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2-203様:『君が欲しい』キュートP×佐久間まゆ

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「やぁんっ……! プ、プロデューサー……!?」  
ペンダントを失った喪失感に充ちていたまゆをこの夜、俺は全身を捧げて慰めていた。  
先輩の象徴を失ってぐらついたまゆの心を、深く長いキスでこちらに繋ぎ止めて誘導していく。  
唇肉にくらいつくキスの勢いは、そのまま愛の深さとなる。  
 
「あっ、あっ……!」  
自分がこんなに君を愛しているのだと直接まゆの身体に知らせ、激しく語りかけた。  
丁寧で厚い前戯を切り上げて、俺は彼女を組み敷いている。  
先輩の事を考える暇も与えない容赦ない責め立てに、処女の脳内は混沌としていた。  
不安と安堵、恐怖と淫楽が境を曖昧にして渦巻いていた。  
 
「あっ、ああんっ……!」  
理性で考えを巡らせる前に、その少女の美肢の……奥の奥に、 俺は雄を教え込む。  
女の悦びを最初に教えた男として愛を刻み込んで支配者となる。  
激しい淫槌の猛攻に彼女の体奥で蜜鼓が鳴り響く。  
その音は突く程に男根を甘く刺激し、滾らせる。  
 
「ああっ……!あっ、あん……っ! ん……あはぁぁ――っ!」  
理性を溶かす大量の淫勃汁を、俺は狂喜の狭間にいるまゆの膣内へ次々と爆射し続けた。  
熱液は肉襞の皺に擦り込ませ、淫気を漲らせる糧となる。  
俺は残りの精力を全て注ぎ込んで、朝まで傷心のまゆを肉姦し続けた。  
 
  #  #  #  
 
ミーティング終了後、俺は社長に呼ばれて数人のプロデューサーと共に会議室に残った。  
先ほど議論していたアイドルフェスティバルよりも真剣な  
そして重い空気が支配する中、高木社長は再び口を開いた。  
 
「さて……佐久間君のプロデューサーが入院したのは皆も知っている事だろう」  
佐久間とは、他事務所の読者モデルから765プロに移籍してきた佐久間まゆの事だ。  
読者モデルをしていたという事で、結構な知名度とハイレベルな容姿を持つアイドルとして  
765プロでは即戦力として活躍し、すぐにBランクへ登り詰めた。  
そこまでは良かったが、彼女は厄介な問題を同時に内包していた。  
 
彼女が移籍してから、しばしば彼女担当プロデューサーの周りで刃傷沙汰が相次いだのである。  
対象となったのは佐々木千枝、和久井留美、五十嵐響子など  
普段から件のプロデューサーと親しくしていて、公にはしにくいが  
彼に強い好意を持っている者たちばかりだ。  
刃傷沙汰の原因を探ってみた所、数々の証拠品からまゆが犯人候補として挙がった。  
まゆPに聞くと、彼女は他のアイドルと話をする度に  
厳しい顔で詰問するなど以前から不穏な兆候を見せていたという。  
彼はその事があってからプライベートでは彼女を避けるようになったが時既に遅しであった。  
彼女はすっかりプロデューサーに入れ込んでいて、気が付けば合鍵を作り  
玄関から侵入するなどの異常行動を起こすようになっていた。  
彼が入院するきっかけは、事務所のアイドル数人と食事をしていた時だった。  
小用に立っていたまゆは、自分の知らない所で楽しそうに談笑する女性たちを見て  
激しい嫉妬の炎を燃え上がらせ、正気を失って同僚のアイドルたちにコップやらナイフを投げつけたという。  
幸い怪我人はなくスキャンダルにはならなかったのだが、それ以来まゆPは精神をやられてしまい  
精神科に通院しつつ病院での療養を余儀なくされている。  
まゆも別の病院に入院させようとしたが、一線アイドルとして活動に穴を開けたくない事務所側は  
普通に仕事をさせていた。プロデューサーが絡まなければ、彼女はいたって普通なトップアイドルなのである。  
まゆには彼が伝染病にかかったと騙して隔離していた。  
 
「彼の様子ですが、まだ社会復帰は難しいかと……」  
部下の報告を聞いて高木社長は深い溜め息をついた。  
ベテランのまゆPにはこれから新人を指導して事務所を引っ張ってもらいたかった。  
しかしそんな彼の足を引っ張っているのが他ならぬ、即戦力のまゆなのだ。  
「彼を復帰させるためにはまゆから隔離する以外にない」  
「だが、彼女はまゆPに異常な程依存している。引き離す事は難しい」  
周りのプロデューサーは口々に悲観的な言葉を漏らしていた。  
「諸君からそういった意見が交わされるのは想定内だ。  
 だから……私は君を呼んだのだ」  
社長は鋭い眼光を俺に向けた。俺はただ彼の目を見つめ返していた。  
自分の呼ばれた理由がやっと分かったのだ。  
「この事態は佐久間君が別の男性を好きにならなければ、決して解決しない。  
 ……君は過去に、ジゴロと呼ばれる仕事をした事があるようだね」  
「御炯眼、恐れ入ります。仕事、と申し上げてよろしいかは  
 分かりませんが、それを飯の種にしていた時期があります」  
俺がそう告げると周りから感嘆の声が漏れてどよめいた。ただ訳知りの社長のみうなづいている。  
 
「……解決出来そうかね」  
その言葉には何があっても解決してくれというニュアンスが暗に込められていた。  
「まゆのような娘の場合、依存心が強いので時間はかかるでしょうが、不可能という訳ではありません」  
「うむ、頼もしい限りだ」  
「何か策はあるのか?」  
近くにいた別のプロデューサーが尋ねた。  
「策……という程のものではありません。まず、まゆをプロデューサーから離す事です」  
「それは今もやっている」  
また別のプロデューサーがいらいらとした口調で言い捨てた。  
彼は刃傷沙汰に巻き込まれた五十嵐響子のプロデューサーである。  
あの事件を受けてアイドル側にも少なからず波紋が広がっていた。  
彼女と一緒に仕事をしたくないというアイドルが多く出始めていて  
彼はその説得やスケジュール調整に当たっていた。  
 
