ずんだガストロノミー(後編)
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zunzun_sigma 2023年08月31日(木) 23:25:02履歴
作者 Σずんずん 
本文
ーー大変素晴らしいスープでした。
「おち…おちびちゃん…どうちて……」
「かえして…おちびちゃんたちを…かえして……」
ーー妖精達は放心してますね。
「幸せの絶頂から叩き落としましたからね。仕方ないです。これからは自分の身体の心配でそれどころじゃなくなるんで大丈夫ですよ」
「まさか…ずんちゃたちも……？」
「こわい……！きょわい……！！」
「おかーちゃ、おとーちゃ！こわいよぉ！」
「「おぎゃーおぎゃー！おぎゃーおぎゃー！」」
ーー残った4匹の赤ん坊が泣き出しましたね。
「あっ、おち…おち……！」
「おちびちゃん……！」
妖精達が泣き出した赤ずんに駆け寄る。
「おちびちゃん…！ごめんね、不安にさせてごめんね…！パパずんとママずんがおちびたちを守るからね！」
「そうなのだ！安心するのだ。さっきは突然のことでワケもわからなかったのだ……」
「おとーちゃ、おかーちゃ…、ずんちゃたち、助かるのだ？」
「そうだよ、おちびちゃん！これできっとオーナーさんも満足したはずなのだ」
「命に代えても、僕たちがおちびを守るからね！」
「おとーちゃ！かっこいいのだー！」
「きゅっきゅっ！みゅっみゅっ！」
ニコニコと微笑み出して我が子を見て、両親は何かを決意したような目で言う。
「ままずん！守れなかったおちびちゃんたちには申し訳ないけれど、これからの僕たちにできることは残ったおちびちゃん達を大切に育てることだけなのだ…。辛くても頑張るのだ…！」
「ぱぱずん…！ああ…。ぱぱずんと家族になれて本当によかったのだ。天国さんへ行ったおちびちゃん達…。あたちはきょーだいずんたちを幸せに育てると誓うのだ…！」
【メイン1】ずんぽカルパッチョ 〜エスプーマ胎ずんソース〜
ーー前菜までで、既にメインへの期待が高まっております。
「オーナーさん…？ もう満足しましたよね…？さっき、おちびちゃんを食べたから、お腹いっぱいになりましたよね…？」
「次はですね……」
「次…！？まだあたちたちを食べるつもりなのだ！？おちびちゃんにはなんの罪もないのだ！」
「お願いします！ママずんのおにゃかには新しいおちびちゃんがいるのだ！食べるならママずんでもおちびちゃんでもなくて僕にして…！」
シェフは雄の尻を鷲掴みにして持ち上げた。
「わっ…！？」
ーーそのオスを使うんですね。
「はい」
「よかったのだ…。ママずん、おちびちゃん。先にお家に帰るのだ。僕もきっとあとから行くのだ。心配するななのだ」
「パパずん、だめーーっ！！」
雄の妖精は悟ったような表情をしている。
ーー私、ずんぽを食べるなんて初めてです。
「たしかに、メインとしてはあまり使わない部位かもしれませんね」
その言葉に、雄の妖精はビクリと大きく反応する。
「なっ！？ずんぽ！？！？やめりょおおおおお！！！」
ーーずんぽっていうと、クセが強いとか雑味になる、というのはよく聞きます。
「そうですね。ただ。こちらの環境で育てた妖精はクセは最小限に抑え、旨味のみを蓄えています」
「えっ…？えっ……？？ぼくの…ぼくのずんぽ…？」
「オーナーしゃん！ぱぱずんのずんぽをどうするつもりなのだ！？」
シェフは手際よく父親をまな板に釘で固定した。
「いちゃいい！！！」
「いやぁああああ！！パパずーーんっ！！」
「おとーちゃーーっ、だめーーっ！！」
ーー鰻を捌く時に目釘するのと似ていますね。
「確かにそうかもしれませんね笑」
磔にされた激痛でただただ荒い息を吐くことしか出来ない夫と、それを案じるツガイ。
「はぁ…はぁ……、いちゃい…いちゃいよぉ……」
「パパずんをそんなところに固定してどうするつもりなのだ！？」
「このまま、このペンチでずんぽを掴みます」
「ずんぽ！？ずんぽは、やめりょおおお！！」
妖精の股ぐらをペンチでこねくり回すと、妖精は顔を真っ青にしながら命乞いを始めた。
「やめて！ずんぽとずんたまだけはやめて！！」
しかし、絶望と恐怖で縮こまっているのか、なかなか掴めない。
ーー縮こまっているみたいですね。普段は腹腔内に格納されていると聞いたことがあります。
「そうですね。これから興奮剤を打って大きくします」
シェフは注射器を取り出す。
「針！？やめるのだやめるのだ！！」
やたら大きくぶりんぶりん振られている尻に興奮剤を注射した。
「いちゃいいいい！！」
流石の妖精も薬液の注入中は腰の動きを止めて震えていた。
針が抜かれると、へこ…へこ…と力なく動き始めた。
「はぁ……はぁ……、いちゃい…いちゃいよぉ……。たすけて…、ままずんたすけて……」
「パパずん！！耐えて！！コレを耐えればきっとまた家族みんなで暮らせるのだ！おちびちゃん！パパずんを応援してあげてなのだ！」
それを聞いた子ずん達は立ち上がり、一斉に応援を始めた。
「がんばれのだ！がんばれのだ！」
「のだのだ！」
「おとーちゃ、がんばってー！」
「みゅっみゅっ！」
「はぁ…はぁ……。おちび…たち……。僕、頑張るのだ……。いちゃいけど、頑張るのだ……」
「あぁ…、なんて強いパパずんなの…！」
ーーこれから食べるのに大丈夫な薬品なんですか？
「この興奮剤の主成分は唐辛子や胡椒といった天然のものです。むしろスパイスになって美味しいはずですよ」
「はぁ…はぁ……。可愛いおちびちゃんの声援が聴こえるのだ…。おちびちゃん達の為にも、頑張るのだ……。」
「ぱぱずん！！がんばれのだ！」
「ふれーふれーなのだー！」
「おとーちゃ！がんばるんちゃ！」
「あれ…？なんだかずんぽムラムラしてきたのだ…。へこへこ…したいのだ……」
シェフは徐々に目立つようになってきた男性器をペンチでつかんだ。
「やめてやめてやめて！！ずんぽだけは！！」
「まだ小さいか……」
「何を言うのだ！ぱぱずんのずんぽは小さくなんてないのだ！立派なずんぽなんちゃ！」
