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孤独を知らない男・第五話

スレ番号タイトルカップリング作者名備考レス
11『孤独を知らない男』:第五話男ハンター×擬人化ドスゲネポス孤独の人擬人化(ドスゲネポス)672〜680

『孤独を知らない男』:第五話

 
 
 
「トネス。ピッケル買ってきてくれ。」
 
ジェロスのこの言葉から全ては始まったと言ってもいいだろう。
そもそもおよそ新婚気分の女性にさせるべきではない買い物を頼むジェロスもジェロスだが、
それを嬉々として引き受け、マジにピッケルだけ買いにいくトネスもトネスだった。
数本のピッケルを纏めて担ぐ元ドスゲネポスの美女など、想像するだにシュールであり、
しかも新婚だ、なんて事実を知った日にはその新婚生活の幸福さに疑問を抱いてしまうであろう。
まあ、この珍妙なる怪現象は互いに世間ずれしているから起こりうる事なのだろうが…
とにかく、トネスはピッケルを担いで意気揚々と家路につくのであった。
頼まれたのが夕方だったので、時刻はもうじき夜へと突入する。
かと言って、トネスは特に警戒を強めたりはしない。
彼女は夜目が利く。この程度なら道の先を見通すのには何の問題もない。
彼女は、見事におつかいを果たして家に帰り着き、愛しの人に褒められている自分を想像して、
喜びに胸を躍らせながら、ただ家路のみに心を集中させていた。
 
それが、いけなかったのだろうか。
 
「キャッ!?」
 
突如、横側から伸びた手がトネスの腕を掴み、路地裏に引き込んだ。
そして彼女は、自分を引っ張り込んだ犯人の姿をしっかりと確認しない内に、
何らかのエキスが染み込んだ布切れを鼻に押し当てられ、意識を手放した。
犯人の下種な笑い声が、路地裏に低く響いた。


彼女が再び目を醒ましたのは、ダブルベッドの上だった。
ぼぅっとする頭のまま、彼女は身を起こす。
どうやらまだ夢見心地のようだ。
 
「……え? あれ?」
 
しかし、彼女はすぐに気付いた。
自身の四肢がロープによってベッドの四隅に拘束されている事に。
そのロープはしっかりとトネスの両手首と両足首に巻き付いているが、
ピンと張らず多少ゆるみがつけてあり、彼女の動きを制限するためと言うよりも、
ベッドの上から逃がさないためにあるようだった。
そしてロープといえば、ベッドの横から用途不明のロープの一端がちょろんと出ていた。
 
「ここ…どこ…?」
 
不思議そうに、そして少し怯えながら彼女は周囲を見回す。
ここは彼の家ではない。彼と共に過ごした寝室は、これほど散らかってはいなかった。
ベッドのにおいも違う…彼の家のベッドからはこんなに沢山のにおいはしなかった。
このにおいは一人の男性と、数多くの女性のにおいが混ざったものだ、とトネスは感じた。
そしてそのにおいが、彼女の不安感をより一層高めていった。
 
「おっ、やっと気付いたか…
 睡眠袋が効き過ぎて死んじまったかと思ったぜ。」
 
彼の声ではないが、誰か男の声。
トネスは恐怖を感じながらも、そちらを振り向いた。
なぜなら、声には聞き覚えがあったからだ。
 
「あ、あなたは…!」
「へへっ…やっぱりお前で合ってたようだな。」
 
トネスはすくみ上がった。恐怖が更に大きくなり、明確な形をとり始めた。
彼女の視線の先にいたのはパーシェルだった。
昼間にジェロスと揉めたあのハンターだ。
瞬間、トネスの記憶が鮮明に蘇った。
往来でいきなり裏路地に引き込まれ、睡眠袋のエキスが染みた布を嗅がされた事。
微かに感じた暴漢のにおいが、目の前の少年と同じであったこと。
 
「なにせお前の顔はチラリとしか見えなかったからな…
 人違いじゃなくて本当によかったぜ。」
 
パーシェルはベッドに上がり、彼女に詰め寄る。
彼女はしりもちをついたような姿勢のまま、ただ震えていた。
パーシェルの腰には剥ぎ取り用のナイフが差してあったからである。
 
「な…なにするの…」
 
体だけではない。声も震えている。
心などはもう恐怖でぽっきりと折れてしまいそうだ。
 
「いや、なに…ちょっと、な。」
 
パーシェルが腰の剥ぎ取りナイフに右手をかけた。
その刹那−−
 
シュンッ!
 
