ある盲導ずんの一生 前編
最終更新：
zunzun_sigma 2024年05月11日(土) 20:33:28履歴
作者 Σずんずん 
ある盲導ずんの一生 前編 ←イマココ
ある盲導ずんの一生 後編
ごめんね…投稿全然しなくてごめんね…
理不尽祭りで途中まで書いてボツにしたものです
まずは前編投稿します。
※注意※
前半からお読みください。
人間さんがちょっとでも可哀想な目に遭うのが苦手な方はご注意ください。
善良虐が苦手な方はご注意ください。
気持ち良さを求める方の意に沿える内容ではありません。
最鬱作品(※当社比)です。
本文を読んでどのような気分になっても当方は一切責任を負えません。今現在精神的に不安定な方は読まないことをお勧めします。
納得いただけた方は本文へどうぞ。
※更新履歴
5/11 わかりにくい表現を修正
ある盲導ずんの一生 後編
ごめんね…投稿全然しなくてごめんね…
理不尽祭りで途中まで書いてボツにしたものです
まずは前編投稿します。
※注意※
前半からお読みください。
人間さんがちょっとでも可哀想な目に遭うのが苦手な方はご注意ください。
善良虐が苦手な方はご注意ください。
気持ち良さを求める方の意に沿える内容ではありません。
最鬱作品(※当社比)です。
本文を読んでどのような気分になっても当方は一切責任を負えません。今現在精神的に不安定な方は読まないことをお勧めします。
納得いただけた方は本文へどうぞ。
※更新履歴
5/11 わかりにくい表現を修正
本文
あれ…？
どうして…？
どうして僕は道路さんの上で寝ているのだ…？
道路さんは車さんが走るところだから、立ち止まってはいけないのに。。
ああ…。お空のお日様さんが眩しいのだ…。
お顔を背けようにも、身体が…動かないのだ…。
きっと、頭を強く打ったせいなのだ…。
あれ…？
どうして頭を強く打ったんだっけ…？
最後に憶えているのは、もの凄いブレーキの音と、車さんのヘッドライト……。それから、赤信号……。
じわじわと僕の体温さんがアスファルトに染み出して行って、身体の奥がどんどん冷たくなっているのだ…。
ああ…これは……、血……なのだ……？
うう……。
いちゃい…、いちゃい……。
思い出したら身体が…、身体しゃんがいちゃいのだ…。
主に全身がいちゃいのだ…。
どうして…
ぼく、いま…、どう、なって……？
理由もわからず混乱する僕を覗き込む大きな影。
あっ、人間さん！
人間さんが来てくれたのだ。
そうだ人間さん！
大切なことをお話しなきゃいけない気がするのだ！
一つづつ、順を追って思い出すからちょっと待っててね…。
僕は……。
僕は……。
………
僕はずんだ妖精のずん介なのだ。
盲導ずんとして、目の不自由な人間さんの役にたつために、働いているのだ。
人間さんは盲導ずんって知っているのだ？
それはずんだ妖精の中でも、特に利口で、性格が穏やかな個体が選ばれ、さらに厳しい訓練を絶え抜き、最終試験を合格した妖精だけがなることを許されるのだ。
人間さんの使う難しい言葉や文字を覚えて…。
道路標識さんを覚えて…。
人間さんの世界のルールを覚えて…。
平均以上の速さで飛ぶことができて…。
ある程度の重い物を運ぶことができて…。
他にもいろいろな事を一つ一つクリアしていった先に、盲導ずん免許があるのだ。
とってもとっても狭き門なのだ。
厳しいと思うかもしれないけど、仕方がないのだ。万が一にも、人間さんに何かあっちゃいけないから、その基準も当然なのだ。
……だから優秀な血筋さんを持った妖精が多いんだけど。
……でも僕はもともとは捨て妖精ーー雑種…？の生まれらしいのだ。
生まれたばかりで捨てられて段ボールさんの中で泣くことしかできなかった僕を、トレーナーさんが拾ってくれたのだ。