ーー確かにメイン料理にするには、あまり食い出がなさそうですね。
「仰るとおりです。ここから致死量スレスレまで先程の興奮剤を注入してゆきます」
「死…！？ まだ変な薬を打つつもりなのだ！？ やめるのだやめるのだ！！」
大黒柱の危機に叫び声をあげる妖精ファミリー。
「オーナーさん！やめてーー！！」
「おとーちゃーー！！」
近づく注射器。
「だめだめだめ！やめろやめろやめろやめろ！！」
ぶすり。
「いちゃいいいい！！」
ぶすり。
「やめてやめてやめて！！」
ぶすり。
「あがががが！！ままずん！？ままずんたすけて！いちゃいいちゃいいちゃい！！」
ぶすり。
「いちゃいいい！！はぁはぁ…ずんぽが…ずんぽの感覚がないのだ……」
ぶすり
「う゛っ……！もうやめ…ずんぽ…大きくなりすぎなのだ……。もう重くて動けないのだ……。やめてやめて！もう変な注射打たないで！！ああああああああ！！」
妖精は荒い息で尻を振る度に、無理矢理肥大化させたずんぽもぶりんっ、ぶりんっと一緒に揺れる。
「はひ…はひ……。じゅんぽ……ぼくの……じゅんぽ……。こんなずんぽじゃ、もうママずんとへこへこできないっちゃ……」
「しょんな……パパずんの立派なずんぽが……。あんなに腫れて……、バケモノずんぽになっちゃったのだ……」
ーーだいぶ大きくなりましたね。
「そうですね。薬がもっと効いてくるまでの間にソースを作っておきましょう。雌の妖精。こっちへ来い」
急に水を向けられた母妖精は目を丸くしてこちらを見た。
「えっ…？あたち…？なのだ？あたちが行けばパパずんを助けてくれるのだ…？」
「ママずん…来ちゃだめなのだ……」
「パパずん……。わかったのだ。行くのだ…。おちびちゃんは箱の影に隠れて待っていてのだ…」
「のだぁ……。おかーちゃ…おとーちゃ……」
「しんぱいなのだ……」
「おとーちゃ…はやくもどってきてなのだ…」
「その箱に隠れているのだ！おちびちゃん！あたちたちはだいじょーぶのだ！」
子ずんが隠れたのを確認すると、歩みを進める母妖精。
「だめなのだママずん……！ああ…ママずん……。僕を見捨てて逃げることだってできるのに…。なんて優しいママずんなのだ……」
「オーナーさん…。あたちはおにゃかの中におちびちゃんがいるのだ…。あんまり酷いことはしないで欲しいのだ」
ーー胎ずんソース、と言っていましたね。
「そうですね。この雌の膨らんだ腹を……」
シェフは思い切り拳を振り上げる。
「こうします」
「えっ？？？？」
「ままずん…！にげるのだ……！」
そして雌ずんの膨らんだ腹めがけて、振り下ろされる拳。
「だめだめだめだめ！おにゃかのなかにおちびちゃがいるちゃ！！とめてーーー！！」
「ママずん！だめーーーーーっ！！！」
そして、インパクト。
「ーーっ！！！！ゲッーーーっ！！！」
逃れる術もなく、その拳が膨らんだ腹へと突き刺さった。
拳とテーブルとの間に挟まり、潰れた母妖精。
あまりの衝撃に完全に白目を剥いて意識を飛ばしている。
ぶしゃあと、雌の産道からは緑色の液体が噴き出しており、清潔な皿がそれを受け止めていた。よく見るとそれに混じってぐちゃぐちゃになった肉片が浮かんでいる。
「ママずーーーーんっっ！！！」
白目を剥いてピクピクと痙攣するだけの母妖精。
磔のまま、叫び声を上げることしかできない雄。
「ママずん！ママずん！返事をするのだ！」
「あ……あ………。いちゃい…いちゃいよぉ……。パパずんの…声が…、聴こえるのだ……。あたち……は…どう……なって……？ おにゃかがいちゃいのだ……おちび…は……無事……なのだ……？」
ーー凄いぐちゃぐちゃですね。
「え…？ぐちゃぐちゃって…、なにが……？」
「ママずん！見ちゃだめなのだ！」
「え？ おちび…ちゃん……？」
ようやく自分の惨状に気付いた雌の妖精。
皿の中のソースと化したまだ見ぬ我が子の姿は悲惨という他なかった。
「おち…おち……。おちおちおちおち……。しょんな…おちびちゃん…あたちのお腹の中で産まれてくるのを楽しみにまっていたのだ…。ごめんね…まもれなくてごめんね……」
「このぐちゃぐちゃはカルパッチョのソースに使います。ほろ苦い風味がクセになりますよ」
「やめて…これ以上おちびちゃんの尊い命を冒涜しないで……」
「オーナーさん…やめて…もうやめて……」
ーーメインの方はどうでしょうか？
「だいぶ薬が効いてきましたね。ずんぽもかなりいい感じに巨大化してますね」
「ままずん……。おちびちゃん……。許せないちゃ…。どうして……どうしてこんなこと……」
ーー家族の惨状にそれどころじゃないみたいですね。これからどうするのでしょうか？
「出産を終えたばかりの雌とヘコって貰います」
「ヘコヘコなんて、しないちゃ…。お前らの言いなりになんか…ならないっちゃ…」
ーー強情ですね。
「おかしいですね。致死量スレスレの投薬により、ヘコヘコしたくてたまらない筈ですが…」
「はぁ…はぁ……。こんな…おちびちゃんとママずんに、こんなことされて……、ヘコヘコなんてしたくなるわけ…、ないっちゃ……」
ーーそう言いながらもずんぽは元気にピクついてますけどね。
「仕方ないですね。やりたくなるまで興奮剤を打ちますね」
シェフは注射器に薬を吸い始めた。
「もうやめて！！これ以上はやめて！！」
ぶすり。
「ああああああああああああ！！ずんぽがぁ！！」
ぶすり。
「いちゃいいいい！！いちゃーいいちゃい！ずんぽ！ずんぽがこわれる！ずんぽこわれちゃーう！！」
ぶすり。
「いちゃいいちゃいいい！はぁ…はぁ……。はぁ…なんで…なんでずんぽムラムラするのだ…？」
ーー堕ちろ！(願望)
ぶすり。
「やめて！僕の頭とずんぽがこわれちゃうのだ！！へこへこしたくない！へこへこなんてしたくないちゃ！！」
ぶすり。
「ああああああああああああああ！！！」
「こんなもんかな」
「へこ……へこへこ……。へこへこ…したいのだ……」
ーー堕ちたな(確認)。シェフの言った通りでしたね。
「それでは、先程出産を終えたばかりの雌とへこって貰います」