「しかしだな、まゆPの病院の所在は既にまゆ君に割れている。  
 彼女も執拗に彼と面会しようと押しかける。我々関係者は追い返すので精一杯なんだよ」  
「それは二人の距離が近過ぎるからです。日本の反対側に送れば解消します」  
「日本の反対側だと!?」  
どよめきを無視して俺は社長に尋ねた。  
「社長、近々他国から留学生アイドルを受け入れられるそうですね?」  
「ああ、フェイフェイ君とナターリア君が来日と同時に  
 765プロに所属する事になっている……んっ、まさか君は……?」  
流石に社長は、一事務所を担う人物である。俺は静かにうなづいた。  
「はい、お察しの通りです。交換留学という名目で  
 まゆにはナターリアの代わりにブラジルに行ってアイドル活動をしてもらいます」  
周囲の驚きの声を背景として俺は続けた。  
「当然、私もプロデューサーとして彼女と同行します。そしてその間に彼女の関心をこちらへと引きつけます」  
「そうか……しかし言語面では大丈夫なのかね?」  
「はい、ご心配なく。大学在籍中はポルトガル語を専攻しておりました。  
 日常生活に支障のない程度の会話は可能です。当面の滞在費さえいただければ、後はあちらで工面いたします」  
「それは心配しなくていい。君としては、いつまで現地に滞在するつもりかね」  
俺は社長の問いに答えていく。  
 
「一概には言えませんが、まずまゆPがある程度精神が安定してからになります。  
 次にまゆの関心の度合いによります。ひと月やそこらでは難しいと思います」  
「怪しいもんだな」  
和久井留美のプロデューサーがいぶかしげな視線を俺に向けている。  
「疑うのは結構ですが、俺は真剣です。依頼された仕事は必ず遂行します。信用がかかっていますのでね。  
 今回私は、まゆを惚れさせない限り、日本に戻るつもりはありません」  
「いや、疑って悪かった。それだけの覚悟で挑んでくれたら頼もしい事はない」  
「では諸君、極秘プロジェクトとして佐久間まゆ君の更正策をこれから検討していこう」  
社長は立ち上がり、議論を推し進めた。 今回のプロジェクトは俺が主導し、他のプロデューサーたちがフォローに回る運びとなった。  
俺は今回の仕事が相当疲れるものになるだろうとぼんやりと考えていた。  
 
   #  #  #  
 
社長直々にまゆ本人を説得した甲斐あって、彼女の海外活動の手続きは滞りなく進んだ。  
最初は納得の行かなかったまゆは、プロデューサー療養中にステップアップを計る事こそ  
愛する彼が望んでいる事と諭され、渋々と了承した。  
両親の同意も得て、危なげながら我々は出国当日にまで漕ぎつけた。  
 
「まゆのプロデューサーさんは?」  
空港に到着した時も、まゆは担当プロデューサーの姿を探していた。  
彼が見送り出来ない事は何度も伝達しているのだが  
どうもストーカーという者は自身に都合の悪い事をすぐに忘れてしまう傾向にあるらしい。  
自分に対する彼の愛を信じて止まない彼女は、いざ別れの時間になっても  
想い人が現れないという事に対して不自然に思っていた。  
 
「彼はまだ治療中だよ、まゆ。残念だが、ここには来られない」  
「……」  
まゆは表向き代理プロデューサーとして付き添う俺を訝しく見つめていた。  
俺が二人の仲を裂こうとしているのではないかと疑っているらしい。  
実際そうなのだから否定は出来ないが、極力そのような感情を抱かせない対応をする必要がある。  
 
「その代わり、彼からメッセージを預かっているよ。聞くかい?」  
「はい!」  
先輩の事になると、まゆは目の色を変えて喜んだ。  
俺はiPodの電源を入れて、彼女に前プロデューサーの声を聴かせた。  
 
『まゆ、元気にしているか……』  
「プロデューサーさん!」  
彼の声を聞いた途端、まゆの眼は明るく輝く。  
なるほど。楽しそうに笑っている彼女を見ていると  
確かにトップクラスのアイドルに相応しい魅力に満ちている。  
とても一人の男を精神的に追い詰めた狂人には見えない。  
 
『まゆ……今回俺はお前と一緒にブラジルへ行く事が出来ない。  
 医師の診断では国外どころか病室から出る事すら叶わない。  
 だが俺の都合で、お前のプロデュースを怠る訳には行かない。……』  
 
彼女の隣で俺は音声のみで良かったと胸をなで下ろした。  
表情の見えるスカイプだったら、こうも声色を隠せなかっただろう。  
 
『ブラジルは遠い。言葉もなかなか通じなくて不安だろう。  
 だが、安心しろ。新しいプロデューサーはポルトガル語も出来て有用な人間だ。  
 困った時は必ず彼を頼れ。彼ならお前を安心して任せられる。  
 いいか。どんな事も彼と相談して決めなさい。外出する時も危険だから、一緒に行くといい』  
「はい、分かりました!」  
 
まゆはその場に件の男がいるようにうなづき、返答した。  
『あと彼から俺の贈り物を受け取って欲しい』  
最後に俺はまゆにリボン型のペンダントを渡した。  
彼女は心底から嬉しそうに笑って、それを何度も愛でていた。  
 
   #  #  #  
 
「まゆP先輩ですね」  
ある日訪れた病院の一室は、明るい日差しが入っているにもかかわらず  
どこか陰鬱とした雰囲気に満ちていた。  
「君は……?」  
ベッドで横になっている男が俺を見ながら口を開いた。  
その目は慢性的な精神的疲労により深く澱んでいる。発する声も微かに震えていて生気がない。  
俺は軽く名乗り、ベッド脇の椅子に腰を掛ける。  
 
「先輩にお聞きしたい事がありまして、参りました。  
 貴方の代わりに佐久間まゆを担当させていただきますが……」  
「まゆ、ああっ……! まゆぅぅ……っっ!」  
まゆの名前を口にした途端、先輩は錯乱の兆候を見せた。  
どうやら彼女は深いトラウマを彼に植え付けたようだ。  
しかし彼とは話をしなければならない。俺は震える彼の手を包むように握った。  
 
「落ち着いて下さい。まゆはいません。それに彼女は三日後、ブラジルへと出航します」  
「……ブラジル?」  
事務所が行った交換留学について俺は詳しく説明した。  
とりあえず今は彼の精神安定に努めなければいけない。  
 
「ですから先輩は安心して治療に専念して下さい」  
「……多少離れたくらいで、まゆが諦める訳がないっ! アイツは……チガイだ」  
先輩は仮にもアイドルであるまゆを侮蔑の言葉を用いて形容した。  
その間も彼は落ち着かずに首を左右に振って辺りに注意を払っている。  
まゆがどこかで見ていると疑っているらしい。  
距離の問題だけではない。彼はまゆの存在そのものに怯えているのだ。  
 
「まゆの担当になると言ったな?」  
「はい」  
「……君も、俺と同じようになる……」  
「残念ですが先輩、俺は同じようにはなりません。  
 俺は先輩を助けるために派遣されました。同じになってはいけないのです」  
「俺を……救う……?」  
深くうなづくと、彼は苛立ちを顕わにして壁を叩き、声を荒げた。  
「そんな事が……っ、出来るはずがないだろうっ! 誰も俺を救えないんだ……俺は……おしまいだ……」  
俺はこうなるまでに問題発見と解決をして来なかった  
事務所に対して溜め息を漏らすと、改めて彼と向き合った。  
壁には患者の付けた手垢や爪あとがびっしるとついている。  
 
