チャプター 
『セラピーずん、現場の悲鳴 前編』
『セラピーずん、現場の悲鳴 後編』
『セラピーずん、ウソつきの最期』
『セラピーずん、お出かけ、演説』
『セラピーずん、契約解除と盲導ずんの失明』 ←本頁
けもです。
「セラピーずん」シリーズ、最終話となります。
過去作とも合わせてお楽しみいただければ幸いです！
※この小説はフィクションであり、実在の人物･団体･事件とは一切関係ありません。また、特定の社会的立場の人々を揶揄する意図は一切ございません。
本編
彼が名刺を差し出すと、受付に立っていた女性は、明らかに狼狽していた。
やがて、副社長だという人物が、額の汗をぬぐいながら、彼の前に姿を現す。
「イ、イマイズミさん…………どうしたんですか、急に、連絡もなしに」
「視察です」
「そ、そんな…………いきなり来られても」
「いきなり来られたら、困るものがあるんですか」
「い、いやぁ………」
廃工場の詰所を安価で買い取ったかのような、お世辞にもキレイとは言えないオフィス。
ここは、野良妖精を選別し「セラピーずん」としてトレーニングしている会社。
視察のためにやってきた彼…………イマイズミが勤める高齢者施設が、「セラピーずん」のトレーニングを委託している会社である。
「と、とりあえず、こちらへ………」
汗が止まらない様子の副社長は、イマイズミを応接室へと案内しようとする。
「副社長さん。お構いなく……私だって長居するつもりはないんです。とにかく、育成現場を視察させてください」
「し、しかしですねえ……」
予想通りだ、と、イマイズミは思った。
日に日に悪化する、「セラピーずん」の質。使い物にならない子ずんまでも送り込む、その杜撰な管理体制。
確実に、何か良くないことが起こっている。
「…………ずいぶんと、トレーナーの数が少ないんですね？」
「そ、そりゃあ、もう……少数精鋭、ですよ……なにしろ、トレーナーを増やさなくとも、弊社の妖精たちは優秀なんです」
「………優秀、ですか」
「んぐ…………」
「私には、そうは思えませんけどね」
イマイズミは、副社長の目をはっきりと睨み、言葉を続ける。
「私がどうしてここに来たか…………それは、あなたたちとの業務委託に関する契約を、解除したいと思ったからです」
「か、かい……！？」
「こちらとしても、面倒なトレーニング課程をあなたたちに丸投げしてしまっていた責任はあります…………しかし、最近のあなたたちが送ってくる“セラピーずん”の質は、非常に悪くなっている！ これ以上、うちでは扱いきれない」
「ま、待ってください……いきなり言われてもですねぇ………どうして、我々に…………」
「訓練期間を、大幅に短縮しているでしょうっ！！」 だんっ！
イマイズミが、苛立ったように壁を叩く。副社長は、震えあがった。
「最初のころは、3か月…………これが最低ラインだ…………それが、先日には2週間だとFAXが来ました！！ 2週間で、何が出来るか！！ 2週間で、何が…！！」
「お、落ち着いてくださいよ………」
「うるさいっ！！」
「ひいっ」
「2週間しかトレーニングされていない“セラピーずん”が、うちで何をやらかしたか、知りたいですか！？」
「や、やらかし……？」
イマイズミがスマホを取り出し、ある動画を再生する。
《へこへこ、へこへこ！！》
《し、しずかにへこへこするちゃ！ みつかっちゃうのだ……》
《わ、わかったのだ……へこ…………へこ、へこ…………》
《へこ……へこ、へこ、へこ………》
隠れて性行為におよぶ、2匹の「セラピーずん」。
聞こえないように声を殺すということは、少なからず罪の意識があるということであり、それもまた、イマイズミの嫌悪感を増幅させるばかりであった。
「……これは、どういうことなんですか」
