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孤独を知らない男・第四話

スレ番号タイトルカップリング作者名備考レス
11『孤独を知らない男』:第四話男ハンター×擬人化ドスゲネポス孤独の人擬人化(ドスゲネポス)・否エロ614〜619

『孤独を知らない男』:第四話

 
 
 
「やあっ!」
 
可愛らしい掛け声と共に彼女はドスファンゴに飛び掛かった。
ドスファンゴは仰向けに倒れて四肢を硬直させつつも、ときたま痙攣を繰り返し、
彼女の武器であるデスパライズの麻痺効果の高さを痛感している事がわかる。
そして最後の一撃といわんばかりの渾身の刃は、大猪の心臓に近い動脈を切断した。
大量の血が吹き出し、大猪は痙攣さえも停止させて絶命した。
 
「だいぶ良くなってきたじゃあないか、トネス。」
 
その様子を草むらから観察していた俺は、彼女を褒めながら歩み寄る。
彼女は嬉しそうに俺の方を振り向くと、物欲しげな上目遣いを向けてきた。
俺がそれに応じて頭を撫でてやると、彼女は喉を鳴らしながら気持ち良さそうに目を細めた。
ここは密林。多くの生物がひしめき、ハンター初心者の登竜門と言われるモンスターが勢揃いしている狩り場。
俺はここで、トネスにハンターとしての訓練を施していた。
 
「さ、剥ぎ取りだ。重要な素材を傷つけずに上手く剥ぎ取るんだぞ。」
 
俺が手をどけてドスファンゴの死体を指差すと、彼女は少し不満そうに、それでも喜びながらナイフを抜いた。
俺とトネスとの暮らしが始まってから一ヶ月が既に経過している。
元モンスターである彼女に何故ハンター養成をしているのかというと、彼女が希望したからだ。
理由は、できるだけ一緒にいたいから、だそうだ。
それを聞いた時は流石にこっ恥ずかしい気持ちになったが、
俺は何日もぶっ通しで狩りをするため、一度狩りに出れば何日も家を空けている。
その間、俺の安否を気にし続けて待つのは耐えられないそうだ。
 
まあ、気持ちはわからんでもないし、絶対に素質はあると思うので手ほどきしてやってる。
我が一族の戦闘法は非常に独特なので修めるのは大変だが、歴史がある。
武術というものは歴史が深ければ深いほど強いものだ。
長い時間の中で練り込まれた技には、先人の経験から来る実用性がある。
ちなみに今俺が装備しているのは、いつもの太刀ではなく、弓だ。
俺の家系の戦闘術はほぼ全種の武器をカバーしているが、最も歴史が古いのは太刀と弓。
それは俺の家系のルーツが東方の国にあるかららしいが、もちろんその他の武器の技術も歴史あるものだ。
そして後継者は、それらの技術を強制的に一通り憶えさせられる。
だからガンナーとしてのサポートもできるし、片手剣の技術指導をしてやる事だってできるのだ。
 
「できたよジェロスー」
 
すっかり解体を終えた彼女が俺を呼んだ。
どれどれ、と解体の出来栄えを見てやる。
 
「ほぅ…解体の方はもう何の問題もないな。」
 
俺は正直に思った事を言った。トネスが満足そうな笑顔を浮かべる。
20日間ほどの鍛練で、彼女は驚くほどハンターとして成長していた。
元々素質はあるのだ。高い運動能力に、視力と動体視力、柔軟性と重心移動。
相手の急所を一瞬で見極める勘の鋭さと、群れのリーダーをしていて培われてきた戦略眼。
流石は元モンスターと感嘆するほど、彼女は歴史ある一族の戦闘術をどんどん吸収していった。
しかもそれのみではなく、ハンターとしての知識もどんどん吸収していっている。
モンスターの生態やアイテムの効果。アイテム調合法に上手い解体方法。
一族の戦闘術にしろ、ハンター知識にしろ、膨大な量の情報であるのに、
彼女はそれを驚くべき早さで修得していった。俺が今の彼女ほどになるには2年かかったというのに。
 
