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孤独を知らない男・第十六話

スレ番号タイトルカップリング作者名備考レス
12『孤独を知らない男』:第十六話男ハンター×擬人化ドスゲネポス・擬人化ディアブロス亜種孤独の人擬人化(ドスゲネポス、黒角竜)・否エロ494〜499

『孤独を知らない男』:第十六話


低く、猛る咆哮。怒りに震える赤い影が跳ぶ。
月光に照らされる牙と、青色の瞳が闇の中で光り、覆い被さるような爪が襲い掛かる。
極限まで身を屈めても、その巨体は帽子を掠り、風圧だけで吹き飛ばされそうになる。
が、やられるばかりではない。
頭上を通り過ぎていく巨体に向けて刃を振るい、後ろ足を斬り付けた。
態勢が悪かったため大して深い傷にはならなかったが、ダメージにはなっている。
 
大きな影と小さな影。二つはかれこれ2時間も戦い続けていた。
双方とも疲労とダメージは極致に達しつつある。
大きな影は左目を潰され、尻尾を切られ、翼爪を折られており、全身に斬傷が広がっていた。
一方、小さな影は疲労が限界に達しており、全身の筋肉が震え、整えようもないほどに息が荒い。
 
即座に振り向き、向かい合う両者。
最早、その足を支えているのは互いに気力のみであった。
が、形勢は若干、小さな影の方が有利であった。
大きな影は、その巨大さ故に小さな影を完全に捉える事が出来ないのである。
とはいえ、その無限に近い体力は、小さな影の疲労を促し、だんだんと動きを鈍らせていった。
 
小さな影がよく使う戦法は、ヒット&アウェイのように逃げること。
一旦逃げれば、薬を持つ自分の方が回復は早い。
体調を万全にしてから、同じく逃走を謀る筈の大きな影を追跡し、
大きな影が休息をとるために地上に降り立ったらまた戦う。
これを繰り返し、相手に十分な休息の間を与えず、持久戦で討ち取るのが彼の常套手段だった。
追跡に関しては、飛び去った方向、血の滴、新陳代謝による排泄物や地理的条件などを手掛かりにできる。
ここからの逃走は、まさに小さな影にとっては鉄板の戦略だ。
 
が、それは許されていない。
何故なら小さな影は、ここで死ぬ事が既に決定されている。
ここでの死が、小さな影の運命であり、望みなのである。
許されているのなら、とっくのとうに逃げていた。
それにそんな悠長な事をしていたら、村を襲うまでに大きな影を殺し切れないかもしれない。
それが分かっているから、小さな影は逃げない。ここで決着をつけるつもりだ。
 
大きな影が、息を吸い込みながら首を持ち上げた。極炎を吐き出す予備動作である。
普段なら大きく掲げるように持ち上げるのだが、体力を消耗しているためか、殆ど持ち上がっていない。
そこに、一瞬の勝機があった。
小さな影は刮目し、大きく体を後ろへ引いた。
 
そして、一筋の光が飛んだ。
真直ぐ進んだそれは、見事に大きな影の口腔に入り、大きく開いた気道を通り抜け、直接内臓を串刺した。
小さな影が投擲した太刀は、見事に大きな影の命に届いたのである。
最早咆哮を発する事も出来なくなった大きな影は、そのまま苦しげに呻きながら倒れ、
少し経つと全く動かなくなり、瞳から命の輝きは消えた。
 
小さな影は息を切らしながら、倒れた大きな影に近付いていった。
大きな影──炎王龍は既にして死んでいる。
そう、俺が殺したのだ。
俺はドキドキノコを懐から取り出し、その亡骸にそっと添える。
目を軽く瞑り、荒い呼吸のまま祈りの言葉を心の中で読み上げた。
体力はとっくに限界を超えていたが、最後の仕事だ。
きっちりと為遂げたい。
 
全ての仕事が終わり、俺はゆっくりと振り向いた。
そこにあるのは、黒い人影。顔も姿形も闇に紛れているが、俺に弓を引いていた。
ここからでも弦の軋む音が聞こえ、首にひりひりと殺気のような熱を感じる。
そしてその時は、訪れる──
 