一閃。
刃先がトネスの衣服を切り裂き、胸元を露にさせた。
そこから、下着の上からでもわかる美しさと豊かさを称えた彼女の乳房が顔を覗かせた。
 
「ッ!」
 
トネスは咄嗟に胸元を腕で抱えるように隠し、戦慄した。
彼がこれから何をしようとしているのかが分かってしまったからである。
彼女にとって、ハンターとは未だ恐怖の対象。
それが、愛しの彼のものであるはずの自分の体を狙っている。
その事実にすくみ、彼女はもう身動き一つとれなかった。
実力では、彼女は既にパーシェルよりも勝っているのに、である。
 
「いやぁっ!」
 
そしてとうとう、パーシェルは彼女に覆い被さってきた。
両手首を掴み、そのままベッドの上に押し倒したのである。
砂色のショートヘアーがたなびき、スカートから滑らかで肉感的な太腿が覗いた。
パーシェルはもう、我慢をするのが辛かった。
彼女が寝ている間にその肢体の美しさを眺めてはいたものの、
復讐という目的のために手は出さずにいた。
最高の御馳走を前に、自制心でおあずけをしていたのである。
そして彼は、それによって溜まった情欲を今こそ爆発させんとしていた。
 
「ッ! くぅ…!」
 
パーシェルは右手を放し、トネスの胸の下着に滑り込ませ、
柔らかで弾力のある乳房を蠢くように揉みしだく。
トネスは目を硬くつぶるが、既に目の端に涙が溜まり始めており、
必死に何かを堪えるようなその表情は、更にパーシェルを興奮させた。
 
「んはぁっ! ひっ…く」
 
胸の先端の突起を指の腹でちょいと挟む。
それだけで、トネスは体を震わせてあられもない嬌声を発した。
その表情はすぐに屈辱を受ける者としてのそれになったが、既に顔には朱が差し始めている。
しかしジェロスに同じことをされた時は、もっとよがった声を出したものだ。
 
「んあっ! ひっ! ぃ…んっ! やぁっ! いやぁぁぁっ!」
 
パーシェルは急所見つけたり、とトネスの胸の突起ばかりを責め続けた。
挟み、摘まみ上げ、ひねりつつ、柔らかな房も揉みしだく。
トネスの口から熱っぽい吐息が漏れ始め、突起はどんどんと固さを増して立ち上がった。
彼女はそれをこの上もなく恥じたが、今更どうする事もできない。
パーシェルの巧みな技巧に、拒絶の意の混じった嬌声をあげ続けるだけだ。
 
「ひぅっ! んっ! はぁ…ひぎぃっ!?」
 
胸を弄ぶパーシェルの手が二つになり、トネスははしたなく叫んだ。
それだけではない。パーシェルは己の膝を強くトネスの秘部に押し当て、
乱暴に押し込んだり引いたりを繰り返し始めたのだ。
トネスとジェロスとは、砂漠での初体験を含めてまだ3回しか繋がっていない。
そんな彼女に、この行為は刺激が強過ぎた。
 
「あぁっ! はぐっ! ひっ! いっ…! いやあああああああああ!!」
 
彼女は大きく叫び、体を弓なりに張った。
痙攣したように体を震わせ、やがて糸が切れたようにベッドに倒れる。
 
「へっ…自分を犯してるヤツの前戯でイクなんて、とんだ売女だな。」
 
パーシェルは彼女を見下ろして罵りながら、手と膝を引き抜く。
彼女の乳首はもう完全に立っており、秘部は下着の上からでも分かるぐらいに濡れていて、
頬は紅潮し、目は焦点が合わず、口の端からは涎が垂れていた。
そしてただ熱い吐息を早いペースで漏らすだけ。
思考はモヤがかかったようにはっきりしていない。
 
「それじゃ、そろそろ……」
 
パーシェルは一旦トネスの上からどけ、胡座の状態から下半身を解き始めた。
ベルトを外し、ズボンを少し下ろして下着をズラすと、
そこからは既にガチガチに硬まったパーシェルのモノが飛び出た。
だが、恐ろしきそのモノに視線を向ける気力は、今のトネスにはない。
 
「売女の膣内に出させてもらうか。」
「………え…?」
 
が、パーシェルのその言葉でトネスは正気に戻った。
その顔から潮のように血の気が引いていく。
 
「なか、に…って…や、だ…やだっ…やだぁっ!」
 
ここに来てトネスはやっと暴れ始めた。
手足をじたばたと振り回し、パーシェルを近付けないようにする。
 
「へっ…」
シュルッ!  ビィィンッ!
 