「それじゃ、祈りと供養だ。内容は教えたよな?言えるか?」
「えーっと…命あるものの力を糧とし、共に生きよう。
猛々しき霊魂よ、我に宿りたまえ。我と己とで勇猛とし、心を支えたまえ。
恵みと調和、戦士と剣、共にあって感謝する…だっけ?」
「よしよし、よく出来たな。それじゃあ早速祈ろうか。」
 
俺と彼女は、解体したドスファンゴの前で祈りと感謝を述べる。
目を閉じ、心を落ち着かせる。他のハンターどもはこの儀式を野蛮人の迷信だと馬鹿にするが、
普段からこうやってモンスターに対する敬意を払っておくのは重要だと俺は思っている。
何故なら、敬意は油断に繋がらない。相手に敬意を払っていれば決して油断することはなく、
戦闘で常に極限の集中を保っていられる。
油断が死に繋がるというのは周知の事実であり、それを呼び込むのは傲慢とか驕慢とかいったものだ。
つまり相手に敬意を払えという教えは、戦闘から無事に帰還するための教えでもあるのだ。
そしてその教えが正しいから、俺達の家系はこれほどまでに長く続いている。
相手への敬意を保ち、油断をなくすためには、彼らのいう野蛮人の儀式は非常に実用的だ。
 
祈りが終わり、二人同時に目を開く。
俺は懐からドキドキノコを取り出し、解体したドスファンゴの傍にそっと置いた。
これで全ての儀式は終了。今回も良い狩りだった、と心の中で満足する。
 
「それじゃあ、メシにするか。」
「うん!」
 
トネスが元気に頷く。
今日のメニューはぼたん鍋だ。ぼたん鍋ってのは要するに猪肉の鍋だな。
乾燥醗酵させたハリマグロとある種の海藻でとったダシ汁に、ホビ酒と米虫の乾燥粉末を少量加え、
レアオニオン、ジャンゴーネギ、特産キノコ、それとさっきドスファンゴからとった猪肉を入れて味噌で味付け。
味噌はミックスビーンズ、古代豆、どちらで作ったのでもいいが、今回は古代豆味噌。
最後に肉焼きセットで十分に熱した石ころを鍋にぶち込んで一煮立ちさせれば完成だ。
ちなみに鍋は分厚い葉っぱを何重にも編み合わせて作った。
 
「いただきまーす♪」
「いただきます。」
 
さて、食事だ。
早速猪肉を一切れとって口に含むと、さっぱりとしながらもコクのある味が広がった。
うむ、今日も順調。やはり猪肉は焼くよりも煮た方がうまい。
いつもはただ焼くだけなんだが、たまにはこういう贅沢もいいだろう。
俺はしみじみと、普段狩り場では滅多にできない贅沢の味を楽しんでいた。
 
「おいひー!」
 
一方のトネスはと言うと、目を見開いて次から次へと鍋をかき込んでいく。
口の中にあるものが無くならない内に新しいのを入れるもんだから、彼女の頬はぷっくりと膨れていた。
まあ、今回は殆ど俺じゃなく彼女が働いたからな。
訓練の一環としてのドスファンゴ狩りだったが、俺がサポートすべき部分は殆どなかったのだ。
実戦訓練を始めた頃は、俺からのサポートだけで獲物が死ぬという有様だったけどな。
 
「ところでトネス。」
 
ジャンゴーネギを飲み込みながら、俺は彼女に話し掛けた。
本当は彼女の口がある程度空いたら話し掛けようと思っていたのだが、
どうもそんな状態は鍋が空になるまで訪れそうにないようだ。
仕方なく、俺は彼女が食べてる途中に話し掛けた。
 