鏃に反射する月光が、俺の視界を埋め尽くした──

「……………」
 
そこで、目が醒めた。
どうやら飛び起きたようで、上半身が起き上がっている。
周囲を見回すと、ここは見慣れた寝室だ。
隣にはトネスの寝顔と、すぅすぅと抜けるような可愛らしい寝息。
 
…夢、か。いや、夢じゃないな。これは明日から実現する事柄だ。
トネスを起こさぬようベッドから出て、服とローブ、帽子を身に着ける。
ひどく汗をかいてしまっていたが、季節はあと数十日で寒冷期だ。
明け方の低気温なら、外に出てローブを脱げば乾くだろう。
俺はため息をついてから、外へ出ていった。
 
少し朝もやの張った、冷たく静かな空気。
今年は、早くから冷え込みが始まっているようだ。
だからこそ、炎王龍が火山から出張って来たのかもしれない。
暫く火山に篭るから、後もう一度だけ自分の活動区域を飛んでみよう、と。
もしそうであれば彼は全く無害である。ただの散歩のつもりならば。
が、そう断定する事は不可能だ。だから俺が狩らねばならない。
 
職業というものは、時として矛盾を孕む事がある。
それは理解しているし、殊更に追及するつもりもない。
しかし思わずにはいられない。ハンターとは因果な稼業だ。
俺は裏手に回り、空き地を超えて川へと向かった。
朝起きたら、川で顔を洗うのが日課である。狩りの時以外は一日たりとて欠かした事はない。
 
精妙で、穏やかなるせせらぎ。
朝もやの中を、時間から取り残されたかのように静かに流れる川には、一種の幽玄さすら感じられた。
この川とも、明日になればおさらばだ。
ローブを脱いで傍に畳み、その上に帽子を置くと、膝をついて両手を差し入れる。
キンと刺すような冷たさが両手を伝わり、腕を伝わり、火照った脳まで届くような気がした。
汗の乾きにより熱かった体が、急速に冷めていく心地よい感触。
両手を椀のようにして水を掬い上げ、零れない内に顔に叩き付けた。
 
思わず、大きなため息が漏れた。この心地よい冷気に集中するように、深く。
──失いたくない物が、多過ぎる。
事ここに至るまでは歯牙にもかけなかったものが、実際は重要なものであった事に今更気付かされる。
 
いや、ここで決心が揺らいでどうする。
俺は心に灯った青い種火を消すように、何度も川の水で顔面を打った。
 
「師よ。」
 
そんな中、後ろから声をかけられた。
この声はディアか。顔を洗う手を止めるが、振り返りはしない。
 
「ディアか。」
「ああ…」
 
俺はよほど夢中で顔を洗ってたようだな。
後方からのディアの接近に気が付かないとは。

「どうかしたか?」
「師の、様子が…少し、おかしかったから…」
 
……どうやら、ディアを起こしたのは俺だったらしいな。
流石は元角竜と言った所か。中々に鋭い。
ならば、こいつには話しても良かろう。
トネスを託すなら、いずれは話さねばならないしな…
 
「……明日、古龍討伐に単身で砂漠へ赴く。
 村長から…いや、ギルドからそうお達しがあった。」
「…ギルドから…?」
「ああ、そうだ。」
 
勘がいいこいつなら、それが何を意味するかは理解できるはずだ。
ギルドとゴズ家の対立を、こいつは理解し始めている。
そこに由来するゴズ家の宿命と因果関係に関しては、まだ理解できていないようだが、
ギルドが俺を殺したがっている、という事実には気付いているだろう。
 
「…死ぬ、のか…?」
 
ディアの声は微かに震えていた。
その声が一層強く、今日の夢が現実となる未来を俺に突き付ける。
 
「ああ、恐らくな。
 だからディア…お前は村長と一緒にトネスを世話してやってくれ。
 ギルドの目的は俺一人。俺が死ねばトネスに危害は及ばんだろうが、一人きりでの生活は辛かろう。
 トネスの生活を補佐し、支えになってやってくれ。」
「トネスが、悲しむ…」
「悲しんだとて、どうにもならん事はある。」
 
帽子とローブを拾いながら立ち上がり、ゆっくりと身に着ける。
己の心の内を曝け出してしまわないように、ゆっくりと。
自分の言葉を最も否定したいのは自分だ、とバレてしまわないように。
 
