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孤独を知らない男・第二話

スレ番号タイトルカップリング作者名備考レス
11『孤独を知らない男』:第二話男ハンター×擬人化ドスゲネポス孤独の人擬人化(ドスゲネポス)・微エロ557〜565

『孤独を知らない男』:第二話

 
 
 
夜の砂漠を黒い背ビレが走っている。
粒子の細かい砂の大地を黒い巨体が泳いでいるのだ。
そのモンスターの名はドスガレオス。
砂の中を泳ぐ砂竜ガレオスの群れのリーダーだ。
普段は悠然と砂の中を泳ぐだけの生物だが、いま彼は追い立てられるように泳いでいる。
いや、実際に彼はゲネポスの群れに追い立てられていた。
 
普通、ゲネポスがガレオスを襲うことはめったにない。
砂の中にいる凶暴な砂竜を襲うよりは、アプケロスを襲った方がリスクは少ないし、
もし狩れたとして、その疲労に見合うだけの可食部をガレオスは有していない。
ガレオスをゲネポス単体で狩っても、苦労のわりに実入りは少ないというわけだ。
ハンターですら、ガレオスには特殊な狩猟法を使わねばならないほどなのだ。
ましてや道具を使えないゲネポスには荷がかち過ぎる。
 
「来い来い来い来い来い来い……」
 
俺は太刀を構えたまま、こちらに接近してくるドスガレオスの背ビレを睨むように凝視する。
ここまでは順調。ゲネポスたちが俺のいる方向に上手くドスガレオスを誘導してくれている。
そう、確かにゲネポスたちだけでは骨が折れるガレオス狩り。
しかし、実際の戦闘を行うのが他者であるならば、彼らの危険と苦労は激減する。
そして彼らがドスガレオスの動きを制限してくれれば、俺の苦労も半減だ。
 
ドスガレオスのヒレが俺に向かって迫る。
ゲネポスたちは大声で鳴きながらそれを追い立てる。
普通のハンターならばここで背筋に汗でもかくところなのだろうが、今、俺は手汗すら滲み出ていない。
精神は分子単位まで研ぎ澄まされ、緩やかな脱力すら感じている。
俺の意識は肉体を離れて全てが切っ先に集約され、
今の俺の肉体はタンパク質の塊ではなく、澄んだ光を放つ刀身の方であった。
まさしくその一瞬、俺は刃そのものとなっていた。
 
「! ここだッ!」
 
そして、追い立てるゲネポス達がパッと左右に散った直後、
俺は太刀を逆手に握り直し、切っ先を地面に向けたまま頭から飛び込む。
ドスガレオスのヒレに触れぬよう、狙うのはヒレのすぐ横だ。
 
ドォォォォォォォーーーーーーーーンッ!!
「アギャアアアァァァァァーーーーーーーーーッ!!」
 
俺の全体重をかけた太刀の刃が全て砂の大地に突き刺さった直後、
俺のすぐ後ろの砂が大爆裂し、巻き上がる大量の砂とともにドスガレオスが飛び出した。
瞬間、断末魔のような叫びがだだっ広い砂漠に隅々まで響き渡る。
俺はすぐに太刀を引き抜いて前方に転がり、落ちてくるドスガレオスを回避。
それから直ぐに立ち上がって後ろを振り向いた時、ヤツはもう瀕死の状態だった。
背ビレの根元に深々と刃を突き刺された上、自分が突進する勢いで傷口は更に抉れている。
傷口としては、まるで大剣の刃がすっぽりと隠れそうなほど大きい。
 
俺はふぅ、と安堵のため息を漏らすと、ドスガレオスの前方に回り込む。
ぐったりとした表情は、もうこいつの命があと少しもないことを証明し、
荒い呼吸と大きく波打つ背中は、その苦痛の大きさを示していた。
 