シェフは雄の釘を外して、雌の背中の上に雄を置いた。
「のだ…？パパずん……？」
「へこ…へこ……」
「返事をするのだ…。パパずん。あたちはおちびを産んだばかりなのだ…。しょんなずんぽ…入れられたら壊れちゃうのだ…」
「へこ…へこ……」
「パパ…ずん……。何をしたのだ…。パパずんに何をしたのだ……」
ーー興奮剤ってすごいですね。しかも天然成分だなんて。
「へこ…へこ……。う…うう……。ちがう…。ちがうのだ……。ま…ま……ずん……。逃げ……逃げるのだ……」
「パパずん…！パパずんは強いのだ！人間さんの変な薬なんかに負けないのだ！」
「ぼくは…負け……ないのだ…！さっきおちびたちも応援してくれたのだ…。うおおおおおお！！」
「かっこいいわよ！パパずん！」
ーー強情ですね。
「仕方ない。こっちで無理矢理やりますか」
シェフは雄の尻を鷲掴みにすると、雌に無理矢理重ねた。
「やめるのだオーナーさん！今のママずんに、こんなに大きくなった僕のずんぽなんて入れたら、壊れちゃうのだ」
「やめて！あたちのおまんずんにパパずんのバケモノずんぽをあてないで！」
シェフはPPAP！とでも言いそうな勢いで、妖精達を合体させた。
「やめろ！デカい……！ほぉおおおおおおおお♡！！」
「はぅおおおおおおっ！！」
「あああああああ！！！いちゃいいいい！！！」
「きもち…！きもち！！へこへこ！きもちいいのだ！」
「やめて！無理矢理うごかさないで！！おにゃかの中がかき回されているのだ！！」
「へこへこ！へこへこ！ずんずんずんずん！ああああああああ！！へこへこへこへこ！！」
「いちゃい！！パパずーん！パパずん正気に戻ってーー！！いちゃいよぉおお！！おまんずんがこわれるー！おまんずんがこわれるわ！おまんずんこわれちゃーう！」
「うっ！もう出るちゃ！うおおおおーー！！」
「やめちゃーーー！！出さないで！パパずーーーん！！」
「うっ、でりゅ……！！ほぉおおおおおおっ！！」
「あががごがががががーー！！！」
ーー射精したみたいですね。
「種付完了です」
恍惚の表情を浮かべる雄の妖精。
「はぁはぁ…。気持ちえがったのだ……。最高なのだ。やっぱり最高のおまんずんなのだ」
一方で犯された雌は痛みと恐怖で絶望している。
「あたちの…おまんずん……。ガバガバになっちゃったのだ…」
射精による賢者タイムだろうか。だんだんと雄の瞳に色が戻ってくる。
「えーー！？ママずん！？ママずんの可憐なおまんずんが……。こんなガバガバに……。誰にやられたのだ！？どうしてこんなことに！！？」
ーーお前が正気を失って犯してたのだ。
「しょんな…ママずん…僕が……。おちびを無理矢理産まされたばかりのママずんのおまんずんを、人間さんに改造された僕のバケモノずんぽでめちゃくちゃに…した……のだ…？」
「ちがうのだ…パパずん……。パパずんは悪くないのだ……」
「ごめんなのだ…、ママずん……。本当にごめんなのだ…」
ーー美しい家族愛ですね。
「ここで孕ませた胎ずんもあとで使います。雄のずんぽもこのへこへこの刺激でかなりいい感じになっていますね。もう一声、ここからは物理的に刺激します」
シェフが取り出したのは細長い金属の棒だった。
ーーそれはなんですか？
「ゾンデといいます。まぁ、ただの細長い金属棒ですよ。こいつで刺激していきます」
キランと手の中で輝く棒。
「やめて！ずんぽとずんたまだけはやめて！やめて、やめて！やめて！！あああああああああ！！」
シェフはつんつんつんつん！と棒の先でずんぽを刺激し始めた。
「やめちゃー！へこへこできなくなっちゃうのだー！！」
ーーさっきしてましたけどね…。
「やめてやめてやめてやめてやめて！！あががががあががが！！」
「もうこれ以上パパずんに酷いことしないで！！」
ピクピクと雄が震えだす。
「あっ…ああっ……、もう…むり……なのだ……。ｳｯ……」
「おっと、射精するのはまだ早い！直前で止めるのが料理人の腕の見せどころです」
「はぁ…はぁ……しょんな……。ぼくの…ずんぽが…ずんたまが…腫れちゃったのだ……」
ーーパンパンに腫れ上がってますね。興奮剤の効果もあるのでしょうが、もう成体の背丈くらいありそうです。
「これで完成です。後はペンチで根本から引っ張れば……」
「やめて！これ以上ずんぽいじめないで！」
妖精の言葉を無視して思い切り引っ張る。
「だめだめだめだめ！！ずんっ！ずんぽちぎれちゃ…、あああああああああああああ！！！」
ぶちぃ！！
性器がちぎれて宙にずんだ汁が舞う。
「あああああああ！！ずんぽがぁ…っ！！」
ーー結構血が出るんですね。
「あが……、あがが……っ」
「しょんな…パパずんの立派なずんぽが……」
倒れ伏し、ピクピクと痙攣する雄の妖精。
「大丈夫、妖精の回復は早いのですぐ止まりますよ。コイツは一旦放置」
ポイ、と雄妖精をシンクの上に放ると、ツガイが駆け寄ってきた。
「パパずん…しっかりするんちゃ…」
「あが…、じゅんぽ、じゅんぽ、じゅんぽがぁ…！？なくなったちゃ、許せないちゃ…。かえして…、ぼくのずんぽ……、かえして……？」
「切り取ったずんぽはこうして、薄造りにします」
「やめて！僕のずんぽに酷いことしないで！くっつけられなくなっちゃ！！」
皿にきれいに広げられた薄造り。妖精はこの期に及んでまだ五体満足でいられると思っているようだ。
「しょんな…ぱぱずんの立派なずんぽが……。これじゃへこへこできないちゃ…。もうパパずんのおちびちゃん、産んであげられないのだ……」
母妖精は自身の腹を撫でる。
「“しいくしつ”で産んだ残った4ずんおちびちゃんと、今おにゃかにいるこの子達だけでも守るのだ…」
ーーあれ？よく見るとさっきのぐちゃぐちゃの中に一匹モゾモゾ動いてるのがいますね。
「おや。たりない、ですね。今日は運がいい。こちらは後で付け合せに使いましょう」
シェフがポイと『たりない』を母親の横に投げる。ぺちょ、とシンクの上で弾むと、それは「はぅ…はぅ……」と鳴いている。