訓練が始まると、僕は落第生だって気がついたのだ。他の妖精さんたちはもともと頭が良かったり、身体が大きくて力が強かったり、速く飛べたり…。得意なことがある妖精さんたちが多かったけど、僕は雑種の生まれーーどれもそんなに得意じゃなかったから…。
それでも、育ててくれた訓練士さんに恩返ししたくて、人間さん達の役にたちたくて、いっぱいいっぱい訓練したのだ！
そうして、一つ一つ出来ることが増えていって、、この春、ようやく盲導ずん免許に合格したのだ！
トレーナーさんに盲導ずんの証であるハーネスさんをつけてもらった時には思わず泣いちゃったくらいなのだ。
晴れて盲導ずんになれた僕は、半年前にオーナーさんにお迎えしてもらったのだ！
あ！噂をすればオーナーさんなのだ！
「ずん介ー、外についてきてくれる？？」
「オーナーさん！わかったのだ！」
そうそう。今日はひと月に一度のオーナーさんが病院へ行く日なのだ！
僕は玄関で準備をしているオーナーさんのもとへ飛んでゆき、ハーネスさんを付けてもらう。
「よしよし、いつもありがとうね」
「えへへ…！」
この人間さんは僕のオーナーさんなのだ。本当はモカちゃんって可愛い名前があるけど、個人情報…？の問題で僕たちはオーナーさんと呼んでいるのだ。
僕をお迎えしてくれる少し前に、事故で両目が見えなくなってしまったらしいのだけど、明るく元気で優しいオーナーさんなのだ。
「それじゃ、よろしくね。ずん介！」
「のだー！」
オーナーさんは僕のハーネスさんを握って、歩き出す。
そんなオーナーさんの事が僕は大好きなのだ。
目の不自由なオーナーさんにとって、お外へ出るのは大変なのだ。たっくさんの人間さんが歩いているし、車さんが凄い速さで走り回っているし、電車さんの券売機だって使うのは難しい。
そんな時こそ、僕の出番なのだ！
赤信号はオーナーさんに伝えるし、人間さんの文字も憶えたから、券売機さんや自動販売機さんだって使えちゃうのだ！
ちゃんとできると、オーナーさんが僕をなでてくれる。
オーナーさんのお役にたてる事が僕たち盲導ずんの喜びなのだ！
「ふー…。電車が空いてて助かったね」
「のだー」
電車に乗ってオーナーさんを座らせてあげる。
僕は電車の床さんで待機なのだ。
これで僕も少し一息つけるのだ。
もう慣れたこととは言っても、オーナーさんの安全を預かっているのだ。お外では少しも気は抜けないのだ。
のだ…？
ヒソヒソと、他のところから人間さん達の話す声が聴こえた。
「おい…なんで害獣が電車の中にいるんだ…？」
「知らねぇよ…。いや、あのハーネス…。盲導ずんってやつだな。目の見えない人の為にああやってサポートするらしい」
「へー、クソ害虫のクセに、偉いじゃん。でも盲導犬じゃだめなのかよ。犬なら可愛いからいいけどさ……、やつらはクソ虫だぜ？ 多少利口だか善良だかなんだか知らないけど、姿も声もクソ虫じゃ不愉快極まりないないぜ」
「そう言うなって…。気持ちはわかるけどな。アイツら、何されても声も出さないって評判なんだから」
「へぇ〜。そうだ。いい事思いついた」
僕への悪口はオーナーさんにも聴こえたようで、ムッとした顔をしてくれたけど、直接言われた訳でもないのに言い返すような事も出来ない。
そういうときは僕もただ黙って小さくなるしか出来ないのだ。
『下北沢〜下北沢〜〜』
電車さんが駅につくと、ゾロゾロと人間さんが降りてゆく。
あれ…？さっきの悪口を言っていた人間さん？
電車はすいているのにやけに近づいて……。
その黒い靴のそこが僕を目掛けて……。
（ーー！？！？）
尻尾さんに激痛が走る。
（ーーいちゃいぃいい！！！？？！？）
僕は声をあげずにのたうち回ることしかできなかったのだ。
お仕事中、声を出していいのはお話の時と緊急時だけ、、そのように訓練されているのだ。いきなり叫び声なんて上げたら、オーナーさんがびっくりしちゃうから…。
(はぅ…はぅ……、いちゃい…いちゃいよぉ…)