「先輩。狂人は単なる白痴ではありません。彼らは彼らなりの理に基づいて行動しています。  
 我々が彼らを恐れ避けたがるのは、彼らの理を見ようとしないからです。  
 理解しようとする姿勢を止めない限り、例え相手が先輩のおっしゃる通り狂人だとしても  
 必ず対応策があり、見つける事が出来ます」  
必死に説得し続けると、頑なに提案を否定していた先輩はその態度を和らげていった。  
 
「……どうすれば、いい……?」  
縋るように先輩は俺に聞いた。  
「まず俺が彼女を先輩から離します。出来るだけ遠くへ。  
 そのためのブラジル留学です。先輩の調子が良くなるまで滞在します。  
 勿論、先輩がまゆに関わる事は決してありません。約束いたします。  
 責任を持って俺が彼女を担当いたします」  
「俺は……治る、だろうか……」  
「先輩に治したいという気持ちがある限り、きっと治りますよ。  
 ブラジル滞在中に、俺はまゆの気を自分に引きつけます。  
 先輩に対して全く興味を持たなくなるまで彼女を日本には帰らせません」  
先輩はまだ不安が残っているらしく、「失敗したら……」などと心配している。  
 
「失敗しないように予防策を備え、万全の態勢で挑みます。  
 俺は一時期これでメシを食っていました。自信があります」  
胸を張って告げると、先輩は胃の奥から絞り出すような心細い声で救いを求め、俺の手を強く握った。  
「……助けてくれ」  
「勿論です。この事で、俺から先輩にお願いがあります」  
「何だ」  
「まゆにメッセージを送ってもらいたいのです」  
 
それを聞くと先輩はまた暴れ出そうとした。  
「まゆにはっ……まゆにはもう会いたくないっ……!」  
「先輩。会わなくて構いません。ただ声を録音させてもらうだけでいいのです」  
「録音?」  
「ええ。伝える内容はいたって事務的なものです。  
 愛しているとかすまなかったとか、そういった事を吹き込む必要はありません。  
 あとは俺の言葉をしっかり聞く事。そして俺に何でも相談するように言って下さい」  
その日は先輩の言葉を録音して帰った。  
 
   #  #  #  
 
ブラジルで活動を始めて早くも半月が経過した。  
その間、俺とまゆのアイドル活動に目立った支障はない。  
まゆは前任者の忠告を聞き入れて、俺の指示を良く聞いてくれる。  
異国に身を置いている割りに、彼女は終始冷静な判断力を保って行動している。  
言語関係のトラブルに戸惑う事なく彼女は、日々のレッスンをしっかりとこなす。  
俺はここで、彼女が問題点ばかりでなく素晴らしいアイドルとしてのポテンシャルをも有していると感じ  
事務所が彼女を離したくない理由に納得した。  
彼女はこの国の学校にも慣れ、表向きには順風満帆に見えた。  
 
気になる点は、ただ一点である。  
まゆは先輩からペンダント――実際これを選んだのは俺なのだが――を贈られた。  
前任者を引き離すだけでは、精神が不安定になる。  
この装飾具は前任者の代替品として彼女に持たせた。  
勿論最初は先輩本人ほどの安堵感を持てずに落ち着かない様子だったが  
時間が経つにつれて彼女の心に平安が戻り、先輩のいない今の生活に順応しつつあった。  
いずれはそのペンダントも何らかの形で紛失させ、先輩の影を完全にまゆから消す予定だ。  
だが彼女は時間があればそれを眺めて決して離そうとしない。  
彼女の心をまだ完全につかみ切れていないな、と苦笑しつつ、俺はそれに感謝した。  
ペンダントがあるからこそ、彼女の精神は大きな落差を生ずる事なく今の状態まで移行出来たと言える。  
俺は出来る限り彼女と接触し、ペンダントを見る時間を削るように努めた。  
流石に着替え、入浴、そして排泄に付き添う事はないが  
それ以外の時間は理由をつけて始終関わり合った。  
彼女もミーティングやレッスンに臨むためには、俺のバイリンガルさを頼りにせざるを得ない。  
夜は夜で、なかなか寝付けないからと言って彼女にはチェスやトランプなどに付き合ってもらった。  
 
「しかし異国に来て大分経つけれど、日本の食べ物が恋しくなったりしないか?」  
「ありますね。時々ずんだ餅を食べたくなります」  
「俺は梨だな。鳥取に実家があって、小さい頃毎日食べていた。  
 洋ナシも美味しい事は美味しいんだが、あのしっかりとした歯応えと瑞々しい食感には適わない」  
「チェックメイト」  
「おっ」  
「ふふ、プロデューサーさん……ナイトがじっと見ていましたよ」  
こうして俺は睡眠時間を削ってまゆとコミュニケーションを図り、この時に彼女の思考方法の癖などを探り入れた。  
 
   #  #  #  
 
俺は大体二ヶ月置きに日本の事務所へ定期連絡を行う。  
今夜も765プロへ国際電話を掛けた所、タイミングの良い事に先輩もいたので、体調を尋ねた。  
「大分いいよ。最近は六時間、ぐっすり眠れるようになった。  
 以前では考えられない程、穏やかな生活を送っている」  
その弾む声からも先輩が元気を取り戻しつつあると俺は感じた。  
仕事はリハビリを兼ねて事務処理と後輩プロデューサーたちの指導から始めているという。  
 
「君に負担をかけて申し訳ないが……」  
「気にしないで下さい。こちらに支障はありませんから」  
先輩はまゆの事をしきりに気にしていた。まだ地球の反対側にいる彼女の存在に恐怖を抱いているようだ。  
俺は彼女の様子についてなるべく詳しく語った。彼女の活動は現在、いたって落ち着きを示している。  
狂愛する先輩と離れて、言葉もろくに分からない異邦の地で生活するのだから  
ある程度の混乱は予想していたが、彼女は存外早くその環境に慣れた。  
 
「まゆは先輩の言い付けを良く守って、俺の言う事を聞いてくれています。  
 ただ俺が女性記者と会話した時に落ち着いている所が残念ですね」  
「? 何故だ」  
「……先輩、俺はまゆに惚れてもらわないと困るんです。  
 嫉妬まで行かなくても不満げな顔を見せてくれないと  
 俺は日本に帰国する目途がいつまで経ってもつきませんから」  
「ああ……済まない」  
「別に先輩が謝る必要はありませんよ。  
 こちらもアプローチを色々と工夫する必要があるかもしれませんし……では失礼します」  
俺は電話を打ち切り、日課となっているまゆの部屋へと足を運んだ。  
 