「…すぐ楽にしてやる。」
 
苦悶に喘ぐドスガレオスがあと一撃で絶命するよう、
俺は太刀を大上段に構え、狙いを定めて一気に振り下ろした。
刃は保湿性に優れた鱗を破壊し、すんなりとドスガレオスの首を斬り落とした。
ドスガレオスの体は一瞬だけビクンと跳ねたが、直ぐに動かなくなり、
吹き出た血は俺の顔と鎧にかかったが、俺は目をつぶらなかった。
 
「ふぅ…今度のは小さめのサイズだな。」
 
太刀に付着した血を拭き取り、顔に付いた血もぬぐい取る。
血の異臭が鼻をついたが、とっくのとうに慣れた臭いだ。
それよりも、やるべき事がある。
俺はいつものように太刀を地面に突き刺し、剥ぎ取りナイフを取り出す。
既にドスガレオスの骸にはゲネポスたちが集合しつつある。
早いとこ、こいつらに分け前を与えてやらねば。
 
「アギャアァァーーーーーーーッ!」
 
そう、俺の注意はドスガレオスの死体に集中していた。
早くこいつらに分け前を与えてやりたい、と思っていた。
 
それがいけなかった。
 
突如、俺の右後方からガレオスが飛び出し、俺の左腕に噛み付いた。
まったくの不意打ちだった。目的を達成して気が弛んでいた。
まずい。このままでは砂の中に引きずり込まれる。
俺は咄嗟に太刀に手を伸ばした。
そして幸運にも、その手にしっかりと柄を握る手応えを感じた。
 
「ふんッ!」
 
俺に飛びついた勢いそのままに砂中に潜ろうとするガレオスに、すんでの所で峰打ちを喰らわせる。
峰打ちとは言え、熟練者の技はそれだけで人を殺す事もできるという。
胴を打たれる激痛に、ガレオスは空中で思わず口を開いて叫んだ。
つまり俺の左腕は解放されたのだ。ガレオスはそのまま砂漠に潜る。
 
「うぐッ…つぅ…!」
 
砂漠の上に転がるように倒れ込んだ俺は痛みに顔を歪めた。
一瞬だけだったが…間違いない、ありゃメスだ。
恐らくこのドスガレオスの番だろう。俺は見事に一矢報いられてしまったわけだ。
だがそれよりも左腕の怪我の処置だ。
この場所では危険だから、いつもの場所に行くしかないだろう。
ゲネポスたちに肉を切り分ける事は出来そうもない…
俺は左腕を庇うようによろめきながらも立ち上がった。
 
「…悪いな、今日は綺麗に剥ぎ取られた肉はなしだ…
でもドスガレオスぐらいなら、お前達の爪と牙で引き裂けるだろう…
今日の獲物はお前達で自由にしろ…お前達の獲物だ…」
 
一連の出来事を呆気にとられて見ていたゲネポスたちにそう言うと、
俺は太刀の刀身を歯で挟み、斬り落としたドスガレオスの首に向かって手を伸ばす−−
 
「…ん?」
 
−−ところで、アイテムポーチが開いてしまっているのに気付いた。
さっき噛み付かれてぶっ倒れた時に開いちまったか…
ざっと適当に中を眺めてみても、特になくなったものはない。
というより今重要なのは回復薬だけだ。それさえあればあとはどうでもいい。
俺はアイテムポーチの中身をろくに確認せず、さっと閉めるだけをした。
そしてドスガレオスの首を右手で掴んでヨロヨロとその場を去っていく。
 
ゲネポスたちは俺が離れると、早くもドスガレオスの死体を貪り始めた。
それでも俺はその方を振り向かなかったので気付かなかった。
仲間が夢中で食事をしている中、唯一去っていく俺を見ていたトネスの視線に。
 
