刀白鳳



本名:刀白鳳(とう・はくほう)
別名:玉虚散人(ぎょくきょさんじん)
身分:大理国鎮南王妃
武功:不明
家族:夫・段正淳、子・段誉
登場作品:『天龍八部』

 新婚の刀白鳳は嫉妬に苦しんでいた。娘の頃から己の悋気を知る彼女は、夫・段正淳に一夫一妻制を守るよう約束されていたのだが、彼はそれを守らなかったからだ。空閨に身を横たえつつ、今頃夫が他の女と愛を語らっているのだと想像すると、嗚咽が喉から漏れとめどない涙が頬を濡らすのだった。
 そんなある日絶望のあまり彼女は間違いを犯した。
――あなたが王族だか何だか知らないけれど、あなたが他の女を抱くというのならば、私だって他の男に抱かれてやるわ!
 宮殿を彷徨い出た彼女は菩提樹の下に血膿に塗れた醜い物乞いがいるのに目を留めた。

 物乞いが闇に目を透かすと、観音菩薩のような女が黒髪を乱しこちらに歩み寄ってきた。妖しい笑みを浮かべた女は彼にしなだりかかり、その玉の肌に垢がつくのもものともしないで、熱い肉を段延慶の体に押しつけてきた。闇の中で二人の影はひとつになり、やがて女は去っていった。男は段延慶、女は刀白鳳であった。

 この日から十月十日、因果の胤は玉のような男児となって彼女の腕に抱かれた。段誉である。跡継ぎを見て喜ぶ夫の顔から彼女は目をそらし、罪を心の奥深くに仕舞った。

 それから二十年後、夫とともに江湖を渡っていた彼女は災難に遭遇する。
 かつて夫が愛した女・王夫人は彼を忘れることができず、修羅の手段で愛を取り戻そうとした。そして彼女が共犯に選んだ相手が悪かった。父の出家を目の当たりにし、さらに愛する従妹を失い狂気の世界へと旅立ちつつあった慕容復だったのである。
 自暴自棄となり最後の逆転に賭けた慕容復は、段延慶と手を結び段正淳、段誉、刀白鳳、秦紅棉、甘宝宝、阮星竹を捕らえてきた。そして大理皇帝の地位を段延慶に譲位せねば一人づつ愛人を手に掛けると脅しにかかった。
 しかし段正淳はそんなことを承伏できるはずもない。非情の刃が彼の愛した花・秦紅棉、甘宝宝、阮星竹、王夫人を散らしていった。満ちてゆく血の香に段正淳は狂った。しかしどうすることもできず、ただ愛する女たちは死んでゆくのを見るばかり。
 刀白凰までもが殺されそうになった刹那、段誉が慕容復を撃退して危機を脱したが、愛ゆえに散った花をそのままにして生きていけるほど段正淳は薄情な男ではなかった。

「ゆるせ、妻よ。彼女たちは私の人生においてかけがえのない宝だった」
 彼は血に染まった剣を手に取ると深々とその胸に突き立てた。
「あなた、いや、いや、死なないで! あなたが他の女を愛してもいいの、かつてはそのことで嫉妬に狂ったわ。でもそんなのは昔のことよ、あなたに愛されていればいいの、ねえ、あなた、死なないで!」
 狂ったように最愛の夫にすがりつく刀白鳳。彼女は剣を手に取ると胸に突き刺した。かつて一度肌を合わせた段延慶がその命を救わんと近づくが、その手をはね除けて彼女は叫んだ。
「さわらないで、私の夫は段正淳ただ一人よ!」
 それは本心からの言葉だったに違いない。息子の段誉に出生の秘密を打ち明けると彼女は息をひきとった。
2005年08月13日(土) 03:51:37 Modified by kizurizm




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