   #  #  #  
 
真夜中、俺は先輩に電話をする。メールでも良かったのだが  
やはり本人の精神状況は声で聞き、判断しておきたい。  
今回の定期連絡はやっと良い報告を上げられるため、俺も肩の荷を降ろして一息ついている。  
電話が繋がった。先輩の声色には生気が宿っていた。  
以前はどこか怯えている様子があったものの、今回はそれがない。  
 
「体調はどうですか?」  
「こっちはすっかり良くなったよ。新しい仕事も軌道に乗っている。全部社長と君のお陰だ」  
「先輩のやる気があってこその復帰です。俺の力など微々たるものですよ」  
「そんな事はない。……それで、まゆの件なんだが……」  
 
やはりまゆの話題になると、先輩は少し声に陰りが差すようだ。  
 
「朗報ですよ、先輩。まゆを惚れさせる事が出来ました」  
「それは本当か!?」  
「ええ。ここ二ヶ月先輩の名前を彼女の口から聞いた事はありません。  
 社長には後日帰国の許可をいただくために連絡する予定です」  
「本当に……本当にあのまゆが……?」  
先輩は地獄までも追いかけてくるまゆが、他人に懸想したという事実をすぐに信じられない様子だ。  
惚れ薬か媚薬の類を使ったのかと真剣に尋ねられたので、俺は苦笑しながら使っていない旨を伝えた。  
実際こうなるまでに丸二年が経過している。  
件のペンダントは絡んできた不良に奪われ、海の中へと捨てられた。  
俺は冷たい海水に肩まで浸かり、ずぶ濡れになりながら必死にペンダントを捜索した。  
その姿が傷心の彼女の心を打ったらしく、俺とまゆの距離は見事に縮まった。  
精神を支えていたものをなくした子羊を巧みに誘導して、俺は彼女が自分に頼るように仕向けた。  
 
「それは良いハプニングだったな」  
「ええ、何とかまゆを騙しきりました」  
「え……騙すだと……?」  
「先輩、そんな都合良く不良がペンダントを処理してくれると思いますか?」  
俺は不良を金で雇い、狂言を一緒に演じてもらった。これがなければ事態はいつまでたっても平行線だっただろう。  
これも依頼者に安堵な生活を送らせるためなのだ。  
 
「惚れられた後が大変だろう」  
平静を取り戻した先輩はやや他人事のように尋ねてきた。  
二年もの隔たりがあり、悩みが消えたのだから当然と言える。  
 
「そうですね。朝夜関係なく求められますから……」  
それを聞くと、受話器越しの空気がすっと変わった。相手の表情が伝わってくる。  
「……抱いたのか?」  
その口調には年端もいかない娘を騙して関係を持った人間への侮蔑が込められていた。  
倫理的に考えると、俺のした事は間違いかもしれない。  
だが依頼をこなす事が何より優先される俺たちジゴロにとっては、つまらない不文律など何の拘束や抑制にならない。  
そしてまゆのように依存心の強い娘は、絶えず愛さないと必ず不穏になるのだ。  
そのため彼女をはじめとする病んだ女性は、強い不安感を紛らわせるために、過剰な程の関わり合いを持とうとする。  
決して性欲が強いからではない。身体的接触によって一時的に強い安心感を得ているに過ぎない。  
言わば彼女たちにとってセックスとは、トランキライザーそのものなのだ。  
 
「いや、君に被せた仕事が難しいという事は充分承知だ。事実君は俺をまゆから救ってくれた。  
 安全地帯に居ながら戦場の人間を批判するような真似はするべきではない」  
「先輩。気を遣っていただかなくても構いませんよ。告発されたとしても文句は言えませんから」  
「いや、恩を仇で返す真似は決してしないぞ俺は。それに、俺も人の事を言えない身なんだよ」  
どういう事かと尋ねた所、先輩は照れながら最近担当しているアイドルと至って親密な関係を築いている事を告白した。  
「相手は誰ですか。素敵な娘ですか」  
「瑞樹さんだ」  
 
先輩から聞いたそのアイドルは、アナウンサーからアイドルに転職した川島瑞樹である。  
彼女とはあまり挨拶を交わした記憶がない。しかし同系統の衣装に身を包んだユニットを何組か組んだ時  
ユニット内最年長であるにもかかわらず彼女はミニスカートにノースリーブの衣装をチョイスしていた。  
なおかつ当時の担当プロデューサーに対し「可愛いでしょう」と聞きまくっていたので、妙に強い印象を残している女性だった。  
そんな彼女は、新しく担当になった先輩を何かにつけて元気づけ、相談に乗ったのだという。  
次第に彼は彼女に恋心を抱き、アイドルとプロデューサーの関係という一線を踏み越えたと教えてくれた。  
彼が精神を早く持ち直す事が出来たのは彼女の存在による所が大きいと、俺は見ている。  
 
「君に厄介事を押し付けながら、別の女性と恋愛しているというのは心苦しいが……」  
「いやいや。新しい出会いを大切にしてください」  
俺は先輩の新たな恋愛を祝福した。  
ジゴロにとって一番困るのは昔の女性とよりを戻したいと依頼人が言い出す事だ。  
時折そういう世迷い言を言い出す輩がいて、男女関係が複雑に絡み合ってしまう事もある。  
だから依頼人と第三者の恋愛は未練やトラウマを断ち切るためにも推奨すべき事なのだ。  
 
「ところで、日本に帰ってきた時……」  
「まゆが心配ですか?」  
「少しは、な」  
他の男に夢中になったまゆは、先輩にとって中々想像出来ない代物だろう。  
「我々の帰国に合わせて、先輩には地方の営業に回っていただきます。  
 大丈夫だとは思いますが、念には念を入れて距離は取っておくべきでしょう」  
後日、俺は社長に事情を話し、帰国は一ヶ月後と決定した。  
まゆに帰国の報告を話すと彼女は喜んで帰国の支度を始める。  
色々と尋ねたが、その口から先輩の名前は全く出なかった。  
 
   #  #  #  
 
まゆが日本に帰ってから早くも数ヶ月経った。  
この頃になると俺とまゆの関係は磐石と言える程強固なものとなっていた。  
まゆは始終俺の傍にいて離れようとしない。俺が傍にいる限り、彼女は安心してアイドルの仕事に励んでいる。  
仕事が上手くいった日にホテルでたっぷりとサービスしてやると、淫獣のように俺と一晩中愛交して離れない。  
ちょっとやそっとでは昔の慕情を再燃する事はないだろう。だが念を入れて先輩と彼女の接触は回避させていた。  
先輩とは今も秘密裏に情報交換し合っている。  
彼の話によると川島瑞樹との関係はかなり進んでいて、いつ結婚すべきか迷っているそうだ。  
まず不安因子であるまゆをどうするべきか考えていると、彼はこう告げた。  
 
