最終更新:ID:FaJTEtB67A 2009年07月26日(日) 00:55:12履歴
前
→夕焼けと(梓視点)
→夕焼けと(澪視点)
「私、気になる人がいるんだ。」
「澪は今、恋をしているよ。」
澪先輩の言葉と律先輩の言葉。
これが頭にぐるぐる回って。
律先輩のどこか諦めたような表情が忘れられなくて。
窓から夜空を見上げる。
あの夜の星空には遠く及ばないけど、それでもそこにはあの日見た星が輝いているんだろうな。
あの夜と違うのは星だけじゃない。
澪先輩が隣にいないこと。
そして、私の気持ち。
澪先輩。
先輩は誰のことを想っているんですか?
私は、律先輩みたいに澪先輩の幸せを喜んであげられるのかな…?
*
翌日、私は学校を休んだ。
今日、澪先輩と顔を合わせられる自信がなかった。
体調が悪いことにして、気持ちの整理をしようと思った。
この気持ちに鍵をかけてしまいこもうって。
だけど、できるわけなかった。
そんなに簡単に割り切れる気持ちなら、最初から持たないよ。
私は枕に顔を埋めて泣いたんだ。
泣いてもしょうがないって分かってるのに、止まらなかったんだ。
**
昨日、律に家まで送ってもらってから考えずにはいられなかった。
梓はあの夜なんて言った?
まっすぐな瞳で言ったじゃないか。
私の好きな人がいるかという問い掛けに、いますよって。
希望を見つけたって。
それを思うと眠れなくなった。
この気持ちに気付いた瞬間に終わっちゃったのかな…?
朝、私にしては珍しく寝坊した。
さらに珍しいことに律が迎えに来ていた。
表情には出さないようにしてるけど、きっと昨日の私を見て心配していたんだろうな。
「澪、おはよ!律様が迎えに来てやったぞ!」
律の笑顔を見て少し安心する。
「おはよ、律。」
***
あたしは誰よりも澪を見てきた。
だから澪のいろんな顔を知ってる。
笑ってる顔、怒った顔、悲しむ顔…。
いろんな表情を見てきたんだ。
…だから、最近の澪に困惑したんだ。
笑ってるわけでも、怒ってるわけでも、泣いてるわけでもないような、澪の表情に。
困惑して、胸がギュッてなった。
…あたしは澪が好きだ。
いつこの感情が芽生えたのかはわからないけど、あたしは澪が大切で、失いたくなくて。
鈍感な澪があたしの気持ちに気付くことは、きっとない。
だけど、自分からこの気持ちを伝えようとは思わない。
好きだから、ずっと一緒だったから…分かってるんだよ。
澪はそんな風にあたしを見てないってことは。
澪のあの表情の原因はあたしじゃないってことは。
あの日の放課後、澪に何かあるんだと思って、あたしも後から探したんだ。
そしたら1年生の教室の前に佇む梓がいた。
不意に耳に飛び込んできた声。
「私、気になる人がいるんだ。」
カバンが肩からずり落ちた。
分かってたことなのに、澪の口からそれが出ると動揺せずにはいられなかった。
慌ててカバンを拾って梓の隣に座る。
廊下は夕焼けで染まっていて、だけどそのオレンジに隠しきれないくらい、梓の頬は染まっていた。
…気付いていた。
梓が澪のことをただの先輩以上に見てるってことに。
尊敬とかの感情じゃないってことに。
****
澪の方を見るといつも、視線を感じていた。
悲しく、苦しい視線を。
確信したのは合宿の最終日だった。
夜中にふと目が覚めたんだ。
そしたら、部屋に澪と梓の姿はなくて。
トイレかな?
