いきちがい
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saiyan_party 2024年01月06日(土) 03:39:49履歴
本文 作：祭屋 
あるところに、一人のヒトと一匹の妖精ずんだもんが住んでいました。
一人と一匹はお互いのことを思いあい、助け合い、とてもステキな関係を築いていたのです。
しかしお気づきでしょうか？それらは過去形です。一体何があったのでしょうか？？？
[みなさんこんにちはなのだ。ぼくのなまえはずんだもん]
[やさしいごしゅじんのおかげで、まいにちたのしくしあわせなのだ！]
「ああ、ずんだもんは今日も良い子で可愛いね。飼い主として鼻が高いよ」
主人の手が優しく妖精ずんだもんを撫でる。照れながらも心地よさそうだ。
[それはひとえに、ごしゅじんのおしえのおかげなのだ！すごいのはごしゅじんなのだ！！]
「うふふ、謙遜までするのかいこの子は。さ、おやつにしようね」
[わぁいおやつなのだ！てをあらっておさらのじゅんびをしますのだ！！]
鼻歌混じりに準備を済ませる妖精ずんだもん。今日のおやつは主人お手製のずんだ餅だ。
以前にある事情で失ってしまった家庭菜園を復活させ、自らの手で世話をし収穫に漕ぎつけた枝豆を使った思い入れしかない逸品である。
自分で食べるのももちろんの事、最愛の主人に提供できるのが何よりも嬉しかった。喜んでほしかった。
[てを、あわせましたのだ！]
「はい。では食材と・・・ずんだもんに感謝して！」
[わわっ、ぼくじゃないのだ！かんしゃするのはごしゅじんになのだ！！]
どこまでも殊勝な妖精ずんだもんに苦笑、感激して涙ぐみながらもそれを誤魔化して主人が笑う。
「あはは、このままお預けも悪いね。ではお互いに感謝して！！」
「いただきます」
[いただきますのだ]
「ああ、幸せだなあ」
[えへへ。しあわせ、なのだ]
いつまでも、ずっとずっとこんな日が続きますように・・・。
一人と一匹の心は通じ合っていた。
・・・
[そこのようせい、ちょっとまつのだ]
[？]
ある日、主人のおつかいを済ませた帰り道に呼び止められた妖精ずんだもん。振り向くと別の妖精が立っていた。
周りには他の妖精も、人間もおらず一匹。今の自分が言えたことではないが野良かはぐれ妖精なのだろうか？
[こんにちわ。ぼくになにか、ようなのだ？]
[おまえは、かいずんなのだ？]
[そうなのだ。きょうは、ごしゅじんのおつかいなのだ]
[やっぱり。おれはにんげんといっしょにいる おまえをみたことがあるのだ。そのときおまえはしかられていた、ひどいことをいわれていたのだ！]
それは違う。きっと自分が何か失態をしてしまったから・・・。野良妖精へ説明しようとするも遮られ、一方的にまくし立てられる。
[きょうも、にんげんにいいように つかわれているのだ？おまえはそれでいいのだ？？]
[ごかいなのだ！おねがい、はなしを・・・]
[おまえはだまされてるのだ！おれはおまえみたいなやつをほうっておけないのだ！めをさませ、いっしょににげるのだ！！]
[ごしゅじんはそうじゃないのだ！ちがうのだ！！]
野良妖精の言いたいこともわかる。彼は彼なりに心配し、自分の身を案じてくれていることは本当だろう。
世間には妖精だからと罵られ、暴力を振るってくる人間も確かにいる。おつかいや人前に出て奇異の目で見られるのもしょっちゅうだ。野良であろう彼の苦労は想像もつかない。
躾は確かに辛いし恐ろしい。しかしそれは自分が至らないためであり、主人も自分が憎いからでなく『良い子』になってほしいからであると理解している。
少なくとも彼らが敵視する人間と、主人は決定的に違う。自分と主人はお互いを想いあい、確かな絆がある。妖精ずんだもんはそう確信していた。
[かわいそうに。まいんど・こんとろーるをされてしまっているのだ。こころここにあらず、なのだ]
しかし野良妖精の理解を得るには足らなかった。彼はあまりにも頑なで、その語気に圧され妖精ずんだもんも強く意見することが許されなかった。
[まって！ちがう！ちがうのだ！ぼくはしょうきなのだ。はなしをきいてほしいのだ！！]