 
「…ふぅ……ったく、やっちまったぜ…」
 
誰に言うでもない呟きを漏らしながら、左腕の装備を外していく。
俺が今いるのは、巨大な岩盤に空いた小さな洞穴の最奥だ。
洞穴は深くまで続いているがたいして広いものじゃない。狭い洞穴とさえ言えるだろう。
俺がただ立ち上がるだけで天井に頭がついちまうからな…
で、この洞穴は小さな窪みが風によって削れて深まったものであるらしく、
非常に狭いため、モンスターが殆ど侵入してこない。
来訪者と言えば砂嵐を避けに来るゲネポスぐらいだが、
この辺りのゲネポスの縄張りは俺と親交のあるあの群れのものだ。
そいつらでさえ、さっきドスガレオスを与えてやったから暫く巣から動くまい。
水辺からも離れているのでヤオザミも来ないし、まさにこの洞穴は俺にとっちゃベースキャンプよりも安全だ。
狩りが長引いたときはここで寝泊まりする事もしょっちゅうである。
 
「…おいおい、思ったよりひどいな…」
 
俺は怪我の具合を見て思わず顔をしかめた。
ちょうど篭手の隙間から牙が入り込んできたようで、
肘の辺りに深く抉れた傷があり、そこから白い骨まで覗いていた。
俺はアイテムポーチを開いて中を弄り、回復薬を探す。
 
そこでやっと気付いた。モドリ玉がない。
帰りの馬車は明日に来てもらう手筈だったから別にいいんだが、おいおい…帰るのが面倒くせーな。
俺はギルドの設定する制限時間に縛られないから何日でも狩りを続けられる。
最長でテオ・テスカトルを砂漠から火山まで40日間追跡し続けた事もある。
その時は流石に帰還に馬車は使えなかったが、普段はベースキャンプで帰りの馬車と待ち合わせをするのだ。
だからモドリ玉があると、帰るのにラクなのである。
 
俺は舌打ちをしながら、取り敢えず回復薬を取り出して傷口にかけ、残ったものを一息に飲み干す。
それからおもむろにドスガレオスの頭を右手で持ち上げると、
切断面からその肉を噛み千切って咀嚼を始める。
味については触れないでおこう。大事なのは栄養補給だ。
回復薬は失った血液までは元に戻せない。
ドスガレオスの頭はこのために持って来ておいたのだ。
固い肉を呑み込むと、俺は再びドスガレオスの頭にかぶりつく。
 
そしてドスガレオスの頭を食い尽くして腕に包帯を巻くと、俺は壁に背を預けたまま眠った。
 
 
まどろみから熟睡に入り、熟睡は夢を作り出す。
微かにぼやけた世界の中、俺は見知った我が家の中にいた。
この夢なら記憶がある…俺が8歳の頃の記憶だ。
 
まだクソガキだった俺の目の前には一つの死体が倒れ伏している。
黒装束に身を包んだ死体で、パックリ割れた頭部からは脳みそがこぼれ出て、
出血は止まらず、床に広がる血溜りを更に大きくしていく。
その死体は竜などのモンスターではない。人間だ。
しかしこの男のことを俺はなにも知らなかった。
 
『これが宿命だ。』
 
俺の隣、遥か頭上からやたらと響くような声が聞こえた。
その声の主の方を見ると、そこには40代ほどの精悍な男が立っていた。
男の右手には太刀が握られており、その切っ先から血が垂れている。
この男のことを俺は知っている。
 
『目を逸らすな、息子よ。』
 
隣の男にそう言われると、俺は死体の方に目を移した。
そう、俺の隣に立っている男は俺の親父だった。
俺に戦闘術と家系の信念を叩き込み、男手一つで育て上げてくれた男だ。
家族として、人間として、狩人として尊敬していた男だ。
52歳の時にキングサイズのラージャンと相討ちになって死んだが、
存命中、3度ギルドからの暗殺者に襲われたらしく、その内の一つの現場を俺は目撃したことがある。
 
『この死体こそが、俺達の家系の信念の証だ。
ギルドとの戦いは俺達の歴史でもあった。
だがどんな圧力も俺達には通じない。』
 
親父は太刀に付着した血を拭い取る素振りすら見せず、俺と一緒に死体を見下ろしている。
俺は釘付けになったように、死体をずっと見ていた。
今思うに、親父の目を見るのが恐ろしかったからそうしていたのだと思う。
死体を見下ろしながら話す親父の声は、ぞっとするほど冷たかったから。
 