ぼくの…ぼくのしっぽさん……、思い切り踏みつけられただけでなく、その後もぐりぐりと靴底と地面さんの間で踏みにじられたのだ…。
うぅ……。いちゃい…、いちゃいよぉ……。
痛みのせいでじわりと滲んだ視界で見上げると、ニヤニヤ笑う二人の人間さんがそのまま電車から降りて行った。
「どうしたの？まさかさっきの人に何かされた？」
「な、なんでもないのだ…。僕は大丈夫なのだ」
「私は目が見えないから…。何かあったら絶対私に言うんだよ！」
「わかったのだ！」
やっぱりオーナーさんは優しいのだ。
僕は踏みつけられて少し平たくなった尻尾さんをペロペロ舐める。
僕たち妖精は回復力が強いのが不幸中の幸いなのだ。
こういう事もよくあるのだ。
さっきみたいに僕たちの姿を見て笑われたり馬鹿にされたりしても、僕たちはただただ耐えるだけ……。
でも、そんな態度も気に入らないみたいに「チッ」と舌打ちして去っていく人間さんたち…。
たしかに、僕たち妖精はまだ人間さん達の暮らしの中に充分入れているわけじゃない。
昔、森から降りた同族たちが人間さんの作った大切なお野菜さんやおうちの中のご飯さんを大々的に荒らしたことがあったらしいのだ。今も野良妖精がゴミ捨て場を荒らしたり、家の中に潜んで泥棒さんをしたりすることもあると聞くのだ。そんな害獣のイメージは人間さんたちの中で根強く残っているのだ。
だからこそ、僕たち『盲導ずん』が人間さんと僕たち妖精を繋ぐ架け橋になるのだ！
そのためなら、どんなにつらい事だって頑張れるのだ！
前向きに頑張るのだ！
電車のアナウンスさんが駅名を告げて、再び止まったのだ。
「オーナーさん！着いたのだ！」
「うんうん。ずん介。ありがとうね」
僕はまたオーナーさんにお背中さんを向けてハーネスさんを握ってもらい、浮かびあがる。
改札さんを抜けると病院さんへは駅から一本道ですぐに着いたのだ。
見上げるほど高いのだ。ここはいつ見ても大きな病院さんなのだ。
「ずん介はここに繋いでおくから、申し訳ないけどお外で待っていてね」
「のだー」
妖精は病院の中へは入れない。
そういうルールがあるらしいのだ。
よくわからないルールも多いけれど、ここは人間さんの住むところ。たとえよくわからなくても人間さんのルールは守らないといけないのだ。
遠くから声が聞こえた。
「わ〜、妖精さんだ！かわいい！」
小さい人間さんーー子供さんって言うらしいのだ。
その子供さん2人が僕に駆け寄ってくる。
「俺のだぞ！」
「わたしが先に見つけたのよ！」
小さい人間さんたちが僕の枝耳を片方づつ掴んで引っ張り合った。
(いちゃい！いちゃいよぉ！！やめて！やめてやめて！！お耳さん、ちぎれちゃうのだ！！)
でも抵抗なんてしたらいけないのだ。
このちいさい人間さん達だって悪気はないはずなのだ。。
「離せよ！僕のだぞ！」
「そっちこそ！」
どんどん白熱してゆく二人の子供さん。
(いちゃいいちゃいいちゃいぃいい！！やめちゃ、お耳さんが！お耳さんがとれちゃ・・・！)
そうこうしていると、白い杖をついたオーナーさんが来てくれたのだ。
「こらー！ 君たち！私のずん介に何をしているの！？」
オーナーさんの一声で小さい人間さんたちは「ごめんなさいー！」と謝りながら、僕を放り出すと、どこかへ走り去って行ったのだ。
投げ捨てられて地面にぼちゃりと落ちた僕を、オーナーさんは抱き上げて、よしよしと撫でてくれる。
「よしよし、ずん介。痛かったね…」
「えへへ。オーナーさん。僕は大丈夫なのだ！こんなの、へっちゃらなのだ！」
やっぱりオーナーさんは優しいのだ。
僕はオーナーさんの事が大好きなのだ。
「よしよし。帰りは道路の向かいのコンビニに寄って、ずんだ餅を買って帰ろうか」
「わーいなのだ！ずんだ餅！？ずんだ餅なのだ！！」
オーナーさんは僕の傷が早く治るようにそう提案してくれたに違いないのだ。
でも、この時、僕はずんだ餅なんかにとらわれないで、断っておけばよかったのだ。