「はぁ…。ないのだ…手も足も……無理やり出したから……。でも可愛いおちびちゃんに変わりないのだ…。産まれてきてくれてありがとうなのだ！頑張って育てていくのだ！」
ーー後は盛り付けですね。
「薄く広げて盛り付けたずんぽにかけるのは、先程の胎ずんソースですが、少し工夫してエスプーマします」
ーーエスプーマ？
「亜酸化窒素で泡立ててゼラチンでムース状にしています。不思議な食感が楽しめますよ」
緑のぐちゃぐちゃとはわからない、白くふわふわの泡が皿に乗せられる。
ーー分子ガストロノミーですか…。大したものですね。素晴らしい口当たりです。ずんぽの方は野味溢れる一方で、ほろ苦く繊細な口当たりでありながら強い旨味を持つ胎ずんソースが全く負けていませんね！
「ありがとうございます」
「あっあっ……おちびたちが…。もこもこの泡になって…消えちゃったのだ…食べられちゃったのだ……。お皿の中で、壊れて消えたのだ…」
ーー男性器と胎児…。さしずめ、生命の根源、といったテーマでしょうか？。
「そこは受け取り手に委ねていますので……」
シェフは恥ずかしそうにはにかんだ。
「はひ…はひ……。ぼくの…ぼくのじゅんぽが……食べられたちゃ…許せないちゃ……」
「パパずん……」
雌の妖精はかける言葉も見つからないようだ。
「ママずん、平気…なのだ……。ずんぽがなくたって…大丈夫なのだ……。残ったおちび達は僕が絶対に守るのだ…！」
「パパずん…！ ああ…パパずんと夫婦になれて本当によかったのだ！！さっき産まれできてくれた、おちびちゃんも喜んでいるわ！」
「はぅ…はぅ……」
母妖精はそれを素早く抱き上げると、虫かごの影に隠れて震えている子ずん達の下へ連れてきた。
「おちびちゃんたち！新しいきょーだいができたのだ！」
「はぅ…はぅ……」
たりないを見た子ずん達は疑問の表情を浮かべた。
「あれ？なんでこの子には手足さんがないのだ？」
母妖精は言いにくそうにその理由を口にする。
「それは…、その…、無理矢理出したから…」
「違うのだママずん！」
ずんぽを切り取られたばかりの雄妖精が声をあげた。
「聞くのだ、おちびちゃん。この子はママずんの生みの苦しみを和らげてくれたのだ。親思いのとってもいい子なのだ」
「パパずん……！」
「そうなのだ…？ おとーとは産まれたばかりなのにおやこーこーで偉いのだ！」
「かわいくてえらいおとーとなのだ！」
「家族が増えたのだ！」
「うれしいのだ！うれしいのだ！」
「はう…はう……」
「こんなに酷い環境でもこうして元気に産まれてきてくれた、この子は僕達の希望なのだ！家族みんなで頑張るのだ！」
「パパずん…！あたちも頑張るのだ！」
「ずんちゃもがんばるのだ！」
「がんばるのだー！」
「きゅっきゅっ！」
「みゅっみゅっ！」
ーー感動的ですね。
「メインの前に、サラダに使う空豆を抉り出しておきます」
「なっ！？」
「やめるのだやめるのだ！そこは大事なところなのだ！」
ーーチーズからも抉り出していたあれですね。
「やめて！空豆さんとらないで！！飛べなくなっちゃうのだ！！」
「いちゃい！いちゃいいちゃい！！」
シェフは慣れた手付きで妖精達を捉えると、首筋から何かを抉り出した。
「雌も同じように……」
「やめて！おかーちゃをいじめないで！」
「おかーちゃはずんちゃたちがまもるのだ！」
「やめて、おかーちゃもっていかないで！」
そんな声は全くの無力で。
「いちゃいいいいいい！！」
「おかーちゃーーー！！」
「やめてーー」
シェフは雄と雌を同じシンクの上に戻した。
「うう…。飛べなくなっちゃったのだ…。これじゃ、おちびを高い高いしてあげられないちゃ…」
「パパずん…。もうこれで、もし逃げることができても、おちび達を守ってあげられるかわからなくなっちゃったのだ…」
「おかーちゃ、おとーちゃ！ずんちゃたちがお傷さんをペロペロしてあげるのだ！」
「ペロペロ、ペロペロ！」
「ぺろぺろなのだー！ぺろぺろのだのだー♪」
「あぁ…なんて優しい子なの……！おちびちゃん……！」
【ソルベ】フリーズンドライとフローズン赤ずん
ーーお次は肉料理ですか？
「その前にお口直しをご用意します」
出てきたのは巨大な徳利のような特徴的な形をした容器だった。
ーーデュワー瓶ですね。液体窒素…分子ガストロノミーといえば！という感じですね
「ええ。マイナス196℃で瞬間凍結させることで、そのままの形状で、風味や食感を変えることなく凍らせることができるのです」
「それからコイツです」
ーーこちらの機械は何でしょう？
「真空凍結乾燥器です。フリーズドライ、といったほうがわかりやすいでしょうか」
シェフが残っていた赤ずんを2匹つまみ上げる。
「きょわい……！きょわい！！」
「おとーちゃ、おかーちゃ…たすけてー！」
「まずは赤ずんを二匹を…」
「やめて！おちびちゃん持って行かないで！」
「やめるのだ！もう酷いことはやめるのだ！！使うなら僕にするのだ！！」
親ずんは必死に抵抗したが、デコピン一つで大げさにゴロゴロと四・五回後ろに転がった。
「なんなのだ、あの白くてモクモクしたお水しゃんは……？」
「ゴボゴボしてるのだ。きっと熱い水に違いないのだ！」
「ーーはっ！？ おちびを茹でるつもりなのだ！？いますぐやめるのだ！」
シェフは親ずん達の弁を無視して赤ずんを液体窒素に放り込んだ。
「両方とも液体窒素へダイブ」
「ごぼ…ごぼぼぼ……。あれ、ひんやりして気持ちいいのだ！」
「モクモクさん…！たのち！たのち！！」
そう言っていられたのは一瞬だけだった。
「ちゅめたぃいいい！！凍るっ！！凍っちゃう！！」
「しゃむいっ…しゃむいっ……！」
「おちびちゃん！！」
「いちゃいよぉおおお！ちゅめたしゅぎて、いちゃいいいいい！！」
「あばばばばあばばばば！！」
ーー妖精は意外に寒冷には強いんですか？
「詳しいところはよくわかりませんが、東北原産ですからね…」
シェフは一匹をオタマで掬った。
「オーナーさん、おちびを助けてくれるのだ！？もう1ずんも助けてあげてなのだ！！凍っちゃう！カチコチになってきてるのだ…！」