って思って、トイレに向かったんだ。
そして、見ちゃったんだ。
「手、つないでくれないか?」
いつも澪の手を引くのはあたしだった。
それが当たり前だった。
だけど、今、澪の隣で手を繋いでるのは梓だ。
悪いって言うのは分かってた。
だけど、あたしは二人の後をつけて行ったんだ。
砂浜に腰をおろす二人。
重なり合う手。
思わず目を背けた。
そんなあたしに波の音とともに聞こえた会話。
「律先輩のことどう思っていますか?」
時間が止まった気がした。
その時のあたしには、他の音は聞こえなかった。
「友達として以外で見たことないよ!」
…そうだよな。
やっぱり、そうだよな。
涙が溢れて、零れ落ちそうになって、あたしは空を見上げたんだ。
そこには沢山の星が瞬いていて。
届かない、綺麗な星空に澪を想ってまた泣いたんだ。
*****
「それって田井中先輩ですか?」
教室から澪じゃない声が聞こえて。
梓の顔が強張って、立ち上がった。
走り出そうとする梓をあたしは止めていた。
なんで、そんなことしたのか分からない。
そのまま腕をとってあたしの教室に梓を連れてった。
幸い教室には誰もいなくて。
二人きりだった。
あたしは、わかっていたんだ。
澪の気になる人のこと。
梓の好きな人のこと。
あたしは澪のことが好きだ。
それはきっと一生変わらない。
そして、あたしは澪のことを好きだから。
澪には幸せでいてほしいから。
だから…。
******
「なぁ、律。」
他でもない律だから、だから相談したんだ。
大切な親友だから。
「ん?どうした?」
「…梓には好きな人がいるみたいなんだ。」
なんとなく律から目をそらした。
「…で?」
「え?」
私は顔をあげて律の顔を見つめた。
どういう意味だか分らなかった。
「んぅ…。それで、澪はどうしたいんだよ?」
私はどうしたい…?
「んだからっ!梓には好きな人がいるかもしれない。で、澪はどうしたいんだ?」
どうしたいって、どういうこと…?
私の思考はそこで止まって、なにも考えられなくて。
なにも言葉が出なかった。
律がため息をついた気がする。
「澪は、梓に好きな人がいるから諦めるのか?それとも…?」
それともの後を律は言わなかった。
だけど、どういう意味だかわかった。
でも、私はわからなかった。
私は、梓のことが好きだ。
梓は誰のことが好きなのかな?
「なぁ、澪。」
律が少し先を歩きながら呟いた。
「ん?」
「例えばだぞ!例えば…。あたしが澪のことを、恋愛感情的に好きだとしよう。」
「んな!?」
いきなりのたとえ話に私は驚きの声を上げた。
その私に律はにぃって笑う。
「例えばだよ!例えば!んで、話を戻すぞ。あたしは澪を好きだけど、澪は梓のことが好きだ。そしたらあたしはどうすると思う?」
いきなりの問いかけに私は答えられなかった。
「はい、タイムアップ〜。あたしはきっと、告白しないと思う。」
「な、なんで?」
「好きだから、かな?澪が幸せならそれでいいし。親友としてそばにいられるしな!」
律の妙にリアルなたとえ話は私の心に強く残った。
律とは幼馴染で親友。
じゃあ、梓とは?
私と梓は同じ部活の先輩後輩という関係でしかない。
私が卒業したらめったに会えなくなるだろう。
…そんなの嫌だ!
「律。私、梓にこの気持ち伝えたい。」
覚悟は決まった。
律が優しく微笑んだ気がした。
*******
また私が1番乗りか。
放課後、部室に向かうと昨日と同じでまだ誰も来てなかった。
気持ちを伝えるって決めたけど、どうやって伝えればいいんだろう?