まさか、渡る必要のない道路さんで、あんなことになるなんて…。
僕はふわりと浮かぶと、信号機についている目の不自由な人間さん向けのボタンをカチッと押して、青になるのを待ったのだ。
ぴよぴよ、と青信号を告げる音が鳴る。
右見て、左見て、もう一回右を見て……。
「オーナーさん。青信号になったのだ」
「ありがとうね」
僕は道路さんを渡るべく、動きだしたのだ。
一歩、二歩。
この横断歩道を渡ればコンビニさんはすぐ眼の前なのだ。
横断歩道さんの真ん中。
突然、僕の視界に、大きな黒い影が
「えっー！？」
オーナーさんの悲鳴みたいな声。
「ずん介…！」
何が起きたかわからなかったのだ。
ハーネスが引っ張られたと思ったら、僕は急に宙に投げ出されたのだ。
オーナーさんが僕を放り投げてくれたって、後からわかったけど。。
空中に放り投げだされた僕が、僕が、、、
僕が見たのは、大きな大きなトラックに、何かの冗談みたいな高さで跳ね飛ばされるオーナーさん姿だったのだ。
「えっ…！？」
僕もポテポテと地面を転がったあと、恐る恐るオーナーさんの飛んで行った方を見たのだ。
「オーナー…、さん……？」
オーナーさんがいるのは、横断歩道より何メートルも先で…。
僕は急いで駆け寄ったのだ。
「オーナーさんっ！？オーナーさん！？返事をするのだ！！」
ゆさゆさと、オーナーさんを揺らすけれど、ピクリとも動いてくれない。
べったりと、僕のお手々さんにあったかい何かが付いたのだ。
「血…！？すごい血なのだ！！誰か…！誰か助けて…！！」
トラックの扉が開いて、携帯電話を耳にあてたままの人間さんが下りてくる。
「あちゃー、やっちまったか……」
「人間さん！オーナーさんを助けてなのだ！！すごい血なのだ！」
「ちっ…、なんだこの虫…。すみませんが切りますね…。はい…はい…。また……」
「電話なんかしている暇はないのだ！」
「めんどくせーが、救急車呼ぶしかねえか…。何番だっけか？」
ゆっくりと電話を始める運転手の人間さん。
「はやく！はやくオーナーさんを！！病院はすぐそこなのだ！オーナーさんを助けて…！！」
「うるせぇな。なんだこの虫。潰しちまうか？」
凄んでくる人間さん。
「ぼ、僕は盲導ずんなのだ！僕を傷付ける事は人間さんの法律に違反するのだ！そんなことよりオーナーさんを…！」
「チッ…。クソ虫のクセに浅知恵つけやがってよ…」
男は徐ろにタバコに火をつけ、大きく煙を吐いた。
「なんでタバコなんて吸うのだ！？オーナーさんを運んで！！運んでよぉ！！」
「救急車呼んでやったからいいだろ。クソ虫のくせに人間様に命令するんじゃねぇよ」
「僕はクソ虫でもいいから！オーナーさんは助けて！！お願い！お願いしますのだ！！」
「それにアレだ。なんか頭とか打ってそうだし、俺みたいな素人が動かしたりしたらもっと悪くなるかもしれねぇじゃねぇか」
「う…うう…っ！」
この人間さんに何を言っても、一歩も動く気がないって僕はわかったのだ。
「僕だけでもオーナーさんを助けるのだ！うんしょ…！よいしょ…！」
精一杯オーナーさんを引っ張るけど、だらりと力なく倒れた身体は全然動いてくれない。
「はぁ…はぁ……。体格が違いすぎるのだ…。オーナーさん…目を覚まして…」
オーナーさんの頬に触れた時、僕は気付いたのだ。
「オーナーさん！？息してないのだ！！オーナーさん！オーナーさん！！？」
「クッソうるせぇ…。声といい動きといい、なんでこうも人をイラつかせるんだこのゴミは…」
「人間さん！オーナーさんを助けて…！心臓マッサージ…人工呼吸…！車さんの免許をとる時に講習を受ける筈なのだ！」
「はぁ…、うるせぇ虫だな……」
男が近づいてくる。
「ほっ…。はやく、はやくオーナーさんを……。ぎゃっ！？いちゃぃいい！」
「邪魔だクソ虫」
「いちゃい！なんで蹴るのだ！？いちゃい！！」
「けっ。いい気味だぜ。俺はクソ虫が大嫌いなんだ。それを有難がって飼ってるやつもな」
