっきり分ったんだ。的山は……まだ小久保のことが好きだってことを。
そのとき、誰にも……お前を、渡したくないって思った。俺は思っていた以上に、お前に惚れてたんだ」
「……ウソ……」
「ウソじゃない。だから……お願いだ、的山……」
"ちゅッ"
もう一回、つん、と尖った乳首を口に含む。
「あ……あん……」
「俺の……ものになってくれ、的山……」
的山は……無言のままだった。俺のことを……受け入れてくれたのかは分らないけど、
もう拒絶の言葉を口にすることもなく……抵抗することもなかった。
俺は、ベルトを外し、スラックスを下ろしてトランクスの中から既に勃起していたモノを取り出した。
「………」
目を閉じて……的山は、からだを震わせていた。
これからなにをされるのか……多分、わかっていたんだろう。
「初めてだから……痛いと思うけど……我慢してくれ。できるだけ……ゆっくり、優しくするから……」
多分、ほとんどの男がこういうときに口にする、ありふれたセリフしか考えつかなかった。
§

迷子の子猫 後編

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