しかし、パーシェルがベッドの横から出ていたロープの一端を引っ張ると、
トネスの両手首と両足首をベッドにつなぎ止めるロープが、しゅるっと短くなった。
それによって、完全にピンと張ったわけではないが、十分にあったたるみが消え、
ロープのたるみが少なくなった事によって、少なくともトネスは、
上にのしかかるパーシェルを攻撃する事は出来なくなった。
後は足蹴りでパーシェルをそもそも近付けないようにする方法しかないが…
態勢的な不利があるのと、相手がハンターとしての身のこなしを身につけている事。
これらは悉くトネスにとって不利に働いた。
 
「じたばたすんなって。売女は売女らしくただよがってな。」
「ひぐっ…やだ…やだぁぁ……」
 
結果として、パーシェルはトネスの足の間に体を差し入れることに成功してしまった。
それでもトネスは一生懸命身をよじるが、既にその行動は目の前の強姦魔を更に欲情させる結果にしかならなかった。
パーシェルは素早くトネスのスカートの裾をたくしあげ、下着を外す。
既に彼自身にも、トネスの秘部を入念に虐める余裕はない。
自分の中にある熱を、早くこの美女に叩き付けたかった。
そして、彼は今まで彼自身が見た事もないほど大きく硬くなったそれを入口に押し当て…
 
「ぁっ…! ひぐううううううぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
 
一気に、貫いた。
 
今までパーシェルは体験したことがなかった。
これほどの快感、これほどの脈動、これほどの女。
気付けば彼自身も、うめきのような声を発していた。
 
「あっ! はぐっ! ひぅっ! いっ! いやぁっ! やぁっ!」
 
自然と腰が動く。それも最初から全開に。
トネスの体は彼が激しく腰を叩き付ける度に大きく跳ね、
豊かな乳房が眼前で揺れ、腰はくねらせ、両足は運動に合わせて高く掲げられ、髪は振り乱される。
その度に苦しそうな喘ぎ声が漏れて、彼女の全てがパーシェルを愉しませた。
 
「(やっ…べぇっ…!気持ち、よすぎだっ…!)」
「あぁっ! やぁっ! いやぁっ! はぅっ! んんっ!」
 
肉と肉のぶつかり合う音が速く、大きくなっていく。
パーシェルの剛直を拒絶しようとする膣の動きが却って彼を締め付け、快感を生んだ。
パーシェルはトネスの腰を両手で掴んで、更に動きを加速させる。
 
「ああああああああああああ!」
 
その速さはもう彼女が一つ一つの動きに反応する暇すら与えなかった。
高速で断続的に行われる動きに、声がついていけてない。
全身が震えるように揺れ、乳房の揺れる音までし始めた。
パーシェルは、既になにも考えられない。
突き、犯し、壊し、揺らすだけ。
 
「うぐっ…!出…る…ッ!」
「ああああああ!やだああああ!いやぁぁぁぁぁぁぁ!」
 
遂に、絶頂が訪れる。
パーシェルの全身に力が篭り、
だんだん彼の全身は後ろに反り始めた。
運動はどんどん速度と激しさを増し、トネスの涙が飛沫として飛び散るほどだった。
 
「うぐっ…!」
 
そして、あと一秒足らずで熱を吐き出す、というところでパーシェルがうめき−−
 
「いやだああああああああああああああああああああああああああ!!!」
 
ブチィィィィッ!!
 
−−同時に一閃。
右腕のロープが千切れ、彼女が右手を横一文字に振るうと、視界が真っ赤に染まった。
トネスのではなく、パーシェルの、である。
 

俺が報せを受けたのは、夜もとっぷり暮れた深夜であった。
ピッケルを買いに行っただけにしては遅すぎる。探しに行くべきか。
そう思っていた時だった。
 
いきなり扉を叩く音。
やっと帰って来たかと思って玄関扉を開けると、
そこには見も知らぬ村人が立っていた。
普段、俺の家には滅多に人は来ない。
はずれにある家という事もあろうが、彼らからしてみれば俺達の家系は犯罪者集団だからだ。
可能な限り、かかわり合いになりたくない。だからトネスを連れ帰った時も大した騒ぎにならなかった。
なのでわざわざ俺の家に人が訪ねて来るということは、
余程のっぴきならない事態が発生したということだ。
 