「…………」
「これが、あなたたちの誇る“セラピーずん”の姿ですか」
「…………」
「訓練期間を短縮すればするほど、害獣としての“本能”を捨てきれない……こうなることは予想つきませんでしたか」
「そ、その妖精たちが、弊社の“セラピーずん”だなんて、証拠は…………」
「とぼけないでください！ うちの施設は、あなたたちにしかトレーニングを外部委託していないんです！ こいつらは、2週間だけトレーニングを受けて、あなたたちからゼッケンを着せられて、送られてきたんだ！！」
「むぐうぅ……」
追い詰められていく副社長の顔は、みるみる青くなっていく。
「まだまだありますよ」
「なぁっ！？」
イマイズミは、さらに畳み掛ける。
「先日、子ずんをうちに送り込んできましたね」
「…………」
「その子ずんは、トイレトレーニングも満足にされていなかった…………あろうことか、ご入居者様の手に脱糞したんです」
「…………」
「ゼッケンだけ着せられて、何もわかっていないような表情で！ 使い物になんて、なりはしなかった！」
「…………それでは、その個体を弊社までお送りください」
「お送りください、とは？」
「さ、再教育いたします！」
「再教育、ですか」
「そ、その個体だけとは言いませんから、イマイズミさんが問題ありと判断した個体を、すべて……」
副社長は、苦しそうに提案する。イマイズミには、「やればいいんだろ」という精神が透けて見えた。
「…………無駄ですよ」
「む、無駄？ や、やってみないことには…………」
「副社長さん。 物 理 的 に 、 不 可 能 な ん で す 」
ぺらっ………
「セラピーずん」の死亡報告書を取り出し、男の目の前にかざすイマイズミ。
「し、死亡……！？ こ、こんなに…………？」
「はい………私が、責任をもって処分しました」
「しょっ！？ な、何を…………」
「あなたたちは、“セラピーずん”をトレーニングしていると言いながら、規律も守れないような、こんな害獣を送り込んだ。私は、送られてきた害獣を駆除しただけです」
「が、害獣だなんて、そんな……す、好き勝手言うのも、いい加減にしろおおおおおおおおおおおっ！！」
副社長は、気分を害したかのように、声を荒げる。
「育成なら、育成なら、きちんとやっている！ あなたに、弊社の妖精を害獣と呼ぶような“権利”は……！」
「それでは、育成現場を視察させてください」
「ぬぉっ……！？」
…………………………
「だせだせだせだせ！ ここから、だせえええええ！！」 「のだのだのだのだのだ！ あけろ、あけろ！」 「おいそこのくちょにんげん！ かわいいずんちゃたちを、ここから、かいほうするちゃあああああああ！！」
「…………へえ。これが、“善良”個体ですか」
「まだ連れてきたばかりで……これから、教育していくところで…………」
「のだ、のだ」 「よいちょ………」 「にんげんしゃん、にんげんしゃん！」 「ちゃむーん、ちゃむーん」 「みゅっ、みゅ！！」 「みゅう〜ん……」 「うううぅん……でりゅっ！」 ぶりっ！
「…………動きがバラバラですね。何のためにここにいるのか、わかっていない個体もいる」
「み、みんな、精一杯頑張っているところで…………」
そして、大きなスクリーンが備え付けられている、最後の部屋。
「にょだ、にょだ」 「たのち、たのち！」 「ずんちでりゅ……」 「ずーん……ずーん………」 「ずんちゃのごはんしゃん、どこ？ どこ？」 「にょだにょだ、にょだにょだ！」
「子ずんばかりじゃないですか……どういうことですか」
「そ、それは………」
スクリーンには、「セラピーずん」としての心得を教育するためのビデオが映し出されている。
だが、子ずんの1匹たりとも、そのスクリーンに注目していない。好き勝手に、部屋の中で過ごしているだけだ。