掬った赤ずんは真空乾燥機の中へ。
「おかーちゃ…こわい…こわいよぉ……！！」
「おちびちゃん！なんなのだその機械は…？まさかまたミキサーさんというやつなのだ！？やめるのだ！もうおちびをミンチにするのはやめるのだ！」
「やめて！おちびちゃんはスープになるために生まれたんじゃないちゃ！」
シェフがスイッチを入れると、急速に中の空気が抜けてゆく。
「こわい…こわい……！おとーちゃ、おかーちゃ、たすけてぇ！」
「でも回転する刃がないのだ！ミキサーさんじゃないのだ！」
「大丈夫だよ、おちびちゃん！怖い刃物はないからね！」
ーーなんか勘違いしてますね。
「変わり果ててゆく姿を見るのもいいかもしれません」
ある時から赤ずんの身体に異変が起こる。
「おおおお！！からだが！からだしゃんが！！からだの中がぶくぶくいっているのだ！！くるち！くるちい！いちゃい！！いちゃいいい！！」
「え？？おちび！おちびいいい！」
「おちびちゃん！しっかりするのだ！おちびちゃんの周りには怖いものは一つもないのだ！」
ーー大事なものもなくなってきてますけどね。
「あばばばばば！！あぽぽぽぽぽ！！くるち！くるちいのだ！！！」
「え？？なんで？？なんで？？」
「わからないのだ…なにが起きているのだ…？でも、とにかく、おちび！耐えて！耐えるのだ！！おちびぃいい！！」
「おごごごごごあががが！！いちゃぃいいいいい！！！ころして！！はやくころちてっ！！いちゃい！くるちい！！しぬっ！？！？おかーちゃ！おとーちゃーー！！ころちてーー！！いちゃすぎる！！はやくころちてーー！！げーーっ！！！」
ぶしゃ、と赤ずんは口から何かを吐き出して、それっきり動かなくなった。
「おちびちゃん！？おちびちゃん！？しっかりするのだ！」
「返事をして…おねがい…！！……うわぁああーー！！」
赤ずんから水分が昇華し完全にぬけたのだった。
「できました」
ーーお皿の上に並ぶと、見た目はあんまり区別が付きませんね。まずは、フローズン赤ずんから頂きます。
「あっあっあっ……おちび…ちゃん…？」
「ゴボゴボのお水さんで、カチコチに凍ってしまっているのだ…」
「おちびちゃん達…きれいで可愛いお顔なのだ…。まるでまだ生きているみたいなのだ…」
「きっと生きているのだ…、今すぐにでも溶かしてあげるのだ」
インタビュアーは一口で口に放り込んだ。
「あああああ！！おちびちゃん！！」
「おちびちゃんかえせーー！！」
ーー想像通り冷たくて甘くて美味しいですね。お次はフリーズンドライを頂きます。
「凄く軽い仕上がりになっているはずです。ちょっと指で潰してみてください」
赤ずんは親指と人差指の間でくしゃりと潰れて粉になった。
「え？？おちびちゃん…？なにがおきたのだ……？」
「粉々になっちゃったのだ……。一瞬で……」
ーー口に入れると、冷たくないのにじゅわっと甘さが口の中で広がって…すごく不思議な感じです。
「山妖精の多彩な味わい方を知っていただければと思っています」
「おちび…ちゃん……。また……守れなかったのだ……」
「あたちが…もっと強ければ……。ごめんね…弱いままずんでごめんね……」
「はぅ……はぅ……」
「おぎゃーおぎゃー！」
「こわい…こわいよぉ……」
「“しいくしつ”で育てたのはもうあと2ずんだけになってしまったのだ…。さっき産まれてくれたたりない子と合わせても3ずんだけになってしまったのだ……」
【メイン2】シャリアずんステーキと三種のガルニチュール
「妖精は常にケツを振ってますからね。お尻の筋肉がものすごく発達しして旨いんですが…。今回は柔らかいステーキをご用意します」
ーーシャリアピンステーキのモジリでしょうか？
「改めて指摘されると恥ずかしいですが、その通りです。まずはこの雄の妖精の身体をとにかくギタギタにします」
「やめちぇ！もうやめちぇ！！」
シェフは妖精の身体を持ち上げて思い切りまな板に叩きつけた。
「おうっ！？いちゃい！おうっ！？やめちぇ、投げないで！！」
それを何度も続けた。
投げる度に「おうっ！？」と変な悲鳴をあげる妖精。
「おうっ！？やめ…！ゲッーーっ！！」
ーーなんか出ましたね。
「順調な証拠です。次はこの麺棒で叩きます」
「ごっ！いちゃいいい！！なんで叩くのだ！？がっ！やめてやめて！ごっ！！いちゃいっ！！」
「やめてあげて！ゆるしてあげて！パパずんをもう解放して欲しいのだ！」
何度も何度も妖精の腹を殴打する。
その度に何かが潰れるような、折れるような音が響く。
「いちゃい…！いちゃい！！やめてやめてやめて！！ママずんっ！ママずん助けて！！」
シェフの手により、雄の妖精は平べったく潰れるまでになっていた。
「お゛っ……おごっ……」
「ぱぱ…ずん……」
「そして、このギタギタにした妖精は、玉ねぎのソースで漬け込んでおきます」
「しみ、しみしみしみりゅううううううう！！」
「パパずん！耐えて！！耐えるのよ！！」
「はぁ…はぁ……。僕は身体も骨もボキボキになって、もう動くことができないっちゃ…。ママずん…おちび……。生きて……」
「ぱぱ…ずん……」
ーー漬け込む間に付け合せを作るんですね。
「そのとおりです。三種の付け合せにつかうのは赤ずん二匹と、たりない一匹です」
「三種って…大切なおちびちゃんを3ずんも使うつもりなのだ！？代わりにあたちをつかうのだ！」
ーー楽しみです。
「1つ目は、この極細の針を使います」
「針なのだ！？そんなのおちびちゃんに刺さないで！」
「コレをこのおチビの頚静脈に……」
ぶすり。
「いちゃい！！いちゃい！！」
「おちびちゃん！！」
ーーうまく入っていますね。
「あれ…、へーきなのだ！ぼくはだいじょーぶなのだ」
「ああ…なんて強い子なの、おちびちゃん！」
ーーただの針じゃなく、留置針になっていますね。
「はい。ここからわさび醤油を点滴します」
「点滴…？それはなんなのだ！？おちびちゃんにこれ以上何をするつもりなのだ！？」
「しかも、透明醤油、というものを使います。赤ずんの鮮やかな緑も活かしながらわさびの色と味を入れることができますよ」