村人は、簡単なあらましを俺に伝えた。
トネスの帰りが遅い理由。パーシェルという若造がしたこと。
トネスがその若造を殺害したこと。
 
そして、俺は今走っている。
目指す場所は、トネスが保護されているという村長の家。
 
景色が流れていく。
様々な感情やら思考やらが去来し、
その度に俺自身の足音がそれを掻き消す。
トネスが、あのトネスが。
あの美しさが穢されたというのか。
あの男に、あんな男に。
真実であるのだろうか。
それとも嘘なのか。
悪い冗談なのか。
鼓動が早まる。
塗り潰される。
俺の心が。
激情に。
 
村長の家の扉を、俺はバン!と音がするほど強く開け放った。
中には3人の男がいた。一人は村長、一人はギルド職員、一人は見覚えのない初老の男。
3人はビクリと体を震わせて、俺の方を見た。
そしてその直後、初老の男がいきなり床に手をつき、俺に土下座をした。
 
「………ジェロス・ゴズだ。」
 
俺はつとめて冷静に、自分の正体を明らかにした。
しかし、その表情が果たして冷静であったかと問われると、自信がない。
直ぐにギルド職員の男が俺に耳打ちをする。
それによって、目の前で土下座をしている男はパーシェル・グランデの父親であることが分かった。
この村で、まだ現役ハンターをやっている男なのだという。
 
トネスが、レイプされた。
相手はもう死んでいる。
トネスが鋭い爪で首を半ば程まで掻き切ったらしい。
ほぼ即死に近く、首の骨も隙間から切断されていたようだ。
そして相手の父親が、目の前で土下座しているこの男。
息子を失ったにも関わらず、俺に許しを請おうと、
哀れにも恐怖で震えながら額を床に擦り付けている。
 
「立て」
 
俺の声は、いつか夢で見た親父の声と同じぐらい冷たかったと思う。
俺の心は怒りと憎しみが支配しているも同然だったのだ。
それでも、初老の男は恐怖のために体が硬直している。
 
「立てと言ってるだろうがッ!」
 
俺は遂に声を荒げた。
初老の男の体がビクリと震え、
おそるおそる、ゆっくりと立っていく。
その表情はやはり、恐怖と一種の諦観で彩られていた。
 
そして俺はその表情が見えるやいなや、初老の男の頬を拳で思いっきり殴った。
 
椅子がひっくり返るような音と共に、初老の男が倒れる。
ゲネポスすら昏倒させられる俺の拳を喰らって、男はうめき声を発した。
だが、男は健気にも直ぐさま体を蠢かせるように動かし、再びその場で土下座の姿勢をとった。
男の脳はかなり揺れていて、もう腕一本動かすのすら億劫なはずである。
両手を床について上半身を支えるなどといった姿勢は、とてもとれないはずだ。
しかし、男は土下座をする。俺の怒りを鎮めるために。
恐ろしい俺の家系に、一族郎党を根絶やしにされないように。
俺の一族の恐ろしさと凄まじさは、意識した訳でもなくこの村に十分に浸透しているのだ。
 
だが、悪いのはこの初老の男ではない。
子育ての責任というものは確かにあるだろうが、
パーシェルは既にギルドから借りた家で一人で暮らしていた。
ならば、パーシェルに関する事件の責任は全て本人に帰結する。
そのことが分からない俺ではなかったが、殴らずにはいられなかった。
もしパーシェル本人がここにいれば、即座に殴り殺していたであろう。
 
「ジェロスよ。」
 
不意に、村長が俺の名を呼んだ。
初老の男はフラフラで、土下座をしながら気絶しそうになっていた。
 
「グランデ一族に復讐をしたとて、どうにもならぬぞ。」
 
そう、村長の言う通りなのである。
俺がいくらここで怒りを爆発させようと、どうにもならない事だ。
加害者は死んでいるのだ。それも、被害者の手にかかって。
 
「彼女の名誉はどうなる…無念を呑んで堪えろと…?」
 
既に、俺は村長にも敵意を剥き出しにし始めていた。
その態度が、グランデに味方するようで俺には不快に感じたのだ。
しかし村長が考えているのは、全体にとって何が良いのかということだけだ。
もちろんそのことを俺は分かっているのだが、だからと言ってこの感情を抑えるのは難しかった。
 
「彼女がどこにいるのか、訊かぬのか?」
 
村長は、この界隈で唯一俺と対等であり続けようとする存在だ。
その存在は、俺が俺自身を客観視するには重要な存在でもあった。
 
「怒りよりも、心配ではないのかね?」
 
俺は言葉を詰まらせた。
そうだ、最も悲しんでいるのはトネスだ。
彼の言う通り、俺の心情はこの場ではどうでもいい。
最も深い傷を負ったのはトネスであるのだ。
どんな顔をしているのだろう。すぐに抱き締めてやりたい。
 