監視員のような人間は、見当たらない。
「これが、育成現場の正体ですか……あの子ずんが、ただの害獣だったのも納得です」
「が、害獣………」
「ああ、イマイズミさんじゃないか、どうしたんだ」
突如として、別の声が聞こえた。
「しゃ、しゃちょん！！」
途端に、副社長が安堵のため息を漏らす。現れた男は、サングラス姿にニグロパーマの、いかつい風貌の男だった。
「………応接室まで」
有無を言わさない口調で、男が踵を返す。何をされるのかと身構えるイマイズミだったが、おとなしくそれに従った。
最後に、彼は後ろの部屋を振り返った。
≪「セラピーずん」になったら、「へこへこ」しては、いけません≫
「へこ……へこ………」 「へこへこ！ いいひびき！」 「へこへこ、してみたいにょだ！」 「ずんちゃも、ずんちゃも！」 「ずんぽ、むくむく、むくむく！！」
2匹の妖精が重なって腰を振っている映像が映し出されるなり、子ずんたちは、示し合わせたようにスクリーンへ注目する。
そして、性器を勃起させ、顔を赤らめながら荒い息を吐くのだった。
スクリーン上には、大きく×印が書いてあるというのに…………
「…………なるほど、契約解除したいと」
「はい」
どう見てもカタギの人間には見えないニグロパーマの男は、この会社の社長であった。
イマイズミは会うのは初めてだったが、顔と名前を知られているということは、何かのリストに登録されているということだろう。
「詳しい理由は、副社長にお伝えしました」
「社長…………この男の主張は、どう考えても、不当です…………」
「いやまあ、この現場を見たら、そうなるわな」
「はぁ…………？」
イマイズミは、拍子抜けする。指でも詰められるんじゃないかと、気が気でなかったからだ。
「しゃ、しゃちょん！？ 良いのですか？！ こんなに好き勝手に言わせておいて…………」
副社長も、社長の返答が予想外のものだったのか、激しく狼狽えている。
「“こんなに”も何も、俺はその場にいなかったからよ」
「が、害獣だのなんだの……そればかりか、我々の出荷した“セラピーずん”をすべて殺しやがって…………」
「ああ、まあ、それか…………別に、それについてどうこう言おうとは思わねえ」
社長は、ボリボリと頭を掻いたのちに、イマイズミへと向き合った。
「イマイズミさん。“善良”な妖精についてだが……」
「はい」
「野生だとその数は、圧倒的に少ないんだ…………どうしてだかわかるか」
「人前に姿を現さないから、ですか」
「まあ、それもあるんだが…………最も有力な理由は、“民族浄化”だな」
「み、“民族浄化”……！？」
「ああ。粗暴な個体群が、“善良”と呼ばれる妖精を次々に襲う……まあ、妖精という民族同士の潰し合いとか虐殺だわな」
「ど、どうして……」
「個体数調整のためのシステム？ 意識の統一？ 弱いと判断した遺伝子の淘汰？ 俺にも詳しくはわからない…………だからこそ、野外で“善良”の個体を探し出そうとすると、途方もない時間と労力とコストがかかるの、わかるか？ 大手から購入する手もあるにはあるが、FAIRIESだって信用ならんしな」
「だから、あのように質の低い個体や、子ずんを大量に…………？」
「そういうことだ」
「ですが……それが不完全な害獣として、現場に送られてくるのは…………」
なおも食い下がるイマイズミに、はあっ、とため息をつく社長。
「…………今の時代、質より量なんだよ、イマイズミさん」
「………」
「“害獣”の社会貢献が、協会の真の目的ならば、無理に“善良”を選別する必要もないだろう？ それこそ、人間にとって不都合な現実から目を背けていることになるしな」
「………」
「俺たちだって少し前までは、“競争ずん”あがりの、善良なやつを選別して、出荷してたんだよ」