「うう…。いちゃい…いちゃいよぉ…。でも、オーナーさんの痛みに比べたら……」
僕は痛む全身にカツを入れて、立ち上がったのだ。
すると、騒ぎを聞きつけた人間さんたちが集まって携帯のカメラを構えているのが見えたのだ。
「血やば！！」
「うわ、エグすぎだろ…」
「トラックのバンパーべこべこじゃん！どんなスピードでぶつかったんだ？」
「写真写真！！SNSにあげなきゃ！！」
僕は携帯を構えた人間さんたちの前まで一直線に飛んでいって話しかけたのだ。
「写真なんてとっている暇はないのだ！！たすけて！オーナーさんをたすけて！！」
「うわ、また妖精かよ！」
「写真の邪魔だ！」
「ぎゃっ！！？」
僕は乱雑に振り払われて地面に落っこちてしまったのだ。
「おぅっ！？−−いちゃい…！なんで、なんで…！！」
短い間になんども地面にたたきつけられた僕。
力を振り絞ったけど、まったく身体が言うことを聞いてくれなかっくなっちゃっていたのだ。
「うぅ…、なんで、だれか……だれでもいいから……、たすけて、ぼくはどうなってもいいから、オーナーさんをたすけて…、たすけてよぉ……！」
僕のそんな声には誰も耳を貸してもくれず、何もできない僕はただただ、オーナーさんを助けてくれるように祈ったのだ。
僕の祈りが通じたのかわからないけれど…。
病院のなかから、白い服を着た人間さんたちがいっぱい出てきたのだ。
「あそこです！！」
オーナーさんの危機を知った何人かの人間さんはすぐ近くの病院さんに直接話をつけに行ってくれていたのだ。
担架を持った人間さんたちは素早くオーナーさんをそれに乗せると、病院の中へと連れて行ったのだ。
僕は、ホッとすると同時に、意識を手放したのだ。
オーナーさんが僕を初めてお迎えしてくれたとき、緊張して声も出せなかった僕を優しく抱き上げてくれたオーナーさん。
僕はきっとオーナーさんと出会うために生まれたんだって、厳しい訓練にも耐えてきたんだって思ったのだ。
そのあとも何度もお出かけさんをして…。
とっても楽しかったのだ。
モカ…ちゃん……。
「はっーー！？夢…なのだ…？ オーナー…さん……？」
僕は狭いケージの中で眼を覚ましたのだ。
「目を覚ましたか。事故の事は覚えているか？」
「もちろん覚えているのだ！それよりオーナーさんは！？オーナーさんは無事なのだ！？」
「お前の飼い主は今も病院のベッドの上だ」
「それなら早くオーナーさんに会わせて！！」
「事情聴取が終わるまではお前はこのケージの中だ」
ぴしゃりと言い放った警察？の人間さん……。
「オーナーさんに会わせて…！！」
「お前が協力してくれれば早く終わるぞ」
僕は頷くしかなかったのだ。
「わかったのだ」
僕は事故の時の状況をできるだけ細かくお話したのだ。
「本当に青信号だったんだな？」
人間さんは鋭い眼光で僕を見て言う。
「当たり前なのだ！僕はちゃんと、目で耳で、青信号さんになったのを確認して、道路さんを渡ったのだ…。僕たち盲導ずんにとって一番の基本を間違えるわけがないのだ…！」
「トラックの運転手は、急に妖精が飛び出してきたっていってたが…」
「僕はちゃんと青信号さんを渡ったのだ！信じて！」
「ふーん。。。じゃあ、次……」
そのあとも細かくいろいろなことを聞かれたのだ。
事故の事だけじゃなくて、普段の生活とか、訓練ずんだった時の様子とか……。
事故に関係かあるのかないのかわからないことまで…。
開放されたのはすっかり日も暮れた後だったのだ。
警察の人間さんには家族の人を持つように言われたけど、一刻も早くオーナーさんに会いたかった僕は、ハーネスさんもなしに留置所からすぐに出たのだ。
僕はふわりと飛び上がると、背の高い病院さんを探してそこを目指したのだ。
幸いそんなに場所は離れていなくて、風除室に入った僕は警備員さんに話しかけたのだ。
「ごめんくださいなのだ」