朝から今まで頭はこれでいっぱいだった。
怖くないって言ったら嘘になるけど。
伝えたかった。
止まらなくなった。
昨日の子と同じことを言ってるな。
それに気付いて苦笑する。
でも、今なら分かる。
結局、私は気持ちに気付いたら、止まらないんだ。
「おぉ澪。今日も1番乗りかぁ?」
律がいつも通りに振舞ってくれることに感謝する。
律が支えてくれてるから、私もいつも通りを振舞える。
「あれ?唯は?」
今入ってきたのは律とムギの二人だけだった。
「あぁ、唯ちゃんは今日、日直で遅くなるのよ。」
ムギはそう答えるとお茶とお菓子の用意を始めた。
********
「おっくれてごめ〜ん!」
少し経ってから唯が部室に入ってきた。
「日直お疲れさま。」
梓はまだ現れない。
梓だって何か用事があって遅れてるのかもしれないのに、私は不安だった。
「あ!」
荷物を置いてお菓子に手を伸ばす唯が何か思い出したように呟いた。
「さっきそこで憂と会ったんだけど、今日あずにゃん、学校休んでるみたい。」
え?
昨日そんな様子なかったよ、ね。
心配と不安と、いろんな感情に肩が震えた。
「だからさっ、今日みんなでお見舞いに行こうよぉ。」
「…そうだな。」
私は唯の提案に同意した。
だけど、本当は1人で行きたかった。
「あっ!」
声を発したのは律だった。
「そういえば、澪っ!今日は用事があるんじゃなかったっけ!?」
時計を見ながら律が言った。
今日、用事なんてあったっけ?
「み〜おっ!早く行かないとまずいんじゃないかぁ!?」
律の言ってることがわからなくて、私は律の顔を見る。
口調はいつもの律だったけど、表情は真剣そのものだった。
そしてやっと理解した。
…ありがと、律。
「そ、そうだった!律、思い出させてくれてありがと!」
私はすぐに荷物を準備する。
「みんな、ごめん!そういうわけだから帰るね。」
みんなに向かってそう言って部室のドアに手をかける。
出る前に一度振り向いた。
「律!本当にありがと!」
律がウィンクをした。
頑張れって背中を押してもらってる気がした。
*********
さんざん泣いて、私はいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
目を覚まして時計を見ると、もう部活の時間をさしていた。
メールしておいた方がいいかな?
携帯電話に手を伸ばす。
…誰にメールすればいいんだろう?
アドレス帳に並ぶ先輩たちの名前。
澪先輩…。
その名前を見るだけで涙が出るなんて。
さっきもあんなに泣いたのに…。
鍵をかけることも抑え込むことももうできない。
私は澪先輩のことが好きなんだ。
コンコン
ノックの音がした。
お母さんが帰ってきたのかもしれない。
こんな顔見せたくない。
私は布団にもぐりこんで寝たふりをすることにした。
ガチャ
ドアが開いて誰かが部屋に入ってくる気配がした。
お母さんだとしたらおかしいな。
入ってきた人はなにも話しかけてこない。
私は不審感を抱いた。
どうしよう…?