『ギルドにあるのは、管理と名のついた欲望と傲慢だけだ。
そもそもハンターの一人一人が自然の力を意識し、己の存在を対比して量る事ができればギルドなどいらない。
欲望を抑え、自然の力を尊敬し、寄り添えば自然は永劫の恵みを与えてくれる。
しかし人間の欲望が抑え切れないから…ギルドなるものが誕生したのだ。
ギルドがハンターの欲望を監視し、抑制する、とな。
だが、その実情はこうだ。既にギルドは単なる権力主義集団でしかない。
そしてこうなる事が分かっていたから、俺達の御先祖様は昔ながらの狩りを続けたのだ。』
 
親父の声はなぜ冷たかったのだろうか?
何かに対する怒り…いや、そんなもんじゃない。
これはもう憎しみと呼んでいいかもしれない。
ただ、目の前にある死体に向けられたものではないようだ。
当時の俺はそんなこと全く気付かなかったが…今なら、分かる。
親父は俺に語りかけながら、同時に何かをとても憎んでいた。
 
『だからよく見るのだ、息子よ。
これが掟。これが俺達と彼らの宿命なのだ。』
 
親父はそれきり喋らなかった。
俺はいつまでもいつまでも死体から目が離せず、二人はずっとそこに立っていた。
その間、俺は一度も親父の目を見る事は出来なかった。
 

唇に柔らかな感触と、微かな湿り気を感じて俺は目を醒ました。
最初に意識が覚醒し、目をつぶったままウーンとうなる。
一日寝たにしては…どうもスッキリしない感じだな。
それに、なんだこの感触…?
 
「キュ?」
 
俺が怪訝に思って瞼を開くと、キョトンと俺を見つめる女の顔が眼前にあった。
砂漠のような色合いで、指を通せば砂粒のようにさらさらと流れそうなショートヘア。
若干幼さを持ったような面持ちに、くりっとした目の中で光る金色の瞳がチャーミングな顔だったが…
 
「………誰だお前…?」
 
もちろんの事ながら、それらの情報を受け取る前に俺の脳は混乱した。
壁に背を預けて座っているような態勢の俺の眼前に、その顔があるってことは…
この女は四つん這いになっているようだ。
だが、この女に関するそれ以外の情報はまったく分からなかった。
そもそも近過ぎて顔しか見えない。
 
「クー」
 
しかし、女は俺の質問には答えない。
どうやって出してるのか見当もつかない音を、喉を鳴らして作りつつ、
微笑みながら俺の顔に鼻やら頬やらを擦り付けてくるだけだった。
スベスベとした瑞々しい肌との摩擦そのものは心地良いのだろうが…
この状況でそれを堪能できるほど、俺は冷静じゃあなかった。
 
「いや、だから誰なんだお前は。」
 
俺が壁から身を乗り出すと、それに押されるようにして女が下がり、
女はそのまま四つん這いの態勢からぺたんと正座のような格好になった。
 
そこで俺は、女が全裸であり、同時にその容姿が人間離れしている事に気付いた。
 
まず、全裸であるのは置いておくとしてだ(重要な問題ではあるが)。
女の後頭部には、見覚えのあるトサカが二つ一組になって髪の毛の下から突き出ており、
体の各所(主に背部)にはまるで刺青のように、縞と斑が合わさったような模様がある。
肌色は若干黄色がかっているが、常人に比べて白い方だ。
更に、あくびをした時に牙が口から覗いたような気もした。
この姿…トサカにこの模様…まるで…
 
「ドスゲネポスみたいじゃあねーか…」
 
あり得ない事だとは分かっていても、つい呟いてしまった。
それ程、目の前の女はドスゲネポスをそのまま人間化したような姿だった。
しかし俺にも常識がある。いくら何でも目の前の女は人間だろう。
どんなに人間離れした姿でも、大部分は人間であるのだし、あの模様もきっと刺青だ。
俺はそう信じて、女に対して更に質問をする。
まあ、読者の方々はもう何十回と見たやりとりだろうが…
 