「うわ、なんだ？ 妖精？？」
「僕は今日事故にあったモカちゃんの盲導ずんなのだ。お見舞いをさせてほしいのだ」
「事故…？ああ、昨日のあれか。そういえば事故の時、盲導妖精が飛び回っていたな。」
「昨日、なのだ…？？」
どうやら僕は一日以上意識を失っていたようなのだ。
身体さんが思い出したようにヂクリと痛んだけど、こんなの、オーナーさんの痛みに比べたらなんてことはないのだ。
「ごめんよ。患者さんの居場所をむやみに教えられないんだ。それに、病院へはずんだ妖精を入れちゃいけないルールなんだ」
「そこを…！そこを何とか！！おねがいしますのだ！！」
「ルールはルールだからね」
「しょんな…。ここまできて……」
「ほかの患者さんの迷惑だからさ。それじゃあ」
僕の後ろに並んだ人間さん達に視線を向けられて、僕はやんわりと外に出されてしまったのだ。
病院の前に立ち尽くした僕は何となく高い高い病院さんを見上げたのだ。
「…。この病院さんはいつ見ても大きいのだ……。あのときも……。う…、うぅ……モカちゃん……」
事故に遭う前のオーナーさんを思い出して滲んだ視界の中に、僕はそれを見つけたのだ。
「窓…、開いているのだ……」
（ごめんなさいなのだ、トレーナーさん、オーナーさん…。僕は初めて人間さんのルールを破るのだ）
僕は心の中で謝ると、ふわりと窓まで浮き上がる。
病院さんが出している妖精避けの音が頭にガンガンと響くけど、気になんかしていられないのだ。
ガラスに映った僕は、笑っちゃうくらいボロボロの包帯でぐるぐる巻きで、左のお耳さんもどこかに無くなってしなっていたのだ。
何度も地面を転がったせいで、いつ取れちゃったのかはわからないけど…。
でも、オーナーさんに比べたら、こんなの、へっちゃらなのだ。
お耳さんはいつかは生えてくるのだ。
「うんしょ…、よいしょ……」
少しだけ開いていたまどをずらして、僕は病院さんの中に初めて入ったのだ。
そこは真っ暗なので、オレンジや緑の電球がピカピカ点滅していて、変な音がピンポンピンポンなっていた。
「オーナーさんは…、くんくん……。オーナーさんはこっちなのだ」
幸い、僕はオーナーさんのいるお部屋をすぐに突き止めることができたのだ。
お部屋に入ると、オーナーさんは僕よりも包帯でぐるぐる巻きにされて、ぐっすり眠っていたのだ。
「オーナー…さん、目を覚まして……」
オーナーさんは返事をしない。
「うう…。ごめんなさいなのだ…。オーナーさんはあの時あの瞬間、自分よりも僕を助けようと放りだしてくれたのだ…。オーナーさん…また…お話したいのだ…。お散歩さん…行きたいのだ……」
オーナーさんを助けてくれた人たちと同じ服を着た人間さんが見回りに来たのに、僕は気が付かなかったのだ。
「なにをしているの！？！？」
僕はバチンとモカちゃんの枕元から弾き飛ばされたのだ。
「おぅっ！？！？！？」
いちゃい…。衝撃で…いきが……。
「うわっ！害獣じゃん！誰か来て誰か！！」
何人かの人間さんが集まってきて…。
「うっわ本当だどこから忍び込んだんだ！？」
「ハエ叩きと殺虫剤！ はやく持ってきて！」
「はい！」
人間さんは、まるで僕を下水道のドブネズミさんでも見るかのような目で見て、そして、ハエ叩きさんを振りかぶったのだ。
「話を聞いてなのだ…、僕は……！いちゃぃいい！！」
オーナーさんを助けてくれた人間さんの仲間だから、いい人間さんに違いないのだ。話せばわかってくれるはずなのだ。
「待って…まってほしいのだ！僕は…！いちゃいいっ！！」
「その患者さんから離れなさい！」
「いちゃい！やめちぇ！！叩かないで！！いちゃい！！」
「早く部屋から出なさい！」
「いちゃいいちゃいいちゃいいちゃい！！やめてぇえええーー！！」
廊下へ廊下へと僕は掃き出される方向に何度も何度も叩かれ続ける。
「やめちゃ！！いちゃいっ！おちりとれちゃ！！いちゃいーー！！」