「…梓。」
今1番会いたくないけど、会いたい人。
誰よりも愛おしい、その人だった。
「寝てるか。」
澪先輩がそう呟いた。
そして布団の中に外の空気が入ってきた。
右手に、温もりを感じた。
「梓。私さ…。」
**********
梓のお母さんに案内されて、梓の部屋の前に立つ。
梓のお母さんはこれから用事があるらしく、
「わざわざ来ていただいたところ悪いのですが、急用がありまして、しばらくの間、梓をよろしくお願いします」
と言って出て行ってしまった。
ドアの向こうに梓がいる。
それだけで胸が高鳴る。
これからのことを思うともっと、もっと。
深呼吸をしてノックをする。
…応答はない。
少し迷ったけど入ることにした。
ドアノブを回す。
心臓がバクバクいってる。
「…梓。」
梓は布団にくるまって眠っているようだった。
「寝てるか。」
梓のベットの傍に腰をおろした。
梓が寝ていることに少し安心感を覚えた。
寝てるなら…。
これくらいしてもいいよね。
私はそっと手を布団の中にいれ、梓の手を握った。
梓の手はやっぱり小さくて。
少し冷たかった。
「梓。私さ…。」
やっぱり私は弱いのかもしれない。
これじゃ、ただの独り言だよ。
「好きな人ができたんだ。」
これはただの独り言。
だけど、それでも、言いたかったんだ。
「その人には好きな人がいるんだ。」
小さな可能性を信じたかった。
「だけど、私、もう止められないんだ。」
溢れ出す感情。
「…この小さな手をいつまでも握っていたい。」
ずっと、いつまでも一緒にいたいから。
「私は、梓が…。梓のことが好きだ。」
握っている手に少し力を込めた。
言うには言った。
だけど、これじゃただの自己満足。
梓は寝ていたんだから仕方ない。
そんな言い訳を自分にして、立ち上がろうと梓の手を離そうとした。
だけどできなかった。
私の手を強く握る力があったから。
「…澪先輩。」
振り向くと、涙を流す梓の姿があった。
***********
右手に感じる温もり。
それが澪先輩の手だってことはすぐにわかった。
大きくて温かい、私に安心感を与えてくれる。
そして、澪先輩から紡がれた言葉。
夢を見ているのかと思った。
自分に都合のいい夢を。
私の手を握る力が弱くなるのを感じた。
夢にしたくない。
咄嗟に握っていた。
大好きな先輩の手を。
夢じゃないんだよね。
「澪先輩。」
布団から顔を出し、愛しいその人の名前を呼んだ。
振り返った先輩には驚きの表情が滲んでいた。
私も伝えなきゃ。
先輩に、私の想いを。
今流れてる涙はきっとさっきまでのものとは違う。
「澪、先輩…。」
もう一度呼ぶ。
まっすぐに先輩の瞳を見つめて。
「わ、私も…。」
夜眠れなくなるくらいに。
貴女の一挙一動にドキドキするくらいに。
「私も、澪先輩のことが好きです。」
澪先輩の瞳に涙が滲んでみえた。
手に少し力を込める。
「大好きです。」
いつまでも一緒にいたい。
貴女の隣を。
こうやって手を繋いで、離れないように。
「…梓。」
澪先輩は私の手をまた握り返してくれた。
そして二人で泣いたんだ。
今、流した涙ほど嬉しい涙はないと思えるくらい。
「先輩。…離しませんからね。」
お互いに強く握り合った手にまた、ちょっぴり力を込めて呟いた。
−これから私は貴女の隣をずっと歩いていきます。
こうやって手を繋いで。離れないように。
************
あたしは窓の外に目をやった。
これでよかったんだ。
澪が幸せならそれでいいんだ。
窓の外に想いを馳せて、あたしは紅茶を口に含んだ。
なんでだろ?
たくさん砂糖を入れたはずなのに、その紅茶は少ししょっぱかった。
目を部室内に戻して、カップを置く。
あたしは笑って言うんだ。
「もう少し練習してこうぜ!」
おしまい。
まとめです。
→星空と(梓視点)
→星空と(澪視点)
→夕焼けと(梓視点)
→夕焼けと(澪視点)
――――あとがきのようなもの。
やっと終わりました。改行と視点切り替えが多くてすいません。念のため上から、梓梓澪律律律澪澪澪梓澪梓律です。
一応あずにゃんと澪は両想いになったわけなんですが…。
りっちゃんにごめんと謝りたい気持ちでいっぱいです。大人なりっちゃんということにorz
文才が欲しいです。切実に…orz
最後に、最後まで読んでくださった方、またどれか1つでも読んでくださった方がおりましたら心よりお礼申し上げます。
このような駄文・長文にお付き合いいただき本当にありがとうございました。
→夕焼けと(梓視点)
→夕焼けと(澪視点)
「私、気になる人がいるんだ。」
「澪は今、恋をしているよ。」
澪先輩の言葉と律先輩の言葉。
これが頭にぐるぐる回って。
律先輩のどこか諦めたような表情が忘れられなくて。
窓から夜空を見上げる。
あの夜の星空には遠く及ばないけど、それでもそこにはあの日見た星が輝いているんだろうな。
あの夜と違うのは星だけじゃない。
澪先輩が隣にいないこと。
そして、私の気持ち。
澪先輩。
先輩は誰のことを想っているんですか?