ーーすごいコダワリですね。
「じゃあ、点滴開始します。点滴の落ちは…大丈夫ですね」
「ずんちゃ、針なんかにまけないのだ！」
「おちびちゃん！やったよ！おちびちゃんが勝ったのだ！」
そんな時間も長くは続かなかった。
おちびが痙攣を始めた。
「あばばばば、いちゃいいちゃいいちゃいいちゃい！！からだが！！からだじゅうが！！いちゃいよぉ！たすけ！てしゅけ！！たちゅけてほちっ！のりゃーー！！」
「おちっ…！おちっ……！」
「いちゃいよー！きもちわるいよーー！」
ーー身体が段々とわさびの緑になってきましたね。
「も…だめなのだ……」(ﾁｰﾝ)
「え？？おちびちゃん？？ーーえ？？」
ーー息絶えたのだ。
「おちびのわさび漬け完成です。次に取り掛かりましょう」
「あと2ずんのおちびちゃんも、こうして目の前で酷いことをされて、苦しむおちびちゃん達を見なきゃいけないのだ…？こんなの、あんまりなのだ……。もう、耐えられないっちゃ……もうころちて……、あたちから…ころちて……」
ーー残り2品ですね。
「お次は単純ですが、ちょっと特殊です。たりないと、赤ずんを用意して……」
「やーやー！はなちて！はなちてよぉ！」
「はぅ…はぅ……」
「やめて！おちびちゃんたちを離して！！」
騒ぎを聞きつけたのか、玉ねぎ漬けの雄妖精もたまらず声をあげた。
「やめ…やめるのだ……。その…足りないおちびちゃんは僕たちの希望の子なのだ。もちろんもう1ずんもしいくしつて育てた最期の1ずん……大切なおちびちゃんなのだ。」
「ぱぱずん！生きてたのね！！なんて強いパパずんなの！！あたちも誇らしいわ！」
妖精達の言葉など意に介さず、シェフは調理を続ける。
「こいつらを……2つに割ります」
それぞれ、包丁で縦に真っ二つにした。
「おぎゃーおぎゃー！おぎゃーおぎゃっ……！」
「はぅ……はぅ…っーー！」
「おちびちゃん！だめーーーーっ！！！」
「ああああ！！おちびちゃん！！？！？」
縦に真っ二つになった赤ずん達。
シェフは何やら粉を取り出す。
ーーそれは？
「トランスグルタミナーゼです。タンパク質とタンパク質を結合させる酵素です。今回は赤ずんと足りないを断面で接着するために使います」
シェフはその粉を切断面に塗り込むと、足りないと赤ずんを接着した。
「なんて…なんて冒涜的なのだ……」
「あっ…あっ…おちびちゃん…？あたちと…ぱぱずんの最後の大切なおちびちゃん……。たりないちゃんと半分こでくっついてるのだ……あはは、あはははは、これは夢なのだ…？こんなのうそなのだ……」
ーー壊れてしまったのだ。
「二品目、アンビバレントな赤ずん、完成です。柔らかなたりないの食感と、通常赤ずんの甘みを同時に堪能できる一品です」
「こんなの、酷すぎるのだ…。フランケンシュタイン博士だってこんな酷いことはしないしできないのだ…。必ずバチがあたるに違いないのだ……」
「あははは、あははは。おちびちゃん、とーってもかわいいわね…！」
「ママずん……。無理もないのだ…。こんな…こんな酷いこと……」
ーーあれ？じゃあ最期の一品は……？
「最後はツガイの骨髄です。骨髄はうまく調理すればとても旨いんですよ」
「やめるのだ！ママずんじゃなくて僕にするのだ！」
シェフはハンマーを取り出し、子供を失い放心している雌の妖精の足を叩き折った。
「あはは、あははは……おちび、ママずんと、遊びましょーねー！ ーーえ…？がああああああ！！！」
「ママずーーーーん！！！」
妖精は叫びながらのたうちまわる。
「いちゃあああああああ！！あんよがっ！！あたちのっあんよさんがっ！！？！？いちゃいいいいい！！」
「後は左足も砕かなくては」
「やめちぇ！もうやめちぇ！！いちゃすぎる！！しぬっ！いちゃすぎてしんじゃううううっ！！」
「やめてあげて！頑張って産んだおちびをこんな無惨に殺されて…、おにゃかのおちびもオーナーさんの暴力で流産してしまったのだ……。その上でこんな冒涜的な……。だからママずんはショックで寝込んでも仕方ない状況なのだ！そんなママずんにムチを打つような真似はやめるのだ！！」
「手も叩き折ります」
「おててしゃーん！！あたちの、おててがぁぁああああ！！！」
ーー最後に骨を砕いた手足を抜くんですね。
「ハンマーで叩き折っているので、楽に解体できますよ、ほら」
シェフは妖精の両腕を根本から包丁で素早く抉り出した。
「いちゃい…。いちゃいよぉ……。あたちの……おてて……。おててしゃん……。もうおちびを抱いてあげられないっちゃ……。手を繋いで上げることもできないっちゃ……」
ーー次は足ですか？
「ここの髄は一番旨いですよ」
「いちゃあああああ！！」
「ママずん！ママずんしっかりするのだ！！」
「あたちの……あたちのあんよ……あんよさん……」
「しょんな……ままずんの素敵なあんよさんが…」
「あんよさんがないと、もう歩けないちゃ…。もう飛べないのに、歩けないっちゃ……。あたちはもうおしまいなのだ……。」
「そんなことないのだママずん！僕がママずんの手足になるのだ…！」
「パパずん…。でももういちゃすぎて、どこがいちゃいのかもわからないのだ…。もう逃げても、生きていけないのだ……」
「う…うう……。ママずん……」
「それに、可愛いおちびちゃんも目の前で殺されて……。もう生きていても仕方ないのだ…。ころちて……」
「ママずん！忘れちゃいけないことがあるのだ！ママずんのおにゃかには、もう僕とのおちびちゃんがいるはずなのだ」
「おちび……、ちゃん……。ーーそうね、あたち、頑張るよ…。パパずんとの最後のあかちゃん…産むのだ……」
「その意気なのだママずん！」
それを尻目に、シェフは砕いた骨の髄を匙で掬い取って皿にのせた。
ーー付け合せが全てできあがりましたね。
「それでは、メイン。ステーキに火入れしていきます」
「えーー？？」
真っ赤に焼けた鉄板の上に漬け込んでおいた雄の妖精を叩きつけると、じゅわっと大きく音が鳴る。
「あああああああああああ！！！あついあついあついあつい！！」