バシバシとおちりを叩かれて、廊下まで叩き出された僕の尻尾さんを人間さんはドシンと踏みつけたのだ。
「はぎゃっーー！？！？ぼくの尻尾さんがーーっ！？！？」
その足は退けられることはなく、動けない僕を待っていたのは、殺虫剤のノズルさんだったのだ。
「えっーー！？」
シュー！！
と大きな音を立てて、僕のお顔さんに向けて放たれる殺虫剤。
「あばばばば！あぼぼろぼぼ！！やめちゃ！おぼれちゃ！！！」
僕は無茶苦茶に頭さんをふって逃れようとしたけど、人間さん達は執拗に僕のお顔さんめがけてジェットを吹きかけてきたのだ。
「やめちぇ！かけないで！！お顔しゃんが！？いちゃい！！僕のおめめが！！？いちゃいぃいいいいいっ！！？！いちゃいよぉおおおっ！！！」
苦くて辛いお薬が僕のお口やお目々をめがけて執拗に噴射されたのだ。
「がぼぼっ！！がばばばっごばばば！！ばばばばっ！！！」
もうのたうち回る力も尽きて、僕はしばらく人間さん達のされるがままに、殺虫剤をかけられ続けたのだ。
「よし、やったか…」
「あが…あがが……、はひ…はひ…、はひ……、はひ……」
「野良妖精なんてどんな病気を持ってるかわかりませんからね。患者さんに近づけられませんよ。しかもこの子、目が見えないのにトラックに轢かれたなんて、……。その上、野良妖精に絡まれたんじゃ可哀想で可哀想で…」
「ぼ…くは…、モカ…ちゃん…の……」
「あれ、妖精がなにか言っている…？」
「ん？」
「オーナーさん…の…盲…導……」
「なんだって？？」
「もうどうずん……な…のだ……」
さっきの殺虫剤のせいか、なんだか…からだが……。
「はひ…はひ……」
めのまえが…、ぐるぐる、、まわって……。
「うう…、うぷ…、気持ち…悪いのだ……」
「なんだって…？」
お話を聞いてくれようと、僕に耳を近づけてくれた人間さん。
それに向かって僕は言葉を…、
「うぷ…、出ちゃうちゃ……、おげぇえええっーー！！」
「うわっ！汚っ！！」
「うぽ、おぼぼぼぼ、おろぼぼろろろ！！」
「ちょっと！ゲロかかったんだけど！？やっぱり害獣じゃねぇか！！コイツつまみ出せ！」
僕は箒さんでちりとりの中に叩き込まれるのを動かない身体さんで感じたのだ。
散々叩かれて、殺虫剤を浴びに浴びて……。
「もう…、むり……、ちゃ……」
またぼくの意識は遠く滲んでいったのだ。
（続）
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このページへのコメント
自分はずん虐を書いてますが、根は勧善懲悪なのでこういうのはΣニキしか書けないと思うのでそこは大切にされた方が良いと思います。
僕は自分の書きたい話しか書かないんで…
勧善懲悪を書きたくなったら書くかもしれませんが、僕の中では、『妖精は人間の悪意を理解するほどの知能はない』と考えているので、あんまりそうはならないんですよねぇ
感想感謝。
ずんだもんの知能では、青信号になって左右確認するって教えられたらそれ以上はできないんでしょうね。
信号無視のトラックにはねられたのは、ずんだもんが無能だった面も大きいと思いました。
どんな続きになるのか楽しみです。
モカちゃんが○ぬ精神虐か、大怪我したモカちゃんと家族による虐待か。
頑張って取得した免許の取り消しなんていう展開もいいですね〜。
大切だ大切だ、誇りだなんだと、こんだけ言われたら、流石にいくらなんでも剥奪してあげたくなりますよねぇ…(ニチャァ)
感想ありがとうございました。
盲導ずんとは、着眼点が鬼畜、もとい、天才的！！
言われてみれば、手が付けられていなかった領域ですねぇ。
人間社会に適合するために、人間が考えたトレーニングを真面目に頑張った善良ずんを理不尽に蹂躙する展開、大好物です。
どんな台詞を吐きながら息絶えるのかなぁ(ﾜｸﾜｸ)(ﾆﾔﾆﾔ)
失望？怒り？それとも…？
続きが楽しみです！
p.s.