「実は……会ったんだ。まゆに」  
「えっ。どこでですか?」  
「勘違いしないでくれ。俺から会いに行った訳じゃないんだ。  
 ここに来る途中でまゆとすれ違ったんだよ……。  
 こんにちはと会釈された時には背筋が凍った。何をされるかと身構えたよ」  
「……。まゆは、何かしましたか?」  
「『何もしなかった』、ただ挨拶をして傍を横切っただけだった」  
先輩は信じられないとしきりに主張していた。  
自分を狂愛し、苦しめ続けていた女魔が全く自分に対して関心を示さなかったのだ。  
 
「先輩、俺の方でもまゆは動揺を見せていませんでした。  
 とりあえず、彼女は先輩を恋愛対象として見なくなったと判断して差し支えないでしょう」  
その時の先輩の喜び様は並々ならぬものだった。  
俺がいなければその場で踊り始めていたのではないかと思う程の浮かれぶりだった。  
どれだけまゆの存在が彼にとって苦悩の種となっていたのかよく分かる。  
後日、彼はすぐ川島瑞樹と同棲し始めた。  
 
   #  #  #  
 
頃合いを見計らい、俺は先輩と都心のカフェテリアで再会した。その時の彼は前より幾分太ったように見えた。  
実際彼の体重はブラジルへ発ったあの時と比べて18kg増加していた。  
何でも、同棲している例のアイドル・川島瑞樹の手料理が美味しくて、ついつい食べ過ぎてしまうらしい。  
しばらくは彼ののろけ話が続いて辟易としていたが、彼は眼前にいる俺の身をも案じてくれた。  
 
「俺といた時のまゆは、他の娘と会話すると怒って手がつけられなかった。あいつは、今もそうなのか」  
「恐らくは」  
俺はフライドポテトを軽くつまんで答える。  
「怖かったりしないのか」  
「多少はね。ですが回避方法を知っているから問題ありません。  
 他の女性と出会う時にはあらかじめまゆ本人に断りを入れています」  
「本人に言って大丈夫なのか?」  
「隠れて異性と会っていると見つかった時に要らない妄想を抱きかねませんからね。  
 仕事上でどうしても必要であるなら、それも説明してあげる事です。  
 彼女も理性では必要だと分かっていますから大丈夫です」  
 
先輩は腕組みをして真剣に耳を傾けている。  
 
「次に出来る限り本人をその場に同席させます。  
 目の届く範囲で恋人が何をしているのか分かった方がかえって安心しますから」  
「ふむ……でも……」  
「そして彼女の前で異性と親しげに話すのは厳禁です。あくまで事務的に対応します。  
 仕方がなく会って話をしていると彼女に思い込ませるのです。  
 勿論その後のアフターケアも大事ですね。  
 出来ればその直後に二人きりになって仲良くするといいです。  
 自分たちに愛情が向けられていると知り、感じる事で彼女たちはまず安心します」  
 
しばらく考えていた後、先輩は俺に尋ねた。  
「……一つ聞いていいか?」  
「何でしょう」  
「君は見事にまゆを惚れさせ、俺を救ってくれた。それには感謝しきれない思いを持っている。  
 だが、……この後『君は』どうするんだ。ずっとまゆに付きまとわれたままなのか?」  
「……」  
「もしそれならば、俺は君の生活を犠牲に……」  
 
俺はカプチーノを飲み干して身支度を始めた。  
 
「……先輩。まゆについて、先輩はもう悩む必要はありません。  
 安心した生活をまた送る事が出来、彼女も出来たのですから、それでいいではありませんか」  
「しかし……」  
「何も心配ありませんよ……先輩はね」  
 
俺は先に会計を済ませて仕事場へと戻った。  
歩きながら、俺はまゆの「始末」をどうするか考えあぐねていた。  
 
   #  #  #  
 
ジゴロは自分の口と身体を使って目的の女を依頼人から引き離す事を生業とする。  
依頼が成功した後、ジゴロに惚れた女は一体どうなるのか――。  
大半の依頼人は考える事すらしない。  
こんな事を考える人間は、そもそも面倒な女に引っかかりはしないのだ。  
将来予測や危機感を持っていれば、女のトラブルなど起きはしない。  
大抵の依頼人は「他に好きな人間ができたから今の女と別れたい」  
という身勝手な願いを押し付けてくる。  
 
また、ジゴロは身軽でなければ務まらない。  
妻子持ちのジゴロなど滅多にいないし、いたとしても相当特殊な家族関係だ。  
恋人の存在は不要以外の何物でもない。  
ジゴロが女を処理する方法は大きく分けて三種類ある。  
まともな女なら他の男に回し、その仲を取り持つ。  
訳ありの女は売るか殺すかの二択だ。騙して売春街に捨てる事も珍しくない。  
後者は残飯処理か痴呆老人を世話する感覚に近いものがある。  
未練などあるわけがない。事故を装った殺人を行なう場合すらあるのだ。  
 
「プロデューサーさん……」  
今、俺はホテルで一糸纏わぬまゆを抱き、三戦目を終えた所だ。  
淫欲の凝りを落とし、気だるさの澱む場所で吸う煙草は癖になる。  
全身に心地良い冷気が巡り、思考がクリアになっていく。  
その澄み切った頭でもう一度、俺はまゆを一瞥し、考えを巡らした。  
彼女とは付き合ってもう二年目に入ろうとしている。  
だが俺は、まゆを「切り捨てる」判断を下しかねていた。  
 
彼女が訳ありの女子である事ははっきりしている。  
依頼人と別れさせた今、これ以上彼女と付き合う理由はない。  
むしろ徒に付き合い続ける事は害悪にしかならない。  
いずれ以前の先輩みたく、まゆの扱いに神経をゴリゴリとすり減らし、まともな精神を保てなくなる。  
そんな事態が容易に想像出来てしまう程、まゆは異性へ依存してしまう娘なのだ。  
手遅れにならない内に彼女を遠ざける手段を採らねばならない。  
 
しかし……どうしてだろうか。気がつけば俺はまゆと一緒にいる時間を楽しんでいた。  
最初にあった義務感も薄らぎ、彼女との時間をもっと取りたいと望んでいる自分がいた。  
今まで付き合った女には、未練など微塵たりとも感じた事はない。  
いずれも容赦なく切り捨てて、別れたら既に死んだ者と考えた。  
しかしまゆと会話し触れ合う度に、俺は彼女を好きになっていった。  
時間が許す限りずっと一緒にいたいとさえ思うようになった。  
最初は気の迷いかと思ったがその想いの根は深く、中々割り切る事が出来ない。  
ジゴロ仲間にもこの事を相談したが、皆口を揃えて「別れろ」とだけ忠告する。  
訳ありの女とは絶対一緒になるな。一緒になるくらいならこの稼業から足を洗えと言う。  
無駄な情や罪悪感は断ち切れ。それがお前のためだとも教えてきた。  
俺も彼らの言い分は充分理解できる。  
俺が彼らの立場だったとしても、相手に同じアドバイスをしたに違いない。  
 
(だが……この感情は何なんだ?)  
 