「お前………名前は?」
 
この質問には、「まさかだよな?」という俺の気持ちも入っていた。
俺は心のどこかで、この女が本当は…本当は『あいつ』なんじゃあないかと思っていた。
ただあまりに常識離れの事なので、可能性を否定しようと思考しただけだ。
そして女は、俺のその常識を見事に破壊してみせた。
 
「トネス。会いたかったよ、ジェロス。」
 
まだ夢の中なんじゃあねーか?
それにしちゃあ、全く関連性がないな…
女の言葉を聞いた瞬間、俺はそんな事を考えていた。
しかし、左腕の傷の疼きは、これが現実である事を教えている。
 
「…嘘だろ?」
「嘘じゃないよ。」
「いや、嘘だろう。」
「嘘じゃないったら。」
「嘘に決まってる。」
「じゃ、証拠見せる。」
 
女は胸に手をあてて喉をんん、と鳴らしてから…
なんとドスゲネポスが相手を威嚇する時特有の、低くもあり高くもある声を出した。
その微妙な音程、響き具合、そして人間に真似できない発声法。
どれをとっても、紛れもなくこの声は聞き慣れたトネスの声だった。
しかもトネスは三日前、モノブロスの肉を分けてもらって頭と首を撫でてくれた事。
その際にトネスの口を俺の手が制した事などを話した。
あの場面は確実に他のハンターからは見られていない。
見られていてもあの広い砂漠だ。最初に俺が覗きの存在に気付くだろう。
 
「お…おまえ…本当にトネスなのか…?」
「クー」
 
喉を細く鳴らしながら、目の前の女はニコリと微笑んで首を縦に振った。
その仕草と声も間違いなくトネスのものだった。
そして俺は「ジーザス」と呟いて十字を切りたくなった。
モンスターが人間に?
………何故? どうして?
 
「…何故だ?」
 
俺は思った事をそのまま口にした。
というか、それ以外にどうすればいいのか分からなかった。
 
「モドリ玉…」
「…え?」
 
最初、トネスは少し恥ずかしそうに呟いた。
俺はつい聞き返してしまったが、トネスは調子を変えずに説明を続けた。
 
「モドリ玉…さっきのドスガレオスの死体の傍に落ちてた…
それ踏んずけて…中の緑色の煙吸ったら、こうなった…」
 
モドリ玉…なるほど、ドキドキノコか。
あのキノコにはわけわからん成分がたっぷり入っている上に、その成分比率で効果がまるで違うと来てやがる。
しかしこんな効果もあったとはな…何か狩りに利用できないだろうか…
俺はそんな事を考えるまでに、もう落ち着きを取り戻していた。
そして落ち着きを取り戻すと、人間になったトネスの体に自然と目がいった。
 
そこそこ豊かに実りながらも、垂れ下がらず、乳首を軽くピンと上に向けている乳房。
鳥竜特有の、肉付きが良くもキュッと閉まった張りのある足。
色っぽくくびれた腰に、瑞々しい肌。
特に足なんかは、スレンダーな部類に入りつつも、男の肉欲を十分に刺激してくれるぐらいの肉があり、
この脚線美だけでも男をノックアウトさせられそうな魅力があった。
全体的な体つきは20代前半といったところだが、
まだ幼さを残す顔がその体と妙にマッチしているように感じられた。
これは掛け値なしに、美しいと言える姿だろう。
 
だが、彼女は俺の性の対象にはならないだろう。
獣なんかに発情してたまるか、という気持ちからではない。
彼女に対する尊敬の問題からである。
彼女はあくまで俺の尊敬対象であって、好きとか嫌いとかの次元ではないのだ。
 
「でも…」
 
なんて事を考えてる内に、トネスは少し言い出しづらそうに呟いた。
 
「わざと、なんだけどね…」
「は?」
 
わざと、とは…どういうことだ?
話の流れから、彼女はモドリ玉をわざと踏んだのか?
もしかして…人間化するのが分かっていてか?
 
