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作者:ベリーメロン




 機嫌が良いときに飲む酒というものはとても格別だ。
 それは百の顔を持つ女と称される運び屋マスカレーナも例外ではない。
 いつもの「仕事」で暖まった懐。そんな時はこうやって行き着けのバーを訪れるのがマスカレーナだった。

(今日はいつもの子もいなかったし、楽チンな仕事だったなー♪)

 普段は自分を執行対象と呼んで追いかけ回してくる例のセキュリティフォースのクノイチも姿を見せず、久々にスムーズに仕事が終わった。
 いつもは彼女にしつこく追いかけ回されて、撒くまで無駄に時間を取らされることもなかったのだ。

(今日は思いっきり酔いたい気分♪)

 上機嫌なマスカレーナは普段はあまり飲まない度数の高いカクテルまで次々と飲み干していく。
 美容にもよくないし二日酔いになるのも嫌だが、今日だけはそれを忘れることにしたようだ。

「ん?」

 そうやって一人で伸び伸びと飲んでいると、カウンターに座る女に目が付いた。
 長い銀髪と健康的な肌、整った顔立ちと非常に出るところの出たボディライン。
 スケベな男共なら放っておかなそうな存在だが、どうも近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。

「ねぇねぇ、一緒に飲まなーい?」

 とはいえすっかりほろ酔い気分のマスカレーナは特に気にせずに話しかけていく。
 そろそろ一人で飲むのも飽きてきたところだったのだ。
 適当に面の良い男でも引っ掻けるのもよかったが、今日はそういう気分でもなかった。

「ああ、私も飽きてきていたところだった」
「ヤッター♪」

 言いながらグラスを片手に座る。
 銀髪の女もまたかなりカクテルを飲んだ後のようだった。
 赤らんだ顔はすっかりアルコールに侵されて、硬そうな雰囲気も軟化しきっている。

「おや?どこかで見た顔だな……?」
「んー、そう?アタシは特に覚えてないにゃー♪」

 ナンパのような言葉にマスカレーナは適当に流していく。
 仕事柄何処かで知られている可能性はあるが、それが運び屋マスカレーナに繋がることはないだろう。
 茶化すように返答すれば彼女はそれ以上は言及してこない。
 ほろ酔い気分が心地よく、向こうも普通に納得していたようだった。

「でさー、こないださぁ――」
「なるほどな、こちらは……」

 そこからはすっかり意気投合して身の回りの話に花を咲かせていく。
 仕事で出くわしたセクハラ男の話とか、イイ男が最近いないとか、本業とは関わらない話を続けていく。
 あちらも部下の女の子がやる気のわりに空回りしてるとか、仕事が次々と増えるとか、出会いがないとか、愚痴のような話をしてきた。
 なんとなく既視感のある話題があったものの、マスカレーナはてんで気付かない。
 そうやって話が弾んでカクテルをグイグイ飲んでいく二人の美女だが、それに近付く男は意外といなかったという。




「んんっ……ちゅぷぅっ……♡」

 舌を絡め合い、ベッドにもつれ込む。
 アルコールを取りすぎて、色々と奔放になりすぎた二人はあの後流れでラブホテルに突入してしまった。
 女同士での行為というものにどちらもそれほど抵抗はなく、男にイイ相手がいないならそれでも問題ないとばかりに熱烈に盛り上がっていく。

「んあっ♡ずいぶんイイテクしてるじゃん、ティアだっけ?」
「ああ……レイナこそ、手慣れているな、んぅっ♡」

 レイナとは完全なる偽名だが、一夜だけ楽しむ相手にそれを気にする必要はないだろう。
 ティアと名乗る彼女の肢体にマスカレーナは手を這わせ、その乳房の先端を優しく指で摘み上げた。

「あんっ♡こ、こら……♡」

 熟れた……とまでは行かないものの、生娘とは違って程よく使われているらしいソコはマスカレーナからの愛撫に硬くなっていく。

「んぅっ♡喘がされたのは久々だ……ならば、こちらも」
「ひゃんっ♡」

 お返しとばかりにティアの指がマスカレーナの肢体を撫で回していく。
 豊満なバストを下から持ち上げるように揉まれれば思わず声が漏れてしまう。
 そのまま乳首をコリコリと弄られれば腰が跳ね上がり、秘所からはどんどん蜜液が溢れてくる。

「意外と可愛い声が出るじゃないか」
「んっ……どうも相性が良いみたいねぇ……」

 言い合いながら触り合っていく。互いの秘所を指先で触り合い、深く口付けを交わしていく。
 互いにレズビアンというわけではないのだが、女同士での楽しみ方は熟知していた。

「んっ……ちゅぷっ……はぷっ……♡」
「んんぅっ……ちゅるぅ……♡」

 舌を激しく絡め合わせながら秘所を擦り付け合う。激しい貝合わせによって愛液が泡立い、甘酸っぱいメスの香りを部屋いっぱいに広げていた。

「ふあっ♡そこっ……イイッ♡」
「はぁっ、はぁっ♡んんぅっ♡」

 クリトリス同士を何度も擦り上げ、快感を高め合っていく。お互いの弱点を探り合い、どこをどう攻められるのが好きなのかも探り合う。

(ヘタな男より気持ちよすぎるかも……)

 そんなことを微かに思いながらマスカレーナはティアとの行為に没頭していく。
 酒に酔った身体はより熱を求め、そうやって熱烈な夜を過ごしていくのだった。







「うー……頭痛ぁ……」
「昨夜は盛り上がりすぎたな……」

 案の定の二日酔いと激しく求め合いすぎて、倦怠感にぐっとりとしながらも二人は身を起こしていく。
 外はすっかり日が昇っているらしく、頭はズキズキするが昨日よりは冷えていた。

「?」

 そこでふと気付く。ティアの太ももに見たことのあるマークのタトゥーがあることに。
 どこで見たものか、少し考えてハッとした。

(え、いや……もしかして……)

 確か、毎日仕事の邪魔をしてくるあの小うるさい小夜丸というクノイチも、あのマークが刻まれた上着を着ていてような。

「……?」

 そんなマスカレーナと同じタイミングでティア……否プラ=ティナもまたあることに気付いていた。
 レイナと名乗る彼女を最近見た顔だと思っていた。それが酒の抜けた頭の中で、やっと合致する。
 あれは自分の部下に当たる小夜丸に追わせていた執行対象の……

「………………」
「………………」

 二人の中で重苦しい沈黙が続く。
 どちらも互いの正体を察してしまっているのはもう理解していた。
 マスカレーナもプラ=ティナも完全に黙り込んで、しばらく考えた。

『昨夜のことはなかったことにしよう』

 どちらも同時にそこに答えが行き着いて、互いに他愛もない話をしながら別れていく。
 たぶんもう出会うことはないはずだと考えながら。
 しかしこの時の二人はまだ知らない。あまりにも身体の相性が良すぎた故に、適当な相手では身体が満足出来なくなってしまうことを。
 そして定期的にあのバーで会っては、酒を口実に身体を重ね合わせる関係になることを。
 秘密の関係が、これからも続いてしまうことをまだ知るよしもなかった。


続編:快に溺れてずるすると

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