「プロデューサーさん」  
背中に柔らかい感触が訪れる。まゆの肉体だ。  
愛交を繰り返しているうちに随分と女らしい体になったな、と俺はぼんやりと感じていた。  
「どうした、まゆ」  
まゆは何も言わず俺の胸板に手を伸ばして更に密着した。  
背から彼女の厚い心鼓が忙しく伝わってくる。  
「まゆね、謝っておきたい事があるの……」  
俺は黙ってまゆの告白に耳を傾けた。  
 
「私ね、前は別のプロデューサーさんの事……好きだったの  
 あの時は本当にその人が好きだった。あの人の事しか考えられなかったの。  
 その人の近くにずっと居たくて、読者モデルの仕事も辞めたわ。  
 それでね……その人の近くにいたらもっと一緒にいたいと思うようになったの……。  
 もっとまゆを見て欲しい。まゆの言葉を聞いて欲しい。  
 まゆの手を握って欲しい……相手に愛してもらいたいって気持ちが止まらないの……」  
 
俺はそうか、とだけ呟いた。その内容は全て既知のものだったが、まゆにとっては初めて俺に語る事だ。  
前の想い人でなく俺に対して罪悪感を抱いている所に  
彼女が如何に俺にのめり込んでいるかが垣間見える。  
 
「ごめんなさい……」  
「謝る必要はないよ、まゆ」  
「ううん……。貴方以外の人を好きだった自分が、許せないの……。  
 貴方以外の人を好きだったらいけないのに……」  
「……まゆ」  
俺は被さっているまゆの手を解き、自らの体向を後ろへと直した。  
咥えていた煙草を灰皿にぎゅっと押し付け、膝の上に座っている彼女と真正面で向き合う。  
「君はその時俺を知らなかったんだ。  
 知らない人を好きになるなんて芸当は、出来ないだろう?」  
「……」  
「まゆ……今の気持ちはどうだ?」  
「……今、ですか?」  
「そうだ。まゆは今……俺の事は好きか?」  
 
煙草の残り香の中で、まゆは俺の唇に何度となく熱い接吻をぶつけた。  
「……好きぃっ! ……大好きぃっ! プロデューサーさんは私の全てなの!  
 もう私……貴方の事しか、考えられないのぉ……っ!」  
俺は激しいまゆの熱情をしっかりと受け取り、その瑞々しい肢体をまた抱き締める。  
「……俺もだよ、まゆ……」  
 
まゆの身体を軽く浮かせて、その股下に再び勃立した淫根を忍ばせる。  
彼女は白指でそのシンボルを握り、自らの膣穴へと誘導した。  
ぬぶぶっと、熱く火照った肉唇を穿ち、一呼吸入れて一気に根元まで貫いた。  
 
「ああんっ……!」  
まゆを固く抱き締めながら、熱い抜挿を何度も彼女の淫肢に叩き込む。  
上等のステーキを思わせる豊かで味わい深い感触に虜にされた俺は、茶臼の体勢で彼女を犯し続ける。  
女襞が歓喜の蜜汗を掻きながら俺の淫剛に纏わりつく。  
 
「まゆっ……! まゆっ……!」  
雌壺では淫液が愛突でぶぢゅっ、じゅぶっ、と猥音を発して飛沫を肉壁にぶつけていた。  
 
「ああんっ、ぷ、プロデューサァー……! 気持ち良いっ! もっと突いてぇ……!」  
まゆは両手両足を俺の肉体に絡めて大きく喘ぐ。  
動きづらい姿勢ながら、自らの腰を振り射精欲を刺激する。  
繁殖欲に満ちた淫らな肉の送迎に、俺の肉根も既に限界を臨んでいた。  
まゆは美しい目をじわと潤ませて膣内射精をしきりに望んだ。  
 
「まゆ、プロデューサーさんと……ずっと 一緒にいたいのぉ……っ!  
 プロデューサーさんの好きな色で……まゆを染めてっ!  
 ……まゆの体、プロデューサーさん専用の×××にしてぇ……っ!」  
普段は口にしないような淫らな単語を発して求めてくる彼女の膣穴へ、俺は渾身の淫射を注ぎ込んだ。  
鈴口が馬鹿になる勢いで白淫がビュルビュルと噴き出し、猛烈な多幸感が強引に思考を白紙と化す。  
 
   #  #  #  
 
俺の進退を決定付けたきっかけは、ある事故だった。  
 
交差点で信号待ちをしていたまゆの所に、アクセルを過剰に利かせた  
乗用車が恐ろしいスピードで突っ込んで来たのだ。彼女の近くには誰も居ない。  
俺は近くの売店で軽い嗜好品を買って出てきたばかりである。  
距離はそれ程離れていない。  
急いで駆け寄れば車と衝突せずに彼女を助ける事が出来るかもしれない。  
素数を数える時間もない刹那の状況の中、俺は何度となく脳裏で救出行動を起こすか迷った。  
普通の精神の持ち主なら、身を挺して彼女を助けるべきだろう。  
アイドルを守る責任のあるプロデューサーなら、尚更そうするべきだ。  
だが……彼女は始末に困っているストーカー少女である。  
ここで彼女が車に撥ねられ、そのまま命を落とせば厄介事を極自然な事故という形で理想的に解消できる。  
いずれ俺との関係はけりをつけておかなくてはいけない。  
この事故は関係を清算出来る滅多にないチャンスなのだ。  
 
「……まゆっっ !!」  
 
気づけば俺の身体は既に大きく前方に飛び出していた。  
まゆを庇うように歩道へと突き飛ばした直後、車の硬く重いボンネットが俺の身体を強かに弾き飛ばした。  
 
「!! プロデューサーさんっっ……!?」  
 
無機質のアスファルトに強く叩きつけられた俺の身体は、ピクリとも動かなかった。  
視界がぼやけ意識が朦朧とし、体の痛みすら分からなくなっていった。  
俺を迎えに来たであろうサイレンの音が遠くでぼやけて聞こえている。  
「プロデューサーさんっ!! しっかり……しっかりしてぇっっ!!」  
その中でまゆの声だけがはっきりと耳の奥に入ってきた。  
 