「競ずん、ですか」
「そうだ。“功労ずん”としての栄誉…………根っから善良な彼らには、うってつけの仕事だが……いかんせん母数が少ないんだ」
「だから、路線変更したと？」
「時代は、変わったんだよ」
重々しく、つぶやく社長。腕組みをして黙った彼に変わり、副社長が口を開く。
「“セラピーずん”を出荷すればするほど、 “ 妖 精 セ ラ ピ ー 協 会 ” か ら も ら え る 補 助 金 の 額 が 増 え る ん だ 」
「………！？」
「あなたも難癖付けるんじゃなくて、我々に感謝して欲しいくらいだ」
「はあっ……！？」
副社長は、先ほどのオドオドした様子からは想像もつかないような、意地悪な笑みを浮かべる。
この社長がそばにいることで、初めて彼が輝けるのだと、わかった。
「我々は………… “ セ ラ ピ ー ず ん ” を 日 本 全 国 に 出 荷 し 、 知 名 度 を 向 上 さ せ て い る “ 功 労 者 ” な の だ か ら ！ ！ 」
「 …………ふ ざ け る な 、 害 獣 宅 配 業 者 が ！ ！ 」
ばんっ！
応接室の机を、拳で叩くイマイズミ。
「まともな育成すらせずに、何が功労者だ！！ あなたたちの考えが、よくわかった…………結局は、金のためなんだな！」
「…………否定はしない」
「じゃあ逆に問おうか、イマイズミさん？ この世で、100パーセント、金のためではなく、心から他人のために尽くせる人間は、果たしているのかどうか…………“セラピーずん”なら、妖精なら！ 訓練さえすれば、金のためではなく、心から人間のために尽くせるんだ！ 我々が育てた、そんな素晴らしい存在を、あなたは殺したんだ…………」
社長が冷ややかにつぶやき、副社長が、ねちっこい笑みを浮かべる。
“訓練さえすれば”…………？
彼らがその訓練を怠っているのだから、話にならない、とイマイズミは思った。
「……もう限界です。契約解除を申し入れます」
「…………引き留めはしない。俺たち以外の業者と、新たに契約を決めているのか」
「いえ、今後は妖精を一切導入しないつもりです」
「そうか、すべて殺したのはアンタの覚悟ということだな」
…………………………
「背中に気を付けろよ」
契約解除の手続きが終わり、オフィスを出るイマイズミに、社長が声をかける。
受付の女性は、何のことかとばかりに目をぱちくりさせていた。
「…………どういうことですか、いつか、あなたに刺されるということですか」
「俺は別に、契約解除の件を恨んじゃいないさ……協会には俺の方から話をつけておくし、殺した“セラピーずん”の数だけ、金をとったりはしない…………だが、このままだと“妖精愛護団体”が黙っちゃいないぞ、ということだ」
「脅迫ですか」
「脅迫じゃない、警告だ…………だから、施設の利用者やマスコミには、“セラピーずん”を殺した、とは直接伝えるな」
「それに関しては、いい表現があります…………妖精たちは“お出かけ”したと伝えます」
「なかなかいいじゃねえか」
サングラスをとった社長は、子どものようにニヤリと笑う。
根っからの悪人ではないのかもしれない、とイマイズミは思った。
「警告ありがとうございます」
「ああ。俺は別に“妖精愛護団体”じゃねえし、好きで妖精の育成なんかやってるわけじゃねえ…………アンタの言う通り、まともに育成すら出来ていない、“害獣宅配業者”かもしれないがな」
「…………」
「だが、これだけは言える…………人間と妖精が“共存”出来るかどうかという問題は置いておいて、時代は確実に、見えないところで、“妖精愛護”へと向かっている」
「…………」