最近良質な善良虐がたくさん投稿されて嬉しいです。
盲導ずんが人間に意地悪されて声を出さずに耐えているシーン、めちゃくちゃ動画で見たくてクリエイター心をくすぐられました。
アツい感想ありがとうございます。
盲導ずんは人間のパートナーとして暮らす妖精としては最適かなぁと思いました。
ほかの活用方法ですと、紛争地帯で(家族を人質にした)妖精を使い捨ての偵察機代わりにしたり、爆弾抱えて特攻させたりとかはやってみたいなぁって思ったりしています。
(なお、そのおちびも次の弾になっている模様)
PS...
動画化しゃん…！？
みたいのだみたいのだ！
他の動画も是非拝見したいんですが…
音声作品作るって言ったのに作ってなくてごめんね…弱い投稿者でごめんね…
おおぅ・・・お辛ぁい・・・
＞理不尽祭り
なるほど
盲導ずんをここまで誰一人としてろくに認識してないって・・・
制度や周知活動そのものに重大な欠陥が（ｒｙ
元々害獣のイメージが根強いんだからなおさら（ｒｙ
このままだとモカちゃん目覚めても絶望√・・・？
続きが楽しみです
ハーネスの有無で見分けてもらっているという設定です。電車内の興味なさそうな鬼威惨が知っていたのでそれなりに浸透した制度なのだと思います。
子供は可愛いと言って遊んでいますので、ある程度以上の世代ではとくに害獣のイメージが強いのかもしれません
ぶっちゃけ、犬であっても野犬だったら駆除対象ですし、、
いつも感想ありがとうございますのだ。
病院職員まで誰一人盲導ずんだと認知できないって、ずんだ虫を視覚補助に使ってることそのものに何かしら問題があるのでは…
まあ見た目野良と同じだし、これだけ無駄にアクティブだと闖入者扱いも当然かも
なにかどんでん返しあるような気もするし後編に期待大
これはまあ結構思ったけど
装着物が無いとか盲導犬だって入れないだろうしと無理矢理納得したわ
前作もそうだけど単純に人間側に悪人居すぎて
善良虐としても気持ちよく読めないんだよな
あまり後半の想定内容への言及は良くないと思って曖昧な書き方にしましたが
どっちかっていうと、もしかしたら視覚補助虫周りのカラクリが後半のキーになってるのかなと思ってるんですよ
もし非正規なものだったら、人間側にまるで認知されてないことも腑に落ちるので
あと子供と鬼威惨はともかく病院職員の対応は、野良の生物に対するものとしては適切でしょう
盲導ならぬ妄動ずん、なんて落ちもないとは言えないですしね
＞前作もそうだけど単純に人間側に悪人居すぎて
善良虐としても気持ちよく読めないんだよな
善良虐ってそういうジャンルじゃないんか？
私善良虐もイケます的な言い回しだけど、文面見る限りは善良虐は苦手ジャンルのようだね
一応、ハーネスで盲導ずんの証明をしているという設定です。ハーネスの有無がわかりにくく、誤解を与えてしまいましたね。良きところで改稿させていただくかもしれません…。
電車内の興味なさそうな鬼威惨が知っていたのでそれなりに浸透した制度なのでしょう。現実でも盲導犬の尻尾さんを踏みつける人間さんもいるのでそのあたりを参考にしています。盲導犬も黙って耐えるそうです。許せませんね。
鬼威惨という舞台装置は別として、僕はあんまり悪人を書いてる認識はなかったんでちょっとびっくりです。差し支えなければ（トラックドライバーは別として）どのあたりが悪人なのかお教えいただけると参考になります。
あ、みなさん感想ありがとうございました