「?………んぐっ…なぁに?」
 
彼女は口の中に満載していたものを一気に呑み込んだ。
流石は元ドスゲネポス…あれを一気に呑み込むとは。
 
「…10日後の実戦訓練では、砂漠に行こうと思っている。」
 
俺がそう告げた瞬間、彼女の顔が少しだけ曇った。
彼女が俺の家に来てから、まだ一度も砂漠には行っていない。
砂漠に行く、ということはあのゲネポスの群れと遭遇するということであり、
あの日いきなりリーダーを失った群れに全てを悟らせる、ということでもある。
彼女にとってそれはとても不安なことなのだろう。
仲間のゲネポス達は、彼女が自分達を捨てて人間についたという事を知ったらどう思うだろうか。
とはいえ、砂漠独自の生態系との戦闘を経験しない内には一人前のハンターとはなれない。
それに俺がよく行く狩り場は砂漠なのである。俺について来ると言うのならそこでの訓練は既に必須事項だ。
 
「…お前は実に優秀なハンターとなれるだろう。
 しかし、わざわざ辛い場所に行く必要はない。
 選択肢として、俺が砂漠に行く時はお前は留守−−」
「いく。」
 
彼女の決意めいた意思を感じる言葉を聞いて、俺はハッと彼女の目を見た。
一瞬だけ見せた翳りは既に消え失せ、金色の瞳の輝きには強固な意思が宿っていた。
そうだ。俺は彼女の覚悟に打たれて、掟を破ってまでも彼女を連れ帰ったんじゃないか。
俺にそうさせた程の覚悟を俺が疑うなど、馬鹿げた事だった。
 
「−−すまん、愚問だったな。」
 
俺は視線を鍋に落とし、食事を続けた。
彼女の瞳を直視し続けることが出来なかったからだ。
俺は瞳の中の覚悟に魅入られ、金色の輝きを純粋に美しいと思ったのだ。
それが、何故だか少しだけ怖かった。理由は自分でも分からない。
トネスは少しだけ喉を細く鳴らすと、また口の中満杯に食べ物を詰め込んだ。
 
「ごちそーさまー」
「ごちそうさま。」
 
いつしか鍋の中身はなくなった。具材はもちろん、汁もトネスが全て飲んだ。
空になった鍋は放っておいても大丈夫だ。石と葉だけでできているからな。
いつか微細な虫たちが食い尽くして土に還元してくれるだろう。
俺達が片付けるべきは木の器と箸だけで、直ぐに後片付けは済んだ。
さて、あとは残ったドスファンゴの肉やら素材やらを背負って帰るだけだ。
そう思って俺とトネスが立ち上がると……
 
ガサァッ!
 
傍の茂みががさりと強く揺れた。
瞬間、俺達は茂みの方を素早く振り返りつつ、自分の武器を構えた。
彼女は剣を抜き、俺は弓を構えて矢筒の矢羽根に右手を添える。
 
しかし、茂みから出てきたのはモンスターではなく、人間だった。
二人組の男女であったが、男の方はまだ少年と呼べるような体つきをしている。
もちろんただの人間ではない。パッとしない装備ではあるがハンターのようだ。
トネスはそれを見て驚いたように目を見開き、剣をしまいつつ俺の後ろに隠れた。
彼女はモンスターなら平気だが、俺以外のハンターにはまだ恐怖を感じるようだった。
 
「…あれ?なんだお前…ハンターか?」
 
少年の方が俺に話し掛けてくる。
俺は弓を折り畳んで背負いながら「ああ」と短く答えた。
 
「他のハンターは誰も来てないんじゃなかったの?パーシェル。」
「俺はそう聞いたんだがな……
 って、あーーーーーーーーーッ!!」
 
男女は相談を初めたようだったが、少年の方がいきなり叫んで一点を指差した。
大声に驚いてトネスがビクッと身を震わせたのが分かる。
 
「ドスファンゴーーッ!俺達が狩る予定だったのにーッ!」
 
少年が指差した方向には、解体されたドスファンゴの残骸があった。
…ああ、なるほど、と俺は全てを理解した。
俺が狩りをしているとよくある事で、ギルドから正規の依頼を受けてやってきたハンターの獲物を、
彼らが狩る前に俺が狩ってしまう、という事態だ。
つまり俺はギルドとは関係なしに狩りを行っているので、
真っ当なハンターと獲物が被っちまうことがよくあるのだ。
 