「コイツは一気に強火で行くぜ」
「ああああああああ！！あちゅぃいいいいいよぉおおおお！！！」
ーー凄くいい匂いですね。でも未だに叫び声を上げ続けるなんて凄い生命力ですね。
「そうですね。なんか喋らせてみますか。おい、雄。ママずんに最期に言い残すことは？」
ぱちぱと音を立てて良い焼き目をつけながら、雄の妖精はシェフに語りかけた。
「オーナー…しゃん……。ママずんとママずんのおにゃかのおちび…たち、だけは…見逃して……」
「パパずん…こんなときにまであたち達の心配を……！」
「強く……強く生きるのだ…、がんばるん……ちゃ……」
「ぱぱずん！返事をするのだ！ぱぱずん！！」
「ま…ま…ず………」
「ぱぱ…ずん……！！」
「…………(ﾁｰﾝ)」
「ぱぱ…、ずん……？」
既に夫は物言わぬ肉の塊と化していた。
「ああああああああああああああ！！ああああああああああああああ！！！」
ーーお肉がとても柔らかい！噛まなくても飲み込めちゃいます！そしてこの付け合せも、肉だけにはない爽やかなアクセントになっていますね！
「くうなぁぁぁ！！パパずんを、くうなぁぁぁぁあああ！！勇敢で優しいパパずんを食うなぁあああーー！！」
【サラダ】枝豆さん空豆さんサラダ 〜赤ずんのスフェリフィケーション〜
ーーお次はサラダですね。
「ずーん…ずーん(怒)！よくも…よくもパパずんを…！この……、く…、く……、くちょにんげん！！！この、人でなし！！」
ーーおお、怒ってる怒ってる。
「はやく解放するのだ！パパずんが身を挺して守ってくれたあたちと、おにゃかのおちび達を！」
ーーへぇ…。もう赤ん坊ができているんですね。
「妖精はとても繁殖力の高い生き物ですからね」
「その前に、母親を絞って出産させます」
「なっ！？約束が違うのだ！このくちょ人間！バカ人間！パパずんとの約束をもう忘れたのだ！？パパずんは自分が炎に焼かれながらだというのに、あたちとおちびちゃんを守ってくれるように言ってたのだ！」
ーー……。
「助けるって言ったのだ！！おい！！」
ーー……。
「なんとか言えぇえええーー！！せめて、言ってないのだって、言えーー！！」
雌の妖精の叫びは虚しく響くだけだった。
「それでは絞りますね」
「やめろー！！ちねぇええええ！！！」
シェフはぷりんぷりんとケツを振りながら這って逃げようとする妖精を捉えて、まな板の上に押さえつけた。
「やめるのだ！おにゃかの中には大切な大切な、パパずんとの最期のあかちゃんがいるのだ！」
ぐぐぐ、と体重がかかる。
「ぎぎぎぎっ、わかっちゃ！わかっちゃのだ！おちびを産んだら、解放してくれるつもりなのだ？わかったのだ、頑張って耐えるのだ…！」
シェフは上から下へ絞るようにする。
「やめてやめて！もうおちびちゃん絞らないで！……おっおっおっおっおっおっおっ……！！！あががががあがががっ！！！うまれりゅ！！うまれちゃう！！」
「おぎゃーのだ！」
「おぎゃーおぎゃー！」
「はぅ…はぅ…」
「おぎゃーのだ！」
ぽんぽんと飛び出す赤ん坊達。
「はひ…はひ……。産まれたのだ…。8ずんも産まれたのだ！ぱぱずんとの最期のあかちゃん…。とーっても可愛いのだ…。おちびちゃんたち！ママずんの枝豆ミルク、飲みましょうねー♪」
「ちゅっちゅ！」
「ちゅっちゅ！！」
「あぁ…ぱぱずん…。あたち勝ったよ……。元気なおちび産んだよ……。無理矢理出されたから、手足がない子もいるけど…、大切なおちびちゃんに変わりないのだ…。可愛いおちびたちなのだ……。あたちとパパずんの愛の結晶なのだ…」
ーー無理矢理ヘコらせたのに愛の結晶なのか…(困惑)。それにしても妖精のミルクって耳から出るんですね…。
「そうですね。耳も今が収穫し時です……」
「ちゅっちゅっ」
「おいち、おいち！」
シェフは母妖精に吸い付いている赤ずん達を引っ剥がすと、枝耳に手をかけた。
「待って！それはおちびちゃん達の大切なミルクなのだ！やめるのだ！」
左右に思い切り引っ張った。
「ぎぎぎっぎぎぎぎっ！！千切れる！！千切れちゃう！！ぎゃっ！？！？」
ぷちんっ、と音がして枝耳か千切れた。
「いちゃいいいっ！！あたちの……あたちの枝耳が……。おちびちゃんの…大切な枝豆ミルクが……」
「「おぎゃーおぎゃー！おぎゃーおぎゃー！」」
「おちびちゃん達がお腹が空いてるって泣いてるのだ……。ごめんね…もうおちびにミルクをあげられなくてごめんね……」
ーーところで、スフェリフィケーションとは何でしょう？
「食品の形を変える技術です。二匹は薬品で溶かした後、アルギン酸ナトリウムを混ぜて、クエン酸カルシウムと反応させます」
「おぎゃー！おかーちゃ！いちゃい！いちゃい！」
「とけちゃう！からだしゃんが！！」
「おちびぃいいいいーー！！おい！くちょ人間！！勝っただろー！！みのがせーー！！！パパずんとの約束を守れーー！！！」
ーー人口イクラですね！
ポタポタと赤ずんが溶けた液をクエン酸カルシウムの溶液に垂らすと、次々とコロコロと丸く形成される。
「あっ…あっ…おちびちゃん…。丸くてコロコロになっちゃったのだ……」
「残りの二匹は潰して薄くします。タタミイワシの要領ですね」
「潰す…？やめるのだやめるのだ！！パパずんとの約束が！約束が違うのだ！！あたちだって頑張っておちびを産んだのだ！こんなことのために生んだんじゃないちゃ！！」
プレス器の上に乗った赤ずんたち。
「きょわい……！きょわい……！」
「ほぎゃー、ほぎゃっ……」
「それっ！」
プレス器を開けると、ぺったんこに潰れ、目から光を失った赤ずんが現れる。
「おちび…ちゃん……。さっきまで、一生懸命に僕の枝耳さんをちゅっちゅして…産まれたばかりだけど、必死に生きようとしていたのだ……」
ーーこれまた、盛り付けも綺麗ですね。
「細かく削いた枝耳に、空豆さんを散らして、タタミ赤ずんとイクラ赤ずんを載せています。ドレッシングはさっぱり青じそ風味にしています」
「そんな可愛くて健気なおちびちゃんたちに…どうしてこんな酷いことができるのだ…？」