[くわしくはおまえのみのあんぜんを かくほしてからなのだ！にんげんにみつかっては、おそいのだ！！]
[おまえたち、まかせるのだ！！]
[のだっ！]×n
[えぇ！？]
野良妖精の合図でどこからともなく4〜5体の妖精が現れる。突然のことに面食らっている妖精ずんだもんを囲み、担ぎ上げてあっという間に連れ去ってしまう。
[わああああっ！やめて、やめてーっ！！]
[おまえをむれに つれかえるのだ！はなしはそれからなのだ！！]
[のだのだっ、のだだっ！]×n
・・・
[やめてほしいのだ！おうちにかえしてほしいのだ！！]
[すまん、ちょっとおとなしくしてほしいのだ。おちついてはなせないのだ]
有無を言わさず群れに連れて来られ、拘束までされてしまった妖精ずんだもん。誘拐の実行犯である野良妖精をはじめ10体ほどの妖精の目が向けられていた。
[ごかいなのだ！ぼくは、ごしゅじんといっしょが しあわせなのだ。いじめられてないのだ！！]
[きみがぼくをしんぱいしてくれているのは、ほんとうにありがたいのだ。でもちがうのだ、ごしゅじんはやさしいひとなのだ！]
[まちがっているのは おまえのほうなのだ。おれたちは、にんげんにひどいことをされたやつらのあつまりなのだ]
[みんないちどはにんげんをしんじた、でもうらぎられたのだ。なかまもいっぱいころされた、おまえにはそんなおもいを してほしくないのだ！あいつらはてきなのだ！！]
話は平行線。きっとどちらも正しいのだろう。生まれ育ってきた世界が違いすぎた両ずんの主義主張はわかりあうことは出来なかった。
[ぼくのごしゅじんは、やさしくてすてきなひとなのだ！ぼくをあいしてくれているのだ！！]
[みんなもちゃんとはなせば、わかってくれるはずなのだ！おねがい、ぼくをはなして！！]
[うるさいうるさいっ！おれたちにやさしいにんげんなんて いないのだ！！もしいるならっ、どうしておれたちはこうなったのだ？にんげんを、にくまなきゃいけなかったのだ！？]
[くちょにんげん なんていいたくなかったのだ！なんで！どうしておまえだけっ！！]
[うぐっ！ぐぐぅっ！？]
野良妖精のパンチが、キックが妖精ずんだもんに襲い掛かる。
ヒトにとっては鼻で笑える威力だろうが妖精同士だとそうはいかない。
いつまでもまとまらない話に痺れを切らせたのか、眩しすぎる信頼関係を築けた妖精ずんだもんが羨ましいのかいつしか群れ全体によるリンチへと発展していた。
身動きの取れないままひたすらに暴力に晒される妖精ずんだもん。このまま自分は死んでしまうのか、主人に会いたい。会いたい・・・。
ぐしゃ
[ぴぎゃ！？]
一匹の野良妖精が潰され、緑色のぐちゃぐちゃへ成り果てる。
[な、なんでここににんげんが！？や、やめろ！おれのなかまをいじめるなーっ！！]
「仲間？いじめる・・・？」
[ぎゃああああああっ！]
[うぎっ、ぐぎぃぃっ！？]
ぐちっ、べちゃっ
「僕の大切なずんだもんに寄ってたかって、お前らを絶対に許さない！！」
[あ、ああ、あああああ・・・！！]
[ご、ごしゅじん！ごしゅじんーっ！！]
痛めつけられ、意識が遠のこうとしていた妖精ずんだもんの視界がクリアになる。
目に映るのは最愛の主人の姿。己の願望が見せた幻などではなく、まぎれもなく主人その人であった。
[み、みんなにげろ！ここにいちゃまずいのだ！！]
[ぎゃあああああっ！うわっぎゃあああああっ！？]
「逃がすわけがないだろう！」
野良妖精の呼びかけも空しく、あるものは捕らわれ、またあるものは踏まれ、叩かれ殺されていく。
[ま、まってほしいのだごしゅじん。みんなわるぎはなかったのだ！はなしを、おはなしを・・・！]
躾の時すら見たことのない、悪鬼の如く暴れ回る主人に怯えながらも必死で呼びかける妖精ずんだもん。しかし・・・。
「かわいそうに。こいつらに悪いことを吹き込まれたんだね？大丈夫、一匹残らず始末してあげるから、今日のことは忘れてしまいなさい」
[あぎゃぎゃぎゃぎゃーっ！いたいいたいいたいいいいいいいっ！！]
心底憐れむ目を向け、構わずに殲滅続行する主人。
[ちがう！ごしゅじんは・・・！]