私は、律先輩みたいに澪先輩の幸せを喜んであげられるのかな…?
*
翌日、私は学校を休んだ。
今日、澪先輩と顔を合わせられる自信がなかった。
体調が悪いことにして、気持ちの整理をしようと思った。
この気持ちに鍵をかけてしまいこもうって。
だけど、できるわけなかった。
そんなに簡単に割り切れる気持ちなら、最初から持たないよ。
私は枕に顔を埋めて泣いたんだ。
泣いてもしょうがないって分かってるのに、止まらなかったんだ。
**
昨日、律に家まで送ってもらってから考えずにはいられなかった。
梓はあの夜なんて言った?
まっすぐな瞳で言ったじゃないか。
私の好きな人がいるかという問い掛けに、いますよって。
希望を見つけたって。
それを思うと眠れなくなった。
この気持ちに気付いた瞬間に終わっちゃったのかな…?
朝、私にしては珍しく寝坊した。
さらに珍しいことに律が迎えに来ていた。
表情には出さないようにしてるけど、きっと昨日の私を見て心配していたんだろうな。
「澪、おはよ!律様が迎えに来てやったぞ!」
律の笑顔を見て少し安心する。
「おはよ、律。」
***
あたしは誰よりも澪を見てきた。
だから澪のいろんな顔を知ってる。
笑ってる顔、怒った顔、悲しむ顔…。
いろんな表情を見てきたんだ。
…だから、最近の澪に困惑したんだ。
笑ってるわけでも、怒ってるわけでも、泣いてるわけでもないような、澪の表情に。
困惑して、胸がギュッてなった。
…あたしは澪が好きだ。
いつこの感情が芽生えたのかはわからないけど、あたしは澪が大切で、失いたくなくて。
鈍感な澪があたしの気持ちに気付くことは、きっとない。
だけど、自分からこの気持ちを伝えようとは思わない。
好きだから、ずっと一緒だったから…分かってるんだよ。
澪はそんな風にあたしを見てないってことは。
澪のあの表情の原因はあたしじゃないってことは。
あの日の放課後、澪に何かあるんだと思って、あたしも後から探したんだ。
そしたら1年生の教室の前に佇む梓がいた。
不意に耳に飛び込んできた声。
「私、気になる人がいるんだ。」
カバンが肩からずり落ちた。
分かってたことなのに、澪の口からそれが出ると動揺せずにはいられなかった。
慌ててカバンを拾って梓の隣に座る。
廊下は夕焼けで染まっていて、だけどそのオレンジに隠しきれないくらい、梓の頬は染まっていた。
…気付いていた。
梓が澪のことをただの先輩以上に見てるってことに。
尊敬とかの感情じゃないってことに。
****
澪の方を見るといつも、視線を感じていた。
悲しく、苦しい視線を。
確信したのは合宿の最終日だった。
夜中にふと目が覚めたんだ。
そしたら、部屋に澪と梓の姿はなくて。
トイレかな?