「何故…どうしてだ?」
 
俺はさっきと同じ質問をしてしまった。
どうしてモドリ玉で人間化する事を知っていたのかという疑問よりも、
何故そうしたのかという疑問の方が、先に口をついて出てしまったのだ。
直後に、トネスは泣きそうな表情を俺に向けると、
再び四つん這いになるようにして互いの顔を近付けて、
同時に俺の首に両腕を回してぐっと引き寄せ…
 
唇を、重ね合わせた。
 
「ん…はむっ、んちゅ…」
 
トネスは何度も俺の唇にしゃぶりつき、舌を入れて来ようとしたが、
俺は驚愕の中にあっても、歯を閉じてなんとかそれを拒む。
それでもトネスは舌を差し入れようとしたが、数十秒経つと諦めたのか顔を離した。
俺はただびっくりしていただけだったが、トネスはそれだけで呼吸が荒くなり、
少し俯いて、頬を上気させて肩を小さく上下させていた。
 
「すき、だったから…」
 
弱々しい声で、荒い呼吸と共にトネスは確かにそう言った。
 
「ジェロスのこと…本当に好き、だった、から…」
 
俺の首に抱きついたまま、精一杯、という具合にトネスが声をしぼり出す。
俺の事が好き?馬鹿な。モンスターが人間に恋愛感情を持ったのか?
人間とモンスターは友人にはなれる、とは思っていたが、恋人だと?
なんということだ…なんと不自然過ぎることではないか。
 
「ジェロス…だいすき……」
 
俯いたまま彼女はそう呟くと、そっと俺の股間に手をやり始めた。
俺の逸物は元気にはなっていない。相手が尊敬すべき存在であり、
性の対象だ、とは最初から思っていないからだ、
しかし、彼女の手で直に触れられてしまったら…どうなるか分からない。
直接の刺激は、本人の精神とは関係なく肉体反応を起こさせてしまうだろう。
 
「やめろ」
 
俺は少しドスを利かせたような冷たい声でトネスを制止した。
トネスの体がピクリと痙攣したように止まり、俺の顔を見上げる。
その泣きそうな、切なそうな表情は俺の信念を折ろう折ろうと感情に働きかけるようだったが、
俺の信念は家系の信念。容易く曲げてはならないものであり、重みが違う。
 
「そんな事をしてもらうために、お前らと共に狩りをしたわけじゃない。
お前は自分の野性と同時に俺の信念まで侮辱するつもりか。」
 
これは俺の本心だ。他の感情が入り込む余地などない。
俺は直ぐに体を完全に起こして、トネスの肩を掴んで引き離−−
 
「………何?」
 
−−そうとしたところで、俺は自分の四肢が自由に動かない事に気付いた。
怪我をした左腕だけではない、首から下の殆ど全身がうまく動かないのだ。
動かそうとしても、痺れたように筋肉が震えるばかりで役に立たない。。
気付けば、さっき壁から少しだけ離したはずの背も、いつの間にか再び壁に密着している。
こ、これは!まさか−−!
 
「ごめんなさい…ジェロス…ごめ……」
 
ゲネポスの麻痺毒!
 
「…唾液にも、麻痺毒があるとはな……」
 
顔をしかめて、俺はそう言い放った。
さっきのキスの時…麻痺毒を流し込んできたな。
いや、今思えば俺が眠りから目覚めた時、唇に感じた柔らかさと湿り気…
あそこから、もうキスによる麻痺毒注入は始まっていたのか。
 
「ジェロス…ごめん……でも、もうどうしようもない…
こんなことして…あなたに嫌われるだけなのに…
でも…もう、私じゃ…どうにも出来ない……
もう、私じゃ……止められない……ごめんね…すきだよ、ジェロス…」
 
トネスは再び俯き、まるで泣いているような声でそう言った。
そしてそう言いつつも、彼女の手は俺の腰防具に伸びていく。
麻痺毒にほぼ全身を侵された俺に、抗う術はない。

<続く>
2010年08月18日(水) 08:51:54 Modified by gubaguba




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