「もしかしてお前が狩ったのか!?
 なんて事してくれるんだァァーーーーーーーッ!!」
 
少年は怒りながら俺に詰め寄る。
その怒りはごもっとも。このままじゃあクエスト失敗だろうからな。
契約金は損するし、ハンターとしての評判は落ちるし…なによりこいつは女の前で面子丸潰れだ。
それが分からんわけでもないので、俺はいつもと同じ対処法をとる。
 
「そりゃすまなかった。お前達の獲物だとは知らなかったもんでな。
 じゃあ、せめてこの大猪の牙と鼻をやろう。そいつを持ち帰ってこう報告するんだ。
 『狩猟には成功しましたが、死体は滝壷に落ちて行方が知れません。』とな。
 そうすりゃ成功報酬ももらえるだろう。」
 
こういう事があった場合、俺はいつもこうする事にしている。
女の前でこいつが恥をかくことには変わりないが、これで契約金と評判の問題は解決だ。
むしろ危険も苦労もなしに、ドスファンゴ狩猟の報酬を貰えるのだからハンターとしては得ですらある。
大体のヤツはこれで渋々(なフリで、実際はモーケタモーケタと思っている)引き下がるんだが…
 
「そーゆー事じゃねーだろテメーッ!
 なに勝手に他人の獲物狩ってんだコラッ!」
 
そう、こいつは引き下がらない。
何故ならこいつの目的は報酬や評判などではなく、
集会所でひっかけた素人女ハンターにエエカッコきめてベッドインする事だからだ。
そんな雰囲気が全身から滲み出ている。
だが、悲しいかな。このやり取りに既に女は呆れ始めていた。
 
「…小僧、お前の名前は?」
 
俺も既に呆れ始めている。こいつがいくら騒ぎ立てたって、ドスファンゴが復活するわけじゃなし。
女の心情を考えれば、渋々こちらの提案を呑んで帰った方が印象もよかろうに。
ちなみに俺の年齢は28歳。相手の少年を十分に小僧と呼べる歳だ。
 
「パーシェル・グランデ…それがどうしたッ!」
「俺はジェロス。ジェロス・ゴズだ。ゼロスと呼んでもいいぞ。
 いいかグランデ。狩られちまったものはもう戻らないんだ。
 不幸な重複があったことは悪いと思うが、事実を受け止めてくれ。
 俺はお前にとっても最良の提案をしていると思うんだが。」
「そうだよ、もういいよパーシェル。この人の言う通りにしようよ。」
 
黙ってやり取りを見ていた女も加わって、パーシェルとかいう少年をなだめ始めた。
これでパーシェルはバツが悪くなったのか、敵意を俺に向けたまま後ずさり、
ゆっくりと俺から離れて行き始めた。
ようやく、女が自分の言動に呆れてきていたのを察したらしい。
しかしまあ、これであいつのナンパは失敗したろうな…ほぼ自爆した形だが。
 
「おい、忘れもんだ。」
 
背を向けかけたパーシェルに、ドスファンゴの牙と鼻を投げ渡す。
パーシェルは忌々しげにそれを受け取ると、キッと俺の方を睨み付けてから去って行った。
パーシェルのあとをついて行った女は大きなため息を漏らし、
俺の視界から消える前に、俺の方を振り向いて一度頭を下げて行った。
女の方はなかなか殊勝なヤツだな。俺も頭を軽く下げ返した。
 
「こ…怖かったぁ〜」
 
俺の後ろに隠れていたトネスがそろそろと出てきた。
至近距離でハンターの怒鳴り声を聞けば、例えヒヨッコがピーピー騒ぎ立てる声であっても恐ろしいのだろう。
ま、見た所ハンター始めてまだ一〜二ヶ月だったようだし、分別とかはこれから身に付けていく年頃だろうな。
取り敢えずトネスの頭を撫でてやると、彼女は不思議そうな表情をしながらも、
半ば反射的に目を細めてクーと喉から細い声を出した。
 
「帰るか、トネス。」
「うん」
 
そんな彼女を見てつい微笑みが漏れる。
彼女と暮らし始めて一ヶ月。俺はすっかり彼女のことが愛しくなり始めていた。
28歳にもなって、我ながら青臭いとは思うが…
未来が幸福になりそうであればそれでいいか、とも思う。


 
「クソッ!」
ガシャンッ!
 