[なんで！どうしてこうなるのだ！やっぱり、やっぱりにんげんはようせいを・・・！]
「勘違いするなよ害獣。僕は『ずんだもん』が大切なんだ。それだけでいい、それ以外は要らない！！」
[ぐぼ、ぐばああああっ！！！]
妖精ずんだもんの制止も呼びかけも空しく、全ての引き金となった野良妖精の頭が真っ二つにカチ割られた。
[あ、あわわ、わ・・・。みんな、みんなぁ・・・]
「怖い思いをしたね。もう大丈夫だよずんだもん」
目の前で繰り広げられた惨劇にカチカチと歯を鳴らし、涙を流す妖精ずんだもんの頬を撫でる主人の手。
いつもと変わらぬ仕草に優しさと親愛を覚えるソレ。しかしたった今潰された野良妖精の生暖かい血に塗れ、べったりと張り付き流れ落ちる感触を意識した、その時。
[おぶぇ・・・えぶっ、ごぼぇぇぇ・・・っ！！]
「ずんだもん！？ずんだもんしっかりして！」
「おうちに帰ろうね。大丈夫、もう君を怖い目に遭わせる奴はいないからね、僕が全部やっつけたよ！！」
(ちがう。ちがうのだ、ごしゅじん・・・)
(ごめんなさい。ごめんなさい・・・)
肉体的にも、精神的にも限界を迎えた妖精ずんだもんは虚空へ詫びながらその意識を手放した。
・・・
[ごしゅじん、ごめいわくをおかけしましたのだ]
「気にしなくていいんだよずんだもん。君は巻き込まれただけ、何も悪いことはしてないよ」
傷の手当てをされ落ち着き、事の次第を説明し終えた妖精ずんだもんを主人はぎゅっと抱きしめた。
しかし全てを知った主人の口からは・・・。
「僕にとって大切なのはずんだもん、君だけだよ。君さえいれば他は要らないよ」
何のことはないと。嫌な事件だった、さっさと忘れてしまいなさいと。
元気になったらまた家庭菜園で枝豆を作ろうねと、早く良くなるように好物のずんだ餅を奮発しようね。などと昨日までと変わらぬ様子で言う。
自分に対する嫉妬もあったのだろうが野良妖精との始まりは善意であった、きっとそうだろう。
彼らにも行き過ぎたところはあったが、あんな末路を迎えていいはずがない。
何よりも主人の怒りは自分のためであり、あそこまでできるのが恐ろしくなった。
[ごしゅじん、その・・・おねがいがあるのだ]
「何でも言って、早く元気になってほしい」
[ぼくに・・・ぼくにばつをあたえてほしいのだ。こんかいのけん、ぼくが、ぼくがいけなかったのだ]
「ずんだもん？なにを、言っているの？」
きょとんとした顔を向ける主人。妖精ずんだもんは事の詳細を全て説明した。お互いの認識にズレはない。
その上で、妖精ずんだもんの真意が伝わっていないのだ。
「ちゃんと話を聞いたうえでの判断だよ。落ち度があるとすればあの場で怒りに任せ君の話に耳を傾けなかった僕の方だ。反省している」
「君は不幸な事故に巻き込まれてしまった。野良には野良の事情があった、僕を含めた人間との不幸なすれ違いがあった、それは事実かもしれない」
「でもそれとこれとは別。やつらが君を傷付けていい理由にはならないよ、全く関係ない君に対してただの嫉妬もいいところじゃないか」
「君が優しい子に育ってくれて嬉しい、でも今回のことは・・・忘れた方がいいと思う」
そこまで言うと主人は立ち上がり、部屋を出ようとする。
[ま、まってごしゅじん！まって・・・！]
「いろいろあって疲れたろう？今日はゆっくりお休み、また明日ね」
パチリ。と照明が落とされ一匹部屋に残される妖精ずんだもん。自分はどうすればよかったんだろう？どうしてこんな、最悪の事態になってしまったんだろう？？
眠りに堕ちようにも後悔と自責の念がグルグルと渦巻き、まったく落ち着かずそれどころではない。
(あぁ、あぁ・・・。ああああ)
・・・
・・
・
ガチャンッ！！
「はっ？ずんだもん？ずんだもん！？」
[ごしゅじん ごめんなさい いいこじゃなくて ごめんなさい]
[ぼくは しあわせだったのだ ごしゅじんが だいすきなのだ]
物音に飛び起き、嫌な予感に走る主人の目に飛び込んできたのは・・・。
[こんなことになって ほんとうにもうしわけないのだ]
[ぼくは いちゃいけないのだ きれいさっぱりわすれて しあわせになってほしいのだ]