「俺たちは、もうひとつアンタの指摘した通り、あくまで金のため、“ビジネス”として、このタイミングで妖精産業に足を踏み入れたのさ……………社会的な需要がある限り、俺たちは金には困らねえ」
「…………」
「“妖精愛護団体”は、これからどんどん増長するぞ？ 副社長のアイツのようにな…………だから、自分の身は、自分で守るんだな」
…………………………
「おぎゃーおぎゃー！ おぎゃーおぎゃー！」
「に、にんげんしゃん……どうか、ごはんさんを…………」
「ちっ、うるせえ」 「汚ねえな」 「のこのこ出てくんじゃねえよ、害獣！」
ぐじゃっ！ ぐじゃっ！
「あぎゃあああああああああああ！！ うぎょあああああああ！！」
「にょだーにょだー！ おかーちゃ、おかーちゃ…………ぶびゃああああああああああああああああ！！」
「害獣が、害獣が！」 「人間の前に、姿現すんじゃねえええええええ！！」 「死ねえええええ！！」
裏通りでは、施しを求めて現れた妖精の家族を、寄ってたかって踏みつける少年たち。
「めすずん、はっけんちゃ！ おまえ、ぼくとへこへこするちゃ！」
「え？ だ、だめなのだ…………」
「おまえのいけんは、きいてないちゃ！ へこへこへこへこおおおおおおお！！」
「うっ、うわ……」
「へこへこ、へこへこ！ へこへこきもちーのだ！」
繋がれて飼い主を待つ「盲導ずん」に覆いかぶさって、交尾を始める野良妖精。
「ともにこの社会を生きる“同志”として！ 妖精を日本国民として、迎えようではありませんか！」
「妖精に、“人権”を！ 妖精に、“人権”を！！」
「妖精虐待を、許すな！ 人権侵害を、許すな！！」
駅前で演説する、妖精愛護団体。
妖精によって、社会が混沌の渦に巻き込まれているように感じるのは、きっと、彼だけではないはずだ。
「…………ん？」
歩行者用信号機が青になるのを待つ彼は、懐かしい名前から、メッセージが届いていたことに気づく。
「あれ、お前ひきこもってたんじゃないのかよ………やけに元気そうだな」
それは、イマイズミの友人。
イマイズミが「ずん次郎」を放り出したのとほぼ同時刻、偶然、あの高齢者施設まで来ていたというのだ。
「仕事やばいんじゃないか、って……？ 知ったようなクチ聞きやがって、ったく…………」
久しぶりに、飲んで愚痴大会するのもいいかもな。
人間の温かさに触れ、少し気が和らいだイマイズミの前で、ざわめきが起こる。
「のだ……のだ…………のだ…………」
人混みが、鳴きながら歩いてきたそれを避けるように動く。
視界が開け、彼にもその正体がわかった。
「のだ、のだ………のだぁ……」
横断歩道をゆっくりと進んできたのは、1匹の「盲導ずん」であった。先ほどレイプされていた個体とは別の個体だ。
人々が「盲導ずん」を避けたのは、余計なトラブルに巻き込まれたくなかったためである。
例の『モカちゃん裁判』が、まだ人々の記憶に新しい。
妖精は、「盲導ずん」の証であるハーネスの紐をだらりと垂らしている。
飼い主を引き連れておらず、単独で彷徨っているのだ。
後足を何者かに踏み潰されたのか、引きずりながらフラフラと歩き…………
「のだっ…………」
地面にうずくまった。
「あぉぅ………みえない……ちゃ…………」
呻く妖精の両目から、涙の混ざった体液がドロドロと流れ落ちる。何者かに、目を潰されたようだった。
視力を失った人間の「目」の代わりになるはずの「盲導ずん」だというのに、何たる皮肉か！！
「…………おい、何があったんだ」
「社会貢献」する妖精との縁を切ったばかりとはいえ、イマイズミは、放っておけなかった。
横断歩道上に屈みこんで、苦しむ妖精に話しかける。
「のだぁ………にんげんさん、なのだぁ……？」
「何があったと聞いてるんだ」
「オーナーさんのみてないところで、にんげんさんに、しらないにんげんさんに、いじめられたのだ………」