って思って、トイレに向かったんだ。
そして、見ちゃったんだ。
「手、つないでくれないか?」
いつも澪の手を引くのはあたしだった。
それが当たり前だった。
だけど、今、澪の隣で手を繋いでるのは梓だ。
悪いって言うのは分かってた。
だけど、あたしは二人の後をつけて行ったんだ。
砂浜に腰をおろす二人。
重なり合う手。
思わず目を背けた。
そんなあたしに波の音とともに聞こえた会話。
「律先輩のことどう思っていますか?」
時間が止まった気がした。
その時のあたしには、他の音は聞こえなかった。
「友達として以外で見たことないよ!」
…そうだよな。
やっぱり、そうだよな。
涙が溢れて、零れ落ちそうになって、あたしは空を見上げたんだ。
そこには沢山の星が瞬いていて。
届かない、綺麗な星空に澪を想ってまた泣いたんだ。
*****
「それって田井中先輩ですか?」
教室から澪じゃない声が聞こえて。
梓の顔が強張って、立ち上がった。
走り出そうとする梓をあたしは止めていた。
なんで、そんなことしたのか分からない。
そのまま腕をとってあたしの教室に梓を連れてった。
幸い教室には誰もいなくて。
二人きりだった。
あたしは、わかっていたんだ。
澪の気になる人のこと。
梓の好きな人のこと。
あたしは澪のことが好きだ。
それはきっと一生変わらない。
そして、あたしは澪のことを好きだから。
澪には幸せでいてほしいから。
だから…。
******
「なぁ、律。」
他でもない律だから、だから相談したんだ。
大切な親友だから。
「ん?どうした?」
「…梓には好きな人がいるみたいなんだ。」
なんとなく律から目をそらした。
「…で?」
「え?」
私は顔をあげて律の顔を見つめた。
どういう意味だか分らなかった。
「んぅ…。それで、澪はどうしたいんだよ?」
私はどうしたい…?
「んだからっ!梓には好きな人がいるかもしれない。で、澪はどうしたいんだ?」
どうしたいって、どういうこと…?
私の思考はそこで止まって、なにも考えられなくて。
なにも言葉が出なかった。
律がため息をついた気がする。
「澪は、梓に好きな人がいるから諦めるのか?それとも…?」
それともの後を律は言わなかった。
だけど、どういう意味だかわかった。
でも、私はわからなかった。
私は、梓のことが好きだ。
梓は誰のことが好きなのかな?
「なぁ、澪。」
律が少し先を歩きながら呟いた。
「ん?」
「例えばだぞ!例えば…。あたしが澪のことを、恋愛感情的に好きだとしよう。」
「んな!?」
いきなりのたとえ話に私は驚きの声を上げた。
その私に律はにぃって笑う。
「例えばだよ!例えば!んで、話を戻すぞ。あたしは澪を好きだけど、澪は梓のことが好きだ。そしたらあたしはどうすると思う?」
いきなりの問いかけに私は答えられなかった。
「はい、タイムアップ〜。あたしはきっと、告白しないと思う。」
「な、なんで?」
「好きだから、かな?澪が幸せならそれでいいし。親友としてそばにいられるしな!」
律の妙にリアルなたとえ話は私の心に強く残った。
律とは幼馴染で親友。
じゃあ、梓とは?
私と梓は同じ部活の先輩後輩という関係でしかない。
私が卒業したらめったに会えなくなるだろう。
…そんなの嫌だ!
「律。私、梓にこの気持ち伝えたい。」
覚悟は決まった。
律が優しく微笑んだ気がした。
*******
また私が1番乗りか。
放課後、部室に向かうと昨日と同じでまだ誰も来てなかった。
気持ちを伝えるって決めたけど、どうやって伝えればいいんだろう?
朝から今まで頭はこれでいっぱいだった。
怖くないって言ったら嘘になるけど。
伝えたかった。
止まらなくなった。
昨日の子と同じことを言ってるな。
それに気付いて苦笑する。
でも、今なら分かる。
結局、私は気持ちに気付いたら、止まらないんだ。
「おぉ澪。今日も1番乗りかぁ?」
律がいつも通りに振舞ってくれることに感謝する。
律が支えてくれてるから、私もいつも通りを振舞える。
「あれ?唯は?」
今入ってきたのは律とムギの二人だけだった。
「あぁ、唯ちゃんは今日、日直で遅くなるのよ。」
ムギはそう答えるとお茶とお菓子の用意を始めた。
********
「おっくれてごめ〜ん!」
少し経ってから唯が部室に入ってきた。
「日直お疲れさま。」
梓はまだ現れない。
梓だって何か用事があって遅れてるのかもしれないのに、私は不安だった。
「あ!」
荷物を置いてお菓子に手を伸ばす唯が何か思い出したように呟いた。
「さっきそこで憂と会ったんだけど、今日あずにゃん、学校休んでるみたい。」
え?