「ディア。お前は他の武器はからっきしだが、ランスの扱いは既に一人前だ。
 一族の槍術は種類が少ないからな…お前に教えるべき事はもう無い。
 後は自分なりの戦い方を身に付けていけばいい。要は免許皆伝ってヤツだ。」
「でも…そんな、いきなり…」
「物事は全ていきなりだ。いきなり生まれ、いきなり死ぬ。
 俺も、ただそれだけの事だ。」
 
ディアの声に、言い様のない悲しさが含まれている事に気付く。
しかし、それを受け止めてやる時間はもう無い。
できる事は、師としての助言のみだ。
 
「……ひど、すぎる…」
「ああ、全くもって酷過ぎる。」
 
ギルドも、掟も、宿命も。
全てがゴズ家の人間を縛り付けてきた。
のたうち、苦しみ、足掻き、最後には全てが無駄と成り果てる。
彼らは何度、その運命を呪った事だろう。
彼らはいかにゴズ家を愛し、同時に憎んでいたのだろう。

「だが、抗う事は出来ん。」
 
俺は、全てを噛み殺し心の奥底に封印しろ、とディアに言っているのも同然だった。
ディアの想いには既に気付いている。トネスとの出会いのおかげで、女心の機微が分かるようになって来たから。
だからこそ、哀れだと思う。
結局、ディアの手は何一つとして目標の物に届かないのだ。
彼女に残るのは、小柄な体には大仰に思える大槍と、戦闘の技術だけだ。
 
そんな事を考えていると、俺は上流からある物が流れてくる事に気付いた。
それを発見した時、正直言って俺は少し驚いたが、
次の瞬間には「ああなるほど」と納得していた。
 
「そういう事だ、ディア。無理矢理にでも納得してくれ。
 これは誰にも止められない運命なのだ。」
「………分かっ、た…」
 
ディアは何かを堪えているようだったが、それは彼女にしてみれば恥ずべき事だろう。
それは、他人に己の弱さを見せつけてしまう事になるのだから。
彼女はそれを隠すため、声を詰まらせながら茂みへ入く。
しかし茂みが揺れ、葉の擦れ合う音が、彼女の心中の動揺を現していた。
 
「トネスには──俺から言っておく。悟られるなよ。」
「…う、ん…」
 
なんと辛い事を強いなければならないのだろう。
ディアは、悲しみのままに泣き叫ぶ事が出来ないのだ。
心の中に溜め込んだ物を、一切吐き出してはならないのだ。
その淡い想いも、胸を引き裂かれそうな悲しみも。
全てを呑み込み、不可能と知りながら忘れ去ろうとしなければならないのだ。
 
「…すまん…」
 
俺の最後の呟きは届いただろうか。
ディアはもうすっかり、立ち去ってしまっていたようだった。
 
次は…と俺は左腰のナイフに手を添え、ゆっくりと後ろを振り向いた。
さっきまでディアが居たであろう場所には、黒く老いた人影が立っている。
その隻眼と、顔に刻まれた深い皺には見覚えがあった。
 
「随分と、味な真似をしてくれるな。毒はもう抜けたのか?ドン。」
「………ふん…」
 
その人物こそ、ギルドナイト・ドン・グランデ。
先ほど上流から流れて来たのは、ギルドナイトの紋章が刻まれた木の皮だった。
こいつはこいつなりに、それで気を遣ったつもりなのだろう。
 
「ジェロス…今回の古龍討伐の真の狙い、知ってたのか?」
「ああ、薄々はな。」
 
二日前、ギルドに潜入してる従兄弟から手紙があった。何やら様子が変だ、と。
そこに今回の計画の概要などは無かったが、暗殺の存在を示唆するような文であった。
恐らく従兄弟も、漠然とした「何かヤバそう」という気配を察知したのだろう。
おかげで、村長に呼ばれ、古龍討伐を依頼された時に全てが理解出来た。

「もしかして、報せようとしてくれたのか?」
「………ああ、そうだ。」
 
今回の古龍討伐を利用した暗殺に、ドンは絡んでいないと俺はみている。
ドンに再び暗殺が任されたなら、今回はヤツ自身が直接乗り込んで来るだろう。
恐らく、こいつはそういう男だ。決着は自分の手でつけたがるタイプだろう。
だから今回のことは、別のギルドナイトが考案した計画である公算が強い。
しかしそれにしたって、それをわざわざ報せに来るとは。案外殊勝なヤツだな。
 