「飼い主はどこにいったんだ」
「オーナーさんにめいわくかけたくなくて、ぼくだけ、いちずんで、ここまできたのだ…………み、みえ、みえない、みえないよおお！！ かえして、かえしてよおお！ ぼくの、ぼくのおめめしゃんんんんんんんんんん！！」
「騒ぐな、死が早まるだけだ」
「う、ううう…………あのにんげんさん、ひどいのだ…………これじゃ、もう、オーナーさんのやくに、たてないちゃ……」
……………………
「ヤバ。目潰れてんじゃん。グロ」
「あのお兄さん、すごいね……害獣に話しかけるなんて」
「あれ、“盲導ずん”だよ…………あの“ずん介”みたいなさ」
「“ずん介”、何か有名になってるけど、マスコミのゴリ押しが鬱陶しいわ、正直」
「それな？ そいつがよくたって、他がサイテーなんだからプラマイゼロ通り越してマイナスだわ」
「あ、泣いてる」
「え〜なんかかわいそ〜」
「もう死にそうじゃん、その辺に捨てとけばいいのに」
「誰がやったんだろ、あれ」
「中途半端に殺さないで生き地獄味わわせるの、“わかってる”感じするわあ」
「“盲導ずん”傷つけたら罰則とかあるんだっけ」
「法律とかあんじゃね？ 愛護団体が好きそうなやつ」
「え、ここいたらまずくね？」
「きっと、何もしてなくても難癖付けられるぞ、あいつら言葉しゃべれる害獣だからタチが悪いよ、まったく」
「声うるっさいなぁ、マジイライラする」
「それな？ 早く死なないかな」
「お兄さん、殺してくれよ」
周りの人々は、物珍しそうに彼らを遠巻きに眺め、小声で何やら話している。
スマホを構えて、写真を撮影している人もいた。
誰もが、当事者にはなりたくないのだ。
「…………どうしたら、こんなになるまでやられたんだ」
「わ、わからないのだ………にんげんさんから“がいじゅう”っていわれたから、ぼくはただ、“もうどうずん”だって、せつめいしただけなのに…………“がいじゅうが、なまいきだ”って……なぐられて、けられて、あんよしゃんをふまれて、おめめしゃんを、さされて……」
「……そうか」
「ぼくは“がいじゅう”じゃないのに、“もうどうずん”なのに！！ うそなんて、ついてないのに！！ ひどいよお、ひどいよおおおお！！ わーん、わーん！ わーん、わーん！！」
…………………………
一方がいくら「対話」を望んでも、もう一方がそれを頑なに拒絶する世界。
自分自身も、必死で訴える「セラピーずん」に対して、そうしていたから。
知らない誰かも。
妖精も。
そんな世界なんだと、思うことにした。
「え〜っ！ “セラピーずん”、もういないんですか？ 口コミサイトで評価が良かったから来てみたのに……」
「誠に申し訳ございません……妖精たちは、とある事情で“お出かけ”してしまいまして」
「ふふっ……でも、何だかメルヘンでいいですね？ いつか会えたらいいなあ」
「そ、そうですね……今後ともよろしくお願いいたします」
それから数週間後。妖精のいなくなった、あの高齢者施設。
「あれからだいぶ経つが……妖精さんが全員“お出かけ”しちゃったのは、寂しいのお……」
「きゅ？」
「おお、パロさんや。今日もかわいいのお、よしよし」
「きゅ〜〜♡」
ペットロボットの鳴き声が、今日も入居者の心を癒す。
〜終〜
名作『ある盲導ずんの一生』を執筆されたΣずんずん様に最大限の感謝を込めて、この物語を終わりとさせていただきます。
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このページへのコメント
副社長害虫と変わらなくて草
こいつも死んだ方がいいな
コメントありがとうございます。やはり、言いたい放題で（人間に対しても）制裁描写がなかったのは「害獣感」の強調に一役買った気がしますね……