昨日そんな様子なかったよ、ね。
心配と不安と、いろんな感情に肩が震えた。
「だからさっ、今日みんなでお見舞いに行こうよぉ。」
「…そうだな。」
私は唯の提案に同意した。
だけど、本当は1人で行きたかった。
「あっ!」
声を発したのは律だった。
「そういえば、澪っ!今日は用事があるんじゃなかったっけ!?」
時計を見ながら律が言った。
今日、用事なんてあったっけ?
「み〜おっ!早く行かないとまずいんじゃないかぁ!?」
律の言ってることがわからなくて、私は律の顔を見る。
口調はいつもの律だったけど、表情は真剣そのものだった。
そしてやっと理解した。
…ありがと、律。
「そ、そうだった!律、思い出させてくれてありがと!」
私はすぐに荷物を準備する。
「みんな、ごめん!そういうわけだから帰るね。」
みんなに向かってそう言って部室のドアに手をかける。
出る前に一度振り向いた。
「律!本当にありがと!」
律がウィンクをした。
頑張れって背中を押してもらってる気がした。
*********
さんざん泣いて、私はいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
目を覚まして時計を見ると、もう部活の時間をさしていた。
メールしておいた方がいいかな?
携帯電話に手を伸ばす。
…誰にメールすればいいんだろう?
アドレス帳に並ぶ先輩たちの名前。
澪先輩…。
その名前を見るだけで涙が出るなんて。
さっきもあんなに泣いたのに…。
鍵をかけることも抑え込むことももうできない。
私は澪先輩のことが好きなんだ。
コンコン
ノックの音がした。
お母さんが帰ってきたのかもしれない。
こんな顔見せたくない。
私は布団にもぐりこんで寝たふりをすることにした。
ガチャ
ドアが開いて誰かが部屋に入ってくる気配がした。
お母さんだとしたらおかしいな。
入ってきた人はなにも話しかけてこない。
私は不審感を抱いた。
どうしよう…?
「…梓。」
今1番会いたくないけど、会いたい人。
誰よりも愛おしい、その人だった。
「寝てるか。」
澪先輩がそう呟いた。
そして布団の中に外の空気が入ってきた。
右手に、温もりを感じた。
「梓。私さ…。」
**********
梓のお母さんに案内されて、梓の部屋の前に立つ。
梓のお母さんはこれから用事があるらしく、
「わざわざ来ていただいたところ悪いのですが、急用がありまして、しばらくの間、梓をよろしくお願いします」
と言って出て行ってしまった。
ドアの向こうに梓がいる。
それだけで胸が高鳴る。
これからのことを思うともっと、もっと。
深呼吸をしてノックをする。
…応答はない。
少し迷ったけど入ることにした。
ドアノブを回す。
心臓がバクバクいってる。
「…梓。」
梓は布団にくるまって眠っているようだった。
「寝てるか。」
梓のベットの傍に腰をおろした。
梓が寝ていることに少し安心感を覚えた。
寝てるなら…。
これくらいしてもいいよね。
私はそっと手を布団の中にいれ、梓の手を握った。
梓の手はやっぱり小さくて。
少し冷たかった。
「梓。私さ…。」
やっぱり私は弱いのかもしれない。
これじゃ、ただの独り言だよ。
「好きな人ができたんだ。」
これはただの独り言。
だけど、それでも、言いたかったんだ。
「その人には好きな人がいるんだ。」
小さな可能性を信じたかった。
「だけど、私、もう止められないんだ。」
溢れ出す感情。
「…この小さな手をいつまでも握っていたい。」