   #  #  #  
 
再び目蓋を開いた時、俺は知らない病院のベッドで横たわっていた。  
どことなく身構えたくなる消毒薬の匂いが絶えず鼻腔に入り込む。  
体の節々に酷い痛みがあり、右腕と両脚には重く固いギブスの感触があった。  
「ここは……」  
首だけを左右に動かして辺りをうかがっていると、たまたま巡回中だった看護師と目が逢う。  
彼女は三言俺に語りかけてから立ち去り、やがて医師をつれて戻ってきた。  
 
「はじめまして、担当医の双海です」  
医師はそう名乗って俺の容態を色々と聞いた。ギブスを嵌められている右腕と両脚が痛くてならないと伝える。  
「左半身にも軽い麻痺があるようですね。明日からメニューを決めてリハビリを始めてみましょう。  
 ギブスが取れたら右手もね。ある程度まで回復は見込めますから安心してください。  
 不幸中の幸いと言いましょうか、頭には全く外傷がありませんでした。  
 奇跡と言ってもいいくらいです」  
「……。……ありがとうございます」  
「いえ、お礼は彼女にも言ってあげて下さい」  
双海医師はベッドの足側付近を指差した。  
身体を少し起こして覗き見ると、そこにはぐったりとした状態でうたた寝をしている美しい天使がいた。  
 
「まゆ……」  
 
医師によると、まゆは意識のない俺の傍にずっといたという。  
病院に泊まり込み、不眠で俺の意識が戻るのをずっと待っていたというのだ。  
「大分疲れているようだから、ゆっくり寝かせてあげてください」  
「はい…… 」  
「君が助かったのも、救急車が到着するまでに彼女のした適切な応急処置があってこそです。  
 私の娘たちもアイドルをやっていますが、彼女ほど完璧にできるとは思えませんね」  
「……。彼女は……まゆは大丈夫なんですか?」  
「外傷の事ですか。君が庇ってくれたお陰で擦り傷一つを膝にこしらえただけです」  
それを聞いて、ほっと胸をなで下ろしている自分の存在に気づき、違和感を持った。  
まゆを見殺しにしようとしていたのは、他ならぬ俺自身ではなかったか。  
 
「んっ……」  
その時、まゆは眠い目蓋をゆっくりこすりながら、頭を上げた。  
そして俺の顔を一瞥すると伏し目がちの眼を大きく見開いて傍に走り寄る。  
 
「……プロデューサーさんっ……!」  
まゆは俺の容態を見るや大粒の涙滴を目から溢れさせた。  
胸一杯の喜びと不安が喉中で混じり合って嗚咽となり、口から発する声を潰した。  
彼女が何を言っているのか分かったのはしばらく経ってからだった。  
「良かった……っ……良かったぁっ……! プロデューサー、ぶ、無事だったんですねっ!」  
俺は罪悪感に駆られながらまゆをじっと見ていた。  
病院服に落ちた彼女の涙は、俺という罪人を炙り殺す地獄の劫火のようだ。  
一滴落ちる毎に、そこが焼け爛れていく錯覚に陥らせる。  
「ああ……心配かけて済まない」  
感覚の薄い左手をゆっくり持ち上げて、やっと俺はまゆの頬を伝う涙を拭った。  
 
   #  #  #  
 
その日からまゆは一日も休まず俺の所に来て看病してくれた。  
彼女は俺の好きなCDや本を持って来てくれたため、退屈な入院生活を送らずに済んだ。  
ある日まゆはレースのかかったランチョンボックスに果物を一杯持ってきた。  
 
「これは……」  
「梨です。ほらブラジルに居た時、プロデューサーさんが梨を食べたいと呟いていたので」  
 
俺の他愛もない一言を覚えてくれていた事に驚いている。  
確かに梨が食べたいと言った事はある。  
しかしその時のまゆは、確かまだ先輩に関心を向けていた頃のはずだった。  
てっきり聞き流されているものとばかり思っていた。  
 
「はい、どうぞ」  
丁寧に剥かれた瑞々しい梨にフォークを刺して、まゆは俺に食べさせる。  
まだ両手が思うように動かないためとは言え、気恥ずかしい。  
「美味しいですか?」  
「うん、ありがとう」  
まゆの梨を頬張って咀嚼していると、目の奥がじんと熱くなっていく。  
こんなにも俺の事を想ってくれている良い娘を見殺しにしようとしていた事実が、今考えると恐ろしくてならなかった。  
 
「今日もリハビリ、頑張りましょうね」  
まゆは忙しいスケジュールを縫ってリハビリにも付き合ってくれた。  
代理のプロデューサーに聞いた所、一日の睡眠時間は一時間にも満たないらしい。  
それでは歌う体力を捻出出来ないではないか。事実彼女は気力だけで毎日アイドルとして仕事をこなしていた。  
 
「プロデューサーさん、まゆは平気です。  
 プロデューサーさんに会う度に元気をもらってますから……」  
リハビリの甲斐あって、麻痺していた手足は徐々に感覚を取り戻していき、ある程度動くようになってきた。  
元気をもらっているのは、俺の方だ。  
 
「それでですね、杏さんは飴をもらえると聞いた途端にハロウィンに参加を……」  
まゆはよく仕事の話を俺に聞かせてくれた。  
仕事をしっかりとこなしているその優しい心根が俺を捉えて離さなかった。  
 
   #  #  #  
 
退院した後、まゆと俺は祝いという名目でホテルに寄って互いに抱き合った。  
身体にはまだ縫い痕が生々しく残っていてまゆはしきりに心配していた。  
俺は俺でまゆが気がかりだった。まゆは精神の均衡を異性との肉体的接触で保っている。  
三日もセックスレスが続けば不穏になり、挙動不審になる娘なのだ。  
そんな彼女は俺が退院するまでの三ヶ月、ずっと自慰で我慢していたそうだ。  
それにもかかわらず彼女が入院期間全く問題を起こさなかったのは信じ難い事だった。  
 
「始めようか、まゆ」  
「は、はいっ!」  
俺の声を聞いた途端、まゆは今まで耐え忍んできた我慢の限界を超えてしまったらしい。  
満面の笑みで喜んだ後、前戯もなしにいきなり俺の体に乗っかってきた。  
「いいのか、濡らさなくて……」  
「はい……」  
まゆは自分の白股に俺の指を導く。触るとそこは充分過ぎる程蜜露が滴り落ちていた。  
すぐに俺の手は汁にまみれて蜜臭を帯びた。確かにこれ以上濡らす必要はない。  
 