結局は自身の利益のため、という残念さ、人間の醜さのようなものを存分に感じられましたでしょうか！
ヘコるなって言ってるのに盛ってヤることしか考えてないのオワってる。これでは、いけませんね。
社長は口が上手い詐欺師だと思いますが、怒り心頭で乗り込んできたイマイズミさんに悪い印象を与えてないあたり人心掌握に長けてそうですね。リスクリターン天秤にかけて甘い汁吸えるタイプでしょうか？
コメントありがとうございます。勃起する子ずんたちの描写、ルールとして「良い」か「悪い」かではなく、自身の欲望を何よりも優先する「妖精らしさ」をうまく表現出来て満足です！
「社長」は話術に長けた「敵に回すとまずいタイプ」ですね！ 妖精たちに社会的価値がなくなったと判断したら、即座に切り捨てられるくらいの冷酷さも持ち合わせていそうです！
社長が話が分かる人でよかったわ
むしろ副社長が余計なことしそうで怖いけど
てかあれで教育できてると思うなら全匹お前の家で飼えよな副社長さんよぉ
コメントありがとうございます。この「社長」は相手に強い不快感を与えずに自分の主張を確実に通していくタイプでしょうか……
『“セラピーずん”を出荷すればするほど、“妖精セラピー協会”からもらえる補助金の額が増えるんだ』という副社長のセリフは、「妖精セラピー協会」という用語を考え付いた時から頭に浮かんでいたセリフだったので、ここで投稿出来て良かったです()
結論
ずんだ虫と人間は(人間が根っからのゲスなずんだ虫を駆逐したくなった時以外)一緒にいてはいけない
それが互いの幸せなのだ､ずんだ虫は死なないし､人間は不快感を感じずに済む
コメントありがとうございます。結論、こうなのかもしれませんね！距離をとることって、大事だと思うんです…………
ただ、人間が開発を繰り返す & 妖精が無秩序に繁殖を繰り返すことで、どうしても生息域が被って、トラブルが…………このトラブルとは、ただのトラブルではなく、人間と妖精との「縄張り争い」に近いものなのかもしれませんね！
この社長はある程度金をつまんだら副社長に任せて安全キープしてとんずらしそう
裏側の事情をどれほど知っているかはわかりませんが資産をケイマンあたりに移して海外生活かなぁ
やってる事は詐欺ですけどね
コスト云々と言ってますが契約内容から逸脱したものをおみまいしていると思いますので
裏社会の個人勢ですかね？
スジと仁義を通さないなんて儲けなんて長くできるわけないざんすよ
>「ともにこの社会を生きる“同志”として！ 妖精を日本国民として、迎えようではありませんか！」
>「妖精に、“人権”を！ 妖精に、“人権”を！！」
>「妖精虐待を、許すな！ 人権侵害を、許すな！！」
このアホどもにはこの言葉を送ろう
「この際人権は忘れてほしい」
ドゥ〇ルテ方式でこいつらを処理しないと気付いた時には地獄なんてことに
なのでヘリから一人ずつ落としたり、目の前で固定して動けない妖精でできた道の上を戦車で通行させるのを瞬き無しで見せたりして「発言には責任がついてまわりますよ？」と教えなければ
まずは自分たちの人権を捨てるところから始めないと誰も話を聞かないと思うんですが
そして民族浄化、民族浄化かぁ
あの子みたいなのがそれなりの数いたらそれは新しい時代になりそうだけどひっそり穏やかに暮らしてしてほしいなとは思いまする
コメントありがとうございます。副社長も彼は彼で、それを望んでいそうですよね……イマイズミは騙されかけていましたが、絶対に「良い人間」ではありませんね()
愛護団体に関しても、妖精に「人権」を与えることによって何かしらのメリットがあると考えての演説でしょうからね！
少数民族の生き残りは、もう表舞台に立たない方が良いのかもしれませんね………