「うわあああああああっ！ずんだもん！ずんだもんしっかりして！」
「嫌だ！嫌だ嫌だ嫌だ！嫌だよおおおおおっ！！！」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
あとがき
主人と妖精ずんだもんの関係は当人同士の間で完結しているので、他者が立ち入るべきでなかった。
ヘンな拘りでひらがなばかり、読みづらい内容になって申し訳ありません。
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このページへのコメント
私ずん洗脳解除系野良ずんは勝手な思い込みで命を失い、主体性が無いまま逃げ道が無い所まで追い込まれたYESずんも命を失い、閉じられた世界で満足してたドメスティックご主人は心を失った。
これは三方一両損ですな御奉行！（三方に一両の価値があるかどうかは目を逸らして）
あとがきで完結した関係とあったのでそれ以上の伸び代がないから壊れたのも必然だなぁと感じてました。
俺個人が外から見ると破綻していたり不公平なのに、当人同士がユメに酔いなんだか上手くいっている関係大好きなんですよね。
主人はドメスティックというかドラスティックというか…等々くだらないことを言いたがる人間なので本文でふざけにくかったことだけが反省点です
お互いを大切に思うからこそ、時には過激になってしまい、時にはすれ違ってミゾができてしまうのはなんだか切ないですね。すれ違うきっかけも本人たちが特に悪いわけではなく、偶然他の野良ずんと出会ってしまっただけですし‥なんともやるせない気分になります。
不思議とこのペアに対して同情とか幸せにしてやろうという気持ちが皆無でよくわからなくなっておりました。
そう言っていただけるとまだ救いがあると思います。ありがとうございました
野良の自分は不幸だったから他も不幸でなければならないという思考、いざその期待を裏切る違う他者を見たら否定をし暴力を加える。
豚の僻みとはこういう事か。
ずんだもんは「とても敬愛してますけとご主人の教育キツいっす。しんどいんですわ」って言えてたらなぁ。
けどご主人のずんだもんへの偏愛がここまで拗れてるともう手遅れか。今回の事が無くてもいずれちょっとした事でも破綻してたのかな？
主人と勘違い同胞両側に引っ張られて可哀想だね、大岡裁きなんてさせないよ裂かれて死ね！(今思いついた)
可哀想に見える主ずん公ですが善良と見せかけて主人のイエスマン、主体性のないヤツだと(俺は)認識していたので単にサービスタイムが終わっただけなのかなあと。
その辺りをなんとか改善しようと動いた結果訪れる幸せな未来もあっていいのかも。とは思います(虐になんないですけど)
「ずんだもん躾」からのあまりにも救いのない結末・・・
お互いがお互いを想いあって、でもどこかがすれ違って・・・
飼い主の躾が間接的に大切な「ずんだもん」を喪う原因になってることに気付けるかどうか
野良は捨てられた元ペットや鬼威惨鬼寧惨から逃げ延びたのが寄り集まって、群れの中でエコーチェンバーみたいになった感じですかね
続編、完結編！とするにはいろいろと思うところがあったので、リンクも貼らず俺が勝手に言ってるだけと置いておきます。
野良はただの勘違いお節介野郎だったのがライブ感でこうなってこうできちゃいました
親しい誰かに対する純粋な善意と、大きな主語による押し付けの善意、合わさったら幸福が訪れるわけもなく……
『くちょにんげん なんていいたくなかったのだ』という野良妖精のセリフからも、彼らなりのバックグラウンドが感じられて深いですが、有無を言わせず拘束はダメだろう……
祭屋様の『のだっ！×n』という表現がホントに好きなので、出て来たときニンマリとしちゃいました！ひらがなばかりの文章、私は大好きです！
どうやったら主ずん公不幸で可哀想になるかなあと思いついたのを(珍しく)一発でひり出しました。野良が急に哀しき過去を匂わせ出したのはライブ感のせいです。
躾といい今回といい(とても珍しく)ふざけたセリフや表現させないつもりだったんですが、これくらい大丈夫だろうと×nしました、気に入って頂けて嬉しいです