「んっ……」  
柔手を添えられ天を臨んだ剛直根の上に、まゆはゆっくりと味わうように尻を落としていく。  
熟れた彼女の蜜膣に俺の熱い肉根が淫汁を纏いながらずぶずぶと犯し入っていく。  
濡れきった淫襞が肉幹を丹念に舐め回し、陰根がとろけてしまいそうだ。  
 
「あはぁ……っ! ああんっ、……プロデューサーさん!」  
まゆは腰上で乳を上下させながら、乱れ踊った。  
全身で男の芯を味わい尽くして、歓喜の極みに咽び悦んでいた。  
俺はそんなまゆの愛身に対して下からズンズンと突き上げて応戦する。  
愛水が欲棒によって激しく撹拌され、耳がただれそうになる程の蜜音を始終奏でていた。  
そしてその伴奏に彼女の美しい嬌声が乗り、何とも淫々としたシンフォニーを形成している。  
 
「くぅっ……!」  
舌を深く差し込んでまゆに口付けしながら、俺は溜まっていた白淫をどっと恥孔へと乱放する。  
大量の白蜜に反応して肉襞がきゅうと締まり、極天の肉悦を楽しませた。  
まゆは絶頂に震えながらも、健気に俺の舌を吸う。  
俺はそれに答えて、射精を続けながら抜挿をやめなかった。  
 
「あんっ……! あはぁ……っ! んあぁ……っ!」  
力任せにまゆを組み敷いた俺は、三ヶ月間溜め込んだ淫欲が尽きるまで  
彼女の愛壺へと精力的に忙射していく。  
裸になってから何発彼女の膣内に遺伝子を注ぎ込んだのかなど、数える余裕もなかった。  
数える時間すら勿体無く感じていた。  
ただはっきりしている事は五時間経ってもなお、俺はまだまだ彼女を抱き足りないという事だけである。  
 
「んっ……まゆっ……まゆぅっっ!!」  
俺はひしと抱き固めたまゆを愛犯し尽くした。  
肉根は萎える事無く、更に熱血を滾らせて彼女を穿ちまくる。  
いくら射精しても精嚢は疲労を覚えずに次々と発情汁を生産して肉茎へと送り込む。  
明け方近くになっても、俺は仮眠を取らずに彼女を愛し抜いた。  
今はとにかくまゆを愛したくて仕方なかった。  
 
「ああっ……ぁっ……!」  
陰根の強かな律動に誘われるように、まゆは快天を極めた。  
花唇と淫幹の快韻が大きく干渉し合い、大きな蜜波となって四方に広がっていく。  
「んっ……、ふぅぅ……」  
繋がってから七時間――精嚢の渇きを頃合いと見て肉根を引き抜くと  
膣圧に押し出された淫汁がまゆの蜜口からトプトプとやらしく溢れてきた。  
我ながら調子に乗りすぎたかと、静かに内省する。  
俺とまゆは体の相性に関して抜群といって良かった。  
まるで元々一つだったものが引き合わさったかのかと思う程の一体感があった。  
 
「んっ……プロデューサーさん、今回はすごい激しいですね……」  
まゆは俺の股へとすがりつき、その可憐な唇でやや萎えた陰根をむぐと頬張る。  
女舌で付着している精汁を舐め掬い、頬をすぼめて尿道の残滓をも吸い貪った。  
これほど献身的に愛してくれる娘が果たして何人もいるだろうか。  
 
――もう、自分の心に嘘はつけなかった。俺は、まゆを……。  
 
「……愛している」  
 
自然と口から漏れた一言に、まゆは上目遣いになって俺を見つめた。  
「……私も、プロデューサーさんを愛してます」  
 
口淫を切り上げてまゆは俺の胸板に身体を預けた。  
「プロデューサーさんには命まで救ってもらって……  
 まゆ、もう貴方しか見えなくなってしまいました……」  
俺の指間にまゆの指が入り、絡み付く。  
「まゆはもう……、プロデューサーさんと離れたくありません」  
「一緒に……暮らしたいな」  
「はい、私もプロデューサーさんと……」  
俺たちは抱き合い、再び愛炎を燃やしてその日はレッスンをキャンセルして一日中睦み合った。  
 
   #  #  #  
 
後日俺は出社し、高木社長から退院について労いの言葉を掛けてもらった。  
 
「君には苦労をかけてばかりだね」  
「いえ、社長。こちらこそ仕事に穴を開けてしまい、申し訳ございません」  
社長が俺を呼んだ理由はそれだけではなかった。  
佐久間まゆの処遇をどうするか、765プロでは決めかねていた。  
現在まゆの手綱を握り、御す事の出来るプロデューサーは俺しかいない。  
事情を知る他の社員は彼女をプロデュースしたがらないのだ。  
まゆ自身も、今は俺の指示しかまともに従わなかった。  
 
「心苦しいが……まゆ君を扱える人材は君しかいない状況だ。  
 君には多大な感謝をしている。本来ならばその苦労に報いるべきなのだろうが……」  
社長は苦悩しながら俺にまゆのプロデュース続行を切り出そうとしていたが  
俺はその時、もう決意を固めていた。  
 
「社長。悩んでいただきまして恐縮ですが、私は引き続き  
 まゆをプロデュースしていきたいと考えております」  
「おお、そう言ってくれるとこちらとしても助かる」  
「つきましては、まゆの仕事内容に関して、いささかお願いがございます」  
「うむ。世話になった君のためだ。多少無理してでも聞き入れるつもりだよ」  
 
俺の申し出を聞いたあの時の社長の顔は忘れられない。  
それは進んで断崖の上から身を投じる人間を見るかのような眼差しだった。  
「本当にそれで、いいんだね?」  
社長は何度も俺にそう確認したが俺は返事を変えなかった。  
ともあれ彼は申し出を受諾し、俺とまゆは再びブラジルの地に降り立った。  
今回の入国はまゆの隔離目的ではない。  
設立済みの765プロダクションブラジル支店に根を下ろし、そこを拠点にまゆのアイドル活動を続けていくためである。  
勿論俺は人生を賭けて彼女の活動をサポートしていくつもりだ。  
 
入国後に俺とまゆが行った事はサンパウロの教会で結婚式を挙げる事だった。  
ウェディングドレスに包まれたまゆは恍惚とした笑みを浮かべて、俺から誓いの指輪を受け取る。  
郊外の静かな土地に慎ましい我が家を建て、まゆと俺は二人三脚で異国での芸能活動を続けていく。  
その活動中でまゆは俺の子供を三人産んでくれた。  
今は四人目をその身に宿してくれている。  
「貴方……」  
休日。愛おしい若妻の体を優しく抱き寄せ、幸せに浸る。  
この先誰が何と言おうと、俺は決して彼女を放しはしない。  
佐久間まゆ――彼女は世界に二人と居ない、俺の最愛の女性だ。  

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