「………トネスはどこに…」
 
かと言って、この場で怒りを収めるほど俺は器用にできていない。
握り締めている俺の拳からは、爪が食い込んで血が垂れ始めていた。
 
「先に帰した…裏口から、お前さんの家へな。」
 
そうしたのは、俺がこれ以上初老の男に危害を加えないためであろう。
男はもう半ば失神しているようで、片肘を床についた土下座という奇妙な姿勢のまま、
フラフラと頭を左右に揺らめかせていた。
俺は礼も会釈もせず、初老の男に唾を吐きかけて村長の家を出ていった。
 
何故だ。
どうしてこんな事が起こる。
あの若造はゴズ家の恐ろしさを知らなかったのか?
そうにしても、何故トネスを狙った。
純真で無垢でひたむきな彼女を、何故襲った?
あんな些細なことが原因で、どうしてそんな事が出来るのだ?
いったい彼女が何をしたというのだ?
彼女は俺を好いただけだ。
何故なのだ。どうしてそんな事をする。人間め。
何故彼女を傷付けた。
人間が。人間め。ちっぽけな存在が。
欲に溺れ、平然と美しいものを汚していく。
しかしどうすれば良いのだ。俺も人間だ。
人間が穢した彼女を、俺が癒すとはおこがましいことだ。
治すぐらいなら壊さねば良いのだ。人間め。
トネス…そうだ、これが人間なんだよ…美しいトネス…
 
ガチャリ
 
我が家の扉を開き、中へ入る。
居間へと向かうが、そこに彼女の姿はない。
ならば寝室だろう、と俺は寝室へ向かった。
 
俺が今の彼女に声をかけていいものかどうか。
分からないが、俺は正直に言って彼女に会いたかった。
会ってどうこうしようなんて考えは全くなかったが、ただ会いたかった。
寝室の扉を…俺は恐る恐るノックする。
 
「…ジェ…ロス…?」
 
中からは、彼女の掠れた声が聞こえた。
さっきまで泣いていたような、少し疲れた声だった。
その声を聞いた瞬間、俺はハッとしてドアを開けた。
 
そこには、ベッドの上に座り込んでいるトネスの姿があった。
毛布を抱き締めており、目の下には涙の流れた痕が赤い筋となっている。
その姿はなんとも儚げで、双眸は俺をぼぅっと見つめていた。
胸が苦しくなった。俺が犯人の父親に当り散らしている間、
こいつはずっと一人で泣き暮れていたのだ。
村長の家に来てからまず最初に彼女の居所を訊ねていれば、
家に向かう途中のトネスに追いつけたかもしれなかったのに。
 
「トネス…」
「来ないでッ!」
 
俺が寝室に踏み込もうとすると、トネスはハッと我にかえったように体を震わせると、大声で俺を拒絶した。
まるで俺を責めるような声で、彼女の必死さが声に滲み出ていた。
その気迫に、俺は寝室に入るのを躊躇してしまう。
 
「来ちゃ…やだよぅ…」
 
消え入るような声でトネスはそう言うと、毛布に顔を埋めていった。
恐らく、また泣いているのだ。
情けないやら申し訳ないやらで、俺の胸は締め付けられるように苦しくなる。
こいつが悲しむのを、俺はどうにもできなかったのだ。
俺がこいつの涙を止めてやることは出来ないのだ。
 
「………」
 
だが、認めるわけにはいかない。
誓ったのだ。こいつの覚悟を受け止める、と。
誓ったからには、たとえ本人が拒絶していようとも果たさねばならない。
俺は思い切って寝室に入り……ベッドに座って、トネスをそっと抱き締めた。
彼女の体がビクリと震え、顔をそっと上げて俺を見た。
 
やっぱり、泣いていた。
 
「トネス…お前の美しさは変わらない…
 例えどうなろうと、俺は誓いを果たす……」
 
優しく囁くように、俺はそう言った。
トネスは涙を浮かべたまま、俺の胸に顔を埋めた。
そうしてくれると、好都合だ……
俺の目からも、一筋の涙がこぼれ落ちてしまったのだから。
 
深夜。暗い時の流れる中、俺は彼女の涙を悲しみと一緒に拭い取ってやろうとした。
俺達はこの日、トネスが泣き疲れて眠ってしまうまでずっと抱き合っていた。
 
 
 
そしてその翌日の朝、トネスは家を出た。
「里帰りします」という書き置きを残して。

<続く>
2010年08月18日(水) 08:55:38 Modified by gubaguba




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