ずっと、いつまでも一緒にいたいから。
「私は、梓が…。梓のことが好きだ。」
握っている手に少し力を込めた。
言うには言った。
だけど、これじゃただの自己満足。
梓は寝ていたんだから仕方ない。
そんな言い訳を自分にして、立ち上がろうと梓の手を離そうとした。
だけどできなかった。
私の手を強く握る力があったから。
「…澪先輩。」
振り向くと、涙を流す梓の姿があった。
***********
右手に感じる温もり。
それが澪先輩の手だってことはすぐにわかった。
大きくて温かい、私に安心感を与えてくれる。
そして、澪先輩から紡がれた言葉。
夢を見ているのかと思った。
自分に都合のいい夢を。
私の手を握る力が弱くなるのを感じた。
夢にしたくない。
咄嗟に握っていた。
大好きな先輩の手を。
夢じゃないんだよね。
「澪先輩。」
布団から顔を出し、愛しいその人の名前を呼んだ。
振り返った先輩には驚きの表情が滲んでいた。
私も伝えなきゃ。
先輩に、私の想いを。
今流れてる涙はきっとさっきまでのものとは違う。
「澪、先輩…。」
もう一度呼ぶ。
まっすぐに先輩の瞳を見つめて。
「わ、私も…。」
夜眠れなくなるくらいに。
貴女の一挙一動にドキドキするくらいに。
「私も、澪先輩のことが好きです。」
澪先輩の瞳に涙が滲んでみえた。
手に少し力を込める。
「大好きです。」
いつまでも一緒にいたい。
貴女の隣を。
こうやって手を繋いで、離れないように。
「…梓。」
澪先輩は私の手をまた握り返してくれた。
そして二人で泣いたんだ。
今、流した涙ほど嬉しい涙はないと思えるくらい。
「先輩。…離しませんからね。」
お互いに強く握り合った手にまた、ちょっぴり力を込めて呟いた。
−これから私は貴女の隣をずっと歩いていきます。
こうやって手を繋いで。離れないように。
************
あたしは窓の外に目をやった。
これでよかったんだ。
澪が幸せならそれでいいんだ。
窓の外に想いを馳せて、あたしは紅茶を口に含んだ。
なんでだろ?
たくさん砂糖を入れたはずなのに、その紅茶は少ししょっぱかった。
目を部室内に戻して、カップを置く。
あたしは笑って言うんだ。
「もう少し練習してこうぜ!」
おしまい。
まとめです。
→星空と(梓視点)
→星空と(澪視点)
→夕焼けと(梓視点)
→夕焼けと(澪視点)
――――あとがきのようなもの。
やっと終わりました。改行と視点切り替えが多くてすいません。念のため上から、梓梓澪律律律澪澪澪梓澪梓律です。
一応あずにゃんと澪は両想いになったわけなんですが…。
りっちゃんにごめんと謝りたい気持ちでいっぱいです。大人なりっちゃんということにorz
文才が欲しいです。切実に…orz
最後に、最後まで読んでくださった方、またどれか1つでも読んでくださった方がおりましたら心よりお礼申し上げます。
このような駄文・長文にお付き合いいただき本当にありがとうございました。
このページへのコメント
「星空と」から読ませていただきました。
なんだか3人の絡み合う感情にドキドキさせられました。
りっちゃんにも幸せになって欲しかったけど、この形も愛なんだよななんて思いました。
とっても素敵な作品でした!
澪と梓と、律が更に好きになれました
素敵です
感動のお話をありがとうございました!
泣けます(´`。)
律……
りっちゃん大丈夫だよ。
人の幸せを願えるりっちゃんには、絶対幸せが訪れるよ。
素晴らしい作品をありがとうございますo(^-^)o