ーーうん。見た目もさることながら、とても爽やかで美味しいですね！
「ちねぇえええええええ！！！くうなぁあああああああ！俺から食え！！俺から！！！」
【ドリンク】エスプレッソずんだラテ
ーー次はデザート…ですか？
「その前にドリンクの準備をしてしまいましょう。残った赤ずんを焙煎します」
「もうこの子たちだけになっちゃったのだ……。この子たちだけは絶対に守るのだ……。絶対に渡さないのだ…」
母妖精はその背中に赤ずんを隠そうとしているが、もう手足のない後天的たりないだ。特に障害にもならない。シェフは赤ずんを無造作につかんだ。
「やめてくださいお願いしますのだ！もうこの子たちだけなのだ！パパずんの忘れ形見なのだ！」
母妖精はシェフの腕にモゾモゾと縋り付く。
ーーもう手足もないのによくやりますね。
「邪魔だな……」
「のぎゃっ！？」
くい、と手首を動かしただけで、母妖精はコテンと倒れて起き上がることができなかった。
「まって…！おちびちゃんは…！おちびちゃんだけは許して…！わたちはどうなってもいいから、せめてその子達だけでも見逃して……！！」
赤ずんをフライパンの上に放ると、そのまま炒ってゆく。
「あちゅ…あちゅ……」
「いちゃい…いちゃいよぉ…」
「ああああああおちびちゃん！！やめて！いますぐやめさせて！！おちびちゃんをかえして！！お願いします！お願いしますのだ！！」
赤ずんはすぐに火が通り黒ずんでくる。
「おかー…ちゃ……」
「も…だめなのだ……」
「おちびぃいいいい！！！」
ーー凄くいい香り！
「コイツを煮出せばずんだエスプレッソってワケです」
「しょんな…おちびちゃん……。真っ黒くろけになっちゃったのだ……。もう、残ったのはあたちだけなのだ…。ごめんね…パパずんとの約束…、おちびちゃんへの誓い……、じぇんぶ…じぇんぶ守れなかったのだ……」
【デザート】生首ずんだプディング
ーーありゃ。ママずんが放心しちゃってますね。
「ﾁﾃ……ｺﾛﾁﾃ……ｺﾛ……ﾁﾃ……」
「目の前でツガイと、ツガイとの子供が全員死にましたからね。最後はコイツでデザートを作ります」
ーーコースの最後を締めくくるデザート。とても楽しみです。
「注射器で、コイツの頭に卵液を注入してゆきます」
「ｺﾛﾁﾃ……ﾓｳ……ｺﾛﾁﾃ……」
ブスリ。
「ああああああああ！！！いちゃいいいい！！！」
ーー痛みには反応するんですね。
「いやあああああああ！！頭さん！？あたちの頭さん！？やめちぇ！！へんなの注射しないで！！」
ブスリ。
「入ってくる！！なにか入ってくるのだ！！」
ブスリ。
「あががががあががががぁあああ！！」
ーー頭もパンパンに大きくなるんですね。
「いちゃい……いちゃい……。もう…おわり……ましたか…？気は済みましたか…？それならもう開放して……」
「そろそろ良いでしょう。オーブンで焼きます」
シェフはオーブンの中に既に手足も耳もない母妖精を入れた。
「はぁ…はぁ…。なんなのだここは……。あれ…？なんだか熱く……。ああああああああああ！！」
（パパずん…おちびちゃん達……。目の前にいたのに…あたちは苦しんでる姿を見ていることしかできなかったのだ…。ごめんね…守ってあげられなくてごめんね……。もしも次に産まれてくる事ができたら…“しいくしつ”みたいな、贅沢な環境じゃなくてもいいから…質素かもしれないけど、みんなで協力して、頑張って……。そんな幸せもあっていいと思うのだ…。それはとても満たされていて……。そんな風に…また、みんなで生きていきたいのだ……。来世でも…また、パパずんといっしょ…に……)
「………。もう…無理………ちゃ………」
『チンっ！』とオーブンが鳴った。
ーーすごい甘い匂い！
「頭の上部を切り取ると……ずんだ生首プディング、完成です！ドリンクも一緒にお持ちしてしまいますね」
ーースプーンで掬えないくらいトロトロです！口に入れると、これまたとろけちゃう！
「エスプレッソもどうぞ」
ーー絶妙な苦みが、甘くとろけるデザートとマッチしますね…！コースのどの料理も素晴らしい御手前でした。
「ありがとうございます。妖精料理を世界に発信できたら幸いです」
あとがき
投稿祭に間に合わず。無念。
うーん。そもそもなんか表現がマンネリ感…。いつか書き直すかも
読み直してないので誤字とかもいっぱいありそうです。
うーん。そもそもなんか表現がマンネリ感…。いつか書き直すかも
読み直してないので誤字とかもいっぱいありそうです。
同一作者の別作品
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このページへのコメント
自分の中ではずんだ虫は愚かで低脳って認識でしたが、ある程度の知能があると苦しみにバリエーションを持たせる事ができるんですね…、勉強になります。
グルメはわかんないので生首系はスターゲイジーパイみたいな絵しか浮かばない悲しさ
新しく追加されたシーンにたりないちゃんのあの動画のセリフがｗ
ずんを叩きつけて「おうっ」という悲鳴をあげてからゲーッっと吐き出すまで続ける下りが好きです。
スフェリフィケーションは名前的にsphere=球状にするのだろうとは予想しましたが、薬品を使って人工イクラにするのはとっても新鮮です。ずん料理の新しい形で、インタビュアーが言ってたように、まさに分子ガストロノミーって感じがします。
全体的にフルコースで様々な調理法と虐待法をたっぷり堪能しました。ありがとうございます。
せりざわさんリスペクトですね…僕も大好きです
僕自身、料理虐が一番好きなので新しい風を入れられたなら幸いです
感想ありがとうございました。
お"待"ち"しておりましたぞっ（アオサギ風ボイス）
今月号も、ますますの丁寧な料理描写で最高でした！
子ずんがぱぱずんを応援する描写が特に好きです！！
おお…、僕もただ応援するシーンを入れたくて入れたんですけど、そのせいで前後が雑になっていたので、ちょっと地慣らししておきました。感想ありがとうございますのだ。