「そいつは有り難いな…じゃあ、一つか二つ、教えてもらおうか。」
「計画以外の事か?」
「ああ、そうだ…まず一つ目。
 俺が死ねばトネスたちに危害は加えないんだな?」
「無論だ…ギルドの目的はジェロス、お前ただ一人。
 ヤツらは面倒も、ばらまく金も出来れば最小に済ませたがるからな…」
 
それを聞いて、少しだけ安心した。
俺の目論見はやはり、外れなさそうだ。
 
「そうか…なら次、だ。
 現地に派遣される暗殺者の中に、ギルドナイトはいるか?」
「いや、いない。全員ただの雑魚暗殺者だ…
 この方法はかなり成功率が高いからな…奴さんは成功をすっかり確信してる。
 …何故、そんなことを?」
「やっぱり、一泡ぐらいは吹かせときたいからな。」
 
前回の暗殺騒ぎの時、俺は身に染みて痛感した。
このままではトネスを死なせてしまう、と。
必ず戦いに彼女を巻き込んでしまう事になる、と。
ならばその前に、俺が死ねばいいのだ、と。
ただ別れるだけでは、ギルドは彼女を人質にとるだろう。
彼女が平穏に暮らせるようになるには、やはり俺が死ぬ以外にない。
彼女の安全のために、殺されること。それが俺の目論見だった。
が、それでも…相討ちぐらいにはなって、最後の意地を見せつけてやりたい。
歴代のゴズ家当主が、そうしてきたように。
 
「ま、それも宿命だ。」
 
恐らくこれまでの当主たちも、同じことをして来たはずだ。
大切なものを守るために、相手がモンスターであれ人であれ自らを殺させる。
心の奥底では、その大切なものとの平穏なる生活を望みながら。
みんな、泣き言一つ言わず黙って死んでいったのだ。
無念、悲哀、憤怒、憎悪、愛情、願望、歯を喰い縛ってその全てを堪えながら。

「それより、お前こそいいのか?
 お前の孫を俺が殺すかもしれないんだぞ。」
「……あんな愚かな孫など、どうでもいい。」
 
暗殺者の一団の中に、ゴーラスが混ざっている可能性は高い。
弟を殺し、半殺しの拷問に遭わせたおかげで、ヤツの憎悪はピークに達しているはずだ。
前回と同じように、暗殺者と共に俺に襲い掛かってくるだろう。
そして俺は今度こそ、それを躊躇い無く殺すだろう。
 
「…ジェロス。俺は今非常に歯痒い気分だ。」
「だろうな。
 だが、誰がどう足掻いたところでどうしようもない事だ。
 トネスを危険に曝すことは、やっぱり俺には出来ないからな。」
「俺は、お前のためにしてやれる事があれば、叶えてやろうと思っている。」
「じゃあ…あんたに頼めば、一番確実だろうな。
 トネスにギルドの手が及ぶようであれば、さり気なく守ってやってくれ。」
 
ドンはニヤリ、と笑んだ。
苦笑いでも嘲笑でもなく、少しだけ嬉しそうな笑みだった。
 
「承知した。お前に出会えて光栄に思う、ジェロス・ゴズ。」
「俺もだ、ドン・グランデ。」
 
たった二度の邂逅で、その上歳も30は離れている俺とヤツだったが、
男同士として、ハンターとして理解し合えている感触があった。
もう少しましな形で出会っていたら、友になれただろうな、とぼんやり思う。
 
「さらばだ、戦士よ。」
「ああ、地獄で待ってる。」
 
短くそう交わすと、ドンの姿は一瞬で消えた。
そこで俺は、川のせせらぎに小鳥の鳴き声が混じり始めていたのに気付いた。
顔に僅かばかり残っていた水滴を手で拭き取り、満足げに息をつく。
 
やり残した事は多いが、あまり悔いも心配も無く死ねそうだ。
あと、ただ一つのことを解決すれば……
 
帽子を深く冠り直してから、俺は歩き出した。
愛しのあいつがいる我が家へと向かって。
愛しのあいつに別れを告げるため。
 
死への猶予は、あと一日。
明日、彼女の全てが始まり、俺の全てが終わるだろう。

<続く>
2010年08月21日(土) 10:52:06 Modified by gubaguba




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