月明かりが照らす室内。杯が床に叩き付けられて跳ね返り、宙を舞った。
底に少しばかり残っていた酒が飛び散るが、彼の顔面にかかったのは微々たるもの。
彼は苛立たしげにそれを掌で拭き取ると、その掌をそのまま机に叩き付けた。
衝撃で机の上のものが震え、酒瓶が倒れかける。
 
彼ことパーシェル・グランデは大いに荒れていた。
理由はもちろん、昼間会ったジェロスとのことだ。
彼はジェロスと別れて帰ったあと、報酬は手に入れる事が出来たが結局あの女にフラれてしまった。
見ず知らずの人間に対してあんなに怒鳴り散らし、しかもその恋人と思しき女性を怯えさせる。
これだけでも、女が彼を振る理由としては十分だったのだ。
パーシェルは少年であったが、その美貌は大したもので、今まで一度としてしくじった事はなかった。
兄達からは「モンスターよりも女を狩る方が上手い」とさえ言われており、
本人もすっかりその気になって、味わった女達の話を友人に自慢する度に悦に浸っていた。
そんな彼が、人生初めての黒星をつけられたのである。
その屈辱たるや凄まじい。この俺様を振った女も女だが、あの女はもう少しで落ちる所だった。
あの野郎さえいなければ、今頃あの女は俺の新しい『親密な友人』になっていたに違いない。
彼は本気でそう思っていた。
 
憎しみが生まれ、振られた原因が転嫁される。
自分が振られたという事実を認めたくなくて、責任をなすり付ける。
自分が振られるわけがない。振られたのはあの野郎のせいだ。
この俺にこんな屈辱と恥をかかせやがって。絶対に復讐してやる。
彼は本気でそう誓っていた。
 
「…しかし、どうやる…?」
 
彼の苛つきの原因の半分がこれであった。
獲物を横取りした(彼はそう思っている)あの野郎は間違いなく熟練ハンターだ。
ハンターとして日が浅いとはいえ、それぐらいの事は彼も見抜けるようになっていた。
ならば真正面からかかって行っても返り討ちに遇うし、チャンスを待つのは性に合わない。
かといって謀略を練るのも、単純な思考の彼にできる事ではなかった。
闇討ち不意討ちも、相手のことを調べ上げてからでなくては迂闊に行えない。
彼はなるべく早くこの怒りと苛立ちを、憎いあの野郎に叩きつけたかった。
要するに、自分がスカッとすれば良いのである。
彼はどうすれば自分がなるべく早く満足するのか、考えに考えた。
 
「…待てよ、そういえば…」
 
そして、一つの結論を導きだした。
彼の脳裏にあるのは一つの光景。
あの野郎がドスファンゴの牙と鼻を投げた時、
その体の陰から、一人の女が顔を出していた。
今思えば、あいつは今日取り逃がした女よりも良い女だった。
 
パーシェル・グランデ。
今宵の月明かりがもう少し強ければ、
彼が浮かべた下卑た笑みがはっきりと見えただろう。
彼はすぐに立ち上がると、玩具を探す子供のようにアイテムボックスを漁り始めた。
 
暫くして彼がボックスから取り出したのは、彼の兄から貰った睡眠袋だった。
そして、明日自分がすることを想像し、彼は悪魔のように口の端を吊り上げた。

<続く>
2010年08月18日(水) 08:54:13